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2004年08月31日

越後湯沢のワークショップ

「意志決定:心の物質基盤」参加した方、Glimcherの話はどうでしたか? 前半が新著"Decisions, Uncertainty, and the Brain: The Science of Neuroeconomics." Decisions, Uncertainty, and the Brain: The Science of Neuroeconomics (Bradford Books (Hardcover))からデカルトとか引っ張り出して語っていることまではキャッチしております。(新著の第一章がhttp://mitpress.mit.edu/books/chapters/0262572273chap1.pdfで読めるようになってます。たぶんこれ。) Newsome論文でもreferしてましたが、Mike Dorrisがfirst authorでゲーム理論的にやってるやつが昨年のSFNに出てましたけど(去年はSFN行ってないんで内容は知らないんですが)、あれの進展はあったんでしょうか? ご存知の方、レポート期待します。

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# mmrl

えーっと、なんか呼ばれたような気がする。と自分で勝手におもって書き込みです。湯沢のワークショップでのGlimcher のtalkでは、Dorrisのゲーム理論を使った話が中心でした。Plattの仕事を踏襲しつつもゲームを使ってexpected utility を変化させずに行動選択率のみを変化させることに成功し、LIPのニューロンは行動選択率が変わっても変化せずexpected utility(EU) を表現するのだ。という論文をどこぞにsubmitしたらしいです。(http://www2.bpe.es.osaka-u.ac.jp/event/summerws2004/papers/Glimcher1.pdf)でも、EUが高い場合に高い活動を、EUが低い場合低い活動を示すところはPlattがやった話と同じ方法ではじめの2ブロックで示して、その後のゲームを使ったブロックではずーっと同じ活動ってのはちょっといただけない。もしやるならゲームをさせているときもEUを振ってほしかったなぁという感想です。なぜならゲームになったとたんに別のものを見ている可能性は否定できないとおもうのです。それから、はじめの方に話していたexpected utility とexpected valueの違いは面白いのだけど、次の実験結果に関して乖離を感じました。expected valueは報酬の量x確率で数学的な意味での報酬期待値になるが、expected utilityは量が増えるとexpected valueを下回るっていう話を最初にしていたのですが、それ以降この違いと実験結果の関わりは出てこない。しかも説明がとっても直感に頼っている。曰く「50%で100円と100%で50円のどっちを選ぶと聞かれたら、あんまり両方の違いはないように感じるけど、50%で1億円と100%で5千万円といわれたらみんなどっちを選びます?5千万の方を選ぶでしょ。だから報酬の量が増えると、確率的な選択肢には期待値よりも低い主観的な価値をわりふっちゃうんですよ、risk aversive な成分を含んで主観的な価値にしたのがexpected utilityです」だそうです。私が思うに、Dorrisのゲームさせているときは活動がほとんど一定で変化しないという結果については活動はexpected utility ではなくexpected valueの方を表現しているという解釈が正しいのではないだろうか?彼はexpected utilityがLIPに表現されると言っていたけど。なぜなら、上記のように行動選択を基準としてexpected utilityを定義したなら、ゲームをさせているときに行動を変化させているってことはexpected utility変化しているということにならないだろうか?それに比べてexpected value は行動Aでは50%x2で行動Bでは100%x1なので期待値の意味で変わらない。うーん私が勘違いしてるのかなー。上記Dorrisの仕事以外にも、反応時間によって報酬の量が変化するタスクを使ってドーパミンニューロンの反応を取り、それとreward expectation errorのモデルと比較する話や、Newsome 論文で使っているVI:VI free choice taskでの行動のlocal fluctuation がreward expectation errorを使った強化学習モデルでfitできるという話の3本立てでした。

# pooneil

どうもありがとうございます。正直言って上の質問はmmrlさんを想定してました。お手数かけてすみません。おかげでよくわかりました。おお、ドラフトがダウンロードできたのですね。http://www2.bpe.es.osaka-u.ac.jp/event/summerws2004/index.htmから行けるのを確認しました。なんてこった気付かなかった。しかしGlimcher気前良いですなあ。自信満々なのでしょうなあ。まずはこれを読んでみることにします。03年7月の方のドラフトはreferenceが65個、04年5月の方のドラフトはreferenceが47個……Sugurue論文がScience articleであったことを踏まえると、Natureのarticle狙いでしょう。Referenceなどの形式はNatureでもScienceでもないようですが。読む前ですが、expected utility とexpected valueに関して少々:この間のTICSのMausellのpaperにもあったようにreward-relatedとattention-relatedとは分離するのが難しくて、Platt and Glimcherも分離しているとは言えないわけですが、Maunsellが提唱したのはreward contingencyは変えずにtask difficultyを変えることによってattentionだけをmanipulateするということでした(たぶんそういう仕事がMaunsellのところでongoingなのでしょう)。しかしtask difficultyを変えてしまうと、ある選択のexpected gain(=utility?)が変わってしまうので、やはりreward-relatedなものが変わってしまう、ダメじゃん、ということを考えていたのです。このへんに関してDorris and Glimcherは何かを言っているのではないかと期待しています。あともうひとつ、「50%で1億円と100%で5千万円といわれたらみんなどっちを選びます?5千万の方を選ぶでしょ。」これってKahneman and Tverskyの”Prospect theory”ですね。「人は利得と損失に異なるウエイトを、また確率に関して異なるレンジ(範囲)を置いており、利得を得て幸せなときよりも、同等の損失による痛みの方が大きく感じるとした理論。」(http://www.hefx.ne.jp/annai/yougo_h.htmlより)行動経済学の分野の知見を援用してるようですね。うーむ、neuroeconomicsと自称するのは本気ですな。P.S. Glimcherの”decision, uncertainty, and the brain”さっそく取り寄せました。12章ではsubmit中の仕事のbehavior dataについて載せているようです。読まなくては。P.S.2 「reward expectation errorを使った強化学習モデルでfitできる」うーむ、きてますな。

Current Biology8/24

"Perceptual Learning: Is V1 up to the Task?"
Nature Neuroscience 6月号のCharles Gilbertの"Perceptual learning and top-down influences in primary visual cortex."に関するコメンタリ。

Nature 8/19

TURNING POINTS "The blind leading the sighted." RICHARD GREGORYによるエッセイ。以前言及した「先天盲開眼者の視覚世界」に関連する話題。


2004年08月30日

ガヤ

が研究所にセミナーをしに来たので、セミナーを主催したラボの方々と一緒に食事をしてきました。
セミナーの方はなかなか盛況で、わたしも賑やかしというかサクラで質問をいくつか。このサイトで言及したことではありますが、この現象はsynfire chainなのか、とか。Arieliのongoing activityに似た動態はないのか、とくにlayer 2/3だけのtangential sliceを作ってやればongoing activityや昨年のArieliのNatureに絡められるようなactivityが見えないか、とか*1。それからうちのボスも質問してましたが、いちばん気になるのは、あのようなrepeating sequenceがカラムとはほぼ無関係に飛び飛びにつながっていることの背景です。けっきょくのところ、sliceの表面など一部のニューロンしかイメージングしていないため、focusにないニューロンの動態がわからないということがネックであるようです*2
セミナー後にはガヤが若者に囲まれて、「海馬」とかについて語る場面も。味わいぶかい。
んでそのあとの食事ははせべのうなぎ。しかし語りまくり、というか私が演説しまくり(スンマセン)であんまり味わって食べてなかったり。もっとガヤのアメリカ留学よもやま話を聞いとけよ、っつってもいつもどおりなわけですが。
ガヤの様子はあまり変わらなかったかな。わたしとしてはYusteの頭の良さの質についてもっと知りたかったです。時間が短かったせいか、そんなにコアな話にはならなかった印象が。ネットで付き合ってる人とリアルで会うと経験するのですが(Correggioさんとシンポジウムでお会いしたときとか)、本当はネットでは書けないようなぶっちゃけトークをしたいわけですが、リアルで会うとなんかさらっと話が終わって、それではまたネットで、ということになるのです。今回もそんな感じがあったかも。
というわけで楽しく過ごしました。


*1:このへんでこれまで見られているようなmapとの関連性が見えてくれば、repeating sequenceもかなりリアルかつ機能的意義があるものとして見られると思うのですが、それがないのでどうにもartifactualなものを見てるんではないか、という疑いが晴れないと思うのです。もちろん、逆を取れば、これまで見てこなかったような時空的構造を見ているとも主張できるわけですが。
*2:はたしてそのようなsequenceを仲介しているのは、(1)ニューロンの発火の連携(これでこそsynfire chain)なのか、(2)subthresholdレベルでの膜電位の変動の連携(ある種のongoing activity)なのか、(3) gliaやgap junctionを介したものなのか、という問いが発生してくるわけです。そのへんの解明を通して、現象論からメカニズムの解明を通して機能的意義の解明まで行くのを期待したいと思います。

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# ryasuda

今、ガヤさんは、日本にいらっしゃるんですね。それで、1,2に対すする、ガヤさんの現在の見解は、どんなものだったのですか?ところで、この日記、mozillaを使ってると、コメントがかけないみたいです。CSS関係かと思いますが。。。

# pooneil

お久しぶりです。ガヤは昨日か今日あたりに日本を立ったはずです。台風で飛行機が止まりさえしなければ。注1と2に関しては、現在のところまだわからないということのようですが、ガヤ自身の答えを待ちます。コメント機能に関するご指摘ありがとうございます。このコメントはMozilla Firefox ver.0.9.2で書いてみましたが私のところからは書けるようです。どなたか同じような状況になった方がいらっしゃいましたらご連絡ください。ちなみに、AreaEditorはInternet Explorerのコンポーネントを使っているので、Mozillaからは使えません(これが私がslepnirからMozilla Firefoxへ移行しきれない最大の理由だったりします)。


2004年08月27日

サピア・ウォーフの仮説

に関する論文がScienceのAOPに出ています。
"Numerical Cognition Without Words: Evidence from Amazonia."
これの解説は今週のScienceで出てます。
"Life Without Numbers in the Amazon."
関連記事:

んで、これに関してid:cogniさんのところで言及があったので、解説をリクエストしたところ、詳しい解説を"はてなダイアリー - 認知科学徒留学日誌 8/25"で書いてくださいました。どうもありがとうございます。そこに書いた私のコメント:
id:cogniさん、すばらしい解説をありがとうございます。積んでた「言語を生みだす本能」を開いてみました。第3章「思考の言葉--心的言語」のところですね(3章の途中まで書き込みがあるので、どうやらここで挫折したらしい)。ぜひ参考にさせていただきます。強い主張と弱い主張、これもカテゴリカルエラーの問題ですね。

「言語がいかに強大な影響力を持つといっても、網膜にまで手を伸ばして、神経節細胞をつなぎなおすなどと主張したら、生理学者は目をむくことだろう。」(言語を生みだす本能 (上) p.83)

言語によって神経節細胞レベルでのwiringのつなぎ変えがおこることを主張されたら、たしかに生理学者としてそれはかなり疑わしいと思います。しかし、神経節細胞のつなぎ変えはred-greenやblue-yellowの軸を反転させるようなdrasticな変換であって、ここで問題になっているような色のカテゴリーがどう変わるか、という問題ではありません。また、色の知覚やカテゴリー化が経験(言語ではないけれど)によって変わるという報告について以前(8/5)わたしのところで採り上げたことがありますけど、このときもそこでつなぎ変えられているのは神経節細胞とかではなくて大脳皮質であると考えられています。だからPinkerのここでの論法は、議論されているものよりは極端な命題を持ってきてそれをrejectしているということのように見えます。


2004年08月26日

ご隠居参入

うちのサイトへハイレベルな書き込みをしてくださっているご隠居がNeuron Blog ご隠居のにゅーろん徒然草にてblogを始めました。期待しております。

Neuron 8/19

Duchaine BCはHarvardのKen NakayamaのところでProsopagnosiaについていくつか論文を書いています。 Prosopagnosiaとは何か:日本語訳で「相貌失認」です。脳の損傷によって起こる、顔をほかの物体と見分けることはできるけれども、それが誰の顔なのかを識別することができない、という状態のことです。ほかの物体間はだいたい見分けることはできるので、顔に特有だということが非常に特記すべきことなのですな。「視覚の謎」本田仁視著に一章分が割かれているのでそこから少し抜書きしてみましょう。
  • 彼は顔の特徴は全て識別できた。しかし彼には全ての顔が同じように無味乾燥に見えた。顔に表情を見て取ることができなかった。
  • 彼が頭部に損傷を受ける以前に会った人々の顔、たとえば親戚のものや戦友などの顔は記憶に残っていた。だから、それらの顔をはっきりとイメージすることができた。
  • 「まるで平たい板から作られたように、奇妙に平たくて、白くて、目だけが目立って黒い。白い楕円形の板のようで、みんな同じに見える」。これは患者が顔を見たときの視覚的体験を述べたものである。
(Bodamerによる報告。「視覚の謎」本田仁視著 8章「顔のない世界」より) 視覚の謎―症例が明かす〈見るしくみ〉
いろんなヒントが隠れていることがお分かりでしょう。顔のパーツから顔のゲシュタルトを形成している、顔を顔たらしめているものが何であるか、それが壊れてしまうとどう見えるか、ということがよくわかります。いつも通り、損傷部位の大きさと位置によってその障害の特異性はいろいろ違うわけですが。 んでもって、なぜこのようなことが起こるかなのですが、以前にもKanwisher論文(5/1)とかのときに書きましたが、fMRIとかでも、顔を見たときに特異的に活動する領域があることが知られています(FFA:fusiform face area)。よって、このような領域が損傷することでprosopagnosiaが起こるのでしょう。例によって、症例研究からはいろんなパターンが見られるらしく、右半球側の損傷のほうが原因であるらしいです。 さて、でもって、Kanwisher論文のときにも書きましたように、そのような顔に特異化した領域というのは実際にはどういう機能を持っているのか、生得的に顔をコードしているのか、それとも顔のような複雑で微妙な物体を識別するのに関与しているのか、という問題がありました。後者を支持するものとして、顔に似せたcomputer 3D CGの"greeble"というもの(鼻や目に対応するパーツがたくさんあって、それらの組み合わせから家族的関係が構築される。つづきは注にて*1)を持ってきて、これらの識別でFFAが活性化するという話をしだしたのがGauthierでした。 では、prosopagnosiaの患者さんはgreebleを識別できるか、これがこの論文の問いです。で答えは、問題なく識別できる、というものだったのです。で彼らの結論としては、顔を認識することとgreebleを識別することとでは別のメカニズムが使われている、ということなわけで、Gauthier側ではなくて、Kanwisher側につくわけです。 でもいつも通り話は簡単なわけではないようです。前述の「視覚の謎」をもう少し読み進めているとこんなことが書いてあります。
  • 実際は人の顔以外のものでも、顔らしいものであれば認知で気なくなることが少なくない。すでに紹介したボーダマーの患者は動物の顔も認知できなかった…車や花の区別がつかない患者も報告されている。
  • しかしながら、人の顔の認知だけが困難で、その他のものを認知する場合にはまったく正常である患者が存在することも確かである…彼(患者WJ)は人の顔の識別は困難だったのに、羊を見分ける能力は人並み以上だった。
(「視覚の謎」本田仁視著 8章「顔のない世界」より)
結局のところ、いろんな損傷部位によっていろんな特異性を持った障害のある患者さんがいるわけで、その特異性を踏まえることがこの病気の原因解明には重要なわけです。以前のhemineglectの同様なシチュエーションですな。 そういう意味での今回の論文のneuesは、これがDevelopmental Prosopagnosia(成人してから事故にあった例ではなくて、生まれてすぐかなり若いときから障害を持っている例であるため、顔というものがどういうものであるかを経験したことがない)の患者さんである上に、障害が厳しい例であるにもかかわらず、greebleを識別できたというわけで、これまでよりもより厳しい検証になっている点にあるのでしょう。あーあ、またアブストだけ読んで書いてしまいましたよ。 追記:"Visual Agnosia" by Martha J. Farah, MIT Press, 2nd Edition Visual Agnosia


*1:greebleの実例はhttp://www.cog.brown.edu/~tarr/pdf/Gauthier_Tarr97b.pdfのFig.1-2で見ることができます。Macの人はhttp://www.cog.brown.edu/~tarr/stimuli.htmlから元データを落とせます。

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# ご隠居

あー,また論文よまずにコメントだけ書いてしまっています.(いつもレベルを落としてすみません)「顔を認識することとgreebleを識別することとでは別のメカニズムが使われている」結果なことは確かなのでしょうが,先天性の障害をもった患者さんの場合は,たとえば,「顔を認識する」メカニズムが障害されてしまっているため,他の機能が代償的に発達している可能性もありますね.これは,先天性に限らず,脳梗塞の慢性期の患者さんにもいつも問題になりうることなのですが.(別のストラテジーを発達させるって,他にもいろいろありますよね...)なので,必ずしもこれまでよりもより厳しい検証だとはいえないかもしれません.(もちろんそうなのかもしれません),なかなか,あいまいなことしかいえなくて,つらいですね.(冷汗)注意しなければいけないことは,同じ相貌失認という症状を呈していてもご指摘のとおりプロファイルは異なりうるということですね.例として適切ではないかもしれませんが,例えば(congenital) dyslexiaと左ventral occipital lobeの障害後のalexiaでは字が読めない点は共通なのですが,一般的にだいぶ症状の全体像が異なっていたような気がします.とっても大雑把にいって,その左が右になったものが相貌失認だとすれば...いずれにしろGauthierは一般化しすぎたんではないかと思っています.オリジナルの仕事も解析とかちょっとどうかと思うことがありましたし.ちなみに,失認関係では,ご存知でしょうが,FarahのVisual agnosiaって本は面白かったですね.これもまたちょっとやりすぎなのですが(特に神経科学的な立場からよむとそうだと思います)ひじょうにinformativeな本です.第2版もでたのでぜひ読まなければと思っています.あー,失礼しました.

# pooneil

いつも有用な情報書き込みありがとうございます。”Visual agnosia” 2nd edition出てたんですね。さっそく取り寄せ請求しました。Milner and Goodaleの”Visual brain in action”を読んでいると、visual agnosia、optic ataxia両方とももっとよくわからないと本当のところはよくわからないと思い、勉強しております。なんつーか、わかったようでわからないんです、>>visual agnosia。
「機能代償の可能性」、なるほど、その意味では急性期の症状を見ることが重要になってきますね。むつかしい。もちろん、他人事ではないのだけれど。

# ご隠居

ご紹介ありがとうございます.(本音:→ あ,あまり宣伝しないでください.恥ずかしすぎる...アホまるだしで...ちょっとやばすぎ...)

# mds

「顔に特異化した領域というのは実際にはどういう機能を持っているのか〜」の件で思い出したことがありました。Shimojo et al. (2003). ”Gaze bias both reflects and influences preference”Nature Neuroscience, 6, 1317-1322.http://www.nature.com/cgi-taf/DynaPage.taf?file=/neuro/journal/v6/n12/full/nn1150.html&filetype=PDFこの論文で、Fourier descriptorと呼ばれる視覚刺激(顔とは似てもにつかない)が顔刺激と類似したプロファイルを示すことを報告しています。この現象をメインに捉えた論文ではないのでついつい影に隠れがちですが、なかなか面白い結果ではないかと。もちろん選好判断前の時系列注視プロファイルという行動レベルでの結果ですので、脳云々の問題にまですぐさま拡張は出来ませんが。顔に共通した空間周波数成分の基本的な組み合わせがあるんでしょうか・・・。フーリエ成分のテンプレートというか。もしそれがあるとして、それらをコードする脳領域が各々分散して存在する(STS,IOG,IPS等ありますし)、と考えれれば非常に分かりやすいお話で。この考えだとやはり、binding問題が切っても切り離せない問題になってくるので、ややこしいんですが。どうも今の僕はこの考えで思考をストップしている節があります。(単に「門外漢だからこの程度でいいか」と思ってるだけですね。すみません、適当で・・・)


2004年08月25日

はてなダイアリーの公衆送信権

続報。"はてなダイアリー日記" 8/19 コメント欄。改定案にあったような、公衆送信権をユーザーからはてなに移動するということではなくて、ユーザーも公衆送信権を保持したまま、はてなも公衆送信権が行使できるようにする、ということになるようです。すこしほっとした。それでも、その目的がなんなのか(はてなダイアリーを本にして出版できるようにするためか、第三者にはてなダイアリーの内容を勝手にコピーされることを防ぐためか、ほかにもあるか)はいまだわからないけど。

PNAS 8/17

"DNA targeting of rhinal cortex D2 receptor protein reversibly blocks learning of cues that predict reward." Zheng Liu and Barry J. Richmond @ NIMH。
けっきょくNIMHのMortimer Mishkinによってcommunicate(track I)というオチでしたか。もう3,4年ぐらい前にSFNで見たときにはすげー質問されまくってたというか集中砲火を浴びてましたけどね。Methodologicalにどうなったのか、読んでおかなくては。
というかこういうgeneticな方法をnonhuman primateに応用して行動実験をする、というのに興味があるのですが、実現可能性や障壁はどんなもんなんでしょう。

PNAS

ついでにPNASのtrack I-IIIについて説明しておきましょう。PNASというのは全米科学アカデミーの雑誌ですので、全ての論文は必ずアカデミーのメンバーの誰かによってハンドリングされます。

  • Track III: タイトルの下に"Contributed by" と書かれているやつです。アカデミーのメンバーが自分自身の論文を寄稿するもの。以前言及したFrancis Crickのサーチライト仮説はこの範疇ですな。
  • Track I: タイトルの下に"Communicated by" と書かれているやつです。アカデミーのメンバーでない者の論文をアカデミーのメンバーが受け取って、refereeに回したうえで、PNASのofficeに送るもの。しばしば身内というか弟子筋の論文がこの形で出版されます。
  • Track II: タイトルの下に"Edited by" と書かれているやつです。上記の二つはいかにも内輪の占有になってて評判悪かったのでしょう。1996年からこのtrackができました。論文をPNAS officeに直接送って、アカデミーメンバーの誰がハンドルするのが良いかをカバーレターに書いておくと、editorial boardがハンドルするアカデミーメンバーを決めます。そのアカデミーメンバーがrefereeを決めてreviewプロセスを進めるというものです。
このtrack IIができたことによって、アカデミーメンバーの内輪以外にも門戸が開かれたということが言えると思います。現在ではPNAS全体の40%以上の論文がtrack IIを通して出されているそうな(ソース)。
ちなみにSystems Neuroscienceのアカデミーのメンバーのリスト
久しぶりにサイトのホームに行ってみたら、Classic PNAS articleなんてのができてます。John NashのNash平衡に関する論文はPNASだったんだ。"Equilibrium points in n-person games."が落とせます。たった2ページ!というか正味1ページですよ。"John F. Nash, Jr. - Prize Seminar" ここを見るかぎり、この論文がノーベル経済学賞受賞となった仕事の最初の論文らしい。
ところでsystem neuroscienceでPNASに載ったものでclassical paperになっていると言えるものはあるでしょうか。Hopfieldの論文なんかは分野がちょっと違うしなあ。Cytochrome oxidase stainingは最初はPNASだったっけ? Optical imagingとかでも初期の重要な論文はPNASだったかもしれません。
PNASに掲載されたsystem neuroscience系のclassical paperのリスト。ほかにご存知の方はお知らせください。
Cytochrome oxidase blob
小川誠二先生のBOLD関連(ご隠居による指摘)
Grinvaldはたしかに90年代初期にPNASにいろいろ出していましたが、最初のintrinsic signalのoptical imaging paper はNature '86だったようで(Blasdelによるvoltage-sensitive dyeのNature '86の半年遅れ)、わたしの勘違いでした。

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# ご隠居

小川誠二先生のBOLDの一連の論文もPNASですね.1990年と1992年ですが,もうclassical paperっていってもよいでしょう.

# pooneil

すばやいっすね。なるほど、なんかimagingに強い印象がありますね。あんまりsingle-unitでがちがちの電気生理ってのは見かけないし。リストに追加しておきました。


2004年08月24日

JNS 8/18

"Adaptive Temporal Integration of Motion in Direction-Selective Neurons in Macaque Visual Cortex." Wyeth Bair and J. Anthony Movshon @ NYU。Movshonは有名だからいいとして、 Wyeth Bairの方について:"spikes"の著者らはハエのH1ニューロンが速くノイジーな動き刺激に対してニューロンのスパイク一発一発が正確に高い情報量を持って反応することを示しました。Wyeth BairはKochの元で(Newsomeのところのデータを解析して)哺乳類のMTでも同じことが成り立つことをはじめて示した人です("Temporal precision of spike trains in extrastriate cortex of the behaving macaque monkey."*1。その後はMovshonのところで自分の手でV1からデータを取って論文を書いているようです。
今回の論文では、V1とMTから記録して、今まで使われてきたようなランダムなdirectionの刺激を使ってspike triggered averagingをしてやって、刺激のいろんなパラメータに関する時間的特性を見てやった、というもののようです。んで、いろいろやって、いろいろとnon-linearityがあるということらしいです、そのくらいしか読めてませんがとにかく。

*1:なお、この系列の仕事はNeuron '98 "Efficient discrimination of temporal patterns by motion-sensitive neurons in primate visual cortex."としてBuracas GT and Albright TDによって結実します。


2004年08月23日

はてなダイアリーの公衆送信権

ソースははてなダイアリー - 《陸這記》 crawlin’on the ground 8/23 はてな利用規約改正
ユーザーは、ユーザーが作成した日記及び有料オプションを利用しているグループのキーワードにつき、パブリックモード、プライベートモードのいかんを問わず、著作権のうち、公衆送信権以外の権利を有するものとし、日記に関する公衆送信権については、当社が有するものとします。("改定案(pdf)"より)
ということだと、はてなダイアリー - はてなダイアリー日記 8/19へのコメントにもあるように、日記の内容を別のサイト(私だったらniftyのサイト)へ転載することができなくなるかもしれません。もしその種の著作権への縛りが出てくることになるようなら、はてなから引越しすることにします。 意見を書く前にお勉強: 著作権には大きく分けて「著作者人格権」と「著作者財産権」があって、「著作者財産権」のみが譲渡可能。「著作者財産権」には「公衆送信権」以外に「複製権」(copy rightの直訳ですな)や「譲渡権」や「翻訳権」などがある。("著作権 - Wikipedia"よりまとめ) 「公衆送信権」のうち「送信可能化権」を侵害する例には、自分が著作権を持たないソフトや音楽データをアップロードして不特定多数者からダウンロードできるようにした例が含まれる。("公衆送信権 - Wikipedia"よりまとめ) というわけで、公衆送信権をはてなが持っていると、ダイアリーの著者ははてなに無断でダイアリーの内容を別のところにアップロードすることができなくなるようです。やっぱりまずそう。しかし複製権は著者が保持していて、公衆送信権ははてなが保持しているとはいったいどういう状況なんだろう。どんなに複製できても、公衆送信権がなければネットに置くことができないから意味がない、個人でのみお楽しみください、ということになって首根っこは抑えられている?

2004年08月21日

Write globally, act locally

文章を書いたとして、それに影響されるのは文章を読むのが好きでそれが苦にならない人たちだけです*1。だから、文章にして書くことで何かを変えたいと思うときには、それが文章を読む習慣のある人にしか通じないことを踏まえて書かないとムダなのです。なんでもいいのですが、子供のしつけ方、ゴミの捨て方、交通マナー、もっと巨視的なことはいくらでもありますが、「それを読む人が、それを読まない人に働きかけるような形」に持っていくようにしないと実効性のあるように伝わらないのです。文章を書いて何かを変えようとする人は、それを文章を読む人にだけ読ませて、溜飲を下げさせる形で終わってしまってはしょうがないのです。そういうムダな文章は新聞の社説や投書欄を見ればいくらでもあります。
だから、私たちが文章を書いて何かを変えたいと思うなら、こういうことが伝わる必要があるのではないでしょうか:「このことをあなたがあなたの隣人、家族や親類、近所の人たち、職場の人たちを粘り強く説得してゆく過程で達成できるような形で理解して実行してほしい」と。まったく同じ文章でなくても良いわけですが、そういう意図がなければその文章は他者(自分の言葉が通じない人)へ向けているのではなくて、たんなる憂さばらしを仲間うち(自分の言葉が通じる人)へ向けているだけであると言われるのを甘受せざるを得ないでしょう。
もういちど。何かを変えたいと思うなら、その局面はあなたの家族や親類、近所の人たち、職場の人たちとのあいだで伝えて変えてゆくところにあるのです*2。そうしてそれを信ずるということこそが、文章を遠くまで行き渡らせてそれが自分の同類にしか伝わらない言葉だったとしても、その先を託していくことができるほぼ唯一の希望であり保証となるのです。


*1:浅羽通明が執拗に書いてきたように。また、ここ最近「読者の棲み分け」的な話題で書かれてきているように。そしてすくなくとも丸山真男『日本の思想』での「タコツボ化」まで遡れる問題であるように。
*2:そしてそのことはあなた自身が変わることも要求するでしょう。


2004年08月20日

昨日はリンク数が178

行ったけれども、半分以上がvisual area 6であれに引っかかったものだったというオチ。

Science 8/13

"Optical Sectioning Deep Inside Live Embryos by Selective Plane Illumination Microscopy."
よくわからないのでスルーしていたらHOTWIREDに採り上げられている(生体を傷つけずに3次元で捉える顕微鏡『SPIM』)ので読んだけどやっぱりわからん、imagingに応用可能なのかどうかが。

Current biology論文関連

mdsさんからの書き込み(8/5)への返答をこちらにも書いておきます。


やはり単純な色の感覚と電磁波の波長とは一対一対応するものであり、恒常性のような「高次過程」のみが発達によって可塑的に変化するものなのでしょうか?

このへんが一番面白いところなのではないかと思います。線分なら単にコントラストがぼやけて見えるようなことが容易に想像できるわけですが、色の経験が変容されるとしたらいったい何が起こるんでしょう。色空間の位相的関係は保持されたままそれが縮んだりするんでしょうか。色と電磁波の波長とは一対一対応はしないのではないでしょうか。黄色の単波長光だろうと緑と赤の混色だろうと同じ黄色として感じますよね。そのような混色の関係が変わって色空間が歪むであろうことは予想できるわけですが。
ところで「先天盲開眼者の視覚世界」、ちょうど別件で読んでいたところです。重要ですよね。しかしこれ読みすすめててもやっぱりどう感じているのかはよくわからないんです。色の識別はだんだんできるようになるし、色名もどんどん付加されていって分化しているわけだけど、その分化する前に見えていた色(たとえば、名づけることができなかった緑)は、分化した後に呈示された同じ色と同じように見えていたのか。クオリア自体が変わったのか(暗くてよくわからないものからビビッドな緑へ)、それともその緑を緑たらしめる赤や緑とも相対的関係が変わっただけなのか(緑-赤の軸ができるまでは緑は青-黄または白-黒の軸からは分離されえない)。うーむ、もっと読み進めてみます。


2004年08月19日

神経研究の進歩 8月号

神経研究の進歩 8月号は「頭頂葉の新しい機能地図」という特集です。目次を見ると、酒田先生の系列の方がどっさり。
おお! Galletti et.al.のExperimental Brain Research '03 "Role of the medial parieto-occipital cortex in the control of reaching and grasping movements."が翻訳されています(「内側頭頂後頭皮質の到達運動と把握運動制御における役割」Galletti C. 他著、 村田 哲 訳」)。7/14にCorreggioさんが教えてくださったときに読んでみたのですが、やっぱV 6/V 6A = PO重要ですな。Gallettiの考えでいけば、optic ataxiaはretonotipicalな座標から運動空間座標への変換過程の障害ということで、たしかに後述のBuxbaumの考えと一致するようです。場所的にも頭頂葉と後頭葉の接合部だし、それっぽい感じもする。とはいえ、頭頂葉の相同がhumanとnonhuman primateとでわけわからないので即断できないわけですが。それにしても、HumanのSPG=nonhuman primateのIFGであるとしたら、humanのIFG(+STG=hemineglectの原因領域)はnonhuman primateのどこに相当するんだろうか。
それから、「頭頂葉病変による視覚性運動失調」石原 健司・他著。7/14のご隠居のコメントにあったataxie optiqueとoptische ataxieの区別に関して書かれています。なるほど、まとめ:

  • Balint('09)が見出したのはoptische ataxie(注視した対象物をつかめない)で、Garcin('67)が見出したのはataxie optique(AO:周辺視野にある対象物をつかめない)で別物。
  • RondotらによるAOの発現機序('77):空間情報が運動出力系からdisconnectされる。後頭葉から運動野までのあいだでの半球間を渡る交連線維が傷害されると右手で右視野、または左手で左視野への対象物を掴むことが難しくなる。同側の後頭葉から運動野までの結合が傷害されると右手で左視野、または左手で右視野への対象物を掴むことが難しくなる。
  • Buxbaumらによる発現機序('97):網膜上の座標から到達運動に必要とされる身体の各部位(方、腕、手)中心座標への変換が障害される。
  • 平山らによる発現機序('82):optische ataxieでは上丘->pulvinar->angular gyrusの経路が傷害され、ataxie optiqueではoccipital->->angular gyrusの経路が傷害されている、と提案。
  • 著者の症例からの発言機序('04):左頭頂葉の病変により、左occipital->左angular gyrusの経路と左右のangular gyrus間の結合とに障害が起こる。これによって、左手から右視野の対象物をうまくつかめなくなる。右手からは左右どちらの視野も対象物もうまくつかめなくなる。
「英語圏の論文では両者を厳密に区別しないで記載されたものが散見されるが、対象を注視した状態であるか、周辺視の状態であるかは、重要な相違点である。」と書かれています。これは7/14のVighetto and Milner論文に関してご隠居が指摘されていたことですな。ちなみにVighetto and Milner論文ではこの患者さんたちが注視しているときには対象物を掴むのにほとんど障害はなかったらしいことを彼ら(Vighettoら)の前報
を引いて主張します。それならばそれはBalint症候群ではないのではないか、と思うわけですが、やはりこのへんがあまりクリアーでないのですな。


2004年08月18日

2:6:2の法則

K.Moriyama's diary 8/13より。
8:2の法則(=Paretoの法則)は以前書いたpower lawと本質的には同じもの("Zipf, Power-laws, and Pareto - a ranking tutorial.")であるらしい。
ところで昆虫での元ネタってなんだったっけ、と調べてみると、
アリは働きものに「?」北大助手ら確認 2割「働かない」
というのにたどり着きました。んでこれを元にググって見つかったのがこちら。

著者の長谷川英祐氏のサイトを探してみたところ、北海道大学大学院農学研究科 環境資源学専攻 生物生態学体系学講座 動物生態学分野のサイトに長谷川英祐助教授の名が。しかしこの話題についてはまったく触れていない模様(というか99年以降の更新がない模様)。というわけでこの話が論文になったかどうかさえ不明なままこの調査は中止しました。
西森拓氏のホームページはこちらのようです。
ちなみに、圏外からのひとこと(2003-08-20)にあった、2:6:2の法則は正規分布を0.84SDを切ってみればあたりまえだ、というのは群への操作の前後で働き者であるかないかの基準が変わってしまうときには成り立つことだと思います。日常生活での印象の場合、操作後の群の全体を見て基準を引きなおしている可能性があって、たしかにトートロジカルな感じはあります。しかし実験で基準をちゃんと固定している場合(double blindにする:たとえば、操作前後の行動をビデオで撮影して、それをランダマイズして別の実験者が行動をratingする)にはそれは当てはまらないので、その辺の興味もあって原著ではどうしているのか興味があるのですが。

「マザーズレコード」

でググると二番目に来ることが判明。っていうかblogとかはてなとかがgoogleで引っかかりすぎ。上のエントリ書いてるときにも思ったんだけど、googleで有用な情報を見つけにくくなってきている気がします。現在の検索エンジンgoogle一人勝ちを止めるには、この問題への対処が効くと私は見ます。


2004年08月17日

JNP 統計の使い方のガイドライン

つづき。
…こんな感じです。信頼区間の表示、というのにはちっと違和感を感じました。上でも書きましたけど、図としての表示の仕方にそぐわないのですね。この調子で行くなら、2-way ANOVAはfittingしたモデルによる成分と残差プロットとを別々に出してやる必要がある、ってぐらいのところまで行ってしまいます。
se or sdが重要な問題であるのは間違いない。seはデータ数nさえ増やしてしまえばどんどん小さくなってゆくので、どんなに生理学的or薬理学的にしょぼいデータでもnを増やして有意差をつけることはできるのです。たとえばある薬がある生理学的数値を0.01%上昇させるだけだったとしても、nが増えれば有意差が必ず出せます。よって、どのくらいの変動があれば生理学or薬理学的に有意味であるか、ということを判定する必要があるのです。
一方で、fMRIのデータというのはまさに1%とかのシグナル変動を、nを加算したり、時間的空間的相関をフル活用したりして、その有意度を検出してくるのですね。じゃあ、それはまずいのかというとそうではなくて、fMRIでのBOLDシグナルというのは、神経活動によって間接的に変動を受けるものなので、その変動が小さくなってしまうのは仕方ないわけです。たとえば、脳のあるvoxelの中のニューロンの10%が普段の10倍発火したとして、それによって起こるBOLDシグナルの変動はニューロンによるものよりもずっと小さく、しかもtime courseも遅い、だからこそ1%の変動に有意差を出す意義があるわけです。
というわけで、けっきょく、そういった生理学的有意味度という価値判断がないと、われわれは有限のデータから得られた統計結果でなにかを言うことをできない、って極論ですな。αだけでなくてβも考慮すべき、ということは言えるのではないでしょうか。なんにしろ、そもそも二つのグループの分布が重ならないくらい離れているなら、統計なんてなくても一目瞭然。だから、これは定量的か、定性的か、なんて問題でもあります。
なお、このへんに関する重要な論文の抄録が"TAKENAKA's Web Page: 有意性検定の無意味さ"にあります。
ついでに:私がガイドラインに手を加えるなら、こんなこと((1)(3)に含まれますけどね):
(A) Subjectのeffectを考慮すべし。とくにsingle-unitなら、animal間で結果がconsistentであることを示すべき。私たちの分野ではsubjectの数はせいぜい2-3なので、これらの間でconsistentでないデータは、main resultにはなりえない。Animal consistencyを示していないデータはほとんどがどちらか一匹のデータに依存していると見なされてもしかたない(これでJNPのsingle-unit論文のデータのほとんどは失格する)。
(B) 正規性の仮定に敏感になるべし。正規性の仮定が成り立たないものでt-testやANOVAをしてはいけない。たとえ、ANOVAに頑強性があることが知られていたとしても。たとえば、サッケードのreaction timeはその逆数が正規分布することが知られています(以前扱ったCarpenter論文を参照)。よって、解析をするときには逆数取ってからそれでANOVAするべきなのです。そんな論文見たことないけど。
私は以前、比のデータA1/B1とA2/B2とをANOVAで検定したことがありますが、正規性がまったく仮定できないので、これに対処するために私は統計学の雑誌をあさって、ノンパラバージョンの2-way ANOVA (Friedman testは繰り返しの回数が同じでないと使えないし、interactionがないことを仮定しているのでダメ)を自作したことがあります。けっきょくは使わなかったのですが、ANOVAでの結果とそんなに大きくは変わらない印象がありました。本当はあの解析はA1-A2とB1-B2という二つのfactorがあって、それの間でのintractionとして検出すべきだったのでしょう。尤も、こんなことをうるさくいう人間は私しかいなくて、reviewの過程でそういうことを指摘されたことは一回もなかったのですが(意味ねー)。
(C) 回帰分析では外れ値がものすごく効いてくるので、てこ比やCoock distanceなどの指標を添えてrobustnessを評価するべき。
…だんだん話が細かくなってきましたが。
では最後に関連論文。


2004年08月16日

JNP 統計の使い方のガイドライン

いつもどおりサッポロ一番塩ラーメンをラボのお茶部屋で作って食べながらJNPをぴらぴらめくっていたら、重要そうなのがあるではないですか。こういうことがあるから紙のジャーナルを置いておく価値があるってもんですよ。

JNPのeditorialより。

"Guidelines for reporting statistics in journals published by the American Physiological Society."

JNPを出版しているAmerican Physiological Societyが統計の使い方についてのガイドラインを出しています。簡単にまとめ。

  1. 実験を計画する際に(使うべき統計などに)不明な点があったら統計学者に相談すること。
  2. 有意度水準αは目的にあったものを選んでそれを明示し、正当性を与える。
  3. どういう統計方法を使ったか、どういう統計パッケージを使ったかをわかるようにしなさい。
  4. 多重比較を統制しなさい。
  5. (5) データのばらつきはseではなくてsdを使って示しなさい。
  6. 見出した統計結果の不確かさは信頼区間を使って示しなさい。
  7. 正確なP-valueを示しなさい(P<0.05ではなくてP=0.023とか)。
  8. 統計結果の数字には科学的に意味のある有効数字までを表示しなさい。
  9. 要旨ではmain resultのそれぞれに正確なP-valueと信頼区間を示しなさい。
  10. Main resultのそれぞれの解釈には正確なP-valueと信頼区間を用いなさい。

私の印象というかコメント:

(2)に関して、P<0.05を無差別に使うのはよくないとして、P<0.01やP<0.10を使った方がよいことを示しています。たしかに、0.05<P<0.10に位置するものはpotentialには帰無仮説がrejectされる可能性があるものといえますが(ゆえに、有意でないときはP>0.10であることを示さないと、例数が足りなくて有意に出なかっただけではないかと疑われる)、もし論文のmain resultのPがα=0.10で書いてあったらかなり信頼性落ちると思います。しかもそれが(3)の問題をviolateしていて、たとえばsubject間のばらつきを考慮せずに単にノンパラとかの比較をしているとしたら、私だったら認めないです。

(4)は私がこの場で何度も書いていることです。実際にはかなりややこしい問題があることもこれまで述べた通り。

(5)、これなんですが、データのばらつきはたとえばsingle-unitの論文のtableとかではすでにみんなstandard deviationの方を使っていると思うのですよ。その一方で、平均値の比較とかで使うエラーバーはみんなseを使っていますよね。それはもちろん、平均値の比較をしたいときにはそのグループのデータの平均値のばらつきを見たいからであって、データ自体のばらつきを見たいわけではないからなのです。このようなseの使い方には問題がないと思うのですがね。このへん、ガイドラインではどう考えているのだろう、というと:

(6) seではなくて、平均値の信頼区間の方を使え、ということのようなのですね。たとえば、multipe regressionとかでの個々のb (それぞれのregressorのcoefficient)を評価するのに信頼区間を使う(bの信頼区間が0にかかっていないことを示す)、というのはいいと思うんだけど、上述の平均の差の検定のときはどうすればよいんだろう? 平均の差の信頼区間を作ってそれが0にかかっていないことを示す? とりあえず、conventionalなbar chartにエラーバーという図にはまったく馴染まないですが。

(7) 私はいままでP=0.019とかいう書き方をしてきましたが、有意でない方に関してはP>0.10とかF<1とかでよいと思うんです。P>0.90とか書いているのを見かけることがあって、それって片側検定してるせいじゃん、とか思ったりしますけど。 …こんな感じです。明日続き貼ります。


2004年08月14日

Online journalサイトへの悪口つづき

Science Directもpdfを直で落とさせてくれるのはいいんだけれど、右クリックでダウンロードするとどれもこれもファイルの名前がscience.pdfになるとか、左クリックでブラウザでpdfファイルを開いたりするとファイル名がscience__ob=MImg&_imagekey=B6T0V-4CPM210-5-1&_cdi=4872&_orig=browse&_coverDate=08%2F01%2F2004&_sk=999729991&view=c&wchp=dGLbVlb-zSkzk&_acct=C000049112&_version=1&_userid=950955&md5=7dd282e043b9a05551d1765d6ef619f1&ie=f.pdf?とかになってしまうとか、ほんと、勘弁してほしい。


2004年08月13日

Nature webサイトへの悪口つづき

なんでhtml取るのにもpdf取るのにもcgi経由してるんだ? http://www.nature.com/cgi-taf/DynaPage.taf?file=/nrn/journal/v5/n5/full/nrn1390_fs.html&filetype=pdfなんてことするから、ブラウザ内でpdfを表示させないとダウンロードさせることもできない。http://www.nature.com/nrn/journal/v5/n5/full/nrn1390.pdfとかでファイルに直接アクセスさせればいいのに。一挙にダウンロードさせるのを嫌ったのだろうけど、かえって遅くなってるだけではないんだろうか? Experimental brain researchやjournal of comparative neurologyとかも同罪。European journal of neuroscienceとかneuroreportとかのようにjavaだかjavascriptだかで別windowでpdfファイル開かせるのもウザい。JNS/JNP/Cerebral cortex, Brain (Oxford journals online)/とかはいい。これらって全部同じ会社が扱ってるんだと思うんだけれど、全てこのweb製作会社の様式で統一してくれないもんかな。


2004年08月12日

Faculty of 1000

Faculty of 1000すげ―気になる。でもうちのinstituteはsubscribeしていない。個人で一週間のtrialが可能なのだけれど、ちょっといまはタイミングが悪いのでまだ試してません。
すでにestablishされた人たち(Neuroscienceのfaculty membersはこちら)を数多く集めて、journalによらずによい論文を評価、発掘していくという趣旨は、(エラそーな言い方だが)言ってみれば私がこのサイトでやろうとしていることをものすごく強力にしたようなものであるわけだし。こうやって自力で論文をチェックしていると、どうしても採り上げる雑誌が有力雑誌に片寄ってしまう(EBR、EJN、neuroreport、neuroscience lettersまでチェックが行き届かない)という問題意識もあります(もちろん、私の仕事に直結する論文はどんなjournalに載っていようと洩らさず読むわけですが)。そういう意味で"Hidden Jewels"ってかなりすばらしいことだと思います。雑誌単位でのIFから論文ごとのF1000 factorへ、という流れができたとしたらその方が健全だと思いますし。
とりあえず誰がどんな論文を評価しているかだけでも読んでいると面白い。GoodaleがMilnerの論文を評価するってそれはないんじゃないの、とか。どうせEarl Millerは師匠のDesimoneの論文とか入れてるんでしょ、とか思ってEarl MillerのEvaluationsを見てみたら…いい奴じゃん<-都合良すぎ。
Subscribeできるようになったら、faculty memberのコメントにさらに突っ込みを入れる、なんてのもいいかも。
PubMedからもリンクされるようになったので、かなーり必須なサイトだと思うんだけれど、そういうわけでまだこれ以上コメントできません。

Brain Waves: What is Neurofinance?

Brain Waves: What is Neurofinance?
Neuroeconomicsのお次はneurofinanceだそうな。うーむ、うさんくさい。

ダメ人間

昔々、私にダメ人間呼ばわりされて傷ついた方へ、なんで私があんな言葉を使っていたか、それはもちろん、私自身がダメ人間だな、と自問自答するのに何度も使って馴染みのありすぎる言葉だったからなのです。ダメ人間は私です。その言葉を薄めて、無害なものにしたくて、キッツい冗談として使ってみたのです。まったく正しくないやり方でした。筋肉少女帯の曲は聞いたことないけれど、そのタイトルが、私のダメであるあり方を撃ってくれていたと思ったのです。ダメ人間は私ですよ。


2004年08月11日

予想通り、

というか予想以上の書き込み量でしたね。みなさんありがとうございます。なんか日記サイト界隈のtwo-photon関連の神経科学者が勢ぞろいという感じでした。(追記:「私が存じ上げている」を入れないと正確でないでしょうな。)こんなかんじで、私の手を離れてどんどん話題を展開してくださることを激しく推奨します。(追記:これを皮肉だと取る方がいたら本意ではないので追記しますが、7/2にも書きましたように、それが私の望みであって、みんなが参加できる場所にしたいのです。それに、どんな話題にも私がコメントしなければならない、と縛られてしまうのはサイトの運営上無理があることですので。)
7/16および0000年00月01日の注意書きにもありますように、今回の話題も皆様のコメントと合わせて編集したものをniftyの方の本サイトに掲載させていただきます。ご都合の悪い方はお申し出ください。

80年代バージョン

id:cogniさんのところを見て、8/2のやつの80年代バージョンを作ってみました。AIとコネクショニズムの時代であったことがわかります、というかそういう印象になるように選んでみました。。


2004年08月09日

8/9-11まで留守にします。

せっかくまた盛り上がりそうなところで残念なのだけれど。家族サービスですな。

平瀬 肇さん@理研

平瀬 肇さん@理研の河西研主催でのセミナーに関して8/4に掲載しましたが、コメント欄に平瀬さん本人が登場してくださいました。先日コメントアウトした話題はもう学会でも発表済みとのことですので、論文に掲載されるであろうことにしぼって以下に掲載します。



後半はNeuroscienceにin press(まだArticle in Pressには出てきていない模様)の内容ということでした。こっちのほうが私の興味を引いて、いくつか質問もしました。In vivo imagingで毛細血管の血流量を計測してやる、というもので、fMRIで使われるBOLD シグナルやPETで使われるrCBFに対応するであろう赤血球の流速を直接的に測定してやろう、というわけです。これは将来性があるでしょう。ラットの尻尾からFITC dextranを静注して、毛細血管の中を走る赤血球の流れをimagingする、というものでして、毛細血管の直径と赤血球の直径は同じくらいなので、毛細血管の中を赤血球が走っているところではFITC dextranによる蛍光が弱くなる。ビデオを見ましたが、赤血球一個一個によってできる縞模様が実際に流れていくのが見えるのです。これを使うことで、毛細血管の中を赤血球が流れる流速no of RBC/secを計算できるというわけです。んで、bicucullineを局所投与してやるとそのまわり300micrometerくらいで血流が上がるのを見た、というわけです。んで、私の質問は(1) basal levelでpulsationなどによるoscillationは起こっていないのか、(2) basal levelで流速はどのくらいの空間スケールで同期しているのか、ということでした。どちらもfMRIなどのimagingのbackgroundになるであろう情報を期待していたのだけれど、私の英語が悪かったせいか、あまり理解してもらえなかったようでした。
(1)への答えは実際にそういう成分が乗っているのを周波数解析で見つけている、とのことでした。In-vivo behaving animalでの応用をするときには、pulsationやbreathingなどによるノイズが乗っているようだと試行の加算が必要で、one-trial levelでのimagingへの活用は難しくなってしまうだろう、という意図だったのですが、これに関しては河西先生のほうがもっと的確に質問をしていました。Trial levelでのfluctuationに関して、CV=std/meanの図が出てきて、けっこうばらついていることを示していましたが、むちゃくちゃランダムなノイズが載っているというわけでもなさそう(fano factor<<1だったし)でした。それならone-trial imagingにも使えるかもしれない。つまり、trial間の行動のvarianceを神経活動のvarianceとして関連付けるようなstudyにも使えるようになるかもしれない。
(2)の質問に対してはbicucullineの効きの広がりが300micrometerであることを最初に示していたのだけれど、それはbicucullineの広がり自体の問題もあるから、それが私の聞きたかったことではなかったのです。fMRIの最小可能解像度がどのくらいか、という問題だったのです。つまり、たとえばV1のocular dominance columnを活動させたとします。BOLDシグナルがocular dominance columnの形(~ 0.6 mm x 0.6 mm)に変動するとしたら、~0.3 mm x 0.3 mmのvoxelが四つくらいつながって活動が上がってこさせる必要があります。ちなみに田中啓治先生のところのNeuron("Human Ocular Dominance Columns as Revealed by High-Field Functional Magnetic Resonance Imaging.")では4TeslaのfMRIでocular dominance columnを0.47mm x 0.47 mm in planeで何とかギリギリ出していました。Depth方向には厚みがあってもよいように角度を決めてやった、というのがミソですな。しかしそのようなBOLDシグナルは毛細血管を走る赤血球の流れによって決定付けられ、しかも毛細血管は周りの血管とつながっているので、そんなにある局所が周りとは独立に流速が上がるなどということはありえないわけです。このため、赤血球の流速がbasal lebel(であれ、evoked responseであれ)でどのくらいのfluctuationと空間的相関を持っているかがBOLDシグナルの空間解像度のリミットを決めるであろう、と考えられるわけです。ただ、これは現実的には難しい問題を抱えていて、脳の活動自体もongoing activityのような空間的相関を持っている可能性があるので、流速のbasalでの空間的相関からは、[血管がつながっていることによる相関]と[神経活動が空間的に相関を持っている可能性]とが切り離せないのです。しかしそれでも流速の直接的なデータを持っているならば、いくつかの条件をふってcalibrationすることでそのような相関を分離することはできるかもしれません。
(3) なお、その場で質問しませんでしたが、時間解像度の問題としても非常に興味深いものです。BOLDシグナルはニューロンの活動によるエネルギー消費によってオキシヘモグロビンからデオキシヘモグロビンに変化するのを見ていて、実際のニューロン活動からは数secの時定数を持って上がってきます(haemodynamic response)が、実際の流速が神経活動からどのくらいの遅れを持っているのか、ということは重要で、流速のtime courseがわかればhemodynamic functionをdeconvolveできるのではないか、などと期待してしまいます。スライドでちょっと出てきた、imagingと電気生理の同時測定でbicucullineをapplyしたものでは、かなり速い応答で流速が神経活動に追従しているのを見ましたけど、実際の遅れはどのくらいかは見逃しました。
ということを発表後にもう一回聞こうかと思ったんだけれど、時間がなかったので河西先生と少し話をして退散しました。
なんにしろ、このへんはもう競争ですな。ここ何年かで結果は出てくるでしょうが、他の方法論で見たものを追試しました、からtwo-photonでなければ見れないものが出てくるまではあと5年はかかるでしょうか、それとも2年で出てくるでしょうか。現在のin-vivo two photonはfMRIの歴史でいえば、まだFristonによるSPMの整備もなければ、PETと比べてどのくらいアドバンテージがあるかまだはっきりとはしていなかった1992年ころの状態にあるのではないでしょうか(専門家のツッコミを待ちます)。
どのくらいの広さをスキャンできるのかの問題でしょうけど、たとえば最小限、麻酔下のcatのV1のocular dominance columnの隣り合った二つくらい、もしくは麻酔下のratでbarrel cortexの隣り合った領域くらいをimagingすることができるならば、システム的な解析ができるデータが得られるのではないか、と期待しています。
そういうわけで、関連する論文。

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# Gould

非常に興味深いです!素晴らしい。ど素人ですが、質問は研究の華なので、質問させて下さい。two photonでのイメージングでは電位感受性色素などが用いられる場合があると思うのですが、この研究で用いられている手法はそれと比べてどのようなアドバンテージが考えられるのでしょうか?

# ガヤ

平瀬さんのその論文の何に感動したって、データ自体とデータ処理の堅実性もさることながら、その発想にです。私もvivoで神経活動をイメージングしようと試行している最中、血球が流れるのは何度もこの目で見ているのです。しかも鮮明に見えるんですわ、これが。でも、神経の可視化で頭が一杯だった私には、血球の動きは“私の目的を妨げる邪魔物”くらいにしか感じなかったわけです。目の前に見えている現象をBOIDと関係付けようという発想はなかったんですね。平瀬さんが言うには、それ関連の論文は、(Confocalでは?)すでにあるとのことでしたが、私はひどく問題意識の持ち方が足りなかっなあと、その時感じましたね。このレベルの人間にはセレンディピティーはやってこなさそう ── もっと気合いを入れないとっすね。というわけで、平瀬さんはホントに素晴らしい研究者だと思ったのです(え?私と比べるなって?)

# ryasuda

Karelのところに来て、この方法でみた血流と、intrinsic imagingと比べようとしてた人がいました。結局共同研究まで発展しなかったのですが。とりあえず、neuro-activityとどのような関係になってるのかがkeyですね。Gouldさん。電位感受性色素とは、まったく違うものを計っている、ということですよね。電位感受性色素は多分EPSPのような遅いやつが良く見えて、カルシウムではAction potentialが良く見える。血流変化は、そのずっとdown-streamなので、解釈はやや難しいんではないかな。少なくとも、fMRIの解釈には役に立ちますね。ちなみに2-photonではまだ電位感受性色素を測定するのは難しくて、普通はCCD+1-photonだと思います。PMTではこういう高signal、低SNRの測定には向いていないんですよね。

# ガヤ

BOLD関連は私はあまり詳しくないのですが、やはり個人的には、上のリストにも挙がっているLogothetis et al.「Neurophysiological investigation of the basis of the fMRI signal(Nature 2001, 412:150-157)」がArticleで出たときのインパクトがとても強いのです。この論文の評価はその後どうなんでしょうか? コンセンサスが得られたと考えていいんでしょうかね。

# Ryo

神経細胞生理の分野で研究している側からみて、結局fMRIで見える活動って何を反映しているの?!という思いがずーっとありました。Nature(2001)の論文はインパクトでかかったですが、具体的に神経細胞orグリア細胞の(時空間的)活動とパラレルなのか分ると、細胞生理研究との距離がグッと縮まるのでしょうね。前職の慶應医学部のすぐ傍に「小川脳機能研究所」がありまして、所内を何度か案内してもらいました。fMRIの被験者登録をしてたんですが、留学のために被験者になれませんでした。ぜひ自分の脳を見てみたかったなぁ!残念。電位感受性色素はマスで見ている場合、細胞の活動が同期してないと活動電位由来シグナルもEPSP由来シグナルも加算されて、おそーいのっぺりシグナルになってしまいます。遅い奴が見えるというより、全部遅いシグナルに見えちゃうという感じかも。あら、何の質問にもなってないや。また次回。

# ガヤ

さらにRH482などの色素では、マスで見ているとグリアの膜電位(←周辺の神経活動に伴って遅延性の脱分極が起こる)まで反映されてしまうんですよね? ここら辺の話題はたぶんRyoさんがお詳しいのではないかと思いまして。 というかGlutamate TrasporterのUptakeによるNa+流入でそこまで膜電位が変化するんですね。やはりGlial Feetが細いからなんでしょうか。

# Ryo

Glutamate TranspoterはNa流入で十分脱分極します(Kojima et al, JNS, 1999)。グリアにパッチしてトランスポーター電位(電流)を測ってみるとよく分ります(Diamond et al, NEURON, 1998)。パッチでは細胞体周辺の電位を反映しているのに対し、膜電位色素では脱分極している突起上の膜電位変化を捉えていると思われます。グリアのCable特性やLeakCurrentを考えると、突起先端では結構デカイ電位変化がおきていると思われます。しかし色素によって神経に染まりやすかったり、グリアに染まりやすかったりするのはいったい何故なんだろ。

# ガヤ

Ryoさん、どうもです。さすがレスが迅速で的確! カルシウム色素では場合によっては、じつはミトコンドリアを測っているなんてこともありますから、色素による細胞局在の差もまた重要ですよね。なぜ差がでるのかはやはり謎です。

# はじ

(1) 血流オスシレーションについて、(毛細血管の)動脈側で計測すると、心拍と同期化したオスシレーションがはっきりと見えます。心拍のオスシレーションや、呼吸のオスシレーションの影響もあるので、2,3分のイメージングを平均化したデータでなければきれいな結果は見えないということでしょう。また、交感神経、副交感神経レベルでのゆっくり(10分から1,2時間の周期単位)とした血流量の変化もある(らしい)のですが、これは、測り(れ)ませんでした。(2) 局所癲癇フォーカスの300μm以内で、しっかりとした血流量の勾配がみられているということは、毛細血管の血流量レベルでは現在fMRIで計測できる解像度よりも精密に機能していることを示唆しているように思えます。。最近のアストロサイトの毛細血管の口径の制御(Zonta et al 2003)の知見もふまえて、これからが面白い展開になってゆくのではないでしょうか。Basalレベルでの同期ですが、(これは論文にも書きましたが)、ガルボスキャンの方式では、一回のイメージングで観測できる血管はせいぜい二つまでなのです。ニポを含めて、イメージング速度の発展が望まれます。3) ひげ刺激や、におい刺激では、1〜3秒後の血流の反応が見られますが(kleinfeld 1998, Chaigneau 2003)、例の癲癇スパイクでは、スパイクが起こるのが2、3秒間隔なので、あまり(数例を除いて)きれいなスパイク対しての反応はみられませんでした。せめて、癲癇スパイクが10秒に一回くらいの間隔で出てくれると助かるのですが。ガヤさん:あの血流イメージングは昔から共焦点でも二光子でもされてたことです。あの論文で、あえて新しいのは、脳波計測電極に蛍光色素を含有させて、計測した血管と脳波の物理的距離をしっかりと測定したことくらいでせふ。

# Atlus

素人質問で、すみません。In vivoでの2光子イメージングに興味を持っています。僕は、かつてin vivoで研究をはじめましたが、どこに薬物が効いているかはっきりしないので、さっさとin vitro系へと変更してしまったクチです。現在のin vivoでの2光子励起の時空間解像度、限界の深さはどの位まで達したのでしょうか?また、下の書き込みから勝手に推測してしまいましたが、アストロサイトは、血管とニューロンとを結びつけているため、脳表に蛍光色素をかけてもアストロサイトが選択的に染まるということでしょうか。もし、とくに蛍光色素を運ぶ系がないなら、なんらかの孔(gap junction?)でつながっているがあるのでしょうか?直経のことなる蛍光色素を使用したら、その孔の大きさとかはかれるんでしょうか?

# ryasuda

2-photonは、普通のSettingだと普通は200umくらいが限界かな。Pulse-regenerator + x20 NA0.9のObjective(低倍が大事) + custom optics etc.. で、1000umくらいはいけるはず。M.Oheim et al., Journal of Neuroscience Methods 111(2001)29-37が詳細を論じてます。きちんと深さを定式したのは、このOheimの論文が始めてでしょう。Astrocyteは、AMがなくても、簡単に入る水溶性の色素もあるらしいですよ。血管と直接はつながってないと思いますけど。膜にいろいろなtransporterがあって、ものを取り込みやすいのかな?

# ガヤ

 おお、1000umまでいけますか。我々もx20 NA0.95を使ってますが、なかなかそこまで深部は鮮明には記録できません。脳スライスの厚みくらいなら余裕で透過しますが。。。Karelのところの2光子は良くTuningされているとCarlosから聞いています。 アストロと血管細胞のカップリングについてはJ Comp Neurol 429(2001)253-269などが参考になるかと。他にも文献があったような気がしますが、ちょっと今は思い出せなくてすみません。いずれにしてもryasudaさんがおっしゃるように血管内腔から直接グリアにつながっているわけではありませんね。

# Atlus

なるほど。1000umまでいけるんですか。すごっ。生きている動物で、uncageとかもできたら、おもしろそうですね。勉強になりました。

# pooneil

はじさん、ご返答ありがとうございます。論文が手に入るようになったところで、neuesが何であるかということも併せて、また検討させていただきます。

# ご隠居

Logothetis et al. (2001),確かにインパクト高かったですね.どのような点が皆さんの強い印象に残っているのでしょうか?synaptic vs. spikingという観点では(そんなに話は単純じゃないと多くの方がお考えでしょうが...) Logothetis et al., 2001では引用されていませんが,よそではLauritzenらの仕事がoriginalとして引用されることが多いようです.Mathiesen et al. Modification of activity-dependent increases of cerebral blood flow by excitatory synaptic activity and spikes in rat cerebellar cortex. J Physiol 512:555-566, 1998.Lauritzen and Gold. Brain function and neurophysiological correlates of signals used in functional neuroimaging. J Neurosci 23:3972-3980, 2003. (Review)ついでにLogothetis et al. Ultra high-resolution fMRI in monkeys with implanted RF coils. Neuron 35:227-242,2002の印象や評価はどのようなものなのでしょうか.BOLDに関しては小川誠二先生のPNAS(1990, 1992),MRM(1990)の後,Biophys J (1993)でその信号元のシュミレーションとモデルを出しています.BOLDの信号元のシュミレーションについてはBoxerman et al. MR contrast due to intravascular magnetic susceptibility perturbations. Magnetic Resonance in Medicine 34:555-566,1995が(完成版として!?)引用されることが多いようです.MRIの条件(シークエンス(SE,GE)やエコー時間)や血管径とBOLD信号の関係をシュミレーションしたものです.SE BOLD fMRIは微小血管(10micro以下)に対して感受性が高く,一方GE BOLD fMRIはより太い血管に対する感受性が高いため,large draining vessel由来の信号が強調されてしまい,空間解像度を落としてしまう,というよくご存知のストーリーの基になる仕事です.fMRIの空間解像度を議論する際にはMRIのシークエンスとパラメータがとても重要なようです.


2004年08月07日

コメント欄

の大きさをスタイルシートを編集して広くしてみました。20行。これで長文書き込みをさらにencourageしてみました。

div.commentshort textarea {
    width:90%;
    height: 20em;
    STYLE="overflow:hidden";
}

こんな感じ。height: 100%; では大きくならないらしい。いまだにCSSよくわかんない。

追記:20040808 この件でリンクがいくつかあったので、ソースを明記しました(ていうか書き忘れてた)。ソースはARTIFACT@ハテナ系 8/6経由でチープカ 8/3で"div.commentshort textarea"というのを編集すればよいことを知って、スタイルシート/フォーム/入力欄やボタンのサイズを指定するでtextareaのwidthの単位を確認しました。

しかし今の状態だと、編集に入ってテキスト入力した時点で横幅が大きくなります。Widthを%単位にしていることと右スクロールバーが入ってることのどちらかのせいでしょう、というわけでいまTEXTAREAにてSTYLE="overflow:hidden"というのを見つけて追加しました。追加したんだけれど、うまくいかないので放置。同じ症状が出ている方、解決した方、お知らせください。

Francis Crick 訃報つづき

Nature 8/5。
"From DNA to consciousness - Crick's legacy."
および"Nature web focus: Francis Crick"
しまった、Crickが脳科学で最初にやったことといえば、「サーチライト仮説」ではなくて、「REM睡眠で夢を見ている間に記憶が強化または消去される」というNature '83 "The function of dream sleep."(pdfファイル。フリーで落とせます)の方でした。この説はのちにMatthew A. Wilson(当時McNaughton研@University of Arizona、現在MIT)によってScience '94 "Reactivation of hippocampal ensemble memories during sleep"という形で結実します。
ところで、"From DNA to consciousness - Crick's legacy."
の最後の方で気になることが書いてあります。


"He thought the claustrum would be a good test system for the centre*," Murphy says. The centre will focus on the genes, proteins and neural networks that make the brain function. (*: 今年Salk instituteにできたCrick-Jacobs Centerのこと。)

The claustrum (前障)? Claustrumなんて考えたことなかった。Insulaとputamenに挟まれた薄いcortexで、いまだにその機能がぜんぜんわかってない脳領域です。Human fMRIとかだとinsulaのactivationと混ざってしまう模様。そういう場所なので、anatomyぐらいしか充分行われてません。
Subcortical structureという言い方がされますが、Trends in Neurosciences '98 "What is the amygdala?"をみるかぎりだと、発生的にはcortexで、amygdalaとかとも近いようです。
Connectivityに関してはmacaqueで最近の論文としては
があります。もっと古い論文はたくさんありますがとにかく、claustrumはV1/V2/V4/MT/MST/TEO/TEなどのvisual cortex、S1やPPCなどのparietal cortex、M1/premotor/prefrontalのような行動に関わる領域、海馬とamygdala、caudate nucleus、ってものすごくいろんなところとつながってます。
機能に関しては2-DGでcross-modal (visual/tactile) recognitionでの活性が認められること、丹治研の島さんによるsingle-unit study(JNP '96 "Neuronal activity in the claustrum of the monkey during performance of multiple movements.")でmovement-related acitivityが見つかること、ぐらいしかないようです(すくなくともnon-human primateでは)。

Neuron 8/5

"Prefrontal Neurons Coding Suppression of Specific Saccades." Michael E. Goldberg。1st authorの長谷川さんは同じくGoldberg研でScience '00 "Neurons in Monkey Prefrontal Cortex That Track Past or Predict Future Performance."を出しています。


2004年08月06日

JOSHUA T. TRACHTENBERG

ふと気付いたけれど、SVOBODA研のNature '02 "Long-term in vivo imaging of experience-dependent synaptic plasticity in adult cortex."のfirstのJOSHUA T. TRACHTENBERGってMichael P. Strykerのところでoptical imagingとanatomyを組み合わせていた人ではないですか。すごいなあ。

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# ryasuda

Joshの業績、凄いですよね。今はUCLAのAssit.Profです。おくさんが富豪らしいです。彼のwebpage→ http://www.neuroscience.ucla.edu/faculty-page.asp?key=3559

# pooneil

情報ありがとうございます。Strykerのところに行く前にも別の分野でNature出してるんですね。すごすぎ。

# tama

今、UCLAでTrachtenberg先生のNeurosciのクラスを取っています。
かなり気さくで、気取ったところがなくて、しかも、外見がかなりかっこいいです!
そんなにすごい人だとは知りませんでした。。。

しかも、奥さんが富豪…。いっつも、ジーパンとジャケットみたいなラフな格好です。しかも、Lectureのパワーポイント出す前にデスクトップにセットしてある写真で見たんですが、子どもさんもめっちゃかわいいですよ。
クラスを取る事が出来て、光栄に思います。

失礼しました。

# pooneil

どうもこんにちは。UCLAの院生の方でしょうか。
UCLAにはJoshua Trachtenberg以外にも、ミラーニューロンのMarco Iacoboniとか、LIPのattentionの関与の仕事をしたJames Bisleyとか、early visionのDario Ringachとか、ベイズ脳のAlan Yuilleとか脳のmorphometryのArthur Togaとかがいるのですね。(いま調べてみました: http://faculty.neuroscience.ucla.edu/institution/personnel-list/ )
すばらしい環境じゃないですか。早いうちからそういうところに在籍されているということがうらやましいです。ではまた。

Current Biology

"Pigeon Homing along Highways and Exits."
ハトが遠距離飛行をするときに高速道路や鉄道の線路に沿って飛ぶ習性があることはこれまでに経験的にわかっていたけれどそれを系統的に調べた人はいません。そこで著者らはGPSを駆使してそれを検証した、というものです。
Fig.1を見るとたしかに、ハトの軌跡(赤)は高速道路(緑)に沿っています。そしてこれが偶然によるものでないことは、Fig.2のシミュレーションから明確です(道路を無視して飛んでいたら、もっと軌跡はバラける)。
しかもFig.8の通り、飛ぶ回数ごとに道路をランドマークにして飛ぶ比率が増えてゆくわけで、つまり経験と記憶によってこの習性が形成、強化されているわけです。
しかもこの行動は目的地に対して一番近道を行っているか、という意味において最適解ではないのですな。つまり、飛ぶ回数ごとに、道路に沿って飛ぶ比率が増えるので、実のところ回り道になってしまっているのです。とはいえ、そのような行動は他の側面から見て最適である可能性はあるはずですが(他のハトと軌跡を同じくすることによる安全性の面でのメリットとか。もしくはランドマークなしに飛ぶとうろうろと目的地を探して、けっきょく飛行距離が長くなってしまうとか)。
なんにしろこの話は"navigation"の話であり、spatial memoryの話なので、将来なんかそういうneurowthologicalな展開があると面白いと思います。


2004年08月05日

Francis Crick関連

Science And Consciousness Review
Nature Neuroscience '03 "A Framework for Consciousness"に関する議論がここから辿れます。

Current Biology

Publishした頃に書いたんだけれど、最近書くネタが多かったので貼りそびれてました。
"Experience in Early Infancy Is Indispensable for Color Perception." 杉田先生@ 産総研。
これまでの杉田先生の業績はすばらしくかつ独特で、プロジェクトごとの成果をNatureにshort paperとして出しつづけていて、JNSやJNPのようなfull paperはまったく書いておられません。今回の論文も含めて、どの論文もアッと言わせられるような大胆かつ鋭いところがあります。

今回の論文について。産総研のプレスリリースより。

乳幼児期の視覚体験がその後の色彩感覚に決定的な影響を与える
ポイント
  • 色の恒常性を含めて色彩感覚は生まれながらに持っているものと考えられてきたが、乳幼児期の視覚体験によって獲得されることが明らかになった。
  • また、視覚体験が受容器官(網膜)ではなく大脳皮質に効果を及ぼしていることも同時に明らかになった。

これまでも生後直後の「臨界期」の視覚経験がV1ニューロンの左右の眼優位性(ocular dominance)や線分の方位などへの感受性に影響を及ぼすことについては盛んに調べられてきましたが、そのような発達時の可塑性が色の知覚に関してどうなっているかを扱った人はおそらくいないはずです。まったくの盲点だったというか、この論文のこの点がまずアッと言わせられるところです。そしてしかもその結果として、色弁別はとりあえずできるけれども色の恒常性が障害されるということを示したわけです。これもまた驚きで、そのような結果になるということはおそらく、retinal ganglion cellの回路(L-Mによるred-green軸の形成や(L+M)-Sによるyellow-bue軸の形成など)あたりはおそらくintactで、大脳皮質のどこかのレベル(V4あたり)での可塑性による結果であるわけです。(たぶんV1ではないであろうことも方位選択性の可塑性とかと比べた特色であると言えます。)
今回の結果にそれのneural correlateを見つけてくっつければこんどもNature級の論文だったと思われますが、電気生理のデータに関しては今後のこととなりそうです。
また、そもそも、色というのは視覚意識の問題にとって重要な位置をしめています。この実験で実現している色の識別とはわれわれが体験しているような色とその識別なのでしょうか。色の恒常性がないときにわれわれの色の視覚意識と色間の関係で作り上げられる空間はどのように変化するのでしょうか。

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# mds

興味深い論文ですね。早速読んでみます。「〜乳幼児期の視覚体験によって獲得されることが明らかになった」の行はプレスリリース特有の言い過ぎ、というか精確さが欠けている感がぬぐえなくもないですが、色の恒常性が発達過程で獲得されるものであることを示したとは・・・着眼点の鋭さにあっとさせられます。これから後の実験が多く続きそうな、非常に発展性のあるテーマですね。弁別というか波長への反応性については、鳥居修晃先生の報告(ISBN:4130111116)などで、先天盲開眼者の初期視覚が色に対して強い鋭敏性を持っている事が明らかにされていますが、やはり単純な色の感覚と電磁波の波長とは一対一対応するものであり、恒常性のような「高次過程」のみが発達によって可塑的に変化するものなのでしょうか?それとも感覚レベルの色の意識体験でさえも、初期経験により変化させることが可能なのでしょうか・・・?これらは飼育環境の変化で、有用なデータが得られそうです。また、これらのサルを通常環境下で飼育していった時に、どのような変化が起こるのか(初期経験ではなくlate onsetな可塑的変化)も私としては興味深いなので、是非取り組んで頂きたいテーマですね。もう、飛び跳ねたいくらい(!)面白い。ところで使いやすいです。このコメント欄。

# pooneil

おひさしぶりです。http://d.hatena.ne.jp/mds/見てきましたよ。> やはり単純な色の感覚と電磁波の波長とは一対一対応するものであり、> 恒常性のような「高次過程」のみが発達によって可塑的に変化するものなのでしょうか?このへんが一番面白いところなのではないかと思います。線分なら単にコントラストがぼやけて見えるようなことが容易に想像できるわけですが、色の経験が変容されるとしたらいったい何が起こるんでしょう。色空間の位相的関係は保持されたままそれが縮んだりするんでしょうか。色と電磁波の波長とは一対一対応はしないのではないでしょうか。黄色の単波長光だろうと緑と赤の混色だろうと同じ黄色として感じますよね。そのような混色の関係が変わって色空間が歪むであろうことは予想できるわけですが。ところで「先天盲開眼者の視覚世界」、ちょうど別件で読んでいたところです。重要ですよね。しかしこれ読みすすめててもやっぱりどう感じているのかはよくわからないんです。色の識別はだんだんできるようになるし、色名もどんどん付加されていって分化しているわけだけど、その分化する前に見えていた色(たとえば、名づけることができなかった緑)は、分化した後に呈示された同じ色と同じように見えていたのか。クオリア自体が変わったのか(暗くてよくわからないものからビビッドな緑へ)、それともその緑を緑たらしめる赤や緑とも相対的関係が変わっただけなのか(緑-赤の軸ができるまでは緑は青-黄または白-黒の軸からは分離されえない)。うーむ、もっと読み進めてみます。


2004年08月04日

はてなのコメント欄

がtextareaになった模様。コメント欄に<BR>を入れなくてもリターンキーで改行できるようになりました。ぜひご活用ください。テストしてみましたが、<blockquote>や<A HREF="">とかは使えないようです。

Figureのplot

ってみなさんどうやって作ってます? 私はmatlabの図をprint -depsc2でepsファイルにしてからillustratorで開くか、Excelで作った図をillustratorにコピペするかしてました。どちらも一回一回手作業なのでバカらしいのですが、けっきょく図をfinalizeする過程でplotの縦横比が変わったり、拡大縮小する際に線が細くなったりしてしまうので、illustrator上で作っておかないときれいにならないという印象がありました。Illustratorのなかでデータを持っておいて図を作る機能もあるのだけれどどうにもしょぼくて使うのを止めてしまった。本当はグラフ作成ソフトを使いこなす方がよいのだろうけど。

平瀬 肇さん@理研

平瀬 肇さん@理研が河西研主催のセミナーに話をしに来たので聞いてきました。
前半はBuszakiのところでの仕事、PLaS biology '04 "Calcium Dynamics of Cortical Astrocytic Networks In Vivo."についてです。
In vivoでP12-P16の幼若ラットのbarrel cortexにfluo-4をapplyするとアストロサイトが選択的に染められて、そのCaダイナミクスを調べた、というもの。なんでfluo-4でアストロサイトだけ染まるのか、というあたりに質問が集まりました。S100Bでimmunohistochemistryをやってやると、fluo-4 positiveな細胞の97%が染まった、とのことなので、それ自体は事実のようですが、ガヤのScience論文を見ればわかるように、sliceではfluo-4を使ってニューロンを染めてCaイメージングしているわけです。というわけで、tissueがどのくらい露出しているか、dyeのapplicationはどうやっているか、というあたりの問題なのでしょう。
後半はNeuroscienceにin pressの内容ということでした。こっちのほうが私の興味を引いて、いくつか質問もしたのだけれど、まだ出版されていないようなので、これはまたの機会に、というかとりあえずコメントアウトして書いておきます。<!---コメントアウト--->WebサイトのArticle in Pressに論文が出てきたらコメントアウトは外しましょう。
追記20060127:コメントアウト部分に関しては20040809に記載があります。

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# ガヤ

 Fluo4の挙動については本当に不思議です。私もvivoでloadしたことがあったので、平瀬さんに私の方法をお伝えしたところ、同様な方法を彼も試したらグリアに”のみ”入ったという経緯があります。お互いにmovieを交換して不思議がりました。何せ染色像の見た目がまったく違うのですから(動物種が違いますが、これが原因とは私にはとても思えませんし)。ただ、お互いに言っていることは正しいように思えました。私の場合は免染はしていませんが、Loadされた細胞が明らかに神経細胞であることはパッチで確認しています。ただグリアに入っているのもまた確実でして、それ故にNissl共染&選別という“綱渡り”が必要になったわけです。ここら辺の差異を詰めていくと何か別の発見に行き着きそうですね。 ところでNeuroscience誌の論文とはもしや「血」の話題ですか? おお、受理されたんですね。あれはとても良い論文だと思います。でしょ?

# ryasuda

Matsuzakiさんの論文のFollowupありがとうございます。その後なにか議論されましたか? グラフ作成で、縦横比や線の太さなどは、figureをつくる段階でPixel数を指定、Axesのpositionもexplicitに。PaperPositionModeをManualにしてPrint(EPS出力)の大きさを指定すれば、matlabだけでもほぼ思い通りにいくと思います。

# pooneil

>>ガヤ うーむ、同じvivo条件で、dye loadingの方法が同じでも違った染色になるのですか。もはやなにがなんだかわけわからない。PLoS biologyではPluronicとDMSOとでFluo-4 AM溶かして脳表にかけているだけのようですね。それはそれとして、repeating sequenceにグリアの関与はありうるのだろうか。んで、そう、それ>>Neuroscience論文。ムービーも印象的だったし、fMRIの原理に関わるかなり重要な知見だと思います。次ぐらいにもっとシステム的な話に行くとブレークするのではないかと思うんですが、。しかしほんと、このへんはもう競争だと思う。>>ryasudaさん、この間は平瀬さんの話だけ聞いてさっさと帰ってきてしまいました。そのうち詳しく話を聞ける機会があると思います。たしかに、MATLABの図は h1=plot(x,y); set(h1,’LineWidth’,2);set(gcf,’PaperPosition’,[1 1 20 15]); みたいな感じでいろいろいじれるんですが、コンポジットのfigureとかを作っていると結局illustrator上で調整することになってしまってるんです。なんかillustrator上にexportできてしかもデータを保持しているようなものはないかと思うんです。

# ガヤ

あ、そうそう、重要なことを書き忘れていました。私は脳表ではなくて、一層剥がして”実質に直接”Fluo4をかけています(いました)。

# ryasuda

ガヤさん、それは大きな違いですね。うちのtakashiさんがどっかから聞いてきた話では、脳表や血管に色素がいくと、グリアばっかり染まる、ということでした。

# ガヤ

合点。脳表の血管から拡散して(AMが切れないまま)色素が皮質内層まで運ばれている可能性もあるわけですね。そしたらグリア選択的でもおかしくないですね(しかもアストロ特異的!)。pooneilさん、そんな議論は平瀬さんから出ました? そういえば微小電極で実質注入するとちゃんと神経が染まりますね。

# pooneil

平瀬さんはガヤ論文を例に出して、Fluo-4でもニューロンが染まるとは言ってましたが、それはあくまでsliceとvivoとの違いであるように話をしていたと思います。あと、スライドを見るかぎり、アストロサイト以外にもblood vesselがよく染まっています。それから、blood vesselにアストロサイトのプロセスが巻きついた構造をしているので、Blood vesselとアストロサイトとのところでやり取りがあるという話はしてました。それから、ageが上になるとアストロではなくてblood vesselしか染まらなくなることとかも話していました。

# ガヤ

どうもありがとうございます。なんとなく見えてきましたね。

# はじ

あのPLOS BIOLOGYの論文は、DURAを剥がして脳の表面に直接かけています。konnerthの方法はパッチ電極っぽいのに、普通パッチに使う陽圧の10倍程度の圧力で色素をapplyしているのでどの細胞も染まりやすいのだと考えています。ある程度発達した神経細胞はシナプスとグリアに表面積の相当部分が覆われることになるので、非侵襲の状態ではAMエスター系の色素は入りにくいのではと思います。スライスにしたり、皮質一層を除去したりすると、多少色素が侵入(?)する余地が出来るので神経細胞も染まりやすいのではと勝手に推測してます。Neuroscienceの仕事ですが、学会でも発表してますしin pressの状態なので、適当に判断してください。理研ではあんな感じで、イメージングと電気生理を組み合わせてビボでやっていきますのでご指導のほどよろしくお願い申し上げます。 平瀬

# pooneil

おお! ついにご本人登場ですね。書き込みどうもありがとうございます。呼びつけるような形になってしまって恐縮です。自分の居ないところで取りざたされるというのも気持ち悪いものだと思いますんで、ほっとしました。セミナーのあとにお話する時間があれば、このサイトで紹介するつもりであることをはじさんに伝えるつもりでした。このサイトも、外国人の論文にコメントしているときは気楽なもんなのですが、著者がこのサイトを見ているかもしれない論文にコメントするときにどうすればよいかは私としてもまだ試行錯誤中です。これからもよろしくお願いします。それで、dye laodingに関しては、やはり上ではじさん含め皆さんが書いていたあたりで話が落ち着きそうですね。Duraを剥いただけでapplyするとdyeのかなりの部分が表面の血管からAMエステルのまま取り込まれて、血管からアストロサイトに伝わってFluo-4として分布する、ということですね。Duraの上からかける--duraを剥いてかける--layer1を剥いてかける--実質に注入する、という順番でより神経細胞にロードしやすくなる、それからageによる細胞間隙の詰まりぐあいの影響(これはセミナーのときに質問への答えでも話されていましたね)、というあたりで納得がいきそうです。私は以前Fura-2しか使ったことがありませんが、Fura-2AMよりFluo-4AMのほうが脂溶性が高いのではないでしょうか。Neuroscience論文の方の話題に関してですが、このサイトでは、論文として出版されたものか、学会で発表されたものはオープンになったものとして取り扱い、セミナーや研究会などで見聞きしたものに付いては許可を得られたときのみ掲載する、というかなりコンサバティブな方針をとっております。Neuroscience論文の話題については、すでに学会にも発表されているとのことですので、平瀬さんにもご覧いただけていることですし、講演の印象が薄れてしまう前におそらく論文にも掲載されるであろうことにしぼって8/9のところに掲載させていただきました。「イメージングと電気生理を組み合わせてビボ」ですが、はじさんの系はかなり有望な系であると思います。このへんはほんとにもう競争ですね。期待しております。
追記:Arthur KonnerthのinjectionはPNAS ’03 ”In vivo two-photon calcium imaging of neuronal networks” http://www.pnas.org/cgi/content/full/100/12/7319のFig.1にあるやつですね。

# ガヤ

具体的な脂溶性度の数値は知りませんが、Fura-2AMよりFluo-4AMのほうがロード時間が短くてすみますし、Fluo-4AMのほうが物質自体の毒性が若干強い気がします。もちろん観測のことまで含めて考えるとUVで励起しなければいけないFura-2はかなりブが悪いですが。

# Atlus

初めまして。Caイメージングは、全くの素人で、PLoS Biologyの論文の内容についてお聞きしたいのですが、1)アストロサイトの細胞体(ありゃ?アストロサイトって、細胞体っていうんだろうか?)で、Ca濃度上昇を調べ、その同期を調べておられましたが、アストロサイトはその細胞全体あるいは組織内で、すべて均一のものなのでしょうか?(ニューロンでは、シナプス毎の伝達効率のheterogeneityが明らかとなってきており、どのシナプスをどのアストロサイトで取り巻くかでかわってくるような気がしますが…。)アストロサイトの細胞体もその枝も同じようにCa濃度上昇は起こるのでしょうか?2)bicucullineをかけておられますが、これがかかった範囲と相関のみられる範囲との間には、関係があるのでしょうか?3)皮質では、GABAergicが大切だと、視覚系をやられている先生に伺ったことがありますが(この領域をやっておりませんので、詳しくは覚えておりませんが、)、bicucullineをかけることによりみられる相関は、どのような意味合いをもつのでしょうか?御教授頂けると助かります。よろしくお願いします。

# はじ

1) アストロサイトは形態的に均一ではありません。いろいろな形をしたものがあるようです。星状にみえるものや、白質によく見られるへばりついたような線状の形をしたものや。。。どの形状をしたアストロサイトがどのような機能をしているかはこれから明かされていることでしょう。アストロサイトのカルシウムの上昇は、VGCCやNMDA−Rというよりは、むしろIP3関連の内部リリースが関与しているように報告されています。2) Intrinsic Imagingでの知見では300マイクロから1mmくらいの範囲で影響があるようです。脳内血流の仕事では、(局所癲癇を起こした位置より)1mmの外の血流量を測り、これがControlの値と変わらないことを確認しましたが、Plosの仕事では見ませんでした。(こちらでの準備が整いしだい、追加実験はする所存ですが。)3) どこでもGABAは大切。。という議論はさておき、今回Bicucullineを用いたのは局所癲癇を起こし、大きなニューロン活動の同期化をはかり、極端な形でのニューロン群の活動が近傍のグリア・血流に及ぼす影響を見るため「道具」として使用しましたということです。ところで、PLoSで論文が受理されるとAuthorと書いたT−シャツが共著の方を含めて全員に送られてきました。これってトリビア(死語)ですか。

# Atlus

平瀬先生、ありがとうございました。確か、衛生研の小泉先生だったと思いますが、in vitroのアストロサイトに、ATPをかけるor機械的な刺激で、Ca濃度がアストロサイトの細胞内全体に広がっていく様子をどこかのセミナーでみました(そのときは、アストロサイトにあまり興味がなかったため、ふ〜んそ〜なんだ〜という程度にすませてしまいましたが…(^ ^;))。In vivoという構造が保たれた状況でも、1個のアストロサイトの細胞内をCa濃度上昇は伝搬する様子は、観察されるのでしょうか?だとしたら、あるシナプスをとりまくアストロサイトは、別のシナプスをも取り巻いているでしょうから、(Ca濃度上昇が何の効果を及ぼすかにもよりますが)取り巻かれた別のシナプスになんらかの影響を間接的に及ぼしているかもしれませんね。興味深いです。3)の質問ですが、GABAは、視覚系での可塑性形成に関係している…(あわわわ。適当なことを言ってはまずいですね。)のようなことを、ちらっと聞いたことがありまして、お聞きした次第でした。ありがとうございました。ちなみに、かつて、新生ニューロンのmigrationの画像をプリントしたTシャツで講演されている先生がいらっしゃいました。聞きに来た皆さんは、そのことにふれないようにしていましたが、結構、ひいていました。

# pooneil

>>GABAは、視覚系での可塑性形成に関係しているこれはたぶんHenschさん@理研のScience ’98(”Local GABA Circuit Control of Experience-Dependent Plasticity in Developing Visual Cortex”)に始まる一連の仕事のことを指しているのではないでしょうか。In vitroまで考えればもっといろいろあるだろうとは思いますけど。


2004年08月03日

Nature 6/17

"Structural basis of long-term potentiation in single dendritic spines." 河西研
がJCで採り上げられたときのディスカッション項目が"Ryohei’s Neuroscience Notes"の7/30にあります。うーむ、さすが。(iii)と(iv)はラボ間のプロトコルの違いみたいなところでうやむやになってしまうかもしれないけれど、(ii)についてはよくよく検討しなければならなさそうです。Imagingと電気生理の対応はFig.4だけのようですので。テタヌス刺激のspine間でのspecificityとかはimagingのデータと電気生理のデータの対応という意味で重要そうです。
ところでlarge spineとsmall spineとはどういう関係にあるのでしょうか。もうpotentiationしてsaturateいるのがlarge spineだとしたら、LTDを誘導したらlarge spineはsmall spineになるのでしょうか。このへんは(i)のどのくらいパラレルであるかと関わる問題です。それに、large spineとsmall spineとはスイッチのon-off的な二つのdistincなpopulationではなさそう(suppl.Fig.2)なので、もっと確率的なものと捉えた方がよさそうで、著者のvolume=0.1micrometer^3をcriteriaとするのはかなり便宜的なもののようです。
ま、そのうち直接話を聞く機会もあるでしょうからこんど聞いてみようっと(建物が2キロくらい離れているので普段まったく会わない)。
追記:と書いたら河西研で平瀬さん@理研のセミナーがあったので聞きに行ってきました。それについては明日レポートします。Natureに関してはまたの機会ということで。

Francis Crickの脳科学への寄与

つづき。

  • Nature '95 "Are we aware of neural activity in primary visual cortex?" by Francis Crick & Christof Koch。この組み合わせになってはじめての論文のはず。これも基本的には領野レベルの議論なんだけれど、前頭前野でのワーキングメモリー(これは悪しき「意識の劇場」概念の継承なんだけど)がアクセスできる領野しか意識には関わらないと考えると、V1は前頭前野とは直接結合がないので、意識には直接関わらない、とする作業仮説を提出したのです。作業仮説なので、著者としてもrejectされてぜんぜん構わないとしているのですが、もちろんいろんなやり方で反論が可能で、じっさいPollenがのちにコメントしています。私もこっちに付きます。この辺は以前のJon Driverのレビュー関連とあわせて、あらためてきちんと書いておくべきことなのでここではやらないでおきます。
  • Cerebral Cortex '98 "Consciousness and Neuroscience." Francis Crick and Christof Koch。LogothetisのBinocular rivalryでの"visual awarenessのneural correlate"を大々的にフィーチャーしています。
  • Nature '98 "Constraints on cortical and thalamic projections: the no-strong-loops hypothesis." FRANCIS CRICK AND CHRISTOF KOCH。大脳皮質の領野間の結合は大胆に単純化すれば、layer 2/3 -< layer 4 (forward)、 layer 5 -< layer 1/6 (feedback)となっていますので、興奮性ニューロンだけで領野間でlayer 4 -< layer 4のループができることはありません。そういうものがあっても、興奮性ループに抑制性ニューロンでのrecurrentの回路を入れておけば適当なところでoscillationするようになるのでそれでいいようにも思いますが、実際問題そういうふうにはなっていないのです(これは領野内のlayer間結合でも同じで、layer 4 -, layer 2/3は興奮性ニューロンですが、layer 2/3 -< layer 4は抑制性ニューロンしかないようです。このへんに関する参考文献はCerebral Cortex '03 "Interlaminar Connections in the Neocortex."。Fig.1は印刷して机に貼っておく価値があります。また、The Journal of Comparative Neurology '98 "Area-specific laminar distribution of cortical feedback neurons projecting to cat area 17: Quantitative analysis in the adult and during ontogeny."を見ると、feedbackの起点はほとんどlayer 5で、layer 6やlayer 2/3はadultではほとんどないことがわかります。)。んで、それと同様に、大脳皮質と視床との間でもそのような興奮性ニューロンが直接つながったstrong loopはないであろう、ということを予言しているわけです。それはそうかもしれないけれど、あまりインパクトはありません。どこがNatureなんだろうか。
  • Nature Neuroscience '03 "A framework for consciousness." Francis Crick & Christof Koch
  • "The zombie within." Christof Koch & Francis Crick
    これら二つは、CrickがChalmersの議論(視覚運動変換の情報処理の全てを備えたうえでしかし視覚意識を持たないような「ゾンビ」を考えることができること)を通過してより慎重な態度にアップデートしたCrickとKochの理論の最新バージョン。読んでないけど。このへんはおそらくはKochがメインでやっているのではないでしょうか。
うーむ、尻切れトンボだけど、というわけで、追悼。


2004年08月02日

Francis Crickの脳科学への寄与

Francis Crickが亡くなったことはすでに各地でニュースになっていると思います。Crickは1970年代あたりから脳科学に移行してとくに意識について考えつづけていました。そこで、Crickが脳科学の分野で(おもにChristof Kochといっしょに)発表してきたことについてクリップしておきましょう。

  • PNAS '84 "Function of the thalamic reticular complex: the searchlight hypothesis." by Francis Crick。「注意」の機能が、空間や属性のなにかにfocusを向けるものであることを元に、そのようなサーチライト的な役割をはたせる脳の領域はどこかというと、視床のreticular complexではないか、と提案した論文。大脳皮質と視床の間との相互作用を重視することにはまちがいなく意味があって、Sillitoなどがさかんにやったことでもありますし、以前言及しました(5/12)ように、この仮説はStewart Shippによってreticular complectではなくてpulvinar complexがそのような注意とsalience mapの中継地点としての機能を果たしているものとして発展的に継承されています。
    とはいえ、PNASに自分でcontributeした論文であって、内容自体はノーベルプライザーである大御所の思い付きであると捉えるべきでしょう。もちろん、Crickはそういう仮説を出すことができる(出すことが許される)貴重な存在としての役割を果たしてきたといえます。ともかくCrickはこの空間スケール(脳領域間の相互作用)と機能レベル(注意を向けるものと向けられるもの)での仮説を以降も提出してゆきます。
  • "DNAに魂はあるか―驚異の仮説." DNAに魂はあるか―驚異の仮説 '94 "Astonishing hypothesis: the scientific search for the soul" by Francis Crickの邦訳。二重らせんの発見者としてのクリックの知名度から付けた邦題は科学書ファンを馬鹿にするものだと思うが、出版社はそうすれば売れると思ったのだろうか(いや、「バカの壁」をベストセラーにしたのは科学書ファンではないのだから、それでいいと思っているのだろうなあ)。ってそれはどうでもよいのだが。
    んでこの本はじつは視覚情報処理の基本を抑えるという意味で実によい本です。Crick自身、脳と意識を解明するためには一番研究が進んでいる視覚系に絞ったほうがよいと考えてのことなわけで、これは非常にまっとうだったと思います。そして最後はcingulate cortexが自我の座であることがもうすぐわかるかのようにして閉じるわけです。うーむ、うまい。こういうのはベストセラーを書くためには外せないポイントかもしれない、ほんとうのところがどうかは別として。実際、この本の出版以降、cingulate cortexが脳機能マッピングの最終フロンティアとしてさかんに研究されてきたのはたしかなのです。
    それからもうひとつコメントしなければならないこととして、少なくともこの時点までではCrickの基本思想は、意識のneural correlateを脳部位のどこかに見出そうというものであり、意識のハードプロブレムのハードさを了解しなかったと思うし、この点で私はCrick的アプローチとは最終的には敵対せねばならないと思っています。しかしそれにしてもこの本は、1990年代前半あたりの意識を研究対象にしようという流れ(リストを下のほうに別のエントリとして入れておきます)の一端を担ったものとして重要であることは間違いありません。
つづきは明日貼ります。
追記:Obituaryは以下のとおり。

パテ書房

でググると一番上に来ることが判明。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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