[月別過去ログ] 2007年01月

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2007年01月30日

ヨーグルトの崩れる音

プレーンのヨーグルトの700mlぐらい入ってるやつから底の深い皿に取るときにヨーグルトが崩れてボテってかんじで落ちたんだけど、息子に言わせればそれは「にゅむるん」ってかんじだそうだ。「にゅむるん」って、その発想はなかったな。息子に許可を得たので(得てるし!)、鬼才あらわる、と書いておきます。


2007年01月29日

Blindsightでの弁別能は刺激提示の繰り返しによって向上する

PNAS "Increased sensitivity after repeated stimulation of residual spatial channels in blindsight" Arash Sahraie et.al.で、Lawrence Weiskrantzが自分でcontributeしたもの。
V1に損傷があってscotomaがある患者さん11人のデータで、scotoma内のある位置にgratingを提示して、二択の弁別課題(gratingがtaskの前半に出たか、後半に出たかを報告するtemporalな二択)トレーニングというかリハビリというかを3ヶ月繰り返したところ、scotoma内のgratingの弁別能が上がった、というもの。しかも、トレーニング中に正解だったかどうかのフィードバックは与えていないから、これはあくまで刺激提示の繰り返しによるのであって(blindsightの場合、明確なawarenessがないのでこれを「経験による」と言ってよいかどうかはわからない)、residual visionのわずかな手がかりをフィードバックと対応づけて強化した、ということではありません。また、scotomaの中で練習していない部分の弁別能はこのトレーニングによっては向上しない。だから、このトレーニング効果はretinotopicalに特異性があると言えます。
これまでにもscotomaの端っこの方でトレーニングするとscotomaが小さくなるというような話はありますが、今回の話はそれがscotomaの真ん中でも起こるし、しかも正解だったかどうかのフィードバックを与えなくても弁別能が向上する、という点が新しいです。
さて、しかしこれはblindsightか。Fig.1上段で出てくる、トレーニング途中の例は明確にtype I blindsightであると言ってよいと思います。しかし、populationデータを扱っているfig.2-4はどうも変です。というのも、この課題を行うときに被験者はgratingがtaskの前半に出たか、後半に出たかの弁別を報告するだけでなく、そのgratingが見えたかどうか、awarenessを報告します。だから、たとえば50%のtrialでawarenessがあって、残り50%は推測で答えたとしても弁別課題の成績は75%になります(*注へ)。ですので、弁別能が75%でawarenessの報告が50%だったとしたら、弁別能とawarenessの報告とのあいだに乖離は見られません。つまりblindsightではない、ということです。そういう目でfig.3を見ると、どのcontrastでも、トレーニングの前でも後でも、弁別能とawarenessの報告とのあいだに乖離はありません。よって私が示したようなcriteriaでは、この論文は全体としてはblindsightを扱ったstudyであるとは言えません。
ただ、ここでのawarenessの評価はbinaryであって、なにかがあるかんじ、のようなものでもawarenessありに判定されています("only if they had no awareness whatsoever of the visual stimulus")。一方でscotomaの範囲を決定するときにはHumphrey Visual Field Analyserを使った検出課題を用いて、いちばん明るい刺激を提示しても刺激の存在を検出できなかったところ、としていますので、これは上記のawarenessの報告とは違った基準であって、検出能がより少なく見積もられています。そういう観点からは、今回のstudyはHumphrey Visual Field Analyserで検出能なし、と判定されたところなのに、チャンスレベル以上で弁別ができている、という点でblindsightであると言うことは可能です。ちょっと甘くするならば。
なんにしろ、awarenessの評価は検出課題と基本的に同等ですので、signal detection theoryでいうところのbiasの影響をもろに受けます。つまり、被験者がawarenessがあったかどうかを決める基準が厳しければawarenessのあるtrialは増えるし、逆も真。この問題を明示的に扱おうとするためにこそsignal detection theoryが使われるわけです。
なお、この問題(弁別能とawarenessの報告の乖離があるかどうか)についてはWeiskrantzは90年代後半に患者G.Y.さんを被験者にした論文をいくつか出して議論しています。たとえば、"Parameters Affecting Conscious Versus Unconscious Visual Discrimination with Damage to the Visual Cortex (V1)" L Weiskrantz, JL Barbur and A Sahraieなど。そういうわけで、私としてはこの論文および前報のEuropean Journal of Neuroscience 2003 "Spatial channels of visual processing in cortical blindness" Arash Sahraie et.al.で、患者G.Y.さん以外でのpopulation dataが出てくることを期待して読んだのですが、それには答えてもらえませんでした。(この件については20051027のエントリで言及しております。)

(*注: なお、このような考え方は素朴で実感にマッチしますが、これはhigh-threshold modelと言われるもので、signal detection theoryが仮定するような、decision signalにgaussian noiseが加わったものを想定していません。)


2007年01月26日

そうして、このごろ0126

元気です。おひさしぶりです。どうも気軽に書けなくなっててよくありません。楽しく使いたいんですけどね。
Mixiもやっと入れたので探索してみたけど、母校のコミュとか行っても若者ばっかりであきらめた。こないだのクラス会のときに何人かに聞いてみたけれど意外と誰も活用してないので驚いた。つうかネットがなくても楽しめているということかもね。
リハビリのつもりではてな匿名ダイアリー活用中。こりゃいいや。こっちはいい調子。つうかこのエントリの文体がすでになんか影響されてる感じ。
こっちのブログについては、なんどか書いたことけど(書いては消しているので残ってるかどうかわからない)、へんに自分語りをしたりせず、時事問題(あるあるとか水伝とか)に首をつっこまず、論文とかの堅めな話に絞って、愚痴とかを書かないようにして、politically correctになるように気を遣って、荒れる要素を極力排除するように心がけていました。キュートなボケ役みたいなのを封印してました。ここまでですでにいくつかの文章を書いては消してます。はてブに捕捉されるような面白い記事も書かないように心がけてましたw いや、ほんとだって! ……そうすることによって、実名で研究者としてブログを続けることは、メリットが大きくて周りにも迷惑をかけないということを示せるんではないか、なんて野望を持ってたんです。盛り上がりには欠けますが、このやり方は続けてみようかと思ってます。
なんか終わりそうな書き方してますが、終わりません。書きたいことはたくさんあります。
なんツーか、今日のまとめは、ようするに自分語りがしたくて仕方ない俺ガイル、ということです(そうだったっけ?)。いや、率直に言って、自分に課した枷がうざったくなるなんてばからしい、ってことだな(ひっくり返した!)。
……全体としてやっちゃった感が強いですが、今回は消さずにとっておきます。ま、これがいちばん上にあるまま放置するのも体裁悪いんでさっくり更新する予定。

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# mmk_chocolate

これが初めてのコメントと云うのもどうかと思いますが、はじめまして。いつもblogを読ませていただいています。
自分のblogについて自分でルールを作って、日記というよりは自分の納得の行く作品作りに近くなってくると、もう日記らしいことは書けなくなってきますよね。私も記事を書くときにいつも悩みつつ書いています……多分それは多くのblog書きに共通の悩みなのかもしれませんが。
pooneilさんのblogは目標にしているblogです。これからも応援しております。


2007年01月18日

前頭葉ニューロンは行動の順序をカテゴリー別にコードしている

Nature 445, 315-318 (18 January 2007) "Categorization of behavioural sequences in the prefrontal cortex" Keisetsu Shima, Masaki Isoda, Hajime Mushiake and Jun Tanji

課題はpush/pull/turnの三種類の行動を使った4回つづきのシークエンス(たとえばpush-pull-push-pullとか)をinstructionされたあと、Goシグナルが出たらその行動をする、というもの。それでもって、prefrontal cortexからニューロンを記録して、Goシグナルが出る直前の準備状態の活動を見てみたら、行動シークエンスのカテゴリーに特異的に活動してした、というのが結果です。行動シークエンスのカテゴリー、というのはたとえば4回同じのが続く、push-push-push-pushとpull-pull-pull-pullとturn-turn-turn-turnにのみ応答して他のときは活動しない、とかそういうのがあるというわけです。

とりあえず三種類の行動をa,b,cと表記してみると、組み合わせの可能性は3^4=81通りあるのだけれど、そのなかで11種類、特別なsequenceを選んで行わせています。この11種類は三種類のカテゴリーに分類されます。 (1) four-repeat: aaaa, bbbb, cccc、(2) alternate: abab, acac, baba, caca 、(3) paired: aabb, aacc, bbaa, ccaaです。ですので、alternateカテゴリーのbcbc, cbcb、pairedカテゴリーのbbcc, ccbbと残り66通りに関しては使われていません。その意味ではa,b,cの出現確率などは完全にはバランスされてはいません。aが出る確率は5/11、bが出る確率は3/11、cが出る確率は3/11となってます。シークエンスの最初、2番目、3番目、最後のあいだではこの確率に差は無し。詳しい解析を見てみないといけないけど、カテゴリ以外の要因をどのように押さえているかは重要なポイントです。たとえば、pushの回数と相関していないかとか、けっこうたくさんのregressorが可能性としてはあります。GLMでモデルたててやってるみたいですが。

しかしそういう細かいことを言わなくても、Fig.2aを見る限りだと、それぞれのカテゴリをコードするニューロンはall-or-none的にコードしているみたいなので、カテゴリよりも強力なregressorがありそうには見えません。それだけデータが強烈です。(Fig.2aがどのようなnormalizationをしているかを確認しておく必要はありますが。) アブストやタイトルではとくに「all-or-none的」「二値的表現」みたいな言い方はしてないようですが。Prefrontalってこういうかんじに複雑な要因の交互作用の部分(さまざまな条件のANDでのみ、とか)にだけ応答するニューロンがある、というイメージを持つようになってきましたけど、それにしてもこれだけ非連続的だとは。なんか、このくらいデータが強烈でないとNatureは通らないよな、とかも思います。

このあいだのAsaadのLIPのカテゴリ化ニューロンは経験による修飾だったけど、今回のやつはもとから選んだ組み合わせの中にある自然なカテゴリ分けを使っているというところがひとつのポイントかと思われます。これはventral pathwayだったらfaceのコーディングとかでさんざん議論になっているのと同型ですから。ともあれ、このようなカテゴリ分けをsubjectがストラテジーとして使っているというデータがあるとより強いかもしれません。たとえばエラーの解析をしてみたら、withinカテゴリーでのエラーのほうがbetweenカテゴリでのエラーよりもより多いとか。

あと、この11種類のシークエンスに関してほかにもっと自然なカテゴリ分けはないでしょうか。11種類のシークエンスをabc順でソートし直してみます。

aaaa
aabb
aacc
abab
acac
baba
bbaa
bbbb
caca
ccaa
cccc
うーむ、こうやってみてみてもとくに浮かばない。あたま3文字までわかれば最後の文字は確定する、とかは言えるけど。それにしても大変な課題ですよね(無理矢理話を変えた!)。

なお、今回の論文で丹治先生は北大でのNature 1987から数えてNature 5本目です。

Journal Published Year Title Authors
Nature2006 Categorization of behavioural sequences in the prefrontal cortex. Shima K, Isoda M, Mushiake H, Tanji J.
Nature2002 Numerical representation for action in the parietal cortex of the monkey. Sawamura H, Shima K, Tanji J.
Nature2000 Integration of target and body-part information in the premotor cortex when planning action. Hoshi E, Tanji J.
Science1998 Role for cingulate motor area cells in voluntary movement selection based on reward. Shima K, Tanji J.
Nature1994 Role for supplementary motor area cells in planning several movements ahead. Tanji J, Shima K.
Nature1987 Relation of neurons in the nonprimary motor cortex to bilateral hand movement. Tanji J, Okano K, Sato KC.
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時々、このサイトで楽しく神経科学の勉強させていただいております。ところで、最近の、AOPに掲載されております丹治先生の論文:
Nature Neuroscience
Published online: 1 March 2009 | doi:10.1038/nn.2272

Interval time coding by neurons in the presupplementary and supplementary motor areas
Akihisa Mita, Hajime Mushiake, Keisetsu Shima, Yoshiya Matsuzaka & Jun Tanji
に対する吉田先生のコメントに興味があります。

# pooneil

リクエストありがとうございます。ただ、当分書く余裕がありません。ShadlenのLIPでの仕事(Neuron 2003)とかとの関連とかに興味がありますが。
よければこちらにコメントを書いていただけるとありがたいです。
P.S. AOP論文にリンクをつけておきました。


2007年01月09日

Maturanaの"Biology of cognition"

あけましておめでとうございます。ことしもよろしくお願いします。

2004年04月11日のHUMBERTO R. MATURANAについて書いたエントリにKeithさんからのコメントをいただきました。過去のエントリで見えにくいのでここに転載しておきます。

# Keith
はじめまして。
MaturanaにとってAutopoiesisのコンセプトはは"Biology of Cognition"のほんの一部をなすものであって、Maturana = Autopoieisis と受け取られていることには、本人も慨嘆しておりました(数年前、サンチャゴ(チリ)で本人に会い、いろいろ話を聞いた折のことです。)。
1973年の論文(Autopoiesis)は、彼の論文というより、むしろVarelaが執筆したものであり、Maturanaとしては、”Tree of Knowledge"もそうですが、Varelaと共著者になっている著作には、今となっては苦い思いを抱いているようです。
[Alva Noe についてGoogle検索していましたら、Pooneilさんのサイトに出会い、オートポイエシスについての記事があることにびっくりしました。 BCI(BMI)についても関心を持っていますので、読ませてもらうつもりです。とりあえず、上記のようなコメントをさせていただきましたが、メールできちんと自己紹介もしたいと考えております。よろしくお願いします。]
# pooneil
どうもはじめまして。かなり興味の方向が重なってますね。Maturanaの話、興味深いです。Maturanaのサイトはあまり更新されていないのでMaturanaはもう活動してないのかなと思ってました。
以前どこかに書いたかもしれないのですが、Autopoiesis論が始まる段階に立ち返って、現象学/存在論的側面と自己組織化的な話とを切り分けたうえでこの概念について捉え直したらよいのではないか、というようなことを考えています。そういうわけで、"Biology of Cognition" 1970を読み直してみよう、というのがわたしの宿題のひとつでした。なかなか果たせずにいるのですが。
ともあれ、これからもぜひよろしくお願いします。

というわけでこっちの方面も進めておきたいのだけれど、なかなか手が回らない。人生は短すぎる。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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