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■ 半側空間無視の原因部位は?

2)半側空間無視の原因部位は?
にかんしては20040719および20051103でコメントした論文を取り上げます。
Karnath HO, Ferber S, Himmelbach M. "Spatial awareness is a function of the temporal not the posterior parietal lobe." Nature. 2001 Jun 21;411(6840):950-3.
Doricchi F, Tomaiuolo F. "The anatomy of neglect without hemianopia: a key role for parietal-frontal disconnection?" Neuroreport. 2003 Dec 2;14(17):2239-43.
Thiebaut de Schotten M, Urbanski M, Duffau H, Volle E, Levy R, Dubois B, Bartolomeo P. "Direct evidence for a parietal-frontal pathway subserving spatial awareness in humans." Science. 2005 Sep 30;309(5744):2226-8.(この論文については20051103でコメントしました。)
このScienceでの結論は、原因部位は"the second branch of the superior longitudinal fasciculus (SLF II; posterior parietal cortexとprefrontal cortexとを結ぶfiber)"のhuman homologueである、というものです。これはこれまでの論争での矛盾を解消し、nhpとの種差の問題を解消するという意味でかなり説得的なのではないかと思っています。(左右差の問題は残りますが。)
半側空間無視の原因部位はもともとparietal cortexの中にあると考えられていました。たとえば、Jon DriverのNature neuroscience 1998のレビューでは、Vallar 1986をreferして、inferor paeital lobuleの中のsupramarginal gyurs(SMG)を原因部位として図示しています。
これに対して、Karnathが損傷部位のprobability mapを作って評価してみたところ、原因部位の中心はtemporal cortexのなかの、superior temporal gyrusであることを見いだしてこれがnature 2001となりました。私としてはぴんときませんでしたが、Milner and Goodaleたちのように、空間無視をawarenessに関する症状であると考える人にとっては、ventral pathwayの損傷という理解ができることで納得がいったのだと思います。
ただ、これではnhpとの整合性が全くつきません。そういうわけで、当時の私の落としどころは、「humanでの半側空間無視の原因部位に対応する領域はnhpにはないのではないか。実際問題、SMGなどにしても細胞構築的に言えばBrodmannの分類ではnhpにはない領域だし。また、humanでの空間無視で左右差が見られるという事実も、空間無視の原因部位がhumanにしかないような進化的に新しい領域(Brocaみたいに)であることと整合的である。」というものでした。
げんに、nhpでの空間無視のモデルというのはあまり論文がなくて、せいぜいGaffanのBrain 1997があるくらいであるというのも、空間無視のanimal modelを作るのは難しいからではないか、というふうに理解していたのです。
Neuroreport 2003に関しても20040719のときにはどちらかというとacute phaseとchronic phaseとの比較に私は注目していて、fiberの損傷という視点を持っていませんでした。
しかし上記のScience 2005が出ました。そのときはスルー気味だったのですが、そのあとのerrataで原因部位が本文で主張していたsuperior occipitofrontal fasciculusではなくて、SLFIIであり、Neuroreport 2003と整合性があると主張しているのを読んで、その文脈でneuroreport 2003を読んでみると、原因部位はgray matterではなくて、white matterではないか、ということで俄然納得がいったのです。
karnath 2001にしてもそれ以前の論文にしても、gray matterの損傷に目がいっていたけれども、実はそのちょっと深いところにあるwhite matterの損傷こそが効いているとするならば、それは非常に納得がいきます。Attentionのシステムが分散型であろうことはCorbettaらのfMRIの仕事などからしても明らかなわけで、それらの一部の損傷には何とか持ちこたえることができるとしても、white matterの損傷というのは、そこを行き来しているfiberの多くに影響を与えるために、より影響が大きくなるであろうことは予想できます。(このへんに関してはNeuroreport 2003のDoricchiも"Left unilateral neglect as a disconnection syndrome." Cereb Cortex. 2007 Nov;17(11):2479-90で議論しています。ちなみにこの総説に関してはvikingさんが神経路切断症候群としての左半側空間無視でコッテリとレビューしてますのでそちらをどうぞ。)
また、nhpの研究との整合性という点からすれば、GaffanのBrain 1997におけるparietal leucotomyがanimal modelとして有効だったということも納得がいきます。まさしく同じ領域を損傷したといえるわけですから。さて、そういう目でも一度見直してやろう、というのが今回のセミナーのテーマだというわけです。
ただし、今度は左右差の問題が説明できません。いや、もちろん、nhpでは左右差のない部位がhumanになってから左右差があるようになった、というだけでいいっちゃあいいのですが、上記のそもそも相同領野がない、という方がこの点については説得的に思います。
肝心の論文の話はしてませんが、以前言及している(20040719および20051103)のでそちらをどうぞということで。
ところで余談ですが、今回言及した論文(Nature 2001, Neuroreport 2003, Science 2005)がすべて非アメリカからの研究であるということは非常に興味深いことです。Neuropsychologyがヨーロッパ起源であり、現在も盛んであるということを反映しているといえるんではないでしょうか。


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