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■ 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?

さて、前回の続きで、

1) 半側空間無視の定義と診断テスト

に関してです。

まず断り書きですが、私は医師ではないので現場を知りませんので、ホントのところはわかってません。的はずれなことを言ってたら訂正お願いします。

半側空間無視は「主に右大脳皮質の損傷によって起こる、反対側視野への感覚刺激に対する反応が失われたり減弱したりすること」です。ただし、感覚入力や運動出力などのより末梢での機能障害とは区別される必要があります。(上記の定義だと同名半盲でも当てはまる。)

このために行われるclinical testにはいくつかありますが、いちばん有名かつシンプルなものはline bisection taskとline cancellation taskです。

Line bisection taskは紙の上に横棒がひとつあります。患者さんにこの横棒をちょうど二分する位置を示してもらいます。右脳損傷で左の空間無視が起こっている患者さんではこの位置が右にずれます。ちなみに右脳損傷での同名半盲の患者さんでは逆に左にずれます(後述)。

Line cancellation taskでは、紙の上に棒線がたくさん散らばってかかれています。この棒線一つ一つにチェック線を入れるのが課題。右脳損傷で左の空間無視が起こっている患者さんでは左側の線にチェックし忘れます。

この二つの課題ともに、患者さんは目を動かしてよいのです。ですから、同名半盲の患者さんだったら目を動かして、健常な部分の視野を使うことによってこれらの課題を行うことができるわけですが、半側空間無視の患者さんでは課題をうまく行うことができないため、半側空間無視と同名半盲とを区別するのに役立つのです。

これらのテストでは、半側空間無視があるかどうかだけがわかりますので、同名半盲の方は、視野計を用いたperimetryによって確認する必要があります。これは注視しているあいだに視野上の様々な位置に光点を提示して、見えたかどうかを答えてもらうことによって視野上のどの部分が欠損しているかを測定するという方法です。

ここで問題となるのが、半側空間無視が重篤であるときには、perimetryで単一の刺激を出したときにもそれを見えたと報告できないことがあるという点です。たとえば、Mort et.al. 2003 Brainなんかだと、"Visual fields were recorded by te standard clinical method of confrontation. In our experience, this is superior to automated perimetry which frequently confuses negkect for absolute visual field loss"(p.1988)なんて書かれてたりします。

ですので、けっきょくのところ、空間無視のテストとperimetryを組み合わせることによってわかるのは、

空間無視のテストperimetry診断
failno field defectpure neglect
failfield defectneglect+hemianopia
passfield defectpure hemianopia

ということですが、2番目についてはpure neglectが入る可能性を排除できない、ということになります。このへんは、2)の原因部位の議論で実は重要になるはず。というのも、損傷部位を決めるためには[空間無視および同名半盲がある患者さん]と[同名半盲のみがある患者さん]との損傷部位を比較することが重要だからです。

ただし、臨床の場面においてはおそらく空間無視と同名半盲とはもっと区別がつきやすいのではないかと思います。というのも、a)空間無視ではより多くの刺激がある状況で影響を受けやすいということ、b)空間無視で見られる視野欠損は純粋にretinotopicなものではない(このフレーズはJon Driverのnature neuroscience 1998から採用)からです。後者に関しては、昨年の生理研研究会で鈴木匡子さんのトークで空間無視の患者さんでobject-based attentionが影響を受けた例を出されたときに集中した、「眼球運動はどうなっているのですか?」という質問と関係してきます。

つまり、空間無視で見られる視野欠損はretina以外からの情報によって影響を受けます。たとえば、

NEUROLOGY 1989;39:1125 "Hemispatial visual inattention masquerading as hemianopia" C. A. Kooistra, and K. M. Heilman

では、左側に視野欠損があると思われていた患者さんが、注視点を右側にもってきて、おなじretinotopicには同じ位置に視覚刺激を提示するとそれを報告することができました。また、

Brain (1993), 116,383-396 "Decrease of contralateral neglect by neck muscle vibration and spatial orientation of trunk midline" H. O. Karnath, K. Christ and W. Hartje

では、視覚刺激のretinotopicな位置および、注視点の位置を一定にしておいて、胴体の向きだけ左に15度傾けました。すると検出の正答率が上がった、というわけです。

つまり、extraretinalな情報によって影響を受けるから、ここで見られたvisual field defectはabsoluteなものではなくて、relativeなものであり、purely sensoryなものというよりはより高次なもの(おそらくはattentionに関わる)であるといえる、ということになります。

さて、落ち穂拾いですが、こういった患者さんのテストはそんなにコントロールした条件でできないので、注視しながら課題をやってもらうとかそういう話はそんなにはないようですが、眼球運動の同時記録に関してはこの10年くらいで出てきているようです。

たとえば、

Brain (2005), 128, 1386-1406 "Causes of cross-over in unilateral neglect: between-group comparisons, within-patient dissociations and eye movements" F. Doricchi, P. Guariglia, F. Figliozzi, M. Silvetti, G. Bruno and M. Gasparini

Brain (1998), 121, 1117-1131 "Ocular search during line bisection: The effects of hemi-neglect and hemianopia" Jason J. S. Barton, Marlene Behrmann and Sandra Black

ですが、後者はline bisection taskをやっているときの空間無視および同名半盲の患者さんのhorizontal方向の眼球運動を調べたものです。右脳損傷による空間無視の患者さんでは作業をしている間の目の位置がすでに右に偏っていて、ほとんど左側をスキャンしていません。一方で、右脳損傷による同名半盲の患者さんでは、視点を線の左端まで持って行って、健常視野に線が全部入るようにしてから課題を解いているようです。本文を読んでないので推測ですが、たぶんperipheral側は過小評価されるから、それで中間点を決めるときにちょっと左寄りになるんでしょうね。

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# 小松光年

AVM摘出で発症しました。回復期途中まで、両方の症状がありました、現在は同名半盲だけです。論文だいたいあってます。ただ、この二つの症状それぞれ別々に考えるのはどうかと思います。無視だけの症状ならばそれでも良いでしょう。しかし、私の場合無視の原因になっていたのは、同名半盲だと思っています。なぜなら、現在でも唐突にはじめてみる景色が現れると、左側(半盲側)を認識してない場合があるのです。明らかに視覚に入ってくる範囲だけで景色を完結させてしまってる訳ですね。さらにいえば、これらのことが原因で注意障害の症状も現れると思います。回復過程では、自分の見えない範囲を認識してきます(感覚的ではなく、オクトパスやハンフリーを使った検査結果などで)そうすることで、見えない部分に常に意識を向ける習慣が身につきます。視覚の回復は進まなくても、音や熱を感じ取りそれを代償しようとします。

# pooneil

コメントどうもありがとうございます。同名半盲だと、scotomaには外界からの刺激が来ないのでふだんは注意が喚起されないけど(ボトムアップ性注意)、見えないところに注意を向けようと意識する(トップダウン性注意)ことはできるのでしょうね。


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