[月別過去ログ] 2004年03月

« 2004年02月 | 最新のページに戻る | 2004年04月 »

2004年03月31日

Gouldさんの日記3/30から。

Gouldさんの日記3/30から。
(4/2アップデート)
ネットワークの形の研究が開く未来
で、それをつたってのスモールワールドとスケールフリーの基本論文およびWWW関連論文。
Nature '98 "Collective dynamics of 'small-world' networks"
Science '99 "Emergence of Scaling in Random Networks."
Nature '99 "Diameter of the World-Wide Web."
Science '00 "Power-Law Distribution of the World Wide Web."
PNAS '02 "Winners don't take all: Characterizing the competition for links on the web."
PNAS '02 "Growing and navigating the small world Web by local content."
Science '02 "Network Motifs: Simple Building Blocks of Complex Networks."
Science '03 "An Experimental Study of Search in Global Social Networks."
ほかにもニューロンのネットワークモデルでsmall-worldを使っている例:
"Fast Response and Temporal Coherent Oscillations in Small-World Networks."(PHYSICAL REVIEW LETTERS '00)
"Stability of a neural network model with small-world connections."(PHYSICAL REVIEW E '03)
"Harmony in the small-world."(Physica A '00)
"Self-sustained activity in a small-world network of excitable neurons."(?)
ほかにもゲノム関連やweb関連などはいろいろあるようだ。では神経ネットワークはどうか、ということになるのだが、これはどうだろう。近くへ投射するニューロンと、近くと遠くへ分枝を送るニューロンと、遠くへのみ分枝を送るニューロンとが多分あって、その結合は完全にランダムなわけでもなければ、完全に整然としているわけでもない。ただしこのことがNNがsmall worldであることを必ずしも保証しないわけだが。日本では理研("認知動力学研究チーム")がやってるらしい。


「カオス的な性質を持った発振器により構成されたネットワークは,その構造が組織化される過程において,スケールフリーとスモールワールドという2 つの特性を獲得することについてはすでに報告している。……また将来大脳皮質の構造を調べる際にこれらの知見を活用することも念頭に置いている。」

追記:上記のBarabasiの著書"Linked" の要約を発見。大脳中のニューロンでは(たぶん平均)14シナプスで任意のニューロンとつながっているそうだ。けっこう遠い。これのreferenceはなんだろうか。(線虫で2.6なのはもとのNature '98にあり。)

コメントする (2)
# ガヤ

ここら辺の話は実は大好きです(バレバレっすね)。「友達の友達が友達だった」系の話でしたら、ちょっと分野が異なりますが Science 298(2002)824-827も文献に混ぜてやってください。
あ、そうだ。上のリストには重要論文の一つ Nature 393(1998)440-442 が抜けてますのでこれも加えてしてくださいね。

# pooneil

サンクス。Nature’98はもちろん基本論文で、3/17にreferしといたので省略してたんだけど、せっかくなんでreferenceリストとして役に立つように追加しておきました。Science’02の方は今回調べてるときにどっかでタイトルだけ見ました。なるほど、ガヤの研究に関係ありそうかも。こっちも追加しときました。


2004年03月30日

昨日の続き

そういう意味では研究者のweb日記で各週のNatureやScienceをどっかでだれかが解説しているという現状っていいなと思う。もっとそういうところが増えて、これだけ見ておけばどっかで誰かが解説しているというような状況になって、その中に入っているようになれば、ここの読者も増えてゆくかもしれない(とはいえ書き込みをしてくれるような方はディープなネット者に限られがちなわけだけれど)。私のところはどちらかというと丁寧な解説をするというよりはいきなり疑問や議論に飛んでしまうので、どちらかというと親切ではないだろう。Journal clubのアンチョコとして使ってもらえるぐらいの情報量が合ったほうがよいのかも。

アクセス向上施策

というわけである程度アクセス向上施策をしてみる。

  1. タイトルにやってることを含めてわかりやすくする。"pooneilの脳科学論文コメント日記"としてみた。すごくウザくなった。"pooneilの「今週今月のシステムニューロサイエンス論文はこう読め」"というのも考えたが、ヘッダがH1だとでかくてウザすぎる。
  2. 以前の不定期日記を入れてコンテンツを増やした。以前のテキストもほとんど突っ込んでおいた。
  3. 「本当に訪問者が知りたい20の質問」を作ることでリンクなどのルールを明記してリンクしてもらいやすくした。


2004年03月29日

日記の効用

忘れたころに書いてみる。
ガヤが見通しよくすべきでないと考えることは良いことだと思う*1。こっちの言いたいことも伝わったうえでの見事な返しだと思った。これについては深入りせずに自分について書く。
私の場合は書いてみないと思いつかない性質なので、もう、書くしかない。放っておくと、ただただ混沌を抱えたままになってしまう。ぎりぎりまで絞ってゆかないと力は出ない。ぎりぎりまで絞ってゆくには、キーボードたたいているのではかったるすぎる。きっちり考えるときと日記を書くときとでは頭の使い方が違いすぎる。というわけでこの日記では、守備範囲を広げるために半可通な知識しかないところについて恐れず書くことで、読者のツッコミを待つ、という方向性を取ることにしたのだった。(私基本的にはキュートなボケキャラですし。)Stochastic resonanceだってlearning theoryだってアフォーダンスだって私は冷や冷やしながら、本職が来るのを待っているのだ。来なかったけど。でもまだ待ってる。
そういう意味ではもっとたくさんの人に見てもらえるような状態を作らなければ無理なわけで(現在定期的に来てくれているのはmaxで30人ぐらいです)、現在私はジレンマにある。人数が増えれば変な人が現れて荒れるのは必至なわけで、それだけは避けたい。以前経験したのだが、一日中ネットでの議論のことを考えているなんてのは間違ってる。というわけで、へんに宣伝せずに、少しずつ読者が増えるのを待とうというのが現在の戦略だ。だんだんgoogleで引っかかってくるのが増えてくれば昔のエントリーに言及してくれる人が来てくれるかもしれない、と望みながら。


*1:議論しているとかに思うのだが、ある種の確信と信念を持ってものを言うのが一番伝わるやり方だと思うし、一番重要な局面ではそうやって来たと思う。しかしそれだけでやってくと頑なになって大切なものを見失うときがあるし、私は自分で言ったことに縛られるところがあるのでそれが問題になることがある。これが私の実感。


2004年03月28日

Neuron 三月号

"Effects of Cholinergic Enhancement on Visual Stimulation, Spatial Attention, and Spatial Working Memory." Dolan @ Wellcome Department。
Physostigmineを投与して視覚応答や注意への影響をfMRIでみる。薬理のパラダイムをfMRIでやるのは難しい。コントロールと薬物応答とのあいだに時間の開きがあるため(after controlまで入れれば最低30分はかかるであろう)、BOLDシグナルのゆっくりしたドリフトと応答とのinteractionの可能性(もしシグナルが頭打ちになる可能性があるのならば、baselineが上がればevokedの大きさが小さくなるのはあたりまえだが、そのことからevokedをinhibitしているとは言えない)を考えなければならないからだ。だから、たんにドリフト成分を除去したあとでevent-relatedをやるだけでは私は不充分であると考える。また、このようなドリフトとbase lineに効いてくる薬理作用の成分とを分離するのも難しいと思う。で、読んでみるとplacebo/physostigmine と working memory task / control taskでのinteractionを見ているだけらしい。興味失った。

マンゴージュース(500mlペットボトル)

を最近二種類(バヤリースとサンガリア)飲んだのだが、うまいなこれ。トロピカルフルーツ好きとして超肯定。同時期に二つ出てきたのは、なんかの規制が解除されたとかそういう理由でもあるのだろうか。

昔のweb日記

を追加。「本当に訪問者が知りたい20の質問」はそのうち作る予定。


2004年03月27日

Nature N&V

Nature N&V "Signal processing: Neural coding by correlation?"
ガヤ日記にあったPhys Rev Lett論文
"Noise Shaping by Interval Correlations Increases Information Transfer."
が紹介されている。
(という記事を昨日書きためておいたら昨日の記事と混じってしまったのだった。)


2004年03月26日

Nature

"General conditions for predictivity in learning theory."
TOMASO POGGIO @ MIT。David Marrと一緒に仕事をした超有名人。3D objectのrecognitionのモデルとかがいちばん有名なのではなかろうか。News and viewsはこちら。
"Learning theory: Past performance and future results."
N&Vだけしか読んでないが、こういうことらしい。
Learningによってどう新しい状況に対して行動できるか、についてlearning theoryはrisk minimization algorithmを使っていると考えた。つまり、今までのすべての経験を使って、新しい状況において起こりうるリスクが最小になるように最適化されている、というものだ。しかし著者らはここで"stability"という概念を持ち出す。今までの経験のうちの一回の経験を除いても学習による予測が大きくは変わらないように最適化されている、というものだ。NVではケプラーの理論がそれまでの観察のうちのどれかが欠けたとしてもvalidであろうことを例にあげている。
このstabilityという概念は非常に尤もなように思われる。ベイズ統計を思い起こさせるところもあると思うが、私がここで思い浮かべたのは、統計でのcross validation法についてだ。いま私はkernel density estimationやgeneralized additive modelなどについていろいろ調べているのだが、カーブフィッティングをするときにkernelの幅やsmoothing splineの性質などを決める必要がある。このため、fittingの誤差のmasure(RMSとか)があるデータ点を除いたときにも変わらないという拘束条件のもとに、全データをそれぞれ一つずつ除きながらパラメータを最適化する。これが最適なものであるのかどうかは私は知らないが、empiricalにはよく使われている方法であるようだ。
というわけで、どっかで関係してこないかなと思って斜め読み。

コメントする (6)
# pooneil

ガヤ、日記での指摘ありがとう。直しました。
で、コメントありがとう>estimationとprediction。調べてみた。予測のためのモデルをestimateする、そのモデルを使ってある変数をpredictする、ということのようだけど、うーん、正直よくわからなかったです。どっち(cross-validationも今回のstabilityのルールも)もpredictionしてると思ったから。Nature論文もcross-validationは道具として使っているようなので、問題は道具とアルゴリズムとの関係になるのかもしれない。とはいえ、論文を読んでみることが先決でしょうな。ということでツッコミまたよろしく。

# ガヤ

私も今勉強中。最適化とか最尤度といったキーワードからなんとなく共通項を探そうとしてしまいがちですが、estimationとpredictionではやはり本質的に概念が違うかと。まずは私もそのNature論文読んでみます。

# ガヤ

すまん、あまりよく理解しないまま書き込んでしまいました。ラボ発表で『ガヤのやっていることは神経活動の「予測(prediction)」ではなくて単なる「推定(estimation)」ではないか』と指摘されまして今頭が混乱しています。そして”Applied Optimal Estimation (A. Gelb, MIT)”という読むように薦められたのですが知ってます、この本? 調べてみたら結構昔に出版された本のようでまだ購入に踏みきれません。有名な本なんでしょうか。
「(cross-validationも今回のstabilityのルールも)もpredictionしてる」→これはまさにその通りですよね、たぶん。

# pooneil

なるほど、そういう経緯ですか。うーむ、optimal ”estimation” だしなあ。上で私が言ったことも間違っているのかも。ここはプロに現れてほしいところですな。私自身は非線形最小二乗法を使おうとしてmatlabのoptimization toolboxを使ってみたぐらいでして、たぶん研究所の図書館の本でなんか調べたと思いますけど、お勧めできる本はありません。”Applied optimal estimation”は1974年らしいけど、よさそうですね。いまアマゾンで検索かけたら一番上に出てきました。
ネットでカルマンフィルタについての記述を発見。「なお、未来の状態ベクトルを推定することを予測、現在の状態ベクトルを推定することをフィルター、過去の状態ベクトルを推定することを平滑化と呼びます。」http://www.ichigobbs.net/cgi/readres.cgi?bo=economy&vi=0753&rm=20の423

# ガヤ

おお、そしたら推定はすべてのケースを包括したタームということですね。情報どうもです。

# pooneil

いやいや、ほんとのところはどうだかよくわからないし、上記の意味ではガヤの1sec先までを推定できるのはpredictionと言えるはずで、まだその質問の論点を見切れてはいなさそう。


2004年03月25日

「おたく」の精神史 一九八〇年代論 講談社現代新書 大塚 英志

「おたく」の精神史 一九八〇年代論 講談社現代新書 大塚 英志 「おたく」の精神史 一九八〇年代論
読了。うーむ。著者も書いているようにこの本は80年代を懐かしむようなものではなく、宮崎勤の事件から神戸小学生殺人事件への流れを軸にしているので、読後感としてはけっこう暗い。私自身は80年代後半は別冊宝島を読むようなやつで、バブル期の大学生文化から外れたところにいてなんかいい目に会えなかったので、『80年代の正体!』での「80年代はスカだった」にはけっこう胸のすく思いがしたものだ。で、今回の本はそれにかなり近い感じがあった。扱ってるものが重複してるし、と言われるのはきっと好まないだろう、「80年代はスカだった」という言い方が「80年代」を延命させてきたというのが大塚氏の主張なのだから。でも、言うほど差はないと思う。最初と最後でそういうふうにまとめたようにも見えるし。
私は90年代はどちらかといえばオタク(notおたく)というよりはサブカルだったと思う。サイケやプログレを中心としたロックマニアだったし、Quick Japan*1やStudio Voiceとかそういうの読んでた。エヴァンゲリオンについては私はQuick Japanの竹熊健太郎の記事や庵野秀明のインタビューなどを読んだだけで済ませてしまってまったく見てない。いま時間があったらみたいが。そして00年代から急速にオタク方向へ、セカイ系(しかしこれって便利な婉曲表現だなあ)っぽいものへと向かっている現在。ってべつに自分語りしなくてよいのだが。
でこの本に戻ると、けっきょくおたくの道が行き止まりであって、神戸小学生殺人事件まで辿り着いてしまった今、どこまでさかのぼったらやり直せるだろうか、という筋なわけで、しかもおたくではないから他人事だというわけにはいかない、という意味では東浩紀の「動物化するポストモダン」と同じ一般性のロジックにあるのな。それはある種のテクニックでしかないようにも思えるが。
ここで書かれている、現実が虚構の世界で使われていたものを取り込んでいる、というか取り込まれている(オウム、多重人格、プロレスと戦争)というのは重要な指摘だと思う。「現実と虚構との区別がつかなくなっている」ではなくて、「虚構の世界であったものが、現実の世界で起こっている」というほうがましな物言いであるのは間違いない。


*1:Quick Japanは準備号から買ったが、あるときは鴨川つばめ、あるときはGreatful Dead、あるときはナンバーガールというナイスな雑誌だった。


2004年03月24日

reverse correlation続き

以前Clay Reidの論文でm-sequenceを使ってRFマッピングをするような論文を読んだことがあったんだけれど、そのときにシステム同定について少し調べたことがある。復習がてら(参考"Nonlinear reverse-correlation with synthesized naturalistic noise." )。

で、response y(t)=f(x(t)) (x(t)は複数の刺激の組み合わせで、f(x1(t),x1(t-1),...x2(t),x2(t-1),...)と書くのが正しい)をVolterra expansionすると、y(t)は一次のcorrelationの項(V1)と高次なcorrelationの項(V2,V3...)とに分解される。よって、linearな項だけでresponseを説明できているという保証はない。刺激をgaussianのwhite noiseにすると、それぞれが独立になるような一次(G1)、二次(G2)、…の項に分解し直すことができる。このそれぞれのG1,G2とかがWiener kernelで、それぞれの項のkernelは入力x(t)の各項と反応y(t)のcorrelationから計算できる。よって、刺激がホワイトノイズでなければ一次な項(G1)と高次の項(G2…)、との独立性は保障されていないし、刺激と反応のcorrelationから各次の項のkernel(つまり反応の選択性、tuning。たとえばRF)を計算することもできない、となるはずなのだけれど。うーん、わからない。

で、Science論文のdiscussionを探してみると、記述発見。

... given the complexity and multidimensionality of each frame, it will obviously be impossible to isolate the appropriate functional dimensions solely on the basis of the reverse-correlation method. Thus, the reverse-correlation should be viewed as a complementary tool for evaluating putative selectivities found under natural vision and for "pilot" searches ... (discussionの最終パラグラフ)

うーむ、これで回避できたらしい。


2004年03月23日

シンポジウム

で話をしていただいた方からいくつか重要な話を聞いたので、すでに公開されていることに絞って書いてみるつもり。だがどんどん記憶が薄れてゆく。

アフォーダンス続き

3/15のU.T.さんのコメントに関して。まだちょっとよくわからないのですが、U.T.さんの最初のコメントをパラフレーズすると、「知覚運動変換(たとえば、Arbibがやってるようなgraspingのプロセス)を説明するには、べつにアフォーダンスなんて言葉を使わなくとも、単純に、運動系から知覚系へのフィードバックと捉えればじゅうぶんではないか?」ということだったのでしょうか。それとも「アフォーダンスという言葉が扱っていることは、運動系から知覚系へのフィードバックと捉えればじゅうぶんではないか?」ということだったのでしょうか。つまり、「何を(知覚運動変換の調節なのかアフォーダンスなのか)」運動系から知覚系へのフィードバックと捉えているのかがよくわからなかったのです。私は後者だと思ってコメントを書いたのですが。
あと、「「運動系から知覚系へのフィードバック」にはいろんな段階のものがありますし」と書いていたのがまさにU.T.さんが書いた外在的(知覚フィードバック)と内在的(遠心性コピー)のことです。前者の研究のほうがたぶん楽でしょうね。行動しているときの視覚フィードバックが変わるようにすればよいわけで、プリズム適応とか のvisuo-motor illusionかがこの部類ですでにあるわけでして。しかしこれらが前者のみによって説明できるわけではないし、後者によってわれわれは運動の学習を獲得しているわけで、後者が重要なのは間違いない。で、どうやって研究しているかかといえば、現状では内部モデル(順モデルのほう)があることを示す、というやり方をしているわけですが、たしかに直接的ではないかもしれません。まあ、この先が面白い、ということで。

コメントする (2)
# U.T.

アフォーダンスといってしまうと、色々なのを召喚してしまうので注意が必要かなと。進化生態論者なら、その生物種が生育する環境をあらかじめ神経系は生得的に「知っている」ことでしょうし、佐々木正人氏ならcross-modal integrationでしょう。結局、ギブソン原理主義だというのも理解できます。それぞれに個人的には好きなのですが・・・。意図したのは、現在の課題パラダイムに合致する方向性で重要な問題は何かということです。純粋に現象論者だと、この辺が甘くなる(というかあんまり問わない)。具体的な方法論で挙げられた例には全く同意です。順モデル・逆モデルと計算論的に定義されたのは目からウロコでした。

# pooneil

コメントありがとうございます。


2004年03月22日

PLoS biology四月号

"Perceptual "Read-Out" of Conjoined Direction and Disparity Maps in Extrastriate Area MT."
DeAngelis @ Washington University School of Medicine と William Newsome @ Stanford University School of Medicine。
今回のPLoS biologyのシステムニューロサイエンスもやはり大物による執筆。はじめのほうはたぶん招待されているんだと思うんだけど、どうなんだろ。Shadmehrには聞けなかった。英語勉強しなきゃ。
で、今回の論文はMTへのmicrostimulationによるdirection弁別のpsychophysicsへの影響、という、以前からNewsomeがずっとやってるパラダイム。MTのdisparity-sensitiveなneuronのある領域を刺激したときにはdirectionの弁別への影響がないが、disparity-sensitiveなneuronのない領域を刺激したときにはdirectionの弁別へ影響する(どっちもdirectionへのselectivityはあるのにもかかわらず)。つまり、タスクに関係のない刺激の次元(disparity)へのtuningが、行動への寄与の有無に大きく関わっているということだ。
というわけだが、はたしてこの論文はhigh quality paperであろうか、ということに判断を下せるほどにはこの論文を読んではいないんだが、印象としては、JNSとJNPの中間、という感じであろうか。PLoSはNatureやScienceでは充分に書ききれないhigh quality paperを出すところとして機能できる可能性があるわけであるが、この論文は微妙だと思った。
とはいえ、MTでrepresentされている二つの情報(directionとdisparity)がどうread-outされるか、ということがタスクで要求されることによって変わっている、という仮説は面白いと思う。そこまで言えてるかどうかは別として。


2004年03月21日

"The Mind of a Mnemonist" by A.R.Luria

がテレビで扱われていた。こういう番組を見るのは久しぶりだ、っていうかテレビあんまり見ない*1。私はかつて記憶の研究をしていたのだが、恥ずかしながらこの本を読んだことはない。ただ、共感覚について調べているとこの本は必ず出てくる話題で、共感覚についての記述は抜粋を読んだことがある。Webでexcerpt発見。で、この患者さんがどういう人生を経たのかははじめて知った。たしかゲイジも前頭葉を損傷したのちに見世物小屋に出るようなことをしていなかったっけか(たぶんダマジオの本に書いてあったと思う)。
もう一つの前向性健忘も有名な話だが、映像で見せられると迫力が違う*2。あれは無酸素になった状態(一酸化炭素中毒とか)で海馬CA1のpramidal cellが選択的に脱落した例(症例RBが有名)だが、テレビに出た人は家族が支えてくれていて、非常に明るく生活をしているのが印象深かった。


*1:テレビを見るのは子供と一緒のときに限られるので、見てるのはポケモンやハム太郎だったりする。
*2:ワイルダー・ペンフィールドの有名な実験も、写真ではなく映像で見たのははじめてだった。Dura上から刺激しているのだと思うのだけれど、大きくcraniotomyしているのでけっこう拍動していた。

今週のNature

"Cortical activity reductions during repetition priming can result from rapid response learning."
DANIEL L. SCHACTER @ Harvard Universityがlast authorなんだけど、あとは別のところの人なんで、たぶん、コレスポ取ってるfirst authorの仕事なのだろう。
SCHACTERは「なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか―記憶と脳の7つの謎」の著者なので、専門外の人でも知っているかもしれない。
で、repetition primingの現象を解明するためのfMRI studyというのは今までにもいろいろあったのだが(HensonのScience '00とか)、なにが新しいかというと(続くかも)


2004年03月20日

Science '02

3/19について補完。CO blobについての最近の重要論文として、Sincich and HortonのScience '02 "Divided by Cytochrome Oxidase: A Map of the Projections from V1 to V2 in Macaques."がある。
それまでの研究からmagnoはV1のlayer4BからV2のthick stripeへ行き(そのままdoral streamへ)、parvoはV1のlayer2/3のblob外からV2のpale stripeへ行き(そのままventral streamへ)、konioはV1のlayer2/3のblob内からV2のthin stripeへ行く、ということがわかっている。
で、この論文でわかったのは、V1のblobのあるコラム(layer4も含む)からV2のthin stripeへ行き、V1のblob外のコラム(layer4も含む)からV2のthick stripeおよびpale stripeへ行く、ということだった。blog外からV2への入力はmagno(doral)とparvo(ventral)とがmergeしている、というのが重要な点で、いままでの三つのpathwayが独立に処理される、という考えからの変更が要求される、ということなんだけれど、今までの考えと、この知見とをどう組み合わせて現在バージョンを作ればよいかがいまいちわからん。
ちなみに続報(JNS '03)の"Independent Projection Streams from Macaque Striate Cortex to the Second Visual Area and Middle Temporal Area."からすると、V1からMTへの投射はCO blobコラムの内外の両方から来ているらしい。
もひとつ、これも。(The Journal of Comparative Neurology '02 "Pale cytochrome oxidase stripes in V2 receive the richest projection from macaque striate cortex."

ヘッダにも書いたけど

はてなダイアリーでは、過去の記事への書き込みでも、メールで著者に知らせてもらえるようになっているので、いつでもどこの記事にでも書き込み歓迎。とくに、googleで探しものをしてこのページを見つけた専門家の書き込みを激しくencourageします。


2004年03月19日

シンポジウム

終了。燃え尽きたよ。

Cerebral Cortex 四月号

Cerebral Cortex 四月号


*1:CO blob: Cytochrome oxidaseでV1を染めると、layer2/3にパッチ上の構造が見られ、このblobの中と外とでは別の情報が処理されている。


2004年03月18日

英語

が不充分で、シンポジウムではかなりの機会を逃した。みじめ。まだ蚊帳の外であり、なにものでもないる自分を売り込むために空しい努力を繰り返した。みじめだなあ、と反芻して風呂に入った。シラケ鳥の歌が頭に流れていた。
とはいえ、ある程度はいろんな人と話ができたので有意義だったのは間違いない。ほとんど日本人だけど。
予習は役に立っただろうか…自信ない。

はてなアンテナ

使ってみた。ただいま人のアンテナをがんがんインポートしているところ。


2004年03月17日

ノイズ

「適度なノイズによって何かが最適化される状態」、ぐらいまで一般化して考えるといろいろあるだろうと思う。それはまさにbolzmanネットだし、たぶん化学の何らかの現象でも見られることだろう。不純物がないと結晶化が始まらない……ほんとのところはこれはどういう現象だったんだろう。
というのも、なんかのついでに昔読んだこれ(Collective dynamics of 'small-world' networks)を見つけたんだけれど、これも整然としたネットワークでもなく、完全にランダムなネットワークでのなくて、その中間で"it's a small world phenomenon"が見られる、という話だったからで。
これを"middle way"とまで言ったらさすがに危ない人か。


2004年03月16日

R windows version 1.80

を使ってるんだけれど、けっこう飛ぶ。それも脈絡のないところで。それから、コマンドウィンドウでの使い勝手はMATLABより悪い印象。コマンド履歴が時系列でしかでない。MATLABだとf、と入れてから上矢印を押すと、fで始まるコマンドの履歴figure(i)とかfminsearch(...とかが出るのにそれがない。また、currentの行でコピーがマウスを使ってしかできない、とか。まあ、基本的にはUNIX上で開発されたソフトなのだろうからwindow上での使い勝手はしょうがないのかもしれない。
まあ、MATLABにだっていろんな問題があるのだろうけれど、それには慣れてしまった。ま、いわゆるバッドノウハウというやつだな。


2004年03月15日

アフォーダンスと脳科学 続き

認知主義的に脱臭したアフォーダンスをニューロン活動で記述するときには、べつにアフォーダンスと言わなくても、なんか別の名前を付ければよいのではないだろうか。たとえば"affordability"とか(ジェームスとパースとの間でのpragmatismとpragmaticismの話をイメージしつつ)、Arbibが使っている"action-oriented perception"とか。
もしくは(こっちのほうが正しい道だと思っているが)、逆向きの拘束条件をつける、アフォーダンスに関してギブソンが含意したことが脳科学に拘束条件を与えるようにしなければならない。たとえば、行動するときにのみアフォーダンスに関わると言えるようなものが立ち現れてくるようでなければおかしいと予言できるし、そのほかにもエコロジカルな視覚というのを成り立たせるための条件が脳科学を拘束するだろう。
不充分な勉強からかなり大胆なことまで言ってしまったことにちょっとビビり気味ではあるが、ギブソンがやったことが、有機体と環境との間で成り立つ知覚についてのある種の現象学的記述であるとしたならば、それと脳科学との関連を考えるのにVarelaのneurophenomenologyを持ち出すことはそんなに間違ってはいないのではないだろうか。

コメントする (5)
# Correggio

Gibsonの心理学の一部が,神経科学に取り入れられたのは,単に偶然たまたまではないのではないか?

# U.T.

単純に、運動系から知覚系へのフィードバックと捉えておりますが…。ダメですか?

# pooneil

U.T.さん、はじめまして。お名前はほかの方の日記への書き込みなどから存じ上げております。SRのときには言及もしましたし。えーと、アフォーダンスについての言及かと思いますが、それでべつに良いのかもしれません。しかし、「運動系から知覚系へのフィードバック」にはいろんな段階のものがありますし、アフォーダンスという言葉を認知科学の枠組みで使うのは注意したほうがよいのではないか、というのがシンポジウムで会ったCorreggioさんとの話で落ち着いたところでした。アフォーダンスについての記述に関していくつかリンクされているのに驚いているのですが、私は素人なので、専門家に聞いたほうがよいかと思います(科学の分業化の弊害を体現してみる)。ちなみに私の興味はたぶん河野 哲也氏の「エコロジカルな心の哲学―ギブソンの実在論から」および現代思想の現象学特集でのギブソンとメルロポンティとの関連を扱った論文辺りにあるようで、かなり哲学寄りです。

# U.T.

SRの件、フォローありがとうございました。アフォーダンスについては、一応フォローしていたつもりで、入出力で考える今時の神経科学に最も似合わないと感じていたのですが、そういう話が出てきているのはちょっと驚きでした。どうにか、フォーマットに載せる上で、単純に考えるのは?ということで、コメントしました。フィードバックといっても、運動で変わる知覚を想定する外在的な形と、運動系から知覚系への逆行性の投射とかを想定する内在的な形が想定できます。実証的という観点では、前者の方が楽だなと感じています。刺激を操作するのは楽なんで。

# pooneil

U.T.さん、ありがとうございます。長くなってきたので返答は3/23に書きました。

Reverse correlation

いまだ読んでないんでreverse correlation自体の話に逸れてみる。そもそもreverse correlationって刺激に独立性がなくても成り立つんだろうか?(V1のreceptive fieldを決めるとかの時にはランダムな刺激を使うし。) とくに刺激への応答が線形的であって高次の作用がないこと(時間-t,-t+1,...-1での刺激S(-t), S(-t+1),...S(-1)への時間0での応答がf(S(-t) )+g(S(-t+1) )+...z(S(-1)であって、二次以上の項、たとえばinteraction term h(S(-t),S(-t+1) )などに依存しない )が保証されてないといけない気もするのだけど、どうなんだろう。とくに、今回の刺激には時間的相関があるわけだから。いや、世ではLIPのニューロンのRFにreverse correlationを使ってたりするのもあるし、名前は違うけどspike-triggered averagingなんてやってることはreverse correlationと同様だと思うんだけど、いろんなところで行われているし、fMRIでのevent-relatedっていうのもevent-triggered averagingなわけで、変な相関(呼吸とか低周波成分とか)がでないように苦労したりするはずで。このへんってほんとのところどうなんだろう。

コメントする (2)
# V1の人

はじめまして。最近こちらのページの存在を知り、楽しく拝見させて頂いています。
だいぶ前の話なのでコメントを書いても見てもらえるか判りませんが・・・
reverse correlationについてですが、通常使われている意味でいえば(たとえばJones & Palmer 1987; DeAngelis et al 1993のような使い方をするならば)
「刺激への応答が線形的であって高次の作用がないこと」
が保証されていないといけないというよりも、「」内のような仮定で解析を行うことにより(たとえ高次の作用があったとしてもそれをaverage outして)線形成分のみを抽出する方法である、と捉えた方が良いのではないかと思います。
たとえばV1の単純型細胞にしても完全に線形成分のみで反応が説明できるかというとそうではない(Baker 2001等)わけですが、高次相関のないノイズで十分長い時間記録を行えば高次作用の影響はaverage outされます。そうして得られた結果がたとえばV1のいわゆるlinear receptive fieldという形で観察されるものになります。
逆にいうと、線形(+average outされた高次)成分が全くないシステムでない限りreverse correlationを行えば何らかの信号は出てくると思います。それがどの程度意味のある信号なのかはそのシステムの線形成分がどの程度dominantなのか?によると思います。
NHKさんもご指摘の通り、「未知のneural correlateをスクリーニングする」ための(著者らは"pilot searches"とも言っていますが)最初の一歩として線形性という最も単純な仮定を用いるというのはまあアリなのかなあと思います。
(高次作用を可視化するためにもreverse correlationを使うことはできますが、上ではよく使われている線形受容野を求める際の解析法について述べました)
刺激に時間的相関があるのにそれを補正せずに解析している点は問題があると思います。といっても刺激空間が自明でないのでどうやって補正したらいいのかというとちょっと謎ですが。
いきなりいっぱい書いてすみません。

# pooneil

どうもはじめまして。コメント書き込みがあるとメールで連絡されるようになっているので、コメントがあったこと自体はすぐにわかっていたのでが、お返事が遅れました。どうもすみません。新しいエントリの方(http://http://pooneil.sakura.ne.jp/archives/2005/02/v1_1.html)に返答を書きました。また、関連スレッドを一つのサブカテゴリに分類しました(http://pooneil.sakura.ne.jp/archives/cat2/reverse_correlation_/index.html)。よければご覧ください。いきなりいっぱい書いちゃってください。よければ直メールでこっそり自己紹介していただけるとさらにありがたいです。

明日からシンポジウム。

朝早くから夜遅くまでのかなりの強行軍なので、日記はサボるかも。ネタはいろいろ仕込めるはず。
ちょっと労力かけすぎになってきたのでもうちょっとクールダウンしようと思う。一日にこれにかける労力は30分以下であるべきだろうと思う。二週間前もそんなこと言ってたような気がするが、性格的にどうもこうなのです。だからこそ「方針:ちゃんと続ける。がんばらない。無理しない。」なわけで。


2004年03月14日

アフォーダンスと脳科学

Varelaは脳と現象的意識の関係について、脳科学の知見(三人称)と現象学的世界(一人称)とが互いに還元不可能である一方で互いを拘束するような形で関係していると考え、この互いの拘束関係を取り入れていくストラテジーを"neurophenomenology"と呼んだ。脳科学とアフォーダンスとの関係についてもこれを援用できないだろうか。というのも、ギブソンがやったことは有機体と環境世界とで起こる知覚に関する現象学的記述なのだから*1。脳科学が言っていることと、(ギブソンが(「生態学的視覚論」で意味している)アフォーダンスが言ってることとの間はなんつーかカテゴリーエラーとでも言うか、違う世界を見ている。だからきっと、昨日言ったことは生理学者の出る幕がなくなることを意味しない。脳科学の知見はアフォーダンスが記述される世界について拘束条件を与える。たぶん、私はアフォーダンスをニューロンの活動へ「還元」することに反対しているだけなのだ。
それからもう一件、茂木さんの本での扱いについて。
茂木さんの「心を生み出す脳のシステム」を引っ張り出して、アフォーダンスの扱い(第五章)について確認してみた。茂木さんもこの辺はぎりぎりのラインを揺れ動きつつ書いていると思う。


「運動前野において見出された行為の可能性、ないしは行為のレパートリーを表すニューロンは……このような意味の行為の可能性は、ギブソンの言うアフォーダンスと関連している可能性がある。」(p.134)
「ギブソン的な意味のアフォーダンスに相当するものが私たちの認知プロセスに含まれていることは疑いようのない事実であり、行為の可能性を表す運動前野のニューロンが、このような意味でのアフォーダンスの生成のプロセスの一部を担っている可能性が高い。」(p.135)
「ギブソンが主張したのは、知性というのは、……脳や身体と環境との相互作用の中に埋め込まれているということだった。……むしろ、ギブソン的な視点からは、脳内のニューロンを見ても、知性についての本質的なことは何もわからないというようなことになりかねない。」(p.135)
「しかし、最終的にはアフォーダンスも脳のニューロンによって支えられていることはいうまでもない。運動前野において見出されている、行為の可能性を表現するニューロンは、アフォーダンスを支える脳内機構の一部を担っていると考えられるのである。」(p.136)

茂木さんは「アフォーダンスのneural correlate」というような表現はしていないし、かなり気をつけて書いている様子が見える。私が考えるような、アフォーダンスが記述される世界について脳科学の知見が拘束条件を与える、というのに沿っているようにも見える。しかし、このときのアフォーダンスはたんに「行為の記憶とコンテキストに基づいて事物からピックアップされる行為の可能性」という操作的な定義に基づけば充分であって、ギブソン心理学の存在論的、認識論的含意は不要になっている。このことは、逆方向の拘束、アフォーダンスが記述される世界が脳科学について拘束条件を与える、ということが欠けている、と言うことができるかもしれない。(3/15に続く)


*1:これが私が「ギブソン心理学の核心 」から読み取れたことの一つだ。

内部モデルまとめagain

  1. 目標とする軌道(x)を決める
  2. 目標を実現するための関節角(theta)を決める
  3. 目標を実現するための張力とトルク(u)を決める
  4. 軌道(x')が実現する
(「脳の計算理論」p.80の図よりまとめ) とあるときの 1.から2.が逆キネマティクスで 2.から3.が逆ダイナミクス。 1.から2.は座標変換と言ってもよかろう。1)から2)で行われているのは本当は何か。

2004年03月13日

アフォーダンスと遠心性コピー

Correggioさんへの返答を書いた際にまとめたこと(2)を加筆して以下に。(02:26加筆)

オートポイエーシスでも当てはまる話なんだけれども、家元とその継承者との間で概念がずれてくるようなときには、その概念がどう形成されたかに立ち戻って考えるべき、という立場を私は取っている。つまり、この点においては私は原理主義者であり、ギブソン自体の考えに基づいて考えよう(べき)だと思う。その点で「ギブソン心理学の核心 」(勁草書房)は非常に参考になると思う。

(アフォーダンス概念からの帰結として、)「アフォーダンスは、生理学的メカニズムや情報処理論に言及していない。 アフォーダンスは、「動物の環境との関係に関する記述」であって「認識のメカニズムの記述」ではない。したがって「生理学的メカニズムや情報処理モデルと合わないから」という理由でギブソンの理論を否定するのは筋違いである。」(「ギブソン心理学の核心 」(勁草書房)p.160)

また、ギブソン自身は

「環境の知覚が直接的だと主張するときには、それが網膜的画像、神経的画像あるいは心的画像によって仲介されてはいないという意味である。」(「生態学的視覚論」p.161)

という風に書く。ギブソン心理学は現象学的なアプローチを目指したゲシュタルト心理学の末裔であり、根っこは認知主義および表象主義そしてDavid Marr的な考えへの批判である。たぶん(ナイサーとずっと批判しあってたわけだし)。で、そんなに詳しくない私から見ても、アフォーダンスをニューラルネットワーク中のモジュールのように扱うのはどうにもおかしいことのように思える。

それで、そのようなアフォーダンスをどうやってArbibは認知科学と結び付けているのだろう、というのが私の疑問。Neural Networks '98では、「IPやF5やITから来た情報からAIPが抽出する」という感じに使っている。Arbibはけっしてナイーブな書き方(たとえば、情報を統合する、とか)をしてはいないのだが、けっきょくのところ、それだとまんま情報を表象していることになると思うのだけれど、それでよいのか? 情報そのものでよいのか? いや、定義的には、「事物が情報をaffordしている」ということになるのは確かなのだが、「直接知覚」の考えからすれば、アフォーダンスを脳が属性を分析して統合する形でどっかのニューロンが表象している、なんてことはありえないのではないか? それとも、行動に直結した形で、属性として分解されない形で処理されればよいのか? アフォーダンスはピックアップされるものなので、「ピックアップする」というある種の能動的な作用のneural correlateを探す、というのなら脳とアフォーダンスを結びつけるというのはありかもしれない。でもそれですら本当にいいんだろうか、私はまだ納得してない。

追記: ギブソンが見出したoptical flowは認知科学の中に簡単に取り込むことができた。MSTのニューロンがoptical flowをコードしている、ということもわかっている。それはたぶんギブソンの本意ではなかっただろうけど、この概念はそれだけ切り取って使うということがしやすい。しかし、アフォーダンスに関してはそうはいかないのではないだろうか。ギブソンがアフォーダンスという概念を使い出したのは、それを使うことによって、有機体と環境との関係からなる知覚を現象学的に記述するため(この点でオートポイエーシスと相通ずるものがある)であって、感覚運動変換の理論を唱えたかったわけではないのだから。(さすがに知ったかぶりしすぎか。)

アフォーダンスは行動する前から事物にあるのではない。行動してはじめてそのアフォーダンスがあった、と事後的にわかることになる。たぶん、何度同じことをしようが、その一回一回ごとにしか事物のアフォーダンスは現れないし、そのような形でアフォーダンスが現れるようでなければならない。その意味でもオートポイエーシスが作動しているときのみに作動の関係によって規定されるのとよく似ていて、センスには近いものを感じる。

なんつーか、アフォーダンスを記述するときには脳が見えなくなるし、脳を記述するときにはアフォーダンスが見えなくなる、という形の説明になってたらいいのかもしれないなと思う。

コメントする (2)
# Correggio

「なんつーか、アフォーダンスを記述するときには脳が見えなくなるし、脳を記述するときにはアフォーダンスが見えなくなる、という形の説明になってたらいいのかもしれないなと思う。」といってしまうと我々生理学者は,出る幕はなくなってしまう?

# pooneil

Correggioさん、それでも出る幕はなくならないと思ってます。続きは3/14に書きました。

Science "Intersubject Synchronization"

昨日のScience論文についてshimaさんの日記 3/12(見てますよ)のコメントあり。Reverse correlation自体が新しいわけでもないしなあ。Free-viewingで電気生理、みたいなやつはあるし、エコロジカルな条件で脳を研究したい、という複雑かつ意地悪く言えば中途半端な*1研究がどうやればうまくいくのかなあ、ということは考える(読む気なさげ)。


*1:電気生理という非常にデザインされた枠組みを崩すわけでもなければethologyには行くわけでもない、という意味で。

コメントする (2)
# NHK

Science論文、確かにreverse correlationは既に在る訳ですが、こんなにも大胆に使うことで、未知のneural correlateをスクリーニングする手段となり得ませんかね?

# pooneil

NHKさん、Mattingley論文以来ですね。「未知のneural correlateをスクリーニングする」、これは確かに面白いかもしれませんね。人間側の行動には呼吸やら手足や眼球の動きやら気分の変化やらものすごいいろんなものが含まれているわけでして、こっちをどう処理するか、というのが本当の問題になりそうですが、たしかに可能性はあるかもしれません。
ただ、reverse correlationをこう使ってよいのか、ということが気になります。このことについては3/15に書きます。

なっちゃんスムージー オレンジ&マンゴー

うまい。あまりにまろやか。酸味までまろやか。最近一日二本飲んでます。(<-太るって。)

Tahiti 80 "Wallpaper for the Soul"

Tahiti 80 "Wallpaper for the Soul"
よい。前作はジャケット見ていまどき渋谷系?という感じでなんか敬遠してたのだが、後悔。もっと早く聴いとけばよかった。基本はギターバンドなんだろうけど、レトロな感じのストリングスとか入ってたり、よくできている。評判からの予想ではもっとネジくれているのかと思ったけど、すごい直球勝負。XTCやTodd RundgrenやZappa好きの私としてはもっと毒がほしいところではあるけれど、いいものであるのは間違いない。


2004年03月12日

内部モデル

Correggioさんへの返答を書いた際にまとめたこと(1)を以下に。
「脳の計算理論」からいくつかピックアップ。
そもそも、逆モデル(もしくは順モデル)には、

  • 腕などの関節の角度(theta)から手の平の位置(x)を決める逆ダイナミクス問題
  • 筋肉の張力(u)から腕などの関節の角度(theta)を決める逆キネマティクス問題
とがある(「脳の計算理論」p.81)。
小脳はフィードバック誤差学習において逆モデルとして働いて筋骨格系の逆ダイナミクス問題を解いている(「脳の計算理論」p.201)。
そう考えると、PF->F5とかの大脳皮質のほうでは逆キネマティクス問題を解いている、と考えればよいのではないか(私の推測なので自信なし)。
視覚から運動まで全部つなげて考えてしまえば、
  • 知覚から運動の向きの情報伝達は外界の逆モデルと言えるし、
  • 運動から知覚の向きの情報伝達は外界の順モデルと言うこともできる((「脳の計算理論」p.397)。
これは拡大解釈かもしれないけれども、感覚系まで拡張できるアイデアではある。そして、Miallが書いているのにはこの種の拡大解釈なのではないだろうか。

Science

"Columnar Architecture Sculpted by GABA Circuits in Developing Cat Visual Cortex."
"Specific GABAA Circuits for Visual Cortical Plasticity"
Henschさん@理研の論文二連発キター! Authorを見ると、理研の人の仕事ではない模様ではあるが。

Science "Intersubject Synchronization"

"Intersubject Synchronization of Cortical Activity During Natural Vision."
Rafael Malach@Weizmann Institute。
被験者複数にfree-viewingで映画を見せると、初期知覚野以外にもsubject間にsynchronizationがあったというものなんだが、斬新すぎて、すごいのかどうかよくわからない。


2004年03月11日

内部モデルとミラーニューロン

Correggioさん、コメントありがとうございます。Miallの論文は読んでまして、1/18の日記で多少言及してます。これを読むかぎりだと、他者の行動を観察しているときにはSTS->PF->F5の回路が逆モデルとして働き、模倣して行動するときにはF5->PF->STSの回路が順モデルとして働く、という図式らしい。私の理解が間違っていなければvoluntaryな運動そのものでは、PP->PMv->M1は逆モデルを使っていて、この逆モデルを訓練するのに、PMv->PPcの向きの順モデルが働く、ということかと考えてます。もちろん小脳の関与は常にあるとして(私はどうもcortex以外をないがしろにしがちだけれど)。
それから、酒田先生の説については興味があって少し調べていて、12/31のSiriguの論文のところで多少言及してます。酒田先生のFARSモデルは、Arbibの論文 (Neural Networks '98 "Modeling parietal-premotor interactions in primate control of grasping.")としてしか読んでないので、もう少しこの辺、よくわかりたいところです。頭頂葉といってもいろいろあるので、実際どこがどう分担をしているかが重要だろうと考えています。たとえば、graspingとsaccadeではいろいろ違うところがあるだろうけど、何が共通しているのだろうか、とか。
そして、このメカニズムが自己意識を形成する一つの材料であることは間違いない。で、私の問題意識としては、はたしてその自己意識と、現象的な意識とはどう関係するのか、両者は同一なのか、別だが互いを要請する関係にあるのか、それとも別のものであって、何らかの形でdissociationが見られることがあるのか、ということなのだけど。
じっさい、neurologyでそういうのはないんだろうか、自己意識と現象的な意識との(double) dissociation。

コメントする (2)
# Correggio

ちょっと長くなるので,メールでお返事をしましょう

# pooneil

メール確かにいただきました。ありがとうございます。お返事はメールとこの日記の3/12のところでということで。

JNS 4月号

JNS 4月号

  • "Neural Correlates of Beauty" Zekiなんだけど、ガヤが言うように「脳は美をいかに感じるか」とあわせて読むモノなのだろうなあ、といちおうreferenceを確認してみたら、自著は入ってなかった。いいんだか、悪いんだか。内容は、絵画を見せてそれを美しいか醜いか分類させて、それらの絵を見たときの反応の差分を取る、というもの。いいのか? いろんな要素、たとえばemotionalな要素とかいろいろな可能性があると思うのだけれど。押さえとしては絵画を別の基準で分類したときにはどういう差分が出るかをやっていて、風景かそうでないか、とかをやってる。結果としては、美しいか醜いかの差ではorbitofrontalに活動の差が出るそうな。美しいと満たされて報われる、といったところだろうか?

2004年03月10日

Reza Shadmehr

Reza Shadmehrのwebサイト(reprintあり)。
Reza ShadmehrはEmilio Bizziと運動系のhuman studyをやって主にreachingの実行に内部モデルがどう関わっているかを研究してきた。とくにmotor memoryやmotor learningについてやってきた。 けっこう計算論っぽいところが強いので理解は厄介。
JNS '03 "Quantifying generalization from trial-by-trial behavior of adaptive systems that learn with basis functions: Theory and experiments in human motor control."
JNSの仕事は、reaching中に速度に従って力がかかる"force-field"でのarmの動きを被験者に学習させて、その学習が他の方向の動きにgeneralizeするかどうかを調べている。内部モデルは二つの種類のbasis elementを使って学習をgeneralizeしている、というのがその結論。
PLoS biology '03 "A Gain-Field Encoding of Limb Position and Velocity in the Internal Model of Arm Dynamics."
こっちも関連する話のはずだけれども、よくわからん。

Randy Flanagan

Randy Flanaganのwebサイト(reprintあり)。
Randy FlanaganはカナダのQueen's Universityの人。Umea大学のJohanssonnと一緒に仕事をしている。
Object manipulationをするときにactionのcontrolとpredictionとがどのように行われるかをhumanで研究してきた。この人は内部モデルの人で、ようするにactionのcontrolとは、「行動の目標(視覚)を運動指令(運動)に変換すること」(逆モデル)であって、actionのpredictionとは「運動指令(運動)からどういう運動結果が出るか(知覚)を変換すること」(順モデル)のことだ。
Current Biology '03 "Prediction precedes control in motor learning"
Motor learningの学習速度は、運動を予測すること(prediction)のほうが運動を制御すること(control)よりも早いことを示している。つまり、この結果はcontrolとpredictionという別のプロセスがあることの証拠である。
Nature '03 "Action plans used in action observation"
Natureで彼はRizzolattiらが提唱する"direct matching hypothesis"というやつの実証をしている。"Direct matching hypothesis"とは、「(他者の)行動を理解するためには、観察した行動(視覚情報)をその行動のmotor representaion(運動情報)に変換するメカニズム(逆モデル)が必要である」というもの。
積み木を移動させるタスクをやってるときの目の動きを見ると、人のタスクを見るときでも、動作より先に目が動いている。つまり、人の動作を見るときでもpredictionが働いている、ということを示した。
たぶんこのことは、逆モデルが(他者の)行動を理解するために必要であるということを示しているのだろう。

コメントする (2)
# Correggio

こんにちは。ミラーと内部モデルとの関わりまMiallのReviewにもあります。Miall R.C. connecting mirror neurons and forward models NeuroReport 2003 14(17) 2135-2137 ところで,視覚と運動のマッチングという考えは,実は酒田先生が,ずいぶん前に頭頂葉でいっています。この場合には,遠心性コピーと物体の視覚情報のマッチングです。さらにこのとき,自己の運動の感覚フィードバックのことも示唆していました。

# pooneil

お返事ありがとうございます。長くなったので3/11のところに書きました。


2004年03月09日

シンポジウム

のinvited speakerについてのまとめ。

Andrew Schwartz

Andrew Schwartzのwebサイト(reprintとpreprintとmovieがたくさんあるのでお勧め)。
Andrew SchwartzはGeorgopoulosのところでM1ニューロンのpopulationコーディングについての研究をはじめた。Spiralを描く手の動きをM1ニューロンのpopulationコーディングで再構築することに成功している(1994 Science)。それからサル及びヒトでの3D virtual reality systemの構築をしており、サルが腕を空間中で動かすのをoptotrakでdetectしてステレオ画像をゴーグルに投射する、ということをやっている。
またさらに、このシステムを使ってneural prosthesisのシステムを開発しようとしている。つまり、ニコレリスみたいなやつで、M1ニューロンの活動を使って3D virtual realityシステムやロボットアームを動かそうというもの。これはムービーがダウンロードできる。これに関する論文はScienceのarticleになっている。
今回話す内容はこのneural prosthesisについて。Annual Review of Neuroscienceのプレプリントがあるのでたぶんこの辺でしょう。また、関連するパワーポイントのファイルが公開されている。
ちなみに2003にScienceにM1とPMvのactivityを比較した論文があるのだけれど、この論文はPMvがintended movementをrepresentし、M1がmovement commandをrepresentしているとして、内部モデルとの関与を示唆している。しかし(中略)ぜひバトルを期待したいところ。

Daniel Wolpert

Daniel Wolpertのwebサイト(reprintあり)。
Daniel Wolpertこそが内部モデル(のうちの順モデル)がhumanのarm movementの制御に関与していることをはじめて実験的に示した人だ。それ以降も川人先生といっしょに多重順逆モデルを提唱して、その理論を進化させている。
Nature Neuroscience '98 "Central cancellation of self-produced tickle sensation"
自分で自分をくすぐるとくすぐったくないが、人にくすぐられるとくすぐったくない。これに脳のどこが関わっているかをCris FrithといっしょにMRで調べて、小脳が自分をくすぐるときのcaccellationに関わっていることを示している。
Nature '04 "Bayesian integration in sensorimotor learning"
コンピュータカーソルを動かすタスクで、視覚フィードバックに不確定性を加えると、視覚と運動のそれぞれの不確定性をベイズ統計的に扱って学習してゆくことを示した。Prior probability (カーソルがどのくらい横にシフトしているか)と試行ごとの不確定性(視覚フィードバックがどのくらい与えられるか)とからposterior probability(カーソルとターゲットとのずれ)を人間は計算しているらしい。


2004年03月08日

TINS

"Psychology and neurobiology of simple decisions." Roger Ratcliff @ Ohio State University。
Carpenterの論敵。

Science

Software and the Future of Programming Languages
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/303/5662/1331
忘れる前に。

Binning

でもってbinningはまた一つのトピックでしょうな。そもそも脳がどう時間ドメインを情報の統合に使っているのか、ということから本当は捉えないといけないわけだけれど、前に書いたように現状はsigma=10msのカーネルで統合してるような扱いがされている。JPSTHが1ms binでスパイクが最大一個しか入らないようにする、とかいうのもどうも気持ち悪い。その意味で言及されていたJonathan Victorの仕事(metric-space analysis)はたぶん重要なんだと思う。いまだに理解できないんだけれど。ところでScienceでのモチーフが時間方向で伸び縮みしたりするのが時間ドメインの統合と関係してたりすると面白いかも(まだ読んでないんだけれどもしかして言及してる?)。

コメントする (2)
# ガヤ

情報理論をやる人は1-ms-binを便利がりますよね。ところで一昨日のラボMeetingでは“decodable”な情報量はbinを25msecにしたときに最大になるというデータをV1 complex cellの反応を解析したうえで主張していました。この数値は別に目新しくはないけれども、やはりGammaリズムを考える上でなんとなく意味ありげないやらしさを感じますよね。

# pooneil

25msか…うーん、それっぽい。たしかwindow幅を変えてdecodableな情報量がどこで最大になるかを調べるような研究自体は他にもあったはず。Richmond(JNP’98)とかあとたぶんPanzeriあたりとか。


2004年03月07日

Nature

"Perceiving distance accurately by a directional process of integrating ground information."
ZIJIANG J. HE @ University of Louisville, Louisville。

自明性

「ぬ」という字をずっと見つづけていると、この字は"nu"と読む字だったっけ、「め」と「ね」の中間みたいな新字だったっけ、と確信が揺らぐ瞬間がある(いや、あるよね、あるはずだ)*1。このとき脳で自明性を保証している活動に何らかの変化があるのだ。視覚入力はまったく変わっていないのに。よって、Logothetisがbinocular rivalryでやったのをKanwisherがhumanに移植したのと同じことができる。つまり、fMRIでこの二つの条件の差分を取ればよいのだ。もちろん、「ぬ」を見始めと変わってきたところとを比較するのではコントロールの取り方が悪い。そうではなくて、[見つづけて変わってきたtrial vs.変わってこなかったtrial]と[trialの前半vs.後半]とでinteractionがでるところを探してくればよいわけだ。よし、「自明性のneural correlate」のできあがり! だれか撮って。
もちろん被験者はこのような自明性の変化を恣意的にできるようにすることが要求されるし、そのために被験者は自分について現象学的に分析することに慣れておくことが必要となる。これこそがVarelaが言ったneurophenomenologyではないだろうか(冗談のつもりで書いていたがマジになってきた)。

*1:なんにしろ、「ぬ」を"nu"と読むことの自明性さえ壊れてしまえばよい。「ぬ」を"ne"と読める気がしてくるというのでもよいし、解読不能な古代の象形文字に見えてくるというのでもよいし、ジャイアンツの帽子についているあのキャラに見えてくるというのでもよい。

Neural correlate

は必ずしも外界の変化に対応した変化ではないかもしれない。もしneural correlateを環境世界とのループの中で捉えるのであるならば、[外界の変化に対して脳がまったく変化しない]ということが何らかの現象のneural correlateであるということがありうる。

コメントする (4)
# ガヤ

いつも不思議に思うのですがfMRIで引き算すると必須なものまで引いてしまってそこから誤解が生まれることとかってないですか?
あと「ぬ」に関係して、Neural correlateとは関係ないけれど、RumelhartのNecker Cubeモデルを思い出しました。
もう一個。Neural correlateは「無変化」もあり得るという話に賛成。茂木さんは「スパイクこそが情報の全てでそれ以外にはない」としていますが、私は「神経の沈黙(no spike)も情報になる」と考えています。竜安寺の石庭みたいだな(かんけーねーか)。そう考えるとRate vs. Temporal Coding対立も見通しが良くなりますね。

# pooneil

サンクス。Binocular rivalryってのがまさにNecker Cubeみたいなもん。右目と左目に別々の絵が入ってくると、右目の画像しか見えない時間と左目の画像しか見えない時間とが交互に訪れる。これも視覚情報として入ってくるものは同じだけれど、人間の都合で見えが変わる。これを発見。http://www.twcu.ac.jp/~asakawa/chiba2002/Necker/Necker.html 意図してなかったんだけど、昨日出た二つの状態が遷移するという話の続きになったね。MRについてはまた。
ガヤ日記3/5についてだけど、これはおもしろい。2/29に私がコメントアウトしたところに「その直前までの状態の来歴が必要なのか、それともそのシステムは記憶を持たずに済むのか(次の状態を決定する関数には現在の状態だけが必要なのか、それとも以前の状態も必要なのか。)はわからないが。」なんて書いてたもんだから、けっこう驚いた。ある時点iでのネットワークの状態D(i)がそれ以前の状態D(i-1),D(i-2)....のどのくらいに依存しているのか、これはまさにシステムはどのくらい過去(因果性)を持っているのか、という問題への答えだと思う。さらに言えば、それが外部入力(スライスだったら別の領野などへの刺激でもよい)によってドライブされるときにはそれがどう変わるのか、という興味も湧く。アトラクターの谷が入力によって変わり、その上を遷移していたある時点での状態D(i)は自発状態時とは違った方向へ進んでゆく。これがミクロレベルでの遷移ともう少し大きいスケールでの谷の変化とのinteractionという感じか。
経験の一回性または時間性というものは環境世界との関係においてシステムの何かが常にまったく同じではないことからきていると考える。そしてこれをネットワークのシステムの因果性、来歴への依存性から語ってみる。(飛ばしすぎ。)
MRについてはたとえば、あるタスクについて安静時からの差分でまずどこが活動しているかを同定してから、そのROIにおいて活動の大きさが条件によってどう違うか、activationなのか、disinhibitionなのかを議論する、というのがMRの手続きの一つです(ROI analysis)。なんにしろ、「必須なものまで引いてしまって」ということが起こらないように、いかにうまいコントロール条件を作るか、というところがMRでの研究での要点の一つである、というのが私の理解です。
あ、記憶、というのは人間の短期記憶や長期記憶、というつもりで使ったのではなくて、マルコフ過程であるか否か、ということのために出した言葉でした。なんにしろ、ある時間の状態、というやつをどのくらいのビン幅で見るかによって変わる話ではあるわけだけれど。

# ガヤ

その意味でしたら答えは私のとった手法は明らかに非マルコフです。重マルコフ過程として捉えるとしたらその次元はおっしゃる通りBinningに依存してきますね。

# pooneil

サンクス。重マルコフ過程と言えばよかったわけだ。3/8に続く。


2004年03月06日

PNAS 3/2号

PNAS 3/2号

Stochastic Resonance

は「Noise-induced order」で「もっと高次な非線形ダイミクス」なのかなあ。そのへんがやっぱりわからない。非常に素朴なartifactualな現象のようにも思えるし。で、以前に見つけたのは山本義春さんのページ(ちなみに高校水泳部の先輩)。それからイタリアのページ
後者のページにあるレビューのfig.1なんかを見てると、たしかにガヤが言うようにBoltzmann machineをイメージするというのは正しいのかもしれない。ガヤがそれをイメージするのはわかる。UP stateとDOWN stateとの間をノイズが付加することによって行ったり来たりしている状態はたしかに二つの安定状態(アトラクタ)を持ったエネルギー曲線と捉えられるのだろうし。
なんにしろたぶん統計物理をわかったうえでないと使えなさそう。U.T.氏がGouldさんのところで書いていたように、素人は深入りは禁物かもしれない。どっかで関係してくる気はしていて、それが私の場合は"detection"という概念への寄与ではないかと考えてはいるのだけれど。で、前者のページを見なおしてみると、Collinsという人の論文*1でnear-thresholdでのdetectionへのnoiseの効果があるとのことだった。Tactileだけど。
追記:義春さんがPhysical Review Lettersに"Behavioral Stochastic Resonance within the Human Brain"というのを出しているのを発見。"The first evidence that stochastic resonance within the human brain can enhance behavioral responses to weak sensory inputs"だそうな。これは3/3に私がイメージしてたのに近い。
さらに調べてみたら、義春さんは上記のJJ Collinsという人といっしょに論文も書いてた。しかもこのCollinsが"Stochastic resonance without tuning"をNatureに出している人だった。つながってきたかも。


*1:Phys. Rev. Eだって。そこまでさすがに手は回らない。

コメントする (2)
# ガヤ

いつもながら、さすがは鋭い洞察力。このGammaitoniのレヴューはYusteラボで読まされました。しかも、まさにUP-DOWNの絡みです。お見事。一方、山本義春さんの方はむしろD. Fersterのthresholdingの概念に近いですね。

# pooneil

サンクス。反応早すぎ。書き込んでから10分しか経ってないよ……おどろいた。


2004年03月05日


2004年03月04日

2/28-29

は一部コメントアウトしました。


2004年03月03日

さくらの唄 安達 哲

さくらの唄 安達 哲
やっぱ重要だよなあ。オチまで超肯定。いや、なんかあの自分のうちでパーティーの準備をして独りぼっちで待ってるけど誰も来ない、っていうシーンをなんか思い出したもんで*1"Dedicated To You But You Weren't Listening"とか言ってみたり。あとあれな、「ポッキーアーモンドクラッシュなのだ―」って好きな女の子が言うのを主人公が反芻するところ。ああ、つらい。それでよしもとよしともの青い車とか読んじゃう、そういうやつでした(ぶっこわれ)。


*1:おかげさまで十人くらいは見てくれてるようです。

JNP

"Synaptic Noise Improves Detection of Subthreshold Signals in Hippocampal CA1 Neurons."Gouldさんのところで言及されている。Stochastic resonanceは前から興味があって、Fersterの論文を読んだときにちょっと調べたのだけれど、いまだにどういうことなのかわからない。たんにthresholdがあるかないかの問題か、というとなんかそういうものでもないらしいし。"Stochastic resonance without tuning."だっただろうか? なんにしろ、そのころ考えたんだけど、心理学的にもnear-thresholdの現象には効いてきそうな話だ。たとえば、psychophysicsの実験なんかでthresholdを決定するときとかにはニューロンレベルでもかなりノイジーな条件(SDTのふたつのgaussianが重なっているあたりをイメージしながら)なわけで、それによってdetectionがenhanceされるようなことでもあれば、かなり普遍的な現象のはず。そういうのは見たことがないのだけれど、もしそうだとしたらdetectabilityをモデル化するときにはどこかに入ってこないといけないはず。

コメントする (3)
# ガヤ

Noise-induced orderはかつてテーマに関係して調べたことがあります(結局まだ役立っていません)。んで思うのですが、確率共振現象はもっと高次な非線形ダイミクスですから、thresholdingよりも、たとえばBoltzmann machineにおけるnoisyな自由度でシグナルを効率よく検出していく操作に近いイメージが私にはあります。もちろん無根拠です(汗)。これに比べるとFersterはずっと単純な考え方なので「確率共振」とは呼べないのではと思っています。

# Gould

JNPの論文、言及有り難うございます。僕には正直ちんぷんかんぷんですが、確率共鳴という現象自体は以前にちょっとだけ知識を仕入れたことがありました。

# pooneil

3/6のところに書きました。


2004年03月02日

インデックス作り

こういうのを自動化するにはどうすればよいのだろう。出版社がRSSとかを提供してくれてればなんかできるのだろうが、ないときはどうすればよいんだろうか。Endnote?


2004年03月01日


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

月別過去ログ


« 2004年02月 | 最新のページに戻る | 2004年04月 »