[月別過去ログ] 2012年04月
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■ 上丘についていろいろ(1) オシレーション
BBS2007で上丘が意識に関連してる説がある。"Consciousness without a cerebral cortex: a challenge for neuroscience and medicine" 水頭症で大脳皮質のない幼児が意識を持っているとおぼしき行動をする、というショッキングな例も出ている。外在説的考え方からすれば、可能な知覚運動変換の能力に従ってさまざまなレベルの意識経験があってよいように思うので、意識の生成要因を脳のある特異な構造に結びつけるアイデアにたいする反論みたいになる。私の仕事でもどっかで言及する必要が出てくるかもしれない。
このBBS論文の中では、Watkins et al 2006 (Geraint Rees)というのが言及されていてaudio-visual illusionを経験したときだけSCの活動が上がる、という話が出ている。cortico-tectalでなんか統合やってるんでしょうというのはcortico-pulvinarでbindingやってるって説と同じで、あってもいいけど本当のことはわからない。
ただ、上丘でのoscillationに関してはやっぱやっときたいなあと思う。CatではBrecht et al (W Singer)の一連の仕事というのがあって、麻酔下ではcortico-tectalでalpha-beta辺りが出る。JNP1998 "Correlation Analysis of Corticotectal Interactions in the Cat Visual System"
面白いのは、awakeのときだけgammaが出るって話。"Synchronization of visual responses in the superior colliculus of awake cats." これでalphaとgamma両方あるとなると、Tallon-Baudryのこれを思い出す。JNS2009 つまり、gammaがawarenessでalphaがattentionで、どっちもpre-stimulusで出てくるけど、影響の出方が違う。
これはあくまでvisual cortexでの話だけれども、私の話でも上丘ニューロンのhit-missの差はprestimulusにも出てきていて、しかもphasicなので、なんらかoscillationっぽいことが起こっていて、それとの位相によって行動が決まっている節がある。
あいにくdetectしたスパイクのデータしか残ってないので、いまは議論のネタにしかならないけど。ともあれ、前述のJNS2009はprestimulusとvisual responseのcorrelationをとってきっちりとした議論をしているので、これは参考にしたい。これは先日書いた、Victor Lammeの質問へのいちばんしっかりとした答えになるはずだ。
いま気づいた。上丘ガンマ論文のファーストのMichael Brechtってこの人だ。Nature 2004 "Whisker movements evoked by stimulation of single pyramidal cells"
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2012年04月23日
■ ブラックスワンと世界滅亡の夢
東北大通研でなんか気の利いたこと言えるように「心理学が描くリスクの世界」とブラックスワンのおまけ部分を単行本化した「強さと脆さ」を借りてきた。タレブの本は尊大すぎて嫌な気分になるので読み進めるのがつらい。
ヒトの不合理な楽観的思考 これ面白い。ガンになる確率を推定してもらって、あとで実際の確率を提示される。そこをfMRIで見る。ガントリの騒音の中で現実を見せられて、なんだかどんどん気が滅入っていく被験者を想像するとなんだか可笑しい。
そういえばなるほど私は生命保険に入っているにも関わらず自分が死ぬ確率を知らない。生命表で調べた。第20回生命表(男) いま43歳の私が60歳になるまでに死ぬ確率は7.2%。(= 1 - l_60 / l_43) やっぱ生き延びるだけですごいことかも。
計算してみた。五分五分の確率であと40年生きるのか。無限? 揺らいだ 有限つまりは。
「ブラックスワンと世界滅亡の夢」ってのを考えた。太るまでエサを与えられた七面鳥がある日終了するのと同じようにいつか世界も滅亡するが、その確率を我々は計算することが出来ない。それでもわれわれは「めったにあり得ない現象」を心の底で恐れ、その恐怖は「世界滅亡の噂」として繰り返し現れる。
2012年04月19日
■ 半側空間無視の患者数ってどのくらいだ?
日本にいま何人半側空間無視の患者がいるかって数字を探しているのだけれども、これが意外と見つからない。Prevalenceに関してはアメリカの研究で、右strokeの患者で直後が43%、3ヶ月後が17%っていう数字を見つけた。Neurology 2004 "Frequency, risk factors, anatomy, and course of unilateral neglect in an acute stroke cohort"
Brain Cogn. 2008 "Gender differences in unilateral spatial neglect within 24 hours of ischemic stroke" こちらでもstrokeから24時間後で45%くらいでneglectが起きている。性差、利き腕による差はなし。でもそれが知りたかったわけではなくて、いかに半側空間無視の患者さんが多いかっていうことを数字で出したかっただけなのだけど。
おそらく無視症状の方が同名半盲よりは多いはず。同名半盲のなかで盲視があるのはどのくらいなのかとも併せて、ちゃんとこういう数字を持っておくと講演とかするときにいろいろ捗るのだけれど。厚労省とかで数字持ってないのだろうか? 探す。
平成20年(2008)患者調査の概況 これか。でもあんまり細かいこと書いてない。こんなもんなの? しかもこれ全数調査じゃなくて、無作為抽出からの推定値だし。
しょうがないのでいつもどおり概算すると、日本で脳卒中の患者数が130万人いて、直後ではその半分で、慢性的には左右平均して10%とかで半側空間無視が起こっているとすると、まあ数十万人はいると考えられる。以前似たような概算をしたとき同名半盲は数万人オーダーだったおぼえがある。同名半盲より一桁多いってのは妥当だろうか?
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2012年04月16日
■ あの、なんだか宙に放り出された感じ。
高校3年になっていきなり受験モードになった教室になじめなかった野郎ども(運動部引退直後)はすることがなくて、でも意地でもその空気になじみたくなくて、毎日夕方ギリギリまで中庭でサッカーというか今でいうフットサルみたいなのやってた。
けっきょくわたしは眼底出血で入院とかもあって、高3の共通一次は補欠試験を受けて、千葉大の足切りで落ちて、2月頭には受験は終了してしまった。そんな顛末からほぼ自動的に卒業旅行の幹事に。あれはひどい仕切りだった。春の軽井沢とか行っても何もねえ。スケートできてやっと何とかなったかんじ。
急にそんなことを思い出した。あの、なんだか宙に放り出された感じ。自分が原点に戻るというなら、どこまでさかのぼるかというと、あの場所かなとか思う。あそこからもう一度やり直すとしたら、自分はいったい何をやっただろう。というか、そこからもがき続け、なんにも変わってないなとも思う。
けっきょく功利的に合理的にやってくことなんてぜんぜんできなかった。想像力に欠けたロマンティシズム(<-最悪の組み合わせ)で重要な選択をなんども無駄にした。あのとき寝飛ばさずに電話を取れたらなんか変わったんだろうか? いや、なにも変わらないだろう。
あのときあの失言をしなかったらなんか変わったんだろうか? いや、なにも変わらなかったろう。なんども吐き、なんども倒れ、救急車を呼ばれたり、なんかぶっ壊したり、いろいろと自滅しながら、なんであんなにも自分が許せなかったのだろうか。なんであんなにしぶとかったんだろうか。
自分では屈託があり、含羞もある小物だと思っていたけど、自分から見たものなんて当てにはならない。あとから答え合わせで、じつはこんな風に考えていたんだと明かされて、世界が崩壊するような恐怖を覚えて、そして自分の脳天気さに呆れて、でもピンピンしている。
あのときあの失言をしなかったらなんか変わったんだろうか? よかれと思っていったことが全部お節介で、何もしなかったことがぜんぶ事なかれ主義で、俺はもう何をしたらいいかも分からなくなっていた。だからそんなところからさっさとおさらばできるということにちょっとほっとしていた。
罪は消えない。恥も消えない。苦しみの記憶とともに、心の底の方になんだかいやあなかんじで沈殿してきて、見て見ぬふりをしないと日常生活さえこなせない。それでもたまにはそれに復讐されたりする。
「だがこれは過ぎたことだ、いまではわたしは美に敬礼するすべを知っている」とか言って終わったことにするのってかっこつけすぎだよなあ。だが人生は続く。
2012年04月10日
■ MacaqueでのDTIの現状
MacaqueでのDTIの現状を調べておく。ただし、DTIとかDWIとかDSIとかいろいろあってなんか違うんだろうけど、今のところフォローできてない。
以前調べたときはSchmahmann et.al. 2007 "Association fibre pathways of the brain: parallel observations from diffusion spectrum imaging and autoradiography."でpost-mortemで25時間スキャンって書いてあって、そんな長時間動かしてスキャナーぶっ壊れないのかとか思った。
[Methods. 2010] "Optimization of in vivo high-resolution DTI of non-human primates on a 3T human scanner." 3Tでin vivoでやってて、1mm voxelで36-72minかかる。[Neuroimage. 2012] "A diffusion tensor brain template for rhesus macaques." こっちはぱっと見、取得にかかる時間は書いてない。
Humanのpost-mortem [Neuroimage. 2009] "High resolution diffusion-weighted imaging in fixed human brain using diffusion-weighted steady state free precession."のほうはどうかと見てみれば、50hだと。[Neuroimage. 2011] "Diffusion imaging of whole, post-mortem human brains on a clinical MRI scanner." こっちは100h。そういうものなのね。
同じ著者の[Magn Reson Imaging. 2009] "A practical approach to in vivo high-resolution diffusion tensor imaging of rhesus monkeys on a 3-T human scanner."
あとは読むだけ(<-PDF取っただけで満足するタイプ)
Monkey to human comparative anatomy of the frontal lobe association tract (PDF) ヒトとマカクで白質走行の相同をまとめたもの。AFとかSLFIIIとかの妥当性が気になる。
arcuate fasciculus(AF)は左脳ではウェルニッケとブローカを繋ぐところで、これの損傷で失語症が起こる。右だとこれが半側空間無視のventral networkだとたぶんHO-Karnathとかは考えているんだろう。Ventral pathwayはけっこう穴だ。
Nature Neuroscience 2008 The evolution of the arcuate fasciculus revealed with comparative DTI この論文だと、AFはマカクやチンプでは未発達なので、これがヒトの言語発達と関連してるって話になる。
2012年04月03日
■ 上丘と周辺視
リモートカメラだと頭がある程度動いていいとはいっても、30度とか動いたらもうデータが取れなくなる。複数のカメラを横に並べてやれば、広い画面の探索に対応できる。そういうのはコマーシャルレベルでは見ないが、研究レベルではググると出てくる。生理学出来ない環境のにネタのストックにしとく。
モニターの中を見ているくらいの狭い探索はマカクやチンプにとってはたぶんそんなにエコロジカルには重要でなさそう。上丘のマップを考えてみても、頭と目を動かして広い範囲を探索するのに最適化されているだろう。
上丘のマップの話を補足すると、JD Crawfordの一連の仕事 (たとえばNature Neurosci 2001) があって、上丘の眼球運動のベクターをコードしているのではなくて、網膜のどの位置に目を動かすかをコードしている。上丘のベクターマップでは偏心度の大きいところは非常に小さいけどこれは端的に60degとか大きいサッカードは普通はしなくて、頭を動かしてorientするからで、頭+目=網膜の位置の変位で考えると、大きな角度変化も上丘でコードしていることがわかっている。
Fovea付近の視覚の詳細な分析というのはたぶん大脳皮質の機能なので、saliency mapに基づいた視覚探索における上丘の役割ということを考えると、fovea中心主義は大脳皮質の機能を前提とした視覚科学の流儀をそのまま安直に使っているのではないかという恐れもある。
そういう点から考えると、色とか方位とかによるsaliencyってのはほとんど中心視野でしか使えてなくて、周辺視野で使っているsaliencyってのはmotionかflicker (onset, offset)くらいに単純化されるだろう。
つまり、staticなsaliency (frameごとにpixel間の関係だけで計算できる)はほとんど中心視野用で、dynamicなsaliency (luminanceやらいろんなものでdefineされた時空間的なエッジ)だけが周辺視野で使える。
たぶん心理物理でこういう研究はされているのだろうけど、motion saliencyが使えるとして、それは輝度、色、orientationみたいにいろんな属性でdefineされるわけで、周辺視でどのくらいのものが使えるかとかそのへんを抑えておく。
周辺視では赤背景の中を動く等輝度の緑丸とかの弁別能がどのくらい悪いかとかはvision researchの昔の論文とか探せば出てきそう。
- Second-order motion perception in the peripheral visual field.
- Psychophysical evidence for separate channels for the perception of form, color, movement, and depth
- Position-based motion perception for color and texture stimuli: effects of contrast and speed.
そういう目で見るとこれとか面白い。 Peripheral vision: Good for biological motion, bad for signal noise segregation? 周辺視はバイオロジカルモーションが使える。
つまり、周辺視は皮質下のシステムが使えて、荒い空間解像度で早い時間応答でバイオロジカルモーション検出したり、affective blindsightみたいに感情の識別が出来たりする、なんて話になったら面白い。根拠がそんなにあるわけでもないけど。
前述の論文は渡邊克巳さんの論文 [Vision Res. 2005] の結果にたいする反論でもあって、ノイズに埋もれている場合は周辺視ではバイオロジカルモーションは使えない。
[Neuropsychologia. 2009] これを見ると、STSのbiological motionに関わる領域とEBA(extrastriate body area)はぜんぜん離れてる。うーむ、まだよくわからないな。
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# tkitom
>あいにくdetectしたスパイクのデータしか残ってないので、
# pooneilInstantaneous firing rateをアナログデータとして扱ってやってみるという手は使えないでしょうか?取っ掛かりとしてでも。
ども。たしか元基生研の廣川さんにもそう言われました。最近の小林康さんの仕事とかもそういうかんじですよね。論文のデータにはしにくいけど、行けるかどうか見るためには使えると思います。じつはpre-stimulusは見た感じあんまoscillatoryではないです。
# pooneilつーか、FBユーザーはぜひFB用コメント使ってください。そのほうが手元に残るし。けっしてエロいサイトへのリンクとか飛ばしたりしないので。
# tkitom>つーか、FBユーザーはぜひFB用コメント使ってください。
# pooneilそれは作法を知らずにすみませんでした。こちらはこちらなのかと思っとりました。
今度からは気をつけます。
いや、失礼、どっちでもいいんですがたぶんそっちが便利ってだけの話です。