[月別過去ログ] 2021年04月

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2021年04月30日

加速主義と資本主義リアリズム

ずっと加速主義について読んでおこうと思っていたのだけど、昨晩急にその気になってきたので1日かけていろいろ読んでみた。

そもそもなんで興味を持っていたかと言うと、神経科学、意識研究の分野で、シンギュラリティーだったり、マインド・アップローディングとか、そういう話題をいくつか聞くのだけど、正直自分はぜんぜん興味持てなかった。(端的に、死ぬ前に自分の意識をアップロードしておきたいという欲望がない。) あの方向性について、自分なりに考えをまとめておきたくて、それには加速主義が関わってきそうだと思ってた。

まずはwebの資料から探した。オルタナ右翼の源流ニック・ランドと新反動主義 こちらは2018年に公開された当時にチラ見した覚えがある。今回読んでみて、なるほど、ニック・ランドと新反動主義そのものよりも、思弁的実在論との関わりに興味を持った。

さらにマーク・フィッシャーと再魔術化する世界 こちらも読んでみて、むしろマーク・フィッシャーのほうに興味が惹かれた。とくにアシッド共産主義とモリス・バーマンが出てくるあたり。

ともあれ「ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想 (星海社新書)」 木澤 佐登志 を読んでみた。ドゥルーズ & ガタリあたりから文体の影響を受けているようで、こういう本を読むのは久しぶりで正直面食らった。ともあれひと通り読んでみて、思弁的実在論の話がわかってよかった。あと、どうにも西欧中心主義だなと思ったが、マインド・アップローディング自体も「すべての死者を意識を蘇らせる」というキリスト教的な考えが背景にあるという記述があって、なるほどと思った。

あと出てくるサブカルがドラムンベースだったり、クトゥルーだったりホラーだったりで、自分の守備範囲からぜんぜん離れていた。Vaporwave (「リサフランク420 / 現代のコンピュー」とか猫シCorp.とか)が言及されていたところは面白かったけど、自分、いうほどvaporwave好きじゃなかったわ。

それでひきつづき、「資本主義リアリズム」 マーク フィッシャー を読んでみた。

こちらは微妙に翻訳がわかりにくいのもあるのか、読むの辛かった。そもそも「資本主義リアリズムcapitalist realism」の「リアリズム」の含意がわからない。芸術の形式としてSocialist realismってのがあって、それをもじってCapitalist realismって言葉を使ってた人がいて、それをマーク フィッシャーが拡張した、というのだけど。定義としては「ネオリベ的な資本主義によって他の選択肢はないと思わせるようなシニシズムが蔓延した状態」とあるけど、それのどこが「リアリズム」かわからなくて往生した。けっきょくのところ、政治学でいうところの、理想主義idealismに対する現実主義realismということらしくて、ネオリベ的価値観で現実見ろよってのに左翼的な運動観が勝てない、ってことなのかな、と全体を読んで察した。(そういうことが明示的に書かれてはいなかったけど、あとで調べてこの人が左翼の新しい形を模索しているという文脈を得たので。)

第3章が「資本主義とリアル」なんだけど、この「リアル」が原文を読んだら、大文字の"the Real"、つまりラカンの現実界のことで、"the Real"を資本主義が見せる’reality’(現実)が隠してしまうという話だった。このあたりは訳注がほしかった。けっきょく3章だけは原文あたって読みなおした。

本全体としては、なんかイギリスでFurther Education Collegeの教員をやっていたときの恨み言みたいな側面も多かったけど、問題となっている現在の閉塞感については日本もイギリスも同じで、共感した。

ここまできて今度は「現代思想2019年6月号 特集=加速主義」から冒頭の対談「加速主義の政治的可能性と哲学的射程」と「気をつけろ、外は砂漠が広がっている――マーク・フィッシャー私論 / 木澤佐登志」を読んだ。

対談の方はざっくり状況を掴むのに役に立った。あと、「西欧中心主義だな」みたいなのはやっぱ思うんだ、と納得した。

「マーク・フィッシャー私論」のほうは「資本主義リアリズム」から死の直前に書いていた「Acid communism序文」までの流れが書かれていて、これも面白かった。わたしのブログの過去の記事を見るとちょいちょいケン・キージーだったり、13th floor elevatorsのトミーホールの思想に触れていることからわかるように、このあたりの話題にはうるさい。

そういうわけで「Acid communism」には興味があるけど、「意識変容によって世界を変える」みたいな思想はすでに70年代に試されたわけで、たとえばそれがエサレン研究所経由で自己啓発セミナーとかになった話(「エスリンとアメリカの覚醒」は未読だけど)とか考えると、すでにすっかり「資本主義リアリズム」にとりこまれているわけで、ここに未来があるようにも思わない。「マーク・フィッシャー私論」読んだかぎり、そこは「でもやるんだよ!」精神だったのだろうか。

(なお、マインドフルネス瞑想がGoogleに採用されたり、スローライフが金持ちの道楽だったりという形で加速主義に加担してるって話は「資本主義リアリズム」の訳者の一人による記事 :「スローライフが、むしろ資本主義を「加速」させるという皮肉な現実」)で言及されてる。)

でもたぶんそれと地続きになっているんだろうと思うのは、脳科学の進歩、意識の解明によって、「自由意志とはなにか」「責任とはなにか」についての見直しがされている、そしてわれわれの意識経験がいかに多様で、変容しうるかもわかってきた。これらのことが我々の世界観が変わるうる、大きなインパクトを持っているだろうということ。そう私は思ってる。(これが「意識の科学入門」の裏テーマになってたりする。) じゃあそれはシンギュラリティーやマインド・アップローディングへの情熱とどう違うんだろう、と自分ツッコミしてみる。

…やっと本題に近づいてきたのだけど、ここで時間切れ。GWにこれ以上使う時間はないので、この話題に再訪できるのはお盆休みかそれよりも後だろうか。それではまた。


2021年04月25日

「側頭」ってなんで"temporal"なの?

側頭葉temporal lobeはこめかみtempleから来ている。テンプルってまあみんなボクシング漫画で聞いたことがあって知ってるだろう(「あしたのジョー」かそれとも「はじめの一歩」か)。だから、この命名に時間temporalの意味は込められてない。

でも、いま調べてみたらtemple自体は時間から派生した言葉だそうな。

ちなみにウィキペには「こめかみ部分の髪が一番早く白髪になって歳を感じさせるから」みたいな説が引かれているが、ソース見ても納得いかない。

眼球運動とか網膜の研究者にとっては、目の内側がnasal (鼻に近い側)、外側がtemporal (こめかみに近い側)なので馴染みがある。でも日本語訳だと、nasal=鼻側はいいとして、temporal=耳側となってる。昔この訳語を決めた人の苦労が忍ばれる。

ついでに他の領域の語源も調べてみた。Frontal lobeはfrontだから前面ってことだろうと思っていたけど、実はおでこ、額(ひたい)という意味があるそうだ。こっちからきていると考えたほうがよさそう。

そうしてみると前額断 frontal planeという訳語の意味もわかる。私自身はcoronal planeという言い方のほうが馴染みがあるけど、こちらの訳語は冠状面。

Occipital, parietalも調べてみたら、これは脳葉よりも頭蓋骨から考えたほうがいいということがわかった。頭蓋骨はfrontal bone, parietal bone, temporal bone, occipital boneがあって、それぞれが脳葉lobeと対応している。じつはこめかみ部分は蝶形骨sphenoid boneが該当するけど。

そうしてみると、parietal boneのparietalが「壁」の意味であるということも、縦に長い形状から納得がいく。occipital boneは「後ろの」以上の意味は見つからなかった。ここまでやって思い出したけど、医学系の本棚に「解剖用語の語源」的な本が並んでいるから、医学生はそういうので学んでいるのか。

ついでにこういうのも見つけた。「国際解剖学用語語源辞典」山形, 健三 あいにく検索できないのがもったいない。。ダウンロード回数:38 回、とか書いてあってもったいない。

「医学用語語源対話」という連載があって、これはいいかんじ。

sagittal plane (矢状断しじょうめん)もなんでarrowなのかわからない。弓矢を持つ向き?とか適当に思っていたが、Sagittal suture (矢状縫合)が"is notched posteriorly, like an arrow, by the lambdoid suture"という説明をとりあえず見つけた。


2021年04月24日

「緊急地震速報、サンタさん、冬到来日記2」(さうして、このごろ2020年12月版)

私のはじめてのツイートが2007年12月13日で、それから13年が経ったとのこと。経つなよ。

暮れといえば「スカスカおせち」の時期ですが、あれって2010年の暮れの話だから、ちょうど10周年。あれから世界は色々と変わった。

「老人と子供のポルカ」って1番の「やめてけーれゲバゲバ」しか知らなかったけど、2番は「やめてけーれジコジコ」で3番は「やめてけーれストスト」だったのか。この役に立たない知識を俺は頭に刻み込んで、そのまま消えてゆく。

緊急地震速報のあのフレーズがジミヘンコードであることを知った。|C7(#9)/G|C#7(#9)/G#|だって。ギターのフレット表現だと |x|10|10|9|11|11| から |x|11|11|10|12|12| へスライドアップする。私には弾けなかった。小指セーハで1,2弦を押さえればよいのかなあ?

緊急地震速報のあのフレーズがジミヘンコードだったって以前書いたけど、ウクレレで弾いてみた。|5|4|6|6| と|6|5|7|7| の繰り返し。それにベースG-G#を付加して、トリップホップぽいドラムループを貼り付けた。

pooneil68 · earthquake_alert

今日は頭の中を"Can’t Find My Way Home" (Blind Faith)がぐるぐる回っていたのだが、いつのまにかElectronic版(バーナード・サムナーが歌ってるやつ)に移行していた。

「虚構推理」のギミックってまさにカウフマンの「隣接可能領域」だよな、ということに気がついたのでメモ。

たぶんいま時期をいつか想い起こす日々が来たとしたら、今の時期のことを「納豆とキムチと豆腐の日々」と名付けることだろう。(<-「酒と薔薇の日々」っぽく)

あー、俺のところにもサンタさん、来てくれないかなあ (<-お前が、サンタに、なるんだよ!)


以下、冬到来日記。

(12/8) 今の札幌はぜんぜん雪が無い。一ヶ月前の雪(11/9)が消えて以来、パラパラとは降るけどぜんぜん積もらない。予報によれば月曜は一日中降るようなので、ここで積もるのかも。

(12/11) 札幌は今日の入りが一年の中で一番早い(16:00)。ちなみに日の出は6:56。なんでこんな非対称なの?と調べてみたら、南中時間が11:28と前にズレてる。いまだに理屈を理解できてないが、もうちょっと朝方にして、早めに太陽浴びて季節性うつ対策しておかないと。つか寝る!

(12/13) 自転車を冬期保管所に預けてきた。ここから3月までは自転車の無い生活になる。ギリギリまで粘ったが、期限は明後日で、明日以降は雪の予報なので、たぶんここが最後の機会。自転車を置いて、徒歩で大学まで帰る俺は、まるで翼の折れたエンジェルのようだった。

今日もすっかり遅くなった。帰り道の空気はスキー場の匂いがした。家に帰ってみると、部屋の温度は12度になっていて、いよいよ寒くなってきた。先週は最高気温が5度くらいだったけど、明日からはいよいよ最高気温が0度以下になるらしい。試される大地。

(12/14) 天気予報のお告げのとおり、昨日の夜から朝にかけて雪が降って、道路が真っ白になった。つか昨日までが暖かすぎた。朝はサクサクの雪だったが、夜の帰り道にはこれがぜんぶカチカチになっていて、北13条門の北大通りの信号を渡るときなどは、転倒しないように小股で歩いた。


(12/16) 道路で「ブイーン」みたいな音がしていて、こんな時間にヘリコプター?と(非主題的に)思っていたが、いま気づいた。除雪車か。月曜から続いている雪を削りにやってきた。除雪車ガンバレ、除雪車ガンバレ。(<-戦時中?)

(12/19) ひと仕事終えて、帰りに大学の建物から出てみたら、夜の間に雪が降ったらしく、パウダースノーで足跡が一切ない。これスキーできるんじゃねーの!と興奮しつつ、自分の足跡の写真を撮っておいた。


(12/20) 朝起きたら、けっこうな量の雪が降ってる。大学に行ってみたら、昨日の私の足跡は11時間ですっかり消えてしまい、再びふかふかの雪の中を蹴散らしながら歩くことになった。


(12/24) 今日は生暖かい雨が降って、リハビリの帰りの道は雪が溶けてベチャベチャになっていた。天気を調べてみたら、今日だけ最高気温が5度で、明日からまた最高気温は0度以下になる。つまり今日は車を運転できるチャンスじゃん?と気がついたので、カーシェアで業務スーパーに行って買いだめしてきた。

(12/26) 今日はガチ寒だった。けっきょく雪は夜まで止まず、気温-6度でも風が強かったので、体感温度はもっと厳しかった。明日も気温は低いが雪は降らないようなので、明日こそ買い出しに出かけようと思う。

(12/31) 昨日の夜から朝にかけて再び雪が降ったようで、北大構内はふかふかの雪で車道も歩道も埋め尽くされていた。



お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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