[月別過去ログ] 2006年10月
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■ Cerebral cortex10月号: 頭頂葉の解剖学二連発
Cerebral cortexで頭頂葉の解剖学論文二連発。REVIEWING EDITORSがPeter L. Strickだからでしょうか、セクション名にNEUROANATOMYが入ってる。
"Cortical Connections of the Inferior Parietal Cortical Convexity of the Macaque Monkey" Massimo Matelli and Giuseppe Luppino
"Connection Patterns Distinguish 3 Regions of Human Parietal Cortex" M. F. S. Rushworth
以前のOptic ataxiaのスレッドでも書いたように、頭頂葉皮質のヒトとnonhuman primateとでの相同性に関してはいろいろ議論があるのだけれども、ひとつは機能を使った対応付け、もう一つは構造(=解剖: 細胞構築および投射関係)を使った対応付けで考えるアプローチがあります。この二つは構造の側面から頭頂葉皮質の相同性を考える材料となるでしょう。……読んでないけど、たぶん。
これも放置してて時期はずれになってしまった。もう一段階掘り進めておこうと思ってたのだけれど。
2006年10月27日
■ 50万visitありがとうございます
2004年12月にsakura.ne.jpに引っ越してきてから累計で50万visitになりました。見に来てくださった方、どうもありがとうございます。前回も前々回も書きましたが、この値じたいの意味合いが以前とは変わってきていて、RSSの購読などを考慮に入れる必要がありますが、節目ということで。
グラフはwebalizerのログに出ていた、月ごとの訪問者(Visit)数と訪問サイト(Site)です。見方は Webalizerの見方などを参考に。SiteのほうがおなじIPアドレスを加算しないので(*)、読者の漸増を表現してると言えそうです。じんわり倍になった(5000から10000へ)というのがこの2年弱で起こったことをよく示しているのではないかと。この調子でゆっくりやっていきます。
(*注: ダイアルアップで毎回ちがうIPの方は繰り返し加算されてはいるのだけれども。)
それに併せて、Movable typeの方も最新のものにアップデートしました。スパムの処理あたりがよくなって満足です。最近は弾けないトラックバックスパムが出てきて、いちいち管理画面から消してましたが、いまは自動的に振り分けられてます。素晴らしい。
併せてファイルをhtmlからphp化しました。以前のファイル(html)をリンクしてあるところも.htaccessを設定して新しいファイルにリダイレクトされるようになってます。ですので、たぶんつながらないところはないと思いますが、これまでと挙動が違う点に気付きましたらご一報を。
これまでに気付いている点はふたつ、1) コメント投稿者のメールアドレスが表示できなくなってますが、データとしては消えてませんので、現在どうすれば元通りになるか調べているところです。 2) mimetex.cgiが動かなくなったのでtexライクな数式の表示が出来なくなってます。これもなんでかわかりません。mimetex.cgiのファイルの実行属性は変更したのだけれど。
そんなわけで、これからもよろしくおねがいします。
2006年10月24日
■ EyeLinkってどうなんですかね
Saccadeを使って研究するにあたって、将来的には非侵襲的方法が主流になってくると思うのだけれど、ビデオ法(video-oculography)ってどんなもんなんでしょうかね。
げんざいcommercially availableなものといえば、SR ResearchのEyeLinkです。
論文もいくつか出てます。ぜんぶhumanがsubjectのものだけど:
Journal of Neuroscience Methods Volume 114, Issue 2 , 15 March 2002, Pages 185-195 "Recording eye movements with video-oculography and scleral search coils: a direct comparison of two methods" J. N. van der Geest and M. A. Frens。"EyeLink version 2.04, SR Research Ltd/SMI"と明記されてます。Sampling rateは250Hz。Scleral coil法と同様なmain sequenceなどのデータが取れるが、小さいamplitudeのサッケードに関しては誤差があるかも、というかんじ。サッケードの時間プロファイルの図は出していないので、どのくらいとびとびなのかはこれでは評価できない。ちなみにサッケードにかかるdurationはせいぜい40ms(eccentricity=20degにて)であり、250Hzだと10点しか取れない。
The Journal of Neurophysiology Vol. 88 No. 2 August 2002, pp. 692-698 "Scleral Search Coils Influence Saccade Dynamics" M. A. Frens and J. N. Van der Geest。上のと同じ著者が、ビデオ法を元に、Scleral coilを付けているときと付けていないときとを比べて、Scleral coilを付けるとSaccadeが遅くなり、durationとして長くなる、と言ってます。
この論文ではサッケードの時間プロファイルを出してる。でも、eccentricityが30degのときの図で、durationが70-80msあるので20点くらいデータポイントが取れるからそれらしく見える。もしeccentricity 5degくらいのサッケードを記録しようとしたら、ダイナミクスの議論はほとんど無理そう。
J Neurophysiol 90: 12-20, 2003. First published February 12, 2003 "Nature of Variability in Saccades" Jeroen B. J. Smeets and Ignace T. C. Hooge。Scleral coil法でのサッケードのダイナミクスのばらつき(velocity, amplitude and duration)はコイルを付けたことによるdiscomfortによると言う。
Investigative Ophthalmology and Visual Science. 2006;47:179-187. "Recording Three-Dimensional Eye Movements: Scleral Search Coils versus Video Oculography" Mark M. J. Houben Janine Goumans and Johannes van der Steen。これだけEyeLinkではなくて、Chronosのvideo-based infrared three-dimensional eye tracker deviceというのを使ってる。3次元の眼球運動の動き(torsion)を計算するにはvideo法はまだ不十分とのこと。
まだまだnhpのサッケードを扱うには厳しそうな雰囲気。一方で、EyeLinkのサイトを見るとEyeLink 1000という、1000Hzのsampling rateのものが出てきたもようなので、こんどのSFNでは見に行ってこようと思います。Sampling rateが上がれば、取り込める光は少なくなり、画像はよりノイジーになるので、そのへんがどのくらい克服できているかだと思います。
気になるお値段の方ですが(回し者かYO!)、サイトに書いてない。こういうのってどこも書いてくれないんですよね。グラント書きのときに調べないといけないからめんどくさい。このファイルを見る限り("Computer vision, eyetracking, spoken dialog systems, and evaluation: Challenges and opportunities")、tens of thousands dollarsですが、200万か800万かで大違いですな。
……ってエントリ作って放置しておいたらSFNの後になってしまった。SMIのブースも見逃してるし。ダメだこりゃ。
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- / 投稿日: 2006年10月24日
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# kenken
Pooneilさん、こんにちは。
いままでブログを読ませてもらって、色々勉強させて頂いておりましたが、今回はじめての書き込みです。
赤外線だと、比較的廉価なのは、Iscan http://www.iscaninc.com/ で、私も2台入れておりますが、さらに高時間解像度のものだと、1000 Hzのものが Thomas http://www.thomasrecording.com/en/cms/front_content.php?idcatart=63&lang=1&client=1 から出ていますね。これはどうなんでしょう?
Eyelink IIですと,計測モードによっては500Hzで取れたはずです.
また,CambridgeResearchSystemsでもHighSpeedVideoEyetracker(ビデオ法)で250Hz,本来はMRI用のMR-Eyetracker(強膜反射)ですと1000Hzでの計測が出来ます.
http://www.crsltd.com/
コメントどうもありがとうございます。CRSのやつはサイトを見たことはありましたが、他のは知りませんでした。
Human MRIでの用途とか、動物の時でも視線の位置をモニターする(サッケードを使って課題の応答をさせる)用途ではすでに実用化していると思うのですが、眼球運動じたいのダイナミクスとかを扱う精度があるだろうか、というのが元のエントリでの意図でした。
その意味ではやはり500-1000Hzで記録できないとeye coilに追いつかないよなあと思っていたのですが、そのへんまでかなり近づいてきているようですね。
2006年10月04日
■ 身体性と不変項:一人称的世界と三人称的世界
ひさびさに更新したのはこれが書きたかったから。前置き長いです。
論文書き関連で「モデル選択とAIC」関連をwebで漁っていたら、 統計数理研究所の伊庭幸人氏の「モデル選択とその周辺」(pdfファイル)を発見。(伊庭幸人氏はMCMCに関する解説のモノグラフ、岩波講座「ベイズ統計と統計物理」の著者。)
これに
「階層ベイズ法についてのレビュー[2]の中で、「解釈モデル」と「生成モデル」の関係についてEM アルゴリズムや学習方程式、川人らの順逆モデルによる認知の理論に絡めて述べた。」
なんて書いてあるものだから、はげしく興奮して「学習と階層 ― ベイズ統計の立場から」(pdf)を見てみると、
「実際のところ、ベイズの枠組における事前分布や事後分布が脳内にそのままの形で実在するとは考えにくい。脳はアクティブエレメントの集まった力学系にどちらかというと似ており、それを使ってベイズ的な計算をするのは無駄が多すぎる。しかし、ここであげた問題は、ある程度枠組を越えた一般性を持つかもしれない。」
なんて書いてあって興味深い。これが書かれたのが1996年で、10年経ったいま、ベイジアンが脳科学でも大流行で、ShadlenとかはLIPがprior probabilityを計算しているとか考えているとか、昨今のneuroeconomics的な議論もかなりそういうneural correlateを想定しています。しかし、そもそもどういうneuro-computationalなモデルがあり得るのか、力学系としての脳がどうやってベイズ的な取り扱いが出来るようになるのかという問題への手がかりにこの論文はなりそうです。読まなくては。(ここでそういう議論を始められると楽しいのだけれども、「メモメモ」とか書いて終わってしまうのでありました。)
んでもって、やっとタイトル関連だけど、「無時間の思想 (附:反身体の思想) 」を読んでて、
「世界が実在するのはいいとして、それはどのような世界なのであろうか.ギブソン派が本来指向する筈の、濃密で解読困難な「身体性」の世界なのだろうか.それとも物理的、幾何学的な身体の世界、「不変項」という表現が文字通りの意味を持つような世界なのだろうか.どちらでもよいが、ここでも、両者が無批判に等置されることが、ギブソン派の独特の実在論の基盤となっているように思われる」
という文章を見つけました。なるほど。ようするに、ギブソン的な考えの中にエコロジカルであろうとするなんというか現象学的な立場と、実在論的立場というふたつの食い合わせの悪い二つの立場を共存させようとする側面があるのですな。前者は「身体性」という概念に、後者は「不変項」という概念に特徴的に現れているのだけれど、前者の現象学的ニュアンスと、後者の計算論的ニュアンスとが混ざり合っているのがギブソン心理学の特徴なのですな。そういうわけで両者をごっちゃにせずに分けて扱う、というのがひとつの賢明な(かどうかわからないけどスクエアかつ生産性のありそうな)やり方で、以前私が書いたように(20040313)、ギブソンが扱ったoptic flowとかが部分的に認知科学的に取り扱えるのも、その計算論的な部分のみを持ってきたからなんだと思います。同様に、アフォーダンスという概念も、20040314で使った表現を使えば、存在論的含意を取り除いた「行為の記憶とコンテキストに基づいて事物からピックアップされる行為の可能性」みたいな、ある種の情報としての取り扱いがあり得るというわけです。それにアフォーダンスという名を付けるべきかどうか、という疑問をくっつけてつつ。
そういうわけで、たぶん話としては、「ではなぜギブソンはエコロジカルであることと実在論的であることとを同時に主張する必要があったのか、それはその時代のコンテキストや本人の志向に依るようなものではなくて、議論の一貫性としての内的必然性があったのか」という問題になるのでしょう。そして、ギブソン心理学のエコロジカルな側面のことを考えるには、たぶんもっと現象学的アプローチについて私が理解しないといけない。「現象学の自然化」っつー話になってもうよくわからないところになってしまうのでここで打ち止めにしときます。
追記。「実在論的」と「認知科学的」と「計算論的」あたりの繋げ方が上のままだとよろしくありません。伊庭氏の表現の「物理的、幾何学的な身体の世界、「不変項」という表現が文字通りの意味を持つような世界」というほうが適切に思えます。うーむ。
そうか。そしたら、一人称的世界、三人称的世界という対立のさせかたの方がよいのかもしれない。つまり、ギブソンは、自分の論の中で、身体性のような現象学的一人称の世界と不変項のような物理的な三人称の世界とを吟味せずにそのまま繋げようとしているために無理が出ている。ひとことでいえば、「カテゴリーミステイク起こしてないですか」ということですな。問題はそれをどうつなぐかであって、それが疑似問題であるにせよ、心の哲学だったら両者を混同せずに明示的に取り扱うであろうところを曖昧にしている、という言い方です。いや、より正確には、以上の批判の可能性をもって「生態学的知覚論」を読んでどこかにそういうことを言及してあるか探すことにします、というのがフェアですな。「ギブソン心理学の核心 」(勁草書房)はエコロジカルな側面に専念しよう、という立場ですな。
追記が長い上にそっちのほうがマシなこと言ってる気がしたけど、文章の構成を整えるつもりなし。そういうのはべつの機会で、という方針。
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- / 投稿日: 2006年10月04日
- / カテゴリー: [内部モデル、遠心性コピー、アフォーダンス]
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# 伊庭
はじめまして,伊庭です.いろいろ読んでくださってありがとうございます.明日,奈良先端大学のNC研究会でベイズの話をするんですが,なんか20年前の記憶がよみがえってきて,川人さんと乾さんが車で高の原の駅まで学生の私を迎えにきて,ATRにつれていってくれたのとか思い出してました.なんかそれから進歩ないなあ.
# 伊庭#「進歩ない」のは自分の話なんで世の中のことではないですよ.
# pooneilどうもはじめまして。とばし読みで浅いことしか書いてないので恐縮です。
NC研究会(http://staff.aist.go.jp/h.asoh/NC200610.html)の講演タイトル、「ベイズ統計の流行の背後にあるもの」、興味ありますが参加できませんでした。
20年前ですか…川人先生もまだATRに移られてすぐか阪大基礎工にいたかくらいの頃のことですね。
■ そうして、このごろ1004
元気です。いろいろレスポンスすべきところ放置してますが、どうかご勘弁を。ぼちぼちやってきます。
いよいよ、電気生理と論文書きとがともに佳境に入ってきました。体調に気をつけつつ。
ソフトボール大会、今年は3位。晴れたのがとにかく良かったです。自分的には3位決定戦で打撃で貢献できた(勝ち越しの満塁ホームラン!)ので満足気味。つーか、太ったら、球が飛ぶようになった気がする。
SFNのポスター作り。論文書きに併せて無難に。SFN、今回の運営はひどいと思う。Itinerary plannerダウンロードはどうなってるんですか。どこのセッションだか連絡が来なかったのでこっちから聞いた。最終日の、思い切り関連性のないセッションにつっこまれたのでかなり萎え気味。去年の反省で、セッションの選択には気を遣ったのにまたも失敗。がっかり。関係者への宣伝をしてベストを尽くすしかない。
ま、そういうわけで、元気です。
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