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2008年10月30日

ニューロン記録データの共有

京都で開催された脳プロ分科会に行って「皮質脳波』および「データベース』のセクションに参加してきました。
「皮質脳波』の方ではニューロン活動から細胞外電位ができるまでとその逆推定に関してトークをしてきました。元ネタは以前のブログのエントリ(「細胞外電極はなにを見ているか」)ですが、それでは足りずかなり変更を加えることに。おかげでかなり整理できましたんで、これに関してはまたエントリを作製します。
んで、「データベース』の方ですが、面白かったんでいろいろしゃべりたかったのですが、その場では時間がなかったのでこちらでまとめます。
神経科学者SNSブログに同じものを投稿しておきます。どちらでもコメントしやすいほうにコメントしていただけるとありがたいです。
藤田保健衛生大の宮川さんが遺伝子改変マウスの場合のデータ共有についてお話をされていて、これが面白かったです。宮川さんの最近の論文("Alpha-CaMKII deficiency causes immature dentate gyrus, a novel candidate endophenotype of psychiatric disorders")を例にして、どのようにデータベースが使われているかを説明されていました。論文に沿った話ですのでここに書きますね。Alpha-CaMKIIのノックアウトマウスをデータベースから探してマウスをもらって、行動解析をして統合失調症モデルとしての有用性を示して、Allen Instituteのin situの発現のデータベースからDGに限局して発現しているのを見つけて、ノックアウトマウスではDGでの細胞新生が昂進しているのを見つけて、さらに自前の行動バッテリーデータベースから同様な行動パターンを示すノックアウトマウスを見つけた、といった話でした。(不正確な部分は勘弁。)
これを聞きながらニューロン記録データの場合だったらどのようなやり方が可能かということを考えていました。データ共有における大事なポイントの一つは、どの段階でデータ公開をするかということです。ニューロン記録データの場合、現状のやり方のままでは、実験者はデータをなかなか手放さないだろうと思います。つまり、実験者が自分でデータを解析して、実験デザインの中で重要な部分を解析して、もうこれ以上は得られるものがないというところまでいかないとデータをオープンにはしないだろうと思います。
宮川さんの話を聞いた上でのわたしの憶測ですが(誤解だったら指摘してください)、ノックアウトマウスの場合だったら、ノックアウトマウスを作って、基本的な行動解析をして、in situで分布を見て、もっとも関係ありそうな機能を調べてと、一通りのことが済んだらたぶんそのマウス単独でできることはそんなになくなってしまうんではないでしょうか。だからこそデータベースに上げて、他のgeneのノックアウトマウスとかと一緒にしてデータマイニングをすることで新しい情報を見つけるという経路に入るわけです。そして思いも依らない機能などが見つかれば、マウス提供者としてもありがたい。つまりここには自然なインセンティブ構造、つまりみんながハッピーになる仕組み、ができているというわけです。
だから、ニューロン記録データの場合も同様な切り分け方を考える必要があるのではないか、と考えてました。川人先生がお話しされていたように、データ公開自体の義務かの流れはやってくるだろうし、何らかのインセンティブ構造を作るべきなのはたしかです(たとえばデータ提供が論文出版と同様に評価されるとか)。私がその場で言おうとしていたことは、インセンティブ構造のデザインとは、それを制度的に作ることよりは、遺伝子改変マウスの場合にうまくいっているようなデータの切り分け方(ひとつのノックアウトマウスでできることと、他のノックアウトマウスとの比較でデータマイニングしてはじめて見つかること)を見つけてその実例を示して行くことではないか、ということでした。
そのような見方で上記のニューロン記録データの場合で考えると、遺伝子改変マウスの場合と同様、「そのデータ単独では検証すべき仮説が出てこないので、他のデータとつきあわせてデータマイニングする必要が出てきた場合」ということになるのではないかと思います。そういう意味では、京大の篠本先生が日本各地のニューロン記録データを集めた上で脳の各記録部位(V1からTEからM1からDLPFCまで)のデータ間でのfiring property (inter-spike intervalなどに注目したもの)を解析するということをされていますが、これはデータ共有の仕方として「自然な」流れの例と言えるのではないかと思います。
これから始まるであろう、大規模ニューロン記録データの共有では、もはや実験者では解析が手に負えないという状況になって、実験者と解析者とのコラボレーションが必要となるという状況が生まれることになります。ここにいかにしては上記のような自然なインセンティブ構造によるデータの流れを作るか、というのが目下の問題となるわけです。
ちょっと話が具体的になりすぎたのでもう少し話を散らしますね。
データ共有という意味では昨今のWeb 2.0というやつが参考になります。Web 2.0のポイントのひとつは利用者で率先して自分でメタデータを作る、という点にあります。たとえばアマゾンでの読者の評価、はてなブックマークでのコメント、こういったもの自体がコンテンツとなってさらに人が集まる、というのが特色です。データ共有という意味で参考になるのは、Web 2.0では、データの作成者と使用者が一緒、とまではいかなくても重なった集団であるということです。こういったメタデータの作成者はそのサービスのヘビーユーザーです。
ひるがえって研究データの共有の場合はどうなんでしょう。ここは質問ですが、遺伝子改変マウスの場合はどうでしょうか? 遺伝子改変マウスの作成者自体がデータベースのヘビーユーザーなのではないでしょうか。だからたぶん、ニューロン記録データの場合も、データを作成する実験者自体がそのデータベースのヘビーユーザーとなるようでないと立ちゆかないのではないかと思うのです。
悲観的なもの言いのように聞こえるかもしれませんが、私としてはこのようなことを考えたうえで、自分で使いたくなるようなデータベースがなんだかを見つけることができたら、きっとうまくいくんではないかと思うんで、そういうデータベースがなんだか考えましょう! それを考えついた人が次世代偉くなると思う。(いや、偉くならなくていいんだけど。)
追記:神経科学者SNSの方でたくさんコメントをもらってます。宮川さんからもレスポンスをいただきました。アカウントがある方はぜひそちらでコメントを。
追記:神経科学者SNSでのつづきのわたしのコメント:
宮川さん、どうもありがとうございます。そんなに的外れなことは言ってなかったようで、安心しました。
Neuroshareは面白いと思いました。赤崎さんのお話を伺った限りだとまだそんなにアクティブではないようですが、データ共有はこの形にしてもよいのではないかと思いました。違う会社のデータの解析を統一した環境で行えるという点が既にメリットになっていると思います。R Andersenラボにこのあいだ見学に行ったのですが、ラボにはcyberkineticsあり、tucker davisあり、plexonありというかんじで、データ処理の環境の統一がなかなか大変そうな印象を受けました。
吉岡さんのときに私もコメントしましたが、それぞれの会社のバイナリでデータを共有するといろんな人がアクセスできるというわけにいきません。じっさい、たしかaxon instrumentsの新しいファイル形式は公開されていない(必要だったら個別に聞けみたいな)はずです。
Neuroshareはいまのところまだ会社主導で、十分にソフトウェアとかが整備されていないようですが、将来的には、いったんNeuroshareにデータを移すと解析が便利だというかんじになるとよいと思います。それには解析ソフトの整備もありますが、実験者自体がどんどんmatlabの scriptとかを掲載していって、解析のプラットフォームはこのレベルにした方が良さそうだ、というレベルまでいけばデファクトスタンダード化すると思います。
臼井先生が「オールジャパン体制で」というフレーズで日本の一部の人ではなくて日本全体での取り組みを強調されていましたが、今回の話し合いでは海外の類似プロジェクトとの関連の話はなかったと思います。私自身は特に利害関係がないのでべつに日本国内にこだわらなくてもよいのではないかと思ってます。すくなくとも、Neuroshareの話の場合は関連する海外のプロジェクトに積極的にコミットするというスタンスでもよいのではないかと思いました。じっさい、赤崎さんのPOMUはAertsenのFINDとかとも相補的な関係にありそうですし。


2008年10月17日

Tononiのinformation integration theory of consciousness

Tononiのinformation integration theory of consciousnessってのに興味があるのだけれど、懐疑的だ。
Giulio Tononi "An information integration theory of consciousness" BMC Neuroscience 2004, 5:42
脳のglobalな特性をどう扱うかという問題意識はわたしは大好き。でも、Edelman-Tononi理論とかBaars-DehaneのGlobal Workspace Theoryとかには近づいてこなかった。こういう人たちの意識論というのはだいたいあまりに機能主義的だと思ってたし、この種の天下り的モデルは信用してない。
そしてなにより、Tononiが使っているeffective information、そしてΦ (integrated information)というものが理解できないので態度を保留してきた。
たとえば、この人の他のempiricalな論文ではこのmeasureが使われていない。たとえばあの睡眠時にTMSをしたScience論文だけれども、ERPの解析をしているだけだ。それどころか、タイトルがeffective connectivityであるにもかかわらず、effective connetivityすら計算されていない。(Effective connectivityじたいが「脳活動から計算された因果性のconnectivity」と「刺激による応答から見たconnectivity」と混ざって使われているようにも思える。)
Tononi自身がどっかで書いていたけれども、empiricalなstudyで定量的に取り出せる値ではないようだ。
また、Φ (integrated information)はeffective connetivityとかなり関連のある概念であるにもかかわらず、その関連が十分説明されていないようだ。
さいきんの論文では言及はされているようだが:Balduzzi D, Tononi G. "Integrated information in discrete dynamical systems: motivation and theoretical framework." PLoS Comput Biol. 2008 Jun 13;4(6):e1000091.
というわけで、このΦが、たとえば大規模同時記録とかからなら計算できるのかとかそういうのを知ったうえでつっこんでみたいと思う。これが宿題。
わたしは神経生理学者としては、意識について脳のglobalな特性からアプローチするネットワークモデルというものがたいがいトップダウン的なモデルだけになってしまって、empiricalなデータと接点を持たないという点にフラストレーションを抱えてきた。
F. Varelaはけっきょくそういうネットワークモデルを提出せずに、gamma-waveの解析だけを提示した。たんに氏の健康状態ゆえだったのかもしれないけど、それには意味があったように思える。
だから、わたしがしたいと思っていることは、ニューロンレベルでの現象ともっとマクロな現象とを繋ぐあたり、つまり、「多ニューロン同時期録でのCCGによるmonosynapticなconnectivity」から、「fMRIやEEGによる脳領野間でのeffective connectivity」までを繋ぐようなものに向かってきていて、それがわたしがこれからBMI/BCIに関わっていこうとするときのモチベーションだったりする。
Information Integration Theoryに関してはわるねこさんの「Information Integration Theory of Consciousness」にくわしい説明があり。


2008年10月16日

JNS論文「線条皮質の損傷は慎重な意思決定およびサッカードの制御に影響を及ぼす」が出ました

生理研で進めていたプロジェクトから最初の論文がやっと出ました。
Yoshida M. et.al., "Striate Cortical Lesions Affect Deliberate Decision and Control of Saccade: Implication for Blindsight" The Journal of Neuroscience, October 15, 2008 28(42):10517-10530
要はV1 lesionによって、サッカードの軌道は真っ直ぐになるし、サッカードの応答潜時は早くなる、だからV1 lesionによってvisionだけではなくてsaccade controlやdecisionまで影響を受けるのだ、という話です。
内部モデルとかdiffusion modelとかいろんなこと言ってます。いろいろコントロールデータも取ってます。本編のfigureが11個でsupplementaryにさらに7個。論文3本分のデータをつっこんであります。そのままだと一つの論文には一つのテーマという一般ルールから外れますんで、それらを全部合わせて、「visionだけでなくそれ以降のprocessing (decision makingやmotor control) も変わる」という一つのストーリーにしました。
いろいろ書いてありますが、わたしがいちばん言いたいことは、「V1 lesion後のvisionはnormal visionでのnear-threshold条件とは違う」ということでして、そのためのサッカードの解析です。その意味ではこの論文もblindsightの研究です。
苦節5年でここまで来ましたが、これはあくまで実験系の確立と基礎的データの記述を行った論文でして、本丸はこれまで学会などで発表してきた電気生理です。こちらにもどうかご期待を。
要旨は以下の通り:
Monkeys with unilateral lesions of the primary visual cortex (V1) can make saccades to visual stimuli in their contralateral ("affected") hemifield, but their sensitivity to luminance contrast is reduced. We examined whether the effects of V1 lesions were restricted to vision or included later stages of visual– oculomotor processing. Monkeys with unilateral V1 lesions were tested with a visually guided saccade task with stimuli in various spatial positions and of various luminance contrasts. Saccades to the stimuli in the affected hemifield were compared with those to the near-threshold stimuli in the normal hemifield so that the performances of localization were similar. Scatter in the end points of saccades to the affected hemifield was much larger than that of saccades to the near-threshold stimuli in the normal hemifield. Additional analysis revealed that this was because the initial directional error was not as sufficiently compensated as it was in the normal hemifield. The distribution of saccadic reaction times in the affected hemifield tended to be narrow. We modeled the distribution of saccadic reaction times by a modified diffusion model and obtained evidence that the decision threshold for initiation of saccades to the affected hemifield was lower than that for saccades to the normal hemifield. These results suggest that the geniculostriate pathway is crucial for on-line compensatory mechanisms of saccadic control and for decision processes. We propose that these results reflect deficits in deliberate control of visual–oculomotor processing after V1 lesions, which may parallel loss of visual awareness in human blindsight patients.
記者会見もやってきました。GFPの下村教授のノーベル化学賞受賞の次の日でしたが、記者の方には集まっていただけました。
昨年10月から小泉周さんが生理研の広報展開推進室の准教授に就任して積極的に広報活動を行ってくださっています。EurekAlertにも出してもらいました。同じ内容がPhysOrg.comにも。生理研のサイトのプレスリリースにも出ました。
さてさてさっさと次へ行きますので。

コメントする (5)
# knh

おめでとうございます。私もがんばります。

# pooneil

どうもありがとうございます。nhkさん、改名した?

# knh

頻繁に変異しますが気にしないで下さい。

# viking

おめでとうございます。ご自身でreviewはなさらないんでしょうか?(期待感に満ちた目)

# pooneil

ども。しない予定です。


2008年10月11日

A sort of homecoming

や、どうも、元気です、なんとかこらえてます。久々に実家。なんとなく実家に残してきた本を列挙してみますね。前にもやったことある(20060102)。まあ、意味はないけど。(自意識的にはこういうにはなにかセラピー的要素があったりするんで意味はあるけど。)

「眼球譚」G.バタイユ
「青空人生相談所」橋本治
「俺にはオレの唄がある1,2」柳沢きみお
「ランボー『地獄の季節』探照」篠原義近
「The pictorial key to the tarrot」 Waite
「マイルスとコルトレーンの日々」植草甚一
「カトマンズでLSDを一服」植草甚一
「May Ray 1984-1985」
「よい子の歌謡曲 1991年12月号 特集フリッパーズ・ギターに会えてよかった」
「ステファン・グロスマンのカントリー・ブルース・ギター」
「クマのプーさんスケッチブック」B.シプリー編
「エレキな春」しりあがり寿
「米国音楽 vol.4 1995 "Licensed to Kitten" Issue」
「Duineser Elegien」Rainer Maria Rilke
「ものぐさ精神分析」岸田秀
「吉岡実詩集」
「続・吉岡実詩集」
「天使の王国」浅羽道明
「The complete poems」William Blake
「ぼのぼの 8」いがらしみきお
「お前がセカイを殺したいなら」切通理作
「レコード・コレクターズ 1991年9月 60年代のフランク・ザッパ」
「レコード・コレクターズ 1991年10月 ソフト・マシーン R・ワイアット」
「危ない1号」
「櫻の園」吉田秋生
「別冊宝島153 世界の読み方が変わる本!」
「銀星倶楽部 7 特集 バロウズ plus ビートニク」
「島田奈美写真集」撮影・会田我路
「SHILOH and other stories」Bobbie Ann Mason
「定本 はっぴいえんど」
「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」A・ブルトン
「優雅で感傷的な日本野球」高橋源一郎

それから、Jefferson AirplaneのFillimore auditoriumでのライブ(1966/12/16-18)のサイケデリックなポスターのレプリカが今でも壁の一番高いところに貼ってある。まるで護符のように。

コメントする (2)
# しか

共通点は,最初と最後,でした.

# pooneil

ども。高橋源一郎は大好きで、初期のものはほとんど読んでます。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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