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2007年07月26日

選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部 コメント応答2

松元まどかさんのコメントへの応答です。

まず、noveltyの議論ですが、私が言いたかったのは、Visual blockでの応答の話ではなくて、action-learning blockの方のmodulationについてでした。Lateral PFCでも、medial PFCでもまったく同一の条件で同様なmodulationがaction-learning blockで起こっているにもかかわらず、visual blockでのnoveltyに対する応答から外挿して、lateral PFCのほうのaction-learning blockの方のmodulationはnoveltyによるもので、medial PFCのほうはnegative feedbackによるものだ、というふうに説明しないといけないということに対してトリッキーだと言ったわけです。

つまり、元々の実験デザインがnegative feedbackとstimulus noveltyとを明示的に分離出来るようなパラダイムになっていないための苦肉の策なのだろうなあと考えたわけです。実際には不可能だけど仮想的な実験条件として、stimulus-novelty block(noveltyはあるが、negative feedbackにならない)ではlateral PFCだけがmodulateされて、action-learning block(negative feedbackになるが、noveltyはない)ではmedial PFCだけmodulateされたらいちばん良いわけでして。もっとも、こういうことは結果が出てみないとわからないものでして(身に覚えあり)、non-human primatesの実験の大変さを反映していると思います。

ひとつ思いつきですが、negative feedbackのほうでなくて、positive feedbackの方はどうなんでしたでしょうか。つまり、positve feedbackはstimulus noveltyでは説明できないので(ぎゃくにfamiliarity effectの強弱みたいな言い方は可能かもしれないけど)、こちらのmodulationがlateral PFCでも見られるのか、それともmedial PFCでのみ見られることか、これがわかるといいかもしれません。もし、後者なのでしたら、secondary reinforcerによるfeedbackはmedial PFCに特異的である証拠のひとつですので、「lateral PFCとmedial PFCとではmodulationの大きさはそんなに変わらないのに」というわたしの違和感をふっとばすことができます。ただ、もし論文に載っていないのでしたら(未発表でしたら)お答えくださる必要はございません。じつはsupplementary dataを全部は読んでおりませんので、もし見逃していたら教えていただきたい、ということです。

「今後、行動データでは分る事の出来ないことを、脳を調べることによって明らかにしていくこと」、これに期待したいと思います。松元健二さんへコメントでも書きましたが、ひとつは動機付けの問題かな、と思いますし、そのへんまで含んだ新しいパラダイムで、たとえばmuscimol injectionとかでmedial PFCの活動がほんとうに行動修正に使われていることを示せたら、これは脳を調べないとわからないことになるのではないかと思います。これからの研究の発展をお祈りしております。


エントリの方はつづきを書くと言ったまま尻切れトンボになってしまいましたが、RushworthのTrends in Cognitive Science 2004を読んできたので、これまでのmedial PFCの機能についての理解をまとめて、今回の論文がそれに対してどういうインパクトを持っているのか、みたいな議論をしようと思っているところでした。このへんについては来週あたりに取りかかりたいと思います。

トレーニングコース始まりました。

今週は生理研のトレーニングコースです。今年はanatomyのレクチャー(Nissl染色した切片を顕微鏡で覗きながらlayerのborderを解説)、それからこれまで同様、電気生理データの解析担当です。LFPの説明を作らなくちゃ、と昔コピった論文を開き直します。以前のエントリでこのへんの事情を書きましたが(「extracellularで記録されるsingle-unitの波形」および「extracellularで記録されるsingle-unitの波形つづき」)、そこからあまり進歩してません。馬力でなんとか作り上げる予定。
ちなみにこういう機会ですと、ブログを見てくださっている方がこっそりと「見てますよ」と言ってくださることがあって、たいへんありがたいのですが、べつに秘密でブログを書いているわけではありませんので、こっそりと聞かなくても大丈夫です。


2007年07月25日

選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部 コメント応答

松元健二さん、松元まどかさん、コメントどうもありがとうございます。お返事遅れてすみません。夏風邪ひいて先週末は吹っとんで、今週はトレーニングコースで、ってまあ言い訳ですが。まずは松元健二さんのコメントの方から。松元まどかさんのコメントへのレスポンスは明日掲載します。

「仮説実験授業」がここで出てくるところは面白いですね。まだそこまで行くにはジャンプがあるとは思いますが、このストーリーの次のステップをいろいろ思い浮かべてみました。

現在の話はpositive, negativeなfeedbackをどう利用して行動を修正してゆくか、ということに関わると思いますが、教育に繋げると展開させると、この問題はさらにそのような学習をどのようにして動機づけてゆくか、そしてそのメカニズムはなにか、という話になるのがひとつの可能性ではないでしょうか。

数理科学に書かれていた「脳における主体性」松元健二・松元まどか では弁別刺激がオペランド行動を誘発して、それが弁別刺激を二次強化刺激として、オペラント行動を誘発する、というようなカスケードを描いておられました。このようなカスケードが動いてゆくときにも、感情、情動という形で捉えられるような動機づけの側面をも含んだシステムとして捉えられるようになると良いのではないでしょうか。これはおそらくprefrontal cortexをmedial, lateral, ventral (orbitofrontal)と分けてそのinteractionを扱う、という(察するに、当初の)ストーリーになるのではないか、と考えます。ちょっと強引な持っていきかただったでしょうか。

「結果を予想してから、その予想が実際に正しいかどうかを検証する」、この方向をelaborateするというのもいろいろありそうですね。ピアジェみたいに、物理的法則の獲得みたいな話にすれば、発達段階について面白いことが考えられそうですし、他者の行動に対するある種のモデルを作る、となれば「心の理論」ですし。

あといくつかレスポンスいただいたところについて:Ito et al. 2003と比較した上でのノイエスですが、Ito et al. 2003のはあくまでunpredicted free rewardに対して応答があったということで、そのフィードバックを行動の調整には使っていないが、今回の論文では行動の調整に使うような正解のフィードバックに対して応答するのを見た、ということですね。なるほど。

それから、「NEW教育とコンピュータ」の記事、拝見しました。そこでは

「他者との比較で優位に立つための目標(=パフォーマンスゴール)よりも、過去や現在の自分と比較して成長するための目標(=ラーニングゴール)を立てて、能力が高まることに対する喜びを喚起するような指導を行うことが大切だと思います。」

と書かれていましたが、これは重要な側面ですね。しかも、実験的にもアプローチできそうです。どちらかというとまずhuman fMRIで取りかかった方がよいように思いますが、やはり動機付けの科学という方向が面白くなりそうだと思った次第です。


2007年07月20日

選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部 つづき

前回のエントリに松元健二さんからコメントいただきました。どうもありがとうございます。まずつづきを貼ってしまいます。
Nature Neuroscience 2007 "Medial prefrontal cell activity signaling prediction errors of action values" Madoka Matsumoto, Kenji Matsumoto, Hiroshi Abe and Keiji Tanaka
つづきです。
ファクトのレベルとして正しいものを見ているかどうかという問題では、stimulusのnoveltyではないの?という疑問に答えなければなりません。つまり、visual blockで同じ絵が提示された後にnovelな方の絵(rewardと結びついていない)が提示されたときにのみ大きく反応するニューロンがあるわけですから。これに対しては著者はワンパラグラフとfig.4およびsupplementary noteとかなりの分量を割いて議論しています。要はaction-learning blockでnegative feedbackのときに応答が大きいニューロンを集めてきて、それのvisual blockでの応答を調べて、もしnovelなときに大きな応答を示すようだと、action-learning blockでのmodulationがstimulis noveltyによって説明できてしまうので、action valueのprediction errorのような複雑な概念を持ちだして説明することが出来なくなってしまうのです。
じじつ、lateral PFCのほうはnoveltyによって強く応答してしまいます。Medial PFCはそれほどでもありませんが、population averageにすると多少その傾向はあります。(ちなみにcellをひとつの点としたscatttered plotにするとそのような関係は見られないのだけれど、これはcorrelationが外れ値にものすごく影響を受けるという面もあります。) また、この論文を出す前に同じ課題とデータを用いて、Neuroscience Researchにnoveltyを扱った論文を出してます("Effects of novelty on activity of lateral and medial prefrontal neurons")。こちらはnovelty-familiarityがlateral PFCとmedial PFCとで違う形でコードされているという話で、それはattentionとdecisionという観点からは面白いのですが、この問題がかなりシリアスであることを物語っていると言えます。そのへんを概観した印象では、stimulus noveltyだけではmedial PFCのmodulationは説明できないだろう、というあたりがここはフェアな判断でしょうか。
しかしそれにしても、negative feedbackに対する応答がlateral PFCとmedial PFCとではmodulationとしてそんなに変わらないのに、かたやlateral PFCはstimulus noveltyによるかもしれなくて、かたやmedial PFCはprediction errorだというのはちょっとトリッキーです。
なお、SFN2006ではさらにaction-learning blockで図形が提示する前にだんだん上がってくるactivityについて調べて、top-down attentionによる要素を見ているのだろうと結論づけています(20061101でほんのちょこっと言及)。おそらくこのへんについても引き続き論文として出てくるのだろうと予想しますが、研究会ではこの話も合わせて話が聞けるのではないでしょうか。
もうすこし続きます。

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# 松元まどか

生理研研究会の予習シリーズに取り上げて頂き、ありがとうございます。研究会では、行動学習中のoutcomeに対するニューロン活動の他に、outcomeの前の期間のattentionに関係したニューロン活動についてもお話させて頂く予定です。そして、個体が変化する環境の中で行動を適応させていくときの、前頭連合野の内側部と外側部の役割について考察したいと考えていますので、どうぞ宜しくお願い致します。
プレスリリースで教育への貢献をアピールしましたが、吉田さんのおっしゃる通り、「正解を教えることと、不正解を教えることの両方が大事という」こと自身は、行動データで明らかになることだと思います。今回の結果は、脳の中にそれをサポートするような結果を見つけたということだと思います。今後、行動データでは分る事の出来ないことを、脳を調べることによって明らかにしていくことが、脳科学の教育への貢献であると思いますし、それが期待されているのだと思います。
論文のストーリーとしてsecondary reinforcer を強調せずにmedial PFCの歴史的経緯から始めたのは、medial frontal cortexを研究している人たちの間で、「不正解だけでなく、正解も表現しているのかどうか」、「予測誤差を表現しているのかどうか」という議論があり、その議論に対して、私たちの結果が、何らかの答えを出しているのではないかと感じたからです。しかし、secondary reinforcerの神経細胞活動を報告した論文は、今まであまりありませんし、サルのトレーニングにも1年と長い時間がかかりましたので、secondary reinforcerの神経細胞活動の貴重な論文の一つとしても、認識してもらえると有り難いとも思っています。
Noveltyに関しての議論のところで、“しかしそれにしても、negative feedbackに対する応答がlateral PFC とmedial PFCとではmodulationとしてそんなに変わらないのに・・・”と書かれているところが、私にはそうではないように思われました。実際、medial PFCよりもlateral PFCのnegative feedbackに応答した細胞の方が、刺激のnoveltyに関して、はるかにsensitiveであったと思いますが(fig.4)。しかし、prediction errorとnoveltyは、密接に関係していると思いますので、この2つを分離することは重要であると思います。

# pooneil

コメントどうもありがとうございます。レスポンスを新たにエントリとして作成しましたのでぜひごらんください。


2007年07月19日

選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部

さてそれでは生理研研究会予習シリーズその1。理研BSIの松元まどかさん。
Nature Neuroscience 2007 "Medial prefrontal cell activity signaling prediction errors of action values" Madoka Matsumoto, Kenji Matsumoto, Hiroshi Abe and Keiji Tanaka
理研BSIからプレスリリース(「正解/不正解から学ぶ脳のメカニズムを発見 - 脳科学の教育への応用に新たな手がかり -」)が出てますんで、それを読めばどういう課題をやってどういうデータが出たかはわかります。
まず、記録した場所はmedial prefrontal cortexです。ここは前報のScience 2003 "Neuronal Correlates of Goal-Based Motor Selection in the Prefrontal Cortex" Kenji Matsumoto, Wataru Suzuki, Keiji Tanakaで記録されたところと同じであるようです。Anterior cingulate cortex(ACC)を含む領域でperformance monitoringと関係がある、と言われてきました。このへんの経緯と記録部位とは議論のネタのひとつとなるでしょう。
課題は二段階に分かれていて、まずvisual blockでは二つの図形A,Bのうち、Aだけが提示されて、fixationしていればwater reward (primary reinforcer)がもらえます。これによって、被験者は図形A,Bのどちらが正解であるかを学びます。3 trial成功したらaction-learning blockに移ります。こんどはfixation pointがgo signalになったら、被験者はレバーで左右のどちらかを選ばなければなりません。そのあとで図形Aが左、Bが右に提示されます。もし被験者が左を選んでいたら正解ですが、water rewardは与えられません。つまり、提示された図形Aがsecondary reinforcerとして働きます。このsecondary reinforncerへの応答をmedial frontal cortexから記録したのがこの論文です。
Action-learning blockに入った1trial目では左右どちらが図形Aかはわかりませんので正答率は50%となりますが、それ以降は図形の出る位置は固定されているのでほぼ間違えません。Action-learning blockで正しく3回レバーを押すことが出来たら、つぎのvisual blockに移ります。そのときは強化される図形がrandomizeされているのでまたlearningは一からやり直しです。
さて、それでニューロンの活動の方ですが、Action-learning blockに入った1trial目でエラーした場合(visual blockで提示された図形でない方を選んだ)に活動するニューロンが見つかりました。これはこれまでanterior cingulateがerrorやconflictをモニターしているという説からすると驚きではありません。いっぽうで、Action-learning blockに入った1trial目で正解したときに活動するニューロンも見つかりました。この活動は3回連続して正解してゆく過程でどんどん弱くなっていきます。
よってこのような活動はaction valueのprediction errorをコードしている、というのがこの論文の結論です。この結論を導くために、行動データからaction valueのprediction errorを計算してやって、これとニューロンの活動か相関していることを示しています。
さてさて、プレスリリースでは教育には正解を教えることと不正解を教えることの両方が必要であって、正解したときに褒めるだけではダメだよ、っていう言い方になるんですが、正しいような、でもそれを今回の論文で示したわけではないでしょうと思ったり。(それ自体は行動データで明らかになることであって、そのような誤差情報が脳にあることを見つけたのが今回の論文であって、さらにそのような誤差情報が使われているかどうかはまたべつのstudyが必要。) このへん、研究成果をどうかみ砕いて説明するかという問題なのですが、なかなか難しい。
課題の説明でも書きましたが、もともとこの仕事はneural correlates of secondary reinforcerをみつけることを目的としていた節があります。SFN 2004のabstでのタイトルは"action evaluation by secondary rewards in the medial prefrontal cortex"でした。また、理研年報の2004年(PDF)では研究のまとめとして「前頭前野内側部が一次報酬ばかりでなくそれ以外の感覚フィードバックによって行為を評価する際にも重要な働きをすることが示唆された。」というふうに書いています。こっちの方向性の議論のほうが面白い(論文の方での議論はどちらかというと歴史的経緯との対比から作り上げられた議論と思える)と思うので、このsecondary rewardの意味づけについても議論したいところです。というのもオペラントでやる限りなんらかのrewardとは結びついているわけで、今回の課題のaction-learning blockも、どちらかというとさっさと正解して終わらせないと次のvisual block (被験者にとってはreward blockといった方がよいでしょう)に辿りついてprimary rewardをもらうことができないからやっているわけでして。ま、ここはprimary reinforcerとsecondary reinforcerの定義から入るべきか。そのへんはまたということで。
他の論点としては、それまでのACCがerrorやconflictのmonitoringと考えられていたところで、Science 2003 Ito et alでpositiveな方向の活動もあったというあたりから役割の捉え直しが進んでいるようです。RushworthのTrends in Cognitive Science 2004とか読みましたけど。このへんについてではないでしょうか。
Stimulus noveltyとの関連などについてはまた次回。

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# 松元健二

生理研研究会「注意と意志決定」予習シリーズ第1弾に、私たちの論文を取り上げて下さってありがとうございます。つっこみどころは多いかとは思いますが、とりあえず、外堀にあたるプレスリリースに関して。プレスリリースの文章は主に私が書いたので、これについては私から。
まず、プレスリリースは今の日本社会、とくに教育関係者に向けた「応用」メッセージです。そのため、論文に記述した、研究者向けの「基礎」メッセージとは異なった強調の仕方をしております。
ご存じのように今の日本社会では、教育再生は国家的課題で、脳科学の教育への応用も注目されています。巷では思った以上に、褒めるだけの教育が過度に蔓延しているようです。この間違いの指摘は、わざわざ脳科学を持ち出すまでもなく、行動分析学の常識だけで本来十分なわけです(もっとも行動分析学の創始者であるスキナーは、「決して叱ってはいけません」と言っていたようです)が、認知主義全盛の今の時代には、行動分析学自体が古い考えと映ってしまうために、先述の現状があるのだと思います。なので、脳科学による行動分析学のサポートには、意味があると考え、それを間接的に強調した次第です。もちろん神経科学的には、正解のフィードバックに対する細胞応答の方が意義があり、これを学習過程で(Ito et al. 2003では、unpredicted free rewardが使われた)、モデルも援用して詳しく解析したところを論文では強調しています。
それともう一つは、「仮説実験授業」の有効性の支持です。予測誤差が前頭前野内側部の神経細胞でコードされているという所見は、「結果を予想してから、その予想が実際に正しいかどうかを検証するという「仮説実験授業」の基本手続きと非常に相性がいいです。「仮説実験授業」自体は、50年近くもの歴史があり、教育学の分野でこそ広がってはいますが、それ以外にはあまり認知されていないように思われます。そこでプレスリリースでは、間接的に「仮説実験授業」の有効性を強調することを試みました。
ちなみに、「NEW教育とコンピュータ」(7月号)という学研の教育者向け雑誌のインタビュー記事では、「仮説実験授業」への支持を直接に表明しましたので、機会がございましたら、ご一読頂ければ幸いです。なお、上のような方向性のメッセージを社会に発信するにあたっては、東工大・学振PDの村山航さんのご意見を大きく参考に致しましたことも、この場で触れて、謝意を表しておきたいと思います。

# pooneil

コメントどうもありがとうございます。この「仮説実験授業」がここで出てくるところは面白いですね。遅くなりましたがレスポンスを作成しました。長くなリましたので新たにエントリを作成しました。ぜひそちらをごらんください。


2007年07月17日

[告知] 岡崎の生理学研究所で研究会をやります

今年の10月11-12日に生理学研究所で研究会が開催されます。タイトルは「認知神経科学の先端 注意と意志決定の脳内メカニズム」です。注意と意志決定についてさまざまな研究アプローチ(電気生理、機能イメージング、心理物理、神経心理、計算論モデルなど)で第一線で研究されている先生方をお招きして研究成果を発表していただきます。議論の時間を多めにとって、より深い議論が出来ることを目指しております。ぜひ多くの方の参加をお待ちしております。

参加は無料ですが、申し込みをしてください。手続きや連絡先については生理研研究会のサイトにありますPDFファイルをごらんください。それから、同時にポスターセッションも行います。申し込みについてはおなじくPDFファイルをごらんください。スペースの都合上、申込者多数のときは事務局側の判断で発表演題数を調整させていただく場合もあります。予めご了承ください。

参加講演者と演題は以下の通りです。

  • 「注意のトップダウン制御原理 - 次元加重、課題構え、探索モード」
    熊田 孝恒(産業技術総合研究所)
  • 「脳損傷患者における注意と意思決定」
    鈴木 匡子(山形大学大学院医学系研究科)
  • 「ヒトにおける金銭的価値の脳内表現 - 機能的MRIによる神経経済学的研究」
    筒井 健一郎(東北大学大学院生命科学研究科)
  • 「情動に基づく意思決定のための大脳基底核関連回路」
    中原 裕之(理化学研究所 BSI)
  • 「社会的状況における意思決定のメカニズム」
    春野 雅彦(国際電気通信基礎技術研究所)
  • 「行動価値予測の誤差とリスク - 行動適応における前頭前野内側部の役割」
    松元 まどか(理化学研究所 BSI)
  • 「意思決定の適当さ」
    渡邊 克巳(東京大学 先端研)
  • 「注意が行動決定に変わるとき - 変換場としての頭頂連合野機能」
    小川 正(京都大学大学院医学研究科)

ここまでが告知パート。以上については研究会開催までしばらく一番上に貼っておきます。以下はもっとパーソナルに。


今年が第一回となる研究会ですが、昨年くらいから京大河野研の小川さんと立ち上げを進めてまいりました。このブログ自体はわたしの個人的なサイトであってなんらオフィシャルなものではありませんが、うまく活用していきたいと思っています。

学会でも研究会でも、質問時間が短いと、事実確認(ここの実験条件はどうしてますか? こういうコントロールは取りましたか?)みたいなのに終始して深い議論まで届かないということになりがちです。そこで研究会としては議論の時間を多く取るようにスケジュールを組む方針です(そういうわけでまる一日で講演者8人です)。さてそれではこのブログでそれになにか貢献できないか、というわけで、論文コメントサイトとしての機能を使ってみましょう。つまり、講演者の論文をこのブログで採りあげて、ポイントなどを押さえて予習しよう、というわけです。すくなくともわたしの予習にはなるし、論点などが作れればそれが本番で議論するネタとなるでしょう。また、参加者の方への宣伝にもなり、ここで予習していけば議論もフォローしやすくなるかも、というわけです。

これまではあまり国内の研究者の方の論文にコメントしてこなかったのですが、研究会に合わせてちょっと方針転換です。ま、pooneilブログ・セカンド・シーズンということで。講演者の方はここでコメントしていただいてもけっこうですし、神経科学者SNSに作成したコミュニティ「生理研研究会 注意と意志決定の脳内メカニズム」のほうでコメントしてくださってもけっこうですし、スルーでもけっこうです。こちらのブログはあくまでわたしがパーソナルに行っていることですので、コメントなどもあくまで自発的なものとして行っていただければ幸いです。

さてさて、それでは最初にとりあげるのは、理研の松元まどかさんのNature Neuroscience 2007 "Medial prefrontal cell activity signaling prediction errors of action values" Madoka Matsumoto, Kenji Matsumoto, Hiroshi Abe and Keiji Tanakaから。4月にpublishしたときにエントリを作成していたのですが、研究会告知のタイミングと合わせて寝かしておりました。それではまた明日。


2007年07月14日

Binocular rivalryおよびgeneralized flash suppression その4

前回(20070711)のエントリへの土谷さんのコメントに対して応答を書いていたら長くなったのでこちらに作りました。
ご指摘の論文の一番目はAlex MaierのPAS 2007 "Context-dependent perceptual modulation of single neurons in primate visual cortex"です。これは20070629にも書きましたように、金井さんのブログの5/28に記載があって、それを見てからわたしも論文をざっくり読んでみたのですが、どう評価したらよいものかわからなくて、前回をセミナーにはこれを入れない方向でまとめた次第です。
この論文で面白いのはFig.2bのなかに黒矢印で示してあるところで、CFG1とCFG2とで同じ向きのpreferred directionのgratingの与えられているのも関わらず、CFG1とCFG2とで違う向きのnon-preferred directionの刺激との組み合わせを使うことによってmodulationのされ方が違うのです。ただ、下の段のphysical alternationの条件を見るとこれでも差が出ているように見える。そういうわけで、なんらか二つの刺激のあいだでのselectionの過程での中間型みたいなものとして捉えた方がよいようにも思えるのです。そういうわけでこのmodulationの差の意味についてはちょっと現状では評価しがたいという印象をそのときは持ちました。
Fig.4は非常に重要な結果で、刺激の組み合わせをいくつか試してみると、MTで記録した90%以上のニューロンでmodulationが見られたということです。これはLogothetis 1998のレビューなどで使われる、V1-V2-V4/MT-ITという順番でmodulationのかかるニューロンの比率が増えてゆく、というスキームとは一見矛盾します。しかし、使われている刺激が違うので、directionに関してはMTでほぼ決着が付いているというのは驚きではありません。また、Logothetis 1989の実験では刺激はニューロンのpreferred directionによらず、上向きと下向きのgratingでした。よってmodulationの見られるニューロンの比率がunderestimateされているであろうことは明らかだったろうと思います。
今さらっと言ってしまいましたが、motion directionに関してはMTがほんとうに最終であるか、その辺についてはV1-V2-MT-MST-LIPくらいで追えると楽しいのではないかと思います。一方で、awarenessに上がってくるようなmotionの成分というやつがほんとうにdorsal pathwayのほうでV1-V2-MT-MST-LIPという方向で処理されるのでしょうか。阪大の藤田先生がdisparityに関して行っていることからのinspirationですけど、motionに関しても、形態視が必要となるsceneの分析のような過程(ventral pathwayでの処理が必要となる)でのみawarenessに上がってくるということになっていたりしないのでしょうか。これはつまりSheinberg論文にあったようなimage segmentation, perceptual groupingを越えたところにあるものに対応するのではないかと思うのですが。
連想は続きます。わたしが見ているようなある種のweakなawarenessとITで見られるようなsceneの解析まで済んだものとして捉えられるawarenessとはそういう意味でcontent of consciousnessがかなり違うのであろう、と考えています。それはtype II blindsightの患者さんがもつ"feeling of something is happening there"みたいなものと私たちが持つconsciousnessとの違いと対応しているのではないか、というわけです。このへんについては以前セミナーで作ったパワーポイントがあるのでそのうち編集してエントリにします。
話を戻します。Logothetis 1989やLeopold 1996で見られたような逆向きのmodulation (physical conditionで決めたpreferredでflashのときのmodulationが下がる)ということがあるのか、supplementaryまで見ればわかるかもしれないけど確認できませんでした。そういうのがある限り最終段階の処理ではないだろうというのが予想です。
あと、Logothetis 1989ではphysical conditionではmodulationが起こらないけれども、rivalryではmodulationが起こるニューロンというものを見つけていました。今にして思えば刺激条件が上下の二通りしかないからと言えるでしょうが、今回のMaierのを見てから考えると、そもそもphysical conditionでのdirection tuningとambigous conditionでのdirection tuningはかならずしも同じではないんじゃないでしょうか。さらに、AsaadのNatureにもあったように、LIPまで行けばどう報告するか(刺激のcategorizationに依存する)にもさらに影響されるわけで。このphysicalとperceptualでのdirection tuningの比較ってだれかやった人はいないんでしょうか。Systematicだし、回路の議論をするのにも使えそうな、いい仕事になりそうな気がするのだけれど。
ご指摘の論文の二番目はLee, S-H., Blake, R. & Heeger, D. (in press) "Hierarchy of cortical responses underlying binocular rivalry."(PDF) Nature Neuroscienceですが、Heegerのラボからpreprintが落とせるようになってますね。リンクしておきました。じつはこの話、以前Heegerが生理研に来たときのトークで聞いたことあります。以前のエントリ(20060202)にも記載があって、こっそりコメントアウトして書いてあります(HTMLのソース参照)。もうpublishされたようなのでここに再録しておきますと、「binocular rivaltyの左右の切り替え自体はV1内で起こっているのだけれど、attentionが向いてないとそのような意識の(潜在的な)contentが実際の「見え」に反映しない、というかreadoutされてこない、とでもいう話になりそう。」ということでした。んで、この話自体はすっかり忘れていたのですが、なるほど、ドンピシャ関係ある話でした。これでV1のneuronal activity自体がconsciousnessのcontentに対応しているわけではない、というストーリーは補強されますね。私自身の意見としては、V1を通る信号(bottom-upかtop-downか両方か相互作用かはそれじたいが研究対象)自体は我々が体験しているようなconsciousnessには必要不可欠だけれども、V1のニューロン活動として(mappingの意味で)representしているものがNCCの主役ではないだろう(脳の各部位と環境とのネットワークとして考えた拡張版のNCCにおいても)、というものです。
Steve Macknikのbackward masking のレビュー、というのはProgress in Brain Research 2006の"Visual masking approaches to visual awareness"でしょうか。Abstract読むと後半はBRについても言及しているようですし。あいにくProgress in Brain Researchはうちではavailableでないのですが、この巻はほかにもPetra Soterigの"Blindsight, conscious vision, and the role of primary visual cortex"とかも入ってますので、入手して読んでおきたいと思います。ざっと考えて、maskingもtemporalにはズレているけどspatialには重なっているわけだし、本当によい系だろうか、とか思ったりもしますが。
ご紹介どうもありがとうございました。それではまた。


2007年07月11日

Binocular rivalryおよびgeneralized flash suppression その3

さてさて今回で締めます。疲れてくるとだんだん仕事が雑に。


PNAS, 94, 3408-3413 (1997) "The role of temporal cortical areas in perceptual organization." D. L. Sheinberg and N. K. Logothetis

この論文の後半の方ではflash suppressionの実験も行っています。というか、non-rivalrousな刺激のシークエンスの中にrivalrousな刺激を入れると自然にそうなります。つまり、図形AとBがnon-rivalrousで出るのをA, B, rivalrousをABと表現するとして、たとえばA-B-A-B-AB-Bというシークエンスだと、B-ABの移行のところでBが消えてAだけが見える、ということが起こるわけです。実際のニューロンのデータでも、Bにpreferenceを持っているニューロンだとB-ABでsuppressionが起こり、A-ABだと発火するわけで、おなじABでも大違いとなる例が示されています。

Flash suppressionは明白に提示した刺激にlockしてsuppressionが起こるのでbottom-up attentionとawarenessとの絡みが重要になるものと思われます。Binocular rivalryでは、左右の同じretinotopicalな位置に刺激を提示してconflictが起こっているため、selectionの過程の関与を仮定せざるを得ないという問題を起こします。彼らはこれ以降の論文ではgeneralized flash suppressionを使うようになりました。Wilke et.a l.のNeuron 2003はまだ読んでないのでスキップで。


PNAS, 103, 17507-17512 (2006) "Local field potential reflects perceptual suppression in monkey visual cortex." M. Wilke, N. K. Logothetis, and D. A. Leopold M. WilkeもASSCのポスター会場でいろいろ話を聞きました。Alex Maierと同様にいまはNIMHのLeopoldのところにいるようです。

Generalized flash suppressionでは片眼にターゲット刺激が提示され、もう片眼にはなにも提示されません。左右の視野のコントラスト差が大きいのでこの条件ではターゲット図形が見え続け、binocular rivalryは起こりません。ターゲット刺激提示後1400msで左右の視野にランダムドットが提示されます。そうするとターゲット刺激が消えます。ランダムドットはターゲット図形のあるところには提示されないので二つの眼のあいだでターゲット刺激のある視野位置ではconflictは起こっていません。ランダムドットの条件を変えてやると、ある試行ではvisibleで、ある試行ではinvisibleという条件が作れます。

んでターゲット刺激の位置に受容野を持つニューロンから記録(multi-unit)してやると、V4では、物理的にターゲット刺激を消去したときにactivityが下がるニューロンでは、flash suppressionでinvisibleになったと報告した試行でactivityが下がりました。一方で、物理的にターゲット刺激を消去したときにactivityが上がるニューロンもあって、こっちの場合はflash suppressionでinvisibleになったと報告した試行でactivityが上がりました。多少傾向は違いますが、前述のV4, MTでbinocular rivalryのときに見られる、preferenceが逆になるニューロンと同じクラスであるようです。同じ電極でLFPを記録してやると、V4のgamma band (30-50 Hz)はperceptual reportでmodifyされていました。V1/V2はmulti-unitでも、gamma-bandでもmodificationなし。面白いのは、alpha-band (9-14Hz)ではV4だけでなく、V1, V2でも同様なmodificationが見られたということです。Human fMRIでのbinocular rivalryの実験ではV1の活動もperceptによってmodityされることが知られています。いっぽうでLeopold 1996にもあったように、spikeではあまりmodificationは見られません。なんでかというcontrovercyがあるわけです。議論としては、fMRIのBOLD acitivityはその領野への入力をその強く反映していて、LFPと近いのに対して、spikeは出力を強く反映しているから、というのがあるわけですが。今回のASSCでAlex Maierは同じ課題をhumanとnon-human primatesとで行って比較することで、この論文で見られるalpha-bandのLFPがhuman fMRIで見られるV1のactivationと対応しているのだろう、と議論しています。この論文自体でも結論としては"These findings, ..., suggest that mechanisms shaping the contents of our perception may involve large-scale, coordinated processes that are most prominently reflected in low-frequency changes of the local field."としています。

なお、WilkeのほうはASSCではこの論文での結果に加えてさらにLGN、pulvinarでも記録を行って、LFP powerのmodificationがこれらの視床でも起こっていることを示していました。大脳偏重主義から逃れるために逆張りしたい私としては、V4->V2->V1というフィードバックを考えるよりは、pulvinarを介して回っていると考える方が面白いのではないかと考えたり。

さてattention問題再訪。ディスカッションではこう言ってます。"Although a contribution of attentional factors on the low-frequency LFP modulation during perceptual suppression cannot be excluded, ..., perceptual modulation was observed well before the lever response. ... Thereby, it seems at least unlikely that the neural modulation was directly related to the execution of the monkey response and, thereby, related to a general release of attention." かなり弱い議論であると思います。General releaseはどうでもよいんではないでしょうか。一方で、Binocular rivalryの弱点はperceptのスイッチがspontaneousに起こるため時間的変動の議論をするのが難しい点にありました。その点、どのようにしてperceptual suppressionが起こるのか、というメカニズムの議論を進めるのにはflash suppressionのパラダイムのほうが向いているのかもしれません。


また、flash suppressionとawarenessの議論をするならば土谷さんの"Continuous flash suppression reduces negative afterimages" Naotsugu Tsuchiya & Christof Kochについて考える必要があるでしょう。Continuous flash suppressionでは、刺激にattentionを向けないとafterimageのvisibilityが上がるということが示されています。つまり、Continuous flash suppressionがselective attentionとawarenessとを分離するのに有用な道具となることを示しているのです。このような方向性でまとめられたレビューがTrends in Cognitive Sciences Volume 11, Issue 1, January 2007, Pages 16-22 "Attention and consciousness: two distinct brain processes" Christof Koch and Naotsugu Tsuchiyaで、ASSCではこれを元にして昨年と今年tutorialが行われたようですが、私は参加できず。ちなみに昨年のtutorialのパワーポイントが入手可能です。

だいたいこのへんまででしょうか。Attentionのeffectをどう除くか、というのがこの方向性では大きく問題となることがよくわかります。Ventral pathwayであるため、行動とカップルする部分の解釈に困らないところがまた利点のひとつでもあります。Dorsal pathwayでやったらすぐにmotor preparationだのなんだのとたいへんなんです。だからこそこっち方向ではより行動とカップルさせたことを積極的に考えていくのが正解なのだと思うのだけれど。それから、以前もHeegerについて書いたときにも言及しましたが、Newsome/Shadlen的なperceptual decisionの系にawarenessの議論というのはどうも食い合わせが悪い。というか入る余地がない。最終的に戦うのはこのへんとかな、とか考えています(謎めき系)。それではまた会う日まで。

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# 土谷

素晴らしいレビューですね! 最近このブログをRSSに登録したのでずっと経過を見守っていました。面白かったです。 

相当レベルの高い議論なので、このままreview としてpublish したらいいんじゃないでしょうか??。


ところで、
Maier 2007 PNAS (私にとっては一連の論文のなかで最も面白い)
と もうすぐ出るらしい 
Lee, S-H., Blake, R. & Heeger, D. (in press) Hierarchy of cortical responses underlying binocular rivalry. Nature Neuroscience.

もチェックしてみてください。
特に、後者は、もし噂が本当で、去年の ASSC@Oxford で Sung Hung Lee が James Prize を受賞した時に発表していた話しであれば、

「attention の影響を取り除いたら、
V1での rivalry が無くなった」という話しのはずです。
まさにここでの話しそのものです。

Steve Macknik も我々の議論に賛同していて、
彼なんかは、

"Binocular rivalry is the worst stimulus for the study of neuronal correlates of consciousness because it totally confounds the effects of attention and the effects of consciousness!"

と ASSC のトークでも声高に叫んでいました。もうすぐ backward masking のレビューが出ますが、そこでも rivalry の問題点を
激しくついています。

# pooneil

コメントどうもありがとうございます。応答を書いていたら長くなったのであらたにエントリを作成しました。よければご覧ください。


2007年07月10日

Binocular rivalryおよびgeneralized flash suppression その2

つづき。長いです。タグは「あとで読む」推奨ということで。論文を時系列順で追っていきます。いちばんよく知られているのはITニューロンの結果だと思うのですが、それは一番最後(PNAS 1997)なのです。ちなみにcatだとFJ Varelaが1987年の段階でExp Brain Res.にbinocular rivalry中のLGNニューロンの記録とか出してます(1987;66(1):10-20. "Neuronal dynamics in the visual corticothalamic pathway revealed through binocular rivalry." Varela FJ, Singer W.)。さてさて。


Science, 245, 761-763 (1989) "Neuronal correlates of subjective visual perception" NK Logothetis and JD Schall。

いちばんはじめに発表された実験はMTからの記録によるものでした。左右別々の目に上下それぞれの向きのmoving gratingを提示して、上向きと感じたら右へサッケード、下向きと感じたら左へサッケードさせるという、当時としては洗練された報告の仕方です。それから、fixation pointがない条件だとOKRが起こるので、perceptにしたがって目の位置がドリフトするのでそれを行動の指標とすることも可能です。 Non-rivalrousな刺激条件(片眼にのみ刺激を提示していて、rivalryは起こらない)に答えさせるトレーニングが完了したところで(こちらは正しい応答だけがrewardで強化されている)、半分のtrialではrivalrousな条件(別々の目にべつの向きのgrating)としてやって(こちらはどっちにサッケードしてもrewardがもらえる)、non-rivalrous条件からの般化を見てやろうというわけです。

実験の結果としては、22%のニューロンでperceptの報告にしたがってニューロンの発火が変わるものが見つかったのだけれど、そのうちの半分はpreferredな方向を報告したときに発火が上がるけど、残り半分は逆に発火が下がります。ここはポイント。まず前者は"neural correlate of subjective visual perception"と言えるかもしれない。しかし後者のような逆向きニューロンがあるということはこの場所はawarenessとして現れるcontentをrepresentしているというよりは、suppressionのprocess自体に関わると考えたほうが自然です。この論文自体ではそういう言い方はしてませんが、のちにITニューロンの結果まで出てきたところではそういう言い方がなされます。


Nature, 379, 549-553. (1996) "Activity changes in early visual cortex reflect monkeys' percepts during binocular rivalry." Leopold, D.A., Logothetis, N.K.

同様の実験をstatic oriented gratingで行って、V1/V2およびV4から記録したというものです。Science 1989と比べると、(1) 行動データが加わった点、それから(2) perceptual alterationでの発火の切り替わりのデータを示したところが進歩しています。

(1) 行動データとしては、ほんとうにnon-human primatesがbinoclar rivalryでのperceptを忠実に報告しているかどうか保証が必要です。このため、rivalryのときのそれぞれのperceptでのstay timeの分布を取ってやって、これがhuman psychophysicの結果と同様、gamma functionでfitting出来ていることを示しています。また、片方の刺激のコントラストを下げるともう片方の刺激が見えている時間のほうが長くなりますが、これも再現できています。よって、rivalrous条件のときのrever pressはデタラメに行われているわけではない、ということが示せました。行動についてはこれ以上のことをやるのはなかなか難しそうだけれど。

(2) 電気生理のデータのまとめですが、Science 1989ではrivalrous刺激が提示されたときの最初のperceptを報告させるものでした。しかしbinocular rivalryの面白いところはずっと見ていると1-2秒間隔くらいでperceptが入れ替わるところですので、この入れ替わりに関連した神経活動を見るのに成功したのがこのNature 1996のいちばん強いところです。このため、課題は25secくらいまでの刺激シークエンス(non-rivalrous刺激の切り替えを答える)の中にrivalous条件を少量入れてやって(4-12secまで)、そのときの報告を集めてやって、左のレバーから右のレバーへ切り替わるところ、それから逆でもってニューロン発火を平均してやるのです。すると、レバーによる報告に先立ってレバー切り替えの500ms前くらいにピークがあるような活動があるのが見つかりました。こいつがperceptual reportを反映しているというわけです。今回の場合もV4では逆向きの活動つまりnon-rivalrousな刺激でのpreferenceとrivalrousな刺激での条件が反転しているものが見つかりました。


PNAS, 94, 3408-3413 (1997) "The role of temporal cortical areas in perceptual organization." D. L. Sheinberg and N. K. Logothetis

んで、ニューロン活動のmodulationとしてはいちばんstrikingなのがITニューロンでの記録についてまとめたこの論文です。日経サイエンスとかレビューとかに出てくるようなデータはだいたいこの論文からです。やってることじたいはNature 1996と比べてそんなに新しくありません。Leverの報告でalignしたときの活動変化の図もありません。

メインの実験結果は、80%以上のニューロンでmodulationがみられるというもので、それまでのV1/V2/V4/MTとはかなり違います。また、V4, MTで見られたようなrivalrousとnonrivalrousとでpreferenceが反転しているようなニューロンがなかったという点も特筆すべきでしょう。ゆえに著者は"These areas thus appear to represent a stage of processing beyond the resolution of ambiguities---and thus beyond the processes of perceptual grouping and image segmentation---where neural activity reflects the brain's internal view of object"と結論づけています。ここでいう"a stage of processing beyond the resolution of ambiguities"っていうのがV4やMTで見られたような極性が反転しているニューロンがある領野と今回のIT野とのコントラストを強調した表現でしょう。

あと、この論文では一工夫してあって、図形A(preferred)と図形B(non-preferred)のほかに図形AとBのブレンドというのをnon-rivalrous conditionでは見せていて、このときはどちらのレバーも引かないようにさせています。これは重要。これがcatch trialの役目を果たして、forced choice taskとして答えさせないようにしてあるのですね。この論文でこれがどのくらい有効かが明確に示されているわけではないのだけれど。Binocular rivalryを経験してみるとわかるのですが、切り替わりはall-or-noneではなくて、ゆっくりと変わってゆきます。その間をどう答えさせるかというのが難問です。Nature 1996で出したようなレバーでトリガーして平均発火、というやつもそのperceptが見えてからどのくらいでレバーを引くかというのが自明でない以上、なかなかデータがきれいになりません。これはbinocular rivalryとflash suppressionの利点難点の議論に関わることになります。

それから、この論文でははじめてattentionとの問題が議論されます。Desimoneの論文とLogothetisの論文はどちらも1980年代でして、その当時ではどちらの説明がよりparsimoniousであるかということはもしかしたらそんなに意識されていなかったのかもしれません。しかし1990年代にはattentionで説明できるものはawarenessで説明できてもダメというコンセンサスは出来ていたといます。んでディスカッションの最後のパラグラフですが、

"Our view is that the phenomenon of binocular rivalry is also a form of visual selection, but that this selection occurs between competing visual patterns even in the absence of explicit instructions to attend to one stimulus or the other. ... Decades of research have failed to reliably demonstrate that the perceptual alternations experienced during rivalry are under the direct control of voluntary attention. ... As such, we believe that rivalry accentuates the selective processing that underlies basic perceptual processes including image segmentation, perceptual grouping, and surface completion."

つまり、なんらかの刺激に依存したselectionの過程であることは認めつつも、voluntary controlの使えるようなtop-down attentionの関わる過程ではないことを明言し、もっと刺激の分析に関わるようなselectionの過程である、と主張しているわけです。

Top-down attentionとconfoundしてしまうのはこの種の実験では致命的なわけですが、はたして他の種類のattentionとの関わりはどうでしょうか。Binocular rivalryでもその揺らぎ自体はarousalやsustained attentionのような要素を考えた方がよいでしょう。Backward maskingなどのnear-threshold conditionでのtrialごとのばらつきでも同様です。ですのでわたしの理解としては、タスク中のinstructionなどの操作によってawareness, visibilityがmanipulateされるとしたらそれはtop-down attentionとconfoundしていると言われても仕方ないけれども、trial中およびtrial間でのゆらぎのような成分はそれらをもとにした結果awarenessがmodulateされると言って問題がないのではないかと考えています。

さてさて、そうしたらbottom-up attentionとの関わりはどうでしょうか。Flash suppressionはbottom-up attentionとの関わりを無しに考えることは出来ません。これについては次回考えてみましょう。

なお、ここでいうattentionとawarenessとは事象のレベルとしては同じものではありません。たとえばselective attentionによってawarenessがmodulateされるということは言えるけれども、awarenessによってattentionがmodulateされるとは言えないことなどからもわかると思います。つまりattentionという認知科学的な概念が課題の条件によって操作されて、その結果は反応潜時だったり、visibilityのスコア(=awareness)だったりという形で行動として出てくる、ここで使っているawarenessはそうして計測される行動のレベルにある、というわけです。(Consciousnessからawarenessに移った段階でその種のeasy problemをあつかっているのです。) と書いてみたものの、このへんは専門家に意見を聞いてみたいものです。その議題は研究会へも持ちこんでみたり(この件はまた別でアナウンスします)。

なお、この論文の中ではじめてflash suppressionの結果が出来てきますが、それは次回。


なげーなげー。つづきます。この文章だけ読んでもほとんど話がわからないので原文を参照していただいたほうが。


2007年07月09日

Binocular rivalryおよびgeneralized flash suppression その1

Logothetisのbinocular rivalryおよびflash suppressionでの神経生理実験をジャーナルクラブで採りあげました。詳細をきっちり押さえておこうというわけです。
そもそもLogothetisはbinocular rivalryを使ってなにをしたかったかと言えば、"neural correlates of awareness"を探したかったと言えるでしょう。もっとも、表現はそれぞれの論文でいろいろ違っていて、"subjective visual perception"だったり、"monkeys' percepts"をニューロンが反映している、だったり"neural activity reflects the brain's internal view of objects"だったり"conscious vision"みたいな言い方をしたりするわけですが。
んで、awarenessとはなにかというと、David Chalmersは"Conscious Mind"の中では"I define awareness...as the state wherein some information is accessible for verbal report and the deliberate control of behavior."みたいに言ってます。また、"Psychological correlate of consciousness"という言い方もしています。わたしは"Awareness is a functional aspect of consciousness."であって、Ned Blockのphenomenal consciousnessとaccess consciousnessという分け方のうちのaccess consciousnessの方を指すものという理解をしています。実験条件で言えば、"Awareness is reportable consciousness."というのがいちばん操作的定義に乗せやすいでしょう。Thompson and Schall のvision research 2001("Antecedents and correlates of visual detection and awareness in macaque prefrontal cortex" PDF)では"To identify neural correlates of visual awareness an experimental manipulation is required by which a visual input is constant but perception of that visual stimulus varies."と言ってます。かれらはbackward maskingでこのような状況を作っていますが、このような実験パラダイムを最初に作ったのがLogothetisのbinocular rivalryだったというわけです。
ちなみにbackward maskingのようなnear-threshold visionにおけるimplicit perceptionの実験は刺激がとてもfaintであるために、awarenessの報告が出来なかったときにそれはno awarenessだったからかweak awarenessだったからかという問題がつきまといます(これがASSCでも話題になっていた、Snodgrassらが関わっている、SDTを使った議論です)。いっぽうで、binocular rivalryやflash suppression、それからmotion-induced blindnessのような実験パラダイムでは刺激はとてもsalientであるにもかかわらず、これが消える。このことがものすごい利点なわけです。
Binocular rivalryとかの説明は省略。ラボでは通販で一枚80円で買った赤-シアンのanaglyph glassesを使ってデモしました。Randolph Blakeのラボサイトの図を使用。Flash suppressionについてはいい材料が見つからなかったのでGIFで自作。それから土谷さんのところのcontinuous flash suppressionのデモページからmovファイルを落としてきてこれも実演。
うお、前置きですでに長いのでいったんここで切っときます。また明日。


2007年07月04日

ネオ・シューゲイザー、あとストーナー・ロック

ここさいきんは音楽雑誌なども読まなくなり、ナップスター・ジャパンで古いロックをさがして聴いているというかんじで、新しいものへの開拓が進んでいません。
最近気になってるのは、ネオ・シューゲイザー、あとストーナー・ロック。
わたしのシューゲイザー好きについてはChapterhouseについてとか(20050803)いろいろ書いてあるのですが、リバイバルしてるとは知りませんでした。なるほどどうりで"Whirlpool"が再発されたりするわけですね。マイブラ+エレクトロニカというかんじでいろいろ出てるらしい。Bounceの特集(*)。ここから辿れそう。以前スルーしたGuitar(20060317で言及あり)とかもこのネオ・シューゲイザーに入るらしい。となるとなんだか聴きたくなってきました。それにしてもネットって素晴らしい。
んでもって、ストーナー・ロックって想像力はベッドルームと路上からではじめて知ったんですけど、いけるかも。こちらのサイトからたどっていけそう。メタル寄りなのが心配だけど(わたしはせいぜいハードロックまで、ブラック・サバスくらいまでしか聴いたことない)、ギターかき鳴らしドローン繰り返し瞑想系は大好き。20000809で言及してるSpaceman3のAn Evening of Contemporary Sitar Musicなんてまさにこれ系の音楽ではないでしょうか。これ聴きながらタングステン電極作ってる俺ってなにもの、ってかんじですけど。ということでチェック。
* 追記:Bounceのサイトのニューゲイザーって呼び名はダサすぎる。ま、ネオってのもダメですけどね。80年代ネオサイケがオリジナリティーを獲得してシューゲイザーになったりするように(<-ここツッコミどころ)、ネオ・シューゲイザーも違う名前で呼ばれるようになったら一人前ということで(聴いてもいないのにエラそう)。前にも書いたけど、シューゲイザーが日本に輸入される過程で、Venus Peter(これはオマンチェか)とかPaint in watercolorとかがもろに影響受けたかんじで出てきたのはメジャーになれなくて、そういう空気をあたりまえのように吸ってきたスーパーカーとかが出てくると受容されるという過程と同じことが繰り返されていくのだろうなあと思うのです。ヒップホップの輸入も同じでしょ。つまり、キーワードは「屈折より素」。ネット用語で言えば「ネタからベタへ」。ってこれはロッキンオンへの投稿ではないのですが。(もうちょっとパラフレーズするならば、この現象は単に海外のものを輸入するのにはそれなりに時間がかかるということであって、送り手が新しい物好きから素で発信できるくらいまでの成熟を果たす必要があり、同時に聞き手がそれを受け入れられるようになるまでの時間が必要となる、ということでしょう。)
もっとも、シューゲイザーとは音楽雑誌用語でしかないし、シューゲイザーと呼ばれるものの中で革新的であるのはマイブラだけで、あとはエンジニアのアラン・モウルダーによる音作りでギターロックを飾り付けたにすぎない、とも言える。それでもライド大好きですけどね。
んでもって、20050803にも書いた自意識問題ね。「ひきこもり音楽」とでも言える要素はあります(「NHKにようこそ」読んだばっかりなもんで)。私だって大きな舞台に立ちたいさ、ただし、前髪を隠して、下を向いてギターをかき鳴らせるならね。そうしてFLstudioで打ち込みしてからギターをかき鳴らすのでした。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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