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■ 平瀬 肇さん@理研
平瀬 肇さん@理研の河西研主催でのセミナーに関して8/4に掲載しましたが、コメント欄に平瀬さん本人が登場してくださいました。先日コメントアウトした話題はもう学会でも発表済みとのことですので、論文に掲載されるであろうことにしぼって以下に掲載します。
後半はNeuroscienceにin press(まだArticle in Pressには出てきていない模様)の内容ということでした。こっちのほうが私の興味を引いて、いくつか質問もしました。In vivo imagingで毛細血管の血流量を計測してやる、というもので、fMRIで使われるBOLD シグナルやPETで使われるrCBFに対応するであろう赤血球の流速を直接的に測定してやろう、というわけです。これは将来性があるでしょう。ラットの尻尾からFITC dextranを静注して、毛細血管の中を走る赤血球の流れをimagingする、というものでして、毛細血管の直径と赤血球の直径は同じくらいなので、毛細血管の中を赤血球が走っているところではFITC dextranによる蛍光が弱くなる。ビデオを見ましたが、赤血球一個一個によってできる縞模様が実際に流れていくのが見えるのです。これを使うことで、毛細血管の中を赤血球が流れる流速no of RBC/secを計算できるというわけです。んで、bicucullineを局所投与してやるとそのまわり300micrometerくらいで血流が上がるのを見た、というわけです。んで、私の質問は(1) basal levelでpulsationなどによるoscillationは起こっていないのか、(2) basal levelで流速はどのくらいの空間スケールで同期しているのか、ということでした。どちらもfMRIなどのimagingのbackgroundになるであろう情報を期待していたのだけれど、私の英語が悪かったせいか、あまり理解してもらえなかったようでした。
(1)への答えは実際にそういう成分が乗っているのを周波数解析で見つけている、とのことでした。In-vivo behaving animalでの応用をするときには、pulsationやbreathingなどによるノイズが乗っているようだと試行の加算が必要で、one-trial levelでのimagingへの活用は難しくなってしまうだろう、という意図だったのですが、これに関しては河西先生のほうがもっと的確に質問をしていました。Trial levelでのfluctuationに関して、CV=std/meanの図が出てきて、けっこうばらついていることを示していましたが、むちゃくちゃランダムなノイズが載っているというわけでもなさそう(fano factor<<1だったし)でした。それならone-trial imagingにも使えるかもしれない。つまり、trial間の行動のvarianceを神経活動のvarianceとして関連付けるようなstudyにも使えるようになるかもしれない。
(2)の質問に対してはbicucullineの効きの広がりが300micrometerであることを最初に示していたのだけれど、それはbicucullineの広がり自体の問題もあるから、それが私の聞きたかったことではなかったのです。fMRIの最小可能解像度がどのくらいか、という問題だったのです。つまり、たとえばV1のocular dominance columnを活動させたとします。BOLDシグナルがocular dominance columnの形(~ 0.6 mm x 0.6 mm)に変動するとしたら、~0.3 mm x 0.3 mmのvoxelが四つくらいつながって活動が上がってこさせる必要があります。ちなみに田中啓治先生のところのNeuron("Human Ocular Dominance Columns as Revealed by High-Field Functional Magnetic Resonance Imaging.")では4TeslaのfMRIでocular dominance columnを0.47mm x 0.47 mm in planeで何とかギリギリ出していました。Depth方向には厚みがあってもよいように角度を決めてやった、というのがミソですな。しかしそのようなBOLDシグナルは毛細血管を走る赤血球の流れによって決定付けられ、しかも毛細血管は周りの血管とつながっているので、そんなにある局所が周りとは独立に流速が上がるなどということはありえないわけです。このため、赤血球の流速がbasal lebel(であれ、evoked responseであれ)でどのくらいのfluctuationと空間的相関を持っているかがBOLDシグナルの空間解像度のリミットを決めるであろう、と考えられるわけです。ただ、これは現実的には難しい問題を抱えていて、脳の活動自体もongoing activityのような空間的相関を持っている可能性があるので、流速のbasalでの空間的相関からは、[血管がつながっていることによる相関]と[神経活動が空間的に相関を持っている可能性]とが切り離せないのです。しかしそれでも流速の直接的なデータを持っているならば、いくつかの条件をふってcalibrationすることでそのような相関を分離することはできるかもしれません。
(3) なお、その場で質問しませんでしたが、時間解像度の問題としても非常に興味深いものです。BOLDシグナルはニューロンの活動によるエネルギー消費によってオキシヘモグロビンからデオキシヘモグロビンに変化するのを見ていて、実際のニューロン活動からは数secの時定数を持って上がってきます(haemodynamic response)が、実際の流速が神経活動からどのくらいの遅れを持っているのか、ということは重要で、流速のtime courseがわかればhemodynamic functionをdeconvolveできるのではないか、などと期待してしまいます。スライドでちょっと出てきた、imagingと電気生理の同時測定でbicucullineをapplyしたものでは、かなり速い応答で流速が神経活動に追従しているのを見ましたけど、実際の遅れはどのくらいかは見逃しました。
ということを発表後にもう一回聞こうかと思ったんだけれど、時間がなかったので河西先生と少し話をして退散しました。
なんにしろ、このへんはもう競争ですな。ここ何年かで結果は出てくるでしょうが、他の方法論で見たものを追試しました、からtwo-photonでなければ見れないものが出てくるまではあと5年はかかるでしょうか、それとも2年で出てくるでしょうか。現在のin-vivo two photonはfMRIの歴史でいえば、まだFristonによるSPMの整備もなければ、PETと比べてどのくらいアドバンテージがあるかまだはっきりとはしていなかった1992年ころの状態にあるのではないでしょうか(専門家のツッコミを待ちます)。
どのくらいの広さをスキャンできるのかの問題でしょうけど、たとえば最小限、麻酔下のcatのV1のocular dominance columnの隣り合った二つくらい、もしくは麻酔下のratでbarrel cortexの隣り合った領域くらいをimagingすることができるならば、システム的な解析ができるデータが得られるのではないか、と期待しています。
そういうわけで、関連する論文。
- Annual Review of Physiology '04 "Interpreting the BOLD Signal." Nikos K. Logothetis
- NeuroImage '04 "CBF changes during brain activation: fMRI vs. PET."
- NeuroImage '03 "Quantitative mapping of cerebral deoxyhemoglobin content using MR imaging ."
- Magnetic Resonance in Medicine '03 "Spin-echo fMRI in humans using high spatial resolutions and high magnetic fields."
- NeuroImage '02 "A Model of the Hemodynamic Response and Oxygen Delivery to Brain."
- Nature '01 "Neurophysiological investigation of the basis of the fMRI signal." NIKOS K. LOGOTHETIS
- Magnetic Resonance in Medicine '99 "Theory of the BOLD effect in the capillary region: An analytical approach for the determination of T*2 in the capillary network of myocardium."
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- / 投稿日: 2004年08月09日
- / カテゴリー: [Two-photon in vivo imaging]
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# Gould
非常に興味深いです!素晴らしい。ど素人ですが、質問は研究の華なので、質問させて下さい。two photonでのイメージングでは電位感受性色素などが用いられる場合があると思うのですが、この研究で用いられている手法はそれと比べてどのようなアドバンテージが考えられるのでしょうか?
# ガヤ平瀬さんのその論文の何に感動したって、データ自体とデータ処理の堅実性もさることながら、その発想にです。私もvivoで神経活動をイメージングしようと試行している最中、血球が流れるのは何度もこの目で見ているのです。しかも鮮明に見えるんですわ、これが。でも、神経の可視化で頭が一杯だった私には、血球の動きは“私の目的を妨げる邪魔物”くらいにしか感じなかったわけです。目の前に見えている現象をBOIDと関係付けようという発想はなかったんですね。平瀬さんが言うには、それ関連の論文は、(Confocalでは?)すでにあるとのことでしたが、私はひどく問題意識の持ち方が足りなかっなあと、その時感じましたね。このレベルの人間にはセレンディピティーはやってこなさそう ── もっと気合いを入れないとっすね。というわけで、平瀬さんはホントに素晴らしい研究者だと思ったのです(え?私と比べるなって?)
# ryasudaKarelのところに来て、この方法でみた血流と、intrinsic imagingと比べようとしてた人がいました。結局共同研究まで発展しなかったのですが。とりあえず、neuro-activityとどのような関係になってるのかがkeyですね。Gouldさん。電位感受性色素とは、まったく違うものを計っている、ということですよね。電位感受性色素は多分EPSPのような遅いやつが良く見えて、カルシウムではAction potentialが良く見える。血流変化は、そのずっとdown-streamなので、解釈はやや難しいんではないかな。少なくとも、fMRIの解釈には役に立ちますね。ちなみに2-photonではまだ電位感受性色素を測定するのは難しくて、普通はCCD+1-photonだと思います。PMTではこういう高signal、低SNRの測定には向いていないんですよね。
# ガヤBOLD関連は私はあまり詳しくないのですが、やはり個人的には、上のリストにも挙がっているLogothetis et al.「Neurophysiological investigation of the basis of the fMRI signal(Nature 2001, 412:150-157)」がArticleで出たときのインパクトがとても強いのです。この論文の評価はその後どうなんでしょうか? コンセンサスが得られたと考えていいんでしょうかね。
# Ryo神経細胞生理の分野で研究している側からみて、結局fMRIで見える活動って何を反映しているの?!という思いがずーっとありました。Nature(2001)の論文はインパクトでかかったですが、具体的に神経細胞orグリア細胞の(時空間的)活動とパラレルなのか分ると、細胞生理研究との距離がグッと縮まるのでしょうね。前職の慶應医学部のすぐ傍に「小川脳機能研究所」がありまして、所内を何度か案内してもらいました。fMRIの被験者登録をしてたんですが、留学のために被験者になれませんでした。ぜひ自分の脳を見てみたかったなぁ!残念。電位感受性色素はマスで見ている場合、細胞の活動が同期してないと活動電位由来シグナルもEPSP由来シグナルも加算されて、おそーいのっぺりシグナルになってしまいます。遅い奴が見えるというより、全部遅いシグナルに見えちゃうという感じかも。あら、何の質問にもなってないや。また次回。
# ガヤさらにRH482などの色素では、マスで見ているとグリアの膜電位(←周辺の神経活動に伴って遅延性の脱分極が起こる)まで反映されてしまうんですよね? ここら辺の話題はたぶんRyoさんがお詳しいのではないかと思いまして。 というかGlutamate TrasporterのUptakeによるNa+流入でそこまで膜電位が変化するんですね。やはりGlial Feetが細いからなんでしょうか。
# RyoGlutamate TranspoterはNa流入で十分脱分極します(Kojima et al, JNS, 1999)。グリアにパッチしてトランスポーター電位(電流)を測ってみるとよく分ります(Diamond et al, NEURON, 1998)。パッチでは細胞体周辺の電位を反映しているのに対し、膜電位色素では脱分極している突起上の膜電位変化を捉えていると思われます。グリアのCable特性やLeakCurrentを考えると、突起先端では結構デカイ電位変化がおきていると思われます。しかし色素によって神経に染まりやすかったり、グリアに染まりやすかったりするのはいったい何故なんだろ。
# ガヤRyoさん、どうもです。さすがレスが迅速で的確! カルシウム色素では場合によっては、じつはミトコンドリアを測っているなんてこともありますから、色素による細胞局在の差もまた重要ですよね。なぜ差がでるのかはやはり謎です。
# はじ(1) 血流オスシレーションについて、(毛細血管の)動脈側で計測すると、心拍と同期化したオスシレーションがはっきりと見えます。心拍のオスシレーションや、呼吸のオスシレーションの影響もあるので、2,3分のイメージングを平均化したデータでなければきれいな結果は見えないということでしょう。また、交感神経、副交感神経レベルでのゆっくり(10分から1,2時間の周期単位)とした血流量の変化もある(らしい)のですが、これは、測り(れ)ませんでした。(2) 局所癲癇フォーカスの300μm以内で、しっかりとした血流量の勾配がみられているということは、毛細血管の血流量レベルでは現在fMRIで計測できる解像度よりも精密に機能していることを示唆しているように思えます。。最近のアストロサイトの毛細血管の口径の制御(Zonta et al 2003)の知見もふまえて、これからが面白い展開になってゆくのではないでしょうか。Basalレベルでの同期ですが、(これは論文にも書きましたが)、ガルボスキャンの方式では、一回のイメージングで観測できる血管はせいぜい二つまでなのです。ニポを含めて、イメージング速度の発展が望まれます。3) ひげ刺激や、におい刺激では、1〜3秒後の血流の反応が見られますが(kleinfeld 1998, Chaigneau 2003)、例の癲癇スパイクでは、スパイクが起こるのが2、3秒間隔なので、あまり(数例を除いて)きれいなスパイク対しての反応はみられませんでした。せめて、癲癇スパイクが10秒に一回くらいの間隔で出てくれると助かるのですが。ガヤさん:あの血流イメージングは昔から共焦点でも二光子でもされてたことです。あの論文で、あえて新しいのは、脳波計測電極に蛍光色素を含有させて、計測した血管と脳波の物理的距離をしっかりと測定したことくらいでせふ。
# Atlus素人質問で、すみません。In vivoでの2光子イメージングに興味を持っています。僕は、かつてin vivoで研究をはじめましたが、どこに薬物が効いているかはっきりしないので、さっさとin vitro系へと変更してしまったクチです。現在のin vivoでの2光子励起の時空間解像度、限界の深さはどの位まで達したのでしょうか?また、下の書き込みから勝手に推測してしまいましたが、アストロサイトは、血管とニューロンとを結びつけているため、脳表に蛍光色素をかけてもアストロサイトが選択的に染まるということでしょうか。もし、とくに蛍光色素を運ぶ系がないなら、なんらかの孔(gap junction?)でつながっているがあるのでしょうか?直経のことなる蛍光色素を使用したら、その孔の大きさとかはかれるんでしょうか?
# ryasuda2-photonは、普通のSettingだと普通は200umくらいが限界かな。Pulse-regenerator + x20 NA0.9のObjective(低倍が大事) + custom optics etc.. で、1000umくらいはいけるはず。M.Oheim et al., Journal of Neuroscience Methods 111(2001)29-37が詳細を論じてます。きちんと深さを定式したのは、このOheimの論文が始めてでしょう。Astrocyteは、AMがなくても、簡単に入る水溶性の色素もあるらしいですよ。血管と直接はつながってないと思いますけど。膜にいろいろなtransporterがあって、ものを取り込みやすいのかな?
# ガヤおお、1000umまでいけますか。我々もx20 NA0.95を使ってますが、なかなかそこまで深部は鮮明には記録できません。脳スライスの厚みくらいなら余裕で透過しますが。。。Karelのところの2光子は良くTuningされているとCarlosから聞いています。 アストロと血管細胞のカップリングについてはJ Comp Neurol 429(2001)253-269などが参考になるかと。他にも文献があったような気がしますが、ちょっと今は思い出せなくてすみません。いずれにしてもryasudaさんがおっしゃるように血管内腔から直接グリアにつながっているわけではありませんね。
# Atlusなるほど。1000umまでいけるんですか。すごっ。生きている動物で、uncageとかもできたら、おもしろそうですね。勉強になりました。
# pooneilはじさん、ご返答ありがとうございます。論文が手に入るようになったところで、neuesが何であるかということも併せて、また検討させていただきます。
# ご隠居Logothetis et al. (2001),確かにインパクト高かったですね.どのような点が皆さんの強い印象に残っているのでしょうか?synaptic vs. spikingという観点では(そんなに話は単純じゃないと多くの方がお考えでしょうが...) Logothetis et al., 2001では引用されていませんが,よそではLauritzenらの仕事がoriginalとして引用されることが多いようです.Mathiesen et al. Modification of activity-dependent increases of cerebral blood flow by excitatory synaptic activity and spikes in rat cerebellar cortex. J Physiol 512:555-566, 1998.Lauritzen and Gold. Brain function and neurophysiological correlates of signals used in functional neuroimaging. J Neurosci 23:3972-3980, 2003. (Review)ついでにLogothetis et al. Ultra high-resolution fMRI in monkeys with implanted RF coils. Neuron 35:227-242,2002の印象や評価はどのようなものなのでしょうか.BOLDに関しては小川誠二先生のPNAS(1990, 1992),MRM(1990)の後,Biophys J (1993)でその信号元のシュミレーションとモデルを出しています.BOLDの信号元のシュミレーションについてはBoxerman et al. MR contrast due to intravascular magnetic susceptibility perturbations. Magnetic Resonance in Medicine 34:555-566,1995が(完成版として!?)引用されることが多いようです.MRIの条件(シークエンス(SE,GE)やエコー時間)や血管径とBOLD信号の関係をシュミレーションしたものです.SE BOLD fMRIは微小血管(10micro以下)に対して感受性が高く,一方GE BOLD fMRIはより太い血管に対する感受性が高いため,large draining vessel由来の信号が強調されてしまい,空間解像度を落としてしまう,というよくご存知のストーリーの基になる仕事です.fMRIの空間解像度を議論する際にはMRIのシークエンスとパラメータがとても重要なようです.