[月別過去ログ] 2009年07月

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2009年07月27日

ASSC13 Berlinの感想

6月にASSC13@Berlinに行ってきたんでその感想を書こうと思ったまま放置してました。記憶をたどりつつ書いてみます。
今年のミーティングは前半はほとんどひとりで過ごしてました。空き時間はホテルでスライド作りっていうかMatlabいじってたり(ギリギリすぎ!!!)。後半の方はUCLの金井さんと東大渡邊研の高橋さんとメシ食ったり語ったりしてました。いつも通り演説口調だったけど。今回はそのときがいちばん面白かったかな。
なんというか今回は端的に面識のある人があまりいなかったんですよね。Alex MaierもMelanie Wilkeもいなかったし、Olivier CarterもHakwan Lauも土谷さんもいなかったし。今回はちょっとニューロサイエンス色が弱くて、それよりかは心理物理って印象でしょうか。あと、Ned BlockもChristof Kochも会場でほとんど見かけなかったし。(サボりをいいつけるオレww)
私の発表の方は今年もトークでアクセプトされたのですが、今年入ったセッションはなんかanimal consciousness系というかんじで、私の次のトークは「魚には意識はない、なぜなら視床がないからだ」っていう突っ込みどころ満載の人で、そのつぎはソーク研究所のDavid Edelmanで、「タコに意識はあるか」というよりは「どのくらい知的な行動ができるか」というもので、こちらはおもしろくてまっとうな仕事なのだけれど(もうすぐTICSにレビューが出るとのこと)、基本的に行動についての仕事で、ニューロンの話はなし。ともあれ、それだけ動物での話というのが全体でも少なかったということです。これは会場がヨーロッパであるが故えのことですかね?
というわけで、私はゴリゴリに電気生理の話(「盲視のnhpにはある種のawarenessがあって、それが上丘で表象されている」)をしたらなんか浮いてた。ただ、それなりにオーディエンスは多かったし、chair personはPetra Stoerigだったし、Ned Blockも見に来てたし(あとたぶんAnil Sethもいたような)、John-Dylan Haynesも一番前で聞いてくれて、質問してくれた。というわけで届けたいと思った人には届いたのでよかったのではないかと思います。(2年前のラスベガスのときと比べたらpresenseという意味では大進歩ですよ。)
John-Dylan Haynesの質問は、「普段の行動で見えてないと思えるような証拠はあるのか」というもので、それは想定内なので返答をしたけど、ともあれあまり深い話にはなりませんでした。
Petra Stoerigと会うのも初めてだったので、hemianopiaの人のどのくらいがblindsightになり得るのか聞いてみたんだけど、リハビリのモチベーションがあって十分トレーニングできればだいたいresidual visionがでてくるみたいな話をしてくれた。あと、nhpのblindsightはtype II的なものなのではないか? PetraのCerebral Cortex 2002のRosieのデータなんかはそのように見えるけど?みたいな質問をしたら認めてた。とくにRosieは長期間トレーニングをしているからtype II-likeなのだろう、みたいな話になった。そういう意味ではうちのがtype II-likeなのと整合性がある。種差の問題とかもそれで解決しそうな印象。そういうわけで、Petraと私との間でこの点に関する争点が消失してしまった!!! Petra自身はなんつうかおっとりとした方で、がんがん論争をぶつけるとかそういうかんじではないのでちょっとつかみ所のないのだけれど、ともあれ今回のドイツ行きの目的の大半はこれで済んでしまった。(あとは、もしVSSに行けてたらPaul Azzopardiと議論できたはずなのだけれど。)
今回の学会で印象深かったのは、Tononiのintegration theoryがものすごくフィーチャーされていた点でしょうか。Prenary lectureがTononiだっただけでなく、Kochもこれの解説と簡単なシミュレーションとかをトークでしゃべってたし、Anil SethもTICSの内容(integration theoryと自身のgranger causalityについての研究をまとめたネットワーク的振る舞いについての計算論的研究とかをまとめたもの)をしゃべってた。以前わたしはTononiのinformation integration theory of consciousnessでこういう話は好きだけどempiricalな問題への応用可能性の点で懐疑的だ、みたいなかんじで書いていたのだけれど、こういう状況を見てたら、なんかもう少し時間をかけてしっかり勉強してみようという気になりました。これが最大のポイントですかね。あとは上記の通り、ニューロン活動記録のような話がほぼ皆無(fMRIとかEEGとかはたくさんある)だったんで、ちょっとこの状況は気になりましたね。もうSFNのほうはだれかが呼んでくれるときに行くことにして、VSSとASSCに積極的に行き続けようとか思っていたのですけど、ここは心配。(次回はcosyneにも行っておきたい。)
今年のミーティングはひきこもり気味だったのであんまり観光に行ってないですけど、会場が市内の中心地(ミッテとか自由大通りとかそっち)だったんで、美術館島とか行ってきました。やっぱドイツだし、ということでiPhoneにはAmon DüülとかCANとかクラウトロック系を入れておきましたけど、これが正解。ペルガモン美術館ってヘレニズム系のでかい遺跡がたくさん並んでるところが有名ですけど、バビロニアのあれ(頭が鷲で体が兵士みたいなやつとか)が並んだ「イシュタール門」ってのがあるんですよ。これはかなりキタ。さっそく博物館の説明用のヘッドホンのふりしてAmon Düülの"Psychedelic Underground"を一曲目から通しでずっと聞く。すげーよく合う。見るもの全部なんかサイケデリックなかんじにさせてくれました。残念ながら音量は控えめにしてましたけどね。良い経験でした。歩き疲れて、ペルガモンの大祭壇に座ってAmon Düülの"Paradieswärts Düül"の気怠いの聴いたり。あと、行く前はテクノ系クラブ行こうとか気合い入ってましたけど(Tresorとか調べてたんですけど)、ちょっと無理でした。時差ボケで夜10時には寝てたし。
さて、学会の終わりには次回の会場が発表されていて、ASSC14 (2010)はトロントでMervin GoodaleがPresidentだそうです。そして、いよいよ来ましたよ! ASSC15 (2011)は京都で霊長研の松沢先生がPresidentです。さーキタキタ!!! これは忙しくなるよ!!! (なんか勝手に準備体操とかしてる。)
というわけでそんなASSC15に向けてという面からも、今年の岡崎のワークショップNIPS-SSCをどんどん盛り上げて盛況でいきたいと思います。(NIPS-SSCという名前からわかるように、ASSCから名前をパクってます。Olivier Caterはべつにいいって言ってたんでありってことで。そういうわけで、NIPS-SSCは非公式pre-ASSC meetingという位置づけにしてあるのです。) というわけでぜひポスター応募(締め切り7/31)の方をよろしくお願いします(宣伝にも抜かりなし)。


2009年07月23日

トークのタイトルと要旨を掲載しました

どもども。体重の方はキープしてますよ。去年の12月から半年で18キロ落としたところで安定、というか停滞してます。ベスト体重まではあと7キロ落とす必要がありますが、それは生理研の国際研究集会終わったくらいから再開する予定です。それまでは国際研究集会の方で超ダッシュってかんじです。
生理研国際研究集会「認知神経科学の先端 意識の脳内メカニズム」NIPS International Workshop for Scientific Study of Consciousnessの件ですが、準備が着々と進んでおります。講演者の方の要旨がだいたい出そろいました。[Program]からどうぞ。
神経科学とダブってトークをする方には、岡崎では別の内容のお話をしてもらうようにお願いしてあります。クリストフ・コッホなんて3回トークがあるんですけど、全部別ネタですよ。タフすぎる。オリビア・カーターも神経科学の方はMIBで、岡崎の方は幻覚とかそれ系らしいです。前者は台北で聞いたけど、後者は聞いたことがない。楽しみです。ジョン=ディラン・ヘインズも7秒ネタとデコーディングネタと分けて話してくれるはず。というわけで、神経科学大会に参加する方は岡崎の方もぜひぜひどうぞ。
若手の方の運営手伝いを募集しておりましたが、多くの方に応募していただきましたので、募集を終了しました。もうすぐ個別にご連絡差し上げますので(ほんとうは今晩のつもりだった)。
ポスター発表の申し込みの方もそろそろ締め切りが近づいてきました(7/31)。応募がお済みでない方はぜひ期日までにどうぞ。出すか出すまいか迷ってる方は基本出す方向でご検討ください。(すんません、すんません、「基本」ってのを使ってみたかっただけなんです。)


2009年07月18日

Saxon Shore見てきた!

ども。さいきんはポストロック系-エレクトロニカ系ばっか聴いてます。(以前も20090202で書きました。) だーまえ日記でSaxon Shoreについて言及されてたのを見てなんかうれしくなったんでついでにググってみたら、ちょうど来日するところではないですか!これは運命の導き、ということで名古屋(今池)のライブハウスまで行ってきました。
今池はけっこう昭和の香り漂う町で、古いパン屋とか、ダイエーとか、飲み屋街とかを通り抜けてHuck Finnに到着。前座を一つ見て(ギター+打ち込みとドラムの二人組で好きな音だった)、体力的に自信がなかったのでsgtはパスして再入場。開始は9時20分くらいか。
屈強な男たち登場。なんかさっきダイエーのトイレで黒Tシャツの外人とすれ違ったんだけどドラマー? というか、さっき後ろで剣玉で遊んでたやつら? フロントマンはベーシストで、ドラマーはなんか人なつっこい男で日本語駆使してた(「チョットマッテクダサイ」とか)。左にジャズマスター抱えたやつがいて、こっちがアルバムで特徴的なキラキラしたギターフレーズを奏でてた。右にギブソンの黒レスポール抱えたヒゲがいて、こっちはぶっとい音でノイズ出しまくってた。というかんじで、"Thanks For Being Away"からスタート。Saxon Shoreの曲はCDとかだとエレクトロニカ寄りのけっこうカワイイ音なんだけど、ライブでは轟音系だった。それがスゲーよかった!!! ダウナーに入りこむ哀愁系の曲よりは、"Marked with the Knowledge"みたいなキュートなギター曲が轟音系に変貌する方が楽しめた。ちなみにキーボード系はみんな打ち込みでした。メンバー来てないみたい。
ライブハウスは結構ちっこいところだったから、私の前にいるオーディエンスは30人くらいだったと思うけど、みんないいかんじに揺れてた。"Bar Clearing Good Times"のときにこころなしか揺れが横になってたのがなんかうれしかった。この曲大好き。
いよいよ佳境になったときにベースが「前回日本に来たときについての曲なんだ」と紹介が始まったから、"Tokyo 412am"キターとか思ったらなんかファンキーなベース弾き出すんですけど。え、新曲?とか思ってたらいやマイケルジャクソンじゃん、とかいうことでみんなウケてた。(mixiで見たところ、このネタほかのところでもやってたらしい。)
ということでほんとに"Tokyo 412am"始まったけど、ここがハイライトだったと思う。始まりはエピックハウスみたいな涼しいキーボードフレーズから始まって(Key作品のBGMにあっても違和感ないかんじ)、いつのまにか轟音ギターかき鳴らす構成。この人たちの曲って途中からホントのメインテーマ登場みたいなの多いんだけど、この展開にはほんと痺れた。
でいったん引っ込んで、アンコールで"Secret Fire, Binding Light"。これは最新アルバムで再録されたもので、ラストでノイズ鳴りっぱなし10分ってやつだけど、ライブではメンバー全員が引っ込んだ後にドラマーだけ戻ってきてアンプの電源消して終了、っていう終わり方だった。
終了時は10時25分、トータル1時間ちょいだったけど、もっと聴いていたかった。ベースはすぐ会場に出てきて握手とかしてたけど、わたしはすっかり満足して、さっくり帰った。会場のオーディエンスは男女比同じくらいでしたかね。私みたいなオサーンはいなくて、だいたいみんな大学生ってかんじでした。アロハ着て入場したら、こいつなにもんって顔された。けど、まあ、わたしに居場所などないのはどこに行ったって同じで、ロック系だろうが、オタク系だろうが、体育会系だろうが、アカデミック系だろうが、いつだってそうなんで、俺はどこへ行っても、異邦人として生きるよ。(なんかかっこいいこと言ったつもり。)
追記:はてなで見つけたライブレポ


2009年07月13日

Classification / Identification / Reconstruction

遅ればせながら、fMRIによるmind reading paperであるGallantのところのKay et.al. 2008と神谷さんのところのMiyawaki et.al. 2008を読んできました。

そうこうしているあいだにGallantのほうはcosyneやVSSでbayasian decoderを発表してるし(見に行けなかった)、神谷さんの方もこのあいだの視覚研究会で先に進んでいる様子を拝見しました。ここでは、大規模電気生理記録への応用をイメージしながら、conceptual frameworkを中心にまとめておきます。キーワードは[Classification / Identification / Reconstruction]、それから[Encoding - Decoding / Generative - discriminative]で。

単純化してまとめます。まずEncoding / Decoding modelの違い:

  • 学習データは S_j (刺激パターン) - R_j (応答パターン)の対。
  • Encoding modelでは S_j -> f() -> R_j の変換をするf()を学習する。
    (f()は刺激に対する応答特性だから、tuning curveを作っているということ。)
  • Decoding modelでは S_j <- g() <- R_j の変換をするg()を学習する。
  • g()はf()の逆変換なのだから、もしf()またはg()がお互いから計算できるならばencoding model - decoding modelには差はない。しかしそう簡単にはいかない。
    • 行列表現で考えれば、 R = F*S; S = G*R となり、G = inv(F)となる。しかし、BOLDのような多次元データでは正確な逆行列を得ることはできない。
    • 確率表現で考えれば、Fはp(R|S)で、Gはp(S|R)なので、ベイズの公式から、G = F * P(S) / ∫ (F * P(S)) となる。この計算には同時確率P(S,R)が必要。これはBOLDのような多次元データでは難しい。(NaNが続出しまくるので内挿する必要がある。)

こうしたうえで、三つの論文でやってることをまとめるとこうなります、

  • [Kamitani and Tong 2005]は[Decoding modelによるClassification]
    • 学習段階:0,22.5,...180degのorientation刺激によってdecoding modelを作る。
    • テスト段階:応答パターンRjから推定した刺激S_hat_jが45degと135degのどっちに属するか決定する。
  • [Kay et.al. 2008]は[Encoding modelによるIdentification]
    • 学習段階:1760枚の自然画像 (20deg diameter, 500 pixel, gray scale)でencoding modelを作る。Encoding modelはV1 simple cellを模したgabor waveletに基づくモデル。
    • テスト段階: 応答パターンRjが、刺激セット{S_1,…, S_120}から予想される応答パターン {R_hat_1,…, R_hat_120} のうちどれに近いかを決定する。
  • [Miyawaki et.al. 2008]は[Decoding modelによるReconstruction]
    • 学習段階:440枚のチェッカーボード画像 (10*10 pixel, binary, flickering)でdecoding modelを作る。Decoding modelは1*1, 1*2, 2*1, 2*2のパッチをlocal image basisとしたモデル。
    • テスト段階: 応答パターンRjから推定した刺激S_hat_jそのものを計算する。

これに補足的コメントを付けます。

[Kamitani and Tong 2005]では、角度ごとのdecoderがあって、novelなimageのorientationが45degか135degであるかは、R_iに対する45degのdecoderの出力と135degのdecoderの出力とを比べて判別する。でもいったんこのdecoderができれば、45deg or 135degという判別問題だけでなく、0-180degのdecoderの出力の重み付けで連続的に角度を推定するという回帰問題も解くことも可能なはずです(どのくらいの精度が出るかは別として)。これはすでにorientationを「reconstructしている」ということができるでしょう。(Classification - Reconstructionの違いは判別問題と回帰問題の違いに帰着する。)

[Kay et.al. 2008]のencoding modelは刺激セットが既知であることが必須です。このencoding modelだけでは、脳の活動だけから刺激をreconstructすることはできません。Reconstructionのためには学習したencoder f()から逆変換 g() = f-1()を作ってやる必要があります。これは上記の通り、必ずしもうまくいくとは限りません。(VSS2009やcosyne2009で発表したものではreconstructionまでやっているそうですから、上記のベイズの公式を使ってf-1()を作っているのではないかと思います。)

[Kay et.al. 2008]でのindentificationの正答率は120枚のテスト刺激で92% (110/120; chance = 1/120)とstrikingな数字を出していますが、この数字の評価には注意が必要です。テスト刺激の刺激画像のあいだの類似性などに基づいて評価する必要があります。また、なにか他のモデルとの比較も必要です。ここではretinotopy-only modelというのを使っていて、モデルからorientation, spatial frequency, phaseを除いたモデルでの成績を出しています。retinotopy-only modelよりも今回のgabor wavelet modelのほうが成績がいいと書いてあるのだけれど、じつのところ、retinotopy-only modelでも成績は結構良い(‾60%)。つまり、風景の画像だったら上のほうが明るいとか、画像の明るさの位置情報だけあれば結構当たるということです。というわけで、正答率での評価はわかりやすいけどだまされやすい。

ちなみに[Kay et.al. 2008]の本文には統計的検定のp-valueがまったくない。これはベイジアン的立場からすればあり得るのかもしれないけど、92% (110/120)がどうsignificantなのかをどう評価したらよいのだろうと思います。たとえば上記のgabor wavelet model - retinotopy-only modelだったら、モデル選択の側面からAICやBICで、orientation, spatial frequency, phaseをモデルに入れる意義を評価できると思うのだけれど。(Supplementary infoとか読んでないので、そっちにはあるのかもしれないけど。)

[Miyawaki et.al. 2008]では、reconstructionができるということはとうぜんidentificationも可能なわけで(reconstructした刺激と一番近い刺激セットを選ぶ)、このdecoding modelのidentificationの正答率を評価していますが、刺激セットが100のときで90%以上となり、[Kay et.al. 2008]と比べても性能が高いことがわかります。これは後述のgenerative modelとdiscriminative modelとの関係に関わると思いますが。

しかし図を見たところ、reconstructionの成績をどう評価するかというところがわかりにくい。前述の通り、Classification問題は判別分析なので正答率で評価される一方で、Reconstruction問題は本質的には回帰分析なので残差で評価されます。正答率110/120を評価する必要があるのと同様に残差0.2がどのくらい小さいのかをどう評価したらいいんだろうかと思います。Single-trialでもreconstructできる、という図およびムービーのインパクトはべつにして。モデル間の比較としてはV1/V2/V3それぞれだけを使ってモデルの評価やlocal image basisの選択の評価のところで残差を使った評価が出てきてはいるのですが。

Encoding / Decoding / Reconstruction などのissueに関しては"I can see what you see." Kay KN, Gallant JL. Nat Neurosci. 2009 Mar;12(3):245にある図がわかりやすいです。

さて、んで、このencoding model - decoding modelのところを機械学習で言うところのgenerative model - discriminative modelとつなげて考えてみようというわけです。generative model - discriminative modelに関してはBishop本(PRML)を参照するべきでしょうけど、ここでは信学技報「ベイズ統計の流行の背後にあるもの」 伊庭幸人などを参考にまとめてみます。(この講演のまとめが「ベイズ統計の流行の背後にあるもの」にあり)。

Generative modelでは、データの生成過程をモデル化する。全データの同時確率P(S,R)が入手できるのでベイズの公式が使える。これによって順モデルから逆モデルを作る。教師無し学習では、こちらのほうがモデルからのズレに対してrobust。

Discriminative modelでは、目的に必要な条件確率P(S|R)のみをモデル化する。教師有り学習では、(一般的に言って)計算量が同じなら、こちらの方が成績がよい。

神経生理学者としては、multi-unitのcluster cuttingをイメージすると良いのではないかと思います。二つのunitをどう分けるかという問題があったときに、PCAとかで2次元のscattered plotにして、そこに判別直線を引いて分類するのがDiscriminative modelです。(SVMもこっちに入る。) いっぽうで、そのような2次元のscattered plotでふたつのgaussianのprocessからふたつのunitが生成されると考えて最尤法でその分布を推定した上で、新しいデータの判別には尤度比を使うというのがgenerative modelと言えばよいのでしょう。そうすると、generative modelのほうが手数が多くなることがわかります。Clusterが二つとわかっているときはDiscriminative modelでよいでしょうけど、clusterがひとつかもしれない場合はmixture of gaussianのmodelingをgenerative modelで行う必要があるのでしょう。

同様にして信号検出理論についても考えることが出来ます。信号検出理論は、ノイズと信号の分布を推定したうえで尤度比で決定を行うということから、generative modelなわけです。というか判別問題よりも生成モデルの推定自体が目的なのだからそりゃそうなわけですが。(生成モデルの推定という意味では、正規分布の過程を取っ払ったらどうなるだろうかとかいろいろ出来ることがあるように思います。)

神経生理学者としてはGenerative modelのようにいくのが正統派な気がします。生成モデルを作るということは脳の応答をcharacterizeするということなわけですから。ただ、このあいだの視覚研究会での神谷さんの質問の受け答えを見てわかったのですが、なるたけdata drivenかつmodel-freeでいくことを貫こうとすると、discriminative model的に行く意義があるのかもしれないと思うようになりました。それで、ほんとうはなんか両者の統合が出来たらいいんじゃないかと思うんです。つまり、まだじゅうぶん生成モデルを作れないような状況下では成績の良いdiscriminative modelを作るのが先で、data-drivenにdecoderを作ってやって、それの逆変換からgenerative modelを作るとか、なんらかつなげて考えればよいわけです。どのくらいそれが可能なのかはよくわからないのだけれど。

たぶん方法論的な制約の問題もあって、fMRIだからdiscriminative modelから始める意義があったということになるかもしれない。これまでの神経生理では個々のニューロンの順モデル(=tuning curve)を作るのは容易だったわけで。しかし、ニューロン記録が同時大規模なものになったときには順番を逆にして考えた方がよいかもしれない。どのように情報がencodeされているか(高次のinteractionの成分とか)は自明ではない。だから、どのような情報を持っているかをまずニューロン集団の活動からdecodeしてやる。そのうえでニューロン集団としての順モデルを作る、というような順番が必要なのかもしれません。

Decoding-encodingをつなげる、という意味で重要だなと思ったのが最近のレビューの"Looking for cognition in the structure within the noise" Trends in Cognitive Sciences 13(2), 2009, Pages 55-64です。これは海馬のplace cellの話に関するものですが、encodingとdecodingとspike patternのreconstruction (generative model)とを組み合わせることを提唱しています。図式的には以下の通りになります:

  • [行動データS_i]と[スパイク列R_i]から[encoding model (tuning curve)]が作れる:R_i = f(S_i)
  • [スパイク列R_i]から[encoding model f()]から[行動データのreconstruction S_hat_i]が作れる:S_hat_i = f-1(R_i) (スパイク列の場合、f()からf-1()が作れる)
  • [encoding model f()]と[行動データのreconstruction S_hat_i]から[スパイク列のprediction R_hat_i]が作れる:R_hat_i = f(S_hat_i)
  • [実際のスパイク列R_i]と[スパイク列のprediction R_hat_i]とを比較する

これでたしかに一周します。もっといろんなやり方があると思うのだけれど(何人かの人はすでに考えているだろうけど、わたしもmicrostimulationのことを考えている)、こういうのを組み合わせた実験デザインがこれからはより重要になると思います。これが川人先生の言う「操作脳科学」の具体例になるのだと思います。

関連する話はShuzoさんの「ノイズ」の中の脳機能およびしかさんの「神経科学における検証に再構成を使う」にあります。文脈的にうまくつなげられなかったけど。

あう...見直してみた。Generative modelうんぬんはちゃんとFrisonの一連の論文とか、Raoのpredictive brainとかそういうところと話をつなげるべきなのだけれど、その手前で息切れしました。ふたたびこのへんに触れるときにはそのへんまで行ってみたいのだけれど。そっちが本丸だと思う。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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