[月別過去ログ] 2014年04月
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■ "Messy Mind"の威力
アンディ・クラークの「現れる存在」の付録部分(駒場での連続講義)読んでたんだけど、"Messy Mind"という概念を知って衝撃を受けた。つまり、ニューラルネットワークを使って外から問題与えて学習させるようなパラダイムを、FPGAのような物理的な実現の制約の中で行うと、ちょっとありえないような雑な('messy')な解決方法が出てくると。ここで出てきたのは論理演算をするデジタルな回路を学習するはずが、隣接した回路からの影響(回路をデザインするときには極力避けたい部類)というアナログな影響を積極的に利用しているという例だった。アンディ・クラークによるスライド資料:Messy Minds: Embodiment, Action, and Explanation in 21st Century Cognitive Science
Messy MindとFristonがどうつながるのかがわからない。Messy Mindは問題解決をするのは必ずしも脳でなくても良いし、身体の機構を使っても良いし、あるものなんでも使うって話である一方で、フリストンだと予測誤差はなんか脳内でもいいし、行動でもいい。というあたりでつながるのだろうか。Messy Mindで「漏れだす」という言い方をする一方で、active inferenceではいちばん予測誤差を大きく減らせるところで減らしてゆく、みたいな最適化の思想かと思っていたのだが、messy mindもイメージはGAだろうからそんなに変わらないのか。
Messy mindの話を読んでいて、たしかにこのようにして漏れ出すものをいくらでも使っていけるのだとしたら、ニューロンのスパイクだけでなくて、局所電場電位のような、もともとはもしかしたら脳の層構造が生み出したbyproductに過ぎない(かもしれない)ものをなんだかんだと利用してシステムの一部に組み込まれていて、そこには整然としたハイアラーキーとかは必ずしもない、っていうような理解でこのへんはすごく納得がいく。
脳波のcross frequency couplingとかも意義が正直よくわからなかったけど、とにかく起こってしまったものが使われて、システムに組み込まれてしまうのだったらそれもありかなと。自分が思った以上にsingle-unit至上主義者であったことに気づいた。
こうなると、脳と身体と環境、そして脳の中でもミクロとマクロの階層性みたいなものをもっと断念する必要がある。もともとそれはrecursiveなものなのだからシリアルではないっていうことはわかっていたつもりだったし、神経回路が短絡路だらけであることもわかっているつもりだったけど、messyであることの威力はそれ以上だった。
もしmessyであるのならば、物理的な遠隔作用であれ、シンボリックなものであれ、成り立ちの必然性から読み取ろうとするのは不充分であり、無謀であるようにも思えてきた。もちろん反動はあって、じつのところどの程度までmessyであるか、決定的な影響はあるのか、という線形 vs. 非線形、みたいなことを検証してゆく必要があるのだろう。
messyといえば、盲視そのものが、同名半盲からの機能回復の方策としてはmessyな解決方法であるといえるのではないだろうか、ということに思い至った。
"messy mind"が「猥雑な」ってなんかピンと来ないよなあと思ってmessyでgoogle画像検索してみたら、汚部屋の画像がぞろぞろと出てきたので納得がいった。似非関西弁で言うならば「むちゃくちゃですがな」みたいなかんじ。
2014年04月19日
■ NINS Colloquiumで話題提供しました(2013年12月)
NINS Colloquiumが近づいてきたけどどうしたものか。「セッション4 時間の流れに沿ったエポックの発生と「揺らぎ」」というところで話題提供をすることになっている。
自分の立場からすると、意識が脳と身体と環境の相互作用によってさまざまな意識下の情報の流れを背景に、意識的なものが生まれては消えということを繰り返す。Transientなセルアセンブリが生まれては消える、みたいなVarela的な意識観を紹介するとして、そのまえに自己紹介的に盲視の話をして、意識的な視覚と「なにかあるかんじ」との対比の話をその話の導入に使う。
「意識と時間」みたいな話では面白いトピックはいろいろある。たとえばLibetのtime-on仮説もRPもそうだし、color-phiとかbackward maskingとかsaccadic suppressionとかpostdictionとかそういった、「脳はじつは切れ切れになった情報処理を、必ずしもシリアルではないやり方で並べて、ある主観的な時間の流れを作っている」みたいなかんじのお話をすることはできる。
でもそれだけよりかは、力学系的脳観と神経現象学と、意識の統合を目指すトノーニのIITのような試みとかを紹介する方向のほうが楽しいと思う。
30分で収めるとしたらこうか:1) 盲視が明らかにした「視覚意識」と「なにかある感じ」 2) 脳は後づけで意識の流れを作る(止まる秒針の話) 3) 不安定な構造を作っては壊すという脳観 4) 力学系的な脳と一人称的な経験の流れ(精神現象学) って無理か。
NINSコロキウムの内容をもうちょっと考えてみたけど、あんま意識がどうのって話をするよりは、脳の活動のゆらぎとかそういう実験事実を中心にしたほうがよさそうだ。たとえば、同じ分科会には物理経済学の高安秀樹氏がトークするから、意思決定のdiffusionモデル(=ランダムウォーク)とかなんかはかなり共通性を強調して議論できるだろう。
以前書いたことだけど、diffusionモデルは一定の閾値を想定しているけど、実際には砂山が崩れるように臨界状態でのバーストを考えたほうがいいのだが、まだそこまで進んだモデルが役に立つレベルであるわけではない。
同様に、サリエンシーモデルもちゃんとやれば視覚刺激を処理するフィルターから、spiking neuron networkのダイナミクスへと移行できるはずだ。やっぱ話の順番を変えて、脳と意識の概論から、盲視の研究を紹介して、より力学的な方向性のアプローチを提案する、くらいまでか。
うーむ、いっそのこと、「意識」も取っ払ってしまって、ChrchlandのNatureとかNat NeurosciとかNewsomeのNatureとかあのへんを持ってきて、意志決定、運動開始、知覚、さまざまなところでinstabilityが起こっている証拠が集まりつつある、みたいな話をもってくるほうが(VarelaとかKelsoとかのEEG関係のデータよりも)強くて良いのかも。学会じゃあないんだから堅さよりは、面白いと思ってもらえればよい。他人の仕事の紹介になっちゃうから、あんま広がりは期待できないのだけれども。
脳と力学系という意味ではEEGによるseizureの予測というのが事例としてよく使われるのだが、じつのところMARTINERIE et al (VarelaとLe Van Quyen)とかも含めて再現性に難があって問題は解決してない。Brain. 2007 "Seizure prediction: the long and winding road"
NINS colloquium の話題提供終了。ランダムウォークの話に絡めるためにサッカードの応答潜時のdiffusion modelを持っていったが、話が細かいところに入りすぎてしまってこれはうまくなかった。力学系の話まで出来たので目的は達した。ただ、物理学者の前で力学系の話をしても当たり前すぎてインパクトがなかったので、ここからどう議論を展開するかが課題。
ブレインストーミングも終了。物理学者はみんなズケズケ物を言うのでけっこうしんどかったが、最終的には頭の中が整理されて、すごく有益だった。最後にはフリストンの自由エネルギーの話までした。と入っても詳細を理解してもらったわけではないのだけれども、
宇宙や分子とか、本当に物理法則で力学系をやっている人たちと、経済とか脳とかアナロジーとしての力学系をやっている人がいて、経済物理学でやっているようなことは力学系モデルとして良いプロトタイプになるのではないかと。要は力学系であるからには拘束条件となる多様体があって、多様体とかカッコつけたけど、とにかく曲がった平面があって(脳が取りうる状態は限られている)、そのうえでゆらぎを持って動くときの物理法則、例えばポテンシャルに対応するものを見つけることができるならばそれを充分捉えられるだけのデータ量とミクロマクロの記述レベルが決まると。
そういう話を伺って、なるほどそれはまさに自由エネルギー最小仮説だなあと思った。私自身はたくさんニューロン記録して、状態空間作って、その推移則の微分方程式みたいなものが作れればいいんだろうと、間違ってはいないけどどうとりかかったらいいかわからないイメージを持っていたのだけれど、高安先生の話にあったような、ポテンシャル関数が推移則の中に入っていて比較的低自由度で動態を記述できるというやり方なら、脳全体からの同時記録とかができるようになる前でも、空間的に限りはあってもより長時間の記録で高次の空間までありうる状態を記録してゆくことでできることはありそうだ。
力学系、力学系とさんざん言ってきたが、実のところ脳に応用する限りそれは単なるモデルであって、本当の物理ではない。だから、うまくいけばよかったねだし、うまく行かなかったらモデルが悪いか評価関数が悪いかという問題。
もちろん、ニューロンの発火自体は物理であって、HHモデルは微分方程式なわけで、スパイキングネットワークモデルはHHを簡略化してはいるけれども物理だけでニューロンのネットワークの発火までやってしまおうということ。
行動分析や連合学習理論はそういう意味では行動の推移則を作るだけのデータとモデルを持っているので、いま書いているような考えとは実はかなり近い位置にあると思う。
昨日書いてたことでひとつ抜けていたのが、ブラウン運動とランジュバン方程式の話か。ってググってみたら酒井裕さんのテキストが出てきた。
Diffusion modelってもっと力学系にできないもんかと思って調べてみたら今回見つけた論文:Roxin A, Ledberg A (2008) PLoS Comput Biol Neurobiological Models of Two-Choice Decision Making Can Be Reduced to a One-Dimensional Nonlinear Diffusion Equation
2014年04月13日
■ 統合情報理論IITについていろいろ考えた(2013年12月版)
トノーニ説のうち「intrinsicな情報」って部分がほんとうにintrinsicだろうか?そもそも「情報」であるべきなのだろうか?っていう部分ををいろいろ変えて試行錯誤してみればいいんではないだろうか、ってのが7月のSFNで大泉さんと話してて考えたこと。「複雑さ」でもいいわけだし、というかトノーニがEdelmanとやった90年代の仕事ではまさに「複雑さ」だった。
統合情報理論IITに関連して素朴な考えなんだけど、けっきょくのところ意識かどうかは別として脳の統合の度合いを定量化したいのだから、それにはいろんな定量化の仕方があって、べつにエントロピーだってかまわない。とノーニ理論でのもう一つの縛りは「脳にとっての情報」intrinsicであるという点なのだけど、それはさておき、脳にとっての情報であるかどうかは脳が使っているかどうか、何をコードしているかということから決まるので、あらかじめ決められるようなものではないので(スパイクを使わない、messyな解決法がありうる)、あれでいうintrinsicってほんとうにintrinsicか?って思ってる。
統合の度合いってのはけっきょくのところ個々のニューロン、サブセットのニューロンの活動では説明できない部分ってことになるので、だったらそれって高次相関じゃん?って思う。ヒトの860億個のニューロンの860億次相関なんてものはそもそも組み合わせ爆発で計算出来ないので定量化が不可能だってのと、IITでのphiが計算出来ないってのはそういう意味ではおんなじ話なんじゃないかなって思う。
だからさまざまな次元圧縮が出てくるわけだけど、それは人間のためのものでしかない。脳だってそれは計算していない。その計算出来ないような高次な構造が出来たときに物理法則として意識が創発する、みたいな論理構成の作業仮説になっているということだと思う。
ついでに思い出したらメモっておきと、VarelaやThompsonの"downward causation"って概念があるけど、個々のニューロンの活動がボトムアップに脳全体の脳波とかを作るのとは逆に、脳波の位相とかによって個々のニューロンの活動のタイミングが影響される、というのはdownward causationだと言ってよいように思うけど(もちろん循環してることそこが本質)、サブパーソナルのニューロン活動からパーソナルな意識、思考、行動決定の向きの逆が起こっていることをdownward causationと言っているように思えるときもある。
こちらは疑わしい。サブパーソナルでのcausalityとパーソナルでのcausality。このへんが以前の「物理的モデル」のあたりで考えたことなんだけど、つまり、ニューロンの状態空間での推移および心的(現象的)状態空間での時間推移を力学的モデルで対応づけることが可能だと、isomorphic (NCCが目指しているもの)だけではなくって、homeomorphicであるっていう話だった。
そういうことが可能なのかどうかは置いておいちゃあいけないのだけど置いておいて、どういう正しい力学系モデルを作るってのは結局のところ、Henry Markramのブルーブレインみたいにニューロンのコンパートメントモデルのレベルから脳全体の動態を物理法則(トランスミッターの拡散、膜電位の分極の移動、その他ぜんぶ)でモデル化した「本当の」物理モデルの近似として脳が「あたかも」あるポテンシャル関数を最小化するようにランジュバン方程式(<-知らないくせに言葉だけ使いたがるw)を作る、みたいなのがいわゆる(本当の物理法則ではない)「力学的モデル」ということのようだ。
自由エネルギー最小化原理もそうであって、「原理」という言い方にあるように、これまで知られている脳の動態(予測誤差最小含む)を包括的に説明しようとすると自由エネルギーであるといえる、というようなのがあの「原理」という言葉の選択であるらしい。って自分で言っててもうなにがなんだかわからないので、風呂掃除始めます。
っていまの書き方だと自由エネルギー最小化原理がランジュバン方程式になってるみたいな書き方になっているけどそのつもりはない。(<-過剰防衛)
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- / 投稿日: 2014年04月13日
- / カテゴリー: [トノーニの意識の統合情報理論]
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2014年04月06日
■ Python関連で試行錯誤 (2013年11月バージョン)
Mac上で動かしているPsychoPyがスタンダローンバージョンだといろいろプラグインを使うときに不便。(TobiiやらEyeLinkやらNIのUSBやら。)そこでこの機会にEnthought canopy入れてpython環境整えてみる。
もともとはMacPortかHomebrewで環境を構築しようと思っていたけど、プラグインとかで、もともと入っているPythonとの関係がなんだか不安だ。Enthought canopy入れればscipyとか各種全部入るようだし、もう少し調べてみる。
ちなみにすでにScipy Superpackを入れてあるので、Macに入っているPythonでscipyとかを使うことはできる。PsychoPyではEnthoughtを使うのを推奨してる。
そういえばScipy Superpackを入れてあったのだ、と思い出したのでiPython動くかどうか調べてみたら、動かなくなっている。そういえばMavericksにしてからいじってなかった。Superpackのアップデートをしておく。
Scipy Superpackのコード見たところ、easy installコマンドを使っているわけで、まずはライブラリと本体のpythonとの関係とかそのへんを理解しておこうと思う。いままでこのへんずっと回避してきた。
PsychoPyはいまだに64bit対応していない。これはかつてはpygletが32bitだったのが理由だが、pygletは1.2で64bit化された。しかしPsychoPyがpyglet1.2に対応していないため、今年4月段階ではまだ64bit対応がなされていない。つまりMacでは使えないということ。
Python(x,y)とSpyderを知った。なるほどこりゃほとんど見た目Matlabだ。Enthought canopyとかと競合するようだが。
Scipy Superpackよくよく読んでみたら、64-bit buildsをインストールする、って書いてあった。ということはここでpsychopyをインストールしても動かない。やっぱenthought canopyか。
Scipy Superpack入れるとStatsmodels, Scikit-Learn, PyMCが入るので、Rの代わりにもなるし、機械学習もできるし、MCMCもできる。素人なりにtutorialとかいじっていると楽しいのだが時間がどんどん飛ぶので、我慢している。
Pythonにはggplot2みたいなものもあるのか:Bokeh しかもネーミングは日本語語源だった。"Photographers use the Japanese word “bokeh” to describe the blurring ..."とのこと。
追記:PsychoPyの設定の件、けっきょくこれまでの実験系をぶっ壊さないように、外付けSSDにMarvericksインストールして、そこにcanopy 32bit入れて、easy_install psychopyにて動作確認した。参考: psychopy-users
あとはここから、standaloneバージョンには入っていないようなplug-inを入れてってちゃんと動作するかどうかとか検証してゆく。
追記2:PsychoPyで刺激を出して、フォトダイオードで提示時間測って、ばらつきがどのくらいあるかを評価。最終的には、刺激の提示と、Labjack U3での計測とTTL出力と、EyeLinkのデータを同期させるのをMacで正しく行う。
LabJackPythonを使うためには、USBのドライバ(Exodriver)をインストールする必要があるが、Marvericks上でインストールしたら "import u3”でモジュールを読み込めない。エラーをよく見たらこれはパーミッションの問題で、chmodしたら解決した。
とさらっと書いたが、じつは土曜日に解決できなくて週末越えて月曜になって解決。遅々として進まず。ちなみにMountain Lionのときにはパーミッションの問題には遭遇しなかった。なんか変わったんだろう。
LabJackはStream Modeにしないとイカンかと思っていたが、ふつうにports.readRegister(FIO4)を繰り返すだけで0.8msecごとに読めることが判明したので、これで充分だった。
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