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2004年09月30日

PLoS biology 10月号

"A Neuroeconomics Approach to Inferring Utility Functions in Sensorimotor Control." Daniel M. Wolpert。タイトルの"Neuroeconomics"が入ってきたという、いかにも流行に合わせてみました、という感じだけどどうか。
Daniel M. Wolpertはこれまで何度か出てきましたが、内部モデルの人です。運動を最適化させるような課題を人間の被験者に行わせて、それをモデル化するということをやってきたわけです。最近のNatureではベイジアン的な最適化が行われていることを示していました。今回はその課題をforced choiceにして、その選択が運動課題の二つのパラメータ(かかる力の最大値Fとduration T)によってどう変わるかの三次元プロットを作ってやりました。つまり、レバーを動かしてカーソルを移動させるタスクで途中でレバーに力がかかるようにします。二組のFとTの組み合わせでどちらが楽にカーソルを目標値に持っていくことができたか被験者に報告させます。この選択率からutility functionを計算してやります。 このプロットのパターンは被験者がF*Tを最小化している、またはFを最小化しているときに予想されるパターンとは異なっており、もっと非線形であるようだ、というのがこの論文の結論です。
二つのパラメータをふって選択をさせることによってeconomicsの応用と言える要素を導入しているわけです。mmrlさんの8/31のコメントからすると、Dorris and Glimcherの場合、二つのターゲットがあって、reward probabilityとreward量とをふってやって、どっちを選択するかを調べてやることでutility functionを計算してやって、indifference curve上でのutilityが等しい二条件でかつ行動選択率が違うような条件でLIPニューロンの活動を比較する、および行動選択率は同じだけれどuntilityが違うような二条件を比べてやった、ということになるのでしょう。繋げてみるとなんとなくわかってきた。Utilityは選択そのものによってdefineされ、valueはパラメータの掛け算によってdefineされる、と言えばよいか(<-読んでから言え、俺)。
なんにしろ、expected valueとexpected utilityの違いについてもうちょっと整理してみる必要があります。パスカルからベルヌイ。[ミクロ経済学での限界効用]と[フォンノイマンとモルゲンシュテルンのutility theory]と[カーネマンのprospect理論]との関係。調べてみました。これについては明日書きます。
ところでutility function(効用関数)の三次元プロットがあって、それのうちの同じutilityの点をつないだのがindifference curve(無差別曲線)なわけです。例えて言えば、地図は緯度と経度の二つのパラメータによってそこの標高が決まります。同様に二つのパラメータ(消費財)から効用が決まります。その地図で同じ色が塗られているところをつないだのが等高線です。同じ大きさの効用の場所の線をつないだのがindifference curveです。いわば「等効用線」ですよね。気圧の等高線のほうが毎日天気予報で見てるからイメージが湧くかもしんない。
しかし、この「無差別曲線」という広く使われているらしい日本語訳って変ですよねえ。だってindifferenceって「差がない」という意味ではなくて、"lack of interest"(無関心)なわけですから。"Involving no preference"とか"unbiased"とかの語義のほうが近いのだろうけど。中立線、なんてどうだろうか。そういえばindifferent electrodeの訳は不関電極で直訳っぽいけど、これはこれで意味がわかりませんな。難しい。

Nature 9/30

"Small modulation of ongoing cortical dynamics by sensory input during natural vision."
結論は"sensory evoked neural activity represents the modulation and triggering of ongoing circuit dynamics by input signals, rather than directly reflecting the structure of the input signal itself"。となるとAMOS ARIELIのNature '03 "Spontaneously emerging cortical representations of visual attributes."との関連が知りたくなります。


2004年09月29日

Neural Networks June-July 2004

"Feedforward, feedback and inhibitory connections in primate visual cortex." Edward M. Callaway。ついでにこれも貼っときます。


2004年09月28日


2004年09月27日

Nature 9/23

"A frequency-dependent switch from inhibition to excitation in a hippocampal unitary circuit." BEAT H. GÄHWILER
おお!Gähwilerとはなつかしい名前が。私は以前slice cultureで電気生理をやっていたのですが、Gähwilerはslice cultureのオリジネーターです。スライドガラスにplasma clotで海馬スライスをくっつけてやって、ぐるぐる回しつづけながら培養するとスライスの厚みが一層だけになって、よりたくさんのニューロン間の結合が形成されます。この系を使って彼らは以前もCA3とCA1の錐体細胞でシナプス結合のあるペア(unitary circuit)からパッチクランプをして、ひとつのCA3からの入力でCA1の錐体細胞にどれだけの影響があるかとか可塑的変化を起こせるかとかを検証していて、すげーと思った覚えがあります。スライスが一層になる過程でacute sliceと比べてシナプス結合が多くなってしまうことをどのくらいポジティブに捉えるかが問題なわけですが。これが約10年前の話*1
今回はこの系を使って、dentate gyrusのgranule cellとCA3の錐体細胞とからpair recordingをして、preのgranule cell一個の発火頻度によってpostのCA3がどのようにmodulateされるかを調べたら、preの発火頻度によってpostへの影響が全体として興奮性になったり抑制性になったりすることがわかった、というものです。これがNature級なのかどうかはワシにはもはやわかりゃせんのじゃがの(ご隠居になってみる)。

*1:ちなみに当時私はミリポアのmembrane上での静置培養のほうを使っており、こちらのほうはスライスが一層になることもなく、pyramidal layerが広がることもないので、Gähwilerらのやり方よりもよいのではないかという信念を持っていました。とくにfield potentialを記録するにあたっては。

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# ご隠居

pooneil翁も年をとったのう...なにしろおたっしゃでな.

Vision Research

"Visual information transfer across eye movements in the monkey." Henk Spekreijse and Pieter R. Roelfsema


2004年09月24日

Neuropsychologia

"Are Greebles like faces? Using the neuropsychological exception to test the rule." Gauthier
5/1および8/26にとりあげたGauthier vs. Kanwisherによる「fusiform face areaは顔に専門化した領域なのか」論争関連の論文が"ご隠居のにゅーろん徒然草 9/24"にてとりあげられています。

JNS 9/22

Cerebral Cortex

"The Anatomy of Spatial Neglect based on Voxelwise Statistical Analysis: A Study of 140 Patients." Hans-Otto Karnath。Spatial hemineglectの原因部位は頭頂葉ではなくて側頭葉だった、とするNature論文(20040719にて前述)の著者による続報。


2004年09月23日


2004年09月22日

大阪の神経科学会

大阪の神経科学会に行ってきました。mmrlさんに会って私の実験の話を聞いてもらいました。どうもありがとうございます。たいへん助かりました。
ついでにラーメン屋めぐり。大阪駅前ビルの「楼蘭」の柚子塩ラーメン、神山町の「大勝軒」のつけ麺、道頓堀の「神座」で小チャーシュー麺。梅田阪急三番街はRONがもう閉まっていたのでインデアンカレーに行きましたが、私には辛すぎました。

"CORDUROY'S MOOD" フィッシュマンズ

"CORDUROY'S MOOD" フィッシュマンズ CORDUROY’S MOOD
んで帰って車でこれを聴いた。佐藤伸治氏の死後、なんかフィッシュマンズのアルバムを聴けなくなっていたんだけれど、なんかいつのまにか喪が明けた感じ。
二曲目大好き。以前はギターでEm7-A7-D7-Gをかき鳴らして歌ったものです。同時期に出たシングル「100ミリちょっとの」といっしょにカセットテープに入れて聴いたものですが、現在は入手できなさそう。"King master george"に入っているのは別バージョンなんですよね。


2004年09月21日

Back-to-back

を以前(4/18)貼っときました。Nature Bionewsに載ってましたが消えてる。内容紹介があったんだけれど。 でもって、最近ずっと気になっているんだが、こういう関連する二つの論文をくっつける、いわゆるback-to-backってのはいつから始まったんでしょう。システム神経科学系で私が一番印象に残っているのは、1999年のVarelaTaubとのそれぞれがgamma-bandのEEGが認知に関わっていることを示したやつなんだけど、たぶんそれ以前にもあるでしょう。Psychophysicsだったら97年のMorroneの"Compression of visual space before saccades."Schlag-Rey and Schlagの"Perceived geometrical relationships affected by eye-movement signals."があります。昨年はYusteMcCormickのup-state, down-stateというやつがありました。(調べたのだが、去年はこれだけのようだ*1。)ほかに皆さんが知っているのを募集します。


*1:こんなこと調べちゃう俺に乾杯。

ADF "Enemy of the Enemy"

ADF "Enemy of the Enemy" Enemy of the Enemy
を聞いてみました。MCのDeederが脱退したあとの第一作なのだけれど、うーむ。バックトラックはたしかによくなった。以前は[ドラムンベース+ラガ]と[民族音楽の掌編]とが分離していたのがほぼ完全に融合されてます。"Fortress Europe"のイントロなんてもう最高なのですが、入れ替わった二人のMCはかなりヒップポップ寄りなのでどうも馴染めない。Deederのすっとぼけた("New Way New Life")、あるときは激しい("Free Satpal Ram")ボーカルがもう聴けなくなってしまったのです、あぁ。と言いつつデカい音で車で鳴らしてます。


2004年09月20日

愛知人チェック!

愛知人チェック!
ソースは某所より。
東京生まれの東京育ちであることがアイデンティティの一部でありつづけている私ですが、三河で生活すること8年目、もはや第二の故郷です。私が該当するのは以下の項目でした。12/138。少ない。

  • 情報誌といえば「ケリー」「チーク」「東海ウォーカー」である。
  • 蒲郡競艇のマスコット「トトまる」の絵描き歌を知っている。でも描いたことはない。
  • 「メイダイ」は「明治大学」のことではない。
  • 愛知には名古屋の他に三河地方があるということを強調したくなる。
  • 世界の山ちゃんの看板の絵は中村雅俊に似ている と思う。
  • ヤマナカやナフコの「おつとめ品」につい目が行ってしまう。
  • 冷やし中華には、必ずマヨネーズを入れる。
  • 琴光喜には横綱を目指してほしいと思っている。
  • テレビジャック状態に流れる「マリエール岡崎」のCMがうざい。
  • 名古屋清水口の美宝堂のCMに出ている少年の成長を、これからも見守り続けたいと思う。
  • 「カール・名古屋コーチン味」「プリッツ・八丁味噌味」「おっとっと・みそ煮込みうどん味」を土産にしたことがある。
  • 名駅前の「大名古屋ビルヂング」の「ヂ」の文字が気持ち悪いと思ったことがある。
ていうか、項目が三河人向けというよりは、名古屋の人間向けなんですよね。


2004年09月17日

PLoS Biology 9月号

"Amplification of Trial-to-Trial Response Variability by Neurons in Visual Cortex." Matteo Carandini @ Smith-Kettlewell Eye Research Institute。
CarandiniはFersterのところで出したJNS '00 "Membrane Potential and Firing Rate in Cat Primary Visual Cortex."などで、cat V1のsimple cellやcomplex cellからintraで記録して視覚応答を記録することで、これらの細胞でどのようなsynaptic inputがあって、それがどのような出力(=spike)になるか、とくにspike数で定義されるreceptive fieldやorientation selectivityなどがどのようにしてできるかについて研究してきました。
ここで扱われているvariabilityの問題は長いあいだ問題になっていたものです。つまり、われわれがリンゴを見るときには、リンゴに特異的に応答するニューロンはたしかに活動しているのだけれど、繰り返しリンゴを見てるときにそのニューロンが出す活動電位の数はまちまちです。そこでいろんな疑問が出てきます。そのようなばらつきの元は何か、入力自体か、入力から出力を生成するところか。そのようなばらつきのある応答と私達のゆるぎないリンゴだという認識とはどういう関係にあるのか。後者に関しては多数のリンゴ応答ニューロンのoutputが平均されることでそのばらつきは消えるのか、という問題にもなります(究極には、その出力を「誰」が見ているのか、という問題になるわけですが)。
関連論文:

んで、今回の論文は前者の問題に答えようとしたわけです。In vivo intraで繰り返し視覚刺激をしたときの応答のばらつき(variability)を調べてやると、membrane potentialのvariabilityはspike数のvariabilityよりも小さかった、というのが結果でした。んでもって、そのようなばらつきの元はmembrane potentialの揺れからaction potentialを起こすthresholdがばらつくことによるという仮説の下にモデルを立てて説明した、ということらしい(さっぱり読んでない)。図の数からするとモデルの方がメインらしい。


2004年09月16日


2004年09月15日

J.J.ギブソン

直接知覚論の根拠―ギブソン心理学論集 勁草書房 直接知覚論の根拠―ギブソン心理学論集
K.Moriyama's diaryより。
ギブソンの遺稿を編集した"Reasons for realism"の抄訳らしい。さらにその大元となった遺稿集が
The Purple Perils: A selection of James J. Gibson's unpublished essays on the psychology of perception
ということらしい。ちなみにここでそのような遺稿がたくさん読めます。"Overt and Covert Attention"を1974年にギブソンが議論しているのに驚いたり。
目次

Current Biology 9/7

"Contrast, Probability, and Saccadic Latency: Evidence for Independence of Detection and Decision." R. H. S. CarpenterRoger Carpenterに関しては1/24-30でJNP '04 "Accuracy, Information, and Response Time in a Saccadic Decision Task."についてextensiveにやりました。その割にはうまく計算できなかったのだけれど。LATER modelに関してはそちらを参照してください。
で、saccadeのlatencyの分布を決めるfactorとしていままでprior probability、decision criteria (urgency)を扱ってきたわけですが、今回はそれにtargetのcontrastというパラメーターが加わってきました。
結果としては、contrastはLATER modelのrise timeのslopeに効いていて、そのようなdetectionのパラメータとprior probabilityのようなdecisionに関わってくるパラメータとが独立に操作できる、というものです。
Figureは三つ。二つのパラメータで記述したグラフがあって、ひとつずつのパラメータで記述したグラフが二つあって、それで終わり。シンプルすぎるというか、なんというか。'95 Natureからこういう論文しか書いてませんな。
Signal detection theoryだとおなじcontrastのtargetのdecision criteriaをふってみて、detectionを調べる、ということになるので、じつはpsychometric functionと食い合わせが悪い。d'を使ってpsychometric functionのthresholdを決める、なんてのはあるけれど、d'=1にすべきなのか、d'=2にすべきなのか、という点に確固たる基準はないようす。横軸をcontrastにして縦軸をd'にしたようなグラフでdetectionをモデル化することができるだろうと思うんですが。だからLATER modelをSDTと統合することができればもっとよくなるのではないでしょうか。LATER modelでの余計な仮定(linearにsignalの量が上がってくるとか)を取り除いて、SDTで使われるnoise、noise+signalの二つの正規分布からのデータが時間的に加算されていってnoiseとsignalとの間の分離がはっきりしてきてあるthresholdを越えたところでresponseが起こる。Prior probabilityはnoiseの分布に影響を及ぼし、decision criteriaはdecisionを行うthresholdの上げ下げに効いてくる、ぐらいにすればよいと思うのだけれど。


2004年09月14日

iHP-120買った!(二ヶ月前に)

iHP-120買った!(二ヶ月前に)iRiver iHP-120
こういうときにiPodとか決して買わない私。20GBあって、mp3だけでなくてOgg Vorbisも聴ける(これ最重要)。電池も16時間保って、FMラジオも聞けて、ボイスレコーダー機能もついていて、PC接続に専用ソフトが不要、と最高なのだけれど四万以上するのであきらめていました。
ところがKakuta sofmapでヘッドホンつけると3万1千円になるのを見つけて、慌ててネットカフェに入ってネット調べて確認してその場で購入(安いが重たいCreative NOMAD Jukebox Zen Xtra 30GBにするつもりで秋葉原に行ったのだけれど)。
で使用開始して三ヶ月目ですが、不満はほとんどありません。車で使うのが主ということもあって、もっと手探りで選曲しやすいといいのだけれど。これに関しては、m3uを編集する、というのが筋かもしれない。
あと、FMトランスミッタに金をかけなかったのには後悔しました。二千円くらいのアナログ式のやつを買ったら、調整してもすぐ周波数がずれてきて雑音が入る。指での微妙な調節が必要。隣の県まで行ったときに使ったら、いきなりFMラジオと混ざってしまうが、高速道路運転中なのでいじれず、あきらめたり。やっぱサン電子 FMTM-101SANDENSHI FMTM-101 FMトランスミッターを購入したほうがよかったみたい。


2004年09月13日

Nature

"Recollection-like memory retrieval in rats is dependent on the hippocampus." HOWARD EICHENBAUM。
TulvingのReal episodic memoryのcriteriaに関して:
アメリカカケスが普段やってる餌隠しは餌というexternal stimulusに依存しているからこのcriteriaには合格しません。しかし、external or internalな生理学的刺激に依存しないような行動とは何でしょうか*1。アリジゴクのように、何の脈絡もなく穴を掘り出して、それを落とし穴に使うのではダメなのでしょうか、それともそれは土という刺激、もしくはreleaserによって誘発された行動というべきでしょうか。Tulvingのこのcriteriaは行動分析学のタームからして有意味なものであるのかどうか検証する意義がありそうです。
とはいえ、気持ちはわかります。生理学的刺激に依存しないような、真に自発的な行動をこそ見たいわけでしょう。しかし、これこそが意識を操作的に定義しようという泥沼に入りかけている証拠です(ここでは自発性という概念にすり替えてはいますが)。
SquireはAnnual Review of Neuroscience '04 "THE MEDIAL TEMPORAL LOBE."でrecognition memoryについてどう書いているか:
YonelinasのNature Neuroscience '02 "Effects of extensive temporal lobe damage or mild hypoxia on recollection and familiarity."をreferして、recollectionが海馬に、familiarityが海馬周辺皮質に依存していると提唱されていることを紹介する一方で、自身のNeuron '03 "Recognition Memory and the Human Hippocampus." Manns et.al.を引いて、海馬に限局した障害を持つ患者さんでもrecollectionとfamiliarityとが同程度に低下している例があることを示します。また、Cogn Affect Behav Neurosci '04 "Recall and recognition are equally impaired in patients with selective hippocampal damage."においてYonelinas et al. (2002) をかなり批判的に扱っているようすです。
また、RK judgementが基本的には被験者からの主観的な報告(remember or know)に依存しているということにRK judgementの結果が論文によって違っていることの理由を求め、"Further work will be needed to decide this issue."として閉じています。
また、animal modelでのrecognition memory testに関しても記載がありますが、rodentでのthe novel object recognition task (二つ同じ物体aを呈示して探索させたあとで、物体aと物体bとを呈示すると、動物はnovelな方を選ぶ)においては


This task depends on a spontaneous tendency to seek novelty and would seem to depend less on recollection of a previous event and more on the simple detection of familiarity. To the extent that rats and mice do base their performance in this task on the ability to discriminate between familiarity and novelty, the impairment in this task after hippocampal lesions provides direct evidence for the importance of the hippocampus in detecting familiarity.

と書きます。つまり、recognition memory taskでも、条件によってrecollectionとfamiliarityの成分比は違うだろうというわけです。で、Eichenbaum論文に戻れば、この論文で使っているtaskは(ratにとっての)recollection-likeな要素が必要とされるようなtaskかどうか、ということが状況証拠のひとつとして重要になることでしょう。つまり、familiarity (or novelty) judgementだけで解けるようなものでないかどうか。もっとも、これではepisodic-like memoryのcriteria ('what-where-when')に逆戻りです。これはもともと、'what-where-when'というcriteriaがfamiliarityによっては解けないことを保証するために作られたのだから当然なのですが(ただのdelayed-matching-to-sample taskがfamiliarな方を選べば解けるのに対して、Claytonのtaskはfamiliarityの程度に関しては同じになるように統制されています。)。


*1:Internalな生理学的刺激とは、たぶん食事や睡眠と関連したものとして見られるでしょう。

コメントする (2)
# NHK

この辺りはpooneilさんの独壇場で、私などが出てきてもろくなコメントができるものではありませんが、大変面白く重要な問題であることは私にも分かるということを是非お伝えしたくてコメントしています。Practicalには、エピソード記憶の想起に限らず、様々な認知機能には意識的な側面と無意識的な側面があり、これを分離し、その差異を見出すということが研究の取っ掛かりにならざるを得ないのかなぁと思っています。たとえそれが意識を操作的に定義することであっても。Eichenbaum論文についていえば、動物に判断基準のバイアスをかけさせる手法は(是非は別として)大いにヒントになりました。

# pooneil

おひさしぶりです。>>様々な認知機能には意識的な側面と無意識的な側面があり、これを分離し、その差異を見出すということが研究の取っ掛かりにならざるを得ないのかなぁうむ、そうですね。そういう意味でGoodale and MilnerのDFさんの話とかもanimal modelを考えられないかなあと思います。あと、Eichenbaumの「動物に判断基準のバイアスをかけさせる手法」、これ自体はまったく問題がないと思っております。2/10にも書きましたが、signal detection theoryでbiasを変えさせてROCカーブを作成するには二つの方法があります。(1) 確信度評定をする、trialごとに被験者にその選択にどのくらい確信があるかを5段階評価してもらい、確信度ごとにhit rateとfalse alarm rateを計算することで5つの点からROCカーブが書ける、(2) discrimination targetの出現比やrewardの比をmanipulateすることによって選択の判断基準を変えさせる。Animal modelでは(1)は不可能なので、(2)に行くわけですが、(2)はブロック単位で条件を振らないといけないのであんまりデータがきれいにならないという印象があります。Eichenbaumは(2)のほうを使ったというわけですが、Fig.1d-fでは複数のラットのデータを全部足しこんでROCカーブを書いているようで、これはとてもまずいと思います。


2004年09月11日

Nature: Episodic-like memory in rats

"Recollection-like memory retrieval in rats is dependent on the hippocampus." HOWARD EICHENBAUM。
つづき。
んで、この論文がやろうとしていることですが、以前からepisodic-like memoryの話を何度か書いておりますが、episodic memoryのcriteriaには意識の関与が必要で、意識の存在を証明できないanimal modelでは"episodic-like"と書くしかありません。今回の"recollection-like"もまったく同じことでして、recognition memory testのうちのepisodic memoryの成分に対応するrecollectionの成分をanimal modelで見つけることで、ratにepisodic-like memoryがあることの証明に代えてやろう、というわけです。
エピソード記憶という概念のオリジネーターであるTulvingは当初、1970年代にはエピソード記憶のテストとして再認記憶課題を使っていましたが、それ以降エピソード記憶がmental time travelであり、autonoetic consciousnessを伴うものであることを強調しています。Animal modelとしてはwhat-where-whenという全ての情報を統合した記憶課題ができることをcriteriaとして示しており、それが鳥類のアメリカカケスでできることを示したのがClaytonでした。それからRGM Morrisなどがratでこれを示そうとしましたが、完全に示せたといえるものはありません。Macaqueではじつはこれをほとんど満たすようなtaskがすでに行われていますが、prefrontal cortexでの作動記憶の文脈に入ってしまってます。なんにしろ、訓練さえすればできるのは間違いない。ほんとうのところ、episodic memoryを操作的に定義してやるためにはwhat-whre-whenだけですら足りないのです。TulvingはPhilos Trans R Soc Lond B Biol Sci '01("Episodic memory and common sense: how far apart?")にて二つ注文をつけます。
まずはepisodic-like memoryのcriteriaに関して:


In animal studies of episodic-like memory, it would be interesting to see whether it would be possible to persuade the subjects to demonstrate their ability to act 'flexibly' upon the information that they have about a given 'whta-where-when'.

ひとつめはwhat-whre-whenの情報をflexibleに扱うことができるかどうか。Claytonの実験ではアメリカカケスが隠したイモムシが腐らないうちに掘り返すという習性を利用したがゆえに、あるときは腐ったイモムシを先に探し出して、あるときは腐ってない芋虫を先に探し出させる、というようにflexibleな行動を起こすことはできません。
つぎにこれができたらepisodic-likeではなくて、realなepisodic memoryであるだろうというcriteriaとして以下の条件を提唱します。

Systematic observation shows that animals, at some point T1 in their 'spare time', engage in a given behavior X which is not controlled (instigated and maintained) by any physiological stimulus, external or internal, but which can be shown to be of benefit to the animal at some future time T2.

というわけです。かなり行動の統制が難しい難題であります。
これで充分かは別として、このように考えを進めていくことはある種、意識の操作的な定義を与えようとするのに近づきます。定義する脇からどんどん零れ落ちている面はあるわけだけれど、それでもなんかヒントはないだろうか。少なくとも、ここが最前線のひとつなのです。
なんにしろ、ネタがひとつ増えました。組み込めるかどうか。

amazonへのリンク

に書影を付けられることを知ったので、小さいやつを付けてみました。ここからのリンクでamazonで本屋CDを購入するとはてなに紹介手数料が入ります。私には一銭も入りませんので。


2004年09月10日

Nature

"Recollection-like memory retrieval in rats is dependent on the hippocampus." HOWARD EICHENBAUM。
ウ、ウギャーッ。いろいろ言いたいことがあるぞ(<-興奮してる)。
ま、まず、なにをやっているかだけれど、この論文はAndrew Yonelinas @ UC Davisがずっとやってきたことに準拠しています。このへんの事情については1/31に書きました。もう一度書きましょう。
以前見たことがあるかどうかを答えるtaskではrecognition memory(再認記憶)が必要となりますが、これにはrecollectionとfamiliarityのcomponentがあります。Recollectionは意識を伴った想起、以前あったエピソードを想起する、その時点にあったことを追体験する、"mental time travel"であり、意識の関与が不可欠な成分です。Familiarity (judgement)はいつそのエピソードがあったかを想い起こすことはできないが、見覚えがある、それを見たのははじめてではない、ということを元にした判断です。このふたつのcomponentの存在について、humanのpsychologyでsignal detection theoryによる解析からROCカーブが二つのcomponentからなっていることを示したのもYonelinasですし、このような解析を使って海馬に選択的な障害ではrecollectionが傷害され、海馬周辺領域(entorhinal, perirhinal, parahippocampal cortex)の障害によってはfamiliarityが傷害されるというdouble dissociationを示したというのもYonelinasです(Nature Neuroscience '02 "Effects of extensive temporal lobe damage or mild hypoxia on recollection and familiarity.")。なんにしろ、humanのstudyでは、taskの試行ごとに、そのアイテムをremember(recollection)したのかknow(familiarity)だったのか(=RK judgement)を報告してもらうことができるのが最大のメリットなわけです。
んでもって、Eichenbaumがなにをやったかというと、humanでわかっているようなrecognition memory testのROCカーブのプロファイルと同様なものがratのOdour recognition taskによって得ることができて、海馬の選択的なlesionによってhigh-threshold modelで説明できる成分(=humanでのrecollectionによる成分に相当)がなくなって、old-newのjudgementが対照になった(old-newそれぞれのシグナルの分布が同じ分散を持った正規分布であることによる帰結)humanでのfamiliarityに相当する成分が残った、というものです。だから、ratにも海馬に依存したrecollection-likeなcomponentがあるのだ、というのが彼らの主張です。
わたしの第一声としては、そのlogicは通らんでしょ、というものですが、だんだんうまくできているというか、やられたな、という感じがしてきました。
今回の論文がROC解析からrecognition testのcomponentが複数あることを示した、そこまではよいと思います。しかし、Fig.1e-fを使ってこれらがrecollectionとfamiliarityに一対一対応しているとする証拠がそんなにあるとはいえません。Fig.1eでの海馬依存であることを傍証にするにも、海馬依存であること自体が示したいことなのですから。また、fig.1fはdelayを長くするとfamiliarityの成分がなくなってrecollectionの成分だけになる、というYonelinas and Levy '02の知見を援用してますが、それがdelayを30分から75分に延ばすことで見られた、というのもあまりに定性的です。よって、残るは分布の形ですが、モデルの当てはめの評価については十分な手続きを踏まえているかを検証する必要があります(やたらとt-vaueやF-valueはあるみたいだけれど、複数のモデル間の比較をした統計はなさそうに見受けられます)。Animal consistencyに関しても、こんなグラフ並べられただけで騙されてしまってはいけない。
一方で、うまくやったと思うのも本当です。このようなlogicを作り上げるのに必要な知見に関してはわたしはすでに知っておりました。しかし思いつけなかった。あーくやしい(このlogicが妥当かどうかは別として)。
それでうまくやったな、と思うのは、この論文はまちがいなくYonelinasのところにレビューがまわったでしょうが、Yonelinasは喜ぶに決まってるわけです。自分がやってることのanimal modelを作ってくれたのですから。じっさい、acknowledgementにも入ってますし、かなり地盤を固めてからこの論文が投稿されたのがうかがえます(投稿してから2ヶ月でaccept)。Human psychologyのレビューワーを押さえてしまうことができれば、あとはratの研究者でしょうが、RGM Morrisあたり(共著あり)ともうひとりEichenbaumの弟子あたりの都合がよいところにレビューが回ったというところでしょうか。なんにしろ、レビューワーは3対0で賛成したということがレビュープロセスの時間からうかがえます。Signal detection theoryでの解析についてはたぶんYonelinasさえ通ってしまえば問題ではなかったでしょう。
Episodic-like memoryをやっている人間(Claytonあたりとか)やhumanでneurologyやってるようなSquireとかにまわれば、そんなにあっさりと通さなかったのではないかと予想します。Squireは’04 annual reviewで、recollection vs. familliarityが海馬対海馬周辺領域とは簡単には分けられないと書いていて、実際のneurologyの結果もそんなに簡単な二分法を許すものではありません。もっとも、SquireがどのくらいSDTをわかっているかという問題はあるけれど。
とはいえ、もし私が自分でこれを考え出したとしたら、このぐらいなら通るんじゃないか、と思うであろうこともたしかなわけでして(回りくどい?)、なんか読んでるこっちがすごい掻きたてられるというかむしゃくしゃするというか痒いのです。


2004年09月09日

Neuroeconomics(神経経済学)サイトまとめ

mmrlさんの9/4へのコメントを元に。


2004年09月08日

Tahiti 80 "Wallpaper for the Soul"

Tahiti 80 "Wallpaper for the Soul" ウォールペーパー・フォー・ザ・ソウル
いつのまにか二曲目から全部口ずさめるようになっていたり。でこの二曲目("1,000times")でカッコいいのが、サビで同じ歌詞が繰り返されるんだけれど、リフレインではなくて、別のメロディーに同じ歌詞を乗せているのです。これいいなあ。ぜひ真似してみたいところ。
非英語圏の人だからか、かなり歌詞は聞き取りやすいんだけれど、サビの始めはわたしずっと"autumn will come"って言ってるとずっと思ってたんだけど、"our time will come"だそうな。ぜったい無理。


2004年09月07日

JNP 9月号

Science 8/27

Edvard I. Moser二連報。

Revolverの"tomorrow never knows"

Revolverの"tomorrow never knows" リボルバー
を久々に聞いてみたのだけれど、すばらしいなあ。以前と違って車で大音量でかけているせいか、こんなに疾走感というかノリのいい曲なんだと再確認。以前は逆回転のギターとかいろんなSEとかのサイケデリックな処理に注意が向いてたし、"Setting Sun"の元ネタともなった独特のドラムパターンとかクラッシュシンバル鳴りまくりとかもサイケデリックの文脈(なにしろ私にとってはじめて聴いたサイケデリックロック)で聴いていたのだけれど、ベースとなるトラックのよさを再確認。こうなるとやっぱりアンソロジー2でのデモバージョンを聴きたいなあ。


2004年09月06日

へんな夢

私ほとんど夢を見ない(もしくは覚えていない)のですが、今朝はじめて研究所の夢を見ました。Newsome Science論文のfirst authorはSugrueというのですが、じつは留学から日本に帰ってきていて、鈴木すぐる(卓?)さんという名前の人で、うちの研究所に所属していることが判明したので、じゃあ話を聞きに行こうとあちこちを探すところで目が覚めたのでした。気になったんで確認してみたら、Leo P. Sugrue、ってぜんぜん違うじゃん!
http://monkeybiz.stanford.edu/people.htmlを見てみると、そうか、Leo P. Sugrueはまだgraduate studentか。メンバーはアジア人が一人いる以外はヨーロッパかラテンアメリカの人という感じだなあ。
私の夢にはタイムラグがあって、新しい環境に移ってからその環境の夢を見るまでには一年以上の遅れがあります。大学生のころの夢は大学院で見たし、大学院のころのメンバーが出てくる夢はポスドクで見るのですな。というわけで研究所勤めはもう長いのだけれど、こんなに明確に研究所に関連する夢は始めてみました。そして登場人物は別々の環境の人が混ざってくる。高校の同級生と大学院のメンバーとが違和感なく共存している夢とか。
みんな違うの? 愛する妻が報告してくれる夢はいつも、現実をダイレクトに反映していて、登場人物の配置には矛盾がなく、最近起こったことがすぐに夢に出てくるようなのだけれど。


2004年09月04日

本サイト

多くの方が本サイトのブックマークを
http://homepage2.nifty.com/pooneil/
に変更してくださったようです。本当にどうもありがとうございます。

越後湯沢のワークショップ

8/31のエントリで質問した「意志決定:心の物質基盤」でのGlimcherの話に関するレポートをmmrlさんが書き込んでくださいました。8/31のコメント欄にあります。どうもありがとうございます。
現在submit中であるDorris and Glimcherのドラフトが脳と心のメカニズム 第5回 夏のワークショップ 「意志決定:心の物質基盤」のサイトから落とせます(気付かなかった……)。03年7月のドラフトがhttp://www2.bpe.es.osaka-u.ac.jp/event/summerws2004/papers/Glimcher1.pdfで、04年5月のドラフトがhttp://www2.bpe.es.osaka-u.ac.jp/event/summerws2004/papers/Glimcher3.pdfの模様。
ノーベル経済学賞を取ったダニエル・カーネマンのプロスペクト理論に関しての言及(日本語)は
http://members.aol.com/mnkctks/dokusho0403.html
http://www.hefx.ne.jp/annai/yougo_h.html
で見つかります。

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# mmrl

ぐぐったらこんなものみつけました。まだ読んでませんが、図をみるとこの間の話ほとんどこの話ですね。http://emlab.berkeley.edu/users/webfac/saez/e291_s04/Glimcher.pdfしかし、Paulは気前がよろしい。ついでに神経経済学総合サイト?http://www.richard.peterson.net/Neuroeconomics.htmさらにこんな会議が来週からあるらしい、聞きにいきたいが、既におそし。http://www.hnl.bcm.tmc.edu/NeuroEconomics/

# pooneil

コメントありがとうございます。前のほうは消しておきました。でさっそくpdfちらっと見てみましたが、referenceを見るかぎり、前述のGlimcher1.pdfはGazzaniga, M.A. (ed) The Cognitive Neurosciences. Cambridge: MIT Pressのドラフトで、Glimcher3.pdfのほうがどっかにsubmit中の論文であるようですね。Neuroeconomics関連、mmrlさんの指摘されたものもあわせてまとめてみました。

講義

人生ではじめて講義の一回分を任されました(やっとですよ)。記憶の脳内機構に関して2時間。HMさんの症例から始めて、LTP(および松崎君のNature)までmicroに行って、またvivoに戻って連合記憶とTE-Perirhinal cortexの回路とhebbian synapseを結びつけるところまで語る。そこで終わりと思いきやTulvingのepisodic memoryの定義からRK judgementまで行ってepisodic memoryの定義には意識の存在が必要であることを示し、claytonのepisodic-like memoryでanimal consciousnessについて問題提起し、そして最後は心を明らかにするには意識を研究することが必然で不可避であることを語って締める、というのが現在の構想です。このままだとぜってー時間足りない。


2004年09月03日

本サイト移動

Niftyのメンバーズホームページのサービスが終わってしまいました。この辺の経緯についてはアット・ホームページ、利用規約改定へが詳しいです。というわけでniftyはもうやめてどっかに引っ越そうと思うのですが、とりあえずは応急処置としてアット・ホームページのほう(べつのurl)に表紙のページだけ移動させました。元のurlからも転送されるはずです。
http://homepage2.nifty.com/pooneil/
サイトを移動が完了したらまたお知らせします。読者のみなさま、これからもよろしくお願いします。

さらにガヤからの返答

ガヤからの返答がメールで来ました。どうもありがとうございます。まだ書き込みできないようです。ガヤの長文コメントにどなたからの書き込みもないところを見ると、みなさんも書き込めないのでしょうか。とりあえずはスタールシートをデフォルトに戻しました。よければ書き込みテストしてみてください。書き込んだ本人は自分のコメントを消すことができます。
以下がガヤからのコメントです。



「知られている機能的構造と関連していることを示すことがいちばん信頼性をあげる」との点はまったく同意です。いまのYusteラボでもなんとか現象を(なんらかの)機能に関連付けようとしていますので、ここら辺の話題は請うご期待です。その上での問題は、なんとか関連を示したところで、やはりsequenceがchanceで説明が付いてしまうレベルでしか生じていなければ、結局は説得力がないわけで、mathematicalな点はいずれにしても逃れられない問題になるかと思っています。
あと、Arieli&Grinvaldのシグナル(これは脳表付近から取っています)の由来は、本人たちの見解では、「subthreshold synaptic potentials or suprathreshold calcium and back propagating action potentials in neuronal arborizations originating from neurons in all cortical layers whose dendrites reach the superficial cortical layers(J Neurophysiol 88(2002)3421)」となっています。ただ根拠が弱いので、どこまで本当に“言い切れる”かはまだまだ検討が必要かと思うわけです。実際、最近のNature 428(2004)423ではsuprathreshold activityとsubthreshold activityを分離までしていますが、その分け方は多少強引すぎるように私は感じます(しかもpooneilさんのいう多重比較の問題がもろに入ってきてます)。問題は本人たち自身がどこまで確信を持っているかですね。本音を聞いてみたいところです。


以上がガヤからのコメントでした。


2004年09月02日

niftyの本サイト

が繋がらなくなってます。サービス終了してたの? niftyからのメールをまったく読んでなかったら大変なことになってる。なんとかします。

ガヤセミナー

ガヤScience論文については4/21-4/30にかなりextensiveに扱いましたので、昨日のエントリを読んだ方でまだの方はぜひそちらも読むことを勧めます。ここでは昨日のガヤの返答にspecificにいきます。


sequenceとsynfire chainとの関連については(この場では)ノーコメントにしたいのですが、それではマズいでしょうか?

もちろん問題ありません。Confidential matterに関しては各自管理してください。消す必要が出てきたらいつでも消します(これはこのサイトの最優先事項です)。8/23で書いたような著作権の話で言えば、皆様のコメントはコメントされた方に属する著作物であり、私はそれの公衆送信権を著作者に代行して行使している(公衆送信権は著作者から失われていない)、ということに現状ではなっているかと思います。
Grinvald&Arieliのoptical imagingについて:

実験系からいえば当然Layer 1をモニターしていることになります。

いや、あれはfocus面を下げてlayer 2/3をみているかと思っていたのですが、勘違いだったでしょうか。なんにしろ、VSDによるoptical imagingはsomaのspikeよりはdendriteでの入力の方を見ていて、空間的パターンの元となるのはlayer4-<layer3およびlayer2/3のhorizontal connectionのactivityである、という理解をしておりました。
Sequenceの有意性について:

mathematical artifactの件ですが、こちらはひどく頭の痛い問題です。「sequenceがどの程度chance levelで生まれうるか」というのは、そう簡単には分からないと思われます。

8/30でのわたしの論点は、統計を駆使してsequenceの有意性を出すことよりも、そのようなsquenceがこれまで知られている機能的構造と関連していることを示すことがいちばん信頼性を上げる、ということです。これは自分自身に言い聞かせていることでもあるのだけれど。
Sequenceが短いスパンの中でのみ繰り返されるということは[sequenceがランダムなスパイク列から偶然にできるものではないこと]の証拠と言っていいと思います。一方で、そのようなactivity driftingのほうがリアルな現象で、repeating sequenceはそれから出てくるartifactualなものである可能性はまだ残りそうですが。

説得力の高い論文としてはJ Neurophysiol 81(1999)3021などがあります

"Stochastic Nature of Precisely Timed Spike Patterns in Visual System Neuronal Responses." Oram et.al.論文は以前は言及しませんでしたが、私が書いていたjPSTH的なアプローチをしてましたね。ガヤ論文はこれに対する反論、反証という役割を帯びていると思います。

その視点から、Yusteラボのsequenceやsongという“秒オーダー”の現象を眺めていただけたら幸いです。

ガヤのこれからの研究に期待します。ご返答どうもありがとうございました。


2004年09月01日

ガヤからの返答

ガヤから8/30のエントリに関する長文コメントが届きました。どうもありがとうございます。ガヤもコメントが書き込めなかったそうです。うーむ、どうしてだろう。最近とくに設定をいじってはいないんだけれど。8/7のエントリにあるようにコメント欄のスタイルシートをいじったんですが、それからもみなさん書き込みできてますしね。とりあえずSTYLE="overflow:hidden"を削っておきました。更なる報告を待ちます。
というわけでガヤがメールでわたし宛てに送ってくださったものを以下に貼ります。今日はガヤによるゲストブログみたいなもんですので、<blockquote>には入れないでおきます。私のコメントは明日書きます。
私がいじった部分:論文へのリンクを追加しました。メールの文章が微妙に文字化けしていたので多少直しました。間違いがあったらお知らせください。



 ガヤです。セミナーではいろいろと質問していただきありがとうございました。京大と生理研のセミナーは日本語でしたので、質疑応答が楽でした(英語だと説明できる分量が半分以下になる…)。ちなみに鰻を食べながら伺ったpooneilさんの実験の話は私にはかなり興奮ものでした。今回も期待ですね。
 さて、ここに召喚された件ですが、注1、2ともに重要な指摘だと思います。
 まず、repeated sequenceのtopologyについてですが、これはスライスをどう切るかにクリティカルに依存しているように思われます。私の実験は主にcoronal sliceなのですが、容易に想像できるように、特に前頭葉あたりではcoronalに切ったところで皮質層のvertical(カラム)軸に垂直であるとは限りません。むしろ、斜めに切ってしまっていると思われます。それ故かどうかは定かではありませんが、クラスター状のアセンブリー発火はしばしば(chance level以上の頻度で)観られますが、カラム状の活動はそれほど頻繁には観察されません。
 ただし、これには別の問題もありまして、(以前pooneilさんにEメールしましたが)「そもそも皮質にカラム構造が存在するかどうか」という点からして疑問なわけです。それはbarrel皮質にしても同様で、カラムというよりもむしろpatchに近いのではないでしょうか。この点は先日RIKENで話す機会がありましたKathleen Rockland先生も同じ考えを持っていて驚きました。Rockland先生によれば「皮質カラム仮説は“simplification至上主義時代”の悪しき産物だ」ということです。「カラム仮説」は今や根本的な見直しが必要なのではないかとさえ思います。いずれにしても「オッカムのカミソリ」は脳科学では万能ではないのかもしれません。
 ちょっと話が逸れましたが、sequenceに話を戻しますと、一つの可能性としては、すでに指摘していただきましたようにtangential sliceを作成して観察するというアイデアがあります。何らかのtopological organizationが現れるとすれば、もっとも可能性が高い断面がこの切片内だと思われます(すでにYuste自身がポスドク時代にScience 257(1992)665で、その手の実験を行っているのはご存じかもしれません)。ただ、セミナー中にpooneilさんからこの質問を受けたときに、私がほんの一瞬返答に窮したのは、皮質第一層の関与を無視できないと思ったからです。Layer 1内の水平投射系路は、もしかしたらactivityのspatial organizationにわりと深く関与しているのではないかという印象があります。となれば、slice実験ではなくin vivoで、しかもtwo-photonでの検討が必要になりましょう。今後の課題です。
 その点でGrinvald&Arieliの研究グループの一連の実験は示唆に富んでいます。ただし、話はそれほど単純ではなくて、(Science 286(1999)1943のFig2&3を知っていて書くのですが)あの膜電位色素のシグナルは何を反映しているのでしょうか。どれほど“そこに存在する神経細胞”のsomatic spikeを反映しているのでしょうか。実験系からいえば当然Layer 1をモニターしていることになります。しかもLayer 1aといったごくごく表層ですね。となれば、第1層を走行する(ごく一部の)軸索を伝導するspikeか、もしくはdistal dendrite(tufted apical dendrites)のシグナル(dendritic local spike?)を記録していることになります(おそらく後者か?)。いずれにしても、それが理由で、彼らは容易にpatch状のspatial organizationが観察できているのではないか、と私は思うわけです。もしあれがsomaの発火だとしたら、いわゆる“local epilepsy”とも呼べるほどの激しい同期になります。そんなものはspontaneousでは出現し得ないのではないでしょうか。こう考えて([ここ文字化けあり])彼らのシグナルは、single cell resolutionを実現した我々のムービーとは本質的に異なるように思うわけです。ちなみに我々のムービーの測定範囲はGrinvald&Arieliのムービーの記録面積よりかなり小さくて、ちょうど彼らの示しているpatch状シグナルでいえば、patch一つ分くらいの広さでしか測定していません。そんなわけもあって、我々のムービーではspatial featureを抽出するのが難しくなって可能性もあります。
 というわけで、YusteラボのデータとGrinvald&Arieliのデータを比較するのは簡単な話ではないと思うのです。ただ、これも追求できる可能性はあって、pooneilさんが挙げて下さったようにsubthreshold responseを記録するというのがその手段になります。このプロジェクトはすでにYusteラボ内で稼働しています。
 つづいて、mathematical artifactの件ですが、こちらはひどく頭の痛い問題です。「sequenceがどの程度chance levelで生まれうるか」というのは、そう簡単には分からないと思われます。一つは(2分間という)測定時間によるartifactである可能性。もう一つはヌル仮説(null hypothesis)の設計の問題です(実は両者は不可分な問題です)。今のところ、私が使ったヌル仮説は4種あり、そのいずれの検定でも有意な数のsequenceが実際のraster plotに存在していることを確認しています。これらのヌル仮説は考え得る限りに慎重に設定したものではありますが、しかし、最近、長時間ムービーを取ることで見出した様々な現象(activity driftingなど)を考慮するにつけ、さらに丁寧にヌル仮説を立てなければならないなと危機感を持っています。ヌル仮説が間違っていると、結論が反転する可能性があるわけで。。。実際、最近のScience 305(2004)1107([これこれ])などは良い例ですし、現にAbelesの「Synfire Chance仮説」自体の真偽が疑われているのもrejectすべきヌル仮説が甘いという指摘においてです 説得力の高い論文としてはJ Neurophysiol 81(1999)3021などがあります)。
 そこで、私はいまちょっと視点を変えて、別の角度からsequenceの存在の確実性を示すことを考えています。まだまだpreliminaryですが、原理は簡単です。たとえば完全にrandomなraster plotを用いたシミュレーションによるとsequenceが数はspike rateの7乗に比例するのですが、実際のsliceから記録されたraster plotでは(私の調べた範囲内では)高々2乗程度にしか比例しません。このようなtheoretical predictionとの乖離も、sequence生成には何らかのbiologicalなbiasが潜んでいることを証明するのにも利用できるのではないかと考えています。まあこれも(背理法ですから)究極的にはヌル仮説の悪夢からは逃れられないわけですが、今まで「点(1次元)」のみで捉えていたデータを「線(2次元)」に拡張しているので、多少は説得力が高いかと思うわけです。
 sequenceとsynfire chainとの関連については(この場では)ノーコメントにしたいのですが、それではマズいでしょうか?
 最後の「gliaやgap junctionを介したものなのか」という可能性は大いにあり得るでしょう。ただ実際には、まだ、まったく調べておりません。。。すみません
 一般に大脳生理屋さんはgliaなどの関与を軽視しがちですが、とりわけ長い時間オーダー(たとえば秒や分レベル)でのmodulationを考えるときには、(1) gliaや (2) gap junctionや (3) neuromodulator のspilloverは、かなり重要ではないかと私は大マジメに考えています。意識や感情や運動計画などの時間スケールの長い脳内現象を真剣に考えるのであれば、なおさらこうしたside factorを考慮しないといけないと思います。
 cortical songはそうした長い時間の現象の一つです。数十秒オーダーの現象が時間圧縮されたり拡張されたりするのは、たしかにneural networkだけに固執している人には極めて不思議な現象に思えるようで、pooneilさんの日記でもそのrobustnessが疑問視されていました。しかし、私たちがカラオケなどで歌を速いテンポで歌ったりゆっくり歌ったり自在に意図することができることを考えてもわかるように、脳が実際にこれを実行できることは確かなのです。となれば、やはり「ミリ秒オーダーの現象でしかない古典的synaptic transmission」以外のmodulationの要因も考えていかなければならないのではないでしょうか。その点でgliaは侮れないかと。
 時間についてもっと言えば、数百マイクロ秒の両耳間時間差の検出や、数ミリ秒レベルでの活動電位の発生・伝導・伝達の話から、さらにはhourオーダーの日周リズムなど、動物の体には様々な次元の「時間の流れ」が存在しているわけですが、その中でもっとも自在な“柔軟性”に富んでいる時間スケールは、「会話(声)のスピード」や「感情の起伏の速さ」にあたる「秒のレベル」なのです。しかし現時点では、この時間スケールの研究は必ずしも脳科学の中心的話題にはなっていません。秒オーダーの脳内プロセシングに目を向けたとき脳科学はもっともっと興味深くなるような気がしています。その視点から、Yusteラボのsequenceやsongという“秒オーダー”の現象を眺めていただけたら幸いです。無論、まだまだ私たちの研究は現象記述的なphenomenologyに過ぎませんが、でも、これは面白くなりそうだとは深く確信しています。


以上、ガヤからの返答コメントでした。私のコメントは明日書きます。


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