[月別過去ログ] 2014年01月
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■ ヴォネガット関連雑記
ヴォネガットのCat's cradleのkindle版を買って、日本語訳と原文の対応とか見てる。いくつかの点でわかりにくいところがあったので、たぶんそれは翻訳のためだろうと推測して。
102章の「自由の敵」のところで、ハリボテの標的にスターリンやヒトラーと並べて「それからなんとかいう日本人」とあるが、これは東条英機か昭和天皇あたりを訳で回避したのかと思ったが、原文も"some old Jap"だった。
116章の最後「空では、何匹もの虫がのたうっていた。虫は竜巻だった。」後ろのほうまで読むと竜巻のことを「虫」と読んでいることはわかるのだが、「虫」と言われてハチの大群みたいなものを想像していた。でも原文はworm。つまり、一本一本の竜巻をイモムシ(やミミズ)に喩えているのだった。
あと116章の印象的なシーン、「つかのま、わたしは夢を見た…ツバメ式飛び込み」ここは"swan dive"、つまりこんなん: SwanDiveActive.jpeg 一瞬時が止まって、スローモーションでの光景が浮かぶ。
正直なところ、ギャツビーのあれを思い出した。たったひとり、owl-eyed眼鏡の男だけが遅れて現れてこう言う、"the poor son-of-a-bitch"と。
「人生なんて、そんなものさ―カート・ヴォネガットの生涯」を図書館で見つけたので借りてきた。真ん中へん、つまり売れない作家時代からスローターハウス5でブレークするあたりを読んでて、すごく面白い。
無名時代にアイオワ大学でライティングの講師をしているときに再評価がなされ、旧作が再販され、スローターハウス5と続く2作分の前払金を受け取ったとき、ヴォネガットは45歳になっていた。すっげー沁みる。
村上春樹の「35歳問題」ってのがあるけど、そしてその意義とかすごく考えたことがあるのだけれど、でほんとのところ身に沁みたことがなかった。私のヒーローは夭折した早熟の才能者(ランボウとか中原中也)だったし、太宰や芥川が死んだ歳に自分は一体何をしたというのだろうという感覚だった。
つまりわたしは35歳問題に真摯に向き合おうとせず、いまだに人生に奇跡と一発逆転はあるんじゃあないかというさもしい妄想を捨てきれず、フワフワとフラフラとしている。馬鹿馬鹿しい表現をしてしまえば、私は今からでもロックンロールスターになれると内心思っているのだ。ほんとだよ。
2014年01月19日
■ 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説
3月に生理研で行われる多次元レクチャーコースで講師することになりました。多次元脳トレーニング&レクチャー「ヒト、サル、ラットの脳解剖学から学習・認知の理解へ」 日程:2014年3月11日〜14日。2年ぶり3度め出場。またFiber pathway of the Brainをネタ本に大脳の線維束の話しつつ、半側空間無視とか失語症とかそういう話につなげてみる予定。(追記1/27: 情報が公開されたので、このパラグラフ追加しました。)
多次元レクチャーなどを視野に入れて、失語症とその神経回路あたりについて最近の論文を読んでた。以前半側空間無視の文脈で注意の背側経路と腹側経路についていろいろ書いたことがあるが、この背側経路というのはTPJとventral prefrontal cortexとを結ぶ経路。
だから、右脳のarcuate fasciculus (弓状束)というのは腹側の注意経路を繋ぐ経路となっているようだ。いっぽうで、教科書的知識では(左脳の)弓状束というのはウェルニッケ野とブローカ野とを繋ぐ経路であることがよく確立している。右と左の弓状束で役割分担してるのかなという可能性もあるが、絶妙に食い違っていて整合性のある話になっていないように思う。
ともあれ、SaurのPNAS 2008 ("Ventral and dorsal pathways for language")などから、言語の経路にも背側、腹側の二つがあるという話が強調されてきた。背側側はposteriorのSTGからAFを経由してBA44(およびBA6)に入る。腹側側はanteiror STGからextreme capsuleを介してBA45のほうに入る。背側側は音から発話への変換に関わり(sensorimotorな側面)、腹側側は音から意味理解の変換に関わる(recognition的な側面)。もとからこういう経路があることは解剖学的には分かっていたので、それの中での機能分担があるということが強調されてきた、ということ。
言語の二重経路の解剖学的なモデル (ライフサイエンス 新着論文レビューより。この図のライセンスはcopyright 2011 上野泰治・Matthew A. Lambon Ralph Licensed under CC 表示 2.1 日本)
図としてはNeuron 2011を出版された上野泰治氏によるライフサイエンス 新着論文レビューがわかりやすかったのでこれを掲載させてもらった。元の論文はLichtheim 2: synthesizing aphasia and the neural basis of language in a neurocomputational model of the dual dorsal-ventral language pathways. Taiji Ueno, Satoru Saito, Timothy T. Rogers, Matthew A. Lambon Ralph Neuron, 72, 385-396 (2011)で、計算論モデルで言語の二つの経路の機能の乖離を再現するというもの。半側空間無視の二重経路の計算論モデルとか考えてたので、わたしにとって超重要。これから読む。
だから、大脳皮質の表面を後ろから前へと走る神経線維を大づかみに説明するならば、三つの情報処理 (視覚、注意、言語)があって、それぞれに背側経路と腹側経路があって、それぞれが背側側は感覚運動的、腹側側は認識的な役割を持っている、とまとめることができる。
それぞれのパーツについては多次元レクチャーのときにも話をしたのだけれども、このような3*2のシステムとして取り扱うことまではやっていなかった。
言語の背側・腹側経路という概念については、この10年くらいでかなり確立してきたと言えるのではないかと思う。昨年出たBrain 2013 (先述のD. Saurによる) は脳梗塞の急性期の失語症について、100人の患者で損傷部位の確率マップを作成して(Hans-Otto Karnathが著者に入っているので、半側空間無視でも出てきた例のあれ)、診断用テストの成績との関連を探した。
その結果、語や分の反復(sensorimotorな要素)に関わるのは弓状束(AF)およびSLF(III)で繋がれた背側経路、トークンテストのような語義理解に関わるのは最外包(extreme capsule)や鉤状束(uncinate fasciculus)で繋がれた腹側経路だった。これはかなり決定的な報告なのではないかと思う。
ただし、話を単純化するために、診断用のテストの成績を、語・文反復repetitionと語・文理解comprehensionとの要素にPCAを使って分けている。
視覚の腹側経路、背側経路の二重乖離の話だと症例としてGoodaleのDFさんが出てくるわけだけど、言語の場合にはWernicke-Lichtheimの失語図式とかでまとめられるようなたくさんの症例がある。Saurの論文はそれを背側・腹側経路というアイデアでえいやと分けてしまったところが強みでもあり、複雑なところをすっ飛ばしているという弱みでもある。
ともあれ、TPJ-STG-insulaあたりの、(神経生理では)比較的よくわかっていない部分を明らかにすることは、ネタ探しという意味だけでなく、大脳全体に当てはまるような原理を見つけ出すという意味でも重要であるだろうと思う。
その意味でもうひとつ考えておくといいと思うのは、ミラーニューロンの背側経路と腹側経路。以前近畿大学の村田哲さんがコメントしてくれた のはV6-VIP-F4の背側内側経路とCIP-AIP-F5の背側外側経路だったけど(参考の日本語総説(PDF))、グッデール的二分論(actionとperception)に合致しているのは、AIP-F5-PFという背側経路とSTS-Insula-VFGという腹側経路という分け方であるように思う。このへんは生理研だと定藤先生がトークや講義で言及してた。
言語とミラーニューロン系の相同性は議論されるが、言語の背側経路がBA22(聴覚)からBA44(Broca野)へ行っているのに対して、ミラーニューロンの腹側経路はbiological motionとか視覚的な情報をVFGに繋いでいるように見える。言語の背側経路では AFはLFをぐるっと迂回してVFCまでいくが、途中の角回(angular gyrus)や縁上回(supramarginal gyrus)で中継している要素は読み書きなど視覚に関連している。うまく繋がりそうな気もするが、解剖学的にはまったくの相同というかんじにはならなさそうだ。
ともあれ、TPJ-SGT-Insulaとこのあたり、マカクでこのへんを探求するのはあんま得策ではなさそうだが、いまだ開拓されていない部分であるのはたしかだと思う。今日はここまで。
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2014年01月14日
■ キャリブレーション無しのアイトラッキング
今日の視覚研究会の東大生産研の佐藤洋一さんの講演で、キャリブレーション無しのアイトラッキングの話を聞いた。元論文はCVPR2010 "Calibration-free gaze sensing using saliency maps"
"Calibration-Free Gaze Tracking"と称するもの自体はいろいろあって、眼球の3Dモデルを作るものとか、眼球の可動範囲を考えるものとか、それぞれにメリットはあるのだろうけど、私のプロジェクトの問題設定的にはたぶんこの方法がいちばん向いてそう。
関連論文:
- Calibration-Free Gaze Tracking
- A Calibration-Free Gaze Tracking Technique
- Calibration-free gaze tracking using a binocular 3D eye model
- Real-time calibration-free autonomous eye tracker
キャリブレーションにサリンシーマップを使うという発想自体はこちらにもあった:
- What Are You Looking at? Improving Visual Gaze Estimation by Saliency
- Using Visual Attention Models and Saliency Maps to improve Gaze Tracking in Interactive 3D Applications
CVPR2010読んでた。ガウス過程回帰の手前までやってきた。この論文の場合は目の画像のデータからgazeを決めるのだけれど、Tobiiでやるのなら6自由度*2eyesを使うことになる。もっと単純化して頭固定ならたんなるthin-line splineでよい。
ガウス過程回帰が必要になるのは多分、データの数とかにばらつきがあって共分散とかを考慮しないといけないような状況なのだろう。とりあえずは単純にpeak value持ってきてfittingすればよしとする。
JNS2008のときは眼球とモニタの位置関係をちゃんと計算してアイコイルの線形でない部分とかちゃんと考慮してキャリブレーションをしていたのだけど、thin-plate splineで充分行けるということが後で分かって脱力した。
そのときの反省を踏まえるならば、たとえ不正確なキャリブレーションで取得したデータでも、トポグラフィカルな関係は抽出されているのだから、それをマッピングしなおせば十分なはず。
Calibrationの話のつづきだけど、じゃあ赤ちゃんとかのときにはどうやっているのかだけど、けっきょくこの例にあるみたいになんかsalientなものをだして見ている瞬間を使って5点キャリブレーションをしているようだ。
いくつかの点で加納さんのチンパンジーの仕事(Proc. R. Soc. B 2009およびPLoS One 2013)を参考にさせてもらっているが、 これらの仕事では、トレーニングをしてfixationをできるようにしているので、untrainedな個体では無理。
キャリブレーション用になんか目立つ刺激がぽんと一つ出て、それがあちこちに動く、というような刺激を作るのがよいのだろうと思っていたのだが、このページのcalib_check.movは内向きに流れるのが効果ありそう。
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2014年01月07日
■ さうして、このごろ 20130731
「あなたの脳を3Dプリントする方法」 段ボールを切り抜いて貼り合わせれば小学校の夏休みの課題にぴったりだ。次男の課題に「お父さんの脳みそ」という題での提出を勧めてみることにしよう。
「醤油差しと馬刺しどちらを選ぶ? 俺なら両方だ!」そう言ってわたしは自分の胸に西洋風の剣を刺し当てた。
「コーンフレークでいい?」コーンフレークにオレンジジュースかけたやつ出してきやがった!
「馬好き?」聞かれて思った。はたして私は馬と牛どちらが好きなのだろうか? そもそも質問は競馬好きかという意味だったのだろうか? じつのところ、そのような自問自答に至る前に私には「う・ま・す・き」という四文字が怪しく脳髄に響き、その意味に届く前にサイケデリックな気持ちになっていた。
「ヌー!」(<-両手で天に向けてサムズアップ)
双六でサイコロを振ったら、幻の番号9999が出たので、9999歩進めるのに時間がかかって他のことが何もできない。
戦いの幕は切って落とされた! …のはずなのだが遅刻したので戦場がどこだかわからない。誰もいない一階の教室をくまなく探して回ったあと、私は階段を登ったり降りたりしながら、無駄な時間を過ごしていた。
井上陽水の「ロンドン急行」をギターを弾きながら歌っていて、そういえばロンドン発ブライトン行きってまさに「ロンドン急行」だなということに気がついたが、一年遅かった。
研究所の一階の廊下にでっかい蜘蛛がいた。タランチュラか! よくよく見たら、足が長いだけでそんなに大物でもない。どうしても水を買いたかったので、失礼ながら脇を走りぬけさせてもらった。
AICS出張から帰ってきた。AICSは近隣の芸大とコラボして廊下がギャラリーみたいになっていてとても素敵だった。絵柄がオタク系というかpixiv系なのがけっこうあった。私は違和感ないけど、普通の人が見たら面食らうのではないだろうか? オタクとサブカル(芸大系含む)の垣根が消失していることを実感した。
鰻、絶滅しちゃうね… わたしがはじめて食べた鰻は、中学受験の後のお祝いで父が連れて行ってくれた亀戸の駅ビルでの鰻重だった。(中略) そんなこんなで、もし来年鰻重が消滅していたとしても構わないし、もし来年世界が消滅していたとしても構わない。
子どもたちにはぜひ、昔は鰻というとてもうまい食べ物があったんだということを語り継いでほしい。そういえば絶滅したリョコウバトは旨かったらしい。食えなかったのが残念。
Last dinosaurの替え歌でthe last eelって曲を作ってほしい。
"The last pigeon / swan song" とかスラッシュ入れて雰囲気出してみたり。最後の一匹となったハトが、死の間際になっていきなり人間語を使って喋り出す。「もうあんな空を飛びたくない」と。(<-井上陽水と混ざってる)
朝っぱらからこんだけたくさん蝉が鳴いているわけだが、まさか30年後には食料としての利用というイノベーションによってこれ全部が絶滅するなんてことにはお釈迦様でも気がつくめえ、なのであった。(<-50億羽のリョコウバト絶滅ネタ)
もしいつか遠い将来の万が一に私の送別会が開かれるような日が来たとしたら、大岡越前のテーマ (山下 毅雄)をアレンジして家族で演奏してみたい。きっとお別れのテーマにうってつけだと思うのだ。
「ステークホルダー」って腰のところでカラビナかなんかで財布とかナイフとか連結する道具っぽい音感。
「カムチャッカ」ってどう考えても、ギターでカッティングしながらワウペダルを操作して、しかも深めにリヴァーブかけてるかんじだよなあ。
今日は次男とプール(吉良のホワイトウェーブ21)へ。半屋外式でそんなに日焼けもせずにすんで気持ちよく泳いできた。滞在時間4時間で正味3時間で、次男は滑り台が怖いのでほとんど流れるプールにいた。拳銃で打たれるごっことか背中に乗せて潜水で運んであげるとか水の噴出口の勢いに対抗とか。
次男がなんでホワイトウェーブ21て名前なのか?、なんで21なのか、って聞いてきたので、今が21世紀であること、「世紀」という概念の説明、二十世紀梨についてまでこってりと講釈しておいた。
そしたら、22世紀になったらホワイトウェーブ22になるね、とか、22世紀になったら96歳だね、みたいな話になったので、そのころになったらまたホワイトウェーブ行くかな?みたいな話をした。俺はホワイトウェーブは無理であるにしても、次の関東の皆既日食は見届けたい。
もちろん、見届けられなくても構わない。
送り迎えの合間に「Boy's Surface 円城塔」を買う。つか図書館にあるのを知っていたのだけど、立ち読みしてて急激に今読みたくなった。最初の短編を読み終えたところ。盲視についての言及があるのはなんかで聞いてたので読もう読もうとは思っていたのだけど、それとはべつに面白かった。
こことか好き「ここにつけこむ余地があり、実際につけこまれており、つけこむことが可能である。」あと、なんかするするっとしてる。ドルトンの話から二人の会話へ移行するところとか。なんか自在なかんじ。
思ったより波長が合う気がした。独特な読書経験だった。「屍者の帝国」読むかどうか思案してたけど、これなら行けそうだなと思った。
お勧めエントリ
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- 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
- 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
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