[月別過去ログ] 2006年11月

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2006年11月06日

BMIシンポの予習

ざっと論文など関係資料をかき集めてみたところ。敬称略にて。

[川人光男]
東大医講義2006 「計算論的神経科学 相関を超えて因果律に迫れるか?」(pdf)

[Niels Birbaumer]
Psychophysiology. 2006 "Breaking the silence: Brain-computer interfaces (BCI) for communication and motor control"
Clinical Neurophysiology 2002 Invited review "Brain–computer interfaces for communication and control"

[Koichi Sameshima]
Biol Cybern. 2001 "Partial directed coherence: a new concept in neural structure determination"
J Neurosci Methods. 1999 "Using partial directed coherence to describe neuronal ensemble interactions"

[Miguel Nicolelis]
TINS 2006 "Brain–machine interfaces: past, present and future"
PLoS Biol. 2003 "Learning to Control a Brain–Machine Interface for Reaching and Grasping by Primates"

[小池康晴]
Neuroscience Research 2006 "Prediction of arm trajectory from a small number of neuron activities in the primary motor cortex"

[Eilon Vaadia]
The Journal of Neuroscience 2005 "Emerging Patterns of Neuronal Responses in Supplementary and Primary Motor Areas during Sensorimotor Adaptation"
PLoS Biol 2004 "Learning-Induced Improvement in Encoding and Decoding of Specific Movement Directions by Neurons in the Primary Motor Cortex"

[佐藤雅昭]
NeuroImage 2004 "Hierarchical Bayesian estimation for MEG inverse problem"

[神谷之康]
Current Biology 2006 "Decoding Seen and Attended Motion Directions from Activity in the Human Visual Cortex"
Nature Neuroscience 2005 "Decoding the visual and subjective contents of the human brain"

[櫻井芳雄・高橋晋]
The Journal of Neuroscience 2006 "Dynamic Synchrony of Firing in the Monkey Prefrontal Cortex during Working-Memory Tasks"
Neuroscience Research 2003 "A new approach to spike sorting for multi-neuronal activities recorded with a tetrode—how ICA can be practical"
J Neurophysiol 2003 "Automatic Sorting for Multi-Neuronal Activity Recorded With Tetrodes in the Presence of Overlapping Spikes"

[Eberhard Fetz]
Nature 2006 "Long-term motor cortex plasticity induced by an electronic neural implant"
Journal of Neuroscience Methods 2005 "An autonomous implantable computer for neural recording and stimulation in unrestrained primates"

[Joseph Rizzo]
HARVARD GAZETTE ARCHIVES

[八木透]
人工眼プロジェクト


2006年11月03日

BMIと脳の可塑性

Nature 11/2 "Long-term motor cortex plasticity induced by an electronic neural implant" Andrew Jackson, Jaideep Mavoori and Eberhard E. Fetzが出ました。
シアトルのUniversity of WashingtonのEberhard E. Fetzは第一次運動野の仕事を続けてきた大御所で、うちのラボとも関係が深いのですが、そこで進んでいたneurochipの仕事がNatureになりました。今年の神経科学大会でもfirst authorのAndrew Jacksonがこの話をしていたので、そこで話を聞いた方もいるかと思います。ちなみに8/14のエントリのイギリス人とは彼のことです。
話としては、nhpを使ったBMIの研究なのだけれど、M1のある領域のニューロン活動を記録して、べつの領域のニューロンを刺激して強化してやると、刺激された部分のニューロンの反応特性が記録部位と同じようなものに変化した、というわけです。 彼らはBMIのデバイスを使って、M1のある領域のニューロン活動を記録して、そこの活動と同期させてべつの領域のニューロンを刺激しました(条件付け)。そうすると、記録してた領域のニューロンの出力特性が変化して、条件付けを止めてもその効果は持続した、という話です。もともと記録部位CAは筋肉MAを支配していて、刺激部位CBは筋肉MBを支配していたのだけれど、条件付けによって、記録部位CAが筋肉MAとMBとを支配するようになった。だからこれは、条件付けによって記録部位CAから刺激部位CBへの情報伝達が強化されたということだろう(そして、記録部位CAの活動が刺激部位CBを介して筋肉MBに届くようになったのだろう)、と考察しています(11/5追記訂正)。 Shuzoさんのブログでもこの論文に言及してますのでそちらもどうぞ。
ちなみに、彼らのところの装置はスタンドアロンで記録も刺激も出来る。長時間連続記録をすることができて、データはチップ内に記録されて、赤外線のワイヤレス通信でデータのやりとりなどが出来ます。くわしいmethodはすでにpublishされてます(Journal of Neuroscience Methods 2005)。かなり他とは設計思想が違っていて、実現に近い方向を向いていると思います。彼らの研究が他のBMIの研究者と違っている点のひとつは、記録したデータを使ってロボットアームを動かすとかせずに脳に戻してやって、脳を刺激するのに使っている、という点です。このようなストラテジーについてはNicorelisもTINS 2006 ("Brain–machine interfaces: past, present and future")でワンパラグラフ使って言及しています(11/5追記)。
今回の論文はFetzさんの初期の仕事を近代的なBMIでもう一回捉え直した、という側面があります(なんでかわからないけれど、Nature論文ではreferされていない)。Fetzさんは60年代後半から70年代前半にすでに、M1のニューロンを記録しながらそのスパイクの音をフィードバックとして与えて報酬で強化させると、そのニューロンの発火頻度を上げることができる、ということを示して(11/5追記)います(Science 1969, Science 1971, Brain Research 1972)。Shuzoさんが書いている「closed systemの先駆的研究」というのはこれのことです。Fetzさんがセミナーをしに来たときにはたしか、1972 Brain Researchの図を持ってきて、強化されたニューロンの隣のニューロンはまったく反応特性が変わってない、というようなことを出していて、それって解剖学的にあり得るんだろうかと驚いたおぼえがあります。
このような可塑性を脳が具えているであろうことは確かで、これをいかにBMI/BCIの局面で利用してゆくか、ということが今後重要になると思います。RA AndersenのBMIがparietal cortexから記録されていたのも、どこからの記録が一番有効かという点でM1のようなハードワイヤーされている部分よりも、行動の計画に関わるparietal cortexを使う方がよいから、みたいなjustificationをしていたと思うのですが、脳の可塑性を考えるとどこでもいいんじゃん、とも言いたくなる。一方で、他の行動といかに干渉せずに可塑性を活用できるか、というのが課題だ、みたいな言い方も出来ます。
私自身の興味としては、このような可塑性によってどのようにwhat-it-is-likeが変わるのかという、Hurley and Noë論文での問いにどうempiricalなデータが追加されるか、というあたりです。つまり、closed loopにすることによって、sensorimotor contingency/dependencyが成立することが意識にとってどのようなものとして捉えられるか、ということですね。
あ、ちなみにCRESTのBMIシンポ参加しますんで、京都でお会いしましょう。ちなみにFetzさんのトークは11/8です。

コメントする (3)
# Shuzo

「刺激された部分のニューロンの反応特性が記録部位と同じようなものに変化した」ではなく、「記録部位が、刺激部位と同じようなものに変化した」が正しいかと思われます。

論文では、Nrecとされている領域が記録部位で、その機能が変化しています。Figure2にあるように、conditioningしたあと、Nrecを電気刺激して筋電を計測すると、でなかったはずの筋電活動が現れています。

一方、刺激部位のNstimの方では、Nrecほど劇的な変化は起きていないようです。

いずれにしましても、この研究は今後いろんな分野に影響を与えそうですね。TBありがとうございました。

# pooneil

ご指摘どうもありがとうございます。思いっきり間違えてました。訂正しておきました。

# Shuzo

私のブログこそ意図せずにたくさん間違ったことを書いていそうですので、もし「これは違う」という記述があればぜひ教えてくださいませ。peer-reviewというと大げさですが、そういうことがブログ間でもできると良いですね。


2006年11月01日

SFN2006 at Atlantaのまとめ

忘れぬうちに今年のSFNについてのメモを。

  • 行き帰り。昨年はデトロイトの空港の入国審査とかひどいめに会ったうえに乗り継ぎですごい待たされてへとへとだったので、今年はアトランタ直行便を選択。これは正解だったように思います。入国審査も人の流れをちゃんと組織してスムースに流れてました。でもアトランタ直行だと飛行機に乗る時間が長くてつらい。行きが11時間で帰りが14時間。しかも帰りは霧で出発が2時間遅れた。こんど行くときはシアトルあたりで一泊するってのも手かもしれない。
  • 会場。なんか人少なかったというか、知り合いの参加者が少なかったような。じっさい全体の参加者も少なかったようです。もう巨大化する方向は止めた方がよいと思いますよほんとに。滞在期間が短かったこともあって、あまり発表は見れませんでしたが、彦坂研の二連ポスターは人が集まってました。Habenula (MD核のdorsal側にある視床の小さな核)がSNc dopamineニューロンのちょうど反対向きの活動をする、というもの。理研の松元さんの仕事の延長上にあるmedial prefrontal cortexの仕事も二連ポスターになってて、人が集まってました。
  • 発表。非常に不本意でしたが、仕方ない。論文が出ればもっと人は来るだろうけれど、論文出す前に想定レビューワーに見せておくという効果を求めているわけで、このへんはうまく回り出さないといつまでも状況は変わらない。(ちょっと、正直に書きすぎた!) それでも、在米の皆さまに会えて、多くの人がポスターに来てくれたのは大感謝で、おかげでひとり惨めにポスターの前に佇んでいる、ということにならずに済みました。
  • 街。治安が悪いと聞いていたけれど、正味滞在2日で、あまり歩き回らなかったのでわかりませんでした。今回も地下鉄(MARTA)を活用。ホテルが埋まってしまってしかたなくBuckheadの高いホテルから通う。SFNのサイトのホテルのリストに後から追加された、空港の近くのホテルは安いけどシャトルバスがないから敬遠していたのだけれど、じつはMARTAを使えばBuckheadから通うのとあまり変わりませんでした。
  • 街その2。働いている人はみな黒人でした。ここが南部だということを痛感。朝はマックとかでジャンクフード。Buckheadにしろ、downtownにしろ、都会すぎてスーパーとかがないので不便。これはWashington DCと同じかんじ。けっきょく、CNNもコカコーラも水族館も行かずに、ホテルの近くのショッピングモールでおみやげを買って終了。

もうちょっと小さい学会で顔を売ることを目指していかないといかんなと思ってます。そういうわけで、現在はNCMVSSASSCを目指しているところ。いや、VSSはとてもデカいみたいですけどね。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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