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2018年04月10日

駒場講義2018「意識の神経科学と自由エネルギー原理」準備中

東大駒場の池上高志さん(大学院総合文化研究科 広域システム科学系)から依頼を受けて、例年6月あたりに大学院のオムニバス講義を一回担当しているのだけど、今年度も日程が決まった。

  • 人間情報学VI
  • 6/20(水) 13:00-16:40
  • 駒場15号館1階104講義室
  • 吉田正俊「意識の神経科学と自由エネルギー原理」

例年通り準備状況をブログにアップロードしてゆく予定。これまではこんなかんじ:

さて今年度はどんな構成で行こうか。これまで数年の構成は、前半が「視覚失認、盲視、サリエンシー」で、後半が「自由エネルギー原理、統合失調症」だった。

でも自由エネルギー原理パートも統合失調症パートも、二倍の時間をかけてじっくり丁寧に説明するほうが参加者にとって有益なんではないかと考えてる。盲視を外すのは不安だけど。

そういうわけで今年度の講義では、話す内容を統合失調症と自由エネルギー原理に絞ってみようと思う。

前半に統合失調症の前駆期の意識経験(中井久夫)、異常サリエンス仮説(Kapur)、自己の障害、随伴発射、コンパレーター仮説(Frith)まで説明して、後半に自由エネルギー原理について昨年12月に國吉研で行ったオムニバス講義で使った題材を元に説明した上で、統合失調症のベイズ的説明(Adams)で閉じる、という方針で考えてる。

いま書いている総説でsensorimotor contingencyについてはもっと丁寧な説明を作ることができそう。導入部分に関してはいつも逆転スペクトルとaccess / phenomenal consciousnessなので、これは刷新したい。先日の新川拓哉さんの話を参考にして、意識の理論のおおまかな地図作成を作ってみるというのがいいかも。でもこれは時間がかかるから(もしあるなら)来年度以降で。

アウトラインとしては以下のかんじ。

[Part 1]

1-1. 意識を科学的に研究するってどういうこと?

  • 「意識は定義できないから科学の対象にならない」というのは正しくないよ!
  • 「意識」という言葉で指している対象が共有できていれば充分。
  • 「意識のハードプロブレム」という問題群があるよ!
  • 意識を科学的に解明するためには「意識を科学的に理解する仕方」そのものを拡張してゆく必要があるよ!
  • そのようなアプローチとして意識経験自体の構造とか変容に注目する神経現象学があるよ!
  • そこで今日は意識経験自体の構造とか変容に注目して、統合失調症とその理論について紹介するよ!

1-2. 統合失調症(1)

  • 統合失調症は発達の段階から前駆期を経て発症に至る過程をたどることがわかってるよ!
  • 統合失調症では自己、世界に対する意識経験の変容が起きているよ!
  • 統合失調症での妄想、幻覚はサリエンスの経験の変容で説明できるよ!
  • 統合失調症での視線の変容は視覚サリエンスの変容で説明できるよ!
  • 統合失調症での自己の変容は予測誤差に基づいて説明することができるよ!
  • ところで予測誤差の概念は随伴発射という概念で昔から提唱されてきたよ!
  • 統合失調症で予測誤差がうまく計算できていないというデータがいろいろあるよ!
  • 統合失調症では世界と自己の関係が変容しているという説があるよ!
  • 世界と自己の関係は主体性と現実感の予測誤差モデルで説明できるよ!
  • 統合失調症での世界と自己の関係の変容はサリエンスネットワークの変容で説明できるよ!

[Part 2]

2-1. アクティブビジョンと自由エネルギー原理

  • 意識は受け身の反応ではなくて環境への働きかけで成立するという考え方があるよ!
  • 同じ考え方はフッサール現象学にもあるよ!
  • 脳が仮説を作ってそれを検証することで知覚を構成するという説(無意識的推論)があるよ!
  • 無意識的推論は「予想コーディング」としてモデル化できるよ!
  • 予測コーディングを脳でやるならトップダウンとボトムアップの相互作用になるよ!
  • 予測コーディングを知覚だけでなく行動に拡張したものがactive inferenceだよ!
  • 知覚、行動、注意、価値、みんな自由エネルギー最小化で説明できるって!
  • 自由エネルギー原理 (or予測処理)で意識も説明できるって!

2-2. 統合失調症(2)

  • 統合失調症で起きていることが自由エネルギー原理で説明できるよ!
  • サリエンスという概念は自由エネルギー原理での予測誤差とほぼ同じだよ!
  • ということは統合失調症のサリエンス説と自由エネルギー原理説は同じことを言ってるんじゃね?
  • 統合失調症の動物モデルもこのような観点から見直すべきでない?
  • 自由エネルギー原理を用いて脳を理解するためには充分な解像度の脳活動データと介入が必要でしょ!
  • だから行動中の動物での他ニューロンカルシウムイメージングと光遺伝学による介入が必要になるよ!
  • いまうちでそういうこと始めているから大学院生募集してるよ!

口調はウザイがだいたい合ってる。これが講義で話したいことのエッセンス。

ひきつづきハンドアウトとスライドもアップロードしてゆく予定なので、乞うご期待。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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