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2008年02月25日

ふたたびToward an animal model of spatial hemineglect

3)Toward an animal model of spatial hemineglectについては
Lynch and McLaren. "Deficits of visual attention and saccadic eye movements after lesions of parietooccipital cortex in monkeys." J Neurophysiol. 1989; 61:74-90.
Gaffan D, Hornak J. "Visual neglect in the monkey. Representation and disconnection." Brain. 1997 Sep;120 ( Pt 9):1647-57.
を採り上げます。Gaffan以前の論文に関してはもっと良いのがあったのかも知れないけど、とりあえずうちは古いneurpsychologiaとかがないので間に合わせというかんじ。
まずJNP 1989のほうは、IPL lesionではhemineglectは起こらなくて、extinctionだけが起こる。IPL+FEFのcombined lesionでneglect様のdeficitが見られるけどすぐに消える、というものです。
Visually guided saccade taskでふつうのsingle targetを著者はneglectのtestとしていて、double targetの条件をextinctionのtestとしています。それ自体は今から言えばいろいろ文句を付けたいところですが、1989年の論文ですので。眼球運動もeye coilではなくてEOGで見てます。
Double target taskではpreopeの段階でバイアスが出来ていて、それを反転させるようにlesionを起こしている。このへんはDuhamelがLIP muscimol injectionのJNSでやったように二つのtargetに時間差を付けてやってbiasをいじったり、どちらのtargetも50%でのみrewardをもらえるようにするとか、そのへんの工夫が今だったら可能でしょう。
ともあれ、IPL+FEFですら、hemineglectにはならないようです。
Brain 1997のほうは、parietal leucotomyでは半側空間無視を起こすが、posterior parietal cortexとprefrontal cortexとのcombined lesionsでは起こらない、というものです。
Optic tractのtransection(視交差のposteriorで)でhemianopiaを起こしてもこの課題では影響しません。
正確な課題はpattern discrimination learningでして、横5x縦3のarrayで刺激パターンを15個提示して、一つがtarget、残りがdistractorです。これを毎日繰り返してtargetを学習します。昔ながらの神経心理学的研究ですので、ケージの前で課題を出して、head-freeでeye movement controlなし。ある意味bisection taskやcancellation taskと同じような状況にしてあるわけです。
Lesion後には横5x縦1のarrayでテストを行います。ひとつがpositive patternで、のこり4つがnegative pattern。つかってるパターンはpreopeで学習したものです。
Parietal leucotomy群では、損傷側と同側にtargetが提示された場合はエラーが多いままでした。
Optic tractのtransectionによってはこのような影響は起こりません。よって、Parietal leucotomyによってoptic radiationが切断されたということではなさそうです。(もっとも、hemineglectはhemianopiaが起こるとより悪化することが知られているわけですが。)
このへんはちゃんとやる場合はLGNの組織標本を見て、optic radiation切断による逆行性のdegenerationが内かどうかをチェックするべきなわけですが。
あとそれから、posterior parietal cortexとprefrontal cortexとのcombined lesionsでもdeficitは起こりません。
今回はここまで。疲れた。


2008年02月21日

半側空間無視の原因部位は?

2)半側空間無視の原因部位は?
にかんしては20040719および20051103でコメントした論文を取り上げます。
Karnath HO, Ferber S, Himmelbach M. "Spatial awareness is a function of the temporal not the posterior parietal lobe." Nature. 2001 Jun 21;411(6840):950-3.
Doricchi F, Tomaiuolo F. "The anatomy of neglect without hemianopia: a key role for parietal-frontal disconnection?" Neuroreport. 2003 Dec 2;14(17):2239-43.
Thiebaut de Schotten M, Urbanski M, Duffau H, Volle E, Levy R, Dubois B, Bartolomeo P. "Direct evidence for a parietal-frontal pathway subserving spatial awareness in humans." Science. 2005 Sep 30;309(5744):2226-8.(この論文については20051103でコメントしました。)
このScienceでの結論は、原因部位は"the second branch of the superior longitudinal fasciculus (SLF II; posterior parietal cortexとprefrontal cortexとを結ぶfiber)"のhuman homologueである、というものです。これはこれまでの論争での矛盾を解消し、nhpとの種差の問題を解消するという意味でかなり説得的なのではないかと思っています。(左右差の問題は残りますが。)
半側空間無視の原因部位はもともとparietal cortexの中にあると考えられていました。たとえば、Jon DriverのNature neuroscience 1998のレビューでは、Vallar 1986をreferして、inferor paeital lobuleの中のsupramarginal gyurs(SMG)を原因部位として図示しています。
これに対して、Karnathが損傷部位のprobability mapを作って評価してみたところ、原因部位の中心はtemporal cortexのなかの、superior temporal gyrusであることを見いだしてこれがnature 2001となりました。私としてはぴんときませんでしたが、Milner and Goodaleたちのように、空間無視をawarenessに関する症状であると考える人にとっては、ventral pathwayの損傷という理解ができることで納得がいったのだと思います。
ただ、これではnhpとの整合性が全くつきません。そういうわけで、当時の私の落としどころは、「humanでの半側空間無視の原因部位に対応する領域はnhpにはないのではないか。実際問題、SMGなどにしても細胞構築的に言えばBrodmannの分類ではnhpにはない領域だし。また、humanでの空間無視で左右差が見られるという事実も、空間無視の原因部位がhumanにしかないような進化的に新しい領域(Brocaみたいに)であることと整合的である。」というものでした。
げんに、nhpでの空間無視のモデルというのはあまり論文がなくて、せいぜいGaffanのBrain 1997があるくらいであるというのも、空間無視のanimal modelを作るのは難しいからではないか、というふうに理解していたのです。
Neuroreport 2003に関しても20040719のときにはどちらかというとacute phaseとchronic phaseとの比較に私は注目していて、fiberの損傷という視点を持っていませんでした。
しかし上記のScience 2005が出ました。そのときはスルー気味だったのですが、そのあとのerrataで原因部位が本文で主張していたsuperior occipitofrontal fasciculusではなくて、SLFIIであり、Neuroreport 2003と整合性があると主張しているのを読んで、その文脈でneuroreport 2003を読んでみると、原因部位はgray matterではなくて、white matterではないか、ということで俄然納得がいったのです。
karnath 2001にしてもそれ以前の論文にしても、gray matterの損傷に目がいっていたけれども、実はそのちょっと深いところにあるwhite matterの損傷こそが効いているとするならば、それは非常に納得がいきます。Attentionのシステムが分散型であろうことはCorbettaらのfMRIの仕事などからしても明らかなわけで、それらの一部の損傷には何とか持ちこたえることができるとしても、white matterの損傷というのは、そこを行き来しているfiberの多くに影響を与えるために、より影響が大きくなるであろうことは予想できます。(このへんに関してはNeuroreport 2003のDoricchiも"Left unilateral neglect as a disconnection syndrome." Cereb Cortex. 2007 Nov;17(11):2479-90で議論しています。ちなみにこの総説に関してはvikingさんが神経路切断症候群としての左半側空間無視でコッテリとレビューしてますのでそちらをどうぞ。)
また、nhpの研究との整合性という点からすれば、GaffanのBrain 1997におけるparietal leucotomyがanimal modelとして有効だったということも納得がいきます。まさしく同じ領域を損傷したといえるわけですから。さて、そういう目でも一度見直してやろう、というのが今回のセミナーのテーマだというわけです。
ただし、今度は左右差の問題が説明できません。いや、もちろん、nhpでは左右差のない部位がhumanになってから左右差があるようになった、というだけでいいっちゃあいいのですが、上記のそもそも相同領野がない、という方がこの点については説得的に思います。
肝心の論文の話はしてませんが、以前言及している(20040719および20051103)のでそちらをどうぞということで。
ところで余談ですが、今回言及した論文(Nature 2001, Neuroreport 2003, Science 2005)がすべて非アメリカからの研究であるということは非常に興味深いことです。Neuropsychologyがヨーロッパ起源であり、現在も盛んであるということを反映しているといえるんではないでしょうか。


2008年02月20日

半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?

さて、前回の続きで、

1) 半側空間無視の定義と診断テスト

に関してです。

まず断り書きですが、私は医師ではないので現場を知りませんので、ホントのところはわかってません。的はずれなことを言ってたら訂正お願いします。

半側空間無視は「主に右大脳皮質の損傷によって起こる、反対側視野への感覚刺激に対する反応が失われたり減弱したりすること」です。ただし、感覚入力や運動出力などのより末梢での機能障害とは区別される必要があります。(上記の定義だと同名半盲でも当てはまる。)

このために行われるclinical testにはいくつかありますが、いちばん有名かつシンプルなものはline bisection taskとline cancellation taskです。

Line bisection taskは紙の上に横棒がひとつあります。患者さんにこの横棒をちょうど二分する位置を示してもらいます。右脳損傷で左の空間無視が起こっている患者さんではこの位置が右にずれます。ちなみに右脳損傷での同名半盲の患者さんでは逆に左にずれます(後述)。

Line cancellation taskでは、紙の上に棒線がたくさん散らばってかかれています。この棒線一つ一つにチェック線を入れるのが課題。右脳損傷で左の空間無視が起こっている患者さんでは左側の線にチェックし忘れます。

この二つの課題ともに、患者さんは目を動かしてよいのです。ですから、同名半盲の患者さんだったら目を動かして、健常な部分の視野を使うことによってこれらの課題を行うことができるわけですが、半側空間無視の患者さんでは課題をうまく行うことができないため、半側空間無視と同名半盲とを区別するのに役立つのです。

これらのテストでは、半側空間無視があるかどうかだけがわかりますので、同名半盲の方は、視野計を用いたperimetryによって確認する必要があります。これは注視しているあいだに視野上の様々な位置に光点を提示して、見えたかどうかを答えてもらうことによって視野上のどの部分が欠損しているかを測定するという方法です。

ここで問題となるのが、半側空間無視が重篤であるときには、perimetryで単一の刺激を出したときにもそれを見えたと報告できないことがあるという点です。たとえば、Mort et.al. 2003 Brainなんかだと、"Visual fields were recorded by te standard clinical method of confrontation. In our experience, this is superior to automated perimetry which frequently confuses negkect for absolute visual field loss"(p.1988)なんて書かれてたりします。

ですので、けっきょくのところ、空間無視のテストとperimetryを組み合わせることによってわかるのは、

空間無視のテストperimetry診断
failno field defectpure neglect
failfield defectneglect+hemianopia
passfield defectpure hemianopia

ということですが、2番目についてはpure neglectが入る可能性を排除できない、ということになります。このへんは、2)の原因部位の議論で実は重要になるはず。というのも、損傷部位を決めるためには[空間無視および同名半盲がある患者さん]と[同名半盲のみがある患者さん]との損傷部位を比較することが重要だからです。

ただし、臨床の場面においてはおそらく空間無視と同名半盲とはもっと区別がつきやすいのではないかと思います。というのも、a)空間無視ではより多くの刺激がある状況で影響を受けやすいということ、b)空間無視で見られる視野欠損は純粋にretinotopicなものではない(このフレーズはJon Driverのnature neuroscience 1998から採用)からです。後者に関しては、昨年の生理研研究会で鈴木匡子さんのトークで空間無視の患者さんでobject-based attentionが影響を受けた例を出されたときに集中した、「眼球運動はどうなっているのですか?」という質問と関係してきます。

つまり、空間無視で見られる視野欠損はretina以外からの情報によって影響を受けます。たとえば、

NEUROLOGY 1989;39:1125 "Hemispatial visual inattention masquerading as hemianopia" C. A. Kooistra, and K. M. Heilman

では、左側に視野欠損があると思われていた患者さんが、注視点を右側にもってきて、おなじretinotopicには同じ位置に視覚刺激を提示するとそれを報告することができました。また、

Brain (1993), 116,383-396 "Decrease of contralateral neglect by neck muscle vibration and spatial orientation of trunk midline" H. O. Karnath, K. Christ and W. Hartje

では、視覚刺激のretinotopicな位置および、注視点の位置を一定にしておいて、胴体の向きだけ左に15度傾けました。すると検出の正答率が上がった、というわけです。

つまり、extraretinalな情報によって影響を受けるから、ここで見られたvisual field defectはabsoluteなものではなくて、relativeなものであり、purely sensoryなものというよりはより高次なもの(おそらくはattentionに関わる)であるといえる、ということになります。

さて、落ち穂拾いですが、こういった患者さんのテストはそんなにコントロールした条件でできないので、注視しながら課題をやってもらうとかそういう話はそんなにはないようですが、眼球運動の同時記録に関してはこの10年くらいで出てきているようです。

たとえば、

Brain (2005), 128, 1386-1406 "Causes of cross-over in unilateral neglect: between-group comparisons, within-patient dissociations and eye movements" F. Doricchi, P. Guariglia, F. Figliozzi, M. Silvetti, G. Bruno and M. Gasparini

Brain (1998), 121, 1117-1131 "Ocular search during line bisection: The effects of hemi-neglect and hemianopia" Jason J. S. Barton, Marlene Behrmann and Sandra Black

ですが、後者はline bisection taskをやっているときの空間無視および同名半盲の患者さんのhorizontal方向の眼球運動を調べたものです。右脳損傷による空間無視の患者さんでは作業をしている間の目の位置がすでに右に偏っていて、ほとんど左側をスキャンしていません。一方で、右脳損傷による同名半盲の患者さんでは、視点を線の左端まで持って行って、健常視野に線が全部入るようにしてから課題を解いているようです。本文を読んでないので推測ですが、たぶんperipheral側は過小評価されるから、それで中間点を決めるときにちょっと左寄りになるんでしょうね。

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# 小松光年

AVM摘出で発症しました。回復期途中まで、両方の症状がありました、現在は同名半盲だけです。論文だいたいあってます。ただ、この二つの症状それぞれ別々に考えるのはどうかと思います。無視だけの症状ならばそれでも良いでしょう。しかし、私の場合無視の原因になっていたのは、同名半盲だと思っています。なぜなら、現在でも唐突にはじめてみる景色が現れると、左側(半盲側)を認識してない場合があるのです。明らかに視覚に入ってくる範囲だけで景色を完結させてしまってる訳ですね。さらにいえば、これらのことが原因で注意障害の症状も現れると思います。回復過程では、自分の見えない範囲を認識してきます(感覚的ではなく、オクトパスやハンフリーを使った検査結果などで)そうすることで、見えない部分に常に意識を向ける習慣が身につきます。視覚の回復は進まなくても、音や熱を感じ取りそれを代償しようとします。

# pooneil

コメントどうもありがとうございます。同名半盲だと、scotomaには外界からの刺激が来ないのでふだんは注意が喚起されないけど(ボトムアップ性注意)、見えないところに注意を向けようと意識する(トップダウン性注意)ことはできるのでしょうね。


2008年02月19日

Toward an animal model of spatial hemineglect

いつもどおり、セミナー準備を流用ですが、タイトル:'Toward an animal model of spatial hemineglect'ということで準備しているネタをこちらに。
構成としては、
1) 半側空間無視の定義と診断テスト
2) 半側空間無視の原因部位
3) Toward an animal model of spatial hemineglect.
というかんじを考えています。
1)ではレビューを援用します。ちょうどいいのが何か探しあぐねているところなのですが、いまのところprogress in neurobiology 2001 Kerkhoffを使ってます。半側空間無視はbisection testやcencellation testを使って診断される。多くの場合で同名半盲も起こっているので、perimetryによって同名半盲があるかどうかを判定する。
2)にかんしては20040719および20051103でコメントした論文を取り上げます。Posterior parietal cortexとprefrontal cortexとを結ぶfiber(SLF IIのhuman analogue)ではないか、という説です。
3)については
Gaffan D, Hornak J. "Visual neglect in the monkey. Representation and disconnection." Brain. 1997 Sep;120 ( Pt 9):1647-57.
を採り上げます。これは、parietal leucotomyでは半側空間無視を起こすが、posterior parietal cortexとprefrontal cortexとのcombined lesionsでは起こらない、というものです。
でもって、1)から始めると、ポイントの一つは「半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?」ということです。次回はこれについて。

コメントする (2)
# Shuzo

spatial neglectについては、The Cognitive and Neural Bases of Spatial Neglectという本が出ていましたね。確か、nhpやラットの研究にもページが割かれていたように思います。

# pooneil

どうもありがとうございます。
ちょこまか調べているところですが、臨床側から書かれたものが手元になくて困っているところです。ではまた。


2008年02月14日

顕著性マップを実装するC++ツールキット

どもども、元気です。
娘が好きな男の子にバレンタインデーのチョコをプレゼントするってんで、ママと一緒にフードプロセッサを使ってチョコを砕いてたりする今日このごろです。
さて。
さいきんC++の勉強をしてます。
なんて書くと、また余計なことに手を伸ばして、と言われそうですが、必要に迫られて勉強してます。
University of Southern CaliforniaのLaurent Ittiが構築した"iLab Neuromorphic Vision C++ Toolkit"(iNVT)というのがあって、これがGPLに基づいたオープンソフトウェアとして利用できるようになってます(あらかじめ登録が必要)。これを使ってなにができるかは"iLab Neuromorphic Vision C++ Toolkit Screenshots"のあたりをみるとわかるかと思います。でもって、このコードを読んでやろうってわけ。
Laurent Ittiはsaliency mapのcomputational modelingで有名な人でして、Koch-Ullmanの提唱したsaliency mapの概念をbiologically plausibleなmodelとして実用に耐えうるものにした人です。いちばん有名なのは
Nature Reviews Neuroscience 2001の"Computational Modeling of Visual Attention."(pdf), Vol. 2, No. 3, pp. 194-203
でしょうね。昨年はNeuronにも仕事が出ました。
んで、さいきんはsaliencyに加えて、bayesian surpriseというものを提唱しています。Saliencyのほうは、V1とかのlateral inhibitionを考慮してfeature(colorとかorientationとか)ごとにspatialにsalientな場所を抽出して、それを足し合わせるというモデルだったのですが、bayesian surpriseのほうは、lateral inhibitionを使う代わりに、ある刺激を見たときのprior probabilityとposteiror probabilityとのあいだの変化の大きさをKL divergenceで計算して、これをbayesian surpriseとして定義する、というものです。この定義からわかるように、どのくらいの重みでpriorからposteriorを作るか、という点を固定しないといけない。この点がトリッキーだと思うんだけれど。
このへんについては、以前のエントリでも"Saliency mapとbayesian surprise (1)"および"Saliency mapとbayesian surprise (2)"で紹介しました。

さてさて。でもってじっさいにどういうimplementationがされているかを調べてやろうということでいまソースコードを読んでるんですが、なかなかたいへん。
まず、わたしはC++を知らない。そして、iNVTはC++のけっこう新しい機能を使いまくったコードで、いわゆる"better C"としての使い方じゃない。
たとえば、Saliency mapを表現している脳をひとつのクラスとしていて、さらにそれがcomponentごとに分かれたさまざまの抽象度のクラスを持っている。たとえば、intensityとか、colorとか、featureレベルの処理もひとつのクラスだし、それらより抽象度の高いVisual Cortexとか、Brainというクラスを持っていて、継承を使いまくってる。
それから、template使いまくり。二次元の画像入力の処理に関してだったら、template<class T>とかclass Image< T >とかそういうのが並んでる。この辺の詳細についてはこちらに書いてあります:"Programmer notes"
わたしの方はといえばこれまでは、STLとかtemplateとか継承とかそういう言葉を使うことさえ出来なくて、やっとさいきんわかってきたところ。
そもそもわたしは薬学出身ですんで、学部時代はもっぱら有機化学の実験とかそんなかんじでして、プログラミングについて系統的な勉強はしたことが無くて、10年前にラボ移ってtaskコントロールのソフトでCのポインタで挫折して、解析はExcelでやってたというかんじでした。Matlabの使い方を知って感激して、そのあとはSASをいじったりとか、せいぜい専用高級言語を使ってるというのが5年前。Matlabはいろんなところのconsistencyがクソですが、それでもCのポインタで挫折した私にとっては救世主でした。
だんだん解析で使うMatlabでの計算が重くなってきて(モンテカルロシミュレーション10万回とかをdoubleのままでやってたりするから)、ここはuint8にしようとか、実験データの行列へのアクセスを構造体を使ってやったりとか(連想配列がないので)、昔よりは工夫するようになったけどぜんぜん素人です。
さてそんなわたしがiNVTのコードを読むためにC++の勉強をしている、というわけ。Cのときみたいにmain()を上から読んでいってもさっぱりやってることがわからないので、入力や出力に近いところのクラスや関数の定義や実装をさがしてそれを読んで、またそこから参照しているところを読んで、とかそんなかんじです。
参考書が必要。とりあえずforとかswitchとかそういうのはべつにいいので、C++に特化したところを知りたいということで紹介してもらったのが「Accelerated C++」。これはポインタとかmallocとかそういうのすっ飛ばして最初からvectorとかを使って簡単なプログラムを作る、というやつでして、いま6章まで来ましたがとてもいいです。
とはいえ、いきなりこれで始めるのはたいへんなので超簡単な入門書を読んでおいたほうがよいと言われたので、Accelerated C++のまえに「C++ の絵本」。とりあえず二日で読んで、最小限のことはわかった。コンストラクタとデストラクタとか、例外処理とかそういう概念だけ。
Accelerated C++を読んだあとはこれ読め、って言われたのが「Effective C++ 原著第3版」。ネットで調べて超有名本だということは知りました。値渡しではなくてconst参照渡しをしよう、とかは理解できた。
そんでもって、リファレンスとしてBjarne Stroustrupの「プログラミング言語C++」は持っておけと言われた。これは知ってる。C++でのカーニハン&リッチーですよね。とりあえず枕にしてる。
図書館でおなじくBjarne Stroustrupの「C++の設計と進化」を見つけた。とりあえず、C++が[C言語の改良版]+[クラスを使ったオブジェクト指向言語]+[STL等を使ったジェネリックプログラミング]、という要素を全部つっこんだものだってことはわかった。
さてさて、並行してコードを読むためのエディタなんだけど、とりあえずKDevelopを使ってます(Linux上で動かしてるもんで)。コードの中で出てくる関数やクラスの実装がどこにあるかとかを右クリックで飛んでくれる。ほんとはEmacsでetagが使うとよいと言われているんだけれど、Emacsはなんどやっても挫折しまくり。チュートリアルをやろうとしてもすぐなんか抜けられなくなるとかそういうレベル。なんとかして。んで試行錯誤した結果、iNVT自体がソースコードの中でDoxygenがhtml形式のdocumentを生成してくれるようになっているので、それを使ってコードを追っかけるのがいちばん良さそうだということが判明。というわけでmake doc。
ともあれ、どうやったらコードって読めるようになるんですかね。タイトルにそのものずばり「code reading」というやつがあるので図書館で読んでみましたけど、どうやら私向けではなかったみたい。
ではまた。なにかしら続きます。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
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  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
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  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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