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■ JNP 統計の使い方のガイドライン

つづき。
…こんな感じです。信頼区間の表示、というのにはちっと違和感を感じました。上でも書きましたけど、図としての表示の仕方にそぐわないのですね。この調子で行くなら、2-way ANOVAはfittingしたモデルによる成分と残差プロットとを別々に出してやる必要がある、ってぐらいのところまで行ってしまいます。
se or sdが重要な問題であるのは間違いない。seはデータ数nさえ増やしてしまえばどんどん小さくなってゆくので、どんなに生理学的or薬理学的にしょぼいデータでもnを増やして有意差をつけることはできるのです。たとえばある薬がある生理学的数値を0.01%上昇させるだけだったとしても、nが増えれば有意差が必ず出せます。よって、どのくらいの変動があれば生理学or薬理学的に有意味であるか、ということを判定する必要があるのです。
一方で、fMRIのデータというのはまさに1%とかのシグナル変動を、nを加算したり、時間的空間的相関をフル活用したりして、その有意度を検出してくるのですね。じゃあ、それはまずいのかというとそうではなくて、fMRIでのBOLDシグナルというのは、神経活動によって間接的に変動を受けるものなので、その変動が小さくなってしまうのは仕方ないわけです。たとえば、脳のあるvoxelの中のニューロンの10%が普段の10倍発火したとして、それによって起こるBOLDシグナルの変動はニューロンによるものよりもずっと小さく、しかもtime courseも遅い、だからこそ1%の変動に有意差を出す意義があるわけです。
というわけで、けっきょく、そういった生理学的有意味度という価値判断がないと、われわれは有限のデータから得られた統計結果でなにかを言うことをできない、って極論ですな。αだけでなくてβも考慮すべき、ということは言えるのではないでしょうか。なんにしろ、そもそも二つのグループの分布が重ならないくらい離れているなら、統計なんてなくても一目瞭然。だから、これは定量的か、定性的か、なんて問題でもあります。
なお、このへんに関する重要な論文の抄録が"TAKENAKA's Web Page: 有意性検定の無意味さ"にあります。
ついでに:私がガイドラインに手を加えるなら、こんなこと((1)(3)に含まれますけどね):
(A) Subjectのeffectを考慮すべし。とくにsingle-unitなら、animal間で結果がconsistentであることを示すべき。私たちの分野ではsubjectの数はせいぜい2-3なので、これらの間でconsistentでないデータは、main resultにはなりえない。Animal consistencyを示していないデータはほとんどがどちらか一匹のデータに依存していると見なされてもしかたない(これでJNPのsingle-unit論文のデータのほとんどは失格する)。
(B) 正規性の仮定に敏感になるべし。正規性の仮定が成り立たないものでt-testやANOVAをしてはいけない。たとえ、ANOVAに頑強性があることが知られていたとしても。たとえば、サッケードのreaction timeはその逆数が正規分布することが知られています(以前扱ったCarpenter論文を参照)。よって、解析をするときには逆数取ってからそれでANOVAするべきなのです。そんな論文見たことないけど。
私は以前、比のデータA1/B1とA2/B2とをANOVAで検定したことがありますが、正規性がまったく仮定できないので、これに対処するために私は統計学の雑誌をあさって、ノンパラバージョンの2-way ANOVA (Friedman testは繰り返しの回数が同じでないと使えないし、interactionがないことを仮定しているのでダメ)を自作したことがあります。けっきょくは使わなかったのですが、ANOVAでの結果とそんなに大きくは変わらない印象がありました。本当はあの解析はA1-A2とB1-B2という二つのfactorがあって、それの間でのintractionとして検出すべきだったのでしょう。尤も、こんなことをうるさくいう人間は私しかいなくて、reviewの過程でそういうことを指摘されたことは一回もなかったのですが(意味ねー)。
(C) 回帰分析では外れ値がものすごく効いてくるので、てこ比やCoock distanceなどの指標を添えてrobustnessを評価するべき。
…だんだん話が細かくなってきましたが。
では最後に関連論文。


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