[月別過去ログ] 2009年06月
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■ 大脳-基底核-上丘のcomputational model
Nature Neuroscience "Cortico–basal ganglia circuit mechanism for a decision threshold in reaction time tasks" Xiao-Jing Wang。
Rnadom dot motionのコヒーレンスを変えてやって、どっちの方向に動いているかを判断してサッケードで答える、といったperceptual decisionの実験パラダイムでいろいろ実験が行われてきていますが、今回はそれをXiao-Jing Wangが大脳-基底核-上丘の回路を考慮したリアリスティックなモデルを作って説明しようとしています。
そのようなperceptual decisionがどのように行動をmodulateするか、行動選択だけでなく、その潜時も取り扱えるような課題(Roitman and ShadlenのJNS '02 "Response of neurons in the lateral intraparietal area during a combined visual discrimination reaction time task."とか)をモデル化してます。
そういうわけで、これまでのCarpenterのLATERモデルとかRatcliffのモデルとかとは違ったアプローチになるわけですが、生理学者的にはこっちのほうがニューロンの発火パターンと結びつけたりしやすい、というか話は逆で、ニューロンのデータと整合性があるようにモデルが構築されてるわけです。
いきなりここから脱線してもう戻らないのですが、ところで、いまの話は計算論がなにを明らかにしようとしているのか、という問題に関わるので重要です。以前川人先生と小田先生とお酒を飲む機会があったのですが、そのとき川人先生が強調されていたのは、計算論は実験結果を説明できるようなモデルを作るだけでは不充分で、そのなかである計算論的な原理を抽出してくる(このへんの正確な表現は忘れた)ことが重要なんだ、というわけです。これはデビット・マーの3つの理解のレベル: computationとalgorithmとimplementationに基づいた考えです。また、川人先生やWolpertがやっていたような、到達運動がジャークを最小にするのか、トルク変化を最小にするのか、到達位置の誤差分散を最小にするのか、とにかくそういった原理によって到達運動の軌道が決まるのだ、という研究の方向性に深く埋め込まれた考え(computationのレベルでの理解)でもあります。これはpersonal communicationの部類かなと思って以前は書かなかった(040323)のだけれど、著書でも同様なことが書かれているのでよいでしょう。
さて、そのような視点で見ると、サッケードでそのようなcomputationのレベルでの理解をしようとするモデルはあるでしょうか。じつはこれはそのとき川人先生から投げかけられた質問なのですが、今なら私自身の問いとして問いかけることが出来るでしょう。この問いはperceptual decisionのようなcognitiveな話だと難しいように思います。Marrの話は感覚や運動には向く気はするのだけれど、認知ではどうでしょうか。なんらかの最適化の概念が必ず含まれているようにも思えるし。
サッケードの運動としての側面としては、Listingの法則をどうやって実現しているか、という、最近ではDora Angelakiが、以前からもっとたくさんの人がやっている話は近い気がします。そのうち書こうと思っていたのだけれど簡単に。眼球は三つの回転の自由度(horizontalとverticalとtorsion)を持っているけれど、実際に実現すべき動きは球面上を動くような2次元に近い動きであり、自由度が冗長です。そこで、実際の眼球の動きはtorsionを最小化するように、horizontalとverticalの二つの回転軸を45度回してできた回転軸を含む平面上を動く、というやつです。と書いてみて、これはimplementationの問題であることに気付いたり。崩壊。
Sparksのmoving hill hypothesisとかの論争も、… 視覚でのベイジアン的 … (まとまらないのでこのままアップ。)
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2009年06月19日
■ 視覚研究会でビラ配り
どうもこんにちは。ASSCから帰ってきました。そのうちレポートします。
小松 英彦先生と西田 眞也先生が行っている生理研研究会 (「視知覚研究の融合を目指して ― 生理、心理物理、計算論」) に参加してきました。といいつつ、金井さんの講演と神谷さんの講演だけ聞いてきて、質問して、夜の宴会は欠席させていただくというかんじで。
フライヤーを作って研究会終了後に配布してきました。思い立って一時間で文章作成。以下に掲載しておきます。ポスター発表募集中です。みなさまよろしくお願いします。またあらためて宣伝メールなど送付する予定ですが、きょうはここと研究会サイトにファイルを置いて失礼します。
生理研国際研究集会 「認知神経科学の先端 意識の脳内メカニズム」
NIPS International Workshop for Scientific Study of Consciousness
開催のお知らせ --- 今年は9/19(土)-20(日)です!
「認知神経科学の先端」研究会は今年が3年目となります。2年前は「注意と意思決定」がテーマでした。昨年は「動機づけと社会性」をテーマとして行いました。今年は「意識」をテーマとして、「国際研究集会」として行います。多くの外国人研究者を招き、発表、議論は英語で行います。国際研究集会としての性格上、昨年までとは形式が変わりますが、議論の時間を多く取る方針はこれまでと変わりません。ぜひお誘い合わせの上、ご参加ください。
ポスター発表募集中です。
(「意識」にこだわらず知覚関連での研究を広く募集します。ポスターアワードを行う予定です。)
若手の方の運営手伝いを募集予定です。
(旅費または宴会代の援助あります。)
くわしくは以下のweb siteまでかもしくは吉田までメールでどうぞ。
日程:2009年9月19日(土)12時~9月20日(日)16時 (時間は多少変更する可能性あり。)
会場:自然科学研究機構 岡崎カンファレンスセンター
オーガナイザー: 吉田 正俊 (生理研・認知行動発達機構)・土谷 尚嗣(カリフォルニア工科大学)
Web site: http://www.nips.ac.jp/%7Emyoshi/workshop2009/ (NIPS-SSCでググれば見つかります)
問い合わせ先: 吉田 正俊 myoshi@nips.ac.jp
講演者(敬称略)
- Ralph Adolphs (カリフォルニア工科大学)
- Ned Block (ニューヨーク大学)
- Olivia Carter (メルボルン大学)
- John-Dylan Haynes (ベルリン医大)
- 金井 良太 (ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)
- Christof Koch (カリフォルニア工科大学)
- 西田 眞也 (NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
- Petra Stoerig (ハインリヒハイネ大学)
- 土谷 尚嗣 (カリフォルニア工科大学)
- Melanie Wilke (カリフォルニア工科大学, NIMH)
- 山本 隆充 (日本大学医学部)
- 吉田 正俊 (生理学研究所)
講演者の方の紹介など。(文責:吉田 正俊)
さて、ここからはもっとくだけたかんじで講演者の方の紹介を書いてみます。今年は12人ですので、かいつまんで、ということで。
Christof Koch (カリフォルニア工科大学)は今年は神経科学大会のプレナリーーレクチャーおよびシンポジウムを担当していただいて、さらにこちらでもお話をしていただく予定です。多彩な仕事をしていますが、クリックとの活動で、意識の科学的研究を進めるために、「Neural correlate of consciousness (NCC)」を見つけるという研究プログラムを提唱する、というあたりがいちばん知られているかと思います。おばあさん細胞的発想が突っ込まれがちですが、さいきんはinformation integration theory を提唱するGiulio Tononiとの共著を書いたりして、NCCが必ずしも局在論的なものに限らないことを強調しているようです。の参考文献:「意識の探求」(岩波書店); "A framework for consciousness." Crick F, Koch C. Nat Neurosci. 2003 Feb;6(2):119-26; "The neural correlates of consciousness: an update." Tononi G, Koch C. Ann N Y Acad Sci. 2008 Mar;1124:239-61.
Ralph Adolphs (カリフォルニア工科大学)は扁桃体の損傷患者の研究で有名です。意識下のemotionの情報の処理の話などが意識研究という意味では関わってくると思います。参考文献:"A mechanism for impaired fear recognition after amygdala damage." Adolphs R, Gosselin F, Buchanan TW, Tranel D, Schyns P, Damasio AR. Nature. 2005;433(7021) 68-72.; "Processing of the arousal of subliminal and supraliminal emotional stimuli by the human amygdala." Glascher J, Adolphs R. J Neurosci. 2003;23(32):10274-82.
John-Dylan Haynes (ベルリン医大)はimageryのような外的刺激に依存しないものをfMRIでdecodingする仕事で有名です。今年のベルリンでのASSC(「意識の科学的研究に関する学会」)ではオーガナイザーをされていました。神経科学大会で神谷さんのシンポジウムでトークした後にこちらでもトークをしていただけることになりました。参考文献:"Decoding visual consciousness from human brain signals." Haynes JD. Trends Cogn Sci. 2009 May;13(5):194-202.; "Unconscious determinants of free decisions in the human brain." Soon CS, Brass M, Heinze HJ, Haynes JD. Nat Neurosci. 2008;11(5):543-5. "Predicting the orientation of invisible stimuli from activity in human primary visual cortex." Haynes JD, Rees G. Nat Neurosci. 2005;8(5):686-91.
Ned Block (ニューヨーク大学)は哲学者ですが、認知神経科学の成果に基づいた上で話をされるので科学者と対話ができる方です。意識を機能的な側面access consciousnessと現象的側面phenomenal consciousnessとに分けた上で議論していますが、最近は少し言い方を変えて、cognitive accessとphenomenal consciousnessという分け方をしています。参考文献:"Consciousness, accessibility, and the mesh between psychology and neuroscience." Block N. Behav Brain Sci. 2007;30(5-6): 481-99; "Two neural correlates of consciousness." Block N. Trends Cogn Sci. 2005;9(2):46-52.
Melanie Wilke (カリフォルニア工科大学, NIMH)はLeopold研でflash suppressionの電気生理をやってきました。最新の仕事ではpulvinarのgammaリズムとの関連を見てます。参考文献:"Neural activity in the visual thalamus reflects perceptual suppression." Wilke M, Mueller KM, Leopold DA. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Jun 9;106(23):9465-70.; "Generalized flash suppression of salient visual targets." Wilke M, Logothetis NK, Leopold DA. Neuron. 2003 Sep 11;39(6):1043-52.
Petra Stoerig (ハインリヒハイネ大学)は長年盲視患者および盲視サルでの研究を行ってきました。ヒト患者の研究では色弁別についての仕事が、サル動物モデルの研究では検出課題の仕事がNatureに掲載されています。参考文献:"Blindsight in monkeys." Cowey A, Stoerig P. Nature. 1995;373(6511):247-9.; "Wavelength sensitivity in blindsight." Stoerig P, Cowey A. Nature. 1989;342(6252):916-8.
金井 良太 (ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)は心理物理、TMS、tDCSなどを用いて多彩な仕事をされています。現在はUCLのWalsh研に在籍しておられます。最新の成果は"Frequency-dependent electrical stimulation of the visual cortex." Kanai R, Chaieb L, Antal A, Walsh V, Paulus W. Curr Biol. 2008;18(23):1839-43.; "TMS over the intraparietal sulcus induces perceptual fading." Kanai R, Muggleton NG, Walsh V. J Neurophysiol. 2008 Dec;100(6):3343-50.
紙面が尽きました。それでは、みなさまぜひお越しください。
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