[カテゴリー別保管庫] 「顔」の表象
2006年02月21日
■ 今週のF1000(1)
小松先生が二つ挙げています。
Science 2/3の"A Cortical Region Consisting Entirely of Face-Selective Cells" Tsao, Freiwald, Tootell and Livingstone。
このへんにface cellの多いところがあることはよく知られていて、わたしも記録したことがあるけれど、これは比較的posteriorのほうのspot ですな。かなりSTSのlipに近いし、A5-6だから、表面の方はTEpdかTEO。しかし97%とはたしかに強烈ですな。ほかにも点在していることが知られているので、それらはどうなのか興味あります。
グリッドの中の1,2点からしかそういうspotに行けない、というあたりはとてももっともらしい。Face neuronに限らず、そういう構造を見つけたら、本物の機能構造だな、と思います。逆は必ずしも真ではないのかもしれない。かならずしも大脳皮質のすべての機能構造がそうなっているとは言えない。だけども、frontalとかでまばらにいろんなニューロンがあるというのはあまりピンとこないのです。(なんかその領野をspecifyするうまい刺激やタスクパラダイムを設計できてないのではないか、と思ってしまう。でもこれはいままでの経験を引きずっているが故のことだろうとは思っているのだけれど。あくまでcortexの話。上丘やbasal gangliaとかはまた違ってそうですし。)
2004年09月24日
■ Neuropsychologia
"Are Greebles like faces? Using the neuropsychological exception to test the rule." Gauthier
5/1および8/26にとりあげたGauthier vs. Kanwisherによる「fusiform face areaは顔に専門化した領域なのか」論争関連の論文が"ご隠居のにゅーろん徒然草 9/24"にてとりあげられています。
2004年08月26日
■ Neuron 8/19
Duchaine BCはHarvardのKen NakayamaのところでProsopagnosiaについていくつか論文を書いています。 Prosopagnosiaとは何か:日本語訳で「相貌失認」です。脳の損傷によって起こる、顔をほかの物体と見分けることはできるけれども、それが誰の顔なのかを識別することができない、という状態のことです。ほかの物体間はだいたい見分けることはできるので、顔に特有だということが非常に特記すべきことなのですな。「視覚の謎」本田仁視著に一章分が割かれているのでそこから少し抜書きしてみましょう。いろんなヒントが隠れていることがお分かりでしょう。顔のパーツから顔のゲシュタルトを形成している、顔を顔たらしめているものが何であるか、それが壊れてしまうとどう見えるか、ということがよくわかります。いつも通り、損傷部位の大きさと位置によってその障害の特異性はいろいろ違うわけですが。 んでもって、なぜこのようなことが起こるかなのですが、以前にもKanwisher論文(5/1)とかのときに書きましたが、fMRIとかでも、顔を見たときに特異的に活動する領域があることが知られています(FFA:fusiform face area)。よって、このような領域が損傷することでprosopagnosiaが起こるのでしょう。例によって、症例研究からはいろんなパターンが見られるらしく、右半球側の損傷のほうが原因であるらしいです。 さて、でもって、Kanwisher論文のときにも書きましたように、そのような顔に特異化した領域というのは実際にはどういう機能を持っているのか、生得的に顔をコードしているのか、それとも顔のような複雑で微妙な物体を識別するのに関与しているのか、という問題がありました。後者を支持するものとして、顔に似せたcomputer 3D CGの"greeble"というもの(鼻や目に対応するパーツがたくさんあって、それらの組み合わせから家族的関係が構築される。つづきは注にて*1)を持ってきて、これらの識別でFFAが活性化するという話をしだしたのがGauthierでした。 では、prosopagnosiaの患者さんはgreebleを識別できるか、これがこの論文の問いです。で答えは、問題なく識別できる、というものだったのです。で彼らの結論としては、顔を認識することとgreebleを識別することとでは別のメカニズムが使われている、ということなわけで、Gauthier側ではなくて、Kanwisher側につくわけです。 でもいつも通り話は簡単なわけではないようです。前述の「視覚の謎」をもう少し読み進めているとこんなことが書いてあります。(Bodamerによる報告。「視覚の謎」本田仁視著 8章「顔のない世界」より)
- 彼は顔の特徴は全て識別できた。しかし彼には全ての顔が同じように無味乾燥に見えた。顔に表情を見て取ることができなかった。
- 彼が頭部に損傷を受ける以前に会った人々の顔、たとえば親戚のものや戦友などの顔は記憶に残っていた。だから、それらの顔をはっきりとイメージすることができた。
- 「まるで平たい板から作られたように、奇妙に平たくて、白くて、目だけが目立って黒い。白い楕円形の板のようで、みんな同じに見える」。これは患者が顔を見たときの視覚的体験を述べたものである。
結局のところ、いろんな損傷部位によっていろんな特異性を持った障害のある患者さんがいるわけで、その特異性を踏まえることがこの病気の原因解明には重要なわけです。以前のhemineglectの同様なシチュエーションですな。 そういう意味での今回の論文のneuesは、これがDevelopmental Prosopagnosia(成人してから事故にあった例ではなくて、生まれてすぐかなり若いときから障害を持っている例であるため、顔というものがどういうものであるかを経験したことがない)の患者さんである上に、障害が厳しい例であるにもかかわらず、greebleを識別できたというわけで、これまでよりもより厳しい検証になっている点にあるのでしょう。あーあ、またアブストだけ読んで書いてしまいましたよ。 追記:"Visual Agnosia" by Martha J. Farah, MIT Press, 2nd Edition(「視覚の謎」本田仁視著 8章「顔のない世界」より)
- 実際は人の顔以外のものでも、顔らしいものであれば認知で気なくなることが少なくない。すでに紹介したボーダマーの患者は動物の顔も認知できなかった…車や花の区別がつかない患者も報告されている。
- しかしながら、人の顔の認知だけが困難で、その他のものを認知する場合にはまったく正常である患者が存在することも確かである…彼(患者WJ)は人の顔の識別は困難だったのに、羊を見分ける能力は人並み以上だった。
*1:greebleの実例はhttp://www.cog.brown.edu/~tarr/pdf/Gauthier_Tarr97b.pdfのFig.1-2で見ることができます。Macの人はhttp://www.cog.brown.edu/~tarr/stimuli.htmlから元データを落とせます。
# ご隠居
あー,また論文よまずにコメントだけ書いてしまっています.(いつもレベルを落としてすみません)「顔を認識することとgreebleを識別することとでは別のメカニズムが使われている」結果なことは確かなのでしょうが,先天性の障害をもった患者さんの場合は,たとえば,「顔を認識する」メカニズムが障害されてしまっているため,他の機能が代償的に発達している可能性もありますね.これは,先天性に限らず,脳梗塞の慢性期の患者さんにもいつも問題になりうることなのですが.(別のストラテジーを発達させるって,他にもいろいろありますよね...)なので,必ずしもこれまでよりもより厳しい検証だとはいえないかもしれません.(もちろんそうなのかもしれません),なかなか,あいまいなことしかいえなくて,つらいですね.(冷汗)注意しなければいけないことは,同じ相貌失認という症状を呈していてもご指摘のとおりプロファイルは異なりうるということですね.例として適切ではないかもしれませんが,例えば(congenital) dyslexiaと左ventral occipital lobeの障害後のalexiaでは字が読めない点は共通なのですが,一般的にだいぶ症状の全体像が異なっていたような気がします.とっても大雑把にいって,その左が右になったものが相貌失認だとすれば...いずれにしろGauthierは一般化しすぎたんではないかと思っています.オリジナルの仕事も解析とかちょっとどうかと思うことがありましたし.ちなみに,失認関係では,ご存知でしょうが,FarahのVisual agnosiaって本は面白かったですね.これもまたちょっとやりすぎなのですが(特に神経科学的な立場からよむとそうだと思います)ひじょうにinformativeな本です.第2版もでたのでぜひ読まなければと思っています.あー,失礼しました.
# pooneilいつも有用な情報書き込みありがとうございます。”Visual agnosia” 2nd edition出てたんですね。さっそく取り寄せ請求しました。Milner and Goodaleの”Visual brain in action”を読んでいると、visual agnosia、optic ataxia両方とももっとよくわからないと本当のところはよくわからないと思い、勉強しております。なんつーか、わかったようでわからないんです、>>visual agnosia。
「機能代償の可能性」、なるほど、その意味では急性期の症状を見ることが重要になってきますね。むつかしい。もちろん、他人事ではないのだけれど。
ご紹介ありがとうございます.(本音:→ あ,あまり宣伝しないでください.恥ずかしすぎる...アホまるだしで...ちょっとやばすぎ...)
# mds「顔に特異化した領域というのは実際にはどういう機能を持っているのか〜」の件で思い出したことがありました。Shimojo et al. (2003). ”Gaze bias both reflects and influences preference”Nature Neuroscience, 6, 1317-1322.http://www.nature.com/cgi-taf/DynaPage.taf?file=/neuro/journal/v6/n12/full/nn1150.html&filetype=PDFこの論文で、Fourier descriptorと呼ばれる視覚刺激(顔とは似てもにつかない)が顔刺激と類似したプロファイルを示すことを報告しています。この現象をメインに捉えた論文ではないのでついつい影に隠れがちですが、なかなか面白い結果ではないかと。もちろん選好判断前の時系列注視プロファイルという行動レベルでの結果ですので、脳云々の問題にまですぐさま拡張は出来ませんが。顔に共通した空間周波数成分の基本的な組み合わせがあるんでしょうか・・・。フーリエ成分のテンプレートというか。もしそれがあるとして、それらをコードする脳領域が各々分散して存在する(STS,IOG,IPS等ありますし)、と考えれれば非常に分かりやすいお話で。この考えだとやはり、binding問題が切っても切り離せない問題になってくるので、ややこしいんですが。どうも今の僕はこの考えで思考をストップしている節があります。(単に「門外漢だからこの程度でいいか」と思ってるだけですね。すみません、適当で・・・)
2004年05月01日
■ Nature Neuroscience 5月号
Nature Neuroscience 5月号
"The fusiform face area subserves face perception, not generic within-category identification." Nancy Kanwisher。
これは延々Gauthierとやっているface area論争のつづきだ。Humanのfusiform face area(FFA)は顔刺激の呈示によって選択的に活動する領域で、顔の認知に専門化した領域であると考えられていた。しかし、人間にとって顔というのは非常に特殊なカテゴリーであるだけではなくて、非常に微妙なパーツの違いの組み合わせから人間は個々の顔を見分けてしまう(われわれは個々の人間の顔を見分けるようには個々の花や昆虫を見分けられない)。つまり、FFAの選択的活動はそういった「習熟」したobjectを処理していること自体の反映である可能性があった。そこでGauthierはカーディーラー(車を見分ける専門家)やバードウォッチャー(鳥を見分ける専門家)などの場合にはそれらの車や鳥によってこのFFAが活動することを示した(非専門家は車や鳥によってFFAが活動することはない)。ほかにもいくつか論文を出して、FFAが顔の認知のための領域であるというよりは、そういった微妙な見分けが専門化されたwithin-categoryのobject(objects of expertise)に対して活動する領域であることを示唆した。
そこでKanwisherによる反撃。顔のidentification taskを被験者にやってもらって、そのperformanceとFFAのfMRIでの活動のtrial-by-trial varianceを調べると、performanceとFFAの活動とが相関していることがわかった。つまり、FFAの活動は実際の顔認知に関わっていることを示している。*1一方、花や家などを見分ける専門家がそれぞれ花や家などを見分けるときのperformanceとFFAの活動には相関が見られなかった(fig.7)。Performanceと関連していたのはoccipito-temporal sulcus / inferotemporal gyrusだったり、medial fusiform gyrusだったりした。というわけでKanwisherの結論はFFAはそういったwithin-categoryのobjectのidentificationには関わっていない、やはり顔認知と関係ある、とするものだった。
実はFig.7を見ると、鳥の専門家の場合、鳥のindentificationのperformanceはFFAの活動とも相関しているのだけれど、まあ、それよりはmedial fusiform gyrusとの相関のほうが強いから良しとしましょう。鳥にも顔があるし。
*1:つまり、単に活動しているかどうかよりもより機能的意義が高い。
2004年01月12日
■ JNP
Neuronal Correlates of Face Identification in the Monkey Anterior Temporal Cortical Areas
永福さん@富山医科薬科。
TEavにあるface identity neuron。
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