[月別過去ログ] 2003年08月
« 2003年07月 | 最新のページに戻る | 2003年11月 »2003年08月04日
■ PNAS論文「霊長類側頭葉TE野から傍嗅皮質の視覚長期記憶を表象する神経細胞への前向性投射の解剖学的構成」
Anatomistかつphysiologistとしての仕事がPNASに載る。精細はPubMedまたはPNASへ。
A number of studies have shown that the perirhinal (PRh) cortex, which is part of the medial temporal lobe memory system, plays an important role in declarative long-term memory. The PRh cortex contains neurons that represent visual long-term memory. The aim of the present study is to characterize the anatomical organization of forward projections that mediate information flow from visual area TE to memory neurons in the PRh cortex. In monkeys performing a visual pair-association memory task, we conducted an extensive mapping of neuronal responses in the anteroventral part of area TE (TEav) and area 36 (A36) of the PRh cortex. Then, three retrograde tracers were separately injected into A36 and the distribution of retrograde labels in TEav was analyzed. We focused on the degree of divergent projections from TEav to memory neurons in A36, because the highly divergent nature of these forward fiber projections has been implicated in memory function. We found that the degree of divergent projection to memory neurons in A36 was smaller from the TEav neurons selective to learned pictures than from the nonselective TEav neurons. This result demonstrates that the anatomical difference (the divergence) correlates with the physiological difference (selectivity of TEav neurons to the learned pictures). Because the physiological difference is attributed to whether the projections are involved in information transmission required for memory neurons in A36, it can be speculated that the reduced divergent projection resulted from acquisition of visual long-term memory, possibly through retraction of the projecting axon collaterals.
吉田による訳:傍嗅皮質(内側側頭葉記憶システムの一部に当たる)が宣言的な長期記憶に関わっていることは多くの研究が示している。サルでの実験から、傍嗅皮質に視覚長期記憶を表象するニューロン(記憶ニューロン)があることがわかっている。本研究の目的は視覚連合皮質であるTE野から傍嗅皮質の記憶ニューロンへの情報伝達を担う前向性投射の解剖学的構成の特徴を見出すことにある。このため、視覚対連合記憶課題を遂行するサルのTEav野(TE野の前内側部)および36野(傍嗅皮質の外側部)の神経活動の精細なマップを作成した。つづいて、三種類の逆行性標識色素を36野に注入して、逆行性に標識された神経細胞の分布を解析した。本研究では、TEav野から36野の記憶ニューロンへの投射の神経側枝の広がりの具合(以降放散度と呼ぶ)について注目した。以前からTEav野から36野への投射の放散度の高さが記憶の機能と関連があると考えられていたからである。36野の記憶ニューロンへの投射の放散度は、TEav野のニューロンのうち学習した図形に選択的応答をするニューロンから投射するものでは、学習した図形に選択的応答をするニューロンから投射するものと比べて低かった。このことは解剖学的な違い(放散度)と生理学的な違い(TEav野のニューロンの学習した図形に対する応答)とが相関していることを表している。この生理学的違いとは、あるTEavニューロンが36野の記憶ニューロンの応答に関する情報処理に関わっているか、そうでないかの違いであると言える。よって、本研究で明らかになった放散度の減少は長期記憶の獲得から、おそらくは神経側枝の退縮によって引き起こされたものと推測する。
これが前のラボのメインプロジェクトでした。7年かかりました。
- / ツイートする
- / 投稿日: 2003年08月04日
- / カテゴリー: [内側側頭葉と記憶システム]
- / Edit(管理者用)
お勧めエントリ
- 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
- 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
- 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
- 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
- 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
- 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
- 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
- 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
- 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
- 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
- DKL色空間についてまとめ 20090113
- 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
- ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
- Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
- 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
- MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213