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■ Current Biology
Publishした頃に書いたんだけれど、最近書くネタが多かったので貼りそびれてました。
"Experience in Early Infancy Is Indispensable for Color Perception." 杉田先生@ 産総研。
これまでの杉田先生の業績はすばらしくかつ独特で、プロジェクトごとの成果をNatureにshort paperとして出しつづけていて、JNSやJNPのようなfull paperはまったく書いておられません。今回の論文も含めて、どの論文もアッと言わせられるような大胆かつ鋭いところがあります。
- Nature '03 "Implicit estimation of sound-arrival time." (産総研のプレスリリース)
- Nature '99 "Grouping of image fragments in primary visual cortex."
- Nature '96 "Global plasticity in adult visual cortex following reversal of visual input." 逆さめがね(左右反転)をかけたsubjectの適応段階でのV1からのrecording。
乳幼児期の視覚体験がその後の色彩感覚に決定的な影響を与える
ポイント
- 色の恒常性を含めて色彩感覚は生まれながらに持っているものと考えられてきたが、乳幼児期の視覚体験によって獲得されることが明らかになった。
- また、視覚体験が受容器官(網膜)ではなく大脳皮質に効果を及ぼしていることも同時に明らかになった。
これまでも生後直後の「臨界期」の視覚経験がV1ニューロンの左右の眼優位性(ocular dominance)や線分の方位などへの感受性に影響を及ぼすことについては盛んに調べられてきましたが、そのような発達時の可塑性が色の知覚に関してどうなっているかを扱った人はおそらくいないはずです。まったくの盲点だったというか、この論文のこの点がまずアッと言わせられるところです。そしてしかもその結果として、色弁別はとりあえずできるけれども色の恒常性が障害されるということを示したわけです。これもまた驚きで、そのような結果になるということはおそらく、retinal ganglion cellの回路(L-Mによるred-green軸の形成や(L+M)-Sによるyellow-bue軸の形成など)あたりはおそらくintactで、大脳皮質のどこかのレベル(V4あたり)での可塑性による結果であるわけです。(たぶんV1ではないであろうことも方位選択性の可塑性とかと比べた特色であると言えます。)
今回の結果にそれのneural correlateを見つけてくっつければこんどもNature級の論文だったと思われますが、電気生理のデータに関しては今後のこととなりそうです。
また、そもそも、色というのは視覚意識の問題にとって重要な位置をしめています。この実験で実現している色の識別とはわれわれが体験しているような色とその識別なのでしょうか。色の恒常性がないときにわれわれの色の視覚意識と色間の関係で作り上げられる空間はどのように変化するのでしょうか。
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- / 投稿日: 2004年08月05日
- / カテゴリー: [Papers_unclassified]
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# mds
興味深い論文ですね。早速読んでみます。「〜乳幼児期の視覚体験によって獲得されることが明らかになった」の行はプレスリリース特有の言い過ぎ、というか精確さが欠けている感がぬぐえなくもないですが、色の恒常性が発達過程で獲得されるものであることを示したとは・・・着眼点の鋭さにあっとさせられます。これから後の実験が多く続きそうな、非常に発展性のあるテーマですね。弁別というか波長への反応性については、鳥居修晃先生の報告(ISBN:4130111116)などで、先天盲開眼者の初期視覚が色に対して強い鋭敏性を持っている事が明らかにされていますが、やはり単純な色の感覚と電磁波の波長とは一対一対応するものであり、恒常性のような「高次過程」のみが発達によって可塑的に変化するものなのでしょうか?それとも感覚レベルの色の意識体験でさえも、初期経験により変化させることが可能なのでしょうか・・・?これらは飼育環境の変化で、有用なデータが得られそうです。また、これらのサルを通常環境下で飼育していった時に、どのような変化が起こるのか(初期経験ではなくlate onsetな可塑的変化)も私としては興味深いなので、是非取り組んで頂きたいテーマですね。もう、飛び跳ねたいくらい(!)面白い。ところで使いやすいです。このコメント欄。
# pooneilおひさしぶりです。http://d.hatena.ne.jp/mds/見てきましたよ。> やはり単純な色の感覚と電磁波の波長とは一対一対応するものであり、> 恒常性のような「高次過程」のみが発達によって可塑的に変化するものなのでしょうか?このへんが一番面白いところなのではないかと思います。線分なら単にコントラストがぼやけて見えるようなことが容易に想像できるわけですが、色の経験が変容されるとしたらいったい何が起こるんでしょう。色空間の位相的関係は保持されたままそれが縮んだりするんでしょうか。色と電磁波の波長とは一対一対応はしないのではないでしょうか。黄色の単波長光だろうと緑と赤の混色だろうと同じ黄色として感じますよね。そのような混色の関係が変わって色空間が歪むであろうことは予想できるわけですが。ところで「先天盲開眼者の視覚世界」、ちょうど別件で読んでいたところです。重要ですよね。しかしこれ読みすすめててもやっぱりどう感じているのかはよくわからないんです。色の識別はだんだんできるようになるし、色名もどんどん付加されていって分化しているわけだけど、その分化する前に見えていた色(たとえば、名づけることができなかった緑)は、分化した後に呈示された同じ色と同じように見えていたのか。クオリア自体が変わったのか(暗くてよくわからないものからビビッドな緑へ)、それともその緑を緑たらしめる赤や緑とも相対的関係が変わっただけなのか(緑-赤の軸ができるまでは緑は青-黄または白-黒の軸からは分離されえない)。うーむ、もっと読み進めてみます。