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■ ガヤからの返答

ガヤから8/30のエントリに関する長文コメントが届きました。どうもありがとうございます。ガヤもコメントが書き込めなかったそうです。うーむ、どうしてだろう。最近とくに設定をいじってはいないんだけれど。8/7のエントリにあるようにコメント欄のスタイルシートをいじったんですが、それからもみなさん書き込みできてますしね。とりあえずSTYLE="overflow:hidden"を削っておきました。更なる報告を待ちます。
というわけでガヤがメールでわたし宛てに送ってくださったものを以下に貼ります。今日はガヤによるゲストブログみたいなもんですので、<blockquote>には入れないでおきます。私のコメントは明日書きます。
私がいじった部分:論文へのリンクを追加しました。メールの文章が微妙に文字化けしていたので多少直しました。間違いがあったらお知らせください。



 ガヤです。セミナーではいろいろと質問していただきありがとうございました。京大と生理研のセミナーは日本語でしたので、質疑応答が楽でした(英語だと説明できる分量が半分以下になる…)。ちなみに鰻を食べながら伺ったpooneilさんの実験の話は私にはかなり興奮ものでした。今回も期待ですね。
 さて、ここに召喚された件ですが、注1、2ともに重要な指摘だと思います。
 まず、repeated sequenceのtopologyについてですが、これはスライスをどう切るかにクリティカルに依存しているように思われます。私の実験は主にcoronal sliceなのですが、容易に想像できるように、特に前頭葉あたりではcoronalに切ったところで皮質層のvertical(カラム)軸に垂直であるとは限りません。むしろ、斜めに切ってしまっていると思われます。それ故かどうかは定かではありませんが、クラスター状のアセンブリー発火はしばしば(chance level以上の頻度で)観られますが、カラム状の活動はそれほど頻繁には観察されません。
 ただし、これには別の問題もありまして、(以前pooneilさんにEメールしましたが)「そもそも皮質にカラム構造が存在するかどうか」という点からして疑問なわけです。それはbarrel皮質にしても同様で、カラムというよりもむしろpatchに近いのではないでしょうか。この点は先日RIKENで話す機会がありましたKathleen Rockland先生も同じ考えを持っていて驚きました。Rockland先生によれば「皮質カラム仮説は“simplification至上主義時代”の悪しき産物だ」ということです。「カラム仮説」は今や根本的な見直しが必要なのではないかとさえ思います。いずれにしても「オッカムのカミソリ」は脳科学では万能ではないのかもしれません。
 ちょっと話が逸れましたが、sequenceに話を戻しますと、一つの可能性としては、すでに指摘していただきましたようにtangential sliceを作成して観察するというアイデアがあります。何らかのtopological organizationが現れるとすれば、もっとも可能性が高い断面がこの切片内だと思われます(すでにYuste自身がポスドク時代にScience 257(1992)665で、その手の実験を行っているのはご存じかもしれません)。ただ、セミナー中にpooneilさんからこの質問を受けたときに、私がほんの一瞬返答に窮したのは、皮質第一層の関与を無視できないと思ったからです。Layer 1内の水平投射系路は、もしかしたらactivityのspatial organizationにわりと深く関与しているのではないかという印象があります。となれば、slice実験ではなくin vivoで、しかもtwo-photonでの検討が必要になりましょう。今後の課題です。
 その点でGrinvald&Arieliの研究グループの一連の実験は示唆に富んでいます。ただし、話はそれほど単純ではなくて、(Science 286(1999)1943のFig2&3を知っていて書くのですが)あの膜電位色素のシグナルは何を反映しているのでしょうか。どれほど“そこに存在する神経細胞”のsomatic spikeを反映しているのでしょうか。実験系からいえば当然Layer 1をモニターしていることになります。しかもLayer 1aといったごくごく表層ですね。となれば、第1層を走行する(ごく一部の)軸索を伝導するspikeか、もしくはdistal dendrite(tufted apical dendrites)のシグナル(dendritic local spike?)を記録していることになります(おそらく後者か?)。いずれにしても、それが理由で、彼らは容易にpatch状のspatial organizationが観察できているのではないか、と私は思うわけです。もしあれがsomaの発火だとしたら、いわゆる“local epilepsy”とも呼べるほどの激しい同期になります。そんなものはspontaneousでは出現し得ないのではないでしょうか。こう考えて([ここ文字化けあり])彼らのシグナルは、single cell resolutionを実現した我々のムービーとは本質的に異なるように思うわけです。ちなみに我々のムービーの測定範囲はGrinvald&Arieliのムービーの記録面積よりかなり小さくて、ちょうど彼らの示しているpatch状シグナルでいえば、patch一つ分くらいの広さでしか測定していません。そんなわけもあって、我々のムービーではspatial featureを抽出するのが難しくなって可能性もあります。
 というわけで、YusteラボのデータとGrinvald&Arieliのデータを比較するのは簡単な話ではないと思うのです。ただ、これも追求できる可能性はあって、pooneilさんが挙げて下さったようにsubthreshold responseを記録するというのがその手段になります。このプロジェクトはすでにYusteラボ内で稼働しています。
 つづいて、mathematical artifactの件ですが、こちらはひどく頭の痛い問題です。「sequenceがどの程度chance levelで生まれうるか」というのは、そう簡単には分からないと思われます。一つは(2分間という)測定時間によるartifactである可能性。もう一つはヌル仮説(null hypothesis)の設計の問題です(実は両者は不可分な問題です)。今のところ、私が使ったヌル仮説は4種あり、そのいずれの検定でも有意な数のsequenceが実際のraster plotに存在していることを確認しています。これらのヌル仮説は考え得る限りに慎重に設定したものではありますが、しかし、最近、長時間ムービーを取ることで見出した様々な現象(activity driftingなど)を考慮するにつけ、さらに丁寧にヌル仮説を立てなければならないなと危機感を持っています。ヌル仮説が間違っていると、結論が反転する可能性があるわけで。。。実際、最近のScience 305(2004)1107([これこれ])などは良い例ですし、現にAbelesの「Synfire Chance仮説」自体の真偽が疑われているのもrejectすべきヌル仮説が甘いという指摘においてです 説得力の高い論文としてはJ Neurophysiol 81(1999)3021などがあります)。
 そこで、私はいまちょっと視点を変えて、別の角度からsequenceの存在の確実性を示すことを考えています。まだまだpreliminaryですが、原理は簡単です。たとえば完全にrandomなraster plotを用いたシミュレーションによるとsequenceが数はspike rateの7乗に比例するのですが、実際のsliceから記録されたraster plotでは(私の調べた範囲内では)高々2乗程度にしか比例しません。このようなtheoretical predictionとの乖離も、sequence生成には何らかのbiologicalなbiasが潜んでいることを証明するのにも利用できるのではないかと考えています。まあこれも(背理法ですから)究極的にはヌル仮説の悪夢からは逃れられないわけですが、今まで「点(1次元)」のみで捉えていたデータを「線(2次元)」に拡張しているので、多少は説得力が高いかと思うわけです。
 sequenceとsynfire chainとの関連については(この場では)ノーコメントにしたいのですが、それではマズいでしょうか?
 最後の「gliaやgap junctionを介したものなのか」という可能性は大いにあり得るでしょう。ただ実際には、まだ、まったく調べておりません。。。すみません
 一般に大脳生理屋さんはgliaなどの関与を軽視しがちですが、とりわけ長い時間オーダー(たとえば秒や分レベル)でのmodulationを考えるときには、(1) gliaや (2) gap junctionや (3) neuromodulator のspilloverは、かなり重要ではないかと私は大マジメに考えています。意識や感情や運動計画などの時間スケールの長い脳内現象を真剣に考えるのであれば、なおさらこうしたside factorを考慮しないといけないと思います。
 cortical songはそうした長い時間の現象の一つです。数十秒オーダーの現象が時間圧縮されたり拡張されたりするのは、たしかにneural networkだけに固執している人には極めて不思議な現象に思えるようで、pooneilさんの日記でもそのrobustnessが疑問視されていました。しかし、私たちがカラオケなどで歌を速いテンポで歌ったりゆっくり歌ったり自在に意図することができることを考えてもわかるように、脳が実際にこれを実行できることは確かなのです。となれば、やはり「ミリ秒オーダーの現象でしかない古典的synaptic transmission」以外のmodulationの要因も考えていかなければならないのではないでしょうか。その点でgliaは侮れないかと。
 時間についてもっと言えば、数百マイクロ秒の両耳間時間差の検出や、数ミリ秒レベルでの活動電位の発生・伝導・伝達の話から、さらにはhourオーダーの日周リズムなど、動物の体には様々な次元の「時間の流れ」が存在しているわけですが、その中でもっとも自在な“柔軟性”に富んでいる時間スケールは、「会話(声)のスピード」や「感情の起伏の速さ」にあたる「秒のレベル」なのです。しかし現時点では、この時間スケールの研究は必ずしも脳科学の中心的話題にはなっていません。秒オーダーの脳内プロセシングに目を向けたとき脳科学はもっともっと興味深くなるような気がしています。その視点から、Yusteラボのsequenceやsongという“秒オーダー”の現象を眺めていただけたら幸いです。無論、まだまだ私たちの研究は現象記述的なphenomenologyに過ぎませんが、でも、これは面白くなりそうだとは深く確信しています。


以上、ガヤからの返答コメントでした。私のコメントは明日書きます。


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