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■ extracellularで記録されるsingle-unitの波形つづき

昨日のつづきです。生理学の教科書ではホジキン-ハックスレーの仕事で細胞内記録と膜チャネルの動態の話はだいたい出てくるのですが、私がこのサイトで挙げている論文で使われるような、細胞外電極によるsingle-unitの記録の原理というものはちょうどいい教科書がない、という話でした。
詳しいことは置いといて、おおまかな骨組みだけまとめておきましょう。三段階の説明のレベルがあって、それらを関連づけられるようにすればよいのかな、と考えました。第一段階は膜電位のdipoleが作る電界によるsinkとsourceを計測する、という説明。第二段階はaxon方向の一次元での等価回路を使った近似。第三段階は電流密度の連続の方程式を使った三次元での取り扱い。
まずは一番プリミティブかつ直感的な説明は、Lorente de Nó 1947などを元にした、dipoleがaxonを伝播してゆくモデル。Action potentialが起こると、一つの細胞のaxonの中で膜電位の変化が起こり、細胞膜を通した電流の流入とその周りでの流出とでループが出来る。これは細胞膜にdipoleができてそこを中心とした等電位曲線が描ける、ということ。細胞外電極はこの電位を測定している。等電位曲線に垂直な電気力線が細胞内へ流入してるところが吸い込み:sink(オシロでは下向き)で、流出がわき出し:source(上向き)。脱分極と過分極の二つのdipoleを考えると細胞外記録でのポジ-ネガ-ポジの三層性の電位変化が再現できる。
第二段階のaxon方向の一次元での等価回路では、細胞外電極を置いたところでsinkが起こったのをキルヒホッフの電流保存の式を使って定式化。細胞外電位をaxon方向の一次元で二回微分するとその場所での細胞内への電流の流入、流出が算出できる。これがcurrent source density analysisの原理。膜電位変化を時間で二回微分すると膜電流変化になる(Tasaki I)、というのもここからの帰結。Rall Wのcable theoryもこのレベルでのこと。私自身もむかしじぶんで勉強したときはこのレベルまでだったと思う。細胞内膜電位を時間で一回微分すると細胞外電位になる、というのもこのレベルの話のはずなんだけど、元ネタ見つからず。
第三段階の電位ポテンシャルに関するラプラス-ポワソン方程式を使った三次元での取り扱い。電荷がない点では電流のsinkもsourceもないので電界の発散はない(divE=0)。膜電流のあるところでの電荷密度の時間変化は電界の発散に比例する(連続の方程式)。このレベルで、さまざまな仮定が第一段階や第二段階で置かれていることを明示的に扱えるようになる。現在のモデル屋さんはこのレベルを扱っている。ベクトル解析で電磁気学と流体力学の対応とか読んでるとおもしろいけど、生物系の教養課程ではそのへんまでたどり着いていなかったような。
んでもって、これらのレベル間での対応を付ける。各レベルでのsinkとsourceの扱いとか、第二段階でのキルヒホッフの電流保存の式と第三段階での連続の式との対応付けとか。 第三段階の式からcurrent source densityの式を導出とか。
とだいたいこんな感じになるのではないかと。前回書いたエントリでは、この第二段階が抜けていたからギャップを感じていたのですな。むかし勉強したことをすこし思い出してきました。
これを肉づけして、かんたんに説明できる資料が作れたらいいかな。ここで書いていることの完成版を作るのに私より向いている人はたくさんいるはずですし、どなたかぜひ。
Evoked field potentialとかLFPのoscillationとかを議論するにはまだ遠そうです。むかしラット海馬のslice cultureでevoked field potentialのLTPをやってたんですけど、そのときにはSchaffer collateralの入力層で記録すればfield EPSP(ネガ一層性)、pyramidal cell layerで記録すればpopulation spike(ポジ-ネガ-ポジの三層性)、と納得いってた気がするけど、somaでのcurrentのvolume conductionとか、dendriteへのaction potentialのpropagationとか考えるとじつはかなり深い。当時は疑問に思ってなかったけど、なんでfield EPSPにはsomaのspikeのvolume conductionがかぶってこないんだろう。Population spikeのポジにはdendriteでのEPSPのvolume conductionがかぶっているなんて理解してたけど、それでは対称性がない。それとも充分離れていれば、それこそextracellular mediumがinhomogeneousだからspikeのような速い周波数成分はさっさと減衰してしまうということか。海馬のような解剖学的に均一な構造ですらこんな調子なのだから、ましてやcortexとかは私にとっては複雑すぎ。
ところで私自身はこのへんのバックグラウンドが全然ないままにこれを書いているので、かなり恥をさらしています。つっこみ、訂正歓迎します。たとえば、ガウスの法則の微分形式と、ラプラス-ポワソン方程式と、連続の方程式の関係とか……本質的に同じなんだろうと思うのですが、系統的にそういうことを勉強した経験がありません。第二段階でのキルヒホッフの電流保存の式と第三段階での連続の方程式との関係とかも。物理のバックグラウンドを持っている方からすれば、教養課程レベルの知識もないことがモロばれでしょう。アンプを自作していた時代の生理学者から見れば嘆かわしいことに違いありません。まあ、なにより自分の勉強のため、ということで明日のために。
つづきがあります:20080727


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