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■ Binocular rivalryおよびgeneralized flash suppression その3

さてさて今回で締めます。疲れてくるとだんだん仕事が雑に。


PNAS, 94, 3408-3413 (1997) "The role of temporal cortical areas in perceptual organization." D. L. Sheinberg and N. K. Logothetis

この論文の後半の方ではflash suppressionの実験も行っています。というか、non-rivalrousな刺激のシークエンスの中にrivalrousな刺激を入れると自然にそうなります。つまり、図形AとBがnon-rivalrousで出るのをA, B, rivalrousをABと表現するとして、たとえばA-B-A-B-AB-Bというシークエンスだと、B-ABの移行のところでBが消えてAだけが見える、ということが起こるわけです。実際のニューロンのデータでも、Bにpreferenceを持っているニューロンだとB-ABでsuppressionが起こり、A-ABだと発火するわけで、おなじABでも大違いとなる例が示されています。

Flash suppressionは明白に提示した刺激にlockしてsuppressionが起こるのでbottom-up attentionとawarenessとの絡みが重要になるものと思われます。Binocular rivalryでは、左右の同じretinotopicalな位置に刺激を提示してconflictが起こっているため、selectionの過程の関与を仮定せざるを得ないという問題を起こします。彼らはこれ以降の論文ではgeneralized flash suppressionを使うようになりました。Wilke et.a l.のNeuron 2003はまだ読んでないのでスキップで。


PNAS, 103, 17507-17512 (2006) "Local field potential reflects perceptual suppression in monkey visual cortex." M. Wilke, N. K. Logothetis, and D. A. Leopold M. WilkeもASSCのポスター会場でいろいろ話を聞きました。Alex Maierと同様にいまはNIMHのLeopoldのところにいるようです。

Generalized flash suppressionでは片眼にターゲット刺激が提示され、もう片眼にはなにも提示されません。左右の視野のコントラスト差が大きいのでこの条件ではターゲット図形が見え続け、binocular rivalryは起こりません。ターゲット刺激提示後1400msで左右の視野にランダムドットが提示されます。そうするとターゲット刺激が消えます。ランダムドットはターゲット図形のあるところには提示されないので二つの眼のあいだでターゲット刺激のある視野位置ではconflictは起こっていません。ランダムドットの条件を変えてやると、ある試行ではvisibleで、ある試行ではinvisibleという条件が作れます。

んでターゲット刺激の位置に受容野を持つニューロンから記録(multi-unit)してやると、V4では、物理的にターゲット刺激を消去したときにactivityが下がるニューロンでは、flash suppressionでinvisibleになったと報告した試行でactivityが下がりました。一方で、物理的にターゲット刺激を消去したときにactivityが上がるニューロンもあって、こっちの場合はflash suppressionでinvisibleになったと報告した試行でactivityが上がりました。多少傾向は違いますが、前述のV4, MTでbinocular rivalryのときに見られる、preferenceが逆になるニューロンと同じクラスであるようです。同じ電極でLFPを記録してやると、V4のgamma band (30-50 Hz)はperceptual reportでmodifyされていました。V1/V2はmulti-unitでも、gamma-bandでもmodificationなし。面白いのは、alpha-band (9-14Hz)ではV4だけでなく、V1, V2でも同様なmodificationが見られたということです。Human fMRIでのbinocular rivalryの実験ではV1の活動もperceptによってmodityされることが知られています。いっぽうでLeopold 1996にもあったように、spikeではあまりmodificationは見られません。なんでかというcontrovercyがあるわけです。議論としては、fMRIのBOLD acitivityはその領野への入力をその強く反映していて、LFPと近いのに対して、spikeは出力を強く反映しているから、というのがあるわけですが。今回のASSCでAlex Maierは同じ課題をhumanとnon-human primatesとで行って比較することで、この論文で見られるalpha-bandのLFPがhuman fMRIで見られるV1のactivationと対応しているのだろう、と議論しています。この論文自体でも結論としては"These findings, ..., suggest that mechanisms shaping the contents of our perception may involve large-scale, coordinated processes that are most prominently reflected in low-frequency changes of the local field."としています。

なお、WilkeのほうはASSCではこの論文での結果に加えてさらにLGN、pulvinarでも記録を行って、LFP powerのmodificationがこれらの視床でも起こっていることを示していました。大脳偏重主義から逃れるために逆張りしたい私としては、V4->V2->V1というフィードバックを考えるよりは、pulvinarを介して回っていると考える方が面白いのではないかと考えたり。

さてattention問題再訪。ディスカッションではこう言ってます。"Although a contribution of attentional factors on the low-frequency LFP modulation during perceptual suppression cannot be excluded, ..., perceptual modulation was observed well before the lever response. ... Thereby, it seems at least unlikely that the neural modulation was directly related to the execution of the monkey response and, thereby, related to a general release of attention." かなり弱い議論であると思います。General releaseはどうでもよいんではないでしょうか。一方で、Binocular rivalryの弱点はperceptのスイッチがspontaneousに起こるため時間的変動の議論をするのが難しい点にありました。その点、どのようにしてperceptual suppressionが起こるのか、というメカニズムの議論を進めるのにはflash suppressionのパラダイムのほうが向いているのかもしれません。


また、flash suppressionとawarenessの議論をするならば土谷さんの"Continuous flash suppression reduces negative afterimages" Naotsugu Tsuchiya & Christof Kochについて考える必要があるでしょう。Continuous flash suppressionでは、刺激にattentionを向けないとafterimageのvisibilityが上がるということが示されています。つまり、Continuous flash suppressionがselective attentionとawarenessとを分離するのに有用な道具となることを示しているのです。このような方向性でまとめられたレビューがTrends in Cognitive Sciences Volume 11, Issue 1, January 2007, Pages 16-22 "Attention and consciousness: two distinct brain processes" Christof Koch and Naotsugu Tsuchiyaで、ASSCではこれを元にして昨年と今年tutorialが行われたようですが、私は参加できず。ちなみに昨年のtutorialのパワーポイントが入手可能です。

だいたいこのへんまででしょうか。Attentionのeffectをどう除くか、というのがこの方向性では大きく問題となることがよくわかります。Ventral pathwayであるため、行動とカップルする部分の解釈に困らないところがまた利点のひとつでもあります。Dorsal pathwayでやったらすぐにmotor preparationだのなんだのとたいへんなんです。だからこそこっち方向ではより行動とカップルさせたことを積極的に考えていくのが正解なのだと思うのだけれど。それから、以前もHeegerについて書いたときにも言及しましたが、Newsome/Shadlen的なperceptual decisionの系にawarenessの議論というのはどうも食い合わせが悪い。というか入る余地がない。最終的に戦うのはこのへんとかな、とか考えています(謎めき系)。それではまた会う日まで。

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# 土谷

素晴らしいレビューですね! 最近このブログをRSSに登録したのでずっと経過を見守っていました。面白かったです。 

相当レベルの高い議論なので、このままreview としてpublish したらいいんじゃないでしょうか??。


ところで、
Maier 2007 PNAS (私にとっては一連の論文のなかで最も面白い)
と もうすぐ出るらしい 
Lee, S-H., Blake, R. & Heeger, D. (in press) Hierarchy of cortical responses underlying binocular rivalry. Nature Neuroscience.

もチェックしてみてください。
特に、後者は、もし噂が本当で、去年の ASSC@Oxford で Sung Hung Lee が James Prize を受賞した時に発表していた話しであれば、

「attention の影響を取り除いたら、
V1での rivalry が無くなった」という話しのはずです。
まさにここでの話しそのものです。

Steve Macknik も我々の議論に賛同していて、
彼なんかは、

"Binocular rivalry is the worst stimulus for the study of neuronal correlates of consciousness because it totally confounds the effects of attention and the effects of consciousness!"

と ASSC のトークでも声高に叫んでいました。もうすぐ backward masking のレビューが出ますが、そこでも rivalry の問題点を
激しくついています。

# pooneil

コメントどうもありがとうございます。応答を書いていたら長くなったのであらたにエントリを作成しました。よければご覧ください。


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