[カテゴリー別保管庫] 生理研研究会2007「注意と意志決定の脳内メカニズム」
2007年10月25日
■ 研究会アンケート中間発表
研究会に参加された方にアンケートをお願いしているところですが、結果の中間発表が出てます。(というか自分が作ったんだけどここはひとごとっぽく。)
研究会に参加された方でまだお済みでない方はぜひご記入ねがいます。アンケートページはこちらです。
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2007年10月19日
■ 次回の研究会の形式について考えてみる。
研究会に参加されたみなさまにはさきほど研究会へのご意見、ご要望のアンケートをお願いしました。ぜひご協力をお願いします。研究会のサイトはこちら。今年の研究会の反省などを踏まえて、次回どういう形式にしていったらいいか、どういう運営法にしていったらいいかを考えております。直メールでもけっこう、こちらのブログに書き込みでもけっこうです。ご意見おまちしております。
さて、次回の研究会の形式について考えてみます。今年の研究会、いろんなひとから多くの質問が出て、なかなか良かったと思うんですけど、まだ食い足りなかったと思うんです。今回の研究会を学会とラボセミナーとのあいだに位置づけるなら、かなりラボセミナーに近いような位置にあったんではないかと思います。それゆえに肩肘の張らないかんじで質問できたと思うんですけど、トークの内容そのものをclarifyするだけでなく、もうすこし話を展開するような方向へ議論を持って行けたらいいんではないか、なんてことを考えているのです。
私個人の印象だけで言っても、発表内容からちょっと離れてでももっと話を展開したかったんです。このへんは意見分かれるでしょうけど、個人的には、ということで具体的に二日目のセッションについて書いてみますね。
中原さんの話でしたら、basal gangliaはMarrの計算論のレベルではなにをやってるんだろうか、みたいなことを議論してみたかったと思います。(「basal gangliaでやってることはほんとうに強化学習だろうか」みたいな質問がありましたが、 あそこがもっとexpandできたらよかったと思います。 Vision以外の事象を扱うときに計算論の人がMarr的な考えについてどう考えてるか興味があるのです。イントロで多少話がありましたけど、計算論の人がどういうこと考えているかということに興味があります。
春野さんの話でしたら、fMRIでの仕事がどう理論的モデルと関わってくるのか、実験事実の背景にどういうものをイメージしているのか、みたいな話を聞きたかったと思います。
筒井さんの話でしたら、筒井さんのストーリーがいわゆる神経経済学的な強化学習をベースにした話よりは「ドーパミンは気持ちいいのか」という問題設定が出てきたところからしても、「emotionとrewardとmotivationと快感」のほうを志向しているんではないか、ということについてもっと詳しく知りたかったです。
渡邊さんの話でしたら、postdictionというのが意志決定だけにかぎらず知覚、運動まで含んだ人間のmental lifeすべてにあてはまるようなものかもしれない、というポイントについて知りたかったし、神経経済学的ないわゆる意志決定とあの話がどういう関係にあるかとかをもっと詰めて聞いてみたかったと思うんです。
このへんのことが充分聞けなかったのは私が二日酔いだったから、というのが最大の理由orzなんですが、要は、もっと発表された仕事の先(future direction)とか手前(working hypothesisとかbasic assumption)とかの話ができたらいいのに、と考えているんです。もちろん、宴会でそういう話ができたら最高なんですけどね。研究会自体がもっとフリートークっぽくなってもいいんじゃないかと思うんです。
ではどうやったらそういう話にまで展開できるんだろう。ひとつのアイデアは、もっと一人一人の話をexpandする、というものです。
今回みたいなかんじで口演をしてもらって、座長に二人ついてもらって、途中質問有りにするんですが、講演の最後に「まだ解けてない問題」として論点を提示してもらうのです。Trends in cognitive sciencesとかTrends in Neuroscienceとかで"outstanding questions"というBOXがありますが、あれと同じようなものを各演者に作ってもらって、問題提起をしてもらう。あるていど答えのない問題を作ってもらったほうが盛り上がると思うのですが、それについて座長と一緒になって議論したらいいんじゃないかと思っているのです。そうなるとたぶん1人90分くらいは必要かなと思うのですが、一日目の演者を3人、二日目の演者を2人くらいにすれば可能なんではないかと思っています。時間に関してはオーディエンスがだれずに済むかどうかによるバランスであると思いますが。
この考えだと一人当たりの話がとても長くなって演者の負担が大きくて大変そうですし、聞いている側も疲れてしまうかなとも思うので、正直改良の余地があるかな、と思います。
もうひとつのアイデアとしては演者間のinteractionを作るようにする、というものです。これまでに以下のような意見を寄せていただいております。(許可を得て転載)
僕が「パネルディスカッション」と言ったのは、次のようなことをイメージしていました。
もうかれこれ2、3年前だったと思うんですが、沖縄でやった研究会で、…(中略)… そういう研究会のなかで、時間が余ったから、いろんな企画を即席でやってました。そのうちのひとつが、若手放談会みたいな感じで、発表も何もなしに、3人の若手、John O'Doherty と、Sugrue と、それから、誰だったか忘れましたが、が壇上に上がって、John が主導だったと思うんですが、最近のトピックスについていろいろ話し初めて、会場からも、いろいろ質問がとんで、これが非常に面白かったです。もう一つは、強化理論について、Barto について何でも突っ込もう会、みたいなやつで、彼が延々と1時間くらいいろんな人の質問にいろいろ答えていきました。これもたいへん面白かった。
日本人には、これほど即席の企画力がないと思うので、(これって、本当にふだんから毎日セミナー室でお茶を飲みながらどれだけ議論をしているかということを反映していると思います)、そんな感じでやるとおそらく失敗すると思うのですが、次のようなものはどうでしょう。
たとえば、3時間くらいの枠で、3人のスピーカーを選びます。まずは30分ずつ話をさせて、そのあと、スピーカー同士で壇上でいろいろ議論してもらう。そこで30分くらいやったあと、今度は会場からの質問を受け付けながら、話題を展開していくというものです。一応、議論の方向性をある程度ガイドする人が必要でしょうから、3人のスピーカーのだれかがその役をやるか、あるいは、最初から座長を設けておいてもいいかもしれません。流れによって、ある話題を深く追求したり、また、それだけでは疲れるから、こんどは会場から素朴な疑問を出してもらって、それが鋭いところをついているようだったら、またその方向で掘り下げていく、という感じで。
この「若手放談会」、はげしくいいなあ、と思うんです。かなりあこがれます。たしかに蓄積がないとすぐにできるってもんでもなさそうですが、このくらいフリーなかんじでもぜんぜんいける、研究会として成立するって思うんですよ。
後半で提出していただいたアイデアについて具体的に今年の講演でイメージしてみましょう。たとえば、鈴木さん、熊田さん、小川さんの三人で話をしてもらって、「トップダウン性、ボトムアップ性の注意が どういう回路をつかっているのか」みたいなことをテーマにして議論していただくのは可能だと思うんです。熊田さんと鈴木さんのあいだでは、fronto-paeiralの二つのpathway について話が共有できそうですし、小川さんと熊田さんのあいだでは、top-downとbottom-upの統合 について話が共有できそうです。このような形式でいけるんではないかと思います。
それなりに複数の人に連携を取って話をしてもらうことになるので、前準備をして、ある程度目的意識を共有してもらってから本番に臨む、という形になるようです。あるていど気心知れた人と組むのがうまくいく秘訣でしょうか。私が上で書いていたものはかなり研究会寄りのスタイルですが、このアイデアは学会のシンポジウムをよりフリーなスタイルにしたかんじで展開できるかもしれません。
今年のやり方と形式を近づけるならば、それぞれの30分の講演と30分の質問をおこなって、3人終了したところで共通する論点を出して総合討議(60分)、みたいなふうにするとやりやすいかもしれません。ひとつのテーマで4時間、二日で2テーマ、合計6人と指定討論者12人、このくらいがいい案配なかんじがします。(一日目は3人でひとテーマ、二日目は2人でひとテーマくらいにするとさらによさげ。) 学会のシンポジウムでこれをやると総合討議の時間がたんに個々の発表への補足質問に終始したりしがちですので、それなりに座長の方の誘導なども必要になりますが、形式的には比較的みんな理解しやすいのではないかと思います。演者の方の選択はなかなか難しそうですし、話していただくことにいろいろ縛りを付けることになるので演者の方に協力していただかないとなかなか大変そうですが。
なんてことを今は考えています。ここで書いたような考え方が良い方向かどうかはまだよくわかりません。せっかく第一回目で形式を整えたのだから、次も同じやり方で、運営のやり方だけもっとよくして、継続する方向の方がいいのでは、という気持ちもあります。ぜひ、みなさまのアイデアもお寄せいただけたらと思います。このブログへでもけっこう、アンケートの方に記入してくださってもけっこうですし、私への直メールも歓迎します。ご意見お待ちしております。
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2007年10月13日
■ 研究会無事終了しました
おかげさまで研究会の方は無事終了しました。予定していたことに関してはすべて行うことが出来ました。なんつーか、熱く議論する場を作る、ということには成功したのではないでしょうか。いろいろトラブルもありましたが、次回はいろいろ改善していきたいと思います。おおまかに時系列順に列挙していきます。
まず、初日の受付から。多くの方に来ていただきました。登録の連絡をいただいた方で74人、名簿に名前をいただいた方で101人となりました。第一回ということもあって宣伝が充分ではなかろうという予想で50人くらいの会を想像して場所を取っていたのですが、うれしい誤算です。会場が狭くて参加者のみなさまにはご迷惑をおかけしましたことをお詫びします。会場の方は机を取っ払って狭いところになんとか入ってもらったり、口演終了ごとに換気をしたりとか、不便なところをなんとか聞いてもらうという状態でした。今回一番の問題だったのではないかと思います。ただ、あんま広いところで閑散とした状態でやるよりは、研究会としては熱気が出るという面もあり、次に研究会を行うとしたら会場えらびをどうするかは考えどころです。(もっと広い会場も利用可能です。) ともあれ、今年よりはよい環境を準備したいと思います。
比較的若い方に多く来ていただきました。大学院生からポスドクくらいでそれぞれにすでに仕事が進んでいる、というかんじの方がボリュームゾーンではなかったでしょうか。わたしなどはどちらかというと年長者の方に入るんではないかというくらいのかんじです。これはもくろみ通りでした。いかにそういう層にリーチするか、宣伝が難しかったのですが、神経科学ニュースやニューロメールへの宣伝、それから講演者、指定討論者、国内のいろんなラボの方にメールを送って宣伝をお願いしました。飲み会でこのへんのことも話題になりましたが、ASCONEではポスターを作成して早めの時期に配る、というのが有効だったとのことでした。これは次回やるべきかなと思いました。日程と演者が決まったあたりで。あと、宣伝という意味ではこのブログもそれなりに寄与したのではないでしょうか。
議論を重視する、という形式は実現できたのではないでしょうか。さいしょに小川さんに研究会のコンセプトの説明、ということでスライド作ってもらいました。1) 演者から口演、2) 会場から「いっちょもんだろか」、3) 演者から「やれるもんならやってみい」みたいな調子で。来年もこのスライド使わせてください、なんて。
今回は山形大の鈴木匡子さんにスターターをお願いしたのですが、これがドンピシャきまりました。高次脳機能障害の患者さんの症例に基づいた注意に関する研究の話だったのですが、途中でバンバン質問が出まくって、演者の方にもそれをバンバン捌きまくってもらって、いいかんじに熱く双方向的なやりとりが生まれたと思います。参加している多くの方が生理学がバックグラウンドなので、患者さんの話についてはみんな素人的に質問することになるので、知る喜びと驚きとを持ちながら話を聞けたのではないでしょうか。だんだん眼球運動の寄与について話が収束してくるあたりとかもいいかんじに掘り下げて行けてたと思います。本当は同時失認と半側空間無視の両方について話すことを考えられていたそうですが、時間のことを考慮して(35分口演、20分質問という形式)同時失認だけに絞っていただきました。マテリアルの分量としてちょうどよかったのではないでしょうか。わたし自身の興味としては同時失認などのバリント症候群と半側空間無視とが注意の違った側面を表しているということから、注意とはなにかについて議論できるんではないか、なんてことを期待していたので残念だったのですが、そこまで行こうとしたら2時間は必要ですしね。
ともあれ最初の口演で、どんなかんじで進めていけばいいのか、演者、座長、オーディエンスのあいだでコンセンサスが得られたかんじがあって、熱い空気を持続しながらいけたのではないかと思います。あらかじめ演者の方には、「途中で質問有り」の形式でお願いしたいということで了解をいただけたので、こういう形式が可能になりました。感謝しております。来年もぜひこんなかんじで。
生理学者のトークのときにはなかなかつっこんだところまで話が進んで、これもよかったです。ハイライトとしては、小川さんの口演のときにみんなTirin Mooreの話を踏まえた上で議論が進む、という場面がありました。こういうメンバーならそう来なくっちゃ、というわけでこれも満足。こればっかりでも、オーディエンスが置いてけぼりになる可能性があるので、バランスが重要なのですが。
マイクのトラブルがあったり、たて長の部屋だったので後ろの方が質問が聞きにくい、とかいくつか問題がありました。気軽に質問しやすい環境を作るという意味でも、このへんは改善すべき点です。
予定から1時間遅れでポスターセッションへ。ポスターセッションの方は17人の方に応募してもらって、一部屋と廊下を使用して、1時間。時間の方は足りましたでしょうか? そのままその場で懇親会というのはなかなかうまくいったのではないかと思いました。そのまま語る雰囲気を持ち越すことが出来たという意味で。移動すると話がとぎれてしまいがちだと思うんです。飲みながらポスター説明している、というのはあまり見られませんでしたが。
懇親会には57人の方に参加していただきました。研究会の運営役としていちばん気を遣ったのは懇親会についてでした。直前の一週間はサイエンスよりも懇親会の予算の方が気になるってくらい。若い人が多い研究会ですから、いちばん危惧したのは始まって30分ですべての食べ物が食い尽くされてしまうというパターンです。直前にピザを注文したり、ビールの本数を増量したりして臨んだのですが、意外なことにみんな語り続けて、ぜんぜん食べ物が減らない。若いといっても、トレーニングコースのように大学生が大半というかんじではないからでしょうか。7時15分から9時まででいったん中締め、そのまま語り続けて10時で撤収。ほっとけばみんな夜中までそこで話してそうな雰囲気でしたが、片付けをしなくてはならないので。
食べ物と酒と人間がそのままラボのお茶部屋に移動してさらに話が続く。終了1時半。そこからさらにカラオケ屋に行って4時まで。わたしはアジカンとか木村カエラとか絶唱。なぜかw70-80年代縛りみたいになって、わたしもオフコースの「さよなら」とか肩組んで歌いました。ってか肩組んで歌う歌じゃないでしょそれ。「心の旅」とか「あの素晴らしい愛をもう一度」とかも歌声喫茶状態で。のど潰れた。二日目の演者の方も参加されていたんですけど、4時に解散してからそのあと1時間くらい話し込んでたそうです。酒豪すぎ。(「すごすぎ」とかけている。)
二日目は皆さんちょっとお疲れ気味だったでしょうか。っつーか、わたしは半日二日酔いで、調子が出てませんでした。酒もほどほどに、もしくはこういうときはタフさが必要ということで。
春野さんが口演のときにわたしが作成した講演者の参考文献のところに言及してくださいました。論文読んでないのがバレバレ。超冷や汗。
予定から45分遅れで終了。ご飯無しで2時ちかくまで延びてしまいました。このへんはプログラムを組む上でもっとうまくやれるところでした。皆さまほんとうにお疲れさまでした。
議論重視という、研究会として目的としているところが参加者の方にも共有してもらえたのではないかと思います。このへんをうまく継承しながらつぎに繋げていきたいと思います。研究会自体は毎年申請して承認されないと開催できないので、100%の確証を持って次回開催の予告をすることはできないのですが。
今回は提案代表者が小川さん、所内対応教官が伊佐教授、わたしが世話人という形で行いましたが、次回の研究会は理研の松元健二さんと一緒に行う予定になっています。ぜひ次回も多くの方のご参加と熱い議論を期待しております。
次回の研究会について、いくつかアイデアを練ってます。これについては次のエントリで。ぜひ皆さまのご意見もそちらに寄せていただければ。
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2007年10月10日
■ 意志決定の曖昧さ6(最終回)
さて、研究会予習シリーズもいよいよこれが最終回。東大先端研の渡邊克巳さんの最新の論文を読みます。
Watanabe, K. (in press) "Behavioral speed contagion: Automatic modulation of movement timing by observation of body movements." Cognition.
これまで紹介した論文よりは知覚寄りと言えるでしょう。視覚運動変換ですが。この論文では、行動のテンポというものは伝染る」(contagiousの訳として考えてみました)ということを示そうとしています。たとえば、「東京やニューヨークに在住の人はしゃべるのが速い、なぜならば忙しい環境の中で生活しているからだ」というのは本当か、ということです。このことを示すために、注意課題とかプライミング課題とかみたいに、ある刺激を与えて、遅延時間のあとで中心窩での反応潜時課題を行います。注視点の十字の左右どちらかの枝がdimするので、どっちがdimしたかをなるたけ速く報告します。
それで、行動のテンポの変化を誘発する刺激としては、biological motionを使ってます。人間の動きのもの、コントロールとしてスクランブルしたもの、四角形が動いているように見えるものの三種類があって、さらにこれが動く周期を12.5Hz, 25Hz, 50Hzと変えています(提示時間は揃えてある)。バイオロジカルモーションのときだけ、誘発刺激の動きが速いと反応潜時が短くなる。しかもこの効果は遅延時間(SOA)が短いときだけ起こるのです。ということはvoluntaryな要素によるというよりはautomaticな効果であるわけです。
関連する論文としてあげられているのが、他者の行動を見ながら行動するときに、自分の行う行動と他者の行動とが同じタイプか違うタイプかによって、自分の行動が影響を受ける、というものです。いくつか上げられてましたが、たとえば、Current Biology Volume 13, Issue 6, 18 March 2003, Pages 522-525 "An Interference Effect of Observed Biological Movement on Action" J. M. Kilner, Y. Paulignan and S. J. Blakemoreでは、他人が腕を縦に振るか、横に振るか、を見ながら自分の腕を振ります。同じく上下に振っているときと比べて、他人が左右、自分が上下のときのほうが軌道がばらつく。しかも面白いのは他人の代わりにロボットが腕を動かしているのを見たときにはこういう効果はない。
ともあれ、こういった他者の行動を観察したことによる影響、という話はミラーニューロン関連でいろいろ行われているけれども、今回のように行動のテンポに着目したのははじめてである、というのがこのCognition論文の売りです。また、自分の行動と見ている行動とが無関係であるにもかかわらずこういう効果が出るというところが驚きであり、実際の人の動きではなく、それを抽象化したバイオロジカルモーションで効果を見ているという点でよくコントロールされています。そういう意味ではこれまでの行動観察による影響とは違ったクラスの影響であると考えたほうが良さそうです。
印象ですけど、速いスピードのgratingとか見ても、潜時が短くなったりしないもんですかね。今回の枠組みでは、四角形が動いているという条件では効果がないということで否定できているのですが。
それから、discussionでは、メカニズム的な説明として、movement observationのときにM1のbeta rhythmのmodilationが起こるという知見を引いてきて、もしかしたらこれによってM1のthresholdがmodulateされているのかもしれない、ということを書いています。
あと、最後のパラグラフでは、「老人を想起させるような語を心理テストの中にこっそり入れておくと(被験者は気づいてない)、テスト後の行動がゆっくりになる」という論文を引いています(J Pers Soc Psychol. 1996 Aug;71(2):230-44. "Automaticity of social behavior: direct effects of trait construct and stereotype-activation on action." Bargh JA, Chen M, Burrows L.)。これはたしかMalcolm Gladwellの"Blink"でも大フィーチャーされていたと思いますが、我々の行動もautomaticityを示す例として強烈な印象を与える話です。今回のCognition論文は行動に無関係な刺激が我々の行動に大きく影響を及ぼすということを、行動のテンポ、という側面から見た論文であると言えます。
さて、以上で予習は終了です。みなさまと研究会でお会いできることを楽しみにしております。それでは。
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2007年10月09日
■ 意志決定の曖昧さ5
東大先端研の渡邊克巳さんの講演の予習。今回は"deliberation-without-attention effect"について。
Dijksterhuis, A., Bos, M. W., Nordgren, L. F., van Baaren, R. B. (2006). "On making the right choice: The deliberation-without-attention effect." Science, 311, 1005-1007.
「意志決定に対して意識的に熟考することがほんとうに重要なのか」という問題提起がある論文ですので、今回の話の参考資料としてあげられているのでしょう。
論文の内容の方はググると日本語のレジメが見つかりますんでそちらをどうぞ。話としては、「単純な要因での選択においては、意識的思考を行うことはよりよい結果を生む。一方で、複雑な要因が絡む選択においては、無意識的思考に任せておいた方がよい」ということを示した、という話です。このような説について著者らはdeliberation-without-attention説と呼んでいます。実験結果を聞かなくてもすでに話的にはなんかもっともらしい気がします。考えすぎはいけない。直感を大切に、というわけです。将棋の羽生さんの「決断力」なんかでもそういう話がありました。
(ところで理研で発表された、「将棋における直感的思考」の計画ですが、あれ、けっこういいんではないかと思ってます。セカンドライフはどうでもいいんだけど。MalachのScience 2004論文とかであったように、あるイベント(映画見せたり、将棋の対戦したり)のあいだの脳の活動はざっと記録しておいて、あとからそのイベントの中で起こったことで脳の活動をalignして関係するところを見つける、というわけです。ポイントは、棋士はそういう思考のプロなので、ずっと考えているけどいい手が見つからないとか、うまいことひらめいたとか、定跡どおりに打っているだけとか、そういうことを感想戦としてretrospectiveに述べることができる。この情報を使って脳内の活動との相関を見てやることができるわけです。禅僧からfMRIとかも相手はそういうののプロなのだから、現象的に起こったイベントの詳細な記述をretrospectiveに行ってそれの脳の活動を関連づければすこしはneurophenomenologyと言えるようになるのではないかと思うのですけど。) はやくも脱線。
実験は大きく分けて二つあります。まずはじめの方から。ある仮想的な車4種類についての情報(「車Aはトランクが大きい」とか)をいくつか聞いて、いちばんよいと思う車を選ばなくてはいけない。情報の数が少ない(4つの属性)ときは、考える時間を与えたほうがよりよい車を選んだ。情報の数が多い(12つの属性)ときは、考える時間がすくない(妨害課題としてべつの心理テストをやってる)ほうがよりよい車を選んだ。これが結果です。
さて問題はこの「よりよい車」がどう良いかですが、与える文章の段階で決まってます。4種類の車について最大12種類の属性を記述する文が読み上げられます。Supplementary informationにその文章がありますので、それを表にまとめてみました。
車の名前 | |||||
Hatsdun | Kaiwa | Dasuka | Nabusi | ||
属性 | mileage | good | good | poor | poor |
handling | good | poor | good | poor | |
trunk | large | large | small | small | |
available colors | many | many | very few | many | |
service | excellent | excellent | poor | poor | |
legroom | poor | plenty | little | plenty | |
to shift gears | difficult | easy | easy | difficult | |
cupholders | yes | no | yes | no | |
sunroof | yes | no | yes | yes | |
for the environment | relatively good | fairly good | not very good | not very good | |
sound system | poor | poor | good | poor | |
new | very new | old | new | old |
良いところには1点、悪いところには0点を付けて各車に点数を付けると、
Hatsdun 9点
Kaiwa 7点
Dasuka 6点
Nabusi 3点
となります。こうするといちばんいい車はHatsdunです。サンルーフがあるかないかと、サービスがいいかどうかは等価にはできないと思いますが、ここではそういうことはあまり気にしてない様子。(ところで車のネーミングがなんか日本車っぽいんですけど。HatsdunなんかDatsunでしょ。)
12個全部の属性を与えたときには、熟考時間があった人は25%くらいしかいちばんいい車を選べなかったけど、熟考時間を減らした方がかえって、半分近くのひとがいちばんいい車を選んでる。4個の属性を与えたときには妨害課題のあるなしによって選択率は変わらず、50%程度。以下のところが気になるけど、ともあれ効果は明白で、面白いです。
結果のalternativeな説明を考えてみましたが、妨害課題によって属性に関する短期記憶が影響されるのだけれど、そのときに影響を受けやすいのが、positveな属性かもしくはnegativeな属性かに偏ってたりするとこんな結果が生まれそうな気がします。属性4個のときには容量が少ないので短期記憶は影響を受けない、だから妨害課題があるかないかの影響をほとんど受けない、これも意味が通ります。
ようするに、熟考時間の問題なのか、短期記憶の問題なのかというのがこの実験の解釈の論点になるんではないかというわけです。どういう根拠でその車を選んだのか、おぼえてる属性とかを使って被験者に説明させておけば、そのデータが利用できたんではないかと思うんだけど。(そうすると、これまでコメントしてきたScience 2005論文とも関係してきますね。)
さて、論文の後半はもう一つの実験です。IKEA(家具とか大物を売ってる)で買い物した人と、Bijenkorf(衣類とか小物を売ってる、アメリカでいうところのメイシーズMacy'sみたいな存在だそうな)で買い物した人とが買い物をして出てきたところで、インタビューをする。なにを買ったか、いくらだったか、どのくらい買うのを決断するまで時間を使ったか。数週間あとでまたインタビューする。買った物に満足していますか。
結果は、IKEAで買い物した人は、購入に際して熟慮した人のほうが満足してない。Bijenkorfで買い物した人は、購入に際して熟慮した人のほうが満足してる、というものです。IKEAかBijenkorfかの違いは、選択をするにあたっての製品の複雑度を反映しており、よって前半の実験と同じことが日常生活の実際的な場面にかなり近いところでも再現された。だから、deliberation-without -attention effectは支持された、というわけです。
さて、社会心理学のおさらいをした私たちにとって、こっちの実験は明白に問題があることに気づくと思います。つまり、前半の実験では「良い製品」とは実験者によって決められたものでした。しかし、後半の実験では「良い製品」とは購入した人による評価で決まるものでした。しかし、認知不協和理論を見てきてわかったように、われわれが自分が行った行動選択に対する評価というものは認知的要因によって影響を受けるのでした。もし、たくさん調べてから物を買った場合と、直感で同じ物を買った場合とで、(仮想的な)客観的な価値が同じだったとしても、あらかじめ労力をかけて選んだことによって、元々の評価よりも高くなければ釣り合わない、というような認知不協和を持つ。そうすれば自分の行った行動の評価を下げることによってこの不協和を解消するということで説明できる。Bijenkorfでの買い物はそんなに高価な出費でないので、そもそもそのような認知不協和がおこらない。
要は、はじめの実験と違って、後半の実験ではそれがよい製品であるかどうかをそれを買った人の満足度で評価しているという点が致命的に問題なのではないか、というわけです。後半の実験はどちらかというと、前半の実験の結果を踏まえて、マスコミ受けを狙っておもしろおかしく紹介できるようにおこなった実験というような趣なんですけど。というわけで後半の実験にかんしてはまったく評価しておりません。勘違いしてたらご指摘お願いします。(勘違いはよくやるんですよ。今年の神経科学大会では一回しか質問しなかったけど、それは課題の勘違いに基づくものでしたorz)
ちなみにFig.3とFig.4の棒グラフは原点が0になってない、いけない棒グラフです。(いわゆる「捏造棒グラフ」問題。) 棒グラフは原点からの長さで印象を決めるから、0を原点にしないと正しく値の比率を反映しなくなるので良くないのです。この条件で棒グラフを使いたいならせめて(あんま良くないけど)比率にして%表示で平均値からの差で表現するか。そもそも棒を原点から延ばす意味がなくて、差を比較したいだけならば、点とエラーバーにしておくべき。前半と後半で書いてる人が違うんではないでしょうかね。
なんつうか、論文が言いたいことは納得なんだけど、実験の手続きがいろいろ引っかかって全体としては納得がいかない、そんな読後感でした。この論文に関してはここまでで。
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2007年10月08日
■ 意志決定の曖昧さ4
東大先端研の渡邊克巳さんの講演の予習つづき。もう時間がない。今回はメモだけで。
講演の要旨によると、"postdiction"というのがキーワードとなりそうです。われわれの意志決定がけっこう後付け的(postdictive)になされるということの例として参考論文が上げられています。このpostdictionというのはdecisionだけの話ではありません。Postdictionといえば思い出すのが以前のflash-lag illusionの論争ですが、
- Science 2000 Vol. 287. pp. 2036 - 2038 "Motion Integration and Postdiction in Visual Awareness" David M. Eagleman and Terrence J. Sejnowski
- Science 2000 Vol. 290. p. 1051 "Flash-Lag Effect: Differential Latency, Not Postdiction"とそれに対する返答
- Science 2000 Vol. 289. p. 1107 "The Position of Moving Objects"とそれに対する返答
それから関連するのがposition captureに関するもの。こちらに関しては下條研在籍時からの渡邊さんの仕事が複数出ています。
- Nature Neuroscience 3, 954 - 959 (2000) "Motion distorts visual space: shifting the perceived position of remote stationary objects" David Whitney and Patrick Cavanagh
- Vision Research Volume 42, Issue 24, November 2002, Pages 2645-2650 "Shifts in perceived position of flashed stimuli by illusory object motion" Katsumi Watanabe, Romi Nijhawana, and Shinsuke Shimojo
- Perception. 2003;32(5):545-59. "Perceived shifts of flashed stimuli by visible and invisible object motion."(free full text PDF) Watanabe K, Sato TR, Shimojo S. (よく見るとsecond authorがSchall研在籍時のTakashiさん。びっくり!)
- Vision Research Volume 45, Issue 19, September 2005, Pages 2580-2586 "The motion-induced position shift depends on the visual awareness of motion" Katsumi Watanabe
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2007年10月03日
■ 意志決定の曖昧さ3: 前回の落ち穂拾い
前回のエントリから洩れたあたりを落ち穂拾いで。
追加1:ニスベットとウィルソン1977のティモシー・ウィルソンは現在バージニア大学の教授となっていて、2002年にHarvard University Pressから"Strangers to ourselves"という一般向けの書物を書いています。これが自分を知り、自分を変える―適応的無意識の心理学 ティモシー ウィルソンとして翻訳されています。タイトルはセルプヘルプ系ですけど、なかなか良いです。そこでは適応的無意識(adaptive unconscious)と意識的自己というキーワードを導入して、上述のニスベットとウィルソン1977の言明の改訂版を作っています。「人間の判断、情動、思考、行動の多くは、適応的無意識によって生じる。人は適応的無意識に対して意識的にアクセスすることができないので(中略)意識的自己が反応の理由を作り出す。」
追加2:われわれが意識できるのは認知の過程(process)ではなく、内容(content)である、ということは知覚、運動まで広げて一般性を問う意義のあるthesisです。知覚においてはこの帰結は明確です。われわれはbinocular rivalryの切り替わりの過程を意識することはなく、ただその結果として生まれたcontentを受容するだけというわけです。(というかcontentという言葉自体が「意識のcontent」というふうに意識を想定しているわけですが。) 以前のbinocular rivalryのエントリ(20070710)を思い出していただきたいのですが、V2, V4のニューロンは「見えている」と報告している図形に選択的に活動しているものと、「見えている」と報告している図形でないほうに選択的に活動しているものとが半々くらいでした。それがITになると、ほぼ100%で「見えている」と報告している図形に選択的に活動していました。よって著者は、V2/V4はsegmentation/groupingの過程で、ITはそのstageを越えたものがrepresentされていると言ってたわけですが、ようするにこれがawarenessのcontentはITにあって、V2/V4にあるようなselectionのprocessについてはわれわれはawareしてない、と考えるところまでは行けるのではないかと思います。
あと、我々は運動のコマンドを意識しているかというとたぶんしてない。あくまでその結果をproprioceptiveに、さらに視覚などによってフィードバックを受けるだけということなのでしょう。だからJeannerodとかがやるような、さまざまな運動調節が意識の外で行われているという話になるのです。(neuropsychologia 1998 "Limited conscious monitoring of motor performance in normal subjects" )
追加3:下條先生が「サブリミナル・マインド」にある内容の講義を教養過程でされていてた頃に私は駒場にいました。面白いらしいという評判を聞いて第一回の授業に行ってみたら、教室がものすごい混雑しててすっかり萎えてその授業を取るのはやめたというボンクラ逸話があります。あそこで授業を取ってたら「人生変わ」ってたかもしんない。ま、そんな回り道をいろいろしてます。
追加4:そういえば「意識の科学は可能か」新曜社の「知覚から見た意識」で、下條先生は「知覚研究は主観的経験の研究であった」ことの例として残効の実験を挙げて、心理学は「網膜像に明示的に与えられている情報以上のものを見る、知覚の特性」に関心を持ってきたことを強調していました。認知の世界にかんしては今回書いたとおりですが、知覚の世界ではそれが当たり前だったというわけです。
追加5:以前Nature Neuroscience - 10, 257 - 261 (2007) "Post-decision wagering objectively measures awareness" Navindra Persaud, Peter McLeod and Alan Coweyというのを読んだことがあります。Awarenessの客観的な指標として「意志決定後にどのくらい自信があるかお金をかけてもらう」というものを提唱していて、これが言語による報告や信頼度の評定とかよりも優れている、という話で、どういうことなんだかわからなかったんだけど、こうやって社会心理学について概観してからのことを見直してみると、これも社会心理学的なものとして読めばいいのかなと思いました。
だんだん話が拡散してきたのでこのへんで。
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2007年10月01日
■ 意志決定の曖昧さ2: 自分はもうひとりの自分である
さて、今回は長いです。どちらかというと趣味全開で。ニスベットとウィルソンまで歴史を追って辿りついてみます。歴史順に再構成すると、フェスティンガーの「認知不協和理論」から始まります。前回の「酸っぱいブドウ」は俗っぽい説明で、あれで正しいのかどうかは自信がないのですが、正しくはオリジナルの「1ドルの報酬」実験から説明すべきなのです。実験に関してはたとえばこちらのサイトとかをどうぞ。
手短にいうと、被験者はある退屈な作業をしてから、次の被験者に「作業は面白かった」と伝えるということをしなくてはいけない。この報酬として1ドルもしくは20ドルもらう。そのあとで率直な意見として作業は面白かったかどうかを実験者が聞く。作業が面白かったと評価したのは1ドルもらった側(20ドル側ではない)だった、というわけです。報酬による強化だけを考えればこのようなことは考えられないので、なんらか認知的な要素を考える必要がある、という意味で認知科学にとって大きな成果だったわけです。
つまりこの結果を説明として、1ドルもらった人は、「仕事が面白くなかった」という内的な評価と「仕事が面白いと次の被験者に伝えた」という行動とが整合的でない(「認知的不協和」の状態にある)。ゆえに、「仕事が面白くなかった」という内的な評価を変えて「仕事が面白かった」という評価にしてしまう。それゆえ、実験者に「仕事は面白かった」と伝えてしまう。一方で、20ドルもらった人は「仕事が面白いと次の被験者に伝えた」という行動が20ドルのお金のためにやった、という納得があるので、「仕事が面白くなかった」という内的な評価とのあいだに「認知的不協和」は起こらないから、評価は変わらない。実験者にも「仕事は面白くなかった」と伝える、というわけです。これは「葛藤」のような感情の問題ではなく、認知の問題であり、多分に意識せずにやっている(たんなる欺瞞ではない)というところがポイントです。
認知的不協和理論は「認知的不協和」という状態を仮定するという意味で認知科学的な考え方です。ベムの「自己知覚理論」は認知的不協和理論に対するスキナー派からの対案という側面があります。つまり、1ドル報酬実験を説明するのに「認知的不協和」というようなブラックボックスを仮定する必要はない、というのです。「自己知覚理論」では、「人間は自分の態度や情動などについての内的手がかり(内観)が充分に利用できない状況では、自分の行動や周りの環境から推測する、つまり、他人の態度や情動を推測するのと同じことになる」と考えます。
この考えで1ドル報酬実験を見ると、被験者が自分の態度を他人を見るように推測するなら、20ドルもらったときに次の被験者に言った「仕事が面白かった」は金のためにやったと推測するのに対して、1ドルもらったときに次の被験者に言った「仕事が面白かった」は金のためにやったとは思えないからほんとうに面白かったのだろうと推測する、というわけです。
じっさいにこの考えが正しいことを証明するために、この実験をしているところを録音しておいて、被験者が仕事を面白いと思っているかどうかをそのテープを聞いた人が推測してみました。そうすると、1ドル報酬のときのほうが被験者が仕事が面白いと思っていると推測した、というわけです。
ただ、これは自己知覚理論でも説明できるという話で、これでは認知的不協和理論を積極的に排除することは出来ません。しかも、たぶんスキナー派と認知科学の代理戦争みたいな側面もたぶんあったんだと思うんですけど、論争は泥沼化して、明確にどちらが正しいという結論が出ずに終わります。このへんの経緯については認知的不協和理論―知のメタモルフォーゼが詳しいです。ベムの終戦宣言みたいなものがありますのでこの本のP.73から引用します。
我々が不協和現象を採りあげたのはその知見を再現することが、観察者と実験事態にいる被験者の相互交換性を基本仮説とする自己知覚理論の検証につながるからである。この限りでは、なにも論理的不協和理論との対決を目指すものではなかったのである。しかしながら論理的不協和論者はこうしたことを理解しようとせずに、徒に対決を煽り立ててきたのである。また我々の知見に対しても、手続き上の欠点を言い立てるだけであった。このような状況ではいくら議論を重ねても無駄である。両者は本来べつの現象を取り扱っているものとみなし、それぞれの理論の適用範囲を明確にしたほうがより生産的と思われる
あっちゃー、すごいもん見た。とまあ、脱線なのですが、こんなかんじだったらしい。
さて、じつは今回の話的には認知的不協和理論よりは自己知覚理論のほうが重要です。さっきさらっと書きましたが、ベムの自己知覚理論は内観よりも推測の方を重視しています。オリジナルの表現を載せておきます。
"Individuals come to "know" their own attitudes, emotions and other internal states partially by inferring them from observations of their own overt behavior and/or the circumstances in which this behavior occurs. Thus, to the extent that internal cues are weak, ambiguous, or uninterpretable, the individual is functionally in the same position as an outside observer, an observer who must necessarily rely upon those same external cues to infer the individual's internal states." (Self-perception theory. p.2 In L. Berkowitz (Ed.), Advances in Experimental Social Psychology, (Vol. 6, pp. 1-62). New York: Academic Press.)
ところで、どういう根拠で内観よりも推測を重視するのか、どういうときにinternal cueが弱いのか。これだけではわかりません。たとえば1ドル報酬実験での「仕事が面白くなかった」という内観はなにと比べて"weak, ambiguous, or uninterpretable"と言えるか、という問題ですが。日本語の文献をよむかぎり比較的ここはスルー気味です。「自己の姿の把握の段階」では「どの範囲で自己知覚は他者知覚と同等であるのか、どの範囲で、本人特有の内的な手がかりが存在するのかを、問わなければならないであろう。」と書いてます。ようするに「自己の認知を知る手がかりはじつは他者が推測するときに使っている手がかりとそんなに変わらない。だから、内観はあまり使っていないのだ」っていう論理なわけでして。
もとのスキナーの考えのほうは、子どもが「痛いという内的状態」を獲得する過程では、他者にも観察可能な「泣いている」という行動("overt behavior")や頭をぶつけたとかの顕在的刺激変数とが必要である、というものです。これは起源論なので、そのような内的状態の記述を獲得したあとで内観はどのような位置にあるのか、ということについてスキナーがどう扱っているかはここだけだと不明なのですが。ともあれ、ベムは反内観主義的な立場にいます。「サブリミナル・マインド」ではここを重視します。
「とくに自己知覚理論では、自分についての無意識な推論を他人についての推論とほぼ同じ過程だとみなしてしまう点に、最大の洞察があります。極言すれば、自分はもうひとりの他人であるかもしれないのです。」
さて、このようなベムの自己知覚理論が原因帰属理論に包括されるものであると捉えられてゆくのが次のステップです。ハイダーの原因帰属理論というのは、他者の行動を知覚してその原因を帰属する際に、「内的で個人的な原因」と「外的で環境的な原因」がある、とするものです。これをケリー1967がANOVAモデルというのを作って精緻化します。たとえば、ある人がある映画に感動したとします。このとき、その人が他の映画を見ても同様には感動しなかった、他の人がその映画を見たとき感動した、ということを元にして、感動の原因はその映画にあると結論づける、と言うわけです。
それで、ケリーがベムの自己知覚理論もANOVAモデルで扱えると指摘しました。ベム自身もこれを認めて、原因帰属理論というのは一般に他者の知覚の理論なのだけれど、自己知覚理論はその他者が自分であった場合だというふうに捉え直されたわけです。(こうなると、上記の「終戦宣言」もそんなに悪くない気がします。) ちなみにシャクターの情動理論も情動に関する帰属理論のひとつとして捉えることが出来ます。
さて、いよいよニスベットが出てきます。ジョーンズとニスベット1972では、原因帰属の仕方が「行為者」であるか「観察者」であるかによって大きく変わる、と言っています。この「行為者」と「観察者」という区分はさまざまな重要な意義を持つと思います。私はここにめちゃくちゃ感銘を受けて、今回のサーべイをちょっと神経生理学者らしからぬところまで広げてしまったしだいです。これについてはまたべつにエントリ作ります。
ジョーンズとニスベット1972の仮説は「ある行動をした本人、つまり行為者は、自分の行動の原因を、周囲の状況などの外的要因に帰属しがちであるのに対して、その同じ行動を見聞きした他者、すなわち観察者は、行動の原因を行為者の内部にある安定した属性・特性に帰属する傾向がある」というものです。簡単に言いますけど、俺が怒ってるのはいろんな不運があったからだけど、君が怒っているのは怒りっぽいから、みたいな考え方の傾向ですな(簡単にしすぎー!)。原因帰属理論では二つの原因があって、「内的で個人的な原因」と「外的で環境的な原因」でしたが、どちらに原因を帰属するかが「行為者」であるか「観察者」であるかによる、とするわけです。
なぜこのような差が生まれるか。ひとつは行為者は自分の行動に関する内観を利用できるからです。内観が利用できる分、行動の原因を内的なものに帰属しやすい。ベムの自己知覚理論はそのような内観が利用できないときには自分に対して観察者となる、というふうに捉えられるかもしれない。(お、いいこと言った気がする。ここは又引きではないですよ。)
もう一つの説明は、視点、視野の違いによるとするもの。観察者は行動と環境とを両方見ることが出来る。その状況では行動と環境が図と地の関係になって、行動が目立つ。行為者の場合は一人称的な視野で自分の行動が見えにくい。環境のほうが主となる、というわけです。どっちでも納得がいくかんじがします。どう決着付いたかは参考文献からはわからなかったですけど。ともあれ、この考え方は、ベムの自己知覚理論を引き継いで、自己知覚と他者知覚の違いは「行為者」と「観察者」との違いであって、本質的な差ではない(だから内観が十分に利用できないときは区別できなくなる)という帰結になるのではないかと思います。
さて、ニスベットはこのような考え方を進めて、ベムの自己知覚理論よりもより強烈なことを言います。ベムの自己知覚理論の仮定は「自己の態度や感情などの内的状態を直接に知る手がかりは乏しい」というものでした。ニスベットとウィルソン1977(Nisbett, R. E. and Wilson, T. D. (1977). Telling more than we can know: Verbal reports on mental processes.(PDF) Psychological Review, 84, 231-259.)ではこれをさらに進めて「人間は、評価、判断、推論を含むような高次の心理過程が自分の中で生じていること自体を、直接的に意識することはできない」と主張したのです。薔薇の赤さのクオリアはある。感情のクオリアはあるか。思考のクオリアはあるか。つまり、直接的に意識しているのではなくて、「推論している」のだと。反内観主義という意味でベムの考えを引き継いでいるわけです。
つまり、1ドル報酬実験とかで「仕事が面白かった」と報告するとき、その言語報告はけっこう不正確なものなんだと言うのです。ニスベットとウィルソン1977では、認知不協和理論の実験や原因帰属理論の実験のデータを持ってきて、「言語報告」と「行動または生理的効果」とが食い違うという例をいろいろ挙げています。
たとえば、Zimbardo et al 1969の電気ショック実験。被験者は電気ショックに耐えながら学習をする課題を行います。そのあとで、被験者はもう一回同じ課題をやってもらうことを実験者にお願いされる。充分正当な言い訳があるグループ(「この実験は大変重要で、もう一回行わないと無駄になってしまう。」)と充分な言い訳がないグループ(「ちょっと面白そうだからもう一回やりたいんだけど。」)とに分けます。充分な言い訳がないグループでは、もう一つの方と比べて学習効率も上がるし、GSRの反応(情動の生理学的指標)も下がる。これ自体は上記の認知不協和理論で説明できるます。充分な言い訳がないグループでは、痛みが少ないというふうに(無意識に)評価を変えたわけですね。だからGSRも下がった。重要なのは、このとき電気ショックの痛みを報告してもらっているのですが、痛みは一回目と二回目とで変わっていない。つまり評価を変えたことを被験者は意識できていないわけです。このような例は閾値下知覚の実験なども含めていろいろ出てきます。
この結果、ニスベットとウィルソン1977はこうまとめます。認知不協和理論の実験や原因帰属理論での被験者は、1) 実験で加えられた操作によって評価や態度の変化が起こったことを報告することができないことがある。2) 実験で起こっている認知過程を報告することができないことがある。3) 刺激の存在を見出すことができないことがある。 4) もしたとえ刺激とその応答の存在を知っていたとしても、両者の関係をただしく報告することができないことがある。
そういうわけで、この論文は内観に基づいた言語報告がいかに間違うものであるかを示すために引かれる古典的論文となったわけです。
ニスベットとウィルソン1977によれば、被験者の言語報告というものは、自分の認知過程についての意識を報告しているというよりは、「暗黙の因果理論」もしくは「因果関係についてのアプリオリな理論」に基づいた一種の推論によるのだというわけです。ちなみに「サブリミナル・マインド」では「もっともこの「暗黙の因果理論」の正体が、ニスベットとウィルソンの議論の中でも、今ひとつはっきりしないのですけれども。」と書いてます。のちのニスベット1980ではこの推論がカーネマンとトバルスキーの議論で出てくるようなヒューリスティックスとしているようです。ヒューリスティックスだから当然なんらかバイアスがあるわけです。たとえば少数の例を一般化するとかそのたぐいのやつです。手っ取り早く結論は出せるけど、バイアスがある。だからこそけっこう間違う。やっと今回のchoice blindnessのScience論文につながりましたね。
前回書いたScience論文のノイエスに関してもう一度いうと、これまでの社会心理学の実験、たとえば上記のフェスティンガーの1ドル報酬実験などでは、1ドル報酬のグループと20ドル報酬のグループとのあいだでの言語報告の違いとして効果が出る(グループレベル)わけですが、choice blindnessの実験では個人レベルで効果を見ることが出来るというわけです。それだけでなく、choice blindnessの実験はかなりシンプルなものですから、1ドル報酬実験のようなさまざまな要素が混ざっていて解釈の難しい実験よりもいろんなアプローチがしやすい(brain imagingだってできますよね)ということも特筆すべきだと思います。
以上を踏まえた上でScience論文の続編のConsciousness and Cognition Volume 15, Issue 4, December 2006, Pages 673-692 "How something can be said about telling more than we can know: On choice blindness and introspection"(PDF)についてですが、手品で顔が交換された条件(manipulated)とコントロール条件(non-manipulated)とで被験者がなんでその顔を選んだかについての言語報告を分析しているのですね。詳しいことはよくわからないけど、word frequencyだったり、いろんな言語学的解析法で。
しかし、manipulatedとnon-manipulatedとで差は見つからなかったと。じつはScienceのほうでもemotionality, specificity, certaintyというカテゴリーを作ってみて、manipulatedとnon-manipulatedとで差は見つからなかったと言っているので、それの延長にあります。こっちの論文の結果ははっきりしませんが、いいたいことはScience論文にある、
"On a radical reading of this view, a suspicion would be cast even on the NM (non-manipulated) reports. Confabulation could be seen to be the norm and truthful reporting something that needs to be argued for."
つまり、我々のふだんの言語報告もmanipulated条件で見られるようなconfabulationと同じなのかも(超訳過ぎ)というかんじでしょうか。ここはとてもおもしろい。
参考文献:
- 「サブリミナル・マインド」 下條信輔 中公新書
- 認知的不協和理論―知のメタモルフォーゼ 三井 宏隆 (著), 伊東 秀章 (著), 増田 真也 (著) 垣内出版
- 「自己過程」の社会心理学 中村 陽吉(編集) 東京大学出版会 第3章 「自己の姿の把握の段階」 外山 みどり
- 自己意識心理学への招待―人とその理論 梶田 叡一 (編集) 有斐閣 第10章 「自分自身についてどう推論するか ベムの自己知覚理論」 金川 智恵
- 自分を知り、自分を変える―適応的無意識の心理学 ティモシー ウィルソン 新曜社
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2007年09月28日
■ 意志決定の曖昧さ1
研究会予習シリーズも時間的にこれが最終回。私が座長をする予定になっている、東大先端研の渡邊克巳さんの講演に関して予習することにします。研究会要旨集で参考文献を挙げてくださってます。このへんから行ってみましょう。
- Watanabe, K. (in press) "Behavioral speed contagion: Automatic modulation of movement timing by observation of body movements." Cognition.
- Science 7 October 2005: Vol. 310. no. 5745, pp. 116 - 119 "Failure to Detect Mismatches Between Intention and Outcome in a Simple Decision Task" Petter Johansson, Lars Hall, Sverker Sikstr ö m, Andreas Olsson
- Dijksterhuis, A., Bos, M. W., Nordgren, L. F., van Baaren, R. B. (2006). "On making the right choice: The deliberation-without-attention effect." Science, 311, 1005-1007.
とりあえず2番目の論文から読み始めました。Science 7 October 2005: Vol. 310. no. 5745, pp. 116 - 119 "Failure to Detect Mismatches Between Intention and Outcome in a Simple Decision Task" Petter Johansson, Lars Hall, Sverker Sikström, Andreas Olsson。ファーストオーサーのPetter JOHANSSONという人はもともとスウェーデンの人だけど現在は渡邊研に在籍しているようです。
わたしたちは日常生活で意志決定をしてなにかを選ぶわけだけど、その意志決定と選択との関係がどのくらいあやふやかを示した論文です。
やってる実験はひとことで言えば、手品。被験者の前で実験者が顔写真が書いてある二種類のカードを左右の手に持って見せます。被験者にはどっちが好きか選んで指さししてもらう。被験者は実験者から選んだほうのカードを引いて、なんでそのカードを選んだかを答えてもらいます。んで、トリックが仕掛けられていて、たまに指さしたものとは反対の手のあったカードが被験者に手渡されます。ここが手品なわけですね。手に持ったカードを二枚重ねにしておけばいいわけです。
さて、被験者はカードがすり替えられたことに気付くか。これがなかなか気付かない。その場で気付くのはせいぜい5%とか。
では、気付かなかったときはその写真についてどうコメントするか。だって、こっちがいいと思って選んだはずなのに逆を選んでいて、しかもそのことに気付いていないんだから、なんでそれを選んだかコメントするのが難しいはずで。ひとつのパターンとしては後付けで説明を作ってしまう。つまり、現在手に持っている写真の顔についてあれこれこういう理由でこっちを選んだ、と言ってしまう(confabulation=作話)。もしくは逆にはじめに選んだときの写真の顔についてコメントしてしまう。たとえば、「なぜ選んだかというと、こっちの写真は笑っているから」みたいなかんじで。手元にある写真は笑い顔ではないのに。
そういうわけでわれわれはそういう状況において自分が選択したもの、選択した理由についてけっこう見逃している。けっこう曖昧だということがわかるというわけです。著者はこの現象のことを"choice blindness"と呼んでいます。
これに似通った現象はいろいろ知られています。目撃証言にかんする記憶の曖昧さに関する話がありますね。Schacterの本とかで出てるやつ。事件の目撃報告とかでは証言がいろんな要素によってゆがめられる。写真のリストから現場にいたと思われる人を選んだら、無意識レベルの偏見によって選択がゆがんだ。これもおそらくは本人は意識しているわけではないのですね。嘘をついているわけではなかった。
あと、ラマチャンドランの本で出てくる印象深い病態否認の例。右腕が動かないということを否認するために、いまは動かしたくない、とか動いてないのに動いていると言い張るとか。これもたぶん嘘をついているわけではないのですよね。
あと、論理的不協和理論とも大いに関係ありそうですよね。論理的不協和理論は言ってみれば「酸っぱいブドウ」理論です。「おいしそうなブドウがある」という認識(=内的条件)と「ブドウが手に入らない」という状況(=外的条件)があって、この二つが整合的でないために論理的不協和(cognitive dissonance)という状態を体験する。これを解決するために、変えようのない状況の方ではなくて、「おいしそうなブドウがある」という認識の方を変えてしまう。「あれは酸っぱいブドウだった。」というわけです。ところで、もはやクリシェとなった「勘違いしないでよ、べつにあんたのためにXXしたわけじゃないんだからねっ」も同じような分析が可能ですね。余談ですが。
このへんの関連性については著者は今回のScience論文の一番最後のパラグラフで
Classic studies of social psychology have shown that telling discrepancies between choice and introspection can sometimes be discerned in group-level response patterns (12) but not for each of the individuals at hand.
と書いていて、このreference 12というのがNisbett and WilsonのPsychological Review 1977 Vol 84(3) 231-259 "Telling more than we can know: Verbal reports on mental processes."(PDF)というやつでして、この世界の古典的論文です。ここに書いてある、「選択と内観の不一致」に関してはまた後述しますが、ともあれ、これまでの社会心理学的な実験で示されたことを個人のレベルでも示すことが出来た、という点がこの論文のノイエスであるようです。
Science論文とこのニスベットとウィルソン1977との関連については、Science論文の続編のConsciousness and Cognition Volume 15, Issue 4, December 2006, Pages 673-692 "How something can be said about telling more than we can know: On choice blindness and introspection"(PDF)でかなりくわしく扱われています。
ちなみにこれにたいするPatrick HaggardによるコメンタリがConsciousness and Cognition Volume 15, Issue 4, December 2006, Pages 693-696 Commentary on ‘How something can be said about telling more than we can know: On choice blindness and introspection’ James Moore and Patrick Haggardで、それに対する返答がConsciousness and Cognition Volume 15, Issue 4, December 2006, Pages 697-699 "Reply to commentary by Moore and Haggard"です。
さて、Science論文の意義を評価するために、もうすこしいろいろ調べてみましょう。(というか調べてたら面白くなってきた。これは大いにわたしのやっていることと関係します)。渡邊克巳さんはERATOの下條潜在脳機能プロジェクトの意思決定グループのリーダーでもありまして、この論文の意義も「潜在脳機能」という側面から見るとよくわかります。下條先生の「サブリミナル・マインド」の第1講「自分はもうひとりの他人である」ではまさに上記のニスベットとウィルソン1977に言及しています。
下條先生の「サブリミナル・マインド」を読み直して、さらに社会心理学の本なども読んでいろいろ調べてきました。次回は「フェスティンガーの認知不協和理論」、「ベムの自己知覚理論」、「原因帰属理論」といって「ニスベットとウィルソンの"Telling more than we can know"」までたどっていきます。
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2007年09月27日
■ 実りある議論のためのリソース2
「実りある議論のためのリソース」つづき。第2日目の講演者の方に関してです。第2日目は全体として「意志決定」のパートとなっております。
5. 「情動に基づく意思決定のための大脳基底核関連回路」中原 裕之(理化学研究所 脳科学総合研究センター 理論統合脳科学研究チーム)
中原裕之さんは計算論神経科学をされておりまして、情報幾何をスパイク列に応用したお仕事(Nakahara, H., & Amari, S. (2002). "Information geometric measure for neural spikes." Neural Computation. 14(10): pp2269-2316.)で有名ですが、実験神経生理学者とも多くのコラボレーションを行って成果を出されております。今回は大脳基底核についてお話をされますが、それ以外にもattentional modulationによるtuningに関する仕事(Neural Computation 2001やNeural Networks 2002)や上丘のsaccadic burstに関わるlocal circuitに関する仕事(Journal of Neurophysiology 2006)などさまざまです。
- Nakahara, H., Itoh, H., Kawagoe, R., Takikawa, Y., & Hikosaka, O. (2004). Dopamine neurons can represent context-dependent prediction error. Neuron. 41(2): pp269-280.
- Nakahara, H., Amari, S., & Hikosaka, O. (2002). Self-organization in the basal ganglia with modulation of reinforcement signals. Neural Computation. 14(4): pp819-844.
6. 「社会的状況における意思決定のメカニズム」春野 雅彦(国際電気通信基礎技術研究所 脳情報研究所)
春野雅彦さんはMOSAICモデルの論文(Haruno M, Wolpert DM, Kawato M: MOSAIC model for sensorimotor learning and control. Neural Computation, 13 2201-2220 (2001))の著者として有名ですが、近年はhuman fMRIを使った理論の検証を進めておられます。今回発表される内容はこれまで発表されているものとは違うもののようですが、human fMRIのお仕事をリストしておきます。
- Haruno M, Kawato M: Heterarchical reinforcement-learning model for integration of multiple cortico-striatal loops; fMRI examination in stimulus-action-reward association learning. Neural Networks, 19, 1242–1254 (2006) .
- Haruno M, Kawato M: Different neural correlates of reward expectation and reward expectation error in the putamen and caudate nucleus during stimulus-action-reward association learning. Journal of Neurophysiology, 95, 948-959 (2006).
- Haruno M, Kuroda T, Doya K, Toyama K, Kimura M, Samejima K, Imamizu H, Kawato M: A neural correlate of reward-based behavioral learning in caudate nucleus: a functional magnetic resonance imaging study of a stochastic decision task. Journal of Neuroscience, 24, 1660-1665 (2004).
7. 「ヒトにおける金銭的価値の脳内表現 - 機能的MRIによる神経経済学的研究」筒井 健一郎(東北大学大学院生命科学研究科 脳情報処理分野)
筒井健一郎さんは日大酒田研時代のCIPでの3D surface codingのお仕事(Science. 2002 Oct 11;298(5592):409-12. "Neural correlates for perception of 3D surface orientation from texture gradient." Tsutsui K, Sakata H, Naganuma T, Taira M.)が有名ですが、現在は東北大に移動されて新しい仕事を始めておられます。今回の発表では、human fMRIでの神経経済学的アプローチでの成果をお話しいただきます。まったく新しい仕事ですので、参考文献は挙げておりません。
8. 「意思決定の適当さ」渡邊 克巳(東京大学先端科学技術研究センター(認知科学分野), (独)産業技術総合研究所, (独)科学技術振興機構)
渡邊 克巳さんは下條先生のところ、彦坂先生のところで仕事を出され、多彩な成果を出しておられます。ERATOの下條潜在脳機能プロジェクトの意思決定グループのリーダーでもありまして、意志決定に関する潜在脳機能にアプローチをされております。次回から予習シリーズで採りあげさせていただきます。以下は要旨にありました、参考文献のリストです。
- Watanabe, K. (in press) "Behavioral speed contagion: Automatic modulation of movement timing by observation of body movements." Cognition.
- Science 7 October 2005: Vol. 310. no. 5745, pp. 116 - 119 "Failure to Detect Mismatches Between Intention and Outcome in a Simple Decision Task" Petter Johansson, Lars Hall, Sverker Sikström, Andreas Olsson
- Dijksterhuis, A., Bos, M. W., Nordgren, L. F., van Baaren, R. B. (2006). "On making the right choice: The deliberation-without-attention effect." Science, 311, 1005-1007.
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- / 投稿日: 2007年09月27日
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2007年09月26日
■ 実りある議論のためのリソース1
研究会予習シリーズですが、このペースでは全員回ることは不可能になってきました。残された時間で、私が座長をする予定の東大先端研の渡邊克巳さんの講演について予習を行うことにします。これはのちほど。
「実りある議論のためのリソース」と題して講演者のみなさまに関する参考文献などを挙げるコーナーを作成しました。まったくもってわたしの独断ですので、これで当たっているかどうかは保証の限りではありませんのであしからず。
まずは第1日目の講演者の方に関して。第1日目は全体として「注意」のパートとなっております。
1. 「脳損傷患者における注意と意思決定」 鈴木 匡子 (山形大学大学院医学系研究科 高次脳機能障害学)
鈴木匡子さんは今年から山形大の教授となられました。神経心理を専門とされていて、高次脳機能障害の患者さんの症例のレポートを多く発表されています。鈴木匡子さんは日本で数少ない、blindsightの患者さんのレポートをされた方でして(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2000 Jun;68(6):782-6. "Intact verbal description of letters with diminished awareness of their forms." Suzuki K, Yamadori A.)、わたしはその縁でお知り合いとならせていただきました。
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BRAIN and NERVE 2007 (Vol.59 No.1) 「視覚性注意のしくみ」 鈴木 匡子
注意の分類、同時失認と半側空間無視についての症例、注意に関する脳部位、というまとめ方でとても役に立ちます。 -
Cortex. 2003 Apr;39(2):327-41. "Visuospatial deficits due to impaired visual attention: investigation of two cases of slowly progressive visuospatial impairment."(PDF) Suzuki K, Otsuka Y, Endo K, Ejima A, Saito H, Fujii T, Yamadori A.
Attention関連の症例報告。
2. 「注意のトップダウン制御原理 - 次元加重、課題構え、探索モード」 熊田 孝恒 (産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門 認知行動システム研究グループ)
熊田孝恒さんは産総研で注意の心理物理をされている方です。サーチタスクのパラダイムを用いて、top-down attentionについて研究されていますが、脳損傷の患者さんを被験者とした研究も行っておられます。
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Cognitive Neuropsychology, Volume 23, Number 3, May 2006 , pp. 401-423(23) "Deficits in feature-based control of attention in a patient with a right fronto-temporal lesion" Kumada, Takatsune; Hayashi, Mieko
こちらが患者さんでの研究の論文です。 -
Kumada, T. (2001) Feature-based control of attention: Evidence for two forms of dimension weighting. Perception & Psychophysics, 63, 698-708.
Feature searchで特定の刺激に重み付けするときにはWithin-dimension facilitation(WDF)とIntertrial facilitation (ITF)という二つのモードがあるという話です。
3. 「行動価値予測の誤差とリスク - 行動適応における前頭前野内側部の役割」 松元 まどか (理化学研究所 脳科学総合研究センター)
松元まどかさんのNature neuroscienceについては予習シリーズでとりあげました。今回の講演では、松元健二さんが神経科学大会のシンポジウムで話されたtop-down attentionの話が加わったものとしてお話しいただけるのではないかと思います。
- Nature Neuroscience 2007 "Medial prefrontal cell activity signaling prediction errors of action values" Madoka Matsumoto, Kenji Matsumoto, Hiroshi Abe and Keiji Tanaka
- Neuroscience Research 2007 "Effects of novelty on activity of lateral and medial prefrontal neurons"
4. 「注意が意思決定に変わるとき - 変換場としての頭頂連合野機能」 小川 正 (京都大学大学院医学研究科 認知行動脳科学)
小川正さんのお仕事についても予習シリーズでとりあげました。ちょっと尻切れトンボ気味でしたが。Visual searchのパラダイムを用いて、top-down attentionとbottom-up attentionがどのようなinteractしているのかということをニューロンの活動で示しています。V4, FEFのデータに関してはこれまでに発表されていますが、今回の講演ではLIPのお話も伺えるのではないかと思います。
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The Journal of Neuroscience, 2004, 24(28):6371-6382; "Target Selection in Area V4 during a Multidimensional Visual Search Task" Tadashi Ogawa and Hidehiko Komatsu
こちらが初めに出てきた、V4からの記録によるもの。 -
Experimental Brain Research 2006 "Neuronal dynamics of bottom-up and top-down processes in area V4 of macaque monkeys performing a visual search" Tadashi Ogawa and Hidehiko Komatsu
こちらはFEFのニューロンのデータを付加して、ニューロンの発火パターンの時間経過を追ったものです。
次回は二日目、意志決定パートの方について書きます。
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2007年09月21日
■ 生理研研究会のサイトを開設しました・研究会について語ります
10/11-12は生理研研究会「認知神経科学の先端 注意と意志決定の脳内メカニズム」です。研究会のサイトを開設しました。プログラム、ポスターのリストなどを公開しています。ぜひごらんください。
近日中に要旨集のPDFを公開する予定です。ぜひあらかじめ読んで予習しておいていただければ。そういう意味ではこのブログも役立つはずです。
それから、研究会サイトでは[実りある議論のためのリソース]と題したページを作成中です。これにかんしてはまだ中身はありませんが、講演者の文献リストなどを作成する予定です。わたしの独断と偏見で、ということになりますが。
さて語る。もともとこの研究会は酒を飲みながら元 生理研 小松研の小川さん(現在 京大 河野研)といっしょに、仕事が出たら一緒に研究会をやろう!と約束していたのが実現したものです(まだわたしの仕事出てないけどorz)。
高次脳機能関連の研究会を行うにあたって、私たちが特色として打ち出したかったのは、横に広げるより縦に深く行こう、ということでした。ある分野に絞って(今回は「注意と意志決定」を選びました)、さまざまな実験アプローチの方に話をしていただこうと、小川さんとわたしとで演者になっていただく方にお願いして回りました。感激したのは、お願いした方みなさまに快く引き受けていただけたことです。
その結果、さまざまな分野の方に講演をしていただけることになりました。感謝しております。高次脳機能障害の患者さんを調べておられる鈴木匡子さん、計算論的神経科学でさまざまな実験神経科学者とコラボレーションしてこられた中原裕之さん、それからもちろんhuman fMRI, human psychophysics, monkey neurophysiologyの方にも入っていただけることになりました。もっとrodentsとか無脊椎動物とかin vitroとかのアプローチがあっても良かったかもしれない。そのへんは課題ということで。昨年のSFNで松元まどかさんの仕事を見て講演をお願いしたら、そのあとでタイミング良くNature Neuroscienceに掲載されるというニュースがあって、ガッツポーズをとったりしたものです。
深く行くというコンセプトのためにもう一つ考えていたのは、ディスカッションを重視することを形に見えるようにしたい、ということでした。生理研研究会の名物のひとつとして京大の金子武嗣先生の研究会(昨年のプログラム)っていうのがあるんですけど、これが半日*2で講演者が5人、割り当てがひとり1時間ということになっているんだけど、実際の講演時間は質問が尽きるまで延々続く、というものです。去年の狩野先生の講演とかも2時間くらいかかったのではなかったでしょうか。わたしがはじめにイメージしていたのはこの研究会でした。
ただ、ひとりで全員の演者に食らいつくというのは大変なことですので、ツッコミ役になっていただく方をお願いしよう、ということから「指定討論者」という枠を作って、いろんな方にお願いして回りました。今回公開されたプログラムを見ていただくとわかりますが、この指定討論者の方に座長になっていただいて、一人の講演者に対して二人の座長が付いている、という形になっております。そして、講演時間35分、議論時間20分をメドにプログラムを組みました。さあさて、これがうまくいくかどうかは当日のお楽しみ、というわけです。ぜひ見に来て(口調変わってるし)。
研究会のもうひとつの特色は、小川さんや私のような若手が企画・運営している点です。そういうわけで、若手の人に多く来てほしいし、ぜひ質問してほしいと思います。研究会や学会で質問時間があまりないと、エラい先生が質問してるのを聞いて終わってしまうということになりがちです。若手の人の質問を超encourrageします。「へんな質問かもしれないですけど」とか「基本的な質問ですけど」とかそういう枕詞はオミットでぜひ(エラそー)。
若手の人に来ていただくためのひとつの方策として、ポスターセッションを併設しました。また、ポスターセッションの会場でひきつづき懇親会を行うことにして、懇親会の会費を低めに抑えました(4000円、学生は2000円)。ぜひ酒飲みながらポスター前で語っていただけたらと思います。
小松研が毎年行っている視覚研究会(今年のプログラム)は懇親会を所内の食堂で行った後に隣の部屋にある和室に移動してみんなで胡座で酒を飲みながら語るというのがありまして、これが毎年盛り上がるのです。やっぱ胡座重要。参考にしたいなと思っていたのですが、今回はポスター会場で行う、という方を重視しました。つーか食堂をポスター会場にするってのはどうだろう? これはもし来年もやるとしたらのネタとして記録。
第一回の研究会ですのでいろいろ至らないところはあるだろうと不安なのですが(運営方面でいまはあれこれ大変です)、ぜひ多くの方に見に来てくださればと思います。どうかよろしくお願いします。
……今回はかなりぶっちゃけぎみに書いてみました。もし支障がありましたらご指摘ください。本当はこういうことは研究会が問題なく終了してから書くほうがよいことなのですが、それもこれも多くの人に見に来ていただきたいからです。この、現在進行形のプロジェクトの目撃者になってみませんか? (と書いたらさすがに照れた。)
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2007年09月19日
■ 生理研研究会とASCONEが近づいてまいりました
宣伝です。生理研研究会とASCONEが近づいてまいりました。
はげしくいそがしくなって分けわからない状態に。さて乗り越えられるでしょうか。
10/11-12は生理研研究会「認知神経科学の先端 注意と意志決定の脳内メカニズム」です。ポスター申し込みは9/14で締め切りました。たくさんのご応募どうもありがとうございました。参加申し込みの方は当日まで受け付けておりますのでぜひいらしてください。まもなくプログラム・要旨集が公表されますのでしばらくお待ちください。
10/5-8のASCONEのほうも着々と準備が。というか形をなすかどうかビビリながら準備中。ASCONEのページに要旨が掲載されました。よければそちらもご覧ください。講義が終了したらweb上講義に再構成したいなんて考えてますが、以前の大学院講義スレッドも宣言したまま放置中ですので時間がかかりそうです。
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2007年08月08日
■ トップダウンの注意とボトムアップの注意を統合する大脳皮質ネットワーク
つづきです。
The Journal of Neuroscience, 2004, 24(28):6371-6382; "Target Selection in Area V4 during a Multidimensional Visual Search Task" Tadashi Ogawa and Hidehiko Komatsu
Experimental Brain Research 2006 "Neuronal dynamics of bottom-up and top-down processes in area V4 of macaque monkeys performing a visual search" Tadashi Ogawa and Hidehiko Komatsu
関係ある論文のリストを作っておきます。
Schallらの一連のsearch taskはFEFからの記録ですが、大いに関連あると言えるでしょう。たくさんあるんですが関連ありそうなのはThompsonの論文とかでしょうか:
JNS 2005 "Neuronal Basis of Covert Spatial Attention in the Frontal Eye Field"
JNP 1997 "Dissociation of Visual Discrimination From Saccade Programming in Macaque Frontal Eye Field"
V4でattentionということで関係があるのが、Desimone系列でJohn H. Reynolds。 Neuron 2007 "Differential Attention-Dependent Response Modulation across Cell Classes in Macaque Visual Area V4."
Neuron 2005 "Time Course of Attention Reveals Different Mechanisms for Spatial and Feature-Based Attention in Area V4"
Neuron 2003 "Interacting Roles of Attention and Visual Salience in V4"
Neuron 2000 "Attention increases sensitivity of V4 neurons."
Van Essenの系列でJack L. GallantとCharles E. Connor。
JNS 1997 "Spatial attention effects in macaque area V4."
Neuron 2005 "Time course of attention reveals different mechanisms for spatial and feature-based attention in area V4."
それから、John H. R. Maunsell。
JNP 2006 "Effects of Spatial Attention on Contrast Response Functions in Macaque Area V4"
Nature 2002 "Attentional modulation in visual cortex depends on task timing"
JNP 2000 "Attention to Both Space and Feature Modulates Neuronal Responses in Macaque Area V4"
V4とFEFのinteractionという意味ではTirin Mooreの一連の仕事は大いに関係あります。
Nature 2003 "Selective gating of visual signals by microstimulation of frontal cortex"
Science 1999 "Shape Representations and Visual Guidance of Saccadic Eye Movements"
ここ最近LFPでtop-down attentionをみるというような話が続いて出てきました。
Science 2007 "Neural Mechanisms of Visual Attention: How Top-Down Feedback Highlights Relevant Locations"
Science 2007 "Top-Down Versus Bottom-Up Control of Attention in the Prefrontal and Posterior Parietal Cortices"
つづきます。
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- / 投稿日: 2007年08月08日
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# pooneil
小川さんからFEFにおけるspatial attentionの効果を見た論文として産総研の小高さんの論文を紹介していただきました。(以前コメントいただいていたのを忘れていました。) どうもありがとうございます。
Kodaka Y, Mikami A, Kubota K., 1997. Neuronal activity in the frontal eye field of the monkey is modulated while attention is focused on to a stimulus in the peripheral visual field, irrespective of eye movement. Neurosci Res. 28, pp. 291-298
ちなみに昔のME Goldbergの
Goldberg, M.E. and Bushnell, M.C., 1981. Behavioral enhancement of visual responses in monkey cerebral cortex: II. Modulation in frontal eye fields specifically related to saccades. J. Neurophysiol. 46, pp. 773-787
こっちのほうではポジティブな結果がでなかったそうです。
2007年08月07日
■ トップダウンの注意とボトムアップの注意を統合する大脳皮質ネットワーク
生理研研究会予習シリーズ続きます。現在京大の河野研に所属しておられる小川正さんが生理研の小松研の在籍されていたときのお仕事についてまとめておきます。
The Journal of Neuroscience, 2004, 24(28):6371-6382; "Target Selection in Area V4 during a Multidimensional Visual Search Task" Tadashi Ogawa and Hidehiko Komatsu
Experimental Brain Research 2006 "Neuronal dynamics of bottom-up and top-down processes in area V4 of macaque monkeys performing a visual search" Tadashi Ogawa and Hidehiko Komatsu
まずトップダウンの注意とボトムアップの注意ってなにかってことですが、刺激自体によって決まるのがボトムアップの注意です。たとえば、とても明るい、もしくは周りはみんな赤い点なのにその点だけ緑だとか。これを注意と言うか、pre-attentiveと言うかはまたいろいろ議論があるようです。そのへんの事情についてはvikingさんのブログで何度か採りあげられていると思います。いま検索したらこのエントリとか。いっぽうでトップダウンの注意というのはわれわれが自分の意志でもって行動の目的に向けるような注意のことです。だからgoal-drected attentionとか言ったりしますね。意識との関係が取りざたされるのはこちらです。課題の条件ではたいがいrewardおよび行動選択と結びつけられているので、それがtop-down attentionなのか、それともdecisionおよびaction selectionによるものなのか、といったことが必ずや問題となります。このへんは議論のネタのひとつとなることでしょう。今回の場合だと、V4はvisual cortexですので行動選択とかとは関係ないだろうから注意と考えて妥当だろう、という議論が成り立ちますが、それでも要旨の中では"top-down signal"みたいな言い方になっていたりします。
JNS 2004ではsearch taskを行ってV4からニューロンを記録しました。課題に関しては生理研のニュースリリースを見ていただくとわかりやすいですが、あるブロックではcolorに基づいたsearch (ひとつだけ緑のものを選ぶ、とか)、あるブロックではshapeに基づいたsearchを行います。Trialはいくつかに分類することができますが、重要な比較は4条件です。まずRF内の図形については色がsalientか形がsalientか('feature dimension')、それからtaskのrequirementによってRF内の図形がtargetになったり、distractorになったりします('search dimension')。よって、color-target / color-distractor / shape-target / shape-distractorの4条件を比較する、というのがこの実験の基本デザインです。
んで、明らかになったのは、この4条件で交互作用を持つニューロンが見つかった、ということです。つまり、たとえば、ニュースリリースの図Bのニューロンはcolor-target条件でいちばん強く活動し、活動の大きさはcolor-target > color-distractor > shape-target = shape-distractorとなっています。よって、ボトムアップの注意とトップダウンの注意はV4においてはたんにlinearに足し合わせれるのではなくて、ここで統合されている可能性があると言えるわけです。
つづきます。
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- / 投稿日: 2007年08月07日
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2007年08月01日
■ 選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部
Nature Neuroscience 2007 "Medial prefrontal cell activity signaling prediction errors of action values" Madoka Matsumoto, Kenji Matsumoto, Hiroshi Abe and Keiji Tanakaに関して。だいたいこれでわたしの方からは言い切ったかんじになるのではないかと。
Medial frontal cortexに関する重要なレビューとしてRushworthによる、Trends in Cognitive Sciences 2004 "Action sets and decisions in the medial frontal cortex"があります。これを読んできました。多少まとめます。
もともとmedial frontal cortex (ここではpreSMAとACCを含んでいるようです)はNiki and Watanabe 1979による先駆的仕事やhumanのERP studyでerror related negativityというのが取れることなどから、errorやconflictのmonitoringをしていると考えられてきたのだけれど、最近の仕事からACCはもっとactionとそのoutcome(negativeなものだけでなくpositiveなものも)とを関連づけるところと考えられるようになってきた、というのがその骨子です。今回のNature neuroscience論文がこのレビューに対する答えになっているということがよくわかるかと思います。
それで、レビューの方では松元健二さんのScience 2003のほうをかなり大きく採りあげて、ACCがactionとreinforcement value of its outcomeとを関連づけた活動を保持している証拠のひとつとしています。Science 2003 "Neuronal Correlates of Goal-Based Motor Selection in the Prefrontal Cortex" Kenji Matsumoto, Wataru Suzuki, Keiji Tanakaのほうでは、刺激条件(図形AとB)/行動選択(Go or NoGo)/報酬条件(Rewarded or unrewarded)の2*2*2の組み合わせをブロックごとにスイッチするという課題を行っていました。それで、ACCで見つかったのは行動選択*報酬条件で交互作用があるニューロンでした。つまり、go-rewarded/go-unrewarded/nogo-rewarded/nogo-unrewardedの4通りのうち、nogo rewardedでのみ活動する、といったニューロンが見つかったというわけです。Science論文ではこの活動について"goal-based action selection"という言い方をしていましたが、Rushworthはaction-outcome relationshipという言い方をしています。この意味では、Science 2003と比べてNature Neuroscience 2007の結果を見ることも重要です。Nature Neuroscience 2007は学習が進んだら消えてしまうような成分を見ているのでその点では違いは明確なのですが。
また、以前にmuscimol injectionなどの可能性について考えてみましたが、lesion実験にかんしてはRushworthらの論文(JNP 2003 "The Anterior Cingulate and Reward-Guided Selection of Actions")がレビュー内で紹介されています。メインの課題(Reward conditional response selection)は、taskのはじめにpelletをもらったときはレバーを引くと2個目のpelletが出てきて、taskのはじめにpeanutsをもらったときはレバーを横に倒すと2個目のpeanutsが出てくる、というものです。この課題の成績はlesionによって落ちます。一方で、コントロール課題(Visual discrimination learning)は図形の対があって、どちらかがrewardとassociateしています。Rewardとassociateしている図形を選べばrewardがもらえる。いわゆるconcurrent discrimination taskというやつですな。こちらはACC lesionによって成績は落ちない。よって、stimulus-reward associationにはACC lesionは影響を及ぼさないけれど、action-reward associationは影響を受ける、というわけです。
あと、議論のネタとしては、ACCというのはfMRIとかで見ててもいろんなcognitiveな条件で光るようだし、かなり「自我の座」っぽいイメージのあるところだと思うので、ACCとはなんなのか、人の損傷症例とかと合わせてconsistentな説が作れるかどうか、というあたりが面白いところですかね。有名なPhineas Gageの症例での損傷部位はもっと前の方になるんでしょうか。
だんだんとりとめなくなってきたんでこのへんで。
次回の予習シリーズは小川正さんのtop-down attentionとbottom-up attentionの統合に関する論文について行いたいと思います。ではまた。
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- / 投稿日: 2007年08月01日
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# araragi
はじめまして。
非常に参考になるエントリ、ありがとうございます。
表示が乱れて読みにくいのですが、
あたしが使っているのがエクスプローラーだからでしょうか?
ご指摘どうもありがとうございます。Firefoxでは問題なかったので気付きませんでした。そういえば以前にもid:natsumotoさんのブクマhttp://b.hatena.ne.jp/natsumoto/20070719#bookmark-5326726
でOperaでもずれるというご指摘がありました。ソースを見直して、IE6とOpera 9でも正常に表示されるのを確認しました。どうもありがとうございます。
ちなみに横幅についてはCSSで
max-width=640px
というのを指定していますので、firefoxやOperaやIE7では全画面表示してもエントリが横に伸びないようになっているのですが、IE6以前ではそれは効かないようです。
それから、フォントは
font-family: Verdana, Arial, sans-serif;
という形で指定していて、わたしの環境ではゴシック体を表示するようになっているのですが、環境が違うと明朝体になっているかもしれません(古いPCのIE5で見たらそうなっていたことがあります)。
ほかに見にくい点などお気づきのことがありましたらご指摘ください。
拾っていただいてありがとうございます。(やっと気づきました……)
Opera 9.5で、快適に見られてます。お手数おかけしました。
どうもどうも。よかったです。
自分はFirefox派でして、Operaはチェック用にしか使ってないのですが、Operaは良いですか? 速いって聞きますが。
おそいマシンだと速く感じますねー。
カスタマイズとかしなくても、メールソフトやRSSリーダとして、ふつうにつかえるので、重宝しております。
2007年07月26日
■ 選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部 コメント応答2
松元まどかさんのコメントへの応答です。
まず、noveltyの議論ですが、私が言いたかったのは、Visual blockでの応答の話ではなくて、action-learning blockの方のmodulationについてでした。Lateral PFCでも、medial PFCでもまったく同一の条件で同様なmodulationがaction-learning blockで起こっているにもかかわらず、visual blockでのnoveltyに対する応答から外挿して、lateral PFCのほうのaction-learning blockの方のmodulationはnoveltyによるもので、medial PFCのほうはnegative feedbackによるものだ、というふうに説明しないといけないということに対してトリッキーだと言ったわけです。
つまり、元々の実験デザインがnegative feedbackとstimulus noveltyとを明示的に分離出来るようなパラダイムになっていないための苦肉の策なのだろうなあと考えたわけです。実際には不可能だけど仮想的な実験条件として、stimulus-novelty block(noveltyはあるが、negative feedbackにならない)ではlateral PFCだけがmodulateされて、action-learning block(negative feedbackになるが、noveltyはない)ではmedial PFCだけmodulateされたらいちばん良いわけでして。もっとも、こういうことは結果が出てみないとわからないものでして(身に覚えあり)、non-human primatesの実験の大変さを反映していると思います。
ひとつ思いつきですが、negative feedbackのほうでなくて、positive feedbackの方はどうなんでしたでしょうか。つまり、positve feedbackはstimulus noveltyでは説明できないので(ぎゃくにfamiliarity effectの強弱みたいな言い方は可能かもしれないけど)、こちらのmodulationがlateral PFCでも見られるのか、それともmedial PFCでのみ見られることか、これがわかるといいかもしれません。もし、後者なのでしたら、secondary reinforcerによるfeedbackはmedial PFCに特異的である証拠のひとつですので、「lateral PFCとmedial PFCとではmodulationの大きさはそんなに変わらないのに」というわたしの違和感をふっとばすことができます。ただ、もし論文に載っていないのでしたら(未発表でしたら)お答えくださる必要はございません。じつはsupplementary dataを全部は読んでおりませんので、もし見逃していたら教えていただきたい、ということです。
「今後、行動データでは分る事の出来ないことを、脳を調べることによって明らかにしていくこと」、これに期待したいと思います。松元健二さんへコメントでも書きましたが、ひとつは動機付けの問題かな、と思いますし、そのへんまで含んだ新しいパラダイムで、たとえばmuscimol injectionとかでmedial PFCの活動がほんとうに行動修正に使われていることを示せたら、これは脳を調べないとわからないことになるのではないかと思います。これからの研究の発展をお祈りしております。
エントリの方はつづきを書くと言ったまま尻切れトンボになってしまいましたが、RushworthのTrends in Cognitive Science 2004を読んできたので、これまでのmedial PFCの機能についての理解をまとめて、今回の論文がそれに対してどういうインパクトを持っているのか、みたいな議論をしようと思っているところでした。このへんについては来週あたりに取りかかりたいと思います。
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- / 投稿日: 2007年07月26日
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2007年07月25日
■ 選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部 コメント応答
松元健二さん、松元まどかさん、コメントどうもありがとうございます。お返事遅れてすみません。夏風邪ひいて先週末は吹っとんで、今週はトレーニングコースで、ってまあ言い訳ですが。まずは松元健二さんのコメントの方から。松元まどかさんのコメントへのレスポンスは明日掲載します。
「仮説実験授業」がここで出てくるところは面白いですね。まだそこまで行くにはジャンプがあるとは思いますが、このストーリーの次のステップをいろいろ思い浮かべてみました。
現在の話はpositive, negativeなfeedbackをどう利用して行動を修正してゆくか、ということに関わると思いますが、教育に繋げると展開させると、この問題はさらにそのような学習をどのようにして動機づけてゆくか、そしてそのメカニズムはなにか、という話になるのがひとつの可能性ではないでしょうか。
数理科学に書かれていた「脳における主体性」松元健二・松元まどか では弁別刺激がオペランド行動を誘発して、それが弁別刺激を二次強化刺激として、オペラント行動を誘発する、というようなカスケードを描いておられました。このようなカスケードが動いてゆくときにも、感情、情動という形で捉えられるような動機づけの側面をも含んだシステムとして捉えられるようになると良いのではないでしょうか。これはおそらくprefrontal cortexをmedial, lateral, ventral (orbitofrontal)と分けてそのinteractionを扱う、という(察するに、当初の)ストーリーになるのではないか、と考えます。ちょっと強引な持っていきかただったでしょうか。
「結果を予想してから、その予想が実際に正しいかどうかを検証する」、この方向をelaborateするというのもいろいろありそうですね。ピアジェみたいに、物理的法則の獲得みたいな話にすれば、発達段階について面白いことが考えられそうですし、他者の行動に対するある種のモデルを作る、となれば「心の理論」ですし。
あといくつかレスポンスいただいたところについて:Ito et al. 2003と比較した上でのノイエスですが、Ito et al. 2003のはあくまでunpredicted free rewardに対して応答があったということで、そのフィードバックを行動の調整には使っていないが、今回の論文では行動の調整に使うような正解のフィードバックに対して応答するのを見た、ということですね。なるほど。
それから、「NEW教育とコンピュータ」の記事、拝見しました。そこでは
「他者との比較で優位に立つための目標(=パフォーマンスゴール)よりも、過去や現在の自分と比較して成長するための目標(=ラーニングゴール)を立てて、能力が高まることに対する喜びを喚起するような指導を行うことが大切だと思います。」
と書かれていましたが、これは重要な側面ですね。しかも、実験的にもアプローチできそうです。どちらかというとまずhuman fMRIで取りかかった方がよいように思いますが、やはり動機付けの科学という方向が面白くなりそうだと思った次第です。
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- / 投稿日: 2007年07月25日
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2007年07月20日
■ 選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部 つづき
前回のエントリに松元健二さんからコメントいただきました。どうもありがとうございます。まずつづきを貼ってしまいます。
Nature Neuroscience 2007 "Medial prefrontal cell activity signaling prediction errors of action values" Madoka Matsumoto, Kenji Matsumoto, Hiroshi Abe and Keiji Tanaka
つづきです。
ファクトのレベルとして正しいものを見ているかどうかという問題では、stimulusのnoveltyではないの?という疑問に答えなければなりません。つまり、visual blockで同じ絵が提示された後にnovelな方の絵(rewardと結びついていない)が提示されたときにのみ大きく反応するニューロンがあるわけですから。これに対しては著者はワンパラグラフとfig.4およびsupplementary noteとかなりの分量を割いて議論しています。要はaction-learning blockでnegative feedbackのときに応答が大きいニューロンを集めてきて、それのvisual blockでの応答を調べて、もしnovelなときに大きな応答を示すようだと、action-learning blockでのmodulationがstimulis noveltyによって説明できてしまうので、action valueのprediction errorのような複雑な概念を持ちだして説明することが出来なくなってしまうのです。
じじつ、lateral PFCのほうはnoveltyによって強く応答してしまいます。Medial PFCはそれほどでもありませんが、population averageにすると多少その傾向はあります。(ちなみにcellをひとつの点としたscatttered plotにするとそのような関係は見られないのだけれど、これはcorrelationが外れ値にものすごく影響を受けるという面もあります。) また、この論文を出す前に同じ課題とデータを用いて、Neuroscience Researchにnoveltyを扱った論文を出してます("Effects of novelty on activity of lateral and medial prefrontal neurons")。こちらはnovelty-familiarityがlateral PFCとmedial PFCとで違う形でコードされているという話で、それはattentionとdecisionという観点からは面白いのですが、この問題がかなりシリアスであることを物語っていると言えます。そのへんを概観した印象では、stimulus noveltyだけではmedial PFCのmodulationは説明できないだろう、というあたりがここはフェアな判断でしょうか。
しかしそれにしても、negative feedbackに対する応答がlateral PFCとmedial PFCとではmodulationとしてそんなに変わらないのに、かたやlateral PFCはstimulus noveltyによるかもしれなくて、かたやmedial PFCはprediction errorだというのはちょっとトリッキーです。
なお、SFN2006ではさらにaction-learning blockで図形が提示する前にだんだん上がってくるactivityについて調べて、top-down attentionによる要素を見ているのだろうと結論づけています(20061101でほんのちょこっと言及)。おそらくこのへんについても引き続き論文として出てくるのだろうと予想しますが、研究会ではこの話も合わせて話が聞けるのではないでしょうか。
もうすこし続きます。
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- / 投稿日: 2007年07月20日
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# 松元まどか
生理研研究会の予習シリーズに取り上げて頂き、ありがとうございます。研究会では、行動学習中のoutcomeに対するニューロン活動の他に、outcomeの前の期間のattentionに関係したニューロン活動についてもお話させて頂く予定です。そして、個体が変化する環境の中で行動を適応させていくときの、前頭連合野の内側部と外側部の役割について考察したいと考えていますので、どうぞ宜しくお願い致します。
プレスリリースで教育への貢献をアピールしましたが、吉田さんのおっしゃる通り、「正解を教えることと、不正解を教えることの両方が大事という」こと自身は、行動データで明らかになることだと思います。今回の結果は、脳の中にそれをサポートするような結果を見つけたということだと思います。今後、行動データでは分る事の出来ないことを、脳を調べることによって明らかにしていくことが、脳科学の教育への貢献であると思いますし、それが期待されているのだと思います。
論文のストーリーとしてsecondary reinforcer を強調せずにmedial PFCの歴史的経緯から始めたのは、medial frontal cortexを研究している人たちの間で、「不正解だけでなく、正解も表現しているのかどうか」、「予測誤差を表現しているのかどうか」という議論があり、その議論に対して、私たちの結果が、何らかの答えを出しているのではないかと感じたからです。しかし、secondary reinforcerの神経細胞活動を報告した論文は、今まであまりありませんし、サルのトレーニングにも1年と長い時間がかかりましたので、secondary reinforcerの神経細胞活動の貴重な論文の一つとしても、認識してもらえると有り難いとも思っています。
Noveltyに関しての議論のところで、“しかしそれにしても、negative feedbackに対する応答がlateral PFC とmedial PFCとではmodulationとしてそんなに変わらないのに・・・”と書かれているところが、私にはそうではないように思われました。実際、medial PFCよりもlateral PFCのnegative feedbackに応答した細胞の方が、刺激のnoveltyに関して、はるかにsensitiveであったと思いますが(fig.4)。しかし、prediction errorとnoveltyは、密接に関係していると思いますので、この2つを分離することは重要であると思います。
コメントどうもありがとうございます。レスポンスを新たにエントリとして作成しましたのでぜひごらんください。
2007年07月19日
■ 選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部
さてそれでは生理研研究会予習シリーズその1。理研BSIの松元まどかさん。
Nature Neuroscience 2007 "Medial prefrontal cell activity signaling prediction errors of action values" Madoka Matsumoto, Kenji Matsumoto, Hiroshi Abe and Keiji Tanaka
理研BSIからプレスリリース(「正解/不正解から学ぶ脳のメカニズムを発見 - 脳科学の教育への応用に新たな手がかり -」)が出てますんで、それを読めばどういう課題をやってどういうデータが出たかはわかります。
まず、記録した場所はmedial prefrontal cortexです。ここは前報のScience 2003 "Neuronal Correlates of Goal-Based Motor Selection in the Prefrontal Cortex" Kenji Matsumoto, Wataru Suzuki, Keiji Tanakaで記録されたところと同じであるようです。Anterior cingulate cortex(ACC)を含む領域でperformance monitoringと関係がある、と言われてきました。このへんの経緯と記録部位とは議論のネタのひとつとなるでしょう。
課題は二段階に分かれていて、まずvisual blockでは二つの図形A,Bのうち、Aだけが提示されて、fixationしていればwater reward (primary reinforcer)がもらえます。これによって、被験者は図形A,Bのどちらが正解であるかを学びます。3 trial成功したらaction-learning blockに移ります。こんどはfixation pointがgo signalになったら、被験者はレバーで左右のどちらかを選ばなければなりません。そのあとで図形Aが左、Bが右に提示されます。もし被験者が左を選んでいたら正解ですが、water rewardは与えられません。つまり、提示された図形Aがsecondary reinforcerとして働きます。このsecondary reinforncerへの応答をmedial frontal cortexから記録したのがこの論文です。
Action-learning blockに入った1trial目では左右どちらが図形Aかはわかりませんので正答率は50%となりますが、それ以降は図形の出る位置は固定されているのでほぼ間違えません。Action-learning blockで正しく3回レバーを押すことが出来たら、つぎのvisual blockに移ります。そのときは強化される図形がrandomizeされているのでまたlearningは一からやり直しです。
さて、それでニューロンの活動の方ですが、Action-learning blockに入った1trial目でエラーした場合(visual blockで提示された図形でない方を選んだ)に活動するニューロンが見つかりました。これはこれまでanterior cingulateがerrorやconflictをモニターしているという説からすると驚きではありません。いっぽうで、Action-learning blockに入った1trial目で正解したときに活動するニューロンも見つかりました。この活動は3回連続して正解してゆく過程でどんどん弱くなっていきます。
よってこのような活動はaction valueのprediction errorをコードしている、というのがこの論文の結論です。この結論を導くために、行動データからaction valueのprediction errorを計算してやって、これとニューロンの活動か相関していることを示しています。
さてさて、プレスリリースでは教育には正解を教えることと不正解を教えることの両方が必要であって、正解したときに褒めるだけではダメだよ、っていう言い方になるんですが、正しいような、でもそれを今回の論文で示したわけではないでしょうと思ったり。(それ自体は行動データで明らかになることであって、そのような誤差情報が脳にあることを見つけたのが今回の論文であって、さらにそのような誤差情報が使われているかどうかはまたべつのstudyが必要。) このへん、研究成果をどうかみ砕いて説明するかという問題なのですが、なかなか難しい。
課題の説明でも書きましたが、もともとこの仕事はneural correlates of secondary reinforcerをみつけることを目的としていた節があります。SFN 2004のabstでのタイトルは"action evaluation by secondary rewards in the medial prefrontal cortex"でした。また、理研年報の2004年(PDF)では研究のまとめとして「前頭前野内側部が一次報酬ばかりでなくそれ以外の感覚フィードバックによって行為を評価する際にも重要な働きをすることが示唆された。」というふうに書いています。こっちの方向性の議論のほうが面白い(論文の方での議論はどちらかというと歴史的経緯との対比から作り上げられた議論と思える)と思うので、このsecondary rewardの意味づけについても議論したいところです。というのもオペラントでやる限りなんらかのrewardとは結びついているわけで、今回の課題のaction-learning blockも、どちらかというとさっさと正解して終わらせないと次のvisual block (被験者にとってはreward blockといった方がよいでしょう)に辿りついてprimary rewardをもらうことができないからやっているわけでして。ま、ここはprimary reinforcerとsecondary reinforcerの定義から入るべきか。そのへんはまたということで。
他の論点としては、それまでのACCがerrorやconflictのmonitoringと考えられていたところで、Science 2003 Ito et alでpositiveな方向の活動もあったというあたりから役割の捉え直しが進んでいるようです。RushworthのTrends in Cognitive Science 2004とか読みましたけど。このへんについてではないでしょうか。
Stimulus noveltyとの関連などについてはまた次回。
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- / 投稿日: 2007年07月19日
- / カテゴリー: [生理研研究会2007「注意と意志決定の脳内メカニズム」]
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# 松元健二
生理研研究会「注意と意志決定」予習シリーズ第1弾に、私たちの論文を取り上げて下さってありがとうございます。つっこみどころは多いかとは思いますが、とりあえず、外堀にあたるプレスリリースに関して。プレスリリースの文章は主に私が書いたので、これについては私から。
まず、プレスリリースは今の日本社会、とくに教育関係者に向けた「応用」メッセージです。そのため、論文に記述した、研究者向けの「基礎」メッセージとは異なった強調の仕方をしております。
ご存じのように今の日本社会では、教育再生は国家的課題で、脳科学の教育への応用も注目されています。巷では思った以上に、褒めるだけの教育が過度に蔓延しているようです。この間違いの指摘は、わざわざ脳科学を持ち出すまでもなく、行動分析学の常識だけで本来十分なわけです(もっとも行動分析学の創始者であるスキナーは、「決して叱ってはいけません」と言っていたようです)が、認知主義全盛の今の時代には、行動分析学自体が古い考えと映ってしまうために、先述の現状があるのだと思います。なので、脳科学による行動分析学のサポートには、意味があると考え、それを間接的に強調した次第です。もちろん神経科学的には、正解のフィードバックに対する細胞応答の方が意義があり、これを学習過程で(Ito et al. 2003では、unpredicted free rewardが使われた)、モデルも援用して詳しく解析したところを論文では強調しています。
それともう一つは、「仮説実験授業」の有効性の支持です。予測誤差が前頭前野内側部の神経細胞でコードされているという所見は、「結果を予想してから、その予想が実際に正しいかどうかを検証するという「仮説実験授業」の基本手続きと非常に相性がいいです。「仮説実験授業」自体は、50年近くもの歴史があり、教育学の分野でこそ広がってはいますが、それ以外にはあまり認知されていないように思われます。そこでプレスリリースでは、間接的に「仮説実験授業」の有効性を強調することを試みました。
ちなみに、「NEW教育とコンピュータ」(7月号)という学研の教育者向け雑誌のインタビュー記事では、「仮説実験授業」への支持を直接に表明しましたので、機会がございましたら、ご一読頂ければ幸いです。なお、上のような方向性のメッセージを社会に発信するにあたっては、東工大・学振PDの村山航さんのご意見を大きく参考に致しましたことも、この場で触れて、謝意を表しておきたいと思います。
コメントどうもありがとうございます。この「仮説実験授業」がここで出てくるところは面白いですね。遅くなりましたがレスポンスを作成しました。長くなリましたので新たにエントリを作成しました。ぜひそちらをごらんください。
2007年07月17日
■ [告知] 岡崎の生理学研究所で研究会をやります
今年の10月11-12日に生理学研究所で研究会が開催されます。タイトルは「認知神経科学の先端 注意と意志決定の脳内メカニズム」です。注意と意志決定についてさまざまな研究アプローチ(電気生理、機能イメージング、心理物理、神経心理、計算論モデルなど)で第一線で研究されている先生方をお招きして研究成果を発表していただきます。議論の時間を多めにとって、より深い議論が出来ることを目指しております。ぜひ多くの方の参加をお待ちしております。
参加は無料ですが、申し込みをしてください。手続きや連絡先については生理研研究会のサイトにありますPDFファイルをごらんください。それから、同時にポスターセッションも行います。申し込みについてはおなじくPDFファイルをごらんください。スペースの都合上、申込者多数のときは事務局側の判断で発表演題数を調整させていただく場合もあります。予めご了承ください。
参加講演者と演題は以下の通りです。
-
「注意のトップダウン制御原理 - 次元加重、課題構え、探索モード」
熊田 孝恒(産業技術総合研究所) -
「脳損傷患者における注意と意思決定」
鈴木 匡子(山形大学大学院医学系研究科) -
「ヒトにおける金銭的価値の脳内表現 - 機能的MRIによる神経経済学的研究」
筒井 健一郎(東北大学大学院生命科学研究科) -
「情動に基づく意思決定のための大脳基底核関連回路」
中原 裕之(理化学研究所 BSI) -
「社会的状況における意思決定のメカニズム」
春野 雅彦(国際電気通信基礎技術研究所) -
「行動価値予測の誤差とリスク - 行動適応における前頭前野内側部の役割」
松元 まどか(理化学研究所 BSI) -
「意思決定の適当さ」
渡邊 克巳(東京大学 先端研) -
「注意が行動決定に変わるとき - 変換場としての頭頂連合野機能」
小川 正(京都大学大学院医学研究科)
ここまでが告知パート。以上については研究会開催までしばらく一番上に貼っておきます。以下はもっとパーソナルに。
今年が第一回となる研究会ですが、昨年くらいから京大河野研の小川さんと立ち上げを進めてまいりました。このブログ自体はわたしの個人的なサイトであってなんらオフィシャルなものではありませんが、うまく活用していきたいと思っています。
学会でも研究会でも、質問時間が短いと、事実確認(ここの実験条件はどうしてますか? こういうコントロールは取りましたか?)みたいなのに終始して深い議論まで届かないということになりがちです。そこで研究会としては議論の時間を多く取るようにスケジュールを組む方針です(そういうわけでまる一日で講演者8人です)。さてそれではこのブログでそれになにか貢献できないか、というわけで、論文コメントサイトとしての機能を使ってみましょう。つまり、講演者の論文をこのブログで採りあげて、ポイントなどを押さえて予習しよう、というわけです。すくなくともわたしの予習にはなるし、論点などが作れればそれが本番で議論するネタとなるでしょう。また、参加者の方への宣伝にもなり、ここで予習していけば議論もフォローしやすくなるかも、というわけです。
これまではあまり国内の研究者の方の論文にコメントしてこなかったのですが、研究会に合わせてちょっと方針転換です。ま、pooneilブログ・セカンド・シーズンということで。講演者の方はここでコメントしていただいてもけっこうですし、神経科学者SNSに作成したコミュニティ「生理研研究会 注意と意志決定の脳内メカニズム」のほうでコメントしてくださってもけっこうですし、スルーでもけっこうです。こちらのブログはあくまでわたしがパーソナルに行っていることですので、コメントなどもあくまで自発的なものとして行っていただければ幸いです。
さてさて、それでは最初にとりあげるのは、理研の松元まどかさんのNature Neuroscience 2007 "Medial prefrontal cell activity signaling prediction errors of action values" Madoka Matsumoto, Kenji Matsumoto, Hiroshi Abe and Keiji Tanakaから。4月にpublishしたときにエントリを作成していたのですが、研究会告知のタイミングと合わせて寝かしておりました。それではまた明日。
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- / 投稿日: 2007年07月17日
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