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■ 意志決定の曖昧さ3: 前回の落ち穂拾い

前回のエントリから洩れたあたりを落ち穂拾いで。

追加1:ニスベットとウィルソン1977のティモシー・ウィルソンは現在バージニア大学の教授となっていて、2002年にHarvard University Pressから"Strangers to ourselves"という一般向けの書物を書いています。これが自分を知り、自分を変える―適応的無意識の心理学 ティモシー ウィルソンとして翻訳されています。タイトルはセルプヘルプ系ですけど、なかなか良いです。そこでは適応的無意識(adaptive unconscious)と意識的自己というキーワードを導入して、上述のニスベットとウィルソン1977の言明の改訂版を作っています。「人間の判断、情動、思考、行動の多くは、適応的無意識によって生じる。人は適応的無意識に対して意識的にアクセスすることができないので(中略)意識的自己が反応の理由を作り出す。」

追加2:われわれが意識できるのは認知の過程(process)ではなく、内容(content)である、ということは知覚、運動まで広げて一般性を問う意義のあるthesisです。知覚においてはこの帰結は明確です。われわれはbinocular rivalryの切り替わりの過程を意識することはなく、ただその結果として生まれたcontentを受容するだけというわけです。(というかcontentという言葉自体が「意識のcontent」というふうに意識を想定しているわけですが。) 以前のbinocular rivalryのエントリ(20070710)を思い出していただきたいのですが、V2, V4のニューロンは「見えている」と報告している図形に選択的に活動しているものと、「見えている」と報告している図形でないほうに選択的に活動しているものとが半々くらいでした。それがITになると、ほぼ100%で「見えている」と報告している図形に選択的に活動していました。よって著者は、V2/V4はsegmentation/groupingの過程で、ITはそのstageを越えたものがrepresentされていると言ってたわけですが、ようするにこれがawarenessのcontentはITにあって、V2/V4にあるようなselectionのprocessについてはわれわれはawareしてない、と考えるところまでは行けるのではないかと思います。

あと、我々は運動のコマンドを意識しているかというとたぶんしてない。あくまでその結果をproprioceptiveに、さらに視覚などによってフィードバックを受けるだけということなのでしょう。だからJeannerodとかがやるような、さまざまな運動調節が意識の外で行われているという話になるのです。(neuropsychologia 1998 "Limited conscious monitoring of motor performance in normal subjects" )

追加3:下條先生が「サブリミナル・マインド」にある内容の講義を教養過程でされていてた頃に私は駒場にいました。面白いらしいという評判を聞いて第一回の授業に行ってみたら、教室がものすごい混雑しててすっかり萎えてその授業を取るのはやめたというボンクラ逸話があります。あそこで授業を取ってたら「人生変わ」ってたかもしんない。ま、そんな回り道をいろいろしてます。

追加4:そういえば「意識の科学は可能か」新曜社の「知覚から見た意識」で、下條先生は「知覚研究は主観的経験の研究であった」ことの例として残効の実験を挙げて、心理学は「網膜像に明示的に与えられている情報以上のものを見る、知覚の特性」に関心を持ってきたことを強調していました。認知の世界にかんしては今回書いたとおりですが、知覚の世界ではそれが当たり前だったというわけです。

追加5:以前Nature Neuroscience - 10, 257 - 261 (2007) "Post-decision wagering objectively measures awareness" Navindra Persaud, Peter McLeod and Alan Coweyというのを読んだことがあります。Awarenessの客観的な指標として「意志決定後にどのくらい自信があるかお金をかけてもらう」というものを提唱していて、これが言語による報告や信頼度の評定とかよりも優れている、という話で、どういうことなんだかわからなかったんだけど、こうやって社会心理学について概観してからのことを見直してみると、これも社会心理学的なものとして読めばいいのかなと思いました。

だんだん話が拡散してきたのでこのへんで。


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