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■ Binocular rivalryおよびgeneralized flash suppression その2

つづき。長いです。タグは「あとで読む」推奨ということで。論文を時系列順で追っていきます。いちばんよく知られているのはITニューロンの結果だと思うのですが、それは一番最後(PNAS 1997)なのです。ちなみにcatだとFJ Varelaが1987年の段階でExp Brain Res.にbinocular rivalry中のLGNニューロンの記録とか出してます(1987;66(1):10-20. "Neuronal dynamics in the visual corticothalamic pathway revealed through binocular rivalry." Varela FJ, Singer W.)。さてさて。


Science, 245, 761-763 (1989) "Neuronal correlates of subjective visual perception" NK Logothetis and JD Schall。

いちばんはじめに発表された実験はMTからの記録によるものでした。左右別々の目に上下それぞれの向きのmoving gratingを提示して、上向きと感じたら右へサッケード、下向きと感じたら左へサッケードさせるという、当時としては洗練された報告の仕方です。それから、fixation pointがない条件だとOKRが起こるので、perceptにしたがって目の位置がドリフトするのでそれを行動の指標とすることも可能です。 Non-rivalrousな刺激条件(片眼にのみ刺激を提示していて、rivalryは起こらない)に答えさせるトレーニングが完了したところで(こちらは正しい応答だけがrewardで強化されている)、半分のtrialではrivalrousな条件(別々の目にべつの向きのgrating)としてやって(こちらはどっちにサッケードしてもrewardがもらえる)、non-rivalrous条件からの般化を見てやろうというわけです。

実験の結果としては、22%のニューロンでperceptの報告にしたがってニューロンの発火が変わるものが見つかったのだけれど、そのうちの半分はpreferredな方向を報告したときに発火が上がるけど、残り半分は逆に発火が下がります。ここはポイント。まず前者は"neural correlate of subjective visual perception"と言えるかもしれない。しかし後者のような逆向きニューロンがあるということはこの場所はawarenessとして現れるcontentをrepresentしているというよりは、suppressionのprocess自体に関わると考えたほうが自然です。この論文自体ではそういう言い方はしてませんが、のちにITニューロンの結果まで出てきたところではそういう言い方がなされます。


Nature, 379, 549-553. (1996) "Activity changes in early visual cortex reflect monkeys' percepts during binocular rivalry." Leopold, D.A., Logothetis, N.K.

同様の実験をstatic oriented gratingで行って、V1/V2およびV4から記録したというものです。Science 1989と比べると、(1) 行動データが加わった点、それから(2) perceptual alterationでの発火の切り替わりのデータを示したところが進歩しています。

(1) 行動データとしては、ほんとうにnon-human primatesがbinoclar rivalryでのperceptを忠実に報告しているかどうか保証が必要です。このため、rivalryのときのそれぞれのperceptでのstay timeの分布を取ってやって、これがhuman psychophysicの結果と同様、gamma functionでfitting出来ていることを示しています。また、片方の刺激のコントラストを下げるともう片方の刺激が見えている時間のほうが長くなりますが、これも再現できています。よって、rivalrous条件のときのrever pressはデタラメに行われているわけではない、ということが示せました。行動についてはこれ以上のことをやるのはなかなか難しそうだけれど。

(2) 電気生理のデータのまとめですが、Science 1989ではrivalrous刺激が提示されたときの最初のperceptを報告させるものでした。しかしbinocular rivalryの面白いところはずっと見ていると1-2秒間隔くらいでperceptが入れ替わるところですので、この入れ替わりに関連した神経活動を見るのに成功したのがこのNature 1996のいちばん強いところです。このため、課題は25secくらいまでの刺激シークエンス(non-rivalrous刺激の切り替えを答える)の中にrivalous条件を少量入れてやって(4-12secまで)、そのときの報告を集めてやって、左のレバーから右のレバーへ切り替わるところ、それから逆でもってニューロン発火を平均してやるのです。すると、レバーによる報告に先立ってレバー切り替えの500ms前くらいにピークがあるような活動があるのが見つかりました。こいつがperceptual reportを反映しているというわけです。今回の場合もV4では逆向きの活動つまりnon-rivalrousな刺激でのpreferenceとrivalrousな刺激での条件が反転しているものが見つかりました。


PNAS, 94, 3408-3413 (1997) "The role of temporal cortical areas in perceptual organization." D. L. Sheinberg and N. K. Logothetis

んで、ニューロン活動のmodulationとしてはいちばんstrikingなのがITニューロンでの記録についてまとめたこの論文です。日経サイエンスとかレビューとかに出てくるようなデータはだいたいこの論文からです。やってることじたいはNature 1996と比べてそんなに新しくありません。Leverの報告でalignしたときの活動変化の図もありません。

メインの実験結果は、80%以上のニューロンでmodulationがみられるというもので、それまでのV1/V2/V4/MTとはかなり違います。また、V4, MTで見られたようなrivalrousとnonrivalrousとでpreferenceが反転しているようなニューロンがなかったという点も特筆すべきでしょう。ゆえに著者は"These areas thus appear to represent a stage of processing beyond the resolution of ambiguities---and thus beyond the processes of perceptual grouping and image segmentation---where neural activity reflects the brain's internal view of object"と結論づけています。ここでいう"a stage of processing beyond the resolution of ambiguities"っていうのがV4やMTで見られたような極性が反転しているニューロンがある領野と今回のIT野とのコントラストを強調した表現でしょう。

あと、この論文では一工夫してあって、図形A(preferred)と図形B(non-preferred)のほかに図形AとBのブレンドというのをnon-rivalrous conditionでは見せていて、このときはどちらのレバーも引かないようにさせています。これは重要。これがcatch trialの役目を果たして、forced choice taskとして答えさせないようにしてあるのですね。この論文でこれがどのくらい有効かが明確に示されているわけではないのだけれど。Binocular rivalryを経験してみるとわかるのですが、切り替わりはall-or-noneではなくて、ゆっくりと変わってゆきます。その間をどう答えさせるかというのが難問です。Nature 1996で出したようなレバーでトリガーして平均発火、というやつもそのperceptが見えてからどのくらいでレバーを引くかというのが自明でない以上、なかなかデータがきれいになりません。これはbinocular rivalryとflash suppressionの利点難点の議論に関わることになります。

それから、この論文でははじめてattentionとの問題が議論されます。Desimoneの論文とLogothetisの論文はどちらも1980年代でして、その当時ではどちらの説明がよりparsimoniousであるかということはもしかしたらそんなに意識されていなかったのかもしれません。しかし1990年代にはattentionで説明できるものはawarenessで説明できてもダメというコンセンサスは出来ていたといます。んでディスカッションの最後のパラグラフですが、

"Our view is that the phenomenon of binocular rivalry is also a form of visual selection, but that this selection occurs between competing visual patterns even in the absence of explicit instructions to attend to one stimulus or the other. ... Decades of research have failed to reliably demonstrate that the perceptual alternations experienced during rivalry are under the direct control of voluntary attention. ... As such, we believe that rivalry accentuates the selective processing that underlies basic perceptual processes including image segmentation, perceptual grouping, and surface completion."

つまり、なんらかの刺激に依存したselectionの過程であることは認めつつも、voluntary controlの使えるようなtop-down attentionの関わる過程ではないことを明言し、もっと刺激の分析に関わるようなselectionの過程である、と主張しているわけです。

Top-down attentionとconfoundしてしまうのはこの種の実験では致命的なわけですが、はたして他の種類のattentionとの関わりはどうでしょうか。Binocular rivalryでもその揺らぎ自体はarousalやsustained attentionのような要素を考えた方がよいでしょう。Backward maskingなどのnear-threshold conditionでのtrialごとのばらつきでも同様です。ですのでわたしの理解としては、タスク中のinstructionなどの操作によってawareness, visibilityがmanipulateされるとしたらそれはtop-down attentionとconfoundしていると言われても仕方ないけれども、trial中およびtrial間でのゆらぎのような成分はそれらをもとにした結果awarenessがmodulateされると言って問題がないのではないかと考えています。

さてさて、そうしたらbottom-up attentionとの関わりはどうでしょうか。Flash suppressionはbottom-up attentionとの関わりを無しに考えることは出来ません。これについては次回考えてみましょう。

なお、ここでいうattentionとawarenessとは事象のレベルとしては同じものではありません。たとえばselective attentionによってawarenessがmodulateされるということは言えるけれども、awarenessによってattentionがmodulateされるとは言えないことなどからもわかると思います。つまりattentionという認知科学的な概念が課題の条件によって操作されて、その結果は反応潜時だったり、visibilityのスコア(=awareness)だったりという形で行動として出てくる、ここで使っているawarenessはそうして計測される行動のレベルにある、というわけです。(Consciousnessからawarenessに移った段階でその種のeasy problemをあつかっているのです。) と書いてみたものの、このへんは専門家に意見を聞いてみたいものです。その議題は研究会へも持ちこんでみたり(この件はまた別でアナウンスします)。

なお、この論文の中ではじめてflash suppressionの結果が出来てきますが、それは次回。


なげーなげー。つづきます。この文章だけ読んでもほとんど話がわからないので原文を参照していただいたほうが。


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