■ 書籍「行為する意識: エナクティヴィズム入門」の紹介動画をYoutubeに掲載しました
書籍「行為する意識: エナクティヴィズム入門」はいよいよ5/26に発売です。ぜひ予約して買ってください。
青土社の書籍ページで目次が公開されています。
書籍のサポートページを作成しております。そちらに随時情報を追加してゆきます。
本書は2020年11月から執筆を開始しましたが、2022年に半分書き上げたところで2年間中断してました。2024年12月より残りを書き上げて、初校ができたのが2025年2月13日。でもそこから1章分追加して、ギリギリまで粘って、5月1日に校了となりました。マヂたいへんだった。全348ページ。まもなく印刷された見本が上がってくる予定。
書籍「行為する意識: エナクティヴィズム入門」の紹介動画をYoutubeに掲載しました。こちらから:
この本がどういう本なのか、その見どころを説明することを目的に、8分弱でまとめたものです。この本を買うかどうか判断する材料に使っていただければ。
(動画の中では、この本の問題意識と結論は提示してますが、じゅうぶん納得行く説明を与えるには、時間が足りない。)
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- / 投稿日: 2025年05月11日
- / カテゴリー: [オートポイエーシス、神経現象学、エナクティヴィズム]
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■ 「スローカーブ、LA、タイミー文学」(さうして、このごろ2024年4月前半)
(20240402) Youtubeで「プロ野球選手のスローカーブがすごい」的な映像を見るといつも思うのだけど、スローカーブの映像だけ集めてこられても伝わんないんだよな。あくまでもストレートとの落差がキモなわけじゃん? だからまずストレートの映像を流して、そのあと同じ投球フォームでこのスローカーブ、打てないですよね、ってそういう映像作りをすべきじゃん? (<-やり場のない、どうでもよい気持ち)
DeepLのことは愛しているのだけど、別々のPCで使うたびにログインしなければならないのが面倒。Googleとかに紐づけで自動ログインしておいて、同時使用だけ出来ないように監視しておけばいいのに。
なお、DeepL Pro Starterアカウントを使用してる。アップグレードすればSSO機能はあるが、これってあくまでもチーム用であって、個人使用を想定してないよな。
Youtube musicのprimal screamのところにはファーストアルバム("Sonic Flower Groove")以降はあるのだけど、それ以前のEPは入ってない。しかたないと思っていたが、この"Reverberations (Travelling In Time)"という謎なBBC Radio 1 Session集の最後におまけみたいに"Crystal Crescent EP"が収録されてた。なんだこれ。
自分はScreamadelicaから入って、Sonic Flower Grooveに遡って、ジム・ビーティを追ってSpirea Xとか買った。
Blueskyのフォロワーのうち、しばらく活動してない人(>1mo)をアンフォローしてみたら、フォロワーが10人以下になった。Bluesky続けている人って少ないんだな。まあ、これまで通り、壁に向かって話することにする。
ひとつ気づいたのが、フォローしていたイラストレーターが軒並み一ヶ月前くらいに更新を止めてる。一般公開(2/7)からしばらく試してみたけど止めた、ってかんじだろうか。
自分はなんどかLAに行って、バス、電車は避けたほうがよいことと思ったので、2010年にLAに3ヶ月滞在したときは自転車を買って、どこでもそれで行っていた。それもどうかというツッコミはあるが、そしたら大学構内で駐輪したときに、自転車の車輪を盗まれた。ブログでの記録
滞在時はドジャーススタジアムは行かなかった。もし自転車盗まれたら、帰ってくるのがたいへんだから。とはいえチャイナタウンまでは何度か自転車で食事とか行ってたんだけど。
ブコメの中でいちばん良いこと言ってたのは「治安への警戒と差別って普通に紙一重」というもの。わかる。
Advantage LucyのMetroのコードを拾ってみた。
カポ4
イントロからサビまでずっとこれ
|Am7/E |Am7/E Bm7/F#|CM7/G |% |
ブリッジ
|F |% |Eb |Db B|CM7 |% |
Am7-Bm7-CM7 かと思ったら、ずっとベースはコードの5thを鳴らしているというものだった。
東大1000円バーガーのニュースを見て思い出したので、東大生の親の年収の話、ちゃんとソースにあたってみた。
「学生生活実態調査」の2021年版報告書のp.83 で1050万円以上は全体の30.7%なんだけど、不明が24%あるので、30.7/(100-24)=40.3%というのがよく使われる「40%以上」の根拠。
ついでに北大についても調べた。2022年版報告書(p.4)だと1000万円以上は全体の29.8%なんだけど、こちらは「不明」の回答が無い。
「成果主義にしたら評価に繋がらない仕事を誰もやらなくなった」。ここで「評価に繋がらない仕事をちゃんと評価できるようにしましょう」と言うのは簡単だが、それは仕事が「暗黙知」の塊であることを理解できてない。しかも、暗黙知の部分こそがイノベーションの源であるので問題は深刻だ。
つまり、野中郁次郎のSECIモデルにおいては、形式知と暗黙知との間でサイクルが回る。形式知が身体的に身につく形で習熟される段階で、必ずや暗黙知が生まれる。このような暗黙知こそがイノベーションの生まれる場所であり、それを拾い上げて形式知にしてゆこうというのが野中郁次郎のSECIモデル。
しかし、ポラニーの暗黙知論から言えば、このようなサイクルが回るというのは例外的であって、ほとんどは暗黙知として身体的に回ると考えたほうが良いと思う。
先日の「タイミー文学」で「マニュアルの余白で繰り広げられる権力闘争」という表現があったが、これじつは暗黙知からイノベーションが生まれる場所だったんだと思う。
つまり、夜勤のパートが好アイデアを出しているのだけど、それを昼勤の社員が捕捉できてない。そんな断絶に引き裂かれたところにこの文章の筆者が位置していて、その筆者からは「権力闘争」として受け止めることしか出来ない。
XTCのライブ映像をYoutubeでいくつか観た。どれもAndy Partridgeのボーカル曲とColin Mouldingのボーカル曲が交互に演奏されていて、ふたりのパワーバランスが垣間見れて面白い。
この時期は(1982年のEnglish Settlement以降ライブ活動を休止するまで)、むしろコリンの曲のほうがシングルヒットしてた("Life Begins at the Hop", "Making Plans for Nigel", "Generals and Majors", "Love at First Sight")ので納得がいく。(アルバムの提供曲数は8:2くらいなのに)
The Chemical Brothers の Saturate みたいに、サビのリード楽器がドラムのやつ好きなんで、他にないかなと思っていたが、Primal Scream の Higher Than the Sun ってそう捉えるべきだと思った。ボビー・ギレスピーが歌っているところよりも、そのあとのダビーなドラムが始まるところがサビでしょ。
ついでながら「"Saturate"は"The Private Psychedelic Reel"の焼き直し」というコメントを見て、なるほどこれも該当すると思った。
「推しの子」でツクヨミが八咫烏だと判明という展開が来た。自分も「Air」を想い起こしたよ。それにしても「ツクヨミが八咫烏だと判明」というのは字面が面白すぎる。(ここでのツクヨミはあくまでも不思議子どもの固有名詞がツクヨミということ)
当時「Air」の展開には唖然とした。(主人公がふたたび人に戻る展開を予想していたので)
でも今から振り返れば、あそこで男を滅する展開というのは、きらら漫画やラブライブなどの男がいない世界を先取りしたんではないだろうか。
あの時点では、無力感と自己嫌悪と贖罪意識の塊のような、強烈な異物を投げ込まれたように感じた。
(インタビューで麻枝准は意図して泣きゲーを作っていると明言するのだけど、実のところウェルメイドな物語を作る人ではなくて、異様な夾雑物を持ち込むところが本領だと思う。アニメは共同制作なのでそういう異物を入れる余地がない。ヘブバンはやってないので不明。)
自分は、きらら漫画が大人気になり始めた初期の、ゆるい日常漫画にはぜんぜん惹かれなかった。(「けいおん」、「Aチャンネル」、あのあたり) 「ひだまりスケッチ」も読めるようになるまでだいぶ時間がかかった。
転機は「幸腹グラフィティ」だろうか。形式は4コマ漫画なのにものすごく緻密な書き込みで感情の機微を表現する作品群が出てきて、それらを好んで読むようになった。「ごちうさ」「まちカドまぞく」「星屑テレパス」このあたり。どうやら自分はきらら漫画に「ゆるさ」とかは求めてないようだ。
■ なぜ私はサイケとカンタベリーが好きなのか
(20240413) YoutubeのおすすめでSoft machineの"Soft space" (1978年ライブ)が出てきたので聴いてみたら、ドナ・サマーの"I Feel Love"のパクリみたいなテクノ/ディスコで驚いた。自分は「Soft machineは"Third"まで派」なので。サイケデリックな時代のロバート・ワイアットの歌が好き。
そういえば自分はフュージョン音楽を全く聴かないことに気づいた。「ブルデュー読んで自分語り」の視点からすれば、80年代のキラキラした文化で好んで聴かれていた音楽全般へのうっすらとした敵意があるようだ。
ちょっとググってみたら「J-POPのような質の悪い音楽ばかり聴く若者がかわいそう。フュージョンのような上質な音楽を聴くべき」みたいな言説をみて怒りが湧いてきた。そうそう、こういうこと言うやつが嫌いだったんだよな。
プログレが1970年代後半にだんだんテクニック至上になってシンフォニックな方向に向かったものには興味がなかった。そちら側の立場からカンタベリー・ロックを「素人・下手くそ」みたいに嘲る批評が大嫌いだった。自分はSoft machineの初期とかGongみたいな素人臭くDIYな音楽が好きなので。
そしてそれは思っていた以上に、私が私であるために重要な要素であるようだ。
サイケデリック・ロックってのはまさにこの「素人臭くDIYな音楽」の最たるものであって、LSD経験を音楽で表現するために、フォーク、ブルーグラス、R&Bなどのバンド(ジェファソン・エアプレイン、グレイトフル・デッド、13thフロア)があれこれ試行錯誤して(*)、まだ名前のついてない音楽を作り出したことが尊く価値があるのだと思う。ゆえにそれは一過性の音楽だ。(とはいえ新しい世代がそれを再発見してDIYすること自体は尊い。)
(*以前ブロクで書いた: 「サイケデリック・ミュージック成立における1966年から1967年」)
とここまで書いてから「素人臭くDIYな音楽」という字面を見れば、すぐに連想されるのはガレージであり、パンクだ。自分はガレージもパンクもそんなに聴かない。「初期衝動」を聴きたいってわけでもないんだよな。自分は。
このように考えてみると、自分はかなり物語込みで音楽を聞いているのだろうと思う。
そうでなければ、「上質な音楽」であるはずのフュージョン音楽とかハイテクニックなプログレとか現在の高度に発達したジャズとか、さらにいうならばJ-POPなんかではカバーしきれないくらいの音(旋律、ハーモニー)の多様さがあるクラシック音楽を聴くべきだからな。 でもそういうもんじゃあ、ないんだ。
■ 本が出版されます。「行為する意識: エナクティヴィズム入門」
告知です。
神経生理学者のわたし吉田正俊が、現象学者の田口茂さんと共著で本を書きました。タイトルは「行為する意識: エナクティヴィズム入門」です。青土社から5月下旬に出版の予定です。
わたし吉田正俊は神経生理学者として意識、注意、眼球運動などについて研究してきましたが、並行して「意識を解明するとはどういうことか」について問いながら、このブログ上でも活動してきました。
いっぽうで田口茂さんはフッサール現象学の研究者として「現象学という思考」などの著書のある方ですが、近年は意識や自己の問題について学際的な共同研究を進めておられ、西郷甲矢人さんとの共著「〈現実〉とは何か ──数学・哲学から始まる世界像の転換」という非常に重要な本を書いてます。
こういったバックグラウンドを持った二人が邂逅して、意識とは何かという問題について共同研究を始めた最初の成果が日本神経回路学会誌の解説論文、吉田+田口(2018)「自由エネルギー原理と視覚的意識」でした。
そのあとで北海道大学人間知・脳・AI研究教育センターが発足し、田口さんはそちらのセンター長となり、吉田はそちらの専任教員として着任することで同僚となったのでした。
この本がどういう本か、どういう狙いを持ったものか、そういうことについていろいろ熱く語りたいのだけど、まず今回は出版についての第一報ということでこのくらいで。(まだゲラの直し中なもんで。)
この本についてのサポートページを作成しました: 吉田正俊+田口茂「行為する意識: エナクティヴィズム入門」青土社 サポートページ こちらにおいおい資料を追加してゆきます。
今回の書籍では、幅広い層に読んでもらえるように、数式を入れないというルールを自分に課しました。青土社からの出版なので、おそらく「哲学・思想」の棚に並ぶだろうと予想したもんで。とはいえ、現在数多くある「意識本」と比較して読んでほしい。そういうわけで、「医学、脳・神経科学」の棚にも並ぶとより良いのだけど、さてどうなるか。
数式を入れないという判断をしたことで後になって困ったのは、「脳は力学系である」という主張を理解してもらうためには、微分方程式は避けて通れないということです。そういうわけで、補足資料の第一弾として「神経活動の力学系的モデルの初歩」のブログエントリーを前回作成しました。「数式がある方がわかる」という人にはこういう説明のほうがわかるはず。(短い記事だけで力学系を説明するのは無理なので、あくまでも本書を理解する際に下敷きとなっている理論的背景を、なるたけごまかさずに書くとこうなる、というのが記事の意図。)
今後は「アシュビーのホメオスタットの挙動のモデル」や「メトロノームの同期を蔵本モデルでシミュレーション」とかについて追加する予定。
目次や概要のような情報についてもおいおいこのブログ(およびサポートページサポートページ)に追記してゆくことにします。
ぜひご期待ください。
■ 神経活動の力学系的モデルの初歩
神経ネットワークは力学系であり、安定な状態の間を遷移するようなものだ。それを構成する素子である神経細胞も力学系で記述される。神経生理学者として神経細胞の活動は散々見てきたけど、自分でコードを書いてシミュレーションしたことはなかった。(いっときBrianをいじっていたことはあるが。)そういうわけで、Izhikevichの本を参考にして、Matlabのコードを動かして、図を書いてみた。
Izhikevich, E.M. (2007) Dynamical Systems in Neuroscience. MIT Press, Cambridge. https://doi.org/10.7551/mitpress/2526.001.0001
Matlabのコードは吉田のgithubに置いてある。
disclaimer: 式やコードの作成ではGemini 2.0の助けを借りたが、自分の目で確認を取ってある。
[モデルの選択]
まず図Aにあるように、じっさいの神経活動は、シナプス電位の操作Iと膜を透過するイオンによる電流 $I_{Na}$ および $I_{K}$ によってできる膜電位Vが本体だ。膜電位Vの波形にある活動電位の数を時間あたりのrateとして計算したのが発火頻度Rだ。
DNNで使われるマカロウ・ピッツの形式ニューロン(図B)では、それを入力Iから出力Rを得る非線形な関数fという形で表現する。
このような簡略化をせず、膜電位Vの時間変動を記述するのが、ホジキン、ハックスレーのモデルだ。それは4つの微分方程式から成り立っている。
これの挙動を扱う大変なので、簡略化が試みられてきた。まずフィッツフュー-南雲モデル(FitzHugh-Nagumo model)では膜電位Vと回復変数Wの二変数の微分方程式を作る。これは回復変数Wの生理学的な意味がわかりにくいので、ここではスキップ。
Izhikevichのsimple modelは膜電位vと回復変数uの二変数の微分方程式を作る。これはじっさいの神経活動の挙動をうまく再現してくれるメリットがある。ただし、単純な微分方程式ではなく、if文的な条件分岐が起こるので、phase plotでの説明には向いてない。
そういうわけで、Izhikevich (2007)の第4章 "Two-Dimensional Systems"で採用されている、ホジキン、ハックスレーのモデルを簡略化して2変数化したモデル(Morris and Lecar 1981)をここでは用いる。それで作ったのが図Cだ。
[スパイキングニューロンモデル (INa,p + IK モデル) の式]
このモデル(INa,p + IKモデル)は、持続性ナトリウム電流 (persistent sodium current, INa,p) と遅延整流カリウム電流 (delayed-rectifier potassium current, IK) を持つニューロンの活動を記述する(Izhikevich (2007) 第4章)。
モデルは、膜電位 ($V$) とカリウムチャネルの活性化変数 ($n$) の2つの変数で記述される。図では簡単のため、$n$ の代わりに $I_{K}$ と表示してある。
$$ \begin{aligned} \frac{dV}{dt} &= f(V, n, I) &\qquad(1')\\ \frac{dn}{dt} &= g(V, n) &\qquad(2')\\ \end{aligned} $$2つの方程式はそれぞれお互いに依存している。入力電流 $I$ はシナプス電流を模したものを表す。この式のとおり、$I$ は$V$ の挙動だけに直接影響を与え、$n$ には直接影響しない。(間接的には、$V$の変動によって影響を与える)
それぞれのパラメーターを明示すると以下の4式になる。はじめの二つが微分方程式で、うしろの二つはそれに影響を与える$V$依存の変数。
$$ \begin{aligned} C \frac{dV}{dt} &= I - g_l(V - E_L) - g_{Na} \cdot m_{\infty}(V) \cdot (V - E_{Na}) - g_K \cdot n \cdot (V - E_K) &\qquad(1)\\ \frac{dn}{dt} &= \frac{n_{\infty}(V) - n}{\tau} &\qquad(2)\\ m_{\infty}(V) &= \frac{1}{1 + \exp{\left(\frac{V_{12m} - V}{k_m}\right)}} &\qquad(3)\\ n_{\infty}(V) &= \frac{1}{1 + \exp{\left(\frac{V_{12n} - V}{k_n}\right)}} &\qquad(4) \end{aligned} $$パラメーターの意味やシミュレーションでのパラメーターの値は、matlabのコードを参照。
[Vector fieldの描画]
まずはvector fieldを描画する。式(1)と式(2)それぞれからV, nそれぞれについての時間微分をquiver plotで表記したのが図2の(A)と(B)。
図2AではV(横方向)の傾きの大きさが矢印で表示されている。$dV/dt = 0$ となる点を繋いだV-nullclineが赤点線で重ねてある。(右上の灰色の矢印はそのまま描画すると大きすぎるので、40%に縮小してある。以下の図でも同じ。)
図2Bではn(縦方向)の傾きの大きさが矢印で表示されている。$dn/dt = 0$ となる点を繋いだn-nullclineが青点線で表記してある。
図2AとBを見ただけでこのvector fieldのだいたいの様子がわかる。たとえば(A)では-80mVあたりと10mVくらいに安定な場所があることがわかる。(B)を見ると、Vが-50mVより高いとき、nが大きくなる(=Kイオンが排出される)、Vが-50mVより低いとき、nが小さくなる(=Kイオンの排出が止まる)、という調節がなされていることがわかる。
図2CではV(横方向)の傾きの大きさとn(縦方向)の傾きの大きさを合わせたベクトルが矢印で表示されている。V-nullclineとn-nullclineが交差する場所が緑丸で、ここが安定点になっている。
図2Cは全体的に反時計回りの流れがあることがわかる。黒線はリミットサイクルで、この周りに初期値を置いたとしても、この黒線を反時計回りにぐるぐる回るようになる。
つまりこのvector fieldでは初期値をどこに置くかで2種類の安定性がある。ひとつは緑色の安定点でずっと同じ値であり続けるか、もうひとつは黒色のリミットサイクルを反時計回りにぐるぐる回るか。
[初期値を決めて時間発展の描画]
このようにしてvector fieldを作ることができたら、あとは初期値を設定して、そこから時間発展してゆく様子を計算する。ここではオイラー法を用いている。
(ほかにも修正オイラー法とか、ルンゲ・クッタ法とかもっと正確なものがある。matlabではルンゲ・クッタ法はode45()という関数で実装されている。)
すると、図1C上のような挙動が表示できる。初期値を黒丸のところに置くと、点線を通って、リミットサイクルに取り込まれる。
これを縦軸V、横軸時間でプロットしたものが図1C下。スパイク状の波形が再現できているのがわかる。この波形が活動電位(スパイク)だ。たとえば今の例だと30msの間に8発あるから、だいたい250Hzくらいとなる。
[入力電流Iを変えて挙動を調べてみる]
次にこのモデルで入力電流Iを変えて挙動を調べてみる。
図3は左,中央、右がI=0mV, 10mV, 40mVとそれぞれ変えて、ベクトル場、ヌルクライン、初期値を置いたときの挙動およびVの時間変動を示したものだ。
まずn-ヌルクライン(青線)を比べると、皆同じであることがわかる。上記の式(2')にあるように $dn/dt$ はIに依存しないからだ。一方でV-ヌルクライン(赤色)の方はIが大きくなると上にズレていくのがわかる。入力電流Iはこのように、ベクトル場のV-ヌルクラインを移動させて、矢印の向きを変える働きをしている。
図3の左がI=0mVの場合。初期状態を安定点(緑丸)にしておくと、そのままVの時間変動はなく、一定値になる。
図3の中央がI=10mVの場合。初期状態をI=0mVでの安定点にしておくと、Vは多少振動するが、すぐに安定点(緑丸)に収束する。
図3の右がI=40mVの場合。初期状態をI=0mVでの安定点にしておくと、Vはリミットサイクルに入って、スパイクバーストが続く。
[ネットワークの中での神経活動]
ここでの入力電流Iはシナプス伝達によっておきる電流を模したものであるので、脳内のネットワークに組み込まれている神経細胞においてはこの入力電流Iは揺らいでいる。それゆえにじっさいの個々のニューロンの活動はイレギュラーなものになっている。
それをモデル化しようとするなら、上記のニューロンを繋いでやる必要がある。たとえばIzhikevichのsimple modelでは、1000個のニューロンにランダムな共通入力を入れると脳波的なリズムが出てくるというもの。そうではなくて、あるニューロンの出力を別のニューロンへの入力にして、みたいなことをやりたい。(別ページで扱っているAshbyのhomeostatを、線形ユニットからニューロンモデルで置き換えたものになる。) これは大掛かりになるので、また後日にする。
[まとめ]
神経活動の力学系的モデルについて、生理学的な意味を失わないギリギリのものを使って、説明をしてみた。個々の神経細胞は力学系であって、入力Iの有無によらずに状態stateとして細胞膜電位Vを持っている。
細胞膜電位があまり上がりすぎていればCaイオンが流入して細胞死が起こるし(たとえばALSでの運動ニューロン)、逆にまったく活動がなければまた細胞死が起こり、ネットワークから除去される(こちらは発達期についてはよく研究されている)。このような意味で、神経細胞の活動は細胞のエネルギー代謝などのカップルして、細胞のホメオスタシスに関わっている。
このことはマカロウ・ピッツの形式ニューロンだけ見ていてもわからないことだ。というわけで今回はここまで。
お勧めエントリ
- 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
- 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
- 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
- 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
- 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
- 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
- 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
- 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
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- 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
- DKL色空間についてまとめ 20090113
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- MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213