[カテゴリー別保管庫] セルアセンブリ (cell assembly)

Ikegaya '04 Science。池谷裕二君がRafael Yusteのところに留学して行った仕事。大脳皮質の切片上で自発的に活動するニューロンの活動パターンはまったくのランダムというわけではない。正確に同じ発火パターンを繰り返す'repeating sequence'がある。これと関連づけて、cell assembly関連をここにまとめた。

2008年07月08日

内側前頭皮質のセルアセンブリは行動に依存して動的に変化する

Buzsákiラボへ留学中のしげさん(ブログ(休止中)へのリンク)の論文がNature Neuroscienceに掲載されてます。おめでとうございます。
Nature Neuroscience 11, 823 - 833 (2008) "Behavior-dependent short-term assembly dynamics in the medial prefrontal cortex" Shigeyoshi Fujisawa, Asohan Amarasingham, Matthew T Harrison & György Buzsáki
Figure 4がpositionによってcross correlogramが変化するというデータなのだけれど、これがなんとmonosynaptic connectionなんです。1-2msあたりに鋭いピークがあって。これは印象的。

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# しげ

こんにちは。ご無沙汰しております。論文を紹介していただき、ありがとうございます!紹介していただいたとおり、この論文では「cross-sorrelogram の t=2ms あたりに sharp peak がある」という結果だけから「monosynaptic connection が存在する」と主張しているわけですが、extracellular のユニット記録だけでそれが主張できるのか、という点に関してはやはり弱く、いろいろとクレームもつきました。

それで、われわれの主張の論拠としましては、「cross-sorrelogram に sharp peak がある理由として、もし細胞A、Bが monosynapse でつながっているのではなく、単に別の細胞から common input を受けているだけだとしたらどうか?その場合、発火タイミングの精度は荒くなるだろうから、CCG の peak 幅はもっと太くなるはずであろう」という仮説のもと、細胞Bの spike time に人工的に微少な "jitter" (<5ms) を加えて、CCG のピークの sharpness な構造が崩れるかどうかを統計的に検定する、という統計的な reasoning を用いた、というものです。(共著者の真ん中の二人は統計学者です。)

(まあどちらにしても "inferred" monosynapstic connection であることには変わりはないのですが。。)

ところで、夏に一時帰国する予定なのですが、そのときちょうど生理研に寄る用事ができそうなので、そのとき pooneil さんにお時間があればお話などさせていただけたら、と思ってます。ではでは。

# pooneil

レスポンスどうもありがとうございます。
斜め読みでのコメントで恐縮です。(ところでいま、publisherのサイトからPDFが落とせなくないですか?)
神経科学大会でガヤに会ったときにこの論文について少し教わりました。統計学者が二人入っているというところがミソのようですね。
「extracellular のユニット記録だけでそれが主張できるのか」、これについてはシステム関連では外山先生の論文やC. Reidの論文などで同様な論法が使われているのですが、さすがにいまどきのrodentでのmultiunitの研究だとそのへんまできっちり対処しないといけないのですね。
「生理研に寄る用事」の話はホストする方は決まっていますか? 必要でしたらお声をかけてください。お力になれるかと思います。
ともあれ、またそのときに。


2008年03月26日

Corticonics

ガヤの近著のあのカタカナで発音するあれに関しては、華麗にスルーする方針だったんですが、今日生協でこの本のカバーのへんなwメガネかけた写真をよくみたら、持ってる本がMoshe Abelesの"Corticonics"ではないですか。俺が反応しないでだれが反応しますか!ということでここにメモ。
ちなみに当ブログのガヤScience論文2004に関するスレッド
「池谷裕二 corticonics」でぐぐるとこれひとつだけが見つかってきます。(つーかこういうエントリを書いたらそれがgoogleに補足されるので検索結果がひとつだけでなくなるのだった。迂闊。)


2007年02月05日

Repeating Sequence Revisited

Shuzoさんが以前予告していた、以下のNeuron 2007論文を扱ったエントリが出ました。大充実してます。
Neuron. 2007 Feb 1;53(3):413-25. "Stochastic emergence of repeating cortical motifs in spontaneous membrane potential fluctuations in vivo." Mokeichev A, Okun M, Barak O, Katz Y, Ben-Shahar O, Lampl I.。Previewあり。"Cortical Songs Revisited: A Lesson in Statistics"
まずはShuzoさんのエントリをご覧ください。この論文はガヤScience論文と非常に関係しております。ガヤ論文に関してはうちのサイトの以前のスレッドで統計に関する検証を中心にしてコッテリとやってますので、それもぜひ読んでいただければ。
んで、今回の話は、J Neurophysiol. 1993 Abeles et.al., - J Neurophysiol. 1999 Oram et.al., - Science 2004 Ikegaya et.al., - Neuron 2007 Mokeichev et.al.と脈々とつながる論争と捉えられるので、またこれに対する反論が出てきたりしていろいろ盛り上がるだろうなあと思います。今回の論文を読む時間はなさそうなので、以前のスレッドで言ってたことを繰り返してお茶を濁しますが、今回の話に対する決定的な反論はやはり、repeating squenceがこれまで知られている機能的・解剖学的構造と関連していることを示すこと」だと思います。そういうのが出てくるのを待ちたいと思います。
こういうホットな論争はそのときどきでいろいろありました。たとえば1990年代には、LTPの発現はpresynapticかpostsynapticかという論争でMalinowとかNicollとかが頻繁にNature, Scienceに論文を出している時期がありました。また、LIP野の機能的意義(見返してみたらすごく紛らわしかったけど、LTP=long term potentiationぢゃなくてLIP=lateral intraparietal area)はattentionなのかintentionなのか、というME GoldbergとRA Andersenの終わりなき戦いというのもありました。LIP野の論争は面白かったけどどこか不毛な面があったのはやはりconceptualな問題(attentionとは、intentionとはなにか、という定義問題)を含んでしまった点にあったのかも。あと、Kanwisherを中心とした、FFAは顔に特化した領域かどうかという論争はいまも続いています。こういう論争を作り出してその中で戦える、というのはうらやましいものです。良い面悪い面があるだろうけど、論争が原動力になるという面は間違いなくあります。盛り上がらずにスルーされるよりずっといいです。わたしも大論争を引き起こせるような論文を書けるよう、はげしく準備中です。


2004年09月03日

さらにガヤからの返答

ガヤからの返答がメールで来ました。どうもありがとうございます。まだ書き込みできないようです。ガヤの長文コメントにどなたからの書き込みもないところを見ると、みなさんも書き込めないのでしょうか。とりあえずはスタールシートをデフォルトに戻しました。よければ書き込みテストしてみてください。書き込んだ本人は自分のコメントを消すことができます。
以下がガヤからのコメントです。



「知られている機能的構造と関連していることを示すことがいちばん信頼性をあげる」との点はまったく同意です。いまのYusteラボでもなんとか現象を(なんらかの)機能に関連付けようとしていますので、ここら辺の話題は請うご期待です。その上での問題は、なんとか関連を示したところで、やはりsequenceがchanceで説明が付いてしまうレベルでしか生じていなければ、結局は説得力がないわけで、mathematicalな点はいずれにしても逃れられない問題になるかと思っています。
あと、Arieli&Grinvaldのシグナル(これは脳表付近から取っています)の由来は、本人たちの見解では、「subthreshold synaptic potentials or suprathreshold calcium and back propagating action potentials in neuronal arborizations originating from neurons in all cortical layers whose dendrites reach the superficial cortical layers(J Neurophysiol 88(2002)3421)」となっています。ただ根拠が弱いので、どこまで本当に“言い切れる”かはまだまだ検討が必要かと思うわけです。実際、最近のNature 428(2004)423ではsuprathreshold activityとsubthreshold activityを分離までしていますが、その分け方は多少強引すぎるように私は感じます(しかもpooneilさんのいう多重比較の問題がもろに入ってきてます)。問題は本人たち自身がどこまで確信を持っているかですね。本音を聞いてみたいところです。


以上がガヤからのコメントでした。


2004年09月02日

ガヤセミナー

ガヤScience論文については4/21-4/30にかなりextensiveに扱いましたので、昨日のエントリを読んだ方でまだの方はぜひそちらも読むことを勧めます。ここでは昨日のガヤの返答にspecificにいきます。


sequenceとsynfire chainとの関連については(この場では)ノーコメントにしたいのですが、それではマズいでしょうか?

もちろん問題ありません。Confidential matterに関しては各自管理してください。消す必要が出てきたらいつでも消します(これはこのサイトの最優先事項です)。8/23で書いたような著作権の話で言えば、皆様のコメントはコメントされた方に属する著作物であり、私はそれの公衆送信権を著作者に代行して行使している(公衆送信権は著作者から失われていない)、ということに現状ではなっているかと思います。
Grinvald&Arieliのoptical imagingについて:

実験系からいえば当然Layer 1をモニターしていることになります。

いや、あれはfocus面を下げてlayer 2/3をみているかと思っていたのですが、勘違いだったでしょうか。なんにしろ、VSDによるoptical imagingはsomaのspikeよりはdendriteでの入力の方を見ていて、空間的パターンの元となるのはlayer4-<layer3およびlayer2/3のhorizontal connectionのactivityである、という理解をしておりました。
Sequenceの有意性について:

mathematical artifactの件ですが、こちらはひどく頭の痛い問題です。「sequenceがどの程度chance levelで生まれうるか」というのは、そう簡単には分からないと思われます。

8/30でのわたしの論点は、統計を駆使してsequenceの有意性を出すことよりも、そのようなsquenceがこれまで知られている機能的構造と関連していることを示すことがいちばん信頼性を上げる、ということです。これは自分自身に言い聞かせていることでもあるのだけれど。
Sequenceが短いスパンの中でのみ繰り返されるということは[sequenceがランダムなスパイク列から偶然にできるものではないこと]の証拠と言っていいと思います。一方で、そのようなactivity driftingのほうがリアルな現象で、repeating sequenceはそれから出てくるartifactualなものである可能性はまだ残りそうですが。

説得力の高い論文としてはJ Neurophysiol 81(1999)3021などがあります

"Stochastic Nature of Precisely Timed Spike Patterns in Visual System Neuronal Responses." Oram et.al.論文は以前は言及しませんでしたが、私が書いていたjPSTH的なアプローチをしてましたね。ガヤ論文はこれに対する反論、反証という役割を帯びていると思います。

その視点から、Yusteラボのsequenceやsongという“秒オーダー”の現象を眺めていただけたら幸いです。

ガヤのこれからの研究に期待します。ご返答どうもありがとうございました。


2004年09月01日

ガヤからの返答

ガヤから8/30のエントリに関する長文コメントが届きました。どうもありがとうございます。ガヤもコメントが書き込めなかったそうです。うーむ、どうしてだろう。最近とくに設定をいじってはいないんだけれど。8/7のエントリにあるようにコメント欄のスタイルシートをいじったんですが、それからもみなさん書き込みできてますしね。とりあえずSTYLE="overflow:hidden"を削っておきました。更なる報告を待ちます。
というわけでガヤがメールでわたし宛てに送ってくださったものを以下に貼ります。今日はガヤによるゲストブログみたいなもんですので、<blockquote>には入れないでおきます。私のコメントは明日書きます。
私がいじった部分:論文へのリンクを追加しました。メールの文章が微妙に文字化けしていたので多少直しました。間違いがあったらお知らせください。



 ガヤです。セミナーではいろいろと質問していただきありがとうございました。京大と生理研のセミナーは日本語でしたので、質疑応答が楽でした(英語だと説明できる分量が半分以下になる…)。ちなみに鰻を食べながら伺ったpooneilさんの実験の話は私にはかなり興奮ものでした。今回も期待ですね。
 さて、ここに召喚された件ですが、注1、2ともに重要な指摘だと思います。
 まず、repeated sequenceのtopologyについてですが、これはスライスをどう切るかにクリティカルに依存しているように思われます。私の実験は主にcoronal sliceなのですが、容易に想像できるように、特に前頭葉あたりではcoronalに切ったところで皮質層のvertical(カラム)軸に垂直であるとは限りません。むしろ、斜めに切ってしまっていると思われます。それ故かどうかは定かではありませんが、クラスター状のアセンブリー発火はしばしば(chance level以上の頻度で)観られますが、カラム状の活動はそれほど頻繁には観察されません。
 ただし、これには別の問題もありまして、(以前pooneilさんにEメールしましたが)「そもそも皮質にカラム構造が存在するかどうか」という点からして疑問なわけです。それはbarrel皮質にしても同様で、カラムというよりもむしろpatchに近いのではないでしょうか。この点は先日RIKENで話す機会がありましたKathleen Rockland先生も同じ考えを持っていて驚きました。Rockland先生によれば「皮質カラム仮説は“simplification至上主義時代”の悪しき産物だ」ということです。「カラム仮説」は今や根本的な見直しが必要なのではないかとさえ思います。いずれにしても「オッカムのカミソリ」は脳科学では万能ではないのかもしれません。
 ちょっと話が逸れましたが、sequenceに話を戻しますと、一つの可能性としては、すでに指摘していただきましたようにtangential sliceを作成して観察するというアイデアがあります。何らかのtopological organizationが現れるとすれば、もっとも可能性が高い断面がこの切片内だと思われます(すでにYuste自身がポスドク時代にScience 257(1992)665で、その手の実験を行っているのはご存じかもしれません)。ただ、セミナー中にpooneilさんからこの質問を受けたときに、私がほんの一瞬返答に窮したのは、皮質第一層の関与を無視できないと思ったからです。Layer 1内の水平投射系路は、もしかしたらactivityのspatial organizationにわりと深く関与しているのではないかという印象があります。となれば、slice実験ではなくin vivoで、しかもtwo-photonでの検討が必要になりましょう。今後の課題です。
 その点でGrinvald&Arieliの研究グループの一連の実験は示唆に富んでいます。ただし、話はそれほど単純ではなくて、(Science 286(1999)1943のFig2&3を知っていて書くのですが)あの膜電位色素のシグナルは何を反映しているのでしょうか。どれほど“そこに存在する神経細胞”のsomatic spikeを反映しているのでしょうか。実験系からいえば当然Layer 1をモニターしていることになります。しかもLayer 1aといったごくごく表層ですね。となれば、第1層を走行する(ごく一部の)軸索を伝導するspikeか、もしくはdistal dendrite(tufted apical dendrites)のシグナル(dendritic local spike?)を記録していることになります(おそらく後者か?)。いずれにしても、それが理由で、彼らは容易にpatch状のspatial organizationが観察できているのではないか、と私は思うわけです。もしあれがsomaの発火だとしたら、いわゆる“local epilepsy”とも呼べるほどの激しい同期になります。そんなものはspontaneousでは出現し得ないのではないでしょうか。こう考えて([ここ文字化けあり])彼らのシグナルは、single cell resolutionを実現した我々のムービーとは本質的に異なるように思うわけです。ちなみに我々のムービーの測定範囲はGrinvald&Arieliのムービーの記録面積よりかなり小さくて、ちょうど彼らの示しているpatch状シグナルでいえば、patch一つ分くらいの広さでしか測定していません。そんなわけもあって、我々のムービーではspatial featureを抽出するのが難しくなって可能性もあります。
 というわけで、YusteラボのデータとGrinvald&Arieliのデータを比較するのは簡単な話ではないと思うのです。ただ、これも追求できる可能性はあって、pooneilさんが挙げて下さったようにsubthreshold responseを記録するというのがその手段になります。このプロジェクトはすでにYusteラボ内で稼働しています。
 つづいて、mathematical artifactの件ですが、こちらはひどく頭の痛い問題です。「sequenceがどの程度chance levelで生まれうるか」というのは、そう簡単には分からないと思われます。一つは(2分間という)測定時間によるartifactである可能性。もう一つはヌル仮説(null hypothesis)の設計の問題です(実は両者は不可分な問題です)。今のところ、私が使ったヌル仮説は4種あり、そのいずれの検定でも有意な数のsequenceが実際のraster plotに存在していることを確認しています。これらのヌル仮説は考え得る限りに慎重に設定したものではありますが、しかし、最近、長時間ムービーを取ることで見出した様々な現象(activity driftingなど)を考慮するにつけ、さらに丁寧にヌル仮説を立てなければならないなと危機感を持っています。ヌル仮説が間違っていると、結論が反転する可能性があるわけで。。。実際、最近のScience 305(2004)1107([これこれ])などは良い例ですし、現にAbelesの「Synfire Chance仮説」自体の真偽が疑われているのもrejectすべきヌル仮説が甘いという指摘においてです 説得力の高い論文としてはJ Neurophysiol 81(1999)3021などがあります)。
 そこで、私はいまちょっと視点を変えて、別の角度からsequenceの存在の確実性を示すことを考えています。まだまだpreliminaryですが、原理は簡単です。たとえば完全にrandomなraster plotを用いたシミュレーションによるとsequenceが数はspike rateの7乗に比例するのですが、実際のsliceから記録されたraster plotでは(私の調べた範囲内では)高々2乗程度にしか比例しません。このようなtheoretical predictionとの乖離も、sequence生成には何らかのbiologicalなbiasが潜んでいることを証明するのにも利用できるのではないかと考えています。まあこれも(背理法ですから)究極的にはヌル仮説の悪夢からは逃れられないわけですが、今まで「点(1次元)」のみで捉えていたデータを「線(2次元)」に拡張しているので、多少は説得力が高いかと思うわけです。
 sequenceとsynfire chainとの関連については(この場では)ノーコメントにしたいのですが、それではマズいでしょうか?
 最後の「gliaやgap junctionを介したものなのか」という可能性は大いにあり得るでしょう。ただ実際には、まだ、まったく調べておりません。。。すみません
 一般に大脳生理屋さんはgliaなどの関与を軽視しがちですが、とりわけ長い時間オーダー(たとえば秒や分レベル)でのmodulationを考えるときには、(1) gliaや (2) gap junctionや (3) neuromodulator のspilloverは、かなり重要ではないかと私は大マジメに考えています。意識や感情や運動計画などの時間スケールの長い脳内現象を真剣に考えるのであれば、なおさらこうしたside factorを考慮しないといけないと思います。
 cortical songはそうした長い時間の現象の一つです。数十秒オーダーの現象が時間圧縮されたり拡張されたりするのは、たしかにneural networkだけに固執している人には極めて不思議な現象に思えるようで、pooneilさんの日記でもそのrobustnessが疑問視されていました。しかし、私たちがカラオケなどで歌を速いテンポで歌ったりゆっくり歌ったり自在に意図することができることを考えてもわかるように、脳が実際にこれを実行できることは確かなのです。となれば、やはり「ミリ秒オーダーの現象でしかない古典的synaptic transmission」以外のmodulationの要因も考えていかなければならないのではないでしょうか。その点でgliaは侮れないかと。
 時間についてもっと言えば、数百マイクロ秒の両耳間時間差の検出や、数ミリ秒レベルでの活動電位の発生・伝導・伝達の話から、さらにはhourオーダーの日周リズムなど、動物の体には様々な次元の「時間の流れ」が存在しているわけですが、その中でもっとも自在な“柔軟性”に富んでいる時間スケールは、「会話(声)のスピード」や「感情の起伏の速さ」にあたる「秒のレベル」なのです。しかし現時点では、この時間スケールの研究は必ずしも脳科学の中心的話題にはなっていません。秒オーダーの脳内プロセシングに目を向けたとき脳科学はもっともっと興味深くなるような気がしています。その視点から、Yusteラボのsequenceやsongという“秒オーダー”の現象を眺めていただけたら幸いです。無論、まだまだ私たちの研究は現象記述的なphenomenologyに過ぎませんが、でも、これは面白くなりそうだとは深く確信しています。


以上、ガヤからの返答コメントでした。私のコメントは明日書きます。


2004年08月30日

ガヤ

が研究所にセミナーをしに来たので、セミナーを主催したラボの方々と一緒に食事をしてきました。
セミナーの方はなかなか盛況で、わたしも賑やかしというかサクラで質問をいくつか。このサイトで言及したことではありますが、この現象はsynfire chainなのか、とか。Arieliのongoing activityに似た動態はないのか、とくにlayer 2/3だけのtangential sliceを作ってやればongoing activityや昨年のArieliのNatureに絡められるようなactivityが見えないか、とか*1。それからうちのボスも質問してましたが、いちばん気になるのは、あのようなrepeating sequenceがカラムとはほぼ無関係に飛び飛びにつながっていることの背景です。けっきょくのところ、sliceの表面など一部のニューロンしかイメージングしていないため、focusにないニューロンの動態がわからないということがネックであるようです*2
セミナー後にはガヤが若者に囲まれて、「海馬」とかについて語る場面も。味わいぶかい。
んでそのあとの食事ははせべのうなぎ。しかし語りまくり、というか私が演説しまくり(スンマセン)であんまり味わって食べてなかったり。もっとガヤのアメリカ留学よもやま話を聞いとけよ、っつってもいつもどおりなわけですが。
ガヤの様子はあまり変わらなかったかな。わたしとしてはYusteの頭の良さの質についてもっと知りたかったです。時間が短かったせいか、そんなにコアな話にはならなかった印象が。ネットで付き合ってる人とリアルで会うと経験するのですが(Correggioさんとシンポジウムでお会いしたときとか)、本当はネットでは書けないようなぶっちゃけトークをしたいわけですが、リアルで会うとなんかさらっと話が終わって、それではまたネットで、ということになるのです。今回もそんな感じがあったかも。
というわけで楽しく過ごしました。


*1:このへんでこれまで見られているようなmapとの関連性が見えてくれば、repeating sequenceもかなりリアルかつ機能的意義があるものとして見られると思うのですが、それがないのでどうにもartifactualなものを見てるんではないか、という疑いが晴れないと思うのです。もちろん、逆を取れば、これまで見てこなかったような時空的構造を見ているとも主張できるわけですが。
*2:はたしてそのようなsequenceを仲介しているのは、(1)ニューロンの発火の連携(これでこそsynfire chain)なのか、(2)subthresholdレベルでの膜電位の変動の連携(ある種のongoing activity)なのか、(3) gliaやgap junctionを介したものなのか、という問いが発生してくるわけです。そのへんの解明を通して、現象論からメカニズムの解明を通して機能的意義の解明まで行くのを期待したいと思います。

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# ryasuda

今、ガヤさんは、日本にいらっしゃるんですね。それで、1,2に対すする、ガヤさんの現在の見解は、どんなものだったのですか?ところで、この日記、mozillaを使ってると、コメントがかけないみたいです。CSS関係かと思いますが。。。

# pooneil

お久しぶりです。ガヤは昨日か今日あたりに日本を立ったはずです。台風で飛行機が止まりさえしなければ。注1と2に関しては、現在のところまだわからないということのようですが、ガヤ自身の答えを待ちます。コメント機能に関するご指摘ありがとうございます。このコメントはMozilla Firefox ver.0.9.2で書いてみましたが私のところからは書けるようです。どなたか同じような状況になった方がいらっしゃいましたらご連絡ください。ちなみに、AreaEditorはInternet Explorerのコンポーネントを使っているので、Mozillaからは使えません(これが私がslepnirからMozilla Firefoxへ移行しきれない最大の理由だったりします)。


2004年04月30日

ガヤScience article論文

4/27の「ん?」さんへのコメントからつづき。発表直前にガヤとメールのやり取りをして出たきた論点を踏まえて。

  1. 同期発火でない、時間遅れのあるsequence自体を最初に報告したのはMao BQのNeuron論文であるようで、厳密にはnew findingではないらしい。もちろんそれを使ってここまでガンガンに解析してその実在性を示したのはこの論文が初めてで、新規性に関しての問題はまったくないけれど。
  2. また、fig3とfig4cについて、これはたいへん微妙であると思う。Fig4cのsongはfig5でやっているようなregression analysisに乗せると、おそらくthetaは37degくらいになる。Fig5cにあるように、thetaが37degあたりのsongが検出される数はsurrogateデータと変わらず、有意ではない。またさらに言えば、fig5cを見ると、thetaをcollapseしたtotalでのsongの数はchance levelと変わらない。Thetaによるsongの数の分布がreal dataでは均等でない(fig5c)、regressionの残差がreal dataの方がより低い(fig5d)、ということに関してのみ有意性をテキストは主張している。このことからすると、fig4cのデータの鮮やかさに圧倒されてしまうのだけれど、実はfig4cのような繰り返しパターンがrandomな分布から得られる可能性があるのかもしれない。これは4/24の日記の最後のパラグラフで書いたことにつながる:おそらくfigS7のようにではなくて、ISIシャッフルして作ったcortical songのsurrogateデータはreal dataよりも少ないだろう。しかしこれはsequenceの数とsongの数とにcorrelationがあって、シャッフルして作ったsequenceの数が少ないことからして充分なcontrolとなりえていない。この問題を解消して、(detectされたsequenceからではなくて、)シャッフルした活動から作られたsongのsurrogateデータを作ることができれば、本当にfig4cのような繰り返しパターンがrandomな分布から得られるかどうかを検証できるのだろう。(たぶん、あるべき帰無仮説H0はランダムな活動の列からsongが出来ることであって、detectされたsequenceをランダマイズしてsongが出来ることではない。)
こういう二段階の検定(sequenceとsong)が持つ問題はmultiple comparisonと並んで一般的に起こりうる問題なので、どっかで誰かが扱っているような気もする。たとえば、メタアナリシスの研究あたりでは、個々の研究の解析をまとめてなんらかの結果を出さなければならないため、多段階での解析が同じように問題になるはずだし。どっかで方法論が研究されているはず。Biometricsあたりの雑誌とかにないかな。

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# ガヤ

上記の点2はすべて同意(&正解)です。今回の論文ではいかんともしがたかった、というより良い方法が思い付かなかったけれど(最後に指摘してくれている点はベターな方法ですね)、いずれ対処しなければいけない問題です。sequence自体については最近でた総説NatNeurosci7(2004)456の「Spike Pattern Classification Methods」の項にも同様な指摘ありますが、ただ、これが2段階になると数学的アーティファクトの危険性は格段にあがるわけです。また、今のところ誰も指摘していませんがシンクロの問題もやっかいで、シンクロによってrecruitable spikesの数がnonlinearに上昇するので、これによっても疑似sequence数が増加すると考えられます(Fig3Gでは意外ですが回避できません)。とりもなおさず「ん?」さんのlocal population modulationに直結する問題(この場合のlocalとはspatialな意味ではなくてsubsetという意味です)。だからcell assemblyの検出問題にもなってくるのです。これは時間窓を区切って「K means algorithm」でclassifyするのが良いかと今のところは思っています(まだ実行していません)。さらにもう一点挙げますと、Fig3Dがこの論文の真の最重要データになりまして、コレ故にPooneilさんがこれまで挙げて下さった“個々のsequenceに関する解析法”はすべて無意味化されてしまうくらいの影響力を持っています(この現象は次の論文のテーマの一つです)。ただ、これまでに挙げて下さった解析方法はそれ自体有意義なものばかりですので別の方向でぜひ活用させていただきたいと思っています。

# pooneil

Fig3Dか、うーむ。FfigS5にも入っていたし、なんか過剰な気はしたがそういうことか。これについてはJCのときに少し考えて説明したんだけれど、あるsequenceが繰り返されるのはある短いスパンでのみのことで、そのような繰り返しはどんどんドリフトしてゆく、つまりそのrepeating sequenceの出現は非定常的なもので、joint-PSTH的なanalysisには馴染まない、そういうこと? そういうglobalなcell assemblyの推移とでもいうか。たとえばなんかでcell asemblyを大まかに分類するとそれぞれのreactivationは/XXXX\のようなグラフになるとか? なんにしろ、コメントありがとう。


2004年04月29日

Neuron '03

4/27の「ん?」さんのコメントで
Neuron "'03 Multineuronal Firing Patterns in the Signal from Eye to Brain." Schnitzer and Meister。
が紹介された。どうもありがとうございます。完全に見逃してました。ほかにも重要な論文を見逃してそうです。Clay ReidのNeuron '00 "Low Response Variability in Simultaneously Recorded Retinal, Thalamic, and Cortical Neurons."もsynfire chain的観点から関係付けられそうです。


2004年04月27日

ガヤScience article論文

4/24の「ん?」さんへのコメントからつづき。
Joint-PSTH的な扱いのつづき。Cell1,cell2,cell3があったとき、cell1の発火をreferenceにしてその時間遅れはt2,t3の二つで定義されるため、ふつうのjoint-PSTHよりも自由度が1減っている。t2,t3が負であることを許容すれば、cell1が最初に発火するsequenceのみに限定されないので三つのcellから可能なsequenceは(t2,t3)の平面ですべて捉えることができる。そうすると、cell1,cell2,cell3が時間遅れ(t2,t3)で発火するjoint probability P123(t2,t3)*1がたとえば、[cell1とcel2が時間遅れt2で発火する確率P12(t2,:)]と[cell1とcel3が時間遅れt3で発火する確率P13(:,t3)]との組み合わせよりも有意に高いことを示す必要があることがわかる*2。この視点はScience論文にはない。
そのうえで、multiple comparisonの補正をしなければならないことになる。ここでBonferroniを使うのは厳しすぎるだけでなく、おそらく間違っていて、fMRIのときのように補正した自由度を計算して対処する問題のようにも思う。もしくは、multiple comparisonを回避するために、次元を落としてしまう。たとえば、ランダマイズしたデータの(t2,t3)の平面上全体のデータをあわせて上位5%以上のcorrelationを持つものがreal dataでは30%あることを示す。こうすれば、real dataのどれが有意であるかは直接言えないが、(t2,t3)空間の分布が有意に片寄っていることは言えるだろう。この場合、t2,t3の範囲をどう区切るかでおそらく有意度が変わってくることになるが。


*1:t2とt3で積分すると1になる。
*2:もちろんcell1,2,3それぞれのfiring rateの組み合わせからも。おそらくこのへんでNakahara and Amari論文が関わってくるはず。

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# ガヤ

お?これなかなか良い方法っすね。今のデータは記録時間が長いのでそういう解析も可能かと思います。あと、「ランダムで上位5%以上がreal dataでは30%ある」のような判断は先週もメールで個人的に話した「シンクロレベルの評価」の過程で、今回のScience論文でもやったのですが、でも検定に困りました(とういうわけで改訂時に削除)。ラボ内の研究報告会ではカイ検定で報告したのですが、それはちょっと違うように思うし。。。

# pooneil

コメントサンクス。日記での紹介もありがとう。記録時間が長くてもかなり難しそうに思う。というのはそのjoint-PSTHの各セルごとの事象の個数はほとんどがおそらく0か1なわけで、これが充分大きくならないと難しいように思う。Abeles JNP ’93を読んだときに、Table 1だったかで長いsequenceの繰り返しが一個見つかってきて、これの出現の期待値が0.04だから有意だ、つうのがあったけれど、どんなに期待値が小さくても、たった一個見つかったことを有意だと言うのはどっかおかしいと思った憶えがある。逆にsequenceの繰り返しがどのくらいの個数集められればよいかということから必要な記録時間が決まるかもしれない、とは言えるかも。
こうして書いてみてわかったけれど、一昨日から私が書いているのは個々のsequenceの有意度を検定しようとするということであって、Science論文ではどのsequenceが有意かは言えないけれどもsequenceの個数は有意に大きい、ということまでに留めている(synchronous firngの検定で使っているような「ランダムで上位5%以上がreal dataでは30%ある」も同じようなアプローチと言える)、と整理できる。ゆえに前者は後者への反論、というのとはちょっと違っているようだ。Science論文の解析の不充分さを突くつもりだったのだけれども、意図せずより先に進んだ解析を提案している、という形になったようだ。

# ん?

先日の続きです。先日はlocal population modulationと書きましたが、Fig.4などを見ると、必ずしも局在しているわけではないので、幾何学的な制約は外して、cell assemblyと呼んだ方がいいのでしょう。Fig. 3から、同期発火で定義されるようなcell assemblyが存在して、それはCossart et al. (2003)でも示されていたが、imagingの時間分解能をあげることによって、その同期発火は、ある有限の時間幅を持った現象であることがわかった、ということは言えていると思います。問題は、このcell assemblyの(時間幅のある)同期発火の中で、さらに特定のsequenceが他のsequencesより有意に多く発生しているかということをどうやって示したらいいかということかと思います。これを示すのに、吉田さんのコメントにありますように、実際に発生しているsequencesの分布がcell assembly内のrandomな分布から予想されるものより有意に偏っていることを示すか、特定のsequenceがcell assembly内の他のsequencesよりも有意に多く発生していることを示すかの二つの方法があるかと思います。前者のほうが(後者より)有意に出易いのでしょうが、cell assemblyというものをはっきりと定義することはおそらく難しく(Schnitzer & Meister 2003のように一つのcellが複数のcell assemblyに属していたりするでしょうから)、実際にこちらを実行するのは難しいかと思われます。後者の方法では、必ずしもcell assemblyを定義する必要がなく、例えば、あるsequenceの順と逆順の発生に有意差があるかどうかなどを検定するだけでいいのですが、実際問題としては吉田さんのコメントにもありますように長さ3以上のsequenceの有意度を検定するには膨大なデータが必要で、さらにmultiple comparisonsの問題も入ってくると実行不可能に近いのではないかと思われます。筆者らは、上記のどちらでもない第3の道を行っていて、Fig. 4では、sequencesから構成される、より高次のsequenceの存在を示しています。確かに、Fig. 4Cのような繰り返しパターンがrandomな分布から得られるとは考えにくいと思います。従って、Fig.3はFig. 4と併せて評価されるべきなのでしょう。

# pooneil

コメントどうもありがとうございます。おおむね賛成です。二つほどコメントを。長くなりましたので、4/30の日記に書きました。


2004年04月26日

ガヤScience article論文

を隣のラボのjournal clubで採り上げた。みんなシステム系の人たちなので、repating sequencesのfunctional significanceについて知りたがったが、Abelesのコメントにもあるように、これそのものがなんらかのneural correlateとして捉えるべきではないこと、これがvivoで入力によってどうmodulateされるかは今後の課題であること、Aertsenのoptical imagingの話をしてspontaが時空的構造をもっている可能性がすでに示唆されていることなどを答えた。


2004年04月25日

ガヤScience article論文

つづき。昨日書いたことをもうちょっと違った言い方で書いてみる。Cortical songのような高次の構造や長いsequenceの有意性を検定するためには、multiでrecordingしている人がやっているように、時間方向に膨大なデータが必要になるのではなかろうか、という直感があるのだ。

あるrepeating tripletが繰り返されるのが有意であるかどうかは、三次元でのjoint PSTHをあるcellの発火を基準にしてガンガン重ね合わせて作ることで確かめられるのではないだろうか。

以前、中原裕之さんと甘利先生のNeural Computation '02 "Information-Geometric Measure for Neural Spikes."を読んだことがあるのだが、高次のjoint-PSTHでのcorrelationの有意度検定にも使える。細胞a,b,cのcoincidence firingをpabcで1がfirngあり、0がfirngなしとして、p000, p100, p010, p001, p110, p101, p011, p111(全部の和が1になる)と書くと、三次の相関の大きさを

thetaabc = log( (p111p100p010p001)/(p110p101p011p000) )

として計算すると、細胞a、細胞b、細胞c、それぞれのfirng rateとは独立になる、というのがNeural Computationの情報幾何からの帰結だった。この式はもちろん、同時発火でない場合でも使える。Information rateを計算するときにはなんか外界の刺激のonsetにあわせてalignして作るのだろうけど、こういう場合はどっかの細胞の発火でalignしてしまえばよいだろう。データに重複があるときの独立性の問題とかがある気がするが、よくわからん、そんなこと気にしてたらspike-triggered averagingなんて出来ない気がするし。

三次の項ですら八通りの確率を充分正確なものにするのに膨大なスパイク数が必要になる(しかも時間遅れの組み合わせが爆発する)。ガヤがやっている話の場合は、スパイク数はそんなに多くないが、記録細胞の多さをたぶん活用しているということらしい。しかし、直感的には多くのspikeを含んだsequenceほど、そのdetectionと有意度検定にはものすごい数のspike数が必要になる気がする。もちろん、今回の論文はinformation rateのような定常的なデータを出すのとは別なことをしているのだろうし、直感的には、ということでしかないのだが。

Joint-PSTHをイメージしながらもうちょっと違った言い方をすれば、cellA->20ms->cellB->150ms->cellCとかのsequenceの有意度を検定するとき、それがたとえば、cellA->20ms->cellB->140ms->cellCと比べて有意であるという形になっていないという問題なのかもしれない。


2004年04月24日

ガヤScience article論文

つづき。
データは信頼性があるか。
私が一番重大だと思うのは、cortical songの有意度についてだ。Fig.3EFGを見ればわかるように、各種のshuffleで作ったsurrogateデータからできるsequenceの数と比べて、real dataのsequenceの数はずっと多くて、有意である。しかし、ここからが本題。基本的にはjitter=1 frame (=25-100ms)のところで解析しているようなので、横軸の1のところを見て、一番厳しいcontrolであるGのグラフ(で考えるのがフェアだろう)を見ることにすると、realデータで見つかるsequenceのうち半分近くはshuffleしたデータでも説明できることがわかる。(つまり、統計の検定で、alphaを考慮するだけでなく、 betaの考慮すべきであると言い換ええられるか。)ということは、それの組み合わせから作られるcortical songがby chanceでないsequenceのみから作られている可能性はずっと低くなる。
テキストにはcortical songは2-8 sequence (mean 6.2 sequences)から出来ていると書いてあるから、6個のsequenceのcortical songについて考えてみることにしよう。単純計算で、50%のsequnceがartifactとして、 平均6 sequenceからなるcortical songがartifactではないsequenceのみから出来ている確率は(0.5)^6 = 1.5%だけだ。低く見積もって30%のsequenceがartifactとしても、11%のみがartifactを成分に持たない。つまり、平均6 sequenceからなるsongのうち、本当に有意なsongに含まれるsequenceの数はずっと少なくなるであろう。また、検出されたsongのうちで有意なものが目減りする可能性もある。
SupplementのFig.7では、cortical songがby chanceで起こっていない証拠として、detectされたsongのsequenceをshuffleして、そこからできるsongの数が有意に多いことを検定している。このfigureのたとえばB7を見ると、real dataのsongの数60のうち、surrogateデータから説明できるsong数は45くらいになる。つまり、3/4はby chanceで説明できてしまう。しかも、このfig.S7の検定は、detectされたreal dataのsequenceを使ってshuffleしているので、上のパラグラフで私が指摘したような、このsequenceがpseudo-positiveである可能性というのを考慮していない。
さて、どうすればよいか。ISI shuffleして作ったsurrogate dataのsequenceからsongを作るのでもcontrolとして不充分だし、fig.S7のようにdetectされたreal dataのsequenceをshuffleしてsongを作るのでも不充分に思える。要は二段階の手続き(sequenceの検出とsongの検出)を取る必要がある点に私はひっかっているのかもしれない。

コメントする (2)
# ん?

コントロールをどうとったらいいかは、とくにサンプル数が多くて、pseudo-positiveが出易い場合には、難しい問題ですね。Fig. 3Gは一番きついコントロールのようですが、これでも、まだ問題は残っていると思います。Fig. 3F, Gのコントロールで、population modulationによるpseudo-positiveの効果は取り除けているように見えますが、もしlocalなpopulation modulataionがある場合には、このコントロールでは不十分な可能性もあります。極端な例として、二つのニューロン群A,Bがあるとして、A群とB群が交代に(時間的にゆるい)同期発火するようなケースを考えましょう。A群は期間TAに同期発火をして、B群は期間TBに同期発火したとします。Fig. 3Gのexchangeが、A群のあるニューロンの期間TAにあるスパイクと、B群のあるニューロンの期間TBにあるスパイクの間で行われると、期間TAではA群のニューロンの発火数が全体として減少し、B群のニューロンの発火数が増大します(期間TBでは逆)。そうすると、期間TAでは、スパイクの総数は変わらないのですが、スパイクがA群に集中していたのが、A,B両群に分散するようになり、sequenceを見つける確率が減少するでしょう(期間TBについても同様。Sequenceの長さがnなら、最大、1/2^nまで減少しうる)。この例は極端なものですが、二群に分かれていなくても、localなpopulation modulationがあれば、同様なことがおこるかと思います。このように考えますと、Fig. 3Gのexchangeが、local population modulationの時間幅よりも十分時間的に短い範囲でなされていれば、Fig. 3Gで十分なコントロールになっているかと思われますが、そうでない場合は、まだコントロールとして十分でない可能性があるかと思われます。これが不十分な場合、時間的にゆるい同期発火があるということは主張できても、特定のsequenceがあると主張するためには、他の証拠が必要になるかと思います。論文中にもありますように、特定のsequenceが何度も出現するが、その逆は出現しないということは、証拠の一つになりそうですが、論文中にはこのことについての統計的議論はなされていないようです。この統計はいろいろと難しい点があるかと思います。たとえば、template matchingで得られたsequenceの一つだけあげて、その順の発生数と逆の発生数を使って、二項分布で検定するというだけでは不足かと思われます。これでは、fMRIの解析で、P<0.001で選ばれたvoxelだけを持って来て、t検定をmultiple comparisonsの補正なしでやるのと同様のことになってしまいます。まともに補正をかけようとすると、膨大な数のsequenceにわたっての補正ということになりそうで、ちょっと想像がつきません。他に考えられる方法としては、このホームページにあるように、「cellA->20ms->cellB->150ms->cellCとかのsequenceの有意度を検定するとき、それがたとえば、cellA->20ms->cellB->140ms->cellCと比べて有意である」というようなことを言ってもいいのかもしれませんが、これにも同様のmultiple comparisonsの問題が存在するものと思われます。

# pooneil

コメントありがとうございます。こういうコメントをお待ちしておりました(喜びをかみしめ中)。そうですね。Multiple comparisonの問題は重要だと思います。この点についてはcrosscorreologramやjoint-PSTHやunitary eventの有意度の検定などでもたいがい同じ問題が出てくるようで、難問だと思います。そういう意味ではfMRIでFristonがsmoothingのcorrectionを導入して解析を確立したのは、たとえ多分いくつか不備があるであろうにしろ、偉大だったと思います。
Fig. 3Gの難点についても、なるほど納得です。考えても見なかったです。三種類も違ったshufflingの図を出しているあたりからしても、ここはかなり難しく重要なステップだったことがうかがえます。
ん?さんならわかると思うんだけれど、私が4/25に書いたようなjoint-PSTHはspontaで使えるのでしょうか? 勘違いしている気もするんだけれど、可能ならそのほうがformalだと思うわけです(4/27で採り上げているように)。


2004年04月23日

ガヤScience article論文

速報。公開されてる。 おめでとう。
"Synfire Chains and Cortical Songs: Temporal Modules of Cortical Activity." ガヤ and Yusteラボ @ Columbia University。
Sliceの一個のニューロンからwhole-cell patchでspontaを記録すると、EPSC数個の時間的パターンが、msオーダーの正確さで繰り返される。これが前半部。さらにtwo-photonでsliceのCa transient (spikeまたはburstのonset)を同時記録(たとえば800個)すると、あるニューロンの活動から遅れて次のニューロンが活動し、また遅れて別のニューロンが活動する、といったsequenceが正確なタイミングで再び繰り返されるのを見出した。さらにこのようなsequenceのいくつかが同じ順番で繰り返される高次の構造"cortical song"を見出した。
ニューロンの活動を音で置き換えてみたり、タイトルのcortical songや繰り返されるmotif、といった言葉の使い方も遊び心がある。Synfire chainとcortical songがSCとCSで逆なのは偶然か*1。Cortical songが収縮して繰り返されるところもフーガのようですばらしい、と言いたいところだが、sequence自体は収縮しないのであった。というあたりで充分楽しませてもらった。論文のpdfとsupplementのpdfとでタイトルが違ってるあたりにrevise時の混乱が垣間見れる、とか余計なネタを入れてみたり。
ガヤ論文に関する私の論点は以下の通り。

  1. 内容がおもしろいか。 これは文句なしに面白い。一見ランダムなスパイク列が他のニューロンとの関係によってある種の時空間的構造として捉えられる、というのはすばらしい。究極的には、無駄なスパイクなんて一つもない、というところまで行くのではないかという期待が持てる。
  2. データは信頼性があるか。 どんな論文でも免れないが、いくつか問題があると思う。これに関しては明日。
  3. 解析は妥当性があるか。 個々の解析が非常にunconventionalで、わかりづらい。本当にそれらが最適な手法であるのか、あれだけの記述では充分に説明されていない。
  4. データは主張とconsistentに構成されているか。 前半のintraと後半のCa imagingで見てるものが違う点については、正直かなり苦しい、というか二つの仕事を無理やりくっつけたように見える。後半のデータへの信頼性を前半のイントラで押さえるという意味ではほんの少し記載があった二本刺しのintraのデータがもっと充実してあるべきだったようにも思う。
  5. タイトルどおり、Synfire chainとの関連はあるか。 AbelesがJNP '93についてsynfire chainと言っているかぎりにおいてsynfire chainと言っていいかなと考えた。
  6. Mao BQのNeuron '01やCossart RのNature '03とくらべてどう新しいか。二つのpaperはsynchronyを注目しているが、Science論文は複数のニューロンが繰り返し同期発火するのを時間遅れを考慮したものに重きをおいている。そして、収縮する"cortical song"。ゆえにこのへんの解析の妥当性が重要となる。
  7. AbelesのJNP '88やJNP '93とくらべてどう新しいか。 Abelesがmultielectrodeで記録したたかだか10個くらいのニューロンでかろうじて出したrepeating tripletなどの可能性を同時に800個とか記録することでより説得力強く再現して見せた。Abelesが喜ぶのは間違いない。本質的にはAbelesのと違ってないとも言えるわけだが。
  8. Functional significance。 これはもう、ガヤ日記の引用でAbelesが言っているとおり。押さえる必要のあることの一つはガヤが現在やってるとおり、予測可能性があることを示すこと。もう一つは、無理だけれども、あるsequenceのみを選択的に阻害してやって行動に変化が起こるか調べること。(Laurentの話で発火頻度を変えずにoscillationだけ阻害する話があったが、そんな感じ。)偉そうなことを言えば、ガヤは正しい道を行ってると思った。
あと二日分くらいつづく。


*1:私は"Lucy in the sky with diamond"みたいな言葉遊びをやってみたいと思うことがある。


2004年04月22日


2004年04月21日

ガヤScience article論文

がそろそろ出るようなので、Abelesの"Corticonics" '91を見直して、synfire chainの定義について確認してみることにする。以下、だいたいのまとめ。

multipliity (p.212)
あるニューロンaからm個のニューロンへ投射しているとき、aはmultiplicity = mであるという。あるニューロンbへm個のニューロンからの投射があるとき、bはmultiplicity = mであるという。
定義 6.4.3: a diverging / converging link (p.226)
二つのセットW1,W2(それぞれが複数のニューロンを含む)があって、W1からmultiplicity mでW2へ投射しており、W2がmultiplicity mでその入力を受けるとき、W1とW2はdiverging / converging linkと呼ばれる。W1の方をsending node、W2の方をreceiving nodeと呼ぶ。
定義 7.2.1: Synfire link (p.235)
あるdiverging / converging linkは以下のような条件を満たすnを持つときのみ、synfire linkと呼ばれる。すなわち、(1)sending nodeのn個の細胞が同期して活動するときには必ず、少なくともk個のreceiving nodeの細胞が同期して活動することが見込める。(2)kがnより小さくなることがない。
定義 7.2.2: Synfire chain (p.235)
Synfire linkのreceiving nodeが別のsynfire linkのsending nodeにもなっているとき、それら一連のsynfire linkのことをsynfire chainと呼ぶ。
というわけで、オリジナルのsynfire chainは、feedforwardの信号を減衰させずに伝えることが出来るニューラルネットのことであり、そのためにも同時に発火することが要請されていたのだが、'93 JNP "Spatiotemporal firing patterns in the frontal cortex of behaving monkeys."でAbelesは、非同期的だが繰り返し同じ順番で発火するパターンを見い出した。そこでAbelesは、これが単純なfeedforwardモードのsynfire chainではなくて、synfire reverbarationである、というようなことをJNPで言っていて、synfire chainの概念を拡張している。


2004年04月06日

Trends in Neurosciences

"Interneuron Diversity series: Circuit complexity and axon wiring economy of cortical interneurons."
György Buzsáki @ The State University of New Jersey。
shima’sLog 4/5より。
ちょうどSmall-world and scale-free networkについてメモしてたらGyörgy Buzsákiだ。運命かも(ちがう(<-それもう使った))。
Buzsákiのinterneuronがoscillaitionを作っているという話はこれまでも言われているもののはず。要はそれがSmall-worldであることの特性によってより経済的に実現されていることにあるらしい。話はInterneuronについてに絞られてるようだ。Small-worldとしての脳の私のイメージはarea内でのintrinsicなconnection(interneuronによるもの及びhorizontal connectionによるもの)がネットワーク内でclusterしているのをprojecting neuronによるarea間pronjectionがshort cutしている、というものなのだけれど、どうだろう?


2004年02月20日

Nature '03

"Attractor dynamics of network UP states in the neocortex."
RAFAEL YUSTE @ Columbia University。
をそのうち紹介しようと思っていたらYuste研に留学中のガヤの論文がScienceのarticleにacceptされたそうだ(「ガヤの日記」の2/19参照)。おめでとう! そのうち読んでここで紹介するつもり。でも数理的にかなりいろいろやってるようなのではたして私に理解できるかどうか。

コメントする (5)
# ガヤ

サンクスです。あ、この論文では数理的なことは簡単なものばかりですよ。私のモンテカルロにクレームが付いたのでごまかすのに苦労しましたが。。。

# pooneil

消しといたよ。

# ガヤ

どうもです。これからEメしますのでお待ちを。

# pooneil

お待ちしております。そのあいだについでに書いたものを以下に。

# pooneil

ところで2/18にコメントすると、spontaを調べてわかるのは「情報」ではなくて「構造」ではないだろうか? もちろんspontaの中には情報がcontextや記憶として織り込まれているわけではあるのだけれど、それは外部から入力を入れたり出力としての行動を見なければ情報としては取り出せない。だからspontaで見られるパターンはそのような情報をコードするのを支える構造と言ったほうがよいのではないだろうか。System identificationのアナロジーから考えることにすると、[input-output関係によって認知のblackboxがどういう情報処理をしているかを推定すること]と[black boxの状態推移のルール(これは情報だろうか?)を明らかにしようとすること]との違いなのではないだろうか。この話は前にしたencodingとdecodingの話でもあるし、簡単にかつ大げさに言えば認知主義の問題とも言えるのかもしれない。もちろん、両方が必要であることは言うまでもなく。


2003年12月19日

Nature ついでに私信、というか

"Spontaneously emerging cortical representations of visual attributes."
GRINVALD ARIELI @ The Weizmann Institute。
'96のScienceで出してたongoing activityでorientation mapに似た形がspontaneousに現れるというやつ。
大脳皮質のニューロン活動は非常にノイジーであって、視覚応答のスパイク数のtrial繰り返しでのばらつきは大きい。mean / varianceはほぼ1であり*1、ポアソン分布で近似できる。このようなばらつきのある情報から正確な情報を取り出すためには何らかのノイズ軽減メカニズムが必要なはず。そこで考えるのは、複数のニューロンの情報が入力するニューロンではこのばらつきがpopulation averagingで消えるのではないか、ということだけれども実はそうなっていない。初期視覚野ニューロンでのmean / varianceとその情報が収束していると思われる視覚連合野ニューロンでのmean / varianceはあまり変わらなかったりするのだ。
よって、このばらつき(=ノイズ)はまったくのノイズではなく、ノイズ自身がニューロン間で相関していて、何らかの構造をもっている。この意味でArieliのongoing activityは重要だ。LFPレベルでの空間的相関があって、それによってノイジーに見えるニューロン活動はかなり規定されている。でもって、Singerらのガンマオシレーションによるfeature binding説もVarelaの領野間coherenceもたぶん同じカテゴリーに属する。


*1:実際には、motionへのスパイク応答を短いタイムスケールで見るともっとreliableなコーディングをしている、ということがBialekやBiarの仕事でわかっている。


お勧めエントリ

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  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
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