[カテゴリー別保管庫] 生理研研究会2008「動機づけと社会性の脳内メカニズム」

2008年9月11-12日に開催される生理研研究会「動機づけと社会性の脳内メカニズム」に関係するエントリです。研究会について、それから講演者の論文の予習などをここに。

2008年09月13日

研究会無事終了

研究会は無事終了しました。いろいろ語りたいことはありますが、それはまた今度。とりあえず疲れた。以下に「総評、来年の予告」を高橋メソッドで作ったものを貼っておきます。


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# しか

研究会,お疲れさまでした.
昨年以上に議論が活発になるような仕掛けが満載でした.

自分たちが行う勉強会や研究会でも,今回の仕掛けを真似したり,洗練させて,試してみたいと思います.

# pooneil

どうもありがとうございました。とにかくいろいろやってみた、というのが現状ですので、ここからどうやって洗練させて、意味のあるものにするかが課題だと思ってます。
ブログ見ました。バケツネタが継続しててとても良いと思うのでリンクしておきます。こちら:
http://humanscientist.blogspot.com/2008/09/blog-post_15.html


2008年09月05日

「社会化した脳」

いよいよ来週が生理研研究会です。要旨集も最終版(ver.4)になりました。あらかじめ印刷して読んできておいていただけるとありがたいです。会場には若干部しか用意しない予定です。

さてさて、今年はぜんぜん予習シリーズが進みませんでしたが、「社会性」に関してお薦めの本がありますので紹介します。

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京都大学医学部精神医学教室の村井俊哉准教授の「社会化した脳」です。

重要なところを抜き書きしておきます。たとえば「社会的認知」(social cognition)の定義について:

米国の神経科学者ラルフ・アドルフスは、「社会的認知とは、自分と同種の生物に対する行動を支える情報処理過程」と定義している(Adolphs, 1999)。つまり、人間であれば、人間同士のあいだでの行動のやりとりの際にどんな風に頭を使っているのか、そして実際に適切に行動できるのか、ということが、社会的認知・社会的能力である。(p.27)

それから、情動(emotion)の定義について:

では情動とはいったい何かひとことで言えといわれると、なかなか定義が難しい。それでも思い切って簡単ないい方をすると、「情動」とは、自分の周りの事物・事象が、自分が生きていく上で有益か有害かを速やかに評価することと、そのような評価に基づく身体の反応のことだ。(p.53-54)

それから、社会的能力が「接近か回避か」という行動パターンから、より単純な情動を経て発達したとする説に関して、

幸福、恐怖、怒り、嫌悪、悲しみ、驚きがそのような情動(感情)の代表で、これらは基本情動と呼ばれる。さらに、私たち人間は、複雑な人間関係・社会的状況の下で、賞賛、嫉妬、プライド、恥の感覚、罪の意識といったより繊細に分岐した感情を発達させてきた。これらは社会的情動と呼ばれる。(p.54)

このへんを押さえた上で、ヒトでのfMRIや脳損傷の例が提示されます。

第5章は扁桃体の損傷で恐怖の表情を読み取れなくなったという話。ご自身の研究を引いてますが、大元はAdolphsのこれでしょう:

Adolphs R, Tranel D, Damasio H, Damasio A. "Impaired recognition of emotion in facial expressions following bilateral damage to the human amygdala."(pdf) Nature. 1994 Dec 15;372(6507):669-72.

第6章はそのような患者さんでは「信用できる顔」の判断が甘くなってしまう話:

Adolphs R, Tranel D, Damasio AR. "The human amygdala in social judgment." Nature. 1998 Jun 4;393(6684):470-4.

さらにfMRIで見た扁桃体の活動に偏見が反映するという、

Lieberman MD, Hariri A, Jarcho JM, Eisenberger NI, Bookheimer SY. "An fMRI investigation of race-related amygdala activity in African-American and Caucasian-American individuals." Nat Neurosci. 2005 Jun;8(6):720-2

第7章はfMRIで見たSTSの活動が視線の読み取りを反映するという、

Hoffman EA, Haxby JV. "Distinct representations of eye gaze and identity in the distributed human neural system for face perception." Nat Neurosci. 2000 Jan;3(1):80-4.

第9章はダマジオのアイオワ・ギャンブル課題の話で、ventromedial prefrontal cortexの損傷した患者さんでは、目先の利益に引っ張られてしまうという話:

Bechara A, Damasio AR, Damasio H, Anderson SW. "Insensitivity to future consequences following damage to human prefrontal cortex." Cognition. 1994 Apr-Jun;50(1-3):7-15

第10章では、同じ脳領域が幼少期に損傷したことによって社会的逸脱行動が著しく見られた事例についての報告:

Anderson SW, Bechara A, Damasio H, Tranel D, Damasio AR. "Impairment of social and moral behavior related to early damage in human prefrontal cortex." Nat Neurosci. 1999 Nov;2(11):1032-7.

第11章は「心の理論」の話です。人間を相手にじゃんけんをする、つまり相手の意図を推測する必要があるときにはanterior paracingulate cortexが両側性に活動する:

Gallagher HL, Jack AI, Roepstorff A, Frith CD. "Imaging the intentional stance in a competitive game." Neuroimage. 2002 Jul;16(3 Pt 1):814-21.

第12章は対戦型ゲームであるチキンゲーム中にはanterior paracingulate cortexとSTSが活動するという著者の論文:

Fukui H, Murai T, Shinozaki J, Aso T, Fukuyama H, Hayashi T, Hanakawa T. "The neural basis of social tactics: An fMRI study." Neuroimage. 2006 Aug 15;32(2):913-20

第13章は慈善的寄付行動に関連する脳部位がventromedial prefrontal cortexだったというもの:

Moll J, Krueger F, Zahn R, Pardini M, de Oliveira-Souza R, Grafman J. "Human fronto-mesolimbic networks guide decisions about charitable donation." Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Oct 17;103(42):15623-8

というわけで、大まかに言ってしまえば、第2部(4-8章)がApolphs、第3部(9-10章)がDamasio、第4部(11-13章)がC. Frithというかんじです。

出版が2007年の9月ですので、それまでの最新の論文が引用されているわけですが、どんどん新しい論文が出ているというのが現状でしょう。

このフィールドで研究する人にとってはきっとみんな読むべき論文なのでしょうけど、元の論文を読む時間のない人(私を含む)はこの本を研究会の行きの新幹線か名鉄で読んでおくとよいと思います。おすすめします。

これで研究会前のブログ更新は終了です。それでは岡崎にて。


2008年08月31日

トラベルアワード採択発表

生理研研究会「認知神経科学の先端 動機づけと社会性の脳内メカニズム」の進行状況です。神経科学者SNSの専用コミュでトラベルアワードの選考を兼ねて、総合討議での質問を募集してきましたが、今日採択者を生理研研究会サイトで発表しました。おめでとうございます。

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# atsushi

今日は、旭医大の藤本です。トラベルアワードを頂けるとのことで、ありがとうございました。おそらく自分が一番遠方からの参加だと思うので…感謝感謝ですm(__)m
補助を戴いて行くので、しっかりと勉強できるようにしたいと思います。


2008年08月28日

要旨集に議論を掲載しました

生理研研究会「認知神経科学の先端 動機づけと社会性の脳内メカニズム」ですが、webサイトの方はどんどんアップデートしてます。チェックしてみてください。

神経科学者SNSの専用コミュでトラベルアワードの選考を兼ねて、総合討議での質問を募集してきました。締め切りは過ぎましたが、現在も議論は継続しています。投稿者の許可を頂いて、要旨集に掲載しました。読んで楽しめる要旨集を目指しています。ダウンロードはこちらから:要旨集 ver.3(PDF)

神経科学者SNSに入らなくてもこれは読めます。神経科学者SNSでの議論の様子がうかがえるかと思います。議論に参加したい方はぜひ神経科学者SNSまでぜひ。(研究会への参加申し込みがまだの方はまずそちらからお願いします。)

ここ数日では「定義」の問題の議論になってます。つまり、「動機づけ」「社会性」は定義づけることができるか、とか。例として、わたしの書き込みを下の方にコピペしておきます。

ちょっとほかでは見たことのないような形を作れているんではないかと思います。"We are doing things that haven't got a name yet."なんてかんじで。

それでは、岡崎でお会いしましょう。


29: pooneil

定義問題は重要ですね。これは「動機づけ」や「社会性」だけにかぎらず、認知神経科学におけるほぼすべてのドメインで問題になることかと思います。例として「注意」そして「意識」での話を書きます。

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William Jamesによる注意の定義の話ってのがあります:

"Everyone knows what attention is. It is the taking possession by the mind in clear and vivid form, of one out of what seem several simultaneously possible objects" (Principles of Psychology (1890))

この冒頭にある"Everyone knows what attention is."ってところに「あれだよ、あれ」みたいな、定義する苦しみを感じるわけですが、要は「注意」という言葉がなにを指しているかは同意が取れるけど、それを操作的に定義しようとすると詰まってしまう、という事態になるわけです。

私自身の考えとしては、ここはrecurrentな過程だと思っています。つまり、日常言語的に「注意」という言葉を使って指しているものを、実験的に検証できる形で扱うことによって、「注意」という言葉で指しているものにいろんなものがあることがわかってきて、定義がrefineされてゆくわけです。そういう意味では、上記のJamesの定義はattention一般に対するというよりは、"selective attention"に対するするものと言った方がよいでしょう。(arousalに近い、sustained attentionみたいな概念があります。) 注意全体としての定義はより包括的なものとなる必要が出てきます。

たとえばParasuramanはこう定義しています:

"Attention is not a single entity but the name given to a finite set of brain processes … all three aspects of attention serve the purpose of allowing for and maintaining goal-directed behavior in the face of multiple, competing distractions." (The attentive brain (1998))

ここでの冒頭の"** is not a single entity but the name given to a finite set of brain processes"というのはいろんな研究ドメインで活用できそうなフレーズです。

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同様にして、「意識」の定義に関してもJohn Searleはこんなことを書いています:

(「意識」は操作的に定義できないから科学の対象にはならないのではないか、という質問に対して) We need to distinguish analytic definitions, which attempt to tell us the essence of a concept, from common-sense definitions, which just clarify what we are talking about ... What we need at this point in our work is a common-sense definition of consciousness and such a definition is not hard to give: 'consciousness' refers to those states of sentience or awareness that typically begin when we wake from a dreamless sleep and continue through the day until we fall asleep again ("How to study consciousness scientifically", 1998)

われわれがなにについて話しているのかについてはズレないようにcommon-sense definitionを定義すべきですが、その現象の本質を突くようなanalytic definitionは研究を進めて行く過程でこそ得られるものだ、というわけです。


2008年08月21日

トラベルアワードもうすぐ締め切り

生理研研究会の宣伝です。

今年の研究会のタイトルは「認知神経科学の先端 動機づけと社会性の脳内メカニズム」ですが、要旨集が完成しました。ダウンロードはこちらから:要旨集(PDF)

ぜひあらかじめ印刷して予習しておいていただけるとありがたいです。

トラベルアワードの締め切りは今週末8/24です。総合討議での質問を募集して良い質問を考えてくださった方に支給するということになっています。支給できる人数は予算次第ですが、まだ三人の方からしか投稿を頂いておりませんので、まだチャンスはたくさんあります。ぜひ投稿してみてください。投稿は神経科学者SNSから専用コミュで。

ではみなさま、岡崎で会いましょう。


2008年08月19日

社会性の脳内メカニズム-信頼・評判・社会的交換理論

生理研研究会予習シリーズ、ですが、今年はあまりそちらに時間を割けそうにありません。神経科学者SNSのほうでの議論の盛り上がりに期待したいと思います。
とりあえず少し手がけた部分から。
出馬さんのNeuron論文について。
"Processing of Social and Monetary Rewards in the Human Striatum" Neuron, Vol 58, 284-294, 24 April 2008
論文コメント系ブログですと、vikingさんのところのエントリ「ヒト線条体における社会的および金銭的報酬の処理:線条体から見ると褒められるということはお金をもらうことに似ている」でとりあげられてます。
…なるほど、実験の手続き的には始めにmonetary reward experimentをやってからそのつぎにsocial reward experimentをやるという形にならざるを得ないので、それがなんか悪さをしないか、という気はしますね。
あとは、「二種類のrewardによるactivationが重なっている」というところからどのへんまで脳内メカニズムの議論ができるかどうかがカギでしょうか。その意味ではcaudate-mPFCのネットワークの意義付けみたいなことを理解しておく必要がありそうです。
そういうわけでもっと背景となる知識が私には必要なのですが、そういう意味ではvikingさんが採りあげていたレビュー
"Game theory and neural basis of social decision making" Lee D, Nat Neurosci. 2008 Apr;11(4):404-9
とかはよさそうですね。
あと、Neuron論文のイントロで採りあげられていた
King-Casas, B. et al. "Getting to know you: reputation and trust in a two-person economic exchange." Science 308, 78–83 (2005)
E. Fehr and U. Fischbacher, "The nature of human altruism," Nature 425 (2003), pp. 785–791
Wedekind and Milinski, 2000 C. Wedekind and M. Milinski, "Cooperation through image scoring in humans," Science 288 (2000), pp. 850–852
あたりを読んでみるといいかな、と考えてます。
ただ、それよりもっと手前で、Social exchange theory(社会的交換理論)というキーワードが出てきたのでそのへんをちらちら調べてます。要は経済学的な交換理論をHomansが社会学に持ち込んだのがはじまりで、でもってこのHomansという人がまたスキナリアンなのですね。
社会学自体ではどちらかというとそういった合理的選択理論の範疇にはいることよりは、そういうのが崩れるようなところの方が面白いのでしょうけど、脳科学の取り組みとしてははじめは合理的なところからはいるのが筋で、そういう意味でも神経経済学と同じようなルートをたどっているような印象を持ちました。
あと、ここ最近山岸俊男の本を読んでてちょっとかぶれ気味なので、ここでの信頼と安心とは、とかゲーム理論に当てはめて考えると、とかわかった口をききたくなる私。バイアスの問題、Payoffの問題でもっと定量的にものが言えそうに思うのですが。このへんはもうすこし本を読んでおきます。
あと、これとはべつに社会性の脳科学 --- 社会生物学 のあたりの議論も重要です。
社会生物学:最近の文献
Wikipedia:社会生物学
今回の研究会の講演者の人選ではあまりこっち方面に目を向けることができなかったのが反省材料でしょうか。
ではまた。


2008年07月31日

生理研研究会 オンライン参加申し込みを開始しました

生理研研究会 「認知神経科学の先端」ですが、今年は玉川大学の松元健二さんとともに「動機づけと社会性の脳内メカニズム」というタイトルで行います。日程は2008年9月11-12日。以前アナウンスしたエントリは20080609

そこからなかなか進んでいませんでしたが、研究会のサイトをアップデートしてオンライン参加申し込みを開始しました。参加申し込みフォームのページ。参加申し込み要領をよくお読みになってからお申し込みください。多くの方の参加をお待ちしております。

6月の視覚研究会のときに配ったビラに書いた講演者紹介をコピペしておきます。(一部松元さんに増補していただいております。) それではここから:


講演者の方の紹介など。

さて、ここからはもっとくだけたかんじで講演者の方の紹介を書いてみます。Pooneilブログ出張版?とでもいいましょうか。

大まかに分けると「動機づけ」パートが南本さん、出馬さん、村山さんで、「社会性」パートが細川さん、守口さん、遠藤さんです。それぞれのパートに動物実験、ヒトでの実験、社会心理の方に入っていただきました。動機付け、社会性、ともにどうやって実験の形に持ち込めばいいか、ということがなによりも難しいところだと思います。そこで、実験を通してアプローチしている先生方に加えて、社会心理の先生方にトークをしていただくことで動機付け、社会性という概念の広さを踏まえた議論ができるようにと配慮しました。

南本さんは京都府立大の木村先生のところで視床CM核の仕事("Complementary process to response bias in the centromedian nucleus of the thalamus." Science 308: 1798-1801, 2005)を出版されました。そのあとNIMHのBarry Richmondのところに留学されて、rewardのスケジュールと行動の関係に関する仕事をされて現在は帰国し、放医研に在籍しています。放医研にだんだんシステム関係の人が集まってきてますね。今回の講演ではおそらくNIMHでのお話をしていただけるのではないでしょうか。まだ未出版かと思いますが、SFNのアブストと説明が木村研ラボのサイトで読めます。このあいだRichmondが生理研に来たときのトークで一部を聞かせていただきました。要は課題を行ってからrewardが出るまでの時間を振っておいて、それをcueで予測できるようにしておくと課題の成績がcueによって影響を受けるようになる、というものです。これまでの設楽さんや菅瀬さんが行ってきた一連の研究と併せて、動機づけの研究としてどう捉えたらよいか、というあたりが論点のひとつとなるのではないでしょうか。

出馬さんは生理学研究所の心理生理学、定藤先生のところに所属している博士課程3年生の方です。昨年の生理研研究会でポスター発表をしてくださった研究が今年の4月にNeuronに掲載されました("Processing of Social and Monetary Rewards in the Human Striatum" Neuron, Vol 58, 284-294, 24 April 2008)。他人に褒められたときに活動する脳部位と、お金を報酬としてもらったときに活動する部分とが重なっていた(ともに線条体に activationがあった)、というものです。報酬と動機づけに関わるだけでなく、社会性に関しても関連のある仕事であると思います。

村山さんは東大教育心理を出られて東工大に在籍してからRochester大学に留学されてAndrew Elliotの研究室に在籍していました。Andrew Elliotは達成動機づけ理論にかんする第一人者です。動機づけには報酬と絡めた意思決定のような外発的動機づけだけではなくて、内発的動機どけというものがあります。そういう人間らしい複雑な部分をどうやって捉えて脳研究に結びつけたらいいのか、ということについてコメントしていただけるかと思います。また、村山航さんのホームページは心理統計などに関する有用な資料があります。わたしは知らず知らずのうちにお世話になってました。

細川さんは霊長研出身で現在は神経研の渡邊正孝先生のところに所属していらっしゃいます。昨年の神経科学大会のシンポジウムでも発表されていた対戦ゲーム中のサル前頭連合野ニューロン活動についてのお話をしていただけるのではないかと思います。この研究はサルどうしの対戦という実験系からして社会性に関する研究としてわたしは理解していたのですが、かならずしもそれだけではなく、動機づけの研究という側面も持っているようです。つまり、相手と競うという条件であることが動機づけに影響を及ぼすのではないか、rewardそのものだけではなくて相手に勝つということが動機づけとなるのではないか、というわけです。ということで本研究会の両テーマに関わるトークとなるのではないかと思います。

守口さんは国立精神・神経センターに所属されていて、アレキシサイミア(失感情症)の患者さんについて研究をされています。アレキシサイミアの患者さんは自己の情動の同定・表象が困難な症例ですが、これを「心の理論」の障害と捉えて機能イメージングを行った論文が出版されました("Impaired self-awareness and theory of mind: An fMRI study of mentalizing in alexithymia" NeuroImage 32 (2006) 1472-1482)。これで活動するのもやはりmedial prefrontal cortex。東北大学グローバルCOE若手フォーラムでのトークについての報告がwebにありますが、これをみると、さまざまなコンテクストを絡めたお話をしていただけるのではないかと期待しております。

遠藤さんは東大教育心理の准教授をされています。専門はアタッチメント、つまり発達時に母子が親密であることがどのように重要なのかに関する研究ですが、これは社会性の基礎となる概念であります。また、アタッチメントの概念自体はヒトだけでなく、もともと動物の行動観察から見出されたものであります(いま wikipediaにそう書いてあるのを見つけた)。「心の理論」などと併せて、社会性に関する大きなパースペクティブからコメントをいただけるのではないかと思います。

以上の6人の先生方で研究会を行います。指定討論者の先生方もまたあらためてお願いしますので、依頼された方はぜひ引き受けてガンガン質問、議論してください。今回も途中質問有りにしておきたいと思いますが、総合討論の場を作ってもっとgeneralな議論ができるようにします。でも、いわゆる学会のパネルディスカッションみたいにすると盛り上がらない。たんに補足質問タイムになってしまう。だから、なんか煽り気味のネタを用意したり、あらかじめ募集しておいたりしたらどうかと考えています。たとえば、「動機づけって概念はほんとうに必要か? すべては報酬による意思決定ではないのか」とか。ふつうだったら紛糾して時間切れになるようなネタを30分かけて議論できたらいいんではないかと思います。このへんの形式についてはまた計画ができたら発表したいと思います。

それでは、みなさまぜひお越しください。


2008年06月09日

生理研研究会2008のサイトをオープンしました

生理研研究会 「認知神経科学の先端」ですが、昨年は京大の小川正さんとともに「注意と意志決定の脳内メカニズム」と銘打って2007年10月11-12日に開催されました。第一回にもかかわらず多くの方にお集まりいただきまして感謝しております。そのときの当ブログでの予習とかレポートとかのスレッドがこちら:[カテゴリー別保管庫] 生理研研究会「注意と意志決定の脳内メカニズム」

さて、今年も研究会をやります。今年は玉川大学の松元健二さんとともに「動機づけと社会性の脳内メカニズム」というタイトルで行います。日程は2008年9月11-12日。研究会のサイトをオープンしました。こちら:生理研研究会 「認知神経科学の先端 動機づけと社会性の脳内メカニズム」

講演者の方も確定しました。今年は6人の方にお願いしています。敬称略にて:

大まかに分けると「動機づけ」パートが南本さん、出馬さん、村山さんで、「社会性」パートが細川さん、守口さん、遠藤さんです。それぞれのパートに動物実験、ヒトでの実験、教育心理の方に入っていただきました。動機付け、社会性、ともにどうやって実験の形に持ち込めばいいか、ということがなによりも難しいところだと思います。そこで、実験を通してアプローチしている先生方に加えて、社会心理の先生方にトークをしていただくことで動機付け、社会性という概念の広さを踏まえた議論ができるようにと配慮しました。

指定討論者の先生方もまたあらためてお願いしますので、依頼された方はぜひ引き受けてガンガン質問、議論してください。今回も途中質問有りにしておきたいと思いますが、総合討論の場を作ってもっとgeneralな議論ができたらいいんではないかと考えています。でも、いわゆる学会のパネルディスカッションみたいにすると盛り上がらない。たんに補足質問タイムになってしまう。だから、なんか煽り気味のネタを用意したり、あらかじめ募集しておいたりしたらどうかと考えています。たとえば、「動機づけって概念はほんとうに必要か? すべては報酬による意思決定ではないのか」とか。ふつうだったら紛糾して時間切れになるようなネタを30分かけて議論できたらいいんではないかと思います。このへんの形式についてはまた計画ができたら発表したいと思います。

それでは、みなさまぜひお越しください。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

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