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■ 俺がもし人生をもう一度やり直せるなら、the 13th floor elevatorsで壺にマイク突っ込んでトゥクトゥクいう役、あれをやりたい。

テキサス出身のガレージ・サイケ・ロックバンドthe 13th floor elevators。ロッキー・エリクソンが曲とボーカル担当、トミー・ホールが歌詞を書き、壺にマイク突っ込んでトゥクトゥクいう役(electric jug)だった。(聴いたことのない人には何を言っているか意味不明かと思うが、探せば見つかるし、見つけて聴けば、なにを言っているか分かることだろう。) このふたりがthe 13th floor elevatorsの中心だった。ロッキー・エリクソンがもともとR&B系のソウルフルなロック・ボーカリストであったのを、ドラッグと神秘思想で洗脳してしまって、世界ではじめての「サイケデリックロック・バンド」にしてしまったのがトミー・ホール。

(ちょっとしたバンドのバイオグラフィー:) トミー・ホールの指示によって、バンドはギグを行うときは常にアシッド下で行うというあり得ない状況を続け、ロッキー・エリクソンはだんだんおかしくなり、バンドはアルバムを二つ出してほぼ解散状態となり、サードアルバムはギタリストのステイシー・サザーランドが余ったマテリアルを使って作成してバンドは終了した。ロッキー・エリクソンはマリワナで複数回逮捕されて、刑務所行きを避けるために精神病院に入院し、そこで電気ショック療法を繰り返し受けたりといった数奇な運命を辿るが、2000年代にはカムバックを果たす。ステイシー・サザーランドは70年代に妻に射殺された。そしてトミー・ホールは13th floorのあとは音楽の世界からは離れて暮らしてきた。


Where the Pyramid Meets the High オースチン・クロニクルによる、2004年のトミー・ホールへのインタビュー。

In fact, I never was a musician of any sort … They didn't really need me, but we became friends, and they let me play the jug, but I wasn't that accomplished at it.

Everything I wrote was inspired through my taking LSD. I invented the electric jug totally out of my desire to find a place onstage with this new group, so I could be a part of it, and so I could communicate my new ideas through the lyrics I wanted to write.

自分はミュージシャンであったことはないし、あくまでステージ上での居場所を作るためにelectric jagを発明したのだという。

この人はコージブスキーの思想の元で歌詞やライナーノートを書いていたそうだ。わたしのヒーローGregory Batesonが影響を受けたコージブスキー。といっても、"The map is not the territory"しか知らんけど、私が理解する限り、これは「言葉/概念が心を変える」という思想なわけで(だからNLPとかそれ系に影響を与えた)、以前書いたように、Gregory Batesonが徹底的に表象からスタートしてものを考えるのだということがうかがい知れる。

テリー・ホールが書いた(1stのライナーノートはこんなかんじでマニフェストみたいになってる:

Recently, it has become possible for man to chemically alter his mental state and thus alter his point of view ... It is this quest for pure sanity that forms the basis of the songs on this album

そうすると、この"pure sanity"ってのがコージブスキーの主著"Science and Sanity"(科学と正気)から来ているのだろうということは分かる。私がこのライナーノートをはじめて読んだときには、ランボーの「詩人は長期間の破壊的で計算された錯乱によって見者になる」を思い起こしたものだけど、後述のように、horizontal thinkingというのが瞑想であり、daydreamingであることからすると、そんなには間違っていなかったんではないかと思う。


前述の2004年のインタビューの続きで、現在トミー・ホールが何をやっているかが語られているのだけど、まあなんつーか、いろいろ終わっちゃってるってことがよく分かる。

[オースチン・クロニクル]: In 1985, I read about this research you've been doing, and you said then that you were preparing to put your findings in writing. Could you elaborate on what your studies have been and when you will complete your project?

[トミー・ホール]: I've been working weekly on my search for the perfect sanity and truth of the universe. It has been very complex and turned out to be a lifelong endeavor. My studies have gone way beyond that now.

[オースチン・クロニクル]: Does it have anything to do with horizontal thinking and logic? Has this been the factor that caused such a long study? How is horizontal thinking accomplished?

[トミー・ホール]: I could try to explain it, but my mind would revert to the pure mathematical state required for horizontal thinking. You will just have to wait until I put it in writing.

… 「(horizontal thinkingについて)説明しようと試みたことはあるのだが、そうすると私の心は(中略)純粋数学的な状態に立ち戻ってしまうのです」だって。まあ、トミー・ホールの哲学とやらがまとめられて出てくる日はけっして来ないだろう。

(なお、自己啓発本とかで出てくる「水平思考」はlataral thinkingの訳で、horizontal thinkingとはべつもの。wikipedia )


そんなわけで、ここになにか深いものがあるわけでもなかろう。それでも、この音楽の価値は変わらない。

The 13th Floor Elevatorsのバイオグラフィーが出版されている。Eye Mind: The Saga of Roky Erickson and the 13th Floor Elevators Amazonで見ると、けっこう評判も良い。絶版になる前に買うか。

出版社のサイトからは9章が読める。9章のタイトル("Hamburger and Acid")はトミー・ホールがサンフランシスコ在住時に、バンドの金巻き上げてぜんぶLSDと粗末な食事に変えてたって話から。まあ、いろいろとめちゃくちゃなことが書いてある。ロッキー・エリクソンはトミー・ホール夫妻の家にほとんど軟禁状態だったとか、二夜連続でギグがあるときはアシッド一回で済むからお得だとか。

注文した。本が届いた! ちらちら読んでる。そしたら、トミー・ホールは2ndアルバムの制作中に自分のアイデアを100%込めることが出来なかったことに苦しんで脱退を決意したとか、ロッキー・エリクソンはemotionを重視する一方で、トミー・ホールは伝えるべきinformationを重視し、両者が衝突し合った、とか書いてあって、ずいぶん印象が変わった。

上記の、「ナイーブなロッキーエリクソンをトミー・ホールがLSDと神秘思想で洗脳して言いなりにして、バンドを支配した」みたいなストーリーはなんか全部吹っ飛んでしまった。面倒くさいので直さずそのまま出す。


さてさて、前述の2004年のインタビューのあとでトミー・ホールはどうなったかというと、Houston Pressの2009年の記事によれば、

He survives on government assistance, leaving little money for anyone to steal.

Ask Hall what he's been up to lately and he'll answer that he's been "running the design." The exact nature of this design is something even his close friends cop to not quite understanding. His explanations are dotted with mentions of the fourth dimension, yogic theories and patterns in the universe. It doesn't make a lot of sense.

まあ、生活保護を受けながら、引きこもりながら、精神世界の中で生き続けているというかんじらしい。


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