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■ NINS Colloquiumで話題提供しました(2013年12月)
NINS Colloquiumが近づいてきたけどどうしたものか。「セッション4 時間の流れに沿ったエポックの発生と「揺らぎ」」というところで話題提供をすることになっている。
自分の立場からすると、意識が脳と身体と環境の相互作用によってさまざまな意識下の情報の流れを背景に、意識的なものが生まれては消えということを繰り返す。Transientなセルアセンブリが生まれては消える、みたいなVarela的な意識観を紹介するとして、そのまえに自己紹介的に盲視の話をして、意識的な視覚と「なにかあるかんじ」との対比の話をその話の導入に使う。
「意識と時間」みたいな話では面白いトピックはいろいろある。たとえばLibetのtime-on仮説もRPもそうだし、color-phiとかbackward maskingとかsaccadic suppressionとかpostdictionとかそういった、「脳はじつは切れ切れになった情報処理を、必ずしもシリアルではないやり方で並べて、ある主観的な時間の流れを作っている」みたいなかんじのお話をすることはできる。
でもそれだけよりかは、力学系的脳観と神経現象学と、意識の統合を目指すトノーニのIITのような試みとかを紹介する方向のほうが楽しいと思う。
30分で収めるとしたらこうか:1) 盲視が明らかにした「視覚意識」と「なにかある感じ」 2) 脳は後づけで意識の流れを作る(止まる秒針の話) 3) 不安定な構造を作っては壊すという脳観 4) 力学系的な脳と一人称的な経験の流れ(精神現象学) って無理か。
NINSコロキウムの内容をもうちょっと考えてみたけど、あんま意識がどうのって話をするよりは、脳の活動のゆらぎとかそういう実験事実を中心にしたほうがよさそうだ。たとえば、同じ分科会には物理経済学の高安秀樹氏がトークするから、意思決定のdiffusionモデル(=ランダムウォーク)とかなんかはかなり共通性を強調して議論できるだろう。
以前書いたことだけど、diffusionモデルは一定の閾値を想定しているけど、実際には砂山が崩れるように臨界状態でのバーストを考えたほうがいいのだが、まだそこまで進んだモデルが役に立つレベルであるわけではない。
同様に、サリエンシーモデルもちゃんとやれば視覚刺激を処理するフィルターから、spiking neuron networkのダイナミクスへと移行できるはずだ。やっぱ話の順番を変えて、脳と意識の概論から、盲視の研究を紹介して、より力学的な方向性のアプローチを提案する、くらいまでか。
うーむ、いっそのこと、「意識」も取っ払ってしまって、ChrchlandのNatureとかNat NeurosciとかNewsomeのNatureとかあのへんを持ってきて、意志決定、運動開始、知覚、さまざまなところでinstabilityが起こっている証拠が集まりつつある、みたいな話をもってくるほうが(VarelaとかKelsoとかのEEG関係のデータよりも)強くて良いのかも。学会じゃあないんだから堅さよりは、面白いと思ってもらえればよい。他人の仕事の紹介になっちゃうから、あんま広がりは期待できないのだけれども。
脳と力学系という意味ではEEGによるseizureの予測というのが事例としてよく使われるのだが、じつのところMARTINERIE et al (VarelaとLe Van Quyen)とかも含めて再現性に難があって問題は解決してない。Brain. 2007 "Seizure prediction: the long and winding road"
NINS colloquium の話題提供終了。ランダムウォークの話に絡めるためにサッカードの応答潜時のdiffusion modelを持っていったが、話が細かいところに入りすぎてしまってこれはうまくなかった。力学系の話まで出来たので目的は達した。ただ、物理学者の前で力学系の話をしても当たり前すぎてインパクトがなかったので、ここからどう議論を展開するかが課題。
ブレインストーミングも終了。物理学者はみんなズケズケ物を言うのでけっこうしんどかったが、最終的には頭の中が整理されて、すごく有益だった。最後にはフリストンの自由エネルギーの話までした。と入っても詳細を理解してもらったわけではないのだけれども、
宇宙や分子とか、本当に物理法則で力学系をやっている人たちと、経済とか脳とかアナロジーとしての力学系をやっている人がいて、経済物理学でやっているようなことは力学系モデルとして良いプロトタイプになるのではないかと。要は力学系であるからには拘束条件となる多様体があって、多様体とかカッコつけたけど、とにかく曲がった平面があって(脳が取りうる状態は限られている)、そのうえでゆらぎを持って動くときの物理法則、例えばポテンシャルに対応するものを見つけることができるならばそれを充分捉えられるだけのデータ量とミクロマクロの記述レベルが決まると。
そういう話を伺って、なるほどそれはまさに自由エネルギー最小仮説だなあと思った。私自身はたくさんニューロン記録して、状態空間作って、その推移則の微分方程式みたいなものが作れればいいんだろうと、間違ってはいないけどどうとりかかったらいいかわからないイメージを持っていたのだけれど、高安先生の話にあったような、ポテンシャル関数が推移則の中に入っていて比較的低自由度で動態を記述できるというやり方なら、脳全体からの同時記録とかができるようになる前でも、空間的に限りはあってもより長時間の記録で高次の空間までありうる状態を記録してゆくことでできることはありそうだ。
力学系、力学系とさんざん言ってきたが、実のところ脳に応用する限りそれは単なるモデルであって、本当の物理ではない。だから、うまくいけばよかったねだし、うまく行かなかったらモデルが悪いか評価関数が悪いかという問題。
もちろん、ニューロンの発火自体は物理であって、HHモデルは微分方程式なわけで、スパイキングネットワークモデルはHHを簡略化してはいるけれども物理だけでニューロンのネットワークの発火までやってしまおうということ。
行動分析や連合学習理論はそういう意味では行動の推移則を作るだけのデータとモデルを持っているので、いま書いているような考えとは実はかなり近い位置にあると思う。
昨日書いてたことでひとつ抜けていたのが、ブラウン運動とランジュバン方程式の話か。ってググってみたら酒井裕さんのテキストが出てきた。
Diffusion modelってもっと力学系にできないもんかと思って調べてみたら今回見つけた論文:Roxin A, Ledberg A (2008) PLoS Comput Biol Neurobiological Models of Two-Choice Decision Making Can Be Reduced to a One-Dimensional Nonlinear Diffusion Equation