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■ BMIと脳の可塑性

Nature 11/2 "Long-term motor cortex plasticity induced by an electronic neural implant" Andrew Jackson, Jaideep Mavoori and Eberhard E. Fetzが出ました。
シアトルのUniversity of WashingtonのEberhard E. Fetzは第一次運動野の仕事を続けてきた大御所で、うちのラボとも関係が深いのですが、そこで進んでいたneurochipの仕事がNatureになりました。今年の神経科学大会でもfirst authorのAndrew Jacksonがこの話をしていたので、そこで話を聞いた方もいるかと思います。ちなみに8/14のエントリのイギリス人とは彼のことです。
話としては、nhpを使ったBMIの研究なのだけれど、M1のある領域のニューロン活動を記録して、べつの領域のニューロンを刺激して強化してやると、刺激された部分のニューロンの反応特性が記録部位と同じようなものに変化した、というわけです。 彼らはBMIのデバイスを使って、M1のある領域のニューロン活動を記録して、そこの活動と同期させてべつの領域のニューロンを刺激しました(条件付け)。そうすると、記録してた領域のニューロンの出力特性が変化して、条件付けを止めてもその効果は持続した、という話です。もともと記録部位CAは筋肉MAを支配していて、刺激部位CBは筋肉MBを支配していたのだけれど、条件付けによって、記録部位CAが筋肉MAとMBとを支配するようになった。だからこれは、条件付けによって記録部位CAから刺激部位CBへの情報伝達が強化されたということだろう(そして、記録部位CAの活動が刺激部位CBを介して筋肉MBに届くようになったのだろう)、と考察しています(11/5追記訂正)。 Shuzoさんのブログでもこの論文に言及してますのでそちらもどうぞ。
ちなみに、彼らのところの装置はスタンドアロンで記録も刺激も出来る。長時間連続記録をすることができて、データはチップ内に記録されて、赤外線のワイヤレス通信でデータのやりとりなどが出来ます。くわしいmethodはすでにpublishされてます(Journal of Neuroscience Methods 2005)。かなり他とは設計思想が違っていて、実現に近い方向を向いていると思います。彼らの研究が他のBMIの研究者と違っている点のひとつは、記録したデータを使ってロボットアームを動かすとかせずに脳に戻してやって、脳を刺激するのに使っている、という点です。このようなストラテジーについてはNicorelisもTINS 2006 ("Brain–machine interfaces: past, present and future")でワンパラグラフ使って言及しています(11/5追記)。
今回の論文はFetzさんの初期の仕事を近代的なBMIでもう一回捉え直した、という側面があります(なんでかわからないけれど、Nature論文ではreferされていない)。Fetzさんは60年代後半から70年代前半にすでに、M1のニューロンを記録しながらそのスパイクの音をフィードバックとして与えて報酬で強化させると、そのニューロンの発火頻度を上げることができる、ということを示して(11/5追記)います(Science 1969, Science 1971, Brain Research 1972)。Shuzoさんが書いている「closed systemの先駆的研究」というのはこれのことです。Fetzさんがセミナーをしに来たときにはたしか、1972 Brain Researchの図を持ってきて、強化されたニューロンの隣のニューロンはまったく反応特性が変わってない、というようなことを出していて、それって解剖学的にあり得るんだろうかと驚いたおぼえがあります。
このような可塑性を脳が具えているであろうことは確かで、これをいかにBMI/BCIの局面で利用してゆくか、ということが今後重要になると思います。RA AndersenのBMIがparietal cortexから記録されていたのも、どこからの記録が一番有効かという点でM1のようなハードワイヤーされている部分よりも、行動の計画に関わるparietal cortexを使う方がよいから、みたいなjustificationをしていたと思うのですが、脳の可塑性を考えるとどこでもいいんじゃん、とも言いたくなる。一方で、他の行動といかに干渉せずに可塑性を活用できるか、というのが課題だ、みたいな言い方も出来ます。
私自身の興味としては、このような可塑性によってどのようにwhat-it-is-likeが変わるのかという、Hurley and Noë論文での問いにどうempiricalなデータが追加されるか、というあたりです。つまり、closed loopにすることによって、sensorimotor contingency/dependencyが成立することが意識にとってどのようなものとして捉えられるか、ということですね。
あ、ちなみにCRESTのBMIシンポ参加しますんで、京都でお会いしましょう。ちなみにFetzさんのトークは11/8です。

コメントする (3)
# Shuzo

「刺激された部分のニューロンの反応特性が記録部位と同じようなものに変化した」ではなく、「記録部位が、刺激部位と同じようなものに変化した」が正しいかと思われます。

論文では、Nrecとされている領域が記録部位で、その機能が変化しています。Figure2にあるように、conditioningしたあと、Nrecを電気刺激して筋電を計測すると、でなかったはずの筋電活動が現れています。

一方、刺激部位のNstimの方では、Nrecほど劇的な変化は起きていないようです。

いずれにしましても、この研究は今後いろんな分野に影響を与えそうですね。TBありがとうございました。

# pooneil

ご指摘どうもありがとうございます。思いっきり間違えてました。訂正しておきました。

# Shuzo

私のブログこそ意図せずにたくさん間違ったことを書いていそうですので、もし「これは違う」という記述があればぜひ教えてくださいませ。peer-reviewというと大げさですが、そういうことがブログ間でもできると良いですね。


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