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■ 生理研研究会 予習シリーズ1:講演者の紹介

生理研研究会「認知神経科学の先端 推論の脳内メカニズム」参加登録始まってます。若手運営手伝い(with旅費援助)は8/31締め切り。

さて、講演者の紹介を兼ねて、予習用の資料を用意してみようと思います。これまでの生理研研究会でもこんな感じのエントリを作成してきました。

これと同じ要領でまとめを作ってみることにしましょう。まだ今のところ、講演者の方からは要旨をいただく前ですので、講演内容については演題タイトルからの類推です。

1. 「眼球運動方向の自由選択における前頭連合野背外側部の役割」望月 圭 (京都大学大学院・人間環境学研究科)

望月さんは京大の船橋先生のラボの大学院生の方です。船橋研はいわずとしれた前頭連合野背外側部のニューロンのワーキングメモリーへの関与で有名ですが、今回は前頭連合野背外側部のニューロン活動が自由選択(free-choice)の条件と外からのキューがある条件とどう違うか、といった話になるようです。

今年のMotor Control 研究会でポスターを出しておられますので、おそらくはそれと同様な内容ではないかと思います。要旨:「眼球運動方向の自由選択における運動と選択の相反する履歴効果」

では「自由選択」を研究するのにはどういう意義があるか、これについてはご本人が研究の動機などを書いておられるので、ここを読んでもらった方が早いでしょう:Research Interests

2. 「リスク下の意思決定とモノアモン」高橋 英彦 (京都大学大学院・医学研究科)

高橋さんはsocial emotionの研究で有名です。

Science 2009のほうは「メシウマ状態」の脳基盤として話題になりましたし、PNAS2012もプレスリリースでは「夏目漱石の坊っちゃんのように、間違った事が大嫌いで義憤に駆られ、損ばかりする行動様式」と表現されて、人間の人間らしいところが題材となっていてスッゲー面白いです。

(fMRIと比べた場合の)PETの強みは神経伝達物質のイメージングができることなので、そちらをフルに活用した仕事をたくさん出しておられます。今回のトークのタイトルは

と非常に近いので、おそらくは夏の包括脳シンポジウムでされていた、risk aversionの程度と線条体のドパミン(+NE, 5-HT)の関係の話になるのではないかと思います。

(Risk aversion: 効用曲線のslopeが損失のほうがよりsteepである - 1000円もらえるか1000円払うかの賭には人は参加しない。1000円もらえるか<1000円払うかならどっかで釣り合う。)

私自身としては、神経伝達物質のイメージングの話が銅谷さんの「メタ学習と神経修飾物質系」の話とどう繋がるかというところに興味があります。

3. 「意思決定の階層性と多重皮質-線条体ループ神経回路」鮫島 和行 (玉川大学・脳科学研究所)

鮫島さんは計算論的神経科学と神経生理学とを合体させて行動の価値を表象するニューロンを線条体で見つけた仕事

で有名です。以前ブログでもこの論文をとりあげてかなりこってりと読み込みました:カテゴリー:行動の価値 (action value)

さらにそのあとでは価値による意志決定を行動選択とは分離するような課題をデザインして、線条体の中でその分布を調べるというふうに仕事が展開してます。(未発表なのでOISTでのトークの要旨:The neural activities in the rostral-striatum during the cognitive decision-making)

今回の演題のタイトルからすると、「多重ループ」というのがキーワードとなりそうです。もともと鮫島さんは純粋に計算論の仕事でNeural Computation 2002 "Multiple model-based reinforcement learning"という、強化学習のモジュールを複数並べたもの(MOSAICの強化学習版)という仕事をされた方ですから。

4. 「因果推論・命題推論は連合学習理論で説明できるか」澤 幸祐 ( 専修大学 人間科学部 心理学科)

澤さんは連合学習理論の専門家です。個人的には今回の「推論」というテーマについて今回の講演者の方の中ではいちばん直接的に関わっている方だと思ってます。

わたしがお名前を知ったのは以下の二つの論文によってです。

連合学習理論については私自身の勉強が必要です。いまいろいろ調べてますので(「学習心理学における古典的条件づけの理論―パヴロフから連合学習研究の最先端まで」借りてきた)、別枠でエントリ作成します。

5. 「変化する環境への適応に関わるサル前頭前野外側部の神経活動」藤本 淳 (京都大学大学院・医学研究科)

藤本さんは京大河野ラボの小川研の大学院生の方です。昨年は夏の包括脳ネットワークで若手優秀発表賞を受賞されました。

注意と標的選択の仕事をされた小川さん(小川さんの仕事についてはブログでの紹介記事20070807をどうぞ)が京大に移られて新しく始めたプロジェクトが藤本さんがやっておられるこの仕事です。

行動の部分については論文になっています:Robotics and Autonomous Systems 2012 Dynamic alternation of primate response properties during trial-and-error knowledge updating

内容としては、WCSTみたいに、選ぶべきfeatureを決めるためのルールがブロックごとに変わっていて、ルールが変わった時にサルは必ずいったん間違えて、そこから試行錯誤でまたあたらしい答えを見つけていかないといけない。このときのニューロン活動を記録する。けっこう過酷。(双方ともに。)

6. 「さまざまな価値の認知的変容の神経基盤」松元 健二 (玉川大学・脳科学研究所)

松元さんはもともと霊長研->理研BSIでサル神経生理をやっておられました。2007年の研究会のときには松元さんがコレスポのNature Neurosci 2007の仕事について松元まどかさんにトークしていただきました。

また、2008年の生理研研究会のときには「動機づけと社会性の脳内メカニズム」というテーマで研究会をいっしょにオーガナイズしていただきました。

いまは動機づけと社会性のヒト神経機能イメージングの仕事を進めておられます。

前者はアンダーマイニング効果、後者は認知的不協和、とそれぞれ心理学で知られていたけど脳基盤については分からなかったものを扱った非常に魅力的な仕事です。

7. 「部位特異的な中脳ドーパミンニューロンの活動とその機能的役割」松本 正幸 (京都大学・霊長類研究所)

松本さんは生理研の小松研でV1の仕事をされてから、NIHの彦坂先生のところでbasal gangliaについて以下の仕事を出されています。

神経生理学者ならみんなラボのJCで読んだことがあるはず。どっちも重要なんだけど、Nature 2009のほうが今回の話に近いでしょうか。

つまり、古典的条件付けの仕事で、aversiveなUS(air puff)を使った条件を入れてやると、中脳ドパミンニューロンの活動はSchultzとかが言ってきたようなprediction errorだけではなくて、appetitiveでもaversiveでも活動が上がるようなものが見つかってきた。 ニューロンの記録の位置から推定すると、air puffで活動が上がるものはSNcで、下がるものはVTA。

ご本人のサイトにある研究概要からすると、神経路選択的遺伝子導入手法を使っておられるそうですので、そのへんの話まで聞けるかどうか期待です。

8. 「情報選択と行動選択における前頭葉の役割:認知神経心理学からのアプローチ」熊田 孝恒 (理研BSI-トヨタ連携センター・認知行動科学連携ユニット)

熊田さんには2007年の生理研研究会のときにトークをしていただいて、今回が二回目となります。前回は「注意のトップダウン制御原理 - 次元加重、課題構え、探索モード」ということでお話しいただきましたが、今回は「認知神経心理学」ということで、前頭葉脳損傷の患者さんの話などになるのではないかと思います。

そのような方面からの仕事としては以下の論文があります。


以上です。ぜひぜひ研究会、いらしてください。


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