[カテゴリー別保管庫] 前頭葉および頭頂葉


2007年01月18日

前頭葉ニューロンは行動の順序をカテゴリー別にコードしている

Nature 445, 315-318 (18 January 2007) "Categorization of behavioural sequences in the prefrontal cortex" Keisetsu Shima, Masaki Isoda, Hajime Mushiake and Jun Tanji

課題はpush/pull/turnの三種類の行動を使った4回つづきのシークエンス(たとえばpush-pull-push-pullとか)をinstructionされたあと、Goシグナルが出たらその行動をする、というもの。それでもって、prefrontal cortexからニューロンを記録して、Goシグナルが出る直前の準備状態の活動を見てみたら、行動シークエンスのカテゴリーに特異的に活動してした、というのが結果です。行動シークエンスのカテゴリー、というのはたとえば4回同じのが続く、push-push-push-pushとpull-pull-pull-pullとturn-turn-turn-turnにのみ応答して他のときは活動しない、とかそういうのがあるというわけです。

とりあえず三種類の行動をa,b,cと表記してみると、組み合わせの可能性は3^4=81通りあるのだけれど、そのなかで11種類、特別なsequenceを選んで行わせています。この11種類は三種類のカテゴリーに分類されます。 (1) four-repeat: aaaa, bbbb, cccc、(2) alternate: abab, acac, baba, caca 、(3) paired: aabb, aacc, bbaa, ccaaです。ですので、alternateカテゴリーのbcbc, cbcb、pairedカテゴリーのbbcc, ccbbと残り66通りに関しては使われていません。その意味ではa,b,cの出現確率などは完全にはバランスされてはいません。aが出る確率は5/11、bが出る確率は3/11、cが出る確率は3/11となってます。シークエンスの最初、2番目、3番目、最後のあいだではこの確率に差は無し。詳しい解析を見てみないといけないけど、カテゴリ以外の要因をどのように押さえているかは重要なポイントです。たとえば、pushの回数と相関していないかとか、けっこうたくさんのregressorが可能性としてはあります。GLMでモデルたててやってるみたいですが。

しかしそういう細かいことを言わなくても、Fig.2aを見る限りだと、それぞれのカテゴリをコードするニューロンはall-or-none的にコードしているみたいなので、カテゴリよりも強力なregressorがありそうには見えません。それだけデータが強烈です。(Fig.2aがどのようなnormalizationをしているかを確認しておく必要はありますが。) アブストやタイトルではとくに「all-or-none的」「二値的表現」みたいな言い方はしてないようですが。Prefrontalってこういうかんじに複雑な要因の交互作用の部分(さまざまな条件のANDでのみ、とか)にだけ応答するニューロンがある、というイメージを持つようになってきましたけど、それにしてもこれだけ非連続的だとは。なんか、このくらいデータが強烈でないとNatureは通らないよな、とかも思います。

このあいだのAsaadのLIPのカテゴリ化ニューロンは経験による修飾だったけど、今回のやつはもとから選んだ組み合わせの中にある自然なカテゴリ分けを使っているというところがひとつのポイントかと思われます。これはventral pathwayだったらfaceのコーディングとかでさんざん議論になっているのと同型ですから。ともあれ、このようなカテゴリ分けをsubjectがストラテジーとして使っているというデータがあるとより強いかもしれません。たとえばエラーの解析をしてみたら、withinカテゴリーでのエラーのほうがbetweenカテゴリでのエラーよりもより多いとか。

あと、この11種類のシークエンスに関してほかにもっと自然なカテゴリ分けはないでしょうか。11種類のシークエンスをabc順でソートし直してみます。

aaaa
aabb
aacc
abab
acac
baba
bbaa
bbbb
caca
ccaa
cccc
うーむ、こうやってみてみてもとくに浮かばない。あたま3文字までわかれば最後の文字は確定する、とかは言えるけど。それにしても大変な課題ですよね(無理矢理話を変えた!)。

なお、今回の論文で丹治先生は北大でのNature 1987から数えてNature 5本目です。

Journal Published Year Title Authors
Nature2006 Categorization of behavioural sequences in the prefrontal cortex. Shima K, Isoda M, Mushiake H, Tanji J.
Nature2002 Numerical representation for action in the parietal cortex of the monkey. Sawamura H, Shima K, Tanji J.
Nature2000 Integration of target and body-part information in the premotor cortex when planning action. Hoshi E, Tanji J.
Science1998 Role for cingulate motor area cells in voluntary movement selection based on reward. Shima K, Tanji J.
Nature1994 Role for supplementary motor area cells in planning several movements ahead. Tanji J, Shima K.
Nature1987 Relation of neurons in the nonprimary motor cortex to bilateral hand movement. Tanji J, Okano K, Sato KC.
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時々、このサイトで楽しく神経科学の勉強させていただいております。ところで、最近の、AOPに掲載されております丹治先生の論文:
Nature Neuroscience
Published online: 1 March 2009 | doi:10.1038/nn.2272

Interval time coding by neurons in the presupplementary and supplementary motor areas
Akihisa Mita, Hajime Mushiake, Keisetsu Shima, Yoshiya Matsuzaka & Jun Tanji
に対する吉田先生のコメントに興味があります。

# pooneil

リクエストありがとうございます。ただ、当分書く余裕がありません。ShadlenのLIPでの仕事(Neuron 2003)とかとの関連とかに興味がありますが。
よければこちらにコメントを書いていただけるとありがたいです。
P.S. AOP論文にリンクをつけておきました。


2006年10月30日

Cerebral cortex10月号: 頭頂葉の解剖学二連発

Cerebral cortexで頭頂葉の解剖学論文二連発。REVIEWING EDITORSがPeter L. Strickだからでしょうか、セクション名にNEUROANATOMYが入ってる。
"Cortical Connections of the Inferior Parietal Cortical Convexity of the Macaque Monkey" Massimo Matelli and Giuseppe Luppino
"Connection Patterns Distinguish 3 Regions of Human Parietal Cortex" M. F. S. Rushworth
以前のOptic ataxiaのスレッドでも書いたように、頭頂葉皮質のヒトとnonhuman primateとでの相同性に関してはいろいろ議論があるのだけれども、ひとつは機能を使った対応付け、もう一つは構造(=解剖: 細胞構築および投射関係)を使った対応付けで考えるアプローチがあります。この二つは構造の側面から頭頂葉皮質の相同性を考える材料となるでしょう。……読んでないけど、たぶん。
これも放置してて時期はずれになってしまった。もう一段階掘り進めておこうと思ってたのだけれど。


2006年01月13日

attention and parietal-frontal pathway

ふたたびvikingさんのところで、こんどはCorbettaのNat. Rev. Neurosci. '02 "Control of goal-directed and stimulus-driven attention in the brain"が解説されているのでふたたびリンクを。(自動トラックバック機能はストップさせてるもんで、リンクにて。)
わたしのところの2005年11月03日で言及したNature neuroscience '05 "Neural basis and recovery of spatial attention deficits in spatial neglect"やScience '05 "Direct Evidence for a Parietal-Frontal Pathway Subserving Spatial Awareness in Humans"とかのストーリーの大元となる重要論文です。
わたしのところのAttention関連のエントリをカテゴリー化しておきたいのだけれど、現状は散在している状態です。Hemineglectとかとも併せていろいろあるんで、まとめておきたいのだけれど。あと、Jon Driverがやってる仕事あたりでattentionとawarenessについてとか、宿題たまりまくり。


2004年12月21日

Neuron 12/16

Christopher D. Chambers, Mark G. Stokes and Jason B. Mattingley "Modality-Specific Control of Strategic Spatial Attention in Parietal Cortex." Volume 44, Issue 6, 16 December 2004, Pages 925-930
Jason B. Mattingleyはこれまでにもいろいろ出てきました。今回は視覚での注意課題と触覚での注意課題とでTMSの効果を調べています。二つのタスタスクでの視覚と触覚の刺激は同じになるように統制してあって、視覚と触覚のどちらに注意を向けるかどうかだけがこの二つのタスクで違うようになっています。んでもって、TMSをinferior parietal cortex(supramarginal gyrus)に加えたときには視覚の注意課題に影響が出て、触覚の注意課題には影響がでない、と。だからsupramarginal gyrusは視覚の注意のみに関連しているのであって、視覚触覚といったモダリティによらない抽象的な注意の機構に関わっているのではない、と結論付けています。
ちなみにsuperior parietal lobuleやtemporoparietal junctionやangulara gyrusをTMSしても視覚注意課題、触覚注意課題両方とも効果はないとしています。これは例の半側空間無視の原因部位の議論と合わせてみると面白いものがありますが、ちょっとtemporoparietal junctionと言っているところがあまりに前すぎるような感じがします。
また、触覚注意課題でTMSが効く場所が同定されていません。つまりdouble dissociationさせることに失敗しているのです。よって彼らの結論はそんなに強くない。触覚課題がTMSが効くような条件設定がされていなかっただけの可能性があるのですから。


2004年11月04日


2004年11月01日

Neuron 10/28号

頭頂葉での数的表現関連。

それぞれの内容はまたこんど。SFNにあった関連する発表と絡めて語れるとよいのですが。
Andreas Niederの論文:
澤村・丹治論文はこちら:


2004年06月28日

Neuron 6/24号 プチPPC祭り。 PPCとprefrontalの機能とは?

んでもって、結局のところPPC (posterior parietal cortex: LIP, VIP, MIPなど)はいったいなにをやっているところなのか、という問題になるわけです。じつはprefrontalで見つかったneural correlateと同様なものがかなりPPCでも見つかってくる(decision, intention, short-term memory, value, motivation/reward)、という事が起こっています。今回のSnyder論文も同様なものとして捉えることが出来るでしょう。Cognitive setの切り替えなんてのはprefrontalで行われているものと考えられていて、single-unitやhuman fMRIなどいろいろすでに出ているのですから。 そうすると今度はprefrontalの機能とは何か、という問題になるのです。今までprefrontalで見つかってきたようなneural correlateはほとんどPPCやinferotemporal cortexなどですでに処理されているのであって、prefrontalはあくまでそういうものを統合して時々刻々と変わってゆく環境の中でフレキシブルに行動をしてゆくために必要なのであって、そのような統合の機能をprefrontalに見つけなければいけないのではないでしょうか。そのような統合を見つけるのに、Evartsから脈々と続いている、trialを加算してtask-relatedなactivityを見つけるというようなパラダイム以外のものが必要ではないか、と考えるわけです。ニューロンの個性を無くして加算してpopulation activityでものを言うという方向になっている現状を変えたいということは関係者はみんな考えていると思うし、それでは何ならいいのか、という問題でしかないのだけれど。
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# Correggio

decision, intention, short-term memory, value, motivation/rewardというのが、本当にPPCのproperの機能であるとして解決済みなんですね?では、prefrontalからPPCに戻ってくるシグナルは何をしてるんでしょうね?

# pooneil

おひさしぶりです。いやいや、decision, intention, short-term memory, value, motivation/rewardのneural correlateがPPCでもprefrontalでも見つかってしまうので、そのときいったいPPCの機能とはいったいなんなのか、というのが問題なわけです。おそらくCorreggioさんもお考えかと思いますが、prefrontalからPPCに戻ってくるシグナルというやつがこれらの機能のすべてに大きく関わっているだろうと私は思うのです。だから、prefrontalでもPPCでもなになにのneural correlateが見つかった、ではもはやお話にはならなくて、prefrontalからPPCへ戻ってゆく段階でなにが付け加わったか、逆にPPCからprefrontalに行く段階でなにが付け加わったか、というアプローチが必要だと思うのです。これ自体はべつに画期的なことではありません。私自身area TEとperirhinal cortexとのinteractionという視点を持ってやってきたがゆえのことであります。また解剖学的見地から言えば、隣接している領野がかなり多くの機能的特性を共有していることにどうしてもなってしまうわけで(そんなに強烈なgatingというかfilteringは脳にはないのではないでしょうか)、prefrontalとPPCのtightなconnectivityの証拠でもあるわけですが。しかし機能をある領野に固定せずに分散したものとして捉える視点というのが必要なのは確かなのだけれど、じっさいどうしたもんでしょうね。

# Correggio

多分そうお考えだと思っていましたが、prefrontal-parietalの行き帰りの信号は何かというのは大変重要なんということをはっきりと言われる方は少ないので、あえて申し上げました。もはや、command functionからは、いい加減に抜け出してほしい。そういうことです。

# pooneil

なるほど、わかりました。ところで”command function”という言い方がよくわからなかったのですが、これはモジュール的に認知機能を分解してゆくことですか?


2004年06月16日

PNAS

"Parietal cortex and representation of the mental Self."
以前貼っただけのものだが、introductionの最初のパラグラフがすごい。哲学書だ。


All subjective experience may be seen as self-conscious in the weak sense that there is something it feels like for the subject to have that experience. We may at times be self-conscious in a deep way, for example, when we are engaged in figuring out who we are and what we are going to do with our lives, a distinctly human experience giving organization, meaning, and structure to life. In its absence, our representation of ourselves and our world becomes kaleidoscopic and our life chaotic.

二つの"self-conscious"について分けて扱おうとしているわけだが、後者はこりゃ実存って感じだね。


2004年05月18日

A parieto-frontal network for visual numerical information

"A parieto-frontal network for visual numerical information in the monkey." Earl K. Miller @ MIT。
東北大の丹治先生がNature '02 Feb "Numerical representation for action in the parietal cortex of the monkey."を出して、parietal cortexで数がrepresentされていることを示した。その後追いと言ったほうがよいと思うんだけれど、つづいてEK MillerはScience '02 Sep "Representation of the Quantity of Visual Items in the Primate Prefrontal Cortex."でPrefrontal Cortexで数がpresentされていることを示した。Millerは丹治論文をテキストの最後の最後になってやっと引く、というやらしいことをしている。そういうもんだが、そういうことするやつだということでもある。
で、今回のMiller論文は彼らのパラダイムでprefrontal cortexとparietal cortexとから記録しました、というもの。今回は丹治論文をイントロでちゃんとreferしているけれど、parietal cortexでのneural correlateの論文として丹治論文だけでなく、1970年のScienceでのcatの論文("Number coding in association cortex of the cat.")なんて古いものを持ってきて並べてる。いますぐこのScience '70読めないからわからないけど、おそらく現在要求されているレベルの主張が出来ていることは決してないだろう。ようするにそういうものを引っ張り出してきて、丹治論文は最初じゃないよ、とMillerは印象付けたいわけだ。こういうの見るだけでもう読む気なくなる。


2004年02月27日

Nauture Neuroscience

"Fast and slow parietal pathways mediate spatial attention."
Jason B Mattingley @ University of Melbourne。
これかなあ。
Mattingleyは基本的にはneurologistで、オーストラリアにいるときから頭頂葉の障害による半側空間無視のある患者についていろいろ調べてきた。(もっと詳しい人が読んでるので間違ってたら補足よろしくおねがいします。)それからUniversity of Cambridgeに行って、University College LondonのJON DRIVER*1といっしょに引き続き半側空間無視関連の論文を書いた。そのときの代表作が

だ。でそれからまたオーストラリアに戻ってふたたびJOHN L. BRADSHAWと今度は共感覚の論文を書いている。
で、今度の論文はふたたび頭頂葉なのだが、それはまた今度(力尽きた)。


*1:ていうか今はじめてJohnではなくてJonであることに気付いた。どこの国の人なんだろう。

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# NHK

初めてつっこませていただきます。このMattingley論文はセンスよいですね。Pascual-Leone&Walsh, science(2001)を思い出します。

# pooneil

ようこそ。面白い論文ですよね。TMSって刺激位置の精度はそんなにないだろうから、時間の方の精度で議論できるように持っていかないわけで、その点でこの論文はうまいことポジティブな結果を出したと思う。Pascual-Leone & Walshの時間の刺激のタイミングの議論(20ms)が大事だったと思うし、このあいだのBlakemoreの論文もそう(50ms)だし。ほかにうまい切り口というか活用の仕方はないもんでしょうかね。


2003年12月25日

Science 2003の1/3号

Neuronal Activity in the Lateral Intraparietal Area and Spatial Attention
ME Goldberg @ National Eye Institute。
9月にJCで取り上げたんで、古いけど書いておく。
ME GoldbergとRA Andersenの永遠の戦いの何幕目か。ME GoldbergとRA Andersenは頭頂野の視覚-眼球運動領域であるLIPの機能に関して10年以上延々論争を続けている*1。Goldbergはattentionだと言うし、Andersenはmotor intentionだと言ってる(ちなみにGlimcherはdecision variableだと言ってる)。今回のGoldbergの論文は視覚的注意が光点が急に現れることでその光点に注意が向いてしまう現象に関して電気生理をしている。
タスクはNandVのfigure参照。
で、私の結論を言うと、Goldbergの説明は成り立つが、Andersenの考えでも今回の論文の結果は説明できてしまう。よって今回の論文では決着はつかない。詳しいことはまたこんど。

*1:Goldbergがattentionと言い出したのは1972 JNP、Andersenがmotor intentionと言い出したのは遅くとも1988 EBR


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