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■ 生理研研究会 最終回「認知神経科学の先端 宣言的記憶の脳内メカニズム」無事終了しました

今年の生理研研究会は11/13-14に 「認知神経科学の先端 宣言的記憶の脳内メカニズム」ということで開催しましたが、無事終了しました。参加者は講演者含めて57人くらい、会場的にはちょうどいい感じだったのではないかと。

タイトルは「宣言的記憶」でしたが、これは納家さんのこだわりです。Larry Squire的な分類からはエピソード記憶と意味記憶とを合わせて「宣言的記憶」と呼びます。宣言的記憶はdeclarativeである、つまりverbalに命題として表現できる点とexplicit memoryつまり意識が関わる点を強調しています。私自身はTulvingの言い方に共感していて、意識研究から見れば「エピソード記憶」こそが本丸であり、ヒト研究の人も動物研究の人も関わる問題領域としての意義が明確になったのではないかと思うのだけど。

講演の進行としては、月浦先生にイメージングと臨床も絡めたお話をしていただいて、パーキンソン病での記憶の話を伺いました。ドパミンの関与についてこれでわかりそう。川口先生にエピソード記憶がメンタルタイムトラベルであり、過去だけでなく未来への展望を作るものであることについてお話いただきました。ここまでがヒト編、ここから動物編で、藤澤先生にはいま進行中のお仕事としてラットの海馬場所細胞の表現について自己と他者の場所表現の話、山本先生にはマウスの海馬と嗅内野の間のhigh gammaの同期とオプトジェネティクス、ということでお話いただきました。懇親会では海馬のリプレイ活動がメンタルタイムトラベルといえるかどうか、いやそういうためには何らかエモーショナルな追体験が必要なんではないかとかそういうことを話したり。

二日目は藤田先生のメタ記憶の話で、いかにしてintrospection以外での説明を除外するかという話を伺って、私はエピソード様記憶との関連について聞いてみたのだけど、比較認知的にはメタ記憶テストができてエピソード様記憶テストができない場合もあればその逆もあるとのことでなかなか簡単ではない様子。納家先生からはwhat-whenの連合についてnhpでの電気生理の話があって、金丸先生からは神経回路モデルでのアトラクターダイナミクスをAChがどう変えるか、という話で、それが川口先生の話にでてきたデフォルトモードネットワークとprospective memoryとリンクしてたりして私としても楽しませてもらいました。

こういういろんな分野の人が集まってという話だと接点が見つけられなかったりすると寂しい感じになってしまうのだけれども、議論もなかなか盛り上がって時間も延び気味だったし、良かったのではないかと。も少し空気読まないで荒れるような議論が起こってくれるとよかったのだけれども(Squire派vsTulving派とか、動物にエピソード記憶なんてないのじゃないか?とか)。でもまあそういうのは狙ってできるものではないので、場を作っていくしかないって思ってる。

そんなこんなで研究会は最後に私からのconcluding remarkで締め。Twitterなどではアナウンスしていましたように「生理研研究会 認知神経科学の先端」は今回が最終回となります。この研究会は当教室のPI伊佐正教授が所内対応教官として生理研の共同利用研究の一環として生理研からの予算を元にこの研究会を開催してきました。わたし吉田正俊は世話人という名前のもとにこの研究会を実質的に運営してきました。伊佐正教授の京都大学への異動に伴い、この形式での開催は終了となります。

この研究会を始めるにあたって現在京都大学の小川正さんといっしょに話し合って決めたコンセプトは「認知神経科学の先端」としてとりあげるべきテーマを毎年変えながら、それにふさわしい提案代表者の先生とともに、さまざまな分野(たとえば神経心理、計算論、機能イメージング、神経生理学、比較認知、発達心理、ロボティクス)の先生からご講演をいただき、若手を中心とした参加者と議論の時間に重点を置く、というものでした。

これまでの会を振り返ってみましょう。けっきょく全部で7回の開催となりました。

2009年と2013年は「国際研究集会」という枠で海外の研究者も招いて英語での講演となりました。印象深かったのは2009年の「意識」。参加人数が200人越えて、講演者も豪華で、あれは2011年の京都でのASSC15(国際意識学会)のプレミーティング的な役割を果たした偉業だったと思ってます(自画自賛)。

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これらのテーマを選定したのは私でしたが、それの狙いはなんだったかというと「意識」を研究するためには何が必要かということでした。もちろん認知神経科学の重要トピックは全てなんらかの形で意識と関わっているわけですが、この図にあるように、意識を取り囲む形でどういうトピックが重要かと考えた上でのテーマ選択だったのでした。

意識を科学的に取り扱うためには、どうやって注意と意思決定と混同せずに評価するかが重要項目ですし、意識経験を構成するにあたって自己と他者との関係がどこかで必須であり、そして世界が他人事でなく自分ごとであるということを支える動機づけというものが無ければ意識は存在しえないでしょう。知覚運動ループを元にした身体性の形成が意識を構成する土台(構成要素そのものではないとしても)であるのは確かではないかと思います。推論というかもっと大胆に言えばintrospectionをどのようにして形式的に扱うか、これは意識を取り扱うためには解決することが必須の問題です。メタ認知が意識を持つということに必要な条件のひとつであること、宣言的記憶(というかエピソード記憶)が意識経験を前提としていること、どちらも意識研究の問題圏内にあると思います。じつのところやっておくべきテーマはいろいろあったと思うのですが、感情emotionと意志、意図intention, volitionはやっておきたかったなと思いました。とはいえそれらを後回しにしてきたのは、どなたに提案代表者をやってもらえばそれができるかわからなかったから、ということではあるのですが。

全7回での講演者の数としては全員で54人。偶然だけど全員一回ずつ、私も一回だけ講演してます。(と書いてから、後で金井さんだけは2回やっていることが判明。) それからさらに指定討論者の方にも何度も足を運んでいただいて感謝しております。若手運営手伝いということで旅費援助した上で運営を手伝っていただきました。参加者の方にも毎年アンケートをとってきたのですが、これだけ違うテーマで繰り返し参加してくださった方もいらっしゃいました。ラボの方にも毎年お手伝いいただきました。皆様どうもありがとうございました。

そんなこんなで研究会のconcluding remarkでは、これまでどうもありがとうございました、って言って締めるはずだったのが、つい流れで「今後も形式は変わるかもしれませんがこのような試みを続けていけたらと思います、乞うご期待」とか言って終わらせてしまいました。とくにアイデアはないのだけど。どうすんのこれ?


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