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■ エナクティビズム入門準備中(1): Evan Thompsonによるエナクティビズムの特徴
エナクティビズムをどう説明したらいいか、資料を探していたが、基本的な文献の一つはEvan Thompsonの"Mind in Life"だろう。この本のp.13-14ではエナクティブ・アプローチを以下の5つの項目にまとめている。(同じ文章が"Precis of Mind in Life"(PDF)の中にあり。)
「エナクティブ・アプローチ」はいくつかの関連する考え方を一つにまとめたものだ:
- 自律性(autonomy): 「生きている存在」は自分自身を生成し維持する、そしてそれによって自分の「認知的ドメイン」を産出(エナクト)する。
- 「生きている存在」のもつ神経システムは自律性を持った動的システムである。つまり、その神経系は他のニューロンへ作用を及ぼすニューロンによって作られるcircularおよび再入力するネットワークの操作によって、それ自身のcoherentかつ意味を持った活動パターンを生成し、維持する。その神経系は計算主義者が言う意味での「情報の処理」をしているのではなくて、「意味の創出」を行っているのだ。
- 認知cognitionとは環境の中に埋め込まれsituated身体化されたembodied行動による技能化されたノウハウの実行のことだ。認知的な構造とプロセスは知覚と行動からなる再帰的な感覚運動パターンから創発してくる。有機体と環境からなる感覚運動カップリングはその神経系の活動の(内因的な)動的パターンを決定づけるのではなくて、あくまでもそれをmodifyするのに留まる。そしてこの神経系の活動が今度は感覚運動カップリングにinformする役割を持つ。
- 認知する存在の世界は、(脳によって内的に表象されている)予め決められた[外的な領域]ではない。認知する存在の世界とは、[その存在の自律的な主体性]と[その存在が環境とカップリングする様式]によって産出(エナクト)される[関係的なドメイン]である。
- 「経験experience」とは付帯現象的な副作用ではなく、その存在が持つ精神mindを理解するのに当たって中心的なものであり、現象学的方法によって注意深く明らかにされる必要がある。
これらの理由から、人間の経験についての[認知科学]および[現象学的探求]は。相補的かつ互いに知見を与え合う形で追求される必要がある、このように「エナクティブ・アプローチ」は主張する。
この説明を見ると、2)3)のあたりに神経ダイナミクスについての項目がある。北海道サマーインスティチュートでの私の担当部分の講義では、そのあたりの説明に注力することになるだろう。
あと、enactivismを説明するためにはそれらの近隣の概念として4E cognition (embodied, embedded, enactive, and extended)の違いの説明も必要だろう。
参加者はさまざまな背景の方になるので、神経科学の基本のうち、エナクティヴィズムの説明に必須な部分を抽出する必要がある。神経ダイナミクスの説明のうち、「脳には身体が必要」「脳は環境と相互作用してループで動作する」ということは基本中の基本ではあるけれども、それだけでは4E cognitionのうちembodied / extendedまでの話にしかならない。
Enactiveな神経ダイナミクスの説明では、[自律性(or 操作的閉包)]と[意味生成]の概念について実例をあげることが必須となるだろう。
前者について説明するためには、神経ネットワークが自発的活動を持って時々刻々活動を変化させているのであって、外部入力に受動的に応答するものではないということを伝える必要があるだろう。このことはそもそもの素子である神経細胞についてもそうであって、神経活動の発火というのは状態空間の中でぐるぐる回ることだ。
後者については、いつも使っているHurley and Noeの可塑性からの回復の議論(脳が表象をつくるとするinternalist viewと外界との相互作用によって作られるexternalist view)のトピックなどを採り上げるだろう。
もうひとつ、Evan Thompsonのトークの動画とスライドというのも見つけた。こちらではエナクティビズムについて多少違った表現をしている。スライドにあるenactive propositionsというのを抜き出してみよう。
- Autopoiesis (self-production) and adaptivity (self-regulation with respect to the system’s viability conditions) are necessary and sufficient for life.
- Autopoiesis is the paradigm case of autonomy—the best understood and minimal case of an autonomous organization.
- Autonomy and adaptivity are necessary and sufficient for agency and sense-making.
- Living is sense-making in precarious conditions.
- Cognition—being directed toward objects as unities-in-manifolds of appearance with spatial (foreground-background) and temporal (past-present-future) horizons—is a kind of sense-making linked to movement and the nervous system.
この定義で説明するためには、そもそもオートポイエーシスとはなにかという説明が必要になる。これはなかなか鬼門。田口さんがサジェストしたように、
@ShigeruTaguchi もっと一般的で簡潔な仕方で導入し、後の方で「この考えを突き詰めていくとオートポイエティックな見方にも言及する必要が出てくる」として、簡単に紹介する程度にとどめるのがよいかもしれません。
こういう感じのほうがよいように思う。
ただ、この特徴づけには考えさせるものがある。Enactiveであるとはつまるところ、life-mind continuityそのものであるのだけど、それを二つのキーワードで表せば、autopoiesisとadaptivityなのだ。FEPはadaptivityの部分の定式化であって、autopoiesisの部分の定式化にはなっていない。やっぱりそこが必要なんだと思う。
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- / 投稿日: 2019年03月09日
- / カテゴリー: [オートポイエーシスと神経現象学]
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