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■ 「エナクティビズム入門一週間コース」をやります/エナクティビズムっていったいなに?

今度の8月に北海道大学で「エナクティビズム入門一週間コース」をやります。ぜひ来てください。

コースの詳細についてはこちら:Philosophy: Introduction to Enactivism: Moving to Know, Knowing to Move

これは北海道サマーインスティチュートという北大で何回か行われているイベントの一部です。このなかで北大文学部の田口茂さんはこれまで現象学をテーマにした講義を行ってきましたが、今年は田口さんに声をかけてもらって吉田も講師をさせていただくことになりました。講師は私(神経科学者)とTom Froese(複雑系研究者)と田口茂さん(現象学者)の三人で異なる分野をカバーしつつ、エナクティビズムについて講義と実習を行おうというものです。

日程は8/5(月)-9(金)で朝10:30から夕方16:15まで、まるまる一週間使ったものになります。参加者は国内、国外両方含んで英語での講義、実習となります。参加申し込みの資格、手続きなどについてはApplicationsをごらんください。参加募集のほうは一次募集が2/1-2/28で一旦クローズしたところです。こんど4/26-5/8に二次募集がオープンします。それに向けてこのブログでも宣伝活動をしてゆきます。


さてさて、ところでエナクティビズムっていったいなんでしょうか? この言葉を最初に使ったのはヴァレラ、トンプソン、ロッシュの「身体化された心」ですので、そこから引いてみましょう。

まずエナクティビズムの定義の前に、認知主義的アプローチ(脳を計算機として捉える立場)について質問形式で表現しています。

  • 問1: 認知とは何か?
  • 答え: シンボルによる計算(ルールベースでのシンボルの処理)としての情報処理
  • 問2: 認知はどのようにして働くのか?
  • 答え: シンボルの維持と操作が可能であるデバイスを通して働く。このシステムはシンボルの形式(およびその物理的属性)と相互作用するが、シンボルの意味とは相互作用しない。
  • 問3: ある認知システムが適切に機能しているかどうかはどうやったらわかるのか?
  • 答え: そのシンボルが実世界のある側面を適切に表象したうえで、情報処理によってそのシステムが与えられた問題をうまく解決できたとき。 (訳本p.73-74 吉田による原文からの超訳)

これに対してエナクティブ・アプローチではどのように答えるか、同じ質問形式で表現しています。

  • 問1: 認知とは何か?
  • 答え: エナクション(=行為からの産出)。これは世界を創出する、構造的カップリングの来歴のこと。
  • 問2: 認知はどのようにして働くのか?
  • 答え: 相互に結合した感覚運動ネットワークからなる、様々なレベルを持つネットワークによって働く。
  • 問3: ある認知システムが適切に機能しているかどうかはどうやったらわかるのか?
  • 答え: その認知システムがいまここで存在している世界の一部となっているとき(これはどの種の子孫においても見られる)、またはその認知システムが新しい世界を形作るとき(これは進化の来歴の中で起きる)。 (訳本p.292-293 吉田による原文からの超訳)

まあわかりにくいですね。エナクションenactionとはある認知システムが身体を通して環境に働きかけて意味と世界を作り上げるということです。 説明的翻訳だと「エナクション=行為からの産出」となります。「構造的カップリング」とはなにか、これは後で出てきます。

ではエナクティビズムの定義について、べつの例を見てみましょう。Shaun Gallagherが最近出した本 "Enactivist Interventions"についての特集号でprecis(要約)を書いてます。ここにエナクティビズムの中心的考え7つをリストしてありました。網羅的なものではないという断りはあったけど、これをまとめてみましょう。

  1. 「認知」は脳内のみのイベントではなく脳-身体-環境に広がっている。
  2. 「世界」は認知と行動によってエナクトされる。
  3. 認知プロセスはこの世界における意味の獲得であり、表象のマッピングではない。
  4. エナクティビズムはダイナミカルシステム理論と強い結びつきを持つ。
  5. 認知システムは(自己から)拡張されているが、機能主義的な「拡張された心」のことではない。
  6. 高次認知機能も技能的なノウハウの実践である。
  7. このような高次認知機能は感覚運動的協調のみならず身体の情動的な側面にも根ざしている。

それではもうひとつ、Karl FristonがEmbodied Cognitionについて語った動画があるのですが、それに聞き取りが書かれています。それを読んでみましょう。(ちなみに聞き取りもYouTubeの自動字幕もenactivismをinactivismと書いてる。「不活動主義」じゃないよ!暗い部屋大好き主義みたいじゃん!<-案外的を射ている)

弱いエナクティビズムでは、たんに我々の行動は我々の認知にとって重要だというものだ。…たとえば空港内で危険人物を見つけるロボットを作らないといけなかったとする。このときロボットはその人物が何をしているのかについての不確定性を下げるために情報をサンプルする。これがアクティブ・サンプリングというもので、ほぼ常識になっているような考えとしてのエナクティビズムだ。 しかしもっと徹底的なエナクティビズムもある。その考えでは脳と表象主義を無しで済ませようとする。有名な例としては(脳または制御ユニットなしに)二足歩行で坂を下るロボットがある。(訳注: たとえばこれみたいなのだと思う youtube ) つまり、認知は身体にあるわけだ。これが徹底的なエナクティビズムだ。ロボットの身体の構造自体が環境にチューンされている。すべてはそのような身体と環境のカップリングのなかにあるというわけだ。

ここでの「弱いエナクティビズム」はギャラガーはエナクティビズムにいれないだろう。「二足歩行で坂を下るロボット」の話で出てくる「身体と環境のカップリング」、これがヴァレラの定義で出てきた構造的カップリングのことです。

エナクティビズムについて知りたい方への参考図書としては、コースのシラバス(PDF)に記載した以下の3冊がよいかと思います。


それではぜひ応募してください。次の募集期間は4/26-5/8です。実習があるので人数にかぎりがあります。よろしくお願いします。参加申し込みの資格、手続きなどについてはApplicationsをごらんください。

次回のブログ内容の予告:どういう内容の講義をするかの構想案。Tom FroeseがMichael D. Kirchhoffといっしょに書いたFEP(およびpredictive processing)とenactivismの合体についての論文Entropy 2017 "Where There is Life There is Mind: In Support of a Strong Life-Mind Continuity Thesis"の解説、などなど。


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