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■ 生理研一般公開で視線計測の実演をします

生理研一般公開で視線計測の実演をします。2014年10月4日(土) 9:30-17:00 (受付終了16:00)場所:岡崎コンファレンスセンターおよび生理研 明大寺地区。

うちのラボでは毎回マッスルセンサー(簡易筋電計)だったのだけれど、今年はアイトラッカーを使った出し物をすることになった。はじめての試みなのでいろいろ思案してた。けっきょくあんま手をかけずに、ゴーグル型のアイトラッカー(Arrington Viewpoint)を持っているので、これかけてもらって視線計測しながらボールとか使って遊んでもらってシーンカメラの記録をリプレイすればじゅうぶん楽しめるなという考えに至った。

じつはもっと研究っぽく、投球の映像を流してそれをバットを構えて見てもらってとか考えていた。こういう研究は昔からあって、興味あったのだけれど、それのために投球の映像とかを作らないといけないのでたいへん。

そんなことせずともテニスボール投げるのをバッターボックスで見ているだけで行けるんではないだろうか。精度的に行けるか実地で試してみる。

ちょっと背景の話をすると、野球のバッティングでは「球をしっかり見ろ」と教えられるけど、じつのところ、打撃しながら球をずっと見続けることは出来ない。

まずは時間の側面から考えてみよう。ピッチャーのプレートからホームベースまでは18.44mで、球のリリースポイントから考えると17mくらい。急速が120km/hだとしたら、500msでホームまで届く。バットをスイングするのに最低150msはかかる。球のリリースポイントの視覚情報がV1まで来るのに50msくらいはかかる。このへんを合わせると、バットを振るか、どこに向けて振るかを決めるために使える時間は非常に少ないことがわかる。(参考:Sports Vision - Vision Care for the Enhancement of Sports Performance. By Graham B. Erickson p.30-32)

つぎは視線について考えるために視野角を計算してみよう。バッターからピッチャーを見た向きを0度として、球がホームベースを通るときの視野角を90度とする。ピッチャーが球をリリースした直後の視野角はほぼ0度で、球がホームベースに近づくまではこの角度はほとんど変わらない。視野角は打つ直前に急速に高くなるため、眼球運動で追従することは出来ない。このためたとえプロの選手でも球を打つ瞬間は球を見ていない。

ちょうどいいのがないのでプロじゃないけどyoutubeのこの映像:Mobile Eye Tracking: Improving Visual Perception in Baseball これよりもテニスの映像のほうがわかりやすいか:Playing Tennis with SMI Eye Tracking Glasses 原理的には同じなので。

ちなみに打撃とキャッチングでは話が違う。PLoS One 2014 Keeping Your Eyes Continuously on the Ball While Running for Catchable and Uncatchable Fly Balls を見ると、ほぼ最後まで球を見続けている。とはいえ時間スケールが違うので単純に比較できない。

クリケットの場合だとボールが近くに来る前に予想的なサッカードをしていることが知られてる。Nature Neuroscience 2001 From eye movements to actions: how batsmen hit the ball 一方で野球の場合はどうかというと私はこれまで関連論文を読んでなかった。というのもだいたいこういう論文はPerceptual & Motor Skillsに出版されるので、購読してないうちでは読めなかったもんで。

でも今回調べてたら、OPTOMETRY AND VISION SCIENCE 2014 A Method to Monitor Eye and Head Tracking Movements in College Baseball Players(pdf)という論文を見つけた。

これによると、大学野球レベルの選手では、球を見ているときはほぼずっと目は動かさず頭の動きだけで球を追従している。(眼は何もしていないということではなくて、主観的には、VORを打ち消すように眼も動かしていることになるはず。) それで、ベースを横切る最後の50msくらいだけ視野角にして10度眼を動かしている。

速度のレンジからしてこれは追従眼球運動ではなくてサッカードだろう。いろいろ面白い。ただしこの論文では打撃ではなくてテニスボールに書かれた数字と色を読めという課題なのでそれゆえの違いは出そう。つまり前者は行動のための視覚、後者は知覚のための視覚。

そういう意味では、打撃の状況で中心視と周辺視がどのくらい使われているかにも興味が出てくる。中心視と周辺視、reachingとgazeの関係に関しては五味先生がこの辺のことをやってる。JNS2006 Spatiotemporal Tuning of Rapid Interactions between Visual-Motion Analysis and Reaching MovementとかJNS2013 The Hand Sees Visual Periphery Better Than the Eye: Motor-Dependent Visual Motion Analysesとか。MFRやOFRと盲視との関係は私にとってずっと課題のままで、はやく盲視でreachingをやるべきなのだけれど。

あと、野球と周辺視というキーワードでPLoS One 2010 Transitions between Central and Peripheral Vision Create Spatial/Temporal Distortions: A Hypothesis Concerning the Perceived Break of the Curveballが引っかかってきた。これはVSSのイルージョンコンテスト2009のページで体験できる。

カーブが実際には滑らかに曲がっているにもかかわらず、なぜ急にギュンと曲がっているように見えるのかというと、gazeが周辺視から中心視に変わったからだというもので、面白いけど、だったら実地で試せば?と思う。つまり、カーブボールを見ている打者のgazeの動きは曲がったと感じたタイミングと関連しているか。

脱線しまくったけど、けっきょく一般公開の方は、頭動かして眼を測れるのだから、VORを体験してもらってもいいし、文章読んでもらってサッケードしている(追従眼球運動してない)のを知ってもらうとか、この分野の基礎を体験してもらうのがいちばん目的に叶っているんではないかと思った。

そういうわけで、カムカムエブリバディー。


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