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■ Science 2/11 leech decision

"Optical Imaging of Neuronal Populations During Decision-Making." K. L. Briggman, H. D. I. Abarbanel, W. B. Kristan, Jr@UCSD。
んで、今回のleech論文はdecisionなのかchoiceなのか、という質問ができるわけです。いろいろ書いたようになかなか難しい問題はあるのだけれど、行動をbiasさせるためのパラメータを振っていないという点で今回の論文は単に「行動選択」でもよかったわけです。ただ、そのような行動選択に関わるニューロンの中で一番早く行動分岐に相関して発火の分岐が起こるものを見つけた、その点でactionやchoiceに先立つdecisionである可能性を持ったものを見つけた、ということは言えるのだと思います。もちろんべつにJeff Schallのパラダイムに乗っかる義理なんて全くないわけですし。それに、進むべき方向はそちらではなくて、そのような行動分岐がどういうネットワークのメカニズムによって起こるか(nonlinear dynamicsでのbifurcationと行動選択との関係)、というあたりでしょうし。
もちろん、行動選択の回路解明という意味で重要な知見で、その意味では小田洋一先生@阪大の金魚のMauthner cell刺激による逃避行動の仕事とか、lamprey(ヤツメウナギ)やcrayfish(ザリガニ)でのlocomotionとかの膨大な知見と比較して読む必要があることでしょう。(すいませんわかっておりません。)
それからもう一件:哺乳類で脳活動をsingle-unitなどで記録してさまざまな認知行動のneural correlateを見つける、というのはいわば博物学的な仕事です。そのとき問題になるのは、「ある認知行動のneural correlateを見つけた」というときにそれを引き起こした上流のニューロンはどこにあるか、という無限退行が起こることです。たとえばmovitationでも、SNrの上流にcaudateがあって、caudateの上流にSNcがあって、ではSNcの上流は何か、と遡ってゆくわけです。また、このように遡っていく課程でmotor-premotor-SMA-preSMA-cingulateという順番で研究が進んだのだと思うし、prefrontalの研究で10野の機能を明らかにしようとしている人は、どんなに遡っていっても結局知覚と運動のコンビネーションとしてしか情報がコードされていないprefrontalにまだ何かあるのではないか、とフロンティアを探しているのだと思うのです。(かなり無理をしたのでツッコミよろしくお願いします。)
んで、こういう状況に関して私は、個々のニューロンは入力を足しあわせて計算して出力しているだけであり、どこかで全体をモニタしているところなどない(prefrontalであってさえも)し、直接知覚や行動とカップルしているのはretinaやmotoneuronだけに限られるのであって、そういう分散処理されているなかでsingle neuronがたまたま知覚や行動とcorrelateしているのを「表象」として扱っている、ということだと言うわけです。つまりこの表象はVarelaがいう「弱い意味での表象」であって、観察者から見たcorrelation自体のことなわけです。
今回の無脊椎動物での仕事はこのような状況をみもふたもなく示しているわけです。In vivo optical imagingのときに書いたことと重なるけど、すべてのニューロンの活動がモニタされて、どこにもすべてをモニタしているニューロンがないことが明らかな状況で、どう私たちの概念構成(sensory-decision-motorとか)が変化し、どうやってニューロンのコードの読みかたが確立するか、という問題がより明確になってゆきます。しかしそれ自体はいまでもわかっていることなのであって、もっと違った問題の捉え方、定式の仕方が出てくるのではないか、と期待しているのです。実験科学者としては、やってみて初めてわかること、手を動かすことで問題がより明確になってゆく、ということにかなり素朴な信頼を寄せているわけですな。うーむ、とりとめなくなってきた。ここまでか。

コメントする (1)
# がや

 お、ひさびさに読む論文が一致しました。
 そうですね、ロジック上の「無限退行」は避けなければいけません。この意味で「総合モニタ系が存在しない」という意見に激しく同意しますし、案外、“かなり低い次元の回路”に含まれるニューロン個々のongoing membrane fluctuationが一種の“stochasticity”としてdecisionに効いているのでしょう。このScience論文はまさにそういう内容なりますね。つまり、回路だけでも、また神経だけでも、説明できないわけで、これはとりわけ、Cell208の同定の仕方と刺激実験の“いまいち切れ味の悪い結果”が、それを物語っていると思います。いずれにしても、そう、実験科学者は「弱い意味での表象」の観察(傍観)者にすぎないことを忘れてはいけませんな ← ポジティブな意味です。そして、それを踏まえたうえで、今回の論文は、「真実」をきわめて鋭利な刃で切った、その一面(のみ)を見せてくれています。こういう論文は私の好みです。
 あと、一昨日の記述。イントロの3種類のストラテジーは、あくまで実験者側からのストラテジーの分類ですので、pooneilさんの「現象側」から批判は当たらないかもです。あ、些細なことっすね、これは。


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