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■ マカクでTET-on/TET-off --- 伊佐研からNature出ました!

私が助教を務めている、生理学研究所の認知行動発達研究部門(伊佐研)からNature出ました!

Kinoshita et.al., Nature 2012 "Genetic dissection of the circuit for hand dexterity in primates"

詳しいことはプレスリリースを見てもらうとして、要は、

  • マカクでTET-on/TET-offシステムを使った経路選択的な機能遮断に成功した。
  • マカクで、解剖学的に同定されたある経路だけに発現するようにベクターを二重感染させてやる。
    • 順行性のベクターを領域Aへ、逆行性のベクターを領域Bへ注入すると、領域Aから領域Bへ投射しているニューロンだけで二重感染が起こる。
  • でもって、DOX(抗生物質)入りの水を飲ませてやると、その時期だけその二重感染した経路が遮断される。
  • これによって、損傷実験や薬理学的抑制よりもより選択的かつ可逆的に、ある経路がある機能に関連しているかどうかを切れ味よく示してやることが出来る。
    • 損傷実験では機能回復や機能代償の効果が無視できない(だから私は機能代償の方に主眼を置いている)。
    • ムシモル注入などの薬理学的抑制実験ではムシモルがどのくらい広がったかといったコントロールが難しいし、そもそもどこに注入できたかをあとで確認するすべがない。

こういう系をはじめてマカクで実現したということが重要。原理的には解剖学的結合が分かっていればどこにでも応用できる。マカクでこの方法が使えれば高次脳機能についてのこれまでの知見に応用が可能になる。よってそのインパクトは大きい。だからNatureに掲載された。

けれども、マカク用のベクターを開発する、といった各ステップがたいへんなので、このような仕事には大々的なコラボレーションが必要で、今回のこの仕事は脳プロ課題Cの枠組みを最大限に活用することによって実現した。そのへんに関しては文科省ライフサイエンス課の資料(PDF)が詳しい。

方法論の論文じゃんってのはその通り。今回の実験系は脊髄にチャンバーつけて行動中にムシモル入れるとかしないかぎりこれまでの方法では難しいし、ゆえに急性実験のレベルまででしか明らかになっていなかったことを明らかにしたという意味では、この方法ならではとは言える。しかし、ムシモル注入ではなくて、原理的にこの方法でないと見つけられないものを出せるかどうかというのがおそらくは次の課題となるのだろう。たとえば…まあ思いつくでしょ?

ともあれ、木下さん、おめでとう!(ラボの部屋の私の席の真後ろにいる。)

コメントする (2)
# やまだ

おめでとうございます。読売オンラインで知って、武井さんや大矢さんと盛り上がってました。すごいですね~Nature。
 この方法はムシモルと比べてかなり画期的ですよね。ある二つの領域を繋いでいる細胞だけ機能を可逆的に落とせるんですから。
アポトーシスがどの程度起こるのか知りませんが、ほとんど完全に可逆的そうですね。この方法なら、あるネットワークの一部の経路を落とした時のネットワークの状態とか議論できますよね。最先端を切り開いていってるのは本当に尊敬します。意思決定のような曖昧さの高い研究にこそ、いろいろ使えるように思います。

# pooneil

どうもありがとうございます! まあわたしはオーサーではありませんが、このテクニックが今後いろんなところで使われていくといいなと思います。
どのくらい機能補償が起こるのかとか(図を見るとDOX飲ませているあいだにも成績は回復してる)、感染効率どのくらいだと認知的課題に影響及ぼせるかとか、いろんな場面でこれから検証されていくと思います。


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