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■ トノーニの「意識の統合情報理論」について:大泉匡史さんからのコメント

ジュリオ・トノーニが来るワークショップ "Measuring Consciousness - Theory and Experiments"は京大で3/25開催。参加費無料、申し込み手続き不要。

前回のエントリのつづきで、京大意識イベント"Measuring Consciousness - Theory and Experiments"について。いまトノーニのラボに在籍していて、今回のシンポジウムのオーガナイズを一緒にやっている大泉匡史さん(ウィスコンシン大学、理研BSI)からツイッターでコメント(このあたり)をいただいたので、許可を得て転載します。ここから:


IITに関しての吉田さんのつぶやきは非常に率直で参考になったのだが、一点だけ補正しておきたい。「経験的事実からではなくて、情報理論的に天下りにphiというのを持ってきたのが特徴」というのは私の理解とは違っていて、むしろ経験的事実から考え出したのがphiという量である。

経験的事実からかけ離れている理論であれば、Christof KochがIITを”the only really promising fundamental theory of consciousness”とは評価しないだろうし、自分も今Tononiのところにいるということはないだろう。

もちろん経験的事実をベースにしながらも、「飛躍」は存在しているが、飛躍をできる創造力と勇気がある人が優れた理論家であると私は思う。理論の「飛躍」が正当化されるかどうかは実験的検証を待たなければならなくて、それが今自分がやろうとしていることである。

ただ重要なのは、吉田さんや多くの人がIITを「なんかよく分からない」理論と思っているということにある。実際自分も初めて論文を読んだ時は「なんかよく分からなかった」し、途中で何度も読むのをやめようと思ったほどである。これをどうすれば解消することができるかを考えたい。

原因の一つは、書いてある数式がいまいち良く分からないという点にあると思う。それが吉田さんの「情報理論的に天下りにphiという量を持ってきた」という印象を与えてしまっているのにもつながっている気がする。

誤解を恐れずに言ってしまえば、IITの論文に書いてある数式自体はある種どうでもいいものである。これを理解するのに時間、注意がとられてより重要なメッセージを逃してしまうのがもったいないと思う。はじめは式やシミュレーションなどは無視してもいいかもしれない。

論文の中で最も重要なのは、Tononiがなぜphiという量を意識に関連する重要な量と考えているかを読み取ることにある。といってもこれは論文に書いてあるといっても、ぴんとくるかどうかはまた別問題で、自分もTononiの真意が分かってきたのはここ最近のこととである。

というわけで、IITはまず論文を一度読んですぐ面白さがぴんとくるという類のものではないと思う。少なくとも自分はすぐには分からなかった。自分でじっくり時間をかけて考えたのと、Tononi本人からたくさん話を聞いてやっと自分なりの理解が得られたという次第である。

今回のワークショップでは吉田さんにIITの意味を分かってもらうことを自分の中の目標にしたい。ただ、意味を分かってもらうというだけで、それをpromisingな理論として評価してもらうというわけではない。

今回のワークショップが終わった際に吉田さんのIITへの評価が変わらなかったとしてももちろんオッケーで、十分有り得ることだが、どこが納得いかないかなどを議論できることが有意義であろうと思う。

最後に優れた理論とは何かということで補足すると、優れた理論とはその理論を基に多くの研究が行われ、科学が進展する理論のことであると思う。もちろんその理論が「正しい」のであれば一番良いが、仮に「間違って」いたとしてもその過程で科学が進歩すればそれは優れた理論と思う。

その意味ではIITは優れた理論だと私は思っていて、それが正しいとか間違っているとかに関しては二の次位に思っている。そもそも科学の中で「完璧に正しい」理論というものはなくて、「ほどほどに正しい」理論が生き残って、それが徐々に「より正しい」理論に置き換えられ進歩していくと思うので。


以上です。大泉さん、どうもありがとうございました。

ジュリオ・トノーニが来るワークショップ "Measuring Consciousness - Theory and Experiments"は京大で3/25開催。参加費無料、申し込み手続き不要。


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