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■ エズミに捧ぐ-愛と汚辱のうちに

サリンジャーのナイン・ストーリーズに入っている「エズミに捧ぐ -愛と汚辱のうちに」("For Esmé - with Love and Squalor")の原文を読んでた。

このSqualor(汚辱)をどう訳すか、なんだけど、英語のニュアンスなんてわかりゃしないんだけど、試しにsqualorで画像検索(セーフサーチオフで)してみたらゴミ屋敷系の画像がたくさん出てきたので、なんか分かった気がしてきた。

それにしても、まだ分からないのだけど、Esmeはなんで"I prefer stories about squalor"と言ったのだろうか?

"I'd be extremely flattered if you'd write a story exclusively for me sometime. I'm an avid reader."

I told her I certainly would, if I could. I said that I wasn't terribly prolific.

"It doesn't have to be terribly prolific! Just so that it isn't childish and silly." She reflected. "I prefer stories about squalor."

"About what?" I said, leaning forward. "Squalor. I'm extremely interested in squalor."

I was about to press her for more details, but I felt Charles pinching me, hard, on my arm.

私はずっと、Esmeは背伸びをして間違った言葉を使ったのではないかと思っていた。"Make it extremely squalid and moving”とあるように、movingに近い、なんかの言葉と取り違えているのではないかということだ。

でも、解説とか探したんだけど、そういうことではないようだ。 ネット上で一つ見つけたのがこれ:

どうやら、Esmeはsqualor / squalidという言葉の意味を知ってはいるけれど、実のところ世の中のsqualorとはどんなものなのかを知らずにそう言ったという理解のようだ。その直前では、”childish and silly”ではないものを書いてほしい、と言ってるし。(とはいえ、彼女は以前戦争で父親を失っているのだが。)

"About what?" I said, leaning forward. ここを見ると、やっぱそうとうあり得ない単語が出てきたと考えるべきだ。英語のニュアンスはわからないが、主人公はギョッとしてように見える。

英会話すらおぼつかないくせに英語文学読もうなんてのがそもそも的外れなのである。でもやる。

"I told her I certainly would, if I could" ここの"if I could"は泣ける。なぜなら主人公はこのときノルマンディー上陸作戦へ出発する前日で、死を覚悟しているわけなのだから。


いちばんはじめのこの部分も味わい深い。

I thought it might just be possible for me to make the trip abroad, by plane, expenses be hanged. However, I've since discussed the matter rather extensively with my wife, a breathtakingly levelheaded girl, and we've decided against it--for one thing, I'd completely forgotten that my mother-in-law is looking forward to spending the last two weeks in April with us. I really don't get to see Mother Grencher terribly often ...

この文章の”rather extensively”という表現で、奥さんに「ちょっとぉ、うちのお母さんが来るの忘れたの? お母さんもう歳なんだからそうそう一緒にすごす機会無いんだからね?」とかこんこんと説教されて、泣く泣くEsmeの結婚式へ出席するのを断念したところまで想像できた。

それは、"breathtakingly levelheaded girl"のbreathtakinglyという大げさな表現で書くことでもそういう皮肉のニュアンスが出ているはず。少なくとも私はそういう毒電波を受信wできた。

All the same, though, wherever I happen to be I don't think I'm the type that doesn't even lift a finger to prevent a wedding from flatting.

持って回った表現すぎてどっちなんだか混乱する。よくなくなくなくなくなくない、みたいな。

そのまま読めば「俺盛り上げられずにはいられないよん?」みたいなかんじだけど、キャラ的にあり得ないからこれも皮肉的表現としかいいようがない。

つか著者病んでるから、書いてあることの意味は全部いつでも、いくらでも反転するよな。主人公がEsmeに好感を持ったかどうかすら確定してない。

というか著者は確定させないようにバランス考えて書いているんだと思うので(つか自分が著者だったらそうする<-投影しすぎ)、「Esmeはsqualorでcharleyはlove」みたいな図式的な説を見ると、ホントどうかしてると思う。

国語の問題とかで、「主人公がEsmeに好意を抱いていることを示唆している部分を書き出しなさい」なんてのが出題されるんだろうか? そんなのわたしが許さない。


次男が「おばあさんのシワは何本あるでしょう?」という昨日と同じ謎々を出すので、4*8=32で32本!と答えたら、そういえば昨日出したか、と笑っている。Charleyのように拗ねたりはしない。いいやつだ。


知らず知らずのうちに、サリンジャーとかヴォネガットとか自分の観測範囲内での「戦争」文学に目が向くところに、時代とのcoincidenceを感じる。(<-非科学的な物言い) 今夜はEve of Destructionなんだろうか?


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