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■ 大脳皮質の連合繊維の構造

以前のエントリ「半側空間無視の原因部位は?」でとりあげたBartolomeo P, Thiebaut de Schotten M, Doricchi F, "Left Unilateral Neglect as a Disconnection Syndrome"(Cereb. Cortex, 2007)はposterior parietal cortexとprefrontal cortexとを結ぶfiberであるSLF IIの離断がおおきな決定因子ではないかという話だったわけですが、そこで準拠していたのがSchmahmann and Pandyaの"Fiber pathways of the brain" (2006) Oxford University Pressでした。

ちなみにこの本、一昨年のSFNで見つけて購入して当ラボにあるんですが、nhpの大脳でトリチウムラベルされたプロリンの注入でanterogradeラベリングをして、long-rangeのcortico-coritical fiberを追うということを長年にわたって行ってきたPandyaの仕事の集大成です。元々解剖をやっていたものとして、灰白質の方の分類に関してはいろいろ勉強してきたつもりですが(Brodmannの細胞構築による分類とかvon Bonin and Baileyの分類とか)、white matterのfiberをきっちり分類して把握しておくというのはあまりしてこなかったのでいかんなと思っていたところでこの本を見つけて、これは必読だと思ったわけです。

んで、それとは別ラインでDTIのこと勉強してたんですけど、そこで重要論文を発見:

Brain 2007 130(3):630-653 "Association fibre pathways of the brain: parallel observations from diffusion spectrum imaging and autoradiography" Jeremy D. Schmahmann, Deepak N. Pandya, Ruopeng Wang, Guangping Dai, Helen E. D'Arceuil, Alex J. de Crespigny and Van J. Wedeen

これはSchmahmann and PandyaがVan J. Wedeenと組んでdiffusion MRIを使ってnhpのassociation fiber (long distanceなcortico-corticalなfiber)のorganizationを調べたというものでして、上記のanteroの仕事と組み合わせることによって、diffusion MRIで調べたwhite matterの走行がanterograde tracerによるtract-tracingとちゃんと整合性があって、より詳しいこともわかるということを示したものでして、画期的なものではないかと思います。

それだけでなくて、上記の"fiber pathways of the brain"が大著すぎてフォローできなかった部分がまとめてあるので、association fiberについての概観を得る、という目的にも適しているんではないでしょうか。 まずは方法論の方ですが、diffusion MRIのことは詳しくないのでよくわかりません。nhpのbrainをpost mortemで、ガドリニウム(contrast ehnhansing agentとして使われる)に浸けたものを撮影します。ここで使っているのはDTIではなくて、DSIです。ほかにもDWIとかあったりして、私にはもはやさっぱりわかりません。

DSIを最初に報告したWedeenが著者に入っているので、その方法で様々なところを最適化しているようです。たとえば、post mortemの脳ですので、撮像にはいくらでも時間をかけられる。ここでは25時間かけてます。MRマシーンはBrukerの4.7T。DTIとの違いは、fiberがcrossするvoxelのところでちゃんと別方向のfiberを分けることができるという点にあるようです。Figure.2とかを見ると、見てきたんかってくらいもっともらしいfiberの走行が見られます。Figure.3にあるように、いくつか縛りをかけてやって、解剖学でのデータと整合性があるようにしているようです。このへんがミソらしい。そういう意味では、やっぱlong-distanceの長いfiberだから良いのであって、短いやつには向いてないし、あくまで白質でのデータであって、灰白質のどこからfiberが出ているかとかそういうのには向いてなさそうです。その意味では今回の方法論はSchmahmann and Pandyaのこれまでの仕事とベストマッチしていると言えることでしょう。

さて、そうやって出てきたデータのまとめがFigure.4-14です。もうここの図は、壁に貼っておくべきだね(言うだけ)。表にしておきます。ちなみに論文の本文は読んでないので、図を見てピンと来たことだけざっくりとメモっときます:

SLF-I superior longitudinal fasciculus, branch I
PRRとかからPMd,BA9へ。IPSとcingulate suclusとの挟んだところから出てくるから、parietalのmedial側もこれによってつながってるはず。Rizollattiとかが言うところのdorsal streamのうちさらにdorsal側の経路か。
SLF-II superior longitudinal fasciculus, branch II
LIPとか7AとかからFEF、BA46へ。ポイントとしては、白質の走行はけっこう深いところにあって、IPSのfundusからlateral fissureのfundusくらいまで広がってる。だから、PPCとtemporal cortexはそんなに離れていない、とも読める。(7BとかIPGのプロパーはSLF IIIの方なのでじつは離れているのかも!)
SLF-III superior longitudinal fasciculus, branch III
7Bとかinferior parietal gyrusの部分がPMv、BA44, BA46vとつながる。例の、ミラーニューロンの経路と大きく関係してくる。
FOF fronto-occipital fasciculus
DPとかPGってかいてあるけどようするにたぶんV3とかV6とかから直接FEFやPMdに行く経路。これがあるからたぶん、ボトムアップの信号はLIPを通らなくてもFEFに行けるし、FEFの応答潜時が異様に早いのもこういったショートカットがあるからではないですか。これも白質の深いところを走ってる。Long-rangeであればあるほどに深いところを走っている、という一般法則があるかんじ。これはたぶん、fiberの走行が全体の距離を最小にするようにできているとかそういう論文があったと思うけど、それを反映しているのでしょう。
UF uncinate fasciculus
TEから前頭葉に投射するものでして、Gaffanなんかはこれをtransectしたりするのだけれど、じつはTEからUFを介しての投射というのはOFCとかinferior convexityとかそのあたりに限局していて、ventral pathwayからの情報をprefrontal cortexに運んでいる本体ではないということについてはこれまでの解剖学の論文から持論としては持っていたのだけれど、この図を見てそれは正しいと思いました。本体はEmCですね。
EmC extreme capsule
STSのfundusからPFCのBA46のdorsal, ventral両方ともに走っている。この経路が重要であろうことはTomita et.al., NatureとHasegawa et.al., Scienceとからわかっているわけだけど、ま、多くは語りませんが。
AF arcuate fasciculus
これは知らなかった。超重要。TPO/TPtってなにやってんのか、ってそういう問題ですが。Schall-BullierののV4-FEFの結合もここですかね。
MdLF middle longitudinal fasciculus
STGの真下をTPOとかからTAaまでずっと降りてゆくやつ。興味深いのはparietalともつながっていることですね。おそらくはさらにいくつかのfiberのグループに分けられるのだと思うのだけれど。
ILF inferior longitudinal fasciculus
Ventral pathwayのメインのファイバーですね。V4からTE1まで行ってる。TE1というのはTEavやA36まで含む領域ですので、memory systemのほうまで直でつながっているということになるでしょう。あと、この経路のうち、dorsal側とventral側とはおそらくべつのものとしてさらに分類することが出来ることでしょう。
CB cingulum bundle
Retrosplenialとparahippocampalをつなぐ経路。これはRocklandとかもやってたし、泰羅先生のナビゲーションの仕事とかもやっぱこの経路で海馬までつながるんではないでしょうかね。

これはもう、データベースとして公開するべきではないでしょうかね。Van Essenの仕事とかと合わせて、マクロレベルでのconnectomicsとして共有すべきものであるように思うのです。どんなふうに進んでいるのかは知りませんが。ともあれ、tract-tracing techniqueの進むべき方向はこっちだと思ってます。ちなみにSchmahmann et.al.はあくまでanterograde tracerとDSIはべつの脳でやってましたけど、おなじ脳でやればもっとパワフルになるに決まってます。どこかに障壁はありますかね。たとえば、固定したあとで、contrast enhancing agentに最低28日浸ける、なんて書いてあるので、そのへんで抗原性とかが消えさえしなければよいわけですよね。

そういえば、Shuzoさんの「脳とネットワーク/The Swingy Brain」でのヒト脳内ネットワークのトポロジー

"Mapping Human Whole-Brain Structural Networks with Diffusion MRI" Patric Hagmann, Maciej Kurant, Xavier Gigandet, Patrick Thiran, Van J. Wedeen, Reto Meuli, Jean-Philippe Thiran

が言及されていました。ここでの「まずマカクで精度を確認すると」というのに対応するのが今回のSchmahmann et.al.と言えそうです。

ともあれこれは精読しなくては。(「あとで読む」カテゴリーかよ!)

コメントする (2)
# Shuzo

勉強になりました。マカクだからこそのすごい研究ですね。

この論文では積極的にshort fibersを取り除いたようですので、技術的にそのあたりの問題を克服できたらさらにすごいですね。それから、右脳・左脳のファイバーマッピングするのも面白いかな、と思いました(Fig.2Bなんか見ると左右差があるようなないような・・・)。fiber lesion的なパラダイムとも絡みそうで将来の期待大ですね。

そうそう、私のブログのエントリーまで紹介していただいてありがとうございました。(自分でそのエントリーを立てたことすら忘れてました。。。)

# pooneil

たぶんlong-distanceのものだけにしたからこれだけきれいなんでしょうね。皮質下との結合(basal gangliaやら上丘やら)はどのくらい見ることができるんでしょうね。
>>fiber lesion的なパラダイムとも絡みそうで
うむ、やはりなにかと組み合わせることが重要でして、この方向性が技術的にどのくらい可能か、私も興味を持ってます。


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