« 選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部 | 最新のページに戻る | 選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部 コメント応答 »

■ 選択した行動の正解不正解をコードする前頭前野内側部 つづき

前回のエントリに松元健二さんからコメントいただきました。どうもありがとうございます。まずつづきを貼ってしまいます。
Nature Neuroscience 2007 "Medial prefrontal cell activity signaling prediction errors of action values" Madoka Matsumoto, Kenji Matsumoto, Hiroshi Abe and Keiji Tanaka
つづきです。
ファクトのレベルとして正しいものを見ているかどうかという問題では、stimulusのnoveltyではないの?という疑問に答えなければなりません。つまり、visual blockで同じ絵が提示された後にnovelな方の絵(rewardと結びついていない)が提示されたときにのみ大きく反応するニューロンがあるわけですから。これに対しては著者はワンパラグラフとfig.4およびsupplementary noteとかなりの分量を割いて議論しています。要はaction-learning blockでnegative feedbackのときに応答が大きいニューロンを集めてきて、それのvisual blockでの応答を調べて、もしnovelなときに大きな応答を示すようだと、action-learning blockでのmodulationがstimulis noveltyによって説明できてしまうので、action valueのprediction errorのような複雑な概念を持ちだして説明することが出来なくなってしまうのです。
じじつ、lateral PFCのほうはnoveltyによって強く応答してしまいます。Medial PFCはそれほどでもありませんが、population averageにすると多少その傾向はあります。(ちなみにcellをひとつの点としたscatttered plotにするとそのような関係は見られないのだけれど、これはcorrelationが外れ値にものすごく影響を受けるという面もあります。) また、この論文を出す前に同じ課題とデータを用いて、Neuroscience Researchにnoveltyを扱った論文を出してます("Effects of novelty on activity of lateral and medial prefrontal neurons")。こちらはnovelty-familiarityがlateral PFCとmedial PFCとで違う形でコードされているという話で、それはattentionとdecisionという観点からは面白いのですが、この問題がかなりシリアスであることを物語っていると言えます。そのへんを概観した印象では、stimulus noveltyだけではmedial PFCのmodulationは説明できないだろう、というあたりがここはフェアな判断でしょうか。
しかしそれにしても、negative feedbackに対する応答がlateral PFCとmedial PFCとではmodulationとしてそんなに変わらないのに、かたやlateral PFCはstimulus noveltyによるかもしれなくて、かたやmedial PFCはprediction errorだというのはちょっとトリッキーです。
なお、SFN2006ではさらにaction-learning blockで図形が提示する前にだんだん上がってくるactivityについて調べて、top-down attentionによる要素を見ているのだろうと結論づけています(20061101でほんのちょこっと言及)。おそらくこのへんについても引き続き論文として出てくるのだろうと予想しますが、研究会ではこの話も合わせて話が聞けるのではないでしょうか。
もうすこし続きます。

コメントする (2)
# 松元まどか

生理研研究会の予習シリーズに取り上げて頂き、ありがとうございます。研究会では、行動学習中のoutcomeに対するニューロン活動の他に、outcomeの前の期間のattentionに関係したニューロン活動についてもお話させて頂く予定です。そして、個体が変化する環境の中で行動を適応させていくときの、前頭連合野の内側部と外側部の役割について考察したいと考えていますので、どうぞ宜しくお願い致します。
プレスリリースで教育への貢献をアピールしましたが、吉田さんのおっしゃる通り、「正解を教えることと、不正解を教えることの両方が大事という」こと自身は、行動データで明らかになることだと思います。今回の結果は、脳の中にそれをサポートするような結果を見つけたということだと思います。今後、行動データでは分る事の出来ないことを、脳を調べることによって明らかにしていくことが、脳科学の教育への貢献であると思いますし、それが期待されているのだと思います。
論文のストーリーとしてsecondary reinforcer を強調せずにmedial PFCの歴史的経緯から始めたのは、medial frontal cortexを研究している人たちの間で、「不正解だけでなく、正解も表現しているのかどうか」、「予測誤差を表現しているのかどうか」という議論があり、その議論に対して、私たちの結果が、何らかの答えを出しているのではないかと感じたからです。しかし、secondary reinforcerの神経細胞活動を報告した論文は、今まであまりありませんし、サルのトレーニングにも1年と長い時間がかかりましたので、secondary reinforcerの神経細胞活動の貴重な論文の一つとしても、認識してもらえると有り難いとも思っています。
Noveltyに関しての議論のところで、“しかしそれにしても、negative feedbackに対する応答がlateral PFC とmedial PFCとではmodulationとしてそんなに変わらないのに・・・”と書かれているところが、私にはそうではないように思われました。実際、medial PFCよりもlateral PFCのnegative feedbackに応答した細胞の方が、刺激のnoveltyに関して、はるかにsensitiveであったと思いますが(fig.4)。しかし、prediction errorとnoveltyは、密接に関係していると思いますので、この2つを分離することは重要であると思います。

# pooneil

コメントどうもありがとうございます。レスポンスを新たにエントリとして作成しましたのでぜひごらんください。


お勧めエントリ


月別過去ログ