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■ episodic memory and semantic memory

Kapur N. Syndromes of retrograde amnesia: a conceptual and empirical synthesis. Psychol Bull. 1999 Nov;125(6):800-25.
この論文はretrograde amnesiaのさまざまな例についてたくさん書いてある重要な文献ですが、どうにも羅列的なのでどう捉えたらいいかはなかなか難しいです。まあ、ここ数日間私がやってること自体も羅列的で、これはいわば公開ブレインストーミング状態なわけなのですが。
この文献のいいところは、personal semantic knowledgeについての障害の例を記載し、それを分類しているところです。それらをもとにして作ったfigure 2の分類図は重要です(同じものがphilosophical transactionのKopelman and Kapurにあるけれどこちらでは全然説明がない)。
Retrograde amnesiaの中で、semantic memoryについてだけ障害があって、episodic memoryについては障害のない例:

  • De Renzi et al '87の症例の患者さんは単純ヘルペス脳炎によるもの。General semantic memoryの障害としてnamingやsemantic categorizationに障害があるだけでなく、public eventの記憶も失われています。一方でautobiographical memory(明記されていないけれどもこの場合は純粋なepisoddic memoryだけでなくpersonal semantic knowledgeも入ることでしょう)は保持されています。損傷部位は左の側頭葉のanterior inferior partで、medialとlateralの両方を含んでいます。
  • Gross et al '88での患者さんはgeneric semantic memoryとpublic eventやpublic personalityについての記憶が失われている一方でepisodic memoryは保持されています。
  • Yasuda et al '97ではpublic eventやhistorical figure, cultural itemやvocabularyの一部が失われているのに対して、autobiographical memoryに関しては比較的保持されています。損傷部位は側頭葉のanterior/inferior structureで、De Renziの場合と似てます。
  • Kapur et al '94ではpublic knowledgeが失われているのに対して、autobiographical memoryは存在し、その失われ方のパターンはsemantic dementiaと同様、新しいことの方をよく憶えているというgradientがあります。
  • 左のtemporal lobe epilepsyではautobiographical memoryよりもpublic knowledgeのほうがより失われるという傾向が知られています。
Retrograde amnesiaの中で、episodic memoryについてだけ障害があって、semantic memoryについては障害のない例:
  • O'Connor et al '92 での単純ヘルペス脳炎の患者さんでは脳炎になる前5年のpublic eventの記憶がやや失われていて、それ以前のpublic eventの記憶は保たれています。一方でepisodic memoryは顕著に障害されていて、古いpersonal eventについてはまったく失われています。
  • Hodges and Gurd '94 ピック病の患者さんでautobigraphical memoryの想起は障害されているけれども、famous faceのnamingやfamous (public) eventの再認記憶は標準的でした。
ほかにepisodic memory + public eventのmemoryを失っていて、famous peopleの知識は失っていない例
  • Hodges and McCarthy '93
  • Ross and Hodges '97
Episodic memory (personal event)は保持しているけどpersonal semantic memoryは失っている例
  • Kopelman et al '90などの多くの健忘症の症例
Episodic memory (personal event)は失われているけどpersonal semantic memoryは失っていない例
  • Damasio et al '85の単純ヘルペス脳炎患者(Boswellと呼ばれる。仮名?)。両側のmedial and lateralの側頭葉の損傷あり。自分の職業や家族についての基礎的知識(personal semantic knowledge)について想起することはできるけど、それを自分の過去の時間的コンテキストに位置付けることができません。
  • Tulving et al '88での患者K.C.さん(head injury)。自分の過去のpersonal episodeをなにひとつ想起することができません(anterogradeにもretrogradeにも)。かつて自分の兄弟が溺れかけたことや、近所で毒物を運搬していた列車が脱線して何千人もが避難したこと、のような重要な事件に関しても。事故前は熱心なバイカーであったにも関わらず、かつて友人と行ったツーリングについてもまったく憶えていません。一方で、personal semantic factについての記憶は保持されています。自分が行った学校の名前をいえるし、集合写真のクラスメートの名前を言うこともできるし、学校の先生の名前も何人か挙げることができます。事故前の三年間向上に勤めていたことも知っているし、2台のバイクと1台の車を保有していることも知っていますし、バイクと車のサイズ、モデル、色について説明することをできます。彼の家族が別荘を持っていてそこで何度も週末を過ごしたということも知っているけれども具体的にそこに行ったという記憶はまったく持っていないし、そこで何があったかを想起することもできません。タイヤをフラットタイヤに交換するような技能も保持されているし、事故前に働いていた工場の写真を同定することもできます。チェスのやり方、ルールも覚えているけれども、実際に(誰と)どういう対戦があったかを想い起こすことはできません。
  • Wilson et al '95での患者C.W.さん(単純ヘルペス脳炎)も自分の過去のpersonal episodeをなにひとつ想起することができません。しかしpersonal factual knowledgeはある程度保持していて、自分の学校や在籍していたラグビーチームや父親の車の番号について言うことはできました。一方で、自分の出た学校の写真を見てもそれと気付きませんでしたし、有名人についての記憶も失っていました(たとえばJF KennedyやMargaret Thatcherなどが生きているか、死んでいるか、という質問の成績は悪かった)。
  • Schnider et al '94 両側の海馬での血管閉塞の患者さん。anterogradeのamnesiaもretrogradeのamnesiaもあって、自分の妻子のことは見分けがつくけれども、子供時代に遡るまでのepisodicなeventを持っていません。また、長い付き合いの親友が会いに来てもそれと気付けませんでした。public eventに関しては第二次世界大戦はどこの国が戦ったのかということを知りませんでした。
  • Graham and Hodges '97でのsemantic dementiaの患者さんで、ここ最近のpersonalなeventについて想起することはできるけれど、同じ時期のpersonal semantic informationについての情報を思い出すことができない(11/28に言及したHodges and GrahamのレビューPhilosophical Transactions '01のネタとなる原著なので、たぶん同じ患者さん)。
  • Kitchener et al '98 両側の海馬損傷の患者さんでpersonal eventの想起のほうがsemantic knowledgeの障害よりも重かった。個人的に知っていた人の名前を再認してfamiliarityがあるということはできたけれども、その人と過去にどういうエピソードがあったのかをまったく想起することができませんでした。
ひとつstrikingな例で、personal semantic knowledgeについて詳しく調べた報告:
  • Butters '84 著名な心理学者であったP.Z.さんはウェルニッケ―コルサコフ症候群となりましたが、その3年後に自叙伝を書いていました。この自叙伝を元にしてP.Z.さんのpersonal semantic knowledgeについて彼自身の分野で有名な科学者の記憶を調べると、障害が出る10年前のpersonal semantic knowledgeのほうが50年前のpersonal semantic knowledgeよりもより障害されていることが確認されました。(episodic memory自体でも同様な傾向が見られたそうです。)


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