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■ 脊髄損傷からの機能回復には、回復時期ごとに違った脳部位が関与する

わたしが所属している生理学研究所・認知行動発達研究部門からついにhigh-quality journal paperが出ました。
Science 16 November 2007: Vol. 318. no. 5853, pp. 1150 - 1155 "Time-dependent central compensatory mechanisms of finger dexterity after spinal cord injury" Yukio Nishimura, Hirotaka Onoe, Yosuke Morichika, Sergei Perfiliev, Hideo Tsukada, Tadashi Isa

やってることはなにかというと、脊髄のC4-C5 segmentをtransectした動物での機能回復時に大脳皮質のどの部分が関わっているかを調べたところ、回復初期には同側のM1が、回復後に安定した状態では対側のpremotor cortexが関わっているということを示した、というものです。
この実験では大脳皮質から直接脊髄まで投射している経路だけを選択的にtransectionしています。つまり、partial lesionです。Transectされた以外の経路として、大脳皮質から脳幹、延髄などでいったん終止してそこから脊髄へ投射する経路がありますが、これらは正常に保たれています。よって、transection直後には指先を使ってつまむ動作(棒の先に付いたイモのブロックをスリットからつまんで食べる)が出来なくなりますが、訓練によって約一ヶ月程度で術前の成績に近くなります。(なお、手を伸ばす動作reachingに関しては大きく影響を受けることはありません。)
そういうわけで機能回復時には残っている脊髄への投射経路を使っていることはわかるわけですが、そこへの大脳皮質からの指令がどう変わっているか、これを調べたのです。PETを使って、[rewardの餌をスリットからつまんで食べる条件]から[control条件(棒の先についたrewardの餌を受動的に食べる)]の差分をとっています。よって、graspingとreachingの両方のactivationが寄与してます。PETですので、event-relatedではなくて、block designです。
術前のコントロールでは使っている手の対側のM1が活動します。手術後一ヶ月ではそれに加えて同側のM1が活動しています。手術後三ヶ月では同側のM1の活動は消えて、対側のPMの活動が見えてきます。この時期にはつまむ動作の成績はほぼ正常になっていますが、対側のPMにmuscimolを注入して一時的にその活動を抑制させると、また成績が悪くなります。術前の対側のPMにmuscimolを注入してもこのような効果はありません。
というかんじでいくつか手法を組み合わせてかなり堅い結論を持ってきているのがわかるかと思います。すばらしい。ここまでの苦労を傍目から見ておりましたので非常に感慨深いです。
「損傷後の機能回復に脳はどのように寄与しているのかを明らかにする」という意味において私が現在やっている仕事は同じ目的を共有しています。つまり意識の問題と基礎医学への寄与とを両方やってしまおう、というプロジェクトなのです。さあ、私もこれにつづいて行こう、というのが結論なのですが。
今回のScience論文の仕事はCRESTによるコラボレーションの産物です。じっさい、所属を見てもらうとわかりますが、生理研、浜松ホトニクス、理研、イエテボリ大学というかんじで並んでいます。
ちなみに先週のScienceでは理研の田中啓治先生のラボがOxfordのBuckleyと行ったWCST関連の仕事が掲載されています。日本のnhp studyがんばってます。こちらの仕事もコラボレーションの産物ですね。
Science 9 November 2007: Vol. 318. no. 5852, pp. 987 - 990 "Mnemonic Function of the Dorsolateral Prefrontal Cortex in Conflict-Induced Behavioral Adjustment" Farshad A. Mansouri, Mark J. Buckley, Keiji Tanaka
そういえば5年前くらいだったかBuckleyが日本に来ていくつかラボ回って話をしに来てましたが(前ラボにも来た)、そのあたりからこのプロジェクトが進んでたのでしょうね。


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