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■ episodic memoryとsemantic memory

anterograde amnesiaの患者のうち、Episodic Memoryが障害を受けているにもかかわらず、新しいfactual knowledgeを獲得した例。
一般的には、一回一回のイベントの記憶(episodic memory)が一般化してゆく過程でfactual knowledge(semantic memory)となってゆくと考えられているわけだけれども、これらの例ではそのようなイベントの記憶がないのにsemantic memoryとして蓄積されることになるのが驚くところです。

  • "Differential Effects of Early Hippocampal Pathology on Episodic and Semantic Memory." Science '97 Vargha-Khadem et.al. (M Mishkinら) 10/7ですこし言及しました。これはdevelopmental amnesia、つまり生まれてかなり早い時期に健忘になった例なので、基本的に獲得した知識(semantic fact)はすべて障害が起こってから獲得したものになるわけです。しかし非常にきびしいepisodic memoryのanterograde amnesiaがあるため、WMS(のsubset)のrecallができない、つまり、さっき聞いた話を憶えていることができません。それにもかかわらず言葉を憶えてしゃべることができて、学校に通って授業を受けて平均より下か平均ぐらいの成績だった、という驚くべき報告です。この報告に関しては論争が巻き起こってSquireらが反応しています。
  • "Acquisition of novel semantic information in amnesia: effects of lesion location." Neuropsychologia '00 M. Verfaellie
  • "Acquisition of post-morbid vocabulary and semantic facts in the absence of episodic memory." Brain '98 EG Kitchener, JR Hodges and R McCarthy Kitchener 98での患者さんR.S.はAMI(autobiographical memory interview)でepisodeの想起はまったくできない(スコア0/27)のにPersonal semantic knowledgeは成績が悪いながらもある程度できている(スコア24/63)。有名人の写真を見て答えるような問題もできてしまう。KopelmanのBrain '02のレビューにもあるようにこれはおどろきで、この患者さんは1983年にクモ膜下出血で健忘になったにも関わらず、写真からジョージ・ブッシュとミハイル・ゴルバチョフ(1985年に書記長就任)の名前を言うこともできて(1983年の時点でR.S.は彼らを知らなかった)、ゴルバチョフが何者であるかを答えることができる(‘Political. Russia. Moving forwards’と答えたそうです、微妙?)。しかし一方で、自分が何歳であるかもわからなかったし、自分の娘(クモ膜下出血のときに12歳)がどこに行ったか毎朝奥さんに聞いていた(娘さんはすでに25歳になっていて家を出ていた)。自分の娘のことはわからないのにゴルバチョフのことがわかっていいものなのか非常に気になるわけですが。なお、この患者さんは両側性の側頭葉のの障害(海馬、entorhinal cortex、perirhinal cortex、parahippocampal cortex)だけれども右側の損傷は軽かったらしく、semantic knowledgeが残っているのはこれによる可能性もあります。


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